20 第 2 章 遺留分減殺請求権の行使 遺留分侵害行為の特定 () 遺言遺言のうち 相続分の指定 相続させる遺言 包括遺贈 特定遺贈 が遺留分を侵害する行為です (2) 生前贈与生前贈与のうち 相続開始前 年間になされた贈与 遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与 特別受益 不相当な対

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〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

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1 特別受益の持戻し免除条項 現在の親は, ある程度以上の資産があると, 余裕からも, また, 相続税対策を考えることからも, 子に生前贈与する傾向がありますが, 子にした生前贈与や遺言書で子に 相続させた 財産について, 持戻しを免除する気持ちがあるのか否かの意思の表明をしない場合が極めて多く,

平成16年6月6日 AがXに対して、全財産を包括的に遺贈した

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2018 年 ( 平成 30 年 )7 月に, 相続法制の見直しを内容とする 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律 と, 法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする 法務局における遺言書の保管等に関する法律 が成立しました 民法には, 人が死亡した場合に, その人 ( 被相

A は 全ての遺産を社会福祉施設に寄付すると遺言に書き残し死亡した A には 配偶者 B と B との間の子 C と D がある C と D 以外にも A と B との子 E もいたが E は A が死亡する前にすでに死亡しており E の子 F が残されている また A には 内妻 G との子 (

第 5 章遺留分 161 が相続を放棄すれば 遺留分減殺請求に応じなくて済む可能性がある 解 説 1 特別受益とその評価時点遺留分算定の基礎となる財産については 民法 1044 条が903 条を準用することから 相続開始 1 年前であるか否かを問わず また 損害を加えることの認識の有無を問わず 特別

相続法改正(要綱案)の概要

税金の時効 税務では 時効のことを更正 決定処分の期間制限 = 除斥期間 といいます その概要は 以下の通りです 1. 国税側の除斥期間 ( 通則法 70) 1 期限内申告書を提出している場合の所得税 相続税 消費税 税額の増額更正 決定処分の可能期間 : 法定申告期限から 3 年 2 無申告の場合

き一 修正申告 1 から同 ( 四 ) まで又は同 2 から同 ( 四 ) までの事由が生じた場合には 当該居住者 ( その相続人を含む ) は それぞれ次の 及び に定める日から4 月以内に 当該譲渡の日の属する年分の所得税についての修正申告書を提出し かつ 当該期限内に当該申告書の提出により納付

配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 ( 配偶者居住権 ) 1. 見直しのポイント 配偶者が相続開始時に居住していた所有の建物を対象として, 終身又は一定期間, 配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利 ( 配偶者居住権 ) を新設する 1 遺産分割における選択肢の一つとして 2

民法 ( 相続関係 ) 部会資料 26-1 民法 ( 相続関係 ) 等の改正に関する要綱案 ( 案 ) 第 1 配偶者の居住権を保護するための方策 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策配偶者の居住権を短期的に保護するための方策として, 次のような規律を設けるものとする ⑴ 居住建物について

第 5 相続財産 ( 財産の種類 調査方法 ) (17 頁 ) 1 積極財産 2 消極財産 3 地位の承継 4 遺産目録の作成第 6 遺言 遺言執行 (21 頁 ) 1 遺言 2 遺言の執行図解遺言執行の流れ (23 頁 ) 第 7 遺留分 (24 頁 ) 1 遺留分権利者と割合 2 遺留分減殺第

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5 根抵当権者の会社分割 61 根抵当権者の会社分割 Ⅰ ケース概要甲野銀行は 乙野商事に対する融資取引の担保として乙野商事所有の土地につき根抵当権の設定を受けていたが その後 丙川銀行を承継会社とする吸収分割が行われた 今般 当該確定前の根抵当権について 他の事由により登記を行うこととなったため

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- 2 - 二一の遺言書は 法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならないものとすること (第四条第二項関係)三一の申請は 遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(遺言者の作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合にあって

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※ 住民票の除票に記載された住所は,被相続人の登記記録上の住所と一致している必要があります。被相続人の最後の住所が,登記

