伊藤貫 ( いとう かん )/ 国際政治アナリスト 1953 年 東京生まれ 東京大学経済学部卒 コーネル大で国際政治学を学ぶ ワシントンのコンサルティング会社とロビー事務所で外交 金融政策のアナリストとして勤務 シカゴ トリビューン ロサンゼルス タイムズ コモンウィール フォーリン ポリシー な

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Transcription:

白人がマイノリティーになると 何が起き るのか 2017/3/30 白人の半数が被差別意識 伊藤アメリカが分裂する第 3 の原因として 人口構成と人種構成を説明します これはアメリカのマスコミがほとんど報道しないことです 人種構成の問題で 本当のことを言ってはいけないのがアメリカのマスコミだからです 2 年前のピュー研究所の世論調査によると 半分以上のアメリカ人が アメリカは不公正な国だ と思っています しかも 64% のアメリカ人が 自分は負け組だ と思っています この調査で注目すべき点は 白人の半数が 自分は人種差別の被害者だ と思っていることです なぜ被害者意識があるかというと 少数民族がアファーマティブ アクション ( 進学 就職 職場における昇進などで黒人とヒスパニックを優遇するシステム ) で得をしている と考えているからです オバマ大統領の 8 年間で アメリカの人種関係は良くなったと思うか という世論調査では 2 割が 良くなった 6 割が 悪くなった と答えています アメリカの人種関係は オバマ大統領が登場して むしろ悪くなったという印象を持つ国民が多いようです 1

伊藤貫 ( いとう かん )/ 国際政治アナリスト 1953 年 東京生まれ 東京大学経済学部卒 コーネル大で国際政治学を学ぶ ワシントンのコンサルティング会社とロビー事務所で外交 金融政策のアナリストとして勤務 シカゴ トリビューン ロサンゼルス タイムズ コモンウィール フォーリン ポリシー などに執筆 CNN CBS NBC BBC などの番組で経済 外交政策を解説 著書に 自滅するアメリカ帝国 ( 文春新書 ) など ワシントン D.C. 在住 移民急増 白人は少数民族へ アメリカの人種構成を統計から見てみましょう 1960 年は アメリカ人口のうち 85% が白人でした 黒人は 10% ヒスパニック ( 中南米系 ) は 2.6% です 1960 年のアメリカは圧倒的に白人国家でした ところが 2017 年になると 白人の人口比率は 60% に激減しています 黒人は 13% ヒスパニックは統計では 18% ですが 不法移民も含めると 19 20% になります 白人は 人口的に優勢でなくなってきたのです しかも白人人口は 少子高齢化しています 白人の女性は子どもを産まなくなりましたが ヒスパニックの女性は平均年齢も若く しかも多産です 2

ここ 7 年間くらい アメリカで生まれる子どもの半分以上がノンホワイト ( 非白人 ) です したがって やがて非白人がマジョリティーになることは自明の理です では なぜ非白人が増えたのか そのきっかけは 1965 年に大改正された移民法です それ以前の移民法は露骨な人種差別法案でした 移民できる人数は毎年 10 万 20 万人程度と少なく しかも移民を許可された人の 8 割以上がヨーロッパ出身でした 基本的に 発展途上国 アジア アフリカ ラテンアメリカからは受け入れていなかったのです しかし 1964 年に公民権法案が通り 今後は人種差別をしません ということになりました その翌年に移民法も大改正され 移民の数はどんどん増えて 1960 年代の末には毎年 40 万人 70 年代になると 60 万人 80 年代は毎年 70 万 80 万人規模になりました 政府は 1980 年代以降 不法移民も本気で取り締まらなくなります 移民が増えれば 安い労働力が増え 実質賃金が下がるからです 共和党の政治家は これを歓迎しました また 民主党の政治家も ヒスパニック移民の 7 割は いずれ民主党に投票する と計算して 不法移民に反対しなくなりました ヒスパニックの大量移民は 両党の政治的利益にとって好都合だ と考えられたのです こうして ブッシュ ( 息子 ) 政権時代には毎年 150 万人もの移民が流入するようになったのです 国の価値観が崩れる? アメリカ国内で生まれる子どもの半分以上が非白人 そして移民の 8 割以上が非白人です これによって白人には 移民に職を取られる という恐怖感と人種差別感情が強くなりました 事実 白人労働者の実質賃金は過去 40 年間 着々と低下しています 白人労働者 ( 特に男性 ) の失業率は上昇し その結果 自殺 アルコール依存 薬物中毒死が顕著に増えました 政府の統計によると 2042 年になるとアメリカ人口の半分以上が非白人になります トランプ大統領がどんなに頑張って移民の排斥をしても このトレンドは避けられない事態です アメリカの白人は少数民族になる運命なのです 現在 68 歳以上のアメリカ人の 8 割が白人です 白人人口は少子高齢化しており 白人の高齢者が 1 人死ぬたびに白人の子どもが 1 人生まれる だから もうこれ以上白人の人口は増えないのです 3

