電波の日記念講演会講演 3 東日本大震災と放送メディア 株式会社東京放送ホールディングス常務取締役衣笠幸雄氏 ただいまご紹介いただきました 東京放送ホールディングスの衣笠でございます まず お話をさせていただく前に 今回 東日本大地震で被災されました方々に 改めましてお見舞いを申し上げたいと思います 本日は 電波の日記念講演ということで 7 月 24 日にデジタル完全移行ということを目前にしており そういった話がふさわしいかもしれませんが 今日は 3 月に起きました東日本大震災に 放送メディアとしてどう対応してきたのかといったことを中心にお話をさせていた だきたいと思います 今なお 被災地の復旧 復興は遅々として進んでおりませんし 原発事故も以前収束のめども立たず 危険な状況が続いております 内容は 弊社の対応が中心となってしまいますけれども その点はどうかご容赦を頂ければと思います それではまず 未曾有の大震災 そして原発事故 3 月 11 日に何が起こったのか 改めて振り返っていただくために 11 日当日の夜に放送した VTR をご覧いただきます ( ビデオ映写 4 分 20 秒 ) ご覧いただきましたのは 当日 3 月 11 日の夜に放送をしたものです 先日の東京電力の発表では 福島第一原発はこの時間には既にメル トダウンしていたということになります 正確な情報を迅速かつ確実に多くの視聴者に伝える 今回の東日本大震災は マスメディア 1
の中でとりわけテレビ ラジオの放送が果たす役割を改めて問うものになりました それでは 放送局が今回の大震災で果たした役割についてお話をしたいと思います 3 月 11 日 14 時 46 分 地震発生とともに NHK 民放各局は一斉に報道特別番組に入りました その取材体制は 東北 3 県の放送局に 東京のキー局 更には全国の放送局からの応援態勢を含めまして 各局とも過去に例をみない大きな規模となりました 特別番組の放送時間も 過去に 例をみない長さということになりました この間 民放テレビは 足かけ 4 日間に渡るコマーシャル抜きの放送を行いました 映像がもつ圧倒的な情報量は被災状況の正確な把握にも役立ちました また 刻々と変化する状況をハイビジョンのライブ映像で多くの視聴者に一斉に届けられるテレビ放送の特徴を遺憾なく発揮したものとなりました なお ご覧いただきましたニュースドキュメンタリーの映像は ネットでも発信されまして 再生回数が当日だけで 12 万回を超える 世界で最もアクセスの多い動画ということになりました 続きまして ラジオのその瞬間をお聞きいただきたいと思います TBS ラジオ小島慶子の キラキラという番組の生放送の音声です ギーギーという音が聞こえてまいりますけれども これは吊り下げたマイクが揺れてきしむ音です それではお聞き頂きたいと思います ( 録音ラジオ 1 分 15 秒 ) お聞き頂きましたのは その瞬間に必死に安全確保を呼びかける番組のパーソナリティー小島慶子さんの声です ちなみに このラジオ のスタジオは TBS の放送センターの 10 階にございます TBS ラジオは 阪神大震災の際に 大阪 MBS ラジオに協力をいたしました 2
この時の教訓として 災害時のラジオの使命は 生き残った人たちのための放送をすることだと学んでいます 今回 ラジオでは 短波 AM FM コミュニティー放送が 地域向け情報を発信いたしました その基本には ラジオメディアの特性があります ラジオは ご存じのとおり停電をしても乾電池だけで必要な情報を 得ることができる また ラジオ局は リスナーがすぐに必要とする身近な安全 安心に関する情報を届けることができると同時に リスナーから 具体的で有益な情報を提供して頂き その情報の信憑性を吟味する知識と経験を持っています 続きまして 特に被害の大きかった東北 3 県の AM 局の対応をご紹介いたします まず 仙台にあります東北放送 TBC ラジオがどん な放送を続けていたか 何日か分をダイジェストにしてお聞き頂きます ( ラジオ音声 2 分 15 秒 ) お聞き頂いた TBC 東北放送は 局舎や送信所が被災したため 本社の非常用アンテナから放送を継続いたしました 特別番組では リスナーからメールで送られてきた 誰々さんご無事ですか 連絡ください 何々ビルの屋上で孤立しています 救助お願いします といった安否情報や救援要請など まさに生き残った人のための放送を行いました なお 地震から 1 週間で届いたメールは およそ 2 万通 にも上ったということです 次に 盛岡の IBC 岩手放送は 発生から 5 日間にわたり特別番組を放送いたしました 地震発生 2 週目からは リスナーから届く元気です情報 いわゆる安否情報に重点をおいた放送や ネット配信を行いました また 特別番組を動画配信サイト USTREAM でも配信して エリア外でも聴取できるようにしたほか 電波が届かない地域のために臨時の FM 中継局も 3