遺者であったが 事情があって遺贈の放棄をした 民法 986 条の規定によれば 受遺者は 遺言者の死亡後 いつでも 遺贈の放棄をすることができ 遺贈の放棄は 遺言者死亡のときに遡ってその効力を生じるとされているから 前所有者から請求人に対する本件各不動産の所有権移転の事実は無かったものであり 請求人は

16 【書式9】死後事務許可申立書(1・2枚目)

遺言執行者は相続人の代理人( 民法第 1015 条 ) 最判昭和 遺言執行者の就任 辞任 解任とその効果遺留分を侵害された相続人等から その遺言内容と執行に不満がでて強烈な遺産争いに巻き込まれることもある 事前に就任を辞退するのも 1 つの選択肢 一旦就任したら 正当事由があり 家裁

の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日 とすることとした そして, この規律については, 配偶者が放棄した場合だけでなく, 相続分の指定により配偶者の相続分がないものとされた場合など, 配偶者が遺産分割の手続に関与することができない場合にも適用することとしている 具体的には, 例えば, 配偶者

り 遺留分が全く違う使い方になったのでした ことに近年は 日本人の平均寿命が男性 80 歳 女性 86 歳と延び 80 歳前後の人の死 亡 相続が多く発生していますが この世代の人は家督相続の時代の教育を受け その方々自身が家督相続した人達なので 未だに 跡取り息子の観念 や 長子一 子相続の考え方

配偶者居住権が新設され 夫 ( 妻 ) の死後も配偶者は自宅に住めるようになります 配偶者が 被相続人の相続開始時において被相続人所有の住居に居住していた場合 原則としてその配偶者の死亡時まで住み続けることができる 居住権 が新設されました 配偶者は 被相続人の自宅の 居住権 を相続すれば 引き続き

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1 三つの相続分 ( 法定相続分 指定相続分 具体的相続分 ) これらの用語は条文に書かれた用語, すなわち法令用語ではありませんが, 相続分 という場合, 次の三つに分けて使われます 法定相続分 法律が定めた相続割合 例 : ( 定数 割合 ) 配偶者 1/2と子 1/2 指定相続分 遺言書で指定

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() 葬儀費用を準備する 相続が発生すると預貯金は凍結され 引き出すことができなくなる 預貯金を引き出す時には 遺言書 遺産分割協議書等に記載されている預貯金の相 続人を証明する原因証書に加えて 戸籍謄本 住民票等が必要になる 相続が発生すると すぐに葬儀の費用等が必要になるので 相続発生前に 葬儀

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cf 遺贈 : 遺言によって財産が移転 遺贈者 贈与税の対象となる贈与 死亡時 遺言 一方的な意思表示 受遺者 相続税 財産を取得した受贈者 ( 個人 ) にかかる税金 贈与者 財産 受贈者 個人 個人 贈与税 法人 個人 所得税 ( 一時所得か給与所得 ) 個人 法人 法人税 2

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2. 制度の概要 この制度は 非上場株式等の相続税 贈与税の納税猶予制度 とは異なり 自社株式に相当する出資持分の承継の取り扱いではなく 医療法人の出資者等が出資持分を放棄した場合に係る税負担を最終的に免除することにより 持分なし医療法人 に移行を促進する制度です 具体的には 持分なし医療法人 への

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第 1 章 相続実務のための基本知識 図表 1-33 相続の発生から終了までの流れ 相続の発生 遺言書がない 遺言書がある 遺産分割協議が必要 1 遺産分割協議が不要 2 遺産分割協議 成立 不成立 3 家庭裁判所で調停 成立 不成立 家庭裁判所で審判 遺産分割の終了 ( 遺産の分配 名義変更等 )

東京リーガルマインド 無断複製 頒布を禁じます 不動産登記法 一所有権保存 1 74 条 1 項 1 号保存 申請書 1 不登 74 条 1 項 1 号前段 登記の目的 所有者 所有権保存 市 町 丁目 番 号 A 添付書類住所証明情報 (A の住民票の写し ) 代理権限証明情報 (A の委任状 )

