80_12【特集論文】下フランジをロボットで上向溶接する現場ノンスカラップ工法の開発

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大林組技術研究所報 No.80 016 下フランジをロボットで上向溶接する現場ノンスカラップ工法の開発 浅井英克 鈴井康正 大塚英郎 白井嘉行 ( 東京本店建築事業部 ) ( 東京本店建築事業部 ) Development of Site Nonscallop Method Using Robot Overhead Welding to ottom Flanges Abstract Hidekatsu Asai Hideo Otsuka Yasumasa Suzui Yoshiyuki Shirai As a measure for expected decrease or shortage of site welders, we developed Site Nonscallop Method, which uses robot overhead welding to bottom flange. This method saves site welding work, realizes consistent welding quality, and achieves high seismic performance for relaxing stress concentration of beam-end. y performing various tests to present a method and applying this method to two steel constructions, we arrived at the following conclusions: 1) The weld zone by robot overhead welding fulfills the required performance for beam-end weld. ) This method provides the same high seismic performance as shop welded nonscallop method. 3) This method can secure high welding quality displaying good welding appearances and satisfying ultrasonic tests. 概 要 今後予想される現場溶接技能者の減少 不足に向けた対策と, 現場溶接型鉄骨梁の高性能化を目的として, 梁の下フランジをロボットで上向溶接する現場ノンスカラップ工法を開発した 本工法はロボットの活用により現場溶接作業の省力化と現場溶接品質の安定化を図るとともに, 現場溶接型鉄骨梁の弱点である梁端の応力集中を緩和して高耐震化を実現するものである 490N/mm 級鋼材を対象とした本工法の性能確認試験と, 本工法を 件の現場工事に適用した結果, 以下のことを確認した 1) ロボットで上向溶接した溶接部は梁端溶接部に要求される機械的特性を満足した ) 本工法はウェブを高力ボルト接合とした混用接合でも, ノンスカラップ工法を用いた工場溶接型鉄骨梁と同等の高い塑性変形能力を発揮した 3) 件の現場工事に適用した結果, 良好な溶接外観が得られ, また超音波探傷検査では不合格部が無く, 高い溶接品質を確保できた 1. はじめに近年, 現場溶接技能者が減少 不足しており, その影響が実際の鉄骨工事で顕在化している 一例として文献 1) を見ると, 現場溶接技能者全体を表す鋼製エンドタブの015 年度 AW 検定資格保有者は, 直近のピークである 011 年に比べて10% 近く減少している 昨今の少子高齢化や若年層の入職率低下を考慮すれば, 今後さらに資格保有者の減少が予想される このため, 現場溶接技能者不足への対応が鉄骨造建物の現場施工における大きな課題となっている このような現場溶接技能者不足への対策と, 現場溶接品質の安定化, さらに現場溶接型鉄骨梁の高性能化を目的として, 今回,Photo 1に示すような下フランジをロボットで上向溶接する現場ノンスカラップ工法 ( 以下, 本工法と称す ) を開発した 本工法はロボットの活用による現場溶接作業の省力化 自動化を目指すとともに, 従来は工場溶接型でのみ可能であったノンスカラップ工法を現場溶接型で実現し, 高い耐震性を可能にするものである 本報ではまず, 施工面 構造面から本工法の概要 特 ロボット (1 号機 ) オペレータ ロボット ( 号機 ) Photo 1 下フランジのロボット上向溶接 Robot Overhead Welding to ottom Flange 長を説明する 次に, ロボットで上向溶接した溶接部の機械的特性を溶接部実験で検証する さらに, 下フランジの上向溶接を活用した応力集中の少ない柱梁接合ディテールを提案し, その構造性能を実験で検証する 最後に, 本工法を 件の現場工事に適用した結果を報告する 1