開設しました これは ラジオが動画サイトを駆使した点で ユニークな取り組みでした また ラジオ福島は 東京電力福島第一原子力発電所の事故拡大という これまでメディアが経験したことのない極めて厳しい状況の中で 特別番組を続けました テーマは がんばろう福島 がんばろう東北 がんばろう日本 でした USTREAM で同時配信を行っ たために 県外 海外居住者からもメールやツイッターで多くの反響が届いたということです 3 月 11 日の地震発生当日には 関東では家電量販店のポケットラジオが全て売り切れてしまい 乾電池も非常に手に入りにくい状況となりました また 長期間停電の続く被災地でも 大切な情報源であるラジオが不足しておりました そこで TBS ラジオは 関東一円のリスナーに 家庭で使っていないラジオを TBS まで届けてもらい それを被災地にお届けするキャ ンペーンを 3 月 18 日から 10 日間実施いたしました リスナーからは 最終的に 6,765 個のラジオが届けられました お届けいただいたラ 4
ジオには送り主から被災者へのメッセージを貼り 一台一台点検したうえで 乾電池を交換 東北 3 県や茨城県の各避難所 仮設住宅にお届けしました 文化放送 日本放送など 多くのラジオ事業者も同様の取り組みを行なわれたと聞いております こちらは ビデオリサーチ社が実施しました 4 月の首都圏ラジオ 聴取率調査の結果です 全局 個人聴取率 いわゆるセットインユース が 6.8 パーセントと 前の月より 0.4 ポイントも上昇する結果となりました さらにビデオリサーチ社が 4 月の 23 24 の土日に東京 30 キロ圏にて実施しました震災とラジオに関する調査によりますと 半数以上の人が ラジオに対して いざという時に頼りになるというイメージを強めたと答えています また およそ 4 割の人が ラジオは落ち着いた報道でリスナーを安心させたと評価してくださいました つまり 今回の東日本大震災でラジオメディアが地域情報の担い手として再認識されるとともに これをきっかけにラジオを聞く層が増えたとみられます 調査結果が続きますけれども こちらは野村総研が震災後の 3 月 19 日と 20 日の両日 インターネットを使って 関東地方にお住まいの 3,224 人にネットを使ってアンケート調査したものです 被災した時に重視しているメディア 情報源を尋ねてみました その結果によりますと マスメディアの中ではテレビを重視している人が圧倒的に多いことが分かります その一方で インターネットの 接触度が上昇し その存在感を増していることも分かります 中でもツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアと呼ばれる新しいメディアの流れが定着しつつあることも読み取れます それでは インターネットが今回の東日本大震災でどのような役割を果たしたのか その一端をご紹介いたします インターネットはその特性から きめ細やかな被災状況の把握や 被災者に役立つ身近な情報の提供という役割を果たしました 5
ご覧の画面は グーグルが東日本大震災で提供したパーソンファインダーと呼ばれる消息の検索をするサービスです 家族や友人など 誰かの消息を知りたいと思っている人と 誰かの消息情報を持っている人や機関を取り結ぶ場所 プラットフォームと言っていいかもしれません 人を探したい人は 人を探している をクリックして 探したい人の名前などを入力します 一方で 消息情報を提供する をクリックして 誰々さんはここにいますというデー タを入力できます この 消息情報を提供する では グーグル社によると 全国にいる 5 千人ものボランティアが協力しました さらに 放送局や新聞社も参加して 避難所にいる人々の名簿などを提供しました データ数は 一時は 70 万件を超えていましたが 現在は 1 万数千件 消息情報の提供サービスとして大きな力を発揮しました グーグル社が 2010 年のハイチ地震で開発したものですが 正確性よりも緊急性を重視していて 誰もが使 6