1. 相続手続の流れ お客さま (1) ジャパンネット銀行へのご連絡 口座名義人の方 ( 被相続人様 ) がお亡くなりになりましたら 被相続人様のキャッシュカードをお手元にご用意のうえ カスタマーセンターにご連絡ください その際 以下の項目について確認させていただきます ご確認項目 1 被相続人様の

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2,606 円 B2,703 万 2,606 円 C2,641 万 4,735.5 円 D2,637 万 5,221.5 円であると主張した そこで共同相続人等は平成 12 年 5 月 30 日 争いのある部分につき引き続き協議を行い 協議が調わない場合共同口座をいったん解約し Y が解約金を預かり

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52 第 1 章親族第 1 親族一般 554) 遺贈はいつでも撤回ができるとする民法 1022 条も準用されます ( 最判昭 民集 判時 ) 死因贈与においても 遺贈と同様に贈与者の最終意思が尊重されるためです なお この撤回権は 贈与者本人のみが行使で

〔問 1〕 A所有の土地が,AからB,BからCへと売り渡され,移転登記も完了している

海外財産の相続 : 事例研究 ~ 米国の財産の相続手続き ( 第 4 回 ) 三輪壮一氏三菱 UFJ 信託銀行株式会社リテール受託業務部海外相続相談グループ米国税理士 これまで 海外に財産を保有する場合の 海外相続リスク の存在 特にプロベイト手続き等の相続手続きの煩雑さについて 米国の例を基に説明

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/kenkyu * 概 要 taxation method estate tax inheritance tax eclectic system statutory Inheritance taxation system estate division 目次

平成  年(オ)第  号

(3) 生前贈与子のため また 第三者のためになされた生前贈与は 原則的には完全に有効であるが ある制限に服する 必然相続人が存しない場合は 遺産全部は自由処分できるが 存する場合は それらの遺留分を尊重しなければならない 何人も 遺言で与えることができる以上の物を生前に与えることはできない ( 民

7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4


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私的整理手続中における債権回収のための訴えの提起が権利の濫用であるとは認められないとされた事例 ~ 東京地裁平成 30 年 2 月 13 日判決 ~ 渡邊一誠 Issei Watanabe PROFILE はこちら 事案の概要 本件訴訟は 売上の減少等により廃業することとしたY1 社が X 銀行を含

01_郵便物等の回送嘱託申立書書式

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( 図表 2) 民法と相続税法における取り扱いの差異 民法 相続税法 法定相続人に含める養子の数 何人でも相続人になれる 実子がいる場合 :1 名まで 実子がない場合 :2 名まで 相続の放棄 相続人の数に入れない 相続税の総額の計算上は法定相続人の数に含める 贈与財産 特別受益として持戻し ( 財

相続税 贈与税の基本がよくわかる! 誰が相続人になるの? 税額はどのようにして求めるの? 土地 建物の評価はどうするの? 住宅取得資金の贈与は最大 3,000 万円が非課税に? 教育資金や結婚 子育て資金の贈与は非課税に? 新しくできる配偶者居住権ってどんなもの? etc.

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て 次に掲げる要件が定められているものに限る 以下この条において 特定新株予約権等 という ) を当該契約に従つて行使することにより当該特定新株予約権等に係る株式の取得をした場合には 当該株式の取得に係る経済的利益については 所得税を課さない ただし 当該取締役等又は権利承継相続人 ( 以下この項及

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平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

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Ver.3.0 受付番号票貼付欄 合同会社設立登記申請書 フリガナ 1. 商号 1. 本店 1. 登記の事由設立の手続終了 1. 登記すべき事項 1. 課税標準金額金円 1. 登録免許税金円 1. 添付書類 定款代表社員, 本店所在地及び資本金を決定したことを証する書面代表社員の就任承諾書払込みがあ

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Unit1 権利能力等, 制限行為能力者 ( 未成年 ) 1 未成年者が婚姻をしたときは, その未成年者は, 婚姻後にした法律行為を未成年であることを理由として取り消すことはできない (H エ ) 2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において, その贈与契約が負担付の