. 本工法の概要と特長.1 ロボット上向溶接の施工概要ロボット上向溶接に係る一切の現場溶接作業は, ロボット操作技術と溶接管理能力が認められたロボット溶接オペレータが行うこととし, 具体的に以下の手順で溶接する..1 走行レール設置とロボット取付け Photo(1) に示すロボット設置前の状態から, オペレータが梁の下フランジに走行レールを設置し, 次にロボットを走行レールに取付ける ( 同 Photo()).. ティーチング ( 教示作業 ) 実際に溶接を行う箇所をロボットに教示するため, ロボットのワンタッチセンサにより, フランジの幅, 板厚, 開先の角度, ルートギャップ, 開先とロボットとの相対位置をロボットに自動で計測させる ( 同 Photo())..3 ロボット溶接事前の施工試験によって適正が確認された溶接条件に従い, オペレータがロボットに溶接の指示を出す ( 同 Photo(3)) 具体的な溶接条件としては, 溶接電流 電圧 速度, トーチ角度, ビード積層方法等があり, これらは板厚ごとに適正値を定めておく オペレータは事前に定めた積層段階にて溶接スラグを除去する必要があるが, その他はオペレータの監視が特段不要であり, ロボットが自動で溶接を行う. 構造的 施工的特長..1 高い耐震性鉄骨造建物の柱梁接合部の施工方法は,1 柱に対して梁のウェブを高力ボルトで接合し, フランジを工事現場で溶接する 現場溶接型 と, 柱に梁の一部 ( ブラケット ) を鉄骨加工工場で溶接し, 工事現場ではブラケットと梁をボルトで接合して柱と梁を組み立てる 工場溶接型 の 種類に大別される (Fig. 1 参照 ) 現場溶接型は工場溶接型に比べ, 材料や製作, 保管 輸送のコストを抑えられるというメリットがある しかし, 溶接技能者が下フランジを下向きに溶接する際, フランジとウェブの交差部にスカラップ ( 溶接施工に必要な孔, Fig. (1) 参照 ) を設ける必要があり, 地震時にはスカラップを起点にしてき裂が発生しやすいことが課題であった 本工法は下フランジをロボットで上向溶接することで, 従来は必要であったスカラップを設けずに現場溶接を可能にするものである (Fig. () 参照 ) スカラップを無くすことで地震時のき裂の発生を抑制できるため, 現場溶接型の経済性を活かしつつ, 工場溶接型ノンスカラップ工法と同等の高い耐震性を実現することができる (4. 節で詳述 ).. 高い溶接品質下フランジの上向溶接は, 溶接技能者が行う場合には高度な溶接技量を要する 他方, ロボットは再現性が高いため, 溶接条件を適切に選定することで, 良好な外観の溶接ビードを安定的に得ることが可能である (Photo (4) 参照 ) また, 件の現場工事に適用した結果, 第三者による超音波探傷検査は全数合格 (1) ロボット設置前 () ロボット取付けと教示作業 下向溶接 スカラップ 柱 良好な溶接ビード外観 (3) ロボット溶接 (4) 溶接完了 Photo ロボット上向溶接手順 Robot Overhead Welding Procedure 上フランジ ウェブ 梁 1 走行レール ロボット 高力ボルト ブラケット 下フランジ (1) 現場溶接型 () 工場溶接型 Fig. 1 現場溶接型と工場溶接型 Site and Shop Welding type き裂 上向溶接 (1) 技能者による溶接 () ロボット溶接 Fig. 下フランジ溶接方法の比較 Relationship of Welding Method to ottom Flange しており, 良好な内部品質も得られることを確認している (5 章で詳述 )..3 高い施工性 Photo 1に示すように,1 人のオペレータが複数のロボットを操作することで, 溶接技能者以上の効率で溶接を行うことができる ロボットとい 梁