えて威力を発揮しました このパーソンファインダーは放送局のホームページにも取り入れられていました フジテレビのトップページ 赤で囲った部分がそれです さらに NHK のトップページにもかなり目立つかたちでレイアウトされました こうした安否情報を伝えることは 以前から放送局の取り組みとしては行われてきたことでした NHK は今回の地震発生直後から教育テレビを使って 被災者からの 心配しています 連絡ください といったメッセージを一つ一つ読み上げていました これは阪神淡路大震災の時にも効果を発揮したもので 今回も踏襲していましたが このパーソンファインダーが 3 月 18 日から本格稼働したのをきっかけに 軸足をネットに移す対応をしていました 今後は 一方的に情報を伝えるだけでなく より使いやすいかたちでの情報提供ということが放送局に求められてくると思います TBS も ネットを利用した様々な対応を行 いました ご覧いただいているのは TBS とグーグル社が協力して 動画投稿サイト YouTube に特設した消息情報チャンネル (*) です 3 月 15 日夕方のニュース番組 N スタで被災者の声を放送したところ 行方不明の肉親を探す切実さに大変大きな反響がありました そこで 被災者の声をできるだけ集め 地上波 そしてその全てを CS 放送の 24 時間ニュース専門チャンネルである TBS ニュースバードで放送するとともに 検索機能を設けてウェブでも発信すればさらに役立つだろうと考えまして 急遽 17 日から始めたものです 通信 交通 行政といった主要なインフラが壊滅した中で テレビの伝える力に被災者のみならず 日本中の期待が集まりました 視聴できる被災者の声を 順次増やしていきまして 最終的に登録者数は 200 人ほどに上りました 先ほどお話ししましたパーソンファインダーとも連携していまして 世界的な反響を呼びました その中の 1 人 佐々木あゆみさん 9 歳です どんなインタビューかまずご覧頂きたいと思います * ユーチューブの消息情報チャンネルで実際にご紹介した被災者のメッセージは それぞれの被災者のプライバシーに配慮して 既にWeb 上から削除しているため ここに掲載できません ご容赦ください ( ビデオ映写 45 秒 ) この佐々木さんのメッセージ動画には 最も多い 10 万件以上のアクセスがありまして 付随しているコメント欄には激励の声が世界各地から寄せられました 日本語で流れたメッセージでしたけれども 世界の方々には言語を超 えて 少女の気持ちが通じたかのようでした また 震災から1 週間ほど経った避難所からのメッセージを次のようなかたちで伝えました ご覧ください ( ビデオ映写 1 分 ) 7
仙台市内の避難所からのメッセージでした このように各テレビ局がインターネットを利用して 様々なサービスを提供しましたが その中で最も注目されたのが 報道特別番組のインターネット再送信でした TBS は 震災当日の 11 日午後 5 時 40 分にネット再送信を始めました これは他局に先駆けての配信となりました 時間を追うごとにすさまじさを増す被害状況を目の当たりにし 社内の議論を踏まえ この状況で世界中に発信することが報道機関として必要だと判断した次第です この後 NHK フジテレビ テレビ朝日も 動画配信会社にネット送信を認める形で ネット再送信を開始されていますけれども YouTube でライブ配信を行ったのは TBS のみでした 具体的にお話しますと TBS では USTREAM と YouTube を利用して 再送信を 1 週間続けました この間に 世界各国からのアクセスも含めて 総視聴者数は 1,300 万人を 超えました 特に YouTube は 動画のアップロードサイトとして世界的な規模を有していますが ライブ配信を行うのは異例で テレビ番組の再送信を行ったのは TBS のこの試みが世界初というふうに聞いています USTREAM は 午後 5 時 40 分から開始しましたけれども YouTube はアメリカのグーグル社が決断するまで数時間遅れて 午後 10 時 30 分からのサービス開始ということになりました 日本で起こった大災害は 世界各国でもトップニュースとなりましたが 日本から最も正確な情報がネットを使って直接 世界各国に発信されたため その反響も大きく 私たちの取り組みは世界各国からの支援が寄せられるきっかけにもなったと思います 8
また ラジオ各局も ラジコが運営する radiko.jp を積極的に活用しました ラジコは 難聴取の解消と ラジオの聴取機会の拡大を目的とした放送エリアに準じたサイマルストリーミングサービスです ラジオ放送とほぼ同じ内容をパソコンやスマートフォンを利用して 登録なし 無料で聞くことができるサービスです 通常 1 週間に 3 百万から 4 百万のダウンロード数がございます 震災後の 3 月 15 日から 関東と関西合わせて 13 局が 3 月 25 日からは中京地区の 7 局も加わりまして全国からアクセスできるようにしました 通常その局の 放送エリアからしか聞けないサービスを全国どこでも聞けるようにしたものです 今回の緊急対応は 東日本大震災の被災地区 及び被災者への情報入手の一助になればという目的で特別に ご覧のように期間を限定したうえで 権利関係者やクライアントの了解を得て行いました また現在 全国各地に避難している被災者や関係者に被災地の地元情報を伝えることを目的に 岩手 宮城 福島 茨城の放送局の放送を ラジコの緊急サービスとして全国からアクセスできるようにしております こちらの期間は半年間です 9