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遺留分 遺留分とは 一定の親族 ( 配偶者 子 親等直系尊属 ) に残しておかなければならない遺産の割合です 特に遺言を作成する場合は 遺留分に注意する必要があります なお 遺留分を侵害された相続人には 遺留分に相当する部分の取り戻しを請求 ( 遺留分減殺請求 ) することが認められています [2]

養育費 2 年分の合計額相手方の請求から減額された金額の2 年分の合計額慰謝料 解決金得られた金額相手方の請求から減額された金額 ⑸ 離婚調停代理着 30 万報 30 万 + 経済的利益の 10% 但し親権について争いがある場合には, 着手金及び報酬金はそれぞれ 5 万円を加算します 離婚協議の代理

平成18年1月13日 最高裁判所は,貸金業者の過払い金の受領は違法と知りつつなされたことを推定するとした判例です

はじめに 最高裁平成 28 年 12 月 19 日大法廷決定は, 従来の判例を変更して, 預貯金債権 も, 遺産分割の対象になるという判断をしました これより前, 預貯金は, 数量的に分割可能な債権という意味で, 可分債権で あるので, これは相続人ごとに相続分で分割取得できている したがって, 遺

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50 第2章 特別受益 1 住宅購入資金の特別受益該当性 住宅購入資金の援助は 一般的には 生計の基礎として役立つよう な財産上の給付として 生計の資本としての贈与 民903① に該当 するといえます 本事例(1) (2)のように 1000万円もの臨時的な高 額援助は 通常は相続分の前渡しとして 特

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ものであるから 法定相続における遺産分割とパラレルに考えるべき事案であって 相続による不動産の取得 として 法 7 3 条の 7 第 1 号を適用して非課税とされるべきものである 処分庁は 私的取引社会における事実の流れを勝手に分断し その一部だけに税法を適用しており 裁量権の逸脱であって許されない

〔問 1〕 抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか

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相続税の総額の計算法定相続分であん分課税遺産総額実際の相続割合であん分超過累進税率の適用税価格の合計額の総額税額 基礎控除額遺産に係る相続税の基礎知識 (1) 相続税の計算過程 相続人が配偶者と子 2 人の場合課法定相続分 法定相続分 税額 算出税額 法定相続分 税額 相続税算出税額 税額控除相続人

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

である 12 遺留分とは 遺言の内容にかかわらず一定の相続人が確実に受け取ることができる一定の 割合のことである 直系尊属のみが相続人である場合は 被相続人の財産の 1/3 その 他の場合には 被相続人の財産の 1/2 である ただし 兄弟姉妹には遺留分はない 13 相続の放棄は 被相続人の生前に行

Asakura ミニマムテキスト 2 所有権保存登記の抹消 (1) 申請人 所有権登記名義人が単独で申請する (2) 添付情報 a 登記識別情報 所有権登記名義人の登記識別情報が必要 b 印鑑証明書 所有権登記名義人が単独で申請するが, 真意で申請したことを確認するために必要

る権利が移転するものとする 2 甲 -2 案 ( 受遺者等が金銭債務の全部又は一部の支払に代えて現物での返還を求めた場合には, 受遺者等が指定する現物での返還の適否を裁判所が判断するという考え方 ) 1 甲-1 案 1に同じ 2 1の請求を受けた受遺者又は受贈者は, その請求者に対し,1の金銭債務の

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第 1 民法第 536 条第 1 項の削除の是非民法第 536 条第 1 項については 同項を削除するという案が示されているが ( 中間試案第 12 1) 同項を維持すべきであるという考え方もある ( 中間試案第 12 1 の ( 注 ) 参照 ) 同項の削除の是非について どのように考えるか 中間

本稿で取り扱う 家族信託や福祉信託に代表される民事信託は 委託者が健康な間に自分の意思で自分の老後の生活 介護等に必要な資金の管理および給付などのために また 遺言代用信託として残された家族への財産の分配のために その保有する不動産 預貯金等を信託するものです 受益者の利益を保護し 受託者の信託事務

