呼吸器感染症

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

耐性菌届出基準

入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

インフルエンザ(成人)

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

されており これらの保菌者がリザーバーとして感染サイクルに関与している可能性も 考えられています 臨床像ニューモシスチス肺炎の 3 主徴は 発熱 乾性咳嗽 呼吸困難です その他のまれな症状として 胸痛や血痰なども知られています 身体理学所見には乏しく 呼吸音は通常正常です HIV 感染者に合併したニ

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

スライド 1

市中肺炎に血液培養は必要か?

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾


2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

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2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

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て 弥生時代に起こったとされています 結核は通常の肺炎とは異なり 細胞内寄生に基づく免疫反応による慢性肉芽腫性炎症であり 重篤な病変では中が腐って空洞を形成します 結核は はしかや水疱瘡と同様の空気感染をします 肺内に吸いこまれた結核菌は 肺胞マクロファージに貪食され 細胞内で増殖します 貪食された

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2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

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「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

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Ⅲ. 検査検査は軽症 (0 項目 ) と中等症 (1 2 項目 ) では肺炎球菌尿中抗原 必要によりレジオネラ尿中抗原とインフルエンザ抗原 中等症 (1,2 項目 ) と重症 (3 項目 ) ではさらに喀痰グラム染色 喀痰培養を追加 超重症 (4,5 項目 ) ではさらに血液培養 血清検査とストック

全例市販後調査のためのバリシチニブ使用ガイドライン バリシチニブはヤヌスキナーゼ (JAK) ファミリーの JAK1 及び JAK2 分子に高い選択性を有する JAK 阻害薬であり 複数のサイトカインシグナルの伝達抑制による免疫抑制作用により抗リウマチ作用を示す薬剤である 1) 2017 年 7 月

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

呼吸器疾患の病態生理と薬物治療に関する研究

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呼吸困難を呈し、            臨床的に閉塞性細気管支炎と  診断した犬の2例

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呼吸器感染症 鳥取市立病院総合診療科 尾坂妙子

呼吸器感染症の動向 肺炎は日本人の死因第 3 位 ( 年間 10 万人 ) 超高齢社会において 寿命として肺炎で亡くなる時代になった 耐性菌の問題 特にカルバペネム耐性腸内細菌科細菌 (CRE) は菌種を超えて 耐性化が広がり 市中肺炎が難治化する可能性がある 新興感染症 SARS 鳥インフルエンザ パンデミックインフルエンザ MERSなど 航空網の発達で世界中に拡散する危険性がある ほとんどが人獣共通感染症 One Healthという理念 災害における肺炎 東日本大震災などの災害で 避難所から多くの高齢者肺炎が発生した

肺炎は死因の第 3 位

感染の 3 要素 感染源 感染経路 宿主

呼吸器感染症の分類 https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/pulmonology/section_0_01/

部位別の主な疾患 原因微生物 上気道感染症 感冒 ライノウイルス コロナウイルス RSウイルス 慢性副鼻腔炎 インフルエンザ菌 肺炎球菌 急性咽頭炎 扁桃炎 ライノウイルス コロナウイルス アデノウイルス レンサ球菌 咽頭結膜熱 アデノウイルス クループ パラインフルエンザウイルス 急性喉頭蓋炎 インフルエンザ菌 下気道感染症 気管支炎 RSウイルス コロナウイルス ライノウイルス 肺炎球菌 急性細気管支炎 RSウイルス パラインフルエンザウイルス 肺実質感染症 細菌性肺炎 肺炎球菌 インフルエンザ菌 クレブシエラ 黄色ブドウ球菌 非定型肺炎 マイコプラズマ クラミジア ( クラミドフィラ ) レジオネラ ウイルス性肺炎 サイトメガロウイルス RSウイルス インフルエンザウイルス ヒトメタニューモウイルス 肺真菌症 アスペルギルス クリプトコックス ニューモシスチス 肺膿瘍 嫌気性菌 黄色ブドウ球菌 大腸菌 肺結核症 結核菌 非結核性抗酸菌症 MAC M.kansasii

感染防御の仕組み https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/pulmonology/section_0_01/