ところが ヒスパニックの場合 高齢者が 1 人死ぬと子どもは 5.6 人も生まれ ています 出生率から見ると圧倒的に ヒスパニックの勝ち なのです 今後 アメリカの国柄は今までとはまったく違ったものになります アメリカとはそもそも 16~17 世紀の西欧のカソリックや英国国教会に反発したアングロサクソンが新興のプロテスタンティズムを実行するためにつくった国です このアングロサクソン的な政治規範とプロテスタント的価値観という国家のアイデンティティが人口構成面から崩れていきます アメリカが以前のアメリカではなくなるという事態になっていくのです 大統領就任後 トランプは周知の通り イスラム教 7 カ国からの入国を認めないという むちゃくちゃなことを始めました しかし 最近の世論調査を見ると この移民禁止政策をアメリカ国民の 55% が支持しています このままでは非白人にアメリカを乗っ取られる という不安感があるからです 昨年 マスコミがいくらトランプ批判をしても 露骨にヒスパニックやイスラム教徒の悪口を言うトランプに 白人人口の 6 割以上が投票しました 4

深刻な人種対立が始まる 今から 7 年後 20 歳以下のアメリカ人口の半分以上が非白人になります 当然 毎年の新規労働力も非白人が過半数になります これは大きな問題をはらんでいます 最初の問題は 白人が少数民族化することにより アファーマティブ アクションの維持が難しくなること もう 1 つの問題は 老人養護費の負担です 現在のアメリカ連邦政府の予算は年間 約 3.7 兆ドルです そのうちの 1.8 兆ドルが引退者のために使われています 具体的には 年金と高齢者医療 ( メディケア ) そして高齢者のための長期介護費( メディケイド予算の一部 ) です 連邦政府予算の 5 割弱が高齢者を支えるために使われています 2020 年代になると 連邦予算の半分以上が高齢者向けに使われます すでに述べましたように 引退している高齢者の圧倒的多数は白人です しかし 毎年の新規労働者の半数以上が非白人となるのです ヒスパニックの家庭の平均所得は 白人家庭の 3 分の 2 しかありません 黒人家庭の平均所得は 白人家庭の 55% です アメリカの平均的な白人家庭の資産は 不動産と金融資産を合わせて約 15 万ドル (1700 万円 ) です ところが ヒスパニックの家庭の平均資産は 不動産と金融資産を合わせて 170 万円くらいしかありません わずか 10 分の 1 です 黒人家庭の場合は 90 万円程度 白人家庭の 18 分の 1 です やがて新規労働者の過半は非白人となり その一方で連邦予算の半分以上が高齢者のための支出となります 現在 68 歳以上の引退した人の 8 割が白人なのです だから 10 年後のアメリカの財政政策は 裕福でない非白人の若い労働者層が すでに引退した裕福な白人たちの老後の生活を支えるために 社会保障税や医療保険税や所得税を払う という不自然な構造になるのです 当然のことながら ヒスパニックと黒人たちは不満を持ちます 自分たちより豊かな生活を楽しんでいる白人の老人たちを なぜ自分たちが養う必要があるのか と 一方 白人の高齢者層は 自分たちは現役時代 40 年間も税金をしっかり払ったのだ だから引退者のための予算を絶対に減らすな と主張するでしょう 両者とも もっともな言い分があるのです 今後 アメリカの若年労働者の過半数が非白人になりますが 引退した白人高齢者の投票率は常に 8 割以上です 5