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○抵当権の登記を抹消する場合の申請書の様式・記載例(オンラ

照会に関する手数料は不要です 4 照会手順について 照会書等の作成ウェブサイトに掲載している 相続放棄 限定承認の申述の有無等についての照会書 及び 目録 を利用するなどして必要事項を記入し, 上記 1の管轄区域に応じて送付してください 記入の際, 戸籍 ( 日本国籍を有しない方については, 住民票

配偶者居住権の相続税評価額について 2018/12/28 田口税理士事務所 平成 30 年の民法改正により 配偶者の居住権を保護するために配偶者居住権が新設されましたが 相続税の評価にどう影響させるかについて 今回の税制改正大綱に記載されています まず 前提となる配偶者居住権について 説明します 1

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

(4) 相続事務手続き 事前に ご来店の日時をお取引店にご連絡くださるようお願いいたします 2. 相続形態のご確認相続の形態により必要書類が異なりますので 以下を参考にご確認ください ( はい ) (1) 遺言書はありますか記入例 1. 遺言による相続 をご覧ください ( いいえ ) 遺言は被相続人

民法 ( 相続関係 ) 部会資料 14 今後の検討の方向性について 第 1 配偶者の居住権を保護するための方策 1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策 ⑴ パブリックコメントの結果の概要短期居住権に関する規律のうち, 遺産分割が行われる場合の規律については, 一部反対意見 ( 判例で認められ

業務委託基本契約書

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事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

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第 2 章遺留分減殺請求権の行使 9 第 遺留分減殺請求の対象を特定する フローチャート 遺留分減殺請求の対象の特定

20 第 2 章 遺留分減殺請求権の行使 遺留分侵害行為の特定 () 遺言遺言のうち 相続分の指定 相続させる遺言 包括遺贈 特定遺贈 が遺留分を侵害する行為です (2) 生前贈与生前贈与のうち 相続開始前 年間になされた贈与 遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与 特別受益 不相当な対価の有償行為 が遺留分を侵害する行為です 遺留分制度は 被相続人の財産処分の自由 取引の安全と 相続人の生活の安定 財産の公平な分配という各要請を調整する制度といえます この制度により 遺留分権利者は 自己の遺留分を侵害する被相続人の処分を減殺請求し 財産そのものを取り戻したり 価額の弁償を受けたり 自己の具体的相続分を変更させたりすることができます 遺留分侵害行為は 遺言 ( 相続分の指定 相続させる遺言 包括遺贈 特定遺贈 ) によるものか 生前贈与 ( 相続開始前 年間になされた贈与 遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与 特別受益 不相当な対価の有償行為 ) によるものかに分ける必要があります なお 死因贈与は契約ですが 包括遺贈ないしは特定遺贈と同じ考え方をすることができます () 遺言 大まかにいって 相続分の指定 相続させる遺言 包括遺贈 特定遺贈 の 4 つに分類することができます 相続分の指定 遺言者は 法定相続分と異なる相続分を指定し 相続人の相続分を変更することが