A 試験体タイプ 板厚 t (mm) Table 1 試験体一覧 List of Specimens ルート間隔 (mm) 開先角度 ( 度 ) 試験体数 ( 体 ) T-5 5 7 35 T- 5 30 注 ) 特記なき限り鋼種は SN490 とする 7 30 PL-5 PL-5 PL-45(TMCP35) エンドタブ 5 A 167.5 167.5 00 0 30 5 30 PL-5 PL-(SN490C) PL-45(TMCP35) エンドタブ 160 160 00 0 試験項目位置数量 JIS 試験片 外観検査該当箇所すべて - 超音波探傷検査該当箇所すべて - マクロ試験全断面 1 溶接部引張試験 t/4 1 Z3111 A1 号 溶接継手引張試験全断面 1 Z311 1 号 シャルピー衝撃試験 (0 ) 表層側ルート側 DEPO OND HAZ 各 3 Z4 V ノッチ 硬さ試験マクロ試験片使用 3 ライン - W/ W/ Table 溶接部の試験項目 Testing Requirement of Welded Zone t/4 ルート部 表層部 7 7 ルート側 mm t/ 表層側 mm t ノッチ位置 DEPO : 溶接金属中央部 OND:OND ラインに一致 HAZ :HAZ 領域中央部 Fig. 4 凡例 : 母材, 溶接金属 :HAZ 測定距離 溶接部引張試験片採取位置 シャルヒ ー試験片採取位置 硬さ測定位置 裏当金 PL-6 ~5 45 7 550 60 A-A 矢視 裏当金 PL-6 ~5 45 5 55 600 - 矢視 (1) T-5 () T- Fig. 3 試験体形状 Specimen Shape う自動化技術を用いることで現場溶接作業の省力化 省人化を図れるとともに, 高技量の溶接技能者が減少する状況下でも, 現場溶接技量の平準化が可能である 3. ロボット上向溶接部の機械的特性 (1) ロボット設置 () 溶接ビード外観 (T- タイプ ) Photo 3 試験状況 Testing Status 3.1 溶接部試験の概要ロボットで上向溶接した溶接部の機械的特性を調べるため, 溶接部試験を行った Table 1に試験体一覧,Fig. 3に試験体形状を示す 試験体は梁の下フランジを模擬したT 字形の形状で,Photo 3(1) に示すようにフランジ相当材の端部をロボットで上向溶接したものである フランジ相当材は板厚がt=5mmとmmの 種類であり, 各タイプとも同条件の試験体を 体ずつ製作した さらに各 体のうち1 体は上向溶接が終了後, 継手引張試験用に縦板と反対側に掴み材 PL-45を技能者が溶接した 試験項目はT able に示す7 種類の検査 試験であり, 各項目について良否を判定した ロボット上向溶接の溶接ワイヤはフラックス入りワイヤJIS Z3313 T49J0T5-1CA-Uとし, 溶接入熱は30kJ/cm 以下, パス間温度は50 以下で溶接管理した 最終的な総パス数は,T-5タイプが18パス,T-タイプが9パスであった 3. 試験結果 3..1 外観検査 超音波探傷検査 溶接外観の例を (1) T5 タイプ () T タイプ Photo 4 マクロ試験結果 Results of Macro Test (1) T5 タイプ () T タイプ 掴み材 Photo 5 継手引張試験結果 Results of Joint Tensile Test 掴み材 Photo 3() に示す T-5タイプ,T-タイプのいずれの試験体でも, 溶接ビードの外観は良好であり, 外観検査はいずれもJASS6 ) の検査基準を満足した また, 超音波探傷検査はいずれもUT 規準 3) に従い合格であった 3.. マクロ試験 Photo 4にマクロ試験結果を示 3