診療の流れ 主訴 意識 +ABC 診断推論 心停止不安定安定鑑別 胸骨圧迫 バイタルサイン 情報収集 確定診断 人工呼吸 モニター 問診 除細動 静脈路確保 身体所見 治療 酸素投与 検査 原因検索 安定化 集中治療

問診 病歴聴取の方法 OPQRST-A SAMPLER Onset( 発症様式 ) Symptoms( 症状 ) Proocation/Palliation( 増悪緩解因子 ) Allergy( アレルギー ) Quality( 性状 ) Medication( 服用薬 ) Region/Radiation( 部位 放散 ) Past medical history( 既往歴 ) Severity( 症状の強さ ) Last meal( 最後の経口摂取 ) Time( 時間経過 ) Events prior to illness( 発症前のできごと ) Associated symptoms( 随伴症状 ) Risk factors( 疾病の危険因子 )

問診 経過による鑑別 臨床経過 感染症 病原菌の鑑別 急性 1 週間以内 肺炎球菌 クレブシエラ レジオネラ インフルエンザウイルス 誤嚥性肺炎など 亜急性 1 週間 ~1か月 インフルエンザ菌 モラキセラカタラリス マイコプラズマなど 慢性 1か月以上 結核 肺膿瘍 放線菌症など 呼吸器症状 上気道症状 : 鼻閉 鼻汁 くしゃみ 咽頭痛 嗄声 下気道 肺症状 : 咳嗽 ( 乾性 湿性 急性 慢性 ) 痰 呼吸困難 胸痛

問診 咳嗽乾性咳嗽は非定型肺炎 湿性咳嗽は細菌性肺炎や気管支炎を疑う 急性咳嗽の多くは呼吸器感染症だが心不全との鑑別が必要 慢性咳嗽の多くは非感染性疾患だが 肺結核の鑑別が必要 痰鉄さび色 : 肺炎球菌 緑色 : 緑膿菌呼吸困難 (Fletcher-Hugh-Jones 分類 ): 肺炎では下記が混合性に聞かれる 呼気性 : 末梢気道 wheeze 疾患では細気管支炎 喘息 COPD など 吸気性 : 中枢気道 stridor rhonchi 疾患ではクループ 急性喉頭蓋炎など 胸痛 : 壁側胸膜に痛覚神経が存在 呼吸器感染症では肺炎 気管支炎 胸膜炎など 緊急性を要する急性冠症候群 大動脈解離 肺塞栓症 緊張性気胸 食道破裂などの鑑別を忘れずに! その他の重要な問診事項 : 年齢 基礎疾患 治療内容 家族構成 職業 周囲の同症状の有無 ワクチン接種歴 嗜好歴 ペットの有無 温泉や噴水などへの暴露など

身体診察 バイタルサインは必須! A-DROP I-ROAD( 後述 ) で肺炎の重症度評価 qsofaで敗血症の評価 ( 呼吸数 22/min 以上 GCS<15 収縮期血圧 100mmHg 以下 ) 視診 : 胸郭運動の左右差 ( 片側の肺炎 胸水 無気肺 ) 打診 : 肺炎 膿胸 胸水で濁音聴診 : 喘鳴 crackles rhonchi wheeze 胸膜摩擦音など 細菌性肺炎では全吸気 crackles 非定型肺炎では吸気終末 cracklesが聴取される 声音振盪 : 肺炎や胸水でヤギ音

検査 喀痰検査 塗抹検査 培養 同定検査 薬剤感受性検査など 口腔内常在菌を減らすため うがい後の採取が望ましい 血液培養検査 血培を行うタイミング悪寒戦慄を伴う発熱 低体温 頻呼吸 意識レベルの変化 急な血糖コントロール不良など 患者の状態が急に変化した場合や 治療変更時 血培のセット数での検出感度は 1セットで73.2% 2セットで93.9% 3セットで96.9% できれば2セット行う! ウイルス学的検査 直接法: 分離培養 核酸検出法 抗原検出法 間接法: 抗体検出法 抗ウイルス薬が存在するウイルス: 単純ヘルペス 水痘 帯状疱疹ウイルス サイトメガロウイルス インフルエンザウイルス RSウイルス 感染対策上重要なウイルス: 水痘 帯状疱疹ウイルス 麻疹ウイルス インフルエンザウイルス SARSコロナウイルス MERSコロナウイルス ヒトメタニューモウイルス RSウイルス パラインフルエンザウイルスの病原診断は重要

