視点 中部崛起政策の五つの難題天野真也 ( ジェトロ武漢事務所長 ) ジェトロが内陸部初の武漢事務所を開設し 約半年が経過した 多くの日本企業が内陸地域を一つの成長点として注目しており 当事務所を訪問される方も後を絶たない 特徴的なのは 日本からの訪問者よりも沿海部地域に既に進出している日系企業の方が圧倒的に多いこと また 業種的には 自動車関連企業からの照会が多いことである 实際 所管 4 省 ( 湖北省 湖南省 河南省 江西省 ) の中で 湖北省は 2011 年上半期 日本企業からの投資が3 倍に拡大している しかし これで本格的に日本企業を含む外資企業が中部地域に進出する時代の幕開けになるとは 簡単には思えない 湖北省人民政府の参事で 社会科学院長江流域経済研究所の彭智敏所長は 東部沿海地域と西部大開発政策で外資導入が進んだ西部地域の狭間で 中部は取り残されて凹んだ地域になったと現状を分析しており 五つの難題に立ち向かわなければならないと指摘している 第 1には 三農問題 の解決である 中部地域が遅れた地域となってしまったのは 農業主体の産業構造の中にあって 農業 の産業競争力が弱いために 農村 の地位が低く 農民 が弱者となる 三農問題 が経済の足を引っ張っていると指摘している 第 2には 中部地域は物流コストが非常に高いことである 中部地域はかつて 九省通衢 ( 九つの省に通じる交通の要衝 ) と呼ばれ 商品の集散地として発展してきた歴史を持つ しかし 改革開放によって経済活動の重要な舞台が国内市場から国際市場に代わると 結果として国際市場に近い沿海部地域の経済発展が早く 中部地域は物流 資本導入 人材といった面でも遅れた地域になってしまったという指摘である 第 3には 投資環境においてコストが高いことである 多くの人が 中部地域は沿海部地域に比べて土地と人件費が安く そのため 何もしなくても投資が進むはずだと信じているが 仮に 土地 水 電力 人件費などの生産要素に関わるコストが多尐安かったとしても 地方政府の行政サービス 法律の運用 人材の雇用 また 資材 部品調達コスト等の面を勘案した場合には 外国企業にとって魅力的な投資環境とはいえない 第 4には 周辺省との協力がないために不経済に陥っているという点である 中部 6 省 ( 湖北省 湖南省 江西省 安徽省 河南省 山西省 ) は面積 人口 産業においても差が大きいため お互いに立場を譲らず 協力関係を持とうとしないことが問題だと指摘している 第 5には 市場経済の開拓精神と商業意識が低いといわれる点である 計画経済下で残された負の遺産が色濃く 中部地域の人々は仕事に対する やる気 失敗を恐れない 勇気 積極性 が足りないと かなり手厳しい 本格的に外資企業がこの地域に進出するためには まだまだ投資環境の改善が必要といえる - 1 - 中国経済 2011.12
トピックスレポート 中国の高齢者市場における日本企業の参入状況と今後の課題 鷲北弥那子 ( ジェトロ海外調査部中国北アジア課 ) 中国は 経済成長により生活水準 医療衛生保険が大きく改善され平均寿命が延びたことおよび一人っ子政策により出生率が低く抑えられたことによって高齢化が急速に進んでいる 国務院常務会議は 2011 年 8 月 中国高齢者事業発展に関する第 12 次 5カ年規画 (11 ~15 年 ) を採択 今後 5 年間で高齢者社会保障制度の整備や高齢者サービス事業の発展を進めるとしている 中国のシルバー産業における潜在的需要は大きいが 産業は発展途上の段階であり 市場に投入されているサービスや商品はまだ尐ない また 介護保険制度も整備されていない状況にあるため 進出環境が整っているとはいえないのが現状 日本では高齢者に向けた多種多様なサービスが発展しているが 日本企業の中国への進出は始まったばかりである 中国にはまだ普及していないサービスがあるため 認知してもらい普及させていかなければならない その際 介護事業に携わる日本企業が連携して パッケージで日本の介護サービスを中国に売り込むことも検討する必要がある 福祉分野はとりわけ中国政府の規制や補助制度の影響を受ける分野である また制度の運用などは各地方政府によって状況が異なるため 地元政府との良好な関係を構築するとともに政府とパイプを持つ信頼できる地場企業と手を組むことが重要である <はじめに> 中国の高齢者市場は 急速な発展が見込まれている