第 2 章遺留分減殺請求権の行使 2 できます ( 民 902) ただし この指定も遺留分を侵害できません( 民 902ただし書 ) しかし 遺留分を侵害する相続分の指定も当然には無効ではなく 遺留分権利者の減殺請求により 侵害の限度で効力を失うにすぎません この遺留分減殺請求により 権利承継の割合が再度変更されます 減殺請求をした相続人は指定に基づく相続分に減殺請求で回復した相続分を加えた割合 減殺請求をされた相続人は指定に基づく相続分から減殺請求で取り戻された相続分を引いた割合を取得していることとなります 〇最高裁平成 24 年 月 26 日判決 ( 判時 248 6) 本件遺言による相続分の指定が抗告人らの遺留分を侵害することは明らかであるから 本件遺留分減殺請求により 上記相続分の指定が減殺されることになる 相続分の指定が 特定の財産を処分する行為ではなく 相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること 及び 遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し 相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨とするものであることに鑑みれば 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には 遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である ( 最高裁平成 9 年 ( オ ) 第 802 号同 0 年 2 月 26 日第一小法廷判決 民集 52 巻 号 274 頁参照 ) 相続させる遺言公正証書遺言では ある特定の相続人に対し 相続させる という文言がよく使われます 特定の遺産を対象にするものもあれば 一切の財産を相続させるというものもあります 特定の財産に対し 遺贈ではなく相続させる遺言が使われてきたのは 登記上の便宜 ( 受益者の単独申請が可能 ) 登録免許税の低廉さ( ただし 現在では 相続人に対する遺贈 は 相続 と同率です ) 農地法 3 条の許可が不要 遺産が借地権の場合に賃貸人の承諾が不要 などが理由として挙げられてきました この相続させる遺言の法的意味について 最高裁平成 3 年 4 月 9 日判決 ( 判時 384 24) が 原則として民法 908 条の遺産分割方法の指定と解釈すべきで 何らの行為を要せずして被相続人の死亡時に直ちに特定の遺産が特定の相続人に相続により承継される旨判示しました 一切の財産を相続させるという文言は 上記の最高裁判例の事案の場合と異なりますが 一切の財産は特定の個々の財産の集合体であることから 原則として上記の最

22 第 2 章 遺留分減殺請求権の行使 高裁判例と同じ考えをしてよく 何らの行為を要せずして一切の財産について権利が移転する と理解されています この相続させるという遺言は 遺贈でも生前贈与でもありませんが 遺留分を侵害する行為として 遺留分減殺請求をすることができると解釈されています 〇最高裁平成 3 年 4 月 9 日判決 ( 判時 384 24) 相続させる 趣旨の遺言は 正に同条( 民法 908 条 ) にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり 他の共同相続人も上記の遺言に拘束され これと異なる遺産分割の協議 さらには審判もなし得ないのであるから このような遺言にあっては 遺言者の意思に合致するものとして 遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり 当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り 何らの行為を要せずして 被相続人の死亡の時 ( 遺言の効力の生じた時 ) に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである そしてその場合 遺産分割の協議又は審判においては 当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても 当該遺産については 上記の協議又は審判を経る余地はないものというべきである 包括遺贈遺言者は 包括又は特定の名義で その財産の全部又は一部を処分することができます ( 民 964) 包括遺贈は 遺産の全部又は一部を割合を示してするものです その受遺者は遺産の全部又は一部を割合として取得するので 相続人と同一の権利義務を有します ( 民 990) したがって 例えば 4 分のの割合の包括遺贈があった場合 他に共同相続人が3 人いた場合は 共同相続人が4 人いるのと同じ結果になります なお 包括遺贈の承認 放棄については 相続の承認 放棄の規定が同様に適用されますので 受遺者は民法 938 条による相続放棄の申述はできますが 民法 986 条に基づく遺贈の放棄はできません 包括遺贈は遺留分を侵害できませんので ( 民 964ただし書 ) 侵害した場合は遺留分減殺請求の対象となります