Table 3 母材と溶接金属の機械的特性 ( 材料試験結果 ) Mechanical Properties of ase Metal and Weld Metal 板厚 鋼種 試験採取位置タイプ 降伏点 (N/mm ) 降伏点 (N/mm ) す 溶込み不良などの有害な欠陥はなく, 全般的に良好な溶込みであった 3..3 溶接金属部の引張試験 Table 3に母材と溶接金属の機械的性質を示す 同 Table() より, いずれの板厚においても溶接部の機械的特性はワイヤの規格値を満足した また, 同 Table(1) より, 溶接金属の降伏点 引張強さは母材のそれを上回った 3..4 溶接継手引張試験 Photo 5に継手引張試験結果を示す いずれの板厚においても母材で破断しており, 溶接部は母材に対して必要な強度を有することが確認できる 3..5 シャルピー衝撃試験 Table 4に溶接部のシャルピー試験結果を示す 本試験ではTable 下欄に示すように, 表層部とルート部のそれぞれからDEPO( 溶接金属部 ),OND( 溶接部と母材の境界部 ),HAZ( 母材の溶接熱影響部 ) の3 箇所でシャルピー衝撃試験を行った 脆性的破断防止ガイドライン 4) では, 材料が引張強さまで充分に降伏する閾値として 原則としてシャルピー試験片 3 体の平均値が70J 以上 を定めている Table 4より, いずれのノッチ位置においても3 体の平均値はJを超えており, 脆性的破断防止ガイドラインの閾値を満足することが確認できる 3..6 ビッカース硬さ試験 Fig. 4にルート側 mm, 板厚中央, 表層側 mmにおけるビッカース硬さhvの分布を示す 表層側のHAZでHv=330 程度の若干硬い領域があるが, 全測定位置で溶接割れを防ぐための一般的な閾値であるHv 350 ) であることが確認できる 3.3 ロボット上向溶接部の機械的特性のまとめ以上のように, ロボットで上向溶接した溶接部の機械的特性を試験で検証した結果, 当該溶接部は梁端溶接部に要求される機械的特性を満足することを確認した 4. 本工法の構造性能 (1) 母材 引張強さ (N/mm ) 引張強さ (N/mm ) 破断伸び 破断伸び 降伏比 5 SN490 395 58 30 75 SN490C 361 59 3 68 45 TMCP35 433 5 37 80 () 溶接金属 降伏比 T-5 t/4 446 ( 0) 563 ( 490) 8 ( 18) 79 T- t/4 449 ( 0) 556 ( 490) 34 ( 18) 81 注 ) ( ) 内は JIS Z3313 規格値 本章では, 下フランジの上向溶接を活用した応力集中の少ない柱梁接合ディテールを提案し, その構造性能を 試験タイプ A T-5 T- ビッカース硬さ Hv ビッカース硬さ Hv Table 4 溶接部のシャルピー試験結果 (3 体の平均 ) Results of Charpy Test of Weld Metal ノッチ位置 350 300 50 00 A-A 矢視 構造実験で確認する シャルヒ ー値 (0 J) 脆性破面率 表層部ルート部表層部ルート部 DEPO 116 131 55 43 OND 15 155 47 8 HAZ 156 141 3 38 DEPO 111 114 6 OND 186 147 0 47 HAZ 178 164 37 3 150 350 0 10 0 30 50 60 ルート側 mm () T-タイプ t/ 測定位置 (mm) 300 表層部 mm 50 00 GPL-16 10-M 3-M 15 A 7 7 7 1 高力ボルト本締め 1 高力ボルト本締め 3ウェブ立向上進手溶接 梁フランジロボット溶接 梁フランジロボット溶接 4タ イアフラム隙間充填手溶接 35 (1) 試験体 R- ( ウェブボルト接合型 ) ルート側 mm t/ 表層側 mm 35 (1) T-5 タイプ 150 0 10 0 30 50 60 測定距離 (mm) Fig. 4 ビッカース硬さ分布 Vickers Hardness Distribution () 試験体 R-W ( ウェブ溶接接合型 ) 4.1 本工法の接合ディテール本工法で採用する 種類の接合ディテールを後述の試験体形状に合わせてFig. 5に示す 同図 (1) のウェブボルト接合型は梁ウェブと柱のガセットプレートを高力ボルトで接合するものであり, いわゆる混用接合と呼ばれる接合形式である 同図 () のウェブ溶接接合型は梁ウェブと柱を溶接で接合するもので, 35 Fig. 5 接合詳細と製作手順 Connection Detail and Fabrication Sequence 摩擦面未処理 GPL-9 - 矢視 3 4 4