それは世界一の高齢者数を抱えていることに加え 今後高齢化の速度が加速していくことが確实だからだ しかし 現在の市場は発展途上でサービスや商品は充实していない 1) 日本は既に高齢化率が 23% を超える 本格的な高齢社会 注にあり 高齢者に向けた多種多様なサービスが発展している 一方で介護保険制度導入後新規参入が相次ぎ 日本のシルバー産業は競争が厳しく 飽和状態に近づきつつあるとみる向きもある このような状況の中 将来日本よりさらに高齢化が深刻な問題となるであろう中国に注目が集まりつつある 本稿は中国における高齢化の現状と政策動向を概観した上で 日本企業の中国市場参入におけるポイントや課題を具体的な事例を交えながら検証する 中国経済 2011.12-2 -
現地レポート 高齢者事業第 12 次 5カ年規画に伴う発展可能性 - 青島の事例から- 北条尚子 ( ジェトロ青島事務所長 ) 高齢者事業発展の第 12 次 5カ年規画 が 2011 年 9 月 17 日 国務院から発表された 社会保障制度の充实とあわせ 高齢化に対する本格的な取り組みが始まった 人口高齢化を見据えての中長期的な社会基盤整備において 高齢者需要に対応できる幅広い高齢者産業の育成 促進が盛り込まれている 介護 医療 住居 街づくり 金融 保険商品 旅行 娯楽 文化 教育 運動など 新市場での需要が期待され 民間企業を交えたモデル事業の取組みを推奨しており 高齢化先進国の日本企業のサービス ノウハウ導入に注目が集まる中 全国ではじめて青島市で日中合弁の介護付高級老人ホームが開設された 高齢者事業発展の第 12 次 5カ年規画 ( 以下 規画 ) が 2011 年 9 月 17 日 国務院から発表された ( 国務院常務会議で8 月に可決 ) 計画策定にあたり 08 年頃から各級政府に意見照会が出されており 地方レベルでの諸議論 準備が進んでいたところ このほど国レベルのガイドラインが発表された 7 月 20 日付 人力資源 社会保障事業発展の第 12 次 5カ年規画 ( 人社部発 [2011]71 号 ) の社会保障制度改定とあわせ 高齢者および高齢化に対する本格的な社会基盤整備が始動した 4 月に発表された第 6 次全国人口調査 (2010 年实施 )( 国務院 ) では 中国の総人口に占める 60 歳以上の割合は 13.26%( 総数は1 億 7,900 万人 ) 国連定義では 65 歳以上の人口の総人口に占める割合が 14% に達すると高齢社会と定義されるが 中国の場合 65 歳以上の割合は 8.87%( 総数は1 億 2,000 万人 ) であり 高齢社会とは定義されない しかし 規画 では 中国における高齢者の絶対数の多さ 高齢者人口の増加傾向 発展途上の国においては高齢率が高いこと ( 未富先老 ) を挙げ 高齢化問題を中国の社会経済発展における 大きな挑戦 とし 調和のとれた社会建設と持続経済発展のため 手段を ) 講じるべき としている注 < 第 12 次 5カ年規画期間高齢者事業重点取組内容 > 規画 では これまでも国として高齢化事業に対して積極的措置を講じてきたとしながらも 急激に進む高齢化の進展に対して対応が遅れており さまざまな問題が生じている と指摘 達成指標を定めた社会養老保険制度 医療保険制度の整備 ( 表 1) により公的支援の枠組みを整えるとともに 地域コミュニティ 施設 家庭がそれぞれの役割を発揮し 提供サービスに市場メカニズムを適宜導入し 相互補完的に高齢者の自立支援ができるよう以下の 11 の重点項目を挙げている - 11 - 中国経済 2011.12
現地レポート 人民元建てクロスボーダー取引決済の動向について 奥泉和則 ( ジェトロ北京事務所次長 ) 金融危機以降 ドルへの信認が低下するなか 中国は 2009 年 7 月以降 制限付きで人民元建て貿易決済の試行を開始し 中国国内の試行地区 試験企業 貿易対象地域を段階的に拡大してきた 人民元建て貿易決済における制度整備 規制緩和に並行し オフショア債券発行 中国企業による対外直接投資 人民元建てオフショアローン等 人民元建て決済に関係する規制を次々に緩和し 11 年 10 月にはオフショアで調達した人民元資金による中国国内への直接投資が可能となった 制度整備 規制緩和の過程では香港において他地域に先駆けさまざまな規制が解禁された その結果 香港では人民元取引の利便性が大幅に高まった 