検査 胸部単純 X 線 X 線 CT の順が望ましい できれば側面像もとる 胸水 200ml 以上で CPangle が dull になる 胸部 CT 全世界の CT の 1/3 が日本にある 肺炎球菌 : 高頻度に consolidaion を合併 多肺葉にわたる 約 20% に胸水を認める インフルエンザ桿菌 : 気管支壁肥厚など気管支肺炎に特徴的な所見の頻度が高い マイコプラズマ : 小葉中心性結節影 気管支肺動脈束肥厚等 小児は成人と異なる像 空洞病変を来す頻度の高い菌 : ブドウ球菌 クレブシエラ 緑膿菌 嫌気性菌 真菌 ( アスペルギルス クリプトコックス ) 結核菌迅速検査 血中抗原 : アスペルギルス クリプトコックス カンジダ サイトメガロウイルス 尿 : 肺炎球菌 レジオネラ遺伝子検査レジオネラ マイコプラズマ 結核 インフルエンザウイルスなど血清学的検査肺炎球菌抗原 ( 尿 喀痰 ) レジオネラ抗原 ( 尿 ) インフルエンザ抗原 ( 鼻腔 咽頭ぬぐい液 ) マイコプラズマ抗原 アスペルギルス抗原 抗アスペルギルス沈降抗体 クリプトコックス抗原 β-d- グルカン

グラム染色像 三嶋理晃, 藤田次郎. 呼吸器感染症. 中山書店 ;2017,p54

グラム染色以外の染色法 三嶋理晃, 藤田次郎. 呼吸器感染症. 中山書店 ;2017,p55

急性気道感染症へのアプローチ 鼻閉 鼻汁 くしゃみ 微熱など 咽頭痛 発熱など 喉のイガイガ感 嗄声など 呼吸困難 喘鳴 発熱など 咳 痰 発熱など かぜ症候群 急性咽頭炎急性扁桃炎 急性喉頭炎 急性喉頭蓋炎 急性気管支炎 時期によってはインフルエンザ抗原検査 RS ウイルス抗原検査 必要に応じて一般培養検査 A 群溶連菌迅速検査 EB ウイルス血清検査 HIV RNA 検査 マイコプラズマ 肺炎クラミジア抗体検査 血液培養検査 ( インフルエンザ菌などを対象 ) 必要に応じて一般培養検査 マイコプラズマ 肺炎クラミジア抗体検査 インフルエンザ抗原検査 場合により百日咳菌検査

上気道感染症 かぜ症候群 原因 : ウイルスが 90%( 小児では RS ウイルス パラインフルエンザウイルス 成人ではライノウイルス コロナウイルスなどが多い ) 症状 : 様々 ( 鼻汁 鼻閉 咽頭痛 下気道まで及べば咳 痰 喘鳴など ) 治療 : 対症療法が基本だが 細菌感染を疑うときは抗菌薬を使用 喉頭の炎症 クループ好発 :3 歳以下の乳幼児原因 : パラインフルエンザウイルス感染などによる声門下の腫脹症状 : 犬吠様咳嗽 吸気時喘鳴胸部 X 線像 : 正面でペンシル像治療 : 加湿 酸素吸入 輸液 ネブライザーなど 急性喉頭蓋炎好発 :2~6 歳の小児原因 : インフルエンザ桿菌感染による喉頭蓋の腫脹症状 : 咽頭痛 嚥下痛 呼吸困難 窒息!! 胸部 X 線像 : 頸部側面で喉頭蓋腫脹治療 : 抗菌薬 気道確保

下気道感染症 急性気管支炎 原因 : 約 90% がウイルス感染 それ以外では百日咳菌やマイコプラズマなど 胸部 X 線や CT 画像上異常所見はなし 急性細気管支炎 好発 :2 歳以下 特に6か月前後の小児に多い 主に冬期にみられる 原因 :RSウイルス パラインフルエンザウイルスなど症状 : 発熱 咳嗽 喘鳴を伴う呼気性呼吸困難 チアノーゼなど検査 : 胸部 X 線像で肺の過膨張 鼻汁でRSウイルス抗原迅速検査陽性治療 : 対症療法 ( 酸素投与 ネブライザー 輸液 ) 喘息と異なりアレルギーではないのでステロイドは禁忌 ( 感染増悪 )!