試験体名 R- R-W 鋼種 SN490 柱 [ パネル ] ( 鋼種 ) -0 19[] (CR95) 板厚 Table 5 試験体一覧 List of Specimens 降伏点 ( 耐力 )(N/mm ) 梁 ( 鋼種 ) H-500 00 1 5 (SN490) Table 6 材料の機械的特性 ( 材料試験結果 ) Mechanical Properties of Material 引張強さ (N/mm ) ウェブ接合方法 高力ボルト 溶接 破断伸び 9 378 5 4.8 1 35 543 6.1 16 397 538 7.4 5 38 59 9.3 3 363 536 30. CR95 (36) 464 44.6 - 梁変形量 - b = - L : 梁端回転角 - 梁塑性率 - = b / bp bp: 全塑性曲げ耐力時の梁弾性変形 N90% u ( pi pi ) i 1 Q pi- δ bp + 油圧ジャッキ pi+ δ bp δ b b L - 上フランジ 0 0 面外拘束材 下フランジ 試験体 800 75 1600 10 3000 Fig. 6 試験体形状および載荷状況 Specimen Shape and Loading Status 工場溶接型ノンスカラップ工法に近い接合形式である 以下, 両接合ディテールを用いた梁端接合部の構造性能を実験で確認する 4. 試験計画 Table 5に試験体一覧,Table 6に材料の機械的特性,F ig. 6に試験体形状を示す 試験体は柱梁接合部を模擬したト字形試験体であり, 試験体数はFig. 5に示すウェブボルト接合型とウェブ溶接接合型を各 1 体とした 本試験では下フランジの上向溶接部の応力集中に着目するため, 上フランジも下フランジと同じディテールで製作した 便宜上, 最初に曲げ引張を受けるフランジを下フランジと称す (Fig. 6 参照 ) 各試験体の製作手順をFig. 5を用いて説明する 試験体 R-はウェブボルト接合型の試験体である まず, ウェブの高力ボルトを本締めした後, 下フランジを3.1 節の溶接条件に従って上向溶接した その後, 梁の上下を逆にして, 上フランジも下フランジ同様の方法で上向溶接した 一方, 試験体 R-Wはウェブ溶接接合型の試験体である まず, 仮止めボルトでウェブをガセットプレートに固定した後, 試験体 R-と同様に下フランジと上フランジをロボットで上向溶接した その後, 溶接技能者がウェブと柱を立向上進溶接して, 最後に柱ダイアフラム周囲の小さな隙間を充填溶接した 試験体 R-Wではガセットプレート, ウェブの接触面を摩擦処理しなかった いずれの試験体においても梁フランジのエンドタブは鋼製とし, 溶接後はエンドタブを切り落とさずにそのまま残した 載荷プログラムは梁の塑性率 (Fig. 6 参照 ) を基準とする正負漸増加力とし, =±0.5,±,±4,±6,±8, の順で, 同一振幅をサイクルずつ繰り返した 荷重 Q/Q p 試験体名 (1) R- Photo 6 破壊性状 Failure Mode *1 最大耐力 累積塑性 Q max(kn) * Q max/q p 変形倍率 *3 u () R-W 最終破壊性状 R- 67 (-589) 1.57 (-1.47) 86 フランシ 破断 R-W 613 (-57) 1.53 (-1.43) 91 フランシ 破断 1 0-1 R- Table 7 試験結果一覧 List of Tast Results 注 ) *1:( ) 内は負加力時 *: 全塑性耐力 (=0kN) *3: 終局時の値とする (Fig. 7 左参照 ) 終局は耐力が緩やかに低下する場合は 0.9Q max 時, 耐力が急激に低下する場合はその時点とする 荷重 Q/Q p 1 0-1 R-W 終局 終局 - - -10-5 0 5 10-10 -5 0 5 10 塑性率 塑性率 Fig. 7 荷重 - 変形関係 Load-Deformation Relationship 5

4.3 試験結果 4.3.1 破壊性状 Photo 6に破壊性状を示す 両試験体とも同様の破壊性状であり, =+4のサイクル目でエンドタブ付近の下フランジにき裂が最初に観察され, = -8の1サイクル目で下フランジに局部座屈が観察された 最後は =+8のサイクル目のピークに至る途中でエンドタブ付近の下フランジからき裂が進展し, 下フランジが全断面に渡って破断した 試験体 R-は柱ダイアフラムと梁フランジの溶接部付近に若干の隙間を残しているものの, 隙間を起点とするき裂は発生しなかった そのため, スカラップを起点としてき裂が発生し易い従来の現場溶接型に比べ, 本工法はフランジ溶接部周囲のウェブの応力集中を緩和できると言える 4.3. 