制度整備 規制緩和の結果 人民元建て決済額は 09 年には 36 億元にすぎなかったが 11 年上半期には 9,576 億元と急増している 邦銀はメガバンクを筆頭に人民元関連業務に積極的に乗り出している 地方銀行も人民元建て取引が中小企業にも拡大することを見越して 10 年以降 人民元建て決済業務の取り扱いを相次いで開始している 人民元建てクロスボーダー取引決済に対する中国進出日系企業の関心は高まっており 親会社から現地法人 ( 以下 現法 ) への経費支払いや 現法から親会社への役務の対価としてのフィー支払い等 サービス貿易やその他経常取引での活用が増加している ただし 貨物貿易決済通貨の人民元への切り替えについては 既に人民元切り上げを見越し為替リスク低減を図ってきたこと 人民元決済に関する規制は緩和されたが当局の運用が一部追随していない点がある等の要因から 中国企業のようには進んでいない 中国が貿易大国として存在感を増し また規制緩和が進むにつれ 人民元建て決済の拡大が見込まれることから 引き続き人民元の国際化への動きを注視していく必要がある < 人民元建ての貿易決済にかかわる制度整備の進展 > 08 年 12 月国務院常務会議において 輸出企業の困難の緩和 貿易の安定した成長を維持するための政策措置 の一環として 広東省および長江デルタ地帯と香港 アモイ また広西チワン族自治区 雲南省と ASEAN の貨物貿易についてクロスボーダー人民元決済解 1) 禁の方向性が検討された注 09 年 4 月の国務院常務会議で中国の5 都市 ( 上海市 広東省の広州 深セン 珠海 東莞 ) を先行的に試行地とし 貿易対象地域を当面の間 香港 2) マカオ ASEAN とすることが決まった注 - 19 - 中国経済 2011.12
特集 三菱商事の中国における取り組み 西原真司 ( 三菱商事株式会社業務部中国审長 ) 三菱商事は 中期経営計画 2012 の中で 中国を 全社戦略地域 に位置付け 規模感のある事業の推進 東アジア統括体制の導入等 取り組みを強化している 三菱商事は現在 13 都市に全社拠点を置き 150 件の投資事業がある 北京常駐の東アジア統括の下 統括補佐を華北 華東 華南に設置し それぞれ北京 上海 香港の現地法人社長を兼務している 最近取り組んでいる事業には 食肉処理 加工 販売 輸入事業 日本企業の中国進出を支援するファンド 住宅開発 商業施設運営等の不動産事業がある 今後の取り組みの方向性は 内需 有力企業との協業 東アジア域内およびアジア地域との連携 がキーワード さらには グローバルな人材の活用が重要である また 良き企業市民として 現地における社会貢献活動も継続して行っていく < 社内における中国市場の位置付け> 三菱商事は 2010 年 7 月 16 日に発表した 中期経営計画 2012 において 成長する新興国の内需を取り込み将来の収益基盤の構築を目指し 中国 インド ブラジルを 全社戦略地域 に指定し 全社主導による新規案件の開拓 優先的な経営資源の配分 現地側取組体制の強化を行い 12 年までの3 年間に 1,000~2,000 億円の新規投資を实施することを決定した また 中国の現地経営体制に関しては 11 年 4 月に従来の中国大陸 香港 モンゴルに加え韓国と台湾も含めた形で 東アジア統括 が管轄する体制を整え 北京に副社長が常駐することになった さらに 内需関連事業や取引が拡大している生活産業グループと化学品グループでは現地に グループ統括 を設置 既存取引の拡大 新たな取引や事業投資案件の開拓を担当させる体制とした 中国のビジネス環境は内需が大きく伸びているだけでなく 中国企業の対外投資の拡大 ASEAN との FTA や台湾との ECFA 締結に見られる中国政府の戦略的経済連携の動き等 グローバルな観点からの取り組みが決定的に重要になってきており 東アジア統括体制はまさに そうした時代の要請でもあると言える こうした体制面での強化も含め 10 年から進めてきた全社戦略地域としての取り組み強化の効果もあり 後述の通り 規模感のある戦略的な投資事業がいくつか实現して来ている 他にも現在交渉中あるいは合弁会社設立準備中の案件も増えてきており 社内における中国市場の取り組みは 従来からの活動の基礎の上に さらに一段ステージが上がってきたという实感である 中国経済 2011.12-30 -