ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

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1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

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1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

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今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

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中国におけるインフレの行方 中国経済は減速しているものの 過熱の解消にはまだ至っていない 年 9 月のリーマン ショックを受けて 中国は輸出が大幅に落ち込み 景気後退を余儀なくされたが 兆元に上る内需拡大策や 金利と預金準備率の大幅な引き下げをはじめとする拡張的財政 金融政策が実施されたことを受けて

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2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

目 次 Ⅰ. 総括編 1. 世界各地域の人口, 面積, 人口密度の推移と予測およびGDP( 名目 ) の状況 ( 1) 2. 世界の自動車保有状況と予測 ( 5) 3. 世界の自動車販売状況と予測 ( 9) 4. 世界の自動車生産状況と予測 ( 12) 5. 自動車産業にとって将来魅力のある国々 (

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

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社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

別紙2

平成 23 年 3 月期 決算説明資料 平成 23 年 6 月 27 日 Copyright(C)2011SHOWA SYSTEM ENGINEERING Corporation, All Rights Reserved

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人 ) 195 年 1955 年 196 年 1965 年 197 年 1975 年 198 年 1985 年 199 年 1995 年 2 年 25 年 21 年 215 年 22 年 225 年 23 年 235 年 24 年 第 1 人口の現状分析 過去から現在に至る人口の推移を把握し その背


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2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017


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月例経済報告

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Transcription:

1 年 3 月 日 JBPress 掲載 景気減速する新興国とマクロ経済の安定を保つ中国のコントラスト 瀬口清之 新興国は軒並み成長率減速と物価上昇圧力に直面 新興国の経済情勢の悪化が目立ってきている 代表的な新興国である ブラジル ロシ ア インド 中国およびインドネシアの 5 か国について 1 年から 13 年までの成長 率の推移を見ると 全ての国が低下傾向を辿ってきていることがわかる ( 図表 1 参照 ) ブラジル中国インドインドネシアロシア 1 1 8 1 11 1 13 図表 1 新興国の実質 GDP 成長率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) ただし 昨年の成長率を比較すると 5 か国の間で大きな開きがある 中国は 7.7% と引 き続き高い成長率を保ったが インドネシアは 5.3% その他の国の成長率は % を下回り ロシアに至っては 1% 台まで低下している 1 年にはタイ マレーシア フィリピン トルコ 南アフリカ メキシコ等その他の 主要な新興国も軒並み 5% を上回る成長率に達していた しかし それらの国々の中で 13 年に 5% を上回ったのは中国 インドネシア フィリピンの 3 か国のみとなった この間 同じ 5 カ国の消費者物価を比較すると 中国以外の カ国は昨年の上昇率が % を上回り 横ばいまたは上昇傾向を辿ってきている ( 図表 参照 ) 1

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 1 1 1 8 1 11 1 13 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上昇率が横ばいないし高まっており 景気減速の下でインフレ圧力に直面している 同様の状況はトルコや南アフリカなどでも見られている これらとは対照的に 中国の消費者物価上昇率は 1 年 13 年とも年平均.% と安定した推移を辿っている このように新興国で物価上昇圧力が強まっている主な要因は通貨価値の下落に伴う輸入物価の上昇である 元々各国とも景気が良かったため 内需が旺盛で輸入が伸びやすい状況にあった 輸入が輸出の伸びを上回り 貿易収支が悪化すると 国際収支全体のバランスを反映する経常収支も悪化する 各国の経常収支の対 GDP 比率を見ると 中国以外の国は全て低下傾向を辿っている ( 図表 3 参照 ) ブラジル 中国 インド インドネシア ロシア - 1 11 1 13 - -

図表 3 新興国の経常収支対 GDP 比率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) しかも ブラジル インド インドネシアの 3 か国は経常収支が赤字に転落している 前述のトルコ 南アフリカもやはり赤字に転落し 通貨価値の下落に苦しんでいる ロシアはまだ黒字を保っているが IMF の世界経済見通しによれば 今後経常黒字が低下すると予測されていることから 先行き通貨価値下落の可能性が高い 経常収支悪化の背景は 国際収支の天井 景気が良くなると経常収支が悪化するのは新興国に共通する悩みであり 日本も 19 年 代前半までこの問題に直面していた いわゆる 国際収支の天井 と呼ばれる問題である もし的確な経済政策を実施せず 経常収支が悪化し続けると 通貨価値がさらに下落して輸入物価が上昇し インフレが加速する それのみならず 経常収支の悪化にも歯止めがかからなくなり 外貨準備が底をついて 輸入を続けることができなくなる したがって 景気が拡大して経常収支が悪化すれば 内需を抑制するために金融引き締めを行わざるを得なくなる その結果 景気減速を余儀なくされる こうした 国際収支の天井 という構造問題を克服し 持続的な景気拡大の下でも安定的に貿易黒字 経常黒字を保つためには 強い輸出競争力が必要である 最近の新興国の経常収支状況から見て この問題をほぼ克服できているのは中国とマレーシアだけであり その他の国は輸出競争力不足に起因する 国際収支の天井 問題を克服できていないと見るべきであろう 一般的に発展途上国から先進国に移行することが難しい最大の原因はここにある ある程度まで所得水準が高まって内需が拡大すれば輸入が急速に増加する そこで輸出を増やすことができなければ 経常赤字に陥り 通貨価値が下落し 輸入インフレに悩まされ 経済は長期にわたって停滞する これがミドルインカムトラップの本質である 中国も以前はこの問題に苦しんでいたが 199 年代以降の外資導入に力点を置いた輸出 競争力強化策の成功により 5 年以降ようやくこの問題を克服した このため 中国経済は 5 年以降 高度成長に伴い輸入が急速に伸び続けたにもかかわらず 高水準の貿易黒字を保ち続け 人民元高傾向の長期的な継続によって輸入インフレを防ぎ 国内物価の安定を保持している これが中国が長期にわたって高度経済成長を実現できている最大の要因である 今年の新興国経済を展望すれば 中国とマレーシア以外の新興国は 国際収支の天井 3