塑性変形能力 Table 7に試験結果一覧,Fig. 7に荷重 - 変形関係を示す 図表に示すように, 両試験体とも最大塑性率は8であり, 安定した履歴ループを描いた また累積塑性変形倍率 は86,91と若干の差はあるが, ほぼ同等の塑性変形能力であった 両試験体の変形能力を工場溶接型ノンスカラップ工法と比較してみる 一例として文献 5) では,JASS6 型スカラップ試験体の累積塑性変形倍率 が平均 53.9, 工場溶接型ノンスカラップ工法試験体はJASS6 型の1.7 倍の としている その結果, 工場溶接型ノンスカラップ工法試験体の累積塑性変形倍率は平均 90 程度と評価され, 両試験体とも工場溶接型ノンスカラップ工法と同等の塑性変形能力と言える 5. 現場適用事例 本工法を大林組東京機械工場事務所棟 (1 件目 ) と同大阪機械工場事務所棟 ( 件目 ) の 件の現場工事に適用した結果を報告する 5.1 ロボット溶接の事前準備 5.1.1 ロボット作動範囲および溶接用作業床の検討実部材を用いて走行レールの取付位置やロボットの作動範囲を確認し, これらに干渉しないよう, 鉄骨本体への仮設, 設備及び内装に関連するピース取付け不可範囲を施工図で確認した また, 施工時の作業床の面積や配置, 梁下フランジからの距離に関する検討も行い, 実工事の施工手順に反映した 5.1. オペレータの訓練および技量付加試験建築鉄骨分野で高技量の溶接技能者を認定するAW 検定協議会は, 現在, 工事現場を対象としたロボット溶接オペレータ資格を定めていない そこで,JIS Z 3841に規定されるSA-FO,SA-3FO,SA-FP,SA-3FPのいずれかの有資格者をロボット溶接オペレータとして訓練し, 技量付加試験を実施して, 工事に従事するオペレータのロボット操作技術と溶接管理能力を担保することにした 5. 実施結果 5..1 1 件目の結果 本工事では上フランジの下向 溶接を技能者が行い, 下フランジの上向溶接をロボットが行うこととした 代表的な梁断面はH-69 300 13 0 (SM490A) であった 施工の結果,Photo に示すようにロボット溶接実施箇所の溶接外観は良好であり, また超音波探傷検査による不合格部は検出されなかった 本工事ではオペレータ1 人につきロボット1 台の体制で施工した結果, 溶接能率 ( 単位時間当りの溶接量 ) は溶接技能者下向溶接の半分程度となった 5.. 件目の結果本工事ではオペレータ1 人につきロボット 台の体制で工事に臨んだ (Photo 1 参照 ) 代表的な梁断面はH-650 50 1 (SM490A) であった また, 水平ハンチプレートが梁端部に設置される点が1 件目と異なる 施工の結果, ロボット溶接施工箇所の溶接外観は良好であり, 超音波探傷検査による不合格部は検出されなかった 梁端溶接線の一部が水平ハンチプレートの溶接線と交差するが, 当該箇所は問題なく施工できた 件の適用結果から, 本工法は安定的に高い現場溶接品質を確保できることが確認できた また, ロボット台数を増やしたことより, オペレータ1 人あたりの溶接能率は技能者下向溶接に近い程度になった 6. まとめ 現場溶接作業の省力化と, 溶接品質の安定化, 現場溶接型鉄骨梁の性能向上を目的に, 下フランジをロボットで上向溶接した現場ノンスカラップ工法を開発した 490N/mm 級鋼材を対象とした性能確認実験と本工法を現場適用した結果, 次の知見が得られた 1) ロボットで上向溶接した溶接部の機械的特性は, 梁端溶接部に要求される性能を満足した ) ウェブを高力ボルト接合とし, 柱ダイアフラムと梁フランジ溶接部周囲の隙間をそのまま残した混用接合でも, 工場溶接型ノンスカラップ工法のストレート梁と同等の塑性変形能力を発揮した 3) 現場上向ロボット溶接工法を 件の実工事に適用し, 良好な溶接品質を安定的に確保できた 参考文献 1) AW 検定協議会 30 年史編纂委員会 :AW 検定協議会 30 年の歩み,81p,015.10 ) 日本建築学会 : 建築工事標準仕様書 JASS6 鉄骨工事,103p,007. 3) 日本建築学会 : 鋼構造建築溶接部の超音波探傷検査規準 同解説,168p,008 4) 日本建築センター : 鉄骨梁端溶接接合部の脆性的破断防止ガイドライン 同解説,179p,006. 5) 北村春幸, 他 : 性能設計における耐震性能判断基準値に関する研究, 日本建築学会構造系論文集, 第 604 号,pp.183-191,006.6 6