このようにテレビ ラジオ各局が積極的にインターネットを利用した背景には 未曾有の歴史的な大地震と津波によって 通信や交通が途絶し 停電や断水といったエネルギーインフラが壊滅したために 多くの方が放送サービスを受けられなくなったことがあります これは放送局側にとっても 視聴者にとっても 事情は同じでした つまり 放送そのものが危機的な状況に陥ったとも言えます 例えば 総務省によりますと 東北 6 件の地デジ中継局は およそ半分が停波いたしました そのほとんどが停電によるものですが これによっておよそ 355 万世帯のうち およそ 26 万世帯に電波が届きませんでした こうした状況の中で 私どもは正確な情報を 迅速に くまなく伝達するという 電波を利用する報道機関としての責務を全うするために あらゆる手段を使おうと考えました その結果 日本の非常事態がリアルタイムで世界に発信され 世界的な反響を呼んだという副次的な効果をももたらしました しかし こうした取り組みには いくつかの問題点が存在をしております なかでも 既存の放送ビジネスの枠組みとの関係が 重要だと考えております 今回は まさに未曾有の大災害での緊急対応ということで スポンサーをはじめ 様々な権利関係者のご理解を得ることができました また 長時間にわたる全国ネットの報道特別番組ということで 編成的な問題は ほとんど発生しませんでした こうした非常事態にあたっては 放送事業者自らが 的確で柔軟な判断を下すということも 電波を預かる放送局にとって 大変重要であるというふうに考えております また 今回の経験を通じまして 我々電波メディアが インターネットなどと向き合っていくうえで 整理 あるいは解決すべき課題が改めて見えて参りました もう一つ TBS のインターネットを利用した試みをご覧いただきます 10
これは 東京電力福島第一原子力発電所の映像です 発電所からおよそ 17 キロの地点に 許可を受け設置した放送用の高感度 HD カメラからの映像です 東京電力も 第一原発の敷地内から つまり 私どもよりも至近距離からの映像を この 6 月 1 日からネット配信しておりますけれども TBS ではこの映像を 先月 2 日に YouTube を通じて配信を始めました インターネットの環境さえあれば 世界中いつでもどこからでも 東電福島第一原発の今を観ることができます それでは 実際に 今現在の原発の様子に切り替えてみたいと思います 今日は 天候が乱れぎみということで 多少心配ですが うまく繋がりますでしょうか これが そのライブの映像です このライブ映像は TBS のホームページ または YouTube でご覧いただきますけれども 原発の状況を少しでも知りたいという多くの視聴者の支持を得まして 5 月末までの視聴合計は 127 万回 1 日平均 4 万回が利用されています 中には 24 時間チェックされている方 もおられるようです カメラの性能が 最高水準の高感度ですので 夜間でも光を集積して物体を表示することができます また 音声も拾っておりますので 早朝などには鳥のさえずりなども聞こえてきます さて 私どもテレビ ラジオ各局は今回の東日本大震災と原発事故に直面しまして 公共の電波を預かる放送局として そして何よりも報道機関としてより正確な情報を より迅速に伝えるという重い責任を自覚して 全力を上げて取材 放送活動を展開して参りました その活動の中では これまでご説明してきましたように インターネットも積極的に利用するなど 臨機応変 柔軟な対応をとってまいりました テレビ ラジオ インターネットなど 情報伝達の手段はどんどん進化を遂げております 11
ただ 何より大切なこと 忘れてならないことは そうしたメディアや機能の特性は そこに流す価値のある映像や 音声や信頼される番組 情報というコンテンツが存在して初めて生きてくることだと思います 震災発生以降 3 カ月間放送を出し続けるために 現在もなお最前線で取材し 制作にあたっているスタッフ 関係者の努力に改めて敬意を表して 私の話を終わりとさせて頂きたいと思います 今後とも視聴者 聴取者の期待と信頼に応えられるよう努力して参りたいと考えております 本日は 長い時間にわたりご清聴頂き深く感謝申し上げます ありがとうございました 12