の要因により成長率の伸び悩み傾向が続くと予想される 多くのメディア報道では新興国経済の減速という中に中国の成長率の低下も含めて説明するケースが多いが 経済のファンダメンタルスを見れば 中国およびマレーシアとそれ以外の新興国の違いは明らかである 輸出競争力の格差を考慮すれば 今年はその違いがより一層明確になる可能性が高い IMF 世界経済見通し (13 年 1 月発表 ) を見ても 今後数年間にわたって経常黒字を 安定的に維持できる主な新興国は中国とマレーシアの か国のみである 足許の中国のマクロ経済は 199 年代以降最も安定した状況 最近の中国経済を振り返ってみると 1 年以降 雇用と物価の安定が持続している 雇用情勢を見ると 都市部の労働需給のバランスを示す有効求人倍率は 1.1 前後の水準にあり これ以上景気が良くなると賃上げ圧力が増大してスパイラル的なインフレを招くリスクすらあるほど逼迫している 幸い足許の消費者物価上昇率は % 台で安定的に推移しており すぐにインフレを心配する状況ではない 実は 中国経済の市場経済化が始まった 199 年代以降 年以上にわたってこれほど雇 用と物価が安定した状況が続いているのは初めてのことである その意味でこれまでのと ころ 習近平政権のマクロ経済政策は良好な結果を生んでいると評価できる 逆に これ以上景気を加速させれば せっかく良好な状況にある雇用と物価のバランスを崩し マクロ経済情勢を悪化させるリスクが高い 今後はインフレ圧力の高まりに細心の注意を払いながら 中長期的な潜在成長率の低下に合わせて実際の成長率を緩やかに低下させていく政策運営が求められている 今年の中国経済が足許の安定した状況を保つことができれば 減速傾向にある他の新興 国とのコントラストが際立ってくる可能性が高い この間 日中経済関係を見ると 日本からの対中輸出は昨年第 1 四半期をボトムに順調な回復傾向を辿っている それに加えて 日本企業の対中直接投資も実質的には昨年前半をボトムに回復傾向を辿っており 昨年末の安倍首相による靖国神社参拝の悪影響もほとんど見られていないことから 今年は前年を上回ることが予想されている 今後 以上の点を多くの日本企業が認識すれば 日本企業の中国経済悲観バイアスが修 正されるはずである そうなれば 1 年 9 月の尖閣問題発生以降の日中関係悪化を背景 に 必要以上にチャイナリスクを警戒して対中進出に慎重だった中堅 中小企業の対中ビ

ジネスマインドが好転する可能性も出てくる その意味で今年が今後の日中両国経済のウ ィン ウィン関係を加速する重要な転機となることを期待したい 新興国の輸出競争力強化を支える日本企業の役割 中国のこのような安定したマクロ経済情勢の支えとなっているのは経常収支黒字の持続 による通貨価値の安定であり その土台は強い輸出競争力である 日本が輸出競争力を強化した方法は主に日本企業自身の努力に依拠したが 中国では世 界中の優良企業を積極的に中国に招き入れる外資導入策 すなわち対外開放政策に依拠し た 中国が対外開放政策を推進し始めた 199 年代以降 世界経済がグローバル化の時代に突入したことも中国にとって追い風となった 今後 新興国が輸出競争力の強化を目指す場合 経済のグローバル化がますます進展していることを考慮すれば やはり中国が採用した対外開放政策を取り入れることが有効であると考えられる 中国の対外開放政策に応じて先進各国の主要企業は対中直接投資を増加させてきた 昨年の各国の対中直接投資額を比較すると 日本の 7 億ドルに対して 韓国と米国がともに 3 億ドル程度 ドイツと台湾がともに 億ドル程度と 日本の投資額が群を抜いている 尖閣問題 靖国神社参拝問題など日中関係は強い逆風が吹いているが それにもかかわらず 日本企業はしたたかに対中ビジネスに取り組んでいる 中国政府も日本企業が中国の輸出競争力を支えている事実を十分理解しており 各地方政府は競い合うように日本企業を積極的に誘致している 最近の中国における所得水準の上昇とともに 中国各地で高付加価値製品 サービスに対するニーズが強まり 安心 安全 ハイテク の代名詞と見られている日本企業進出への期待がますます高まってきている このような中国での経験は他の新興国でも活かせる可能性が高い 新興国はどの国も輸出競争力の強化を強く望んでいる 日本企業が中国で成功した経験を基に他の新興国の輸出競争力強化に貢献していくことができれば 日本と新興国との間にも日中間と同様のウィン ウィン関係が実現する それが各国のミドルインカムトラップ克服への道へとつながっていくことを期待したい 5