急性気道感染症における抗菌薬の適応 1 高熱の持続 (3 日間以上 ) 2 膿性の喀痰 鼻汁 3 扁桃肥大と膿栓 白苔付着 4 中耳炎 副鼻腔炎の合併 5 強い炎症反応 ( 白血球増多 CRP 陽性 赤沈の亢進 ) 6ハイリスク患者 (65 歳以上 慢性呼吸器疾患などの基礎疾患 +) 上記 6 項目中 3 項目以上の該当で抗菌薬使用を考慮すべきとされる 成人気道感染症の考え方 日本呼吸器学会

肺炎の分類 形態学的分類肺胞性肺炎 : 大葉性肺炎 気管支肺炎間質性肺炎混合性肺炎 : 肺胞性 + 間質性原因微生物による分類細菌性肺炎非定型肺炎発症の場による分類市中肺炎院内肺炎医療介護関連肺炎

細菌性肺炎 非定型肺炎の鑑別 1 年齢 60 歳未満 2 基礎疾患がない あるいは軽微 3 頑固な咳がある 4 胸部聴診上所見が乏しい 5 喀痰がない あるいは迅速診断法で原因菌らしいものが証明されない 6 末梢血白血球数が 10000/μL 未満である 6 項目中 4 項目以上 あるいは 6 以外で 3 項目以上の該当で非定型肺炎を疑う

マイコプラズマ肺炎

発症の場による分類 肺炎の発症 入院 48 時間以降の発症 ( 療養病棟への入院は除く ) 病院外 または入院 48 時間未満の発症 医療 介護関連肺炎の定義 1 長期療養型病床群もしくは介護施設に入所 290 日以内に病院を退院した 3 介護を必要とする高齢者 身体障害者 4 通院にて継続的に血管内治療を受けている ( 透析 抗菌薬 化学療法 免疫抑制薬等 ) 該当あり 該当なし 院内肺炎医療 介護関連肺炎市中肺炎 高死亡率 耐性菌の割合低

市中肺炎 原因菌の多い順に 肺炎球菌 インフルエンザ菌 モラクセラ菌 一般細菌以外にはマイコプラズマが多い A-DROP や敗血症の有無を参考に重症度を判断し 治療を選択する 治療基本はペニシリン系抗菌薬を比較的高用量使用する 外来治療 :AMPC か β- ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系経口薬入院治療 : ペニシリン系あるいはセフェム系注射薬 ICU 治療 : カルバペネム系 + ニューキノロン系 マクロライド系緑膿菌などの耐性菌が原因のときは第 3 4 世代セフェムやカルバペネム系非定型肺炎の場合はマクロライド系 テトラサイクリン系 ニューキノロン系

市中肺炎の重症度分類 A-DROP システム 1A(Age): 男性 70 歳以上 女性 75 歳以上 2D(Dehydretion):BUN21mg/dl 以上または脱水あり 3R(Respiration):SpO2 90% 以下 (PaO2 60Torr 以下 ) 4O(Orientation): 意識障害 5P(pressure): 血圧 ( 収縮期 )90mmHg 以下 該当項目 0: 軽症 外来治療 1~2: 中等症 外来 or 入院治療 3: 重症 入院治療 4~5: 超重症 ( ショックがあれば 1 項目のみでも超重症 ) ICU 成人市中肺炎診療ガイドライン. 日本呼吸器学会 ;2007

院内肺炎 誤嚥性肺炎 人工呼吸器関連肺炎(VAP) が主 VAPの予防には気管挿管の回避 口腔ケア 誤嚥による被害の最小化が大切 耐性菌リスクを評価することが重要 治療 I-RORDでB 群以上で耐性菌リスクあり 広域抗菌薬を使用 A 群 : 一般細菌対象の抗菌薬 B 群 : カルバペネム系やそれに準じた高用量ペニシリン系が推奨 C 群 :B 群抗菌薬 + アミノグリコシド系 ニューキノロン系 MRSAは単なる保菌の可能性もあり 別枠で項目を設定してある