2020 年代のアメリカの政治家たちは 若い非白人労働者層と投票率の高い白人高齢者層と どちらの言い分を優先するでしょうか? 政治家たちは 困難な選択を迫られます ですから 今から 6 7 年後 国内政治において深刻な人種間の反目が起きる可能性が高い この問題に 解決策はあるのでしょうか? これは 過去半世紀以上続いた移民政策と社会保障政策の結果として起きた問題なのです 今からこのトレンドを変えようとしても とても困難です ハンティントンの予言 国際政治学者のサミュエル ハンティントンが 2004 年に Who are we? ( 邦題は 分断されるアメリカ ) という本を出しました ハンティントンは とても勇気のある政治思想家です 1991 年末にソ連が崩壊し アメリカが世界唯一の超大国になった時 大部分のアメリカのエスタブリッシュメントは 世界を一極構造にする これからはアメリカの自由主義 民主主義 経済システムを世界に採用させる と主張しました 6

しかし ハンティントンは そんなことは不可能だ と明瞭に反論して 文明の衝突 という著作を出しました 共産主義と資本主義の対立 というイデオロギーによる東西冷戦が終わると その後の世界で もっと深刻な 文明の衝突 が始まる と彼は予告したのです ハンティントンは多くの国際政治学者から激しく批判されましたが 主張を変えませんでした 彼は 政府が推し進めようとしたアメリカニズムとグローバリズムに 普遍的な価値があると思っていなかったのです 中国人もロシア人もイスラム教徒も アメリカの民主主義やアメリカの資本主義を受け入れないだろう と彼は明言した そして Who are we? の中で 今後のアメリカは分裂していく アメリカのナショナル アイデンティティは多文化主義と人種構成の多様化によって どんどん弱体化していく 移民を増やすことには経済的な利益がある しかし 少数民族が増えれば増えるほど アメリカの国家としての統一性は失われていく と書いています これは アメリカでは絶対に言ってはいけない危険なタブー発言なのです アメリカの言論界と教育界には 非白人が多数派になり 伝統的なキリスト教的価値観が廃れても 多文化主義と自由主義と価値相対主義によって アメリカ社会を運営できる という強い建前があります しかし ハンティントンは 2004 年の段階で すでに共通の価値基盤は失われている と判断して アメリカは国家としての統一を失うであろう 多くの白人が 19 世紀的な白人優越主義をもう一度 復活させようとして 非白人を抑えつけようとする行動をとるだろう と予言しています この 13 年前の予言を読むと トランプ大統領の登場は 自然な成り行きだったのかな とさえ感じます たとえトランプという政治家が出てこなくても アメリカの分裂現象は今後も 30 年以上続きます 7

ローマ帝国の末期に酷似 ここまで話してきたスピーチをまとめます 要点は以下の 3 点です (1) アメリカのトップ 0.1 パーセント層に 経済権力と政治権力が集中してしまった (2) 巨額で野放図な政治資金の流れが アメリカ政治を腐敗させた (3) 白人の少数民族化が進み 国家アイデンティティが失われ 国民の価値規範が混乱し 社会が分裂化している ローマ帝国は建国後 5 世紀目に崩壊しましたが アメリカも移民が始まった 17 世紀から数えると 5 世紀目に入りました ローマ帝国の最後の段階では 貧富の差が激しくなり 政治が腐敗し 少数民族が大量に流れ込んできました ローマ帝国は外敵による攻撃ではなく 内部から崩壊していきました 冷戦後のアメリカとローマ帝国末期の状況は とても似ています これは トランプの アメリカ ファースト 政策によって解決できる問題ではありません * 明日の討論編に続きます ( 撮影 : 遠藤素子 ) 8