第 2 章遺留分減殺請求権の行使 23 特定遺贈遺言者の特定の財産を贈与したり 受遺者の債務を免除したりするのが特定遺贈です なお 受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈の放棄をすることができますが ( 民 986) 遺贈義務者等利害関係人は 受遺者に対する催告権があり 相当期間を定めた催告後も受遺者より回答がない場合 遺贈を承認したものとみなされます ( 民 987) 特定遺贈もやはり遺留分を侵害できませんので ( 民 964ただし書 ) 侵害した場合は遺留分減殺請求の対象となります アドバイス〇遺言書が手元にない場合の対処方法まず 遺言書の所持者に写しの交付を求めます これが拒否されたときは そもそもどのような遺産があるのかわからず また 遺留分が侵害されているかどうかもわかりません このような場合には 預貯金であれば 心当たりの金融機関に相続人であることを示して預貯金の残高確認をしたり 不動産登記事項証明書を取り寄せて 遺留分減殺請求をしたりするしかありません もっとも 自筆証書遺言は 検認をしなければならず ( 民 004) 実際上検認を経ていなければ遺言を執行することができないので 家庭裁判所に対し検認調書の謄写を請求してみるとよいです 検認調書には自筆証書遺言の写しが添付されています 公正証書遺言の場合には 公証役場に遺言の原本が保管されているので 相続人などの承継人は 証書の原本の閲覧 謄写を請求できます そして 公正証書遺言の場合 平成元年以降に作成された遺言であればどの公証役場でも検索できます ただし それ以前の遺言は実際に作成した公証役場でしか検索できません ちなみに 公証人は自己が所属する法務局 地方法務局の管轄外で職務を行うことはできないので 例えば 遺言者が入院中に公証人が出張して遺言を作成したような場合は その病院の所在地を管轄する公証役場の公証人が公正証書遺言を作成したと考えます 次に 遺言執行者があることがわかっている場合には 遺言執行者に遺言書の写しの交付を求めます ( 民法 0 02) 遺言執行者が拒否した場合には家庭裁判所に遺言執行者解任の審判申立てをなし ( 民 09) 新たに遺言執行者選任の審判申立てを行い ( 民 00) 新任の遺言執行者に遺言書の写しを請求するとよいでしょう

24 第 2 章 遺留分減殺請求権の行使 ケーススタディ Q 以下のような遺留分を超える相続分の指定がなされた場合 Eからの減殺請求により 指定の効力はどうなりますか 被相続人 A 相続人子 B C D E 遺言による相続分の指定 Bは2 分の Cは4 分の Dは4 分の Eは0 被相続人 A ( 相続分の指定 ) ( 遺留分 ) B C D E 2 8 4 8 4 8 0 8 A 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合 遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分がその遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正され これを超える相続分の指定は効力を失います したがって 以下のとおりとなります 各人の個別遺留分割合は8 分のです 指定相続分から遺留分割合を超える部分は B 2 8 = 4 8 8 = 3 8 です C D 4 8 = 2 8 8 = 8 です B 3 8 C 8 D 8 の割合で E の遺留分 8 を按分すると B は 8 3 5 = 3 40 Cは 8 5 = 40 Dは 8 5 = 40 となります したがって 修正後の指定相続分は B 2 3 40 = 20 40 3 40 = 7 40 C 4 40 = 0 40 40 = 9 40 D 4 40 = 0 40 40 = 9 40 となり 結局 B の相続分は 7 40 C は 9 40 D は 9 40 となります

第 3 章遺留分侵害額の算定 83 参考書式 0 鑑定人選任審判申立書 鑑定人選任審判申立書 平成〇年〇月〇日 〇〇家庭裁判所 御中 申立人代理人弁護士乙川賢一印 ( 当事者の表示 ) 本籍東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番地住所 〇〇〇〇〇〇〇東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号申立人甲野一郎 〇〇〇 〇〇〇〇 東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号 乙川法律事務所 ( 送達場所 ) TEL 03 〇〇〇〇 〇〇〇〇 FAX 03 〇〇〇〇 〇〇〇〇 申立人代理人 弁護士 乙川 賢一 ( 被相続人の表示 ) 本籍東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番地最後の住所 〇〇〇〇〇〇〇東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号被相続人甲野太郎 ( 平成〇年〇月〇日死亡 ) 申立ての趣旨被相続人甲野太郎の相続財産に対する遺留分を算定するため 別紙条件付権利目録記載の権利を評価する鑑定人を選任する審判を求める 申立ての理由 申立人は 被相続人の長男であり 遺留分権利者である相続人である 2 被相続人は 平成〇年〇月〇日 死亡した

84 第 3 章 遺留分侵害額の算定 3 被相続人の相続財産の中には別紙条件付権利目録記載の権利がある 4 被相続人の相続財産に対する申立人の遺留分を算定する必要があるため 前記権利の価額を評価する鑑定人を選任されたく 本申立てに及んだ次第である 以上 添付書類 ( 略 ) 条件付権利目録 ( 略 )