院内肺炎の重症度分類 1. 生命予後予測因子 (I-ROAD システム ) 1I(immunodeficiency): 悪性腫瘍または免疫不全状態 2R(Respiration):SpO2>90% を維持するために FiO2>35% を要する 3O(Orientation): 意識障害 4A(Age): 男性 70 歳以上 女性 75 歳以上 5D(Dehydratuion): 乏尿または脱水 該当項目 2 以下の場合 (2. 肺炎重症度因子 ) 1CRP 20mg/dl 2 胸部 X 線像で陰影の広がりが一側肺の 2/3 以上 該当項目 3 以上の場合 該当なし 軽症 (A 群 ) 1 項目以上 中等症 (B 群 ) 重症 (C 群 ) 3.MRSA リスクの評価下記のいずれかに該当する場合 抗 MRSA 薬の使用を考慮する 1 長期 (2 週間程度 ) の抗菌薬投与 2 長期入院の既往 3MRSA 感染や定着の既往 成人院内肺炎診療ガイドライン. 日本呼吸器学会 ;2008

医療 介護関連肺炎 高齢化に伴いCAPとHAPの2 分法では当てはまらないその中間に位置する肺炎群 高齢者では誤嚥性肺炎が多い 重症度の評価はA-DROPに準ずる 全身状態によっては倫理面を考慮

誤嚥性肺炎について 誤嚥性肺炎以下の2つに大別される 術後の併存症としての肺炎フレイル高齢者の ( 不顕性 ) 誤嚥による肺炎 夜間の誤嚥の有無が参考になる 原因菌: 肺炎球菌 インフルエンザ桿菌 黄色ブドウ球菌 嫌気性菌 歯周病菌など 治療: 嫌気性菌の混合感染を考慮し βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンが基本 治療中も誤嚥を繰り返すため 嚥下リハビリテーションや口腔ケアが必須 フレイルが原因の場合 抗菌薬を使用しても予後が改善しないことがある

誤嚥性肺炎

肺炎診療ガイドライン 2017 フローチャート ( 日本呼吸器学会 ) 耐性菌リスク 以下のうち 2 項目を満たす 1 過去 90 日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴 2 過去 90 日以内に 2 日以上の入院歴 3 免疫抑制状態 4 活動性の低下 重症度の評価 敗血症があれば重症 (qsofa) HAP:I-ROAD 中等症以上 NHCAP:A-DROP で重症以上

耐性菌について 耐性菌のリスク因子と肺炎重症化のリスク因子は同じではない! 三嶋理晃, 藤田次郎. 呼吸器感染症. 中山書店 ;2017,p288

耐性菌について CAP-DRP(CAP drug-resistant pathogen): 以下の全てに耐性となる菌 非抗緑膿菌 β-ラクタム系抗菌薬 マクロライド系抗菌薬 レスピラトリーキノロン系抗菌薬 代表的なCAP-DRPsに緑膿菌 MRSA ESBL 産生腸内細菌がある 市中発症肺炎におけるCAP-DRPリスク因子 1 過去 90 日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴 2 過去 90 日以内に2 日以上の入院歴 3 免疫抑制状態 4 活動性の低下 ( 自力歩行困難 ) 5 制酸薬 (H2ブロッカー PPI) の使用 6 経管栄養 さらにMRSAに特異的なリスク因子として以下の3つがある 130 日以内の維持透析歴 2うっ血性心不全 3 過去 90 日以内のMRSA 検出歴 Shindo Y,et al.am J Respir Crit Care Med 2013;188:985-95

抗菌薬の治療効果判定について まずは速やかに適切な抗菌薬を開始する (4~6 時間以内 ) 最初の治療効果判定は3 日後 ( 重症例は2 日後 ) に行い 治療継続または抗菌薬変更 ( 点滴から経口への変更 抗菌薬の種類を変更など ) を検討する 評価項目 : 発熱 症状 白血球 その後は 5~7 日後を目安に再判定を行い 治療終了または 継続 抗菌薬変更を検討する 評価項目 : 発熱 症状 白血球 CRP 胸部 Xp 成人市中肺炎診療ガイドライン. 日本呼吸器学会 ;2007

抗菌薬中止のタイミング 1 解熱 ( 目安 :37 以下 ) 2 白血球数増加の改善 ( 目安 : 正常化 ) 3CRP 値の改善 ( 目安 : 最高値の30% 以下へ低下 ) 4 胸部 X 線の明らかな改善 基礎疾患がない場合 :4 項目中 3 項目以上を満たした場合 基礎疾患がある場合 : 4 項目中 3 項目以上を満たした 4 日後 成人市中肺炎診療ガイドライン. 日本呼吸器学会 ;2007

ウイルス性肺炎 呼吸器ウイルス : インフルエンザウイルス パラインフルエンザウイルス RS ウイルス アデノウイルスなど 全身性ウイルス :CMV EBV HSV VZV 麻疹ウイルス 風疹ウイルスなど サイトメガロウイルス肺炎 免疫能低下患者 ( 免疫抑制薬使用 悪性腫瘍 HIV 感染など ) に好発 感染経路 : 経胎盤 産道 母乳 唾液 輸血 性交など 症状 : 発熱 呼吸困難 乾性咳嗽など 画像 : 胸部 X 線像で両肺野すりガラス様陰影 喀痰細胞診 肺生検 : 核内封入体を有する巨細胞 (owl`s eye) 診断 :PCR 法でDNA 検出 BALFからのウイルス分離など 治療 : 抗ウイルス薬 ( ガンシクロビルなど )

インフルエンザ 特徴 : 冬 ~ 春の流行期に突然の発熱 (38 以上 ) 倦怠感 頭痛 筋肉痛 関節痛 ( 特にA 型 ) 下痢( 特にB 型 ) などの症状 高齢者や免疫不全などのハイリスク患者では肺炎の合併などで重症化することがある 診断 : 鼻腔拭い液や咽頭拭い液で迅速キットを用いる 治療 : 解熱鎮痛薬 アセトアミノフェンを使用する 小児ではインフルエンザ脳症を発症することがあり 特にNSAIDsが誘因となるReye 症候群は予後不良である 抗インフルエンザウイルス薬を投与 ( 発症 48 時間以内に ) 第一選択 : ノイラミニダーゼ阻害薬オセルタミビル ( 商品名 : タミフル ) 経口 :10 代の未成年には原則禁忌ザナミビル ( 商品名 : リレンザ ): 吸入ペラミビル ( 商品名 : ラピアクタ ): 静脈注射ラニナミビル ( 商品名 : イナビル ): 吸入第二選択 :M2 蛋白阻害薬塩酸アマンタジン ( 商品名 : シンメトレル ):A 型にのみ有効 耐性ウイルス

肺真菌症 肺アスペルギルス症 侵襲性肺アスペルギルス症 免疫低下の易感染性宿主に日和見感染として発症 症状: 発熱 咳嗽 血痰 画像: 胸部 CT 像でhalo signやair crescent sign 血清検査:β-D-グルカン ガラクトマンナン抗原 + 診断: 喀痰 BALF 検体などからの真菌培養検査あるいは病理検査でアスペルギルスの証明 治療: 抗真菌薬慢性肺アスペルギルス症 肺アスペルギローマ 既存の空洞病変に感染 症状: 無症状 あるいは発熱 咳嗽 喀血 血痰など 画像: 胸部 X 線像でfungus ball meniscus sign 空洞壁や胸膜肥厚 血清検査: 抗アスペルギルス沈降抗体 + 診断: 喀痰 BALF 検体などからの真菌培養検査あるいは病理検査でアスペルギルスの証明 治療: 外科的切除 慢性壊死性肺アスペルギルス症 アスペルギローマ 免疫能低下を背景に空洞拡大 浸潤影の増悪などが見られる 治療: 抗真菌薬アレルギー性気管支肺アスペルギルス症

肺アスペルギローマ

肺真菌症 肺クリプトコックス症 原発性 ( 健常者に発症 ) と続発性 ( 免疫能低下患者に発症 ) がある 症状 : 発熱 咳嗽など 画像 : 胸部 X 線像で結節影 空洞形成 浸潤影など 血清検査 : グルクロノキシロマンナン抗原 + 合併症 : 脳炎 髄膜炎の合併に注意 治療 : 抗真菌薬ニューモシスチス肺炎 AIDS 患者など免疫能低下患者に合併する日和見感染症 症状 : 急な発熱 乾性咳嗽 呼吸困難など 検査 :LDH KL-6 β-d-グルカン PaO2 画像 : 胸部 X 線像 CT 像でびまん性すりガラス様陰影 診断 : 喀痰 BALF TBLB 検体などからのP.jirovecci 菌体検出 治療 : 抗菌薬 (ST 合剤 ) ペンタミジン ステロイドなど

カリニ肺炎

抗酸菌感染症 肺結核を疑うポイント 症状:2 週間以上続く咳 痰などの呼吸器症状発熱 倦怠感 体重減少 食欲不振など 健診で胸部 X 線検査で異常を指摘 結核の既往 再燃のリスクがある (AIDS 免疫抑制剤の使用 透析 糖尿病 悪性腫瘍など)

抗酸菌感染症 検査の基本は喀痰検査!1~3 痰が取れない場合は胃液検査 気管支鏡検査 (BAL 肺生検 ) を行う 1 喀痰抗酸菌塗抹検査 ( 基本は 3 日連続で 3 回の 3 連痰 ) 2 喀痰抗酸菌培養検査 : 数週間かかるが感受性結果が得られる 3 喀痰抗酸菌遺伝子検査 (PCR など ) 補助的にインターフェロン γ 遊離試験 (QFN T- スポット ) を行う BCG 接種歴の影響は受けないが 既感染でも陽性となることがあり注意

診断の流れ 喀痰の抗酸菌染色が陽性 患者にサージカルマスクを装着してもらい 陰圧個室管理 結核菌の PCR 法が陽性 結核菌の PCR 法が陰性かつ MAC の PCR 法が陽性 結核菌と MAC の PCR 法が陰性 陰圧個室管理の継続 陰圧個室管理の解除 結核として治療 非結核性抗酸菌症の疑いとして検査を進め 非結核性抗酸菌症の診断基準に合致すれば治療開始を考慮 既に非結核性抗酸菌症と診断されており 新たな病変の出現がなく 喀痰中から繰り返し非結核性抗酸菌症が分離されている場合は 塗抹陽性となった抗酸菌を非結核性抗酸菌と考える

肺結核 感染様式 : 飛沫核によるヒトからヒトへの空気感染 患者はサージカルマスク 医療者はN95マスクを使用する 基本的に喀痰塗抹が陽性の結核は入院が必要 2 類感染症であり 診断がついたら直ちに保健所へ届け出る 初感染の一次結核と 既感染発病の二次結核がある 肺病変の好発部位はS1 S2 S6 胸部 X 線像にて肺門リンパ節腫脹 肺野結節影 空洞病変などを認める 結核菌が血行性に全身に播種する粟粒結核では 両肺野にびまん性小結節の散布像を認める 胸部 CT 像にてtree in bud appearanceを認める 治療はINH RFP PZA SMまたはEBなどを用いた多剤併用療法を行う 抗結核薬の副作用に注意

肺結核

非結核性抗酸菌症 ヒトーヒト感染はしない 診断には異なる喀痰検体の培養で2 回以上陽性であることが必要 原因菌の約 70-80% はMAC(Mycobacterium avium complex) 約 20% がM.cansasiiである MACにはM.aviumとM.intracellulareが含まれ これらによる疾患をMAC 症と総称する MAC 症には中葉舌区型 ( 最多 ) 空洞形成型 全身播種型がある MAC 症の治療は抗結核薬 +CAM 菌陰性化後も1 年間続ける ( しかしこれらは効きにくく 難治化しやすい ) M.cansasii 症は抗結核薬が有効で予後は良好

MAC 症 (M.intracellulare)

まとめ 発症場所による分類で患者背景 原因菌 使用すべき抗菌薬群が推定できる 常に結核の可能性を考えておく 治療の際は耐性菌もしくは耐性化のリスクを考慮する 場合によっては個人の意志やQOLを重視 重症化しやすい疾患を見逃さないこと 呼吸器症状があっても呼吸器以外の疾患であったり 呼吸器症状はなくても呼吸器疾患のこともあり注意が必要