アクション カードは,5つの作業工程と改善のための訓練を経ると作製できます しかし, アクション カードを災害対応の中心に据えるには, マニュアルの改正 策定が必要です このステップでは, 皆さんの組織が減災対策に取り組む心意気が試されます 我々もアクション カードを基にした災害時対応マニュアルを作成し, 院内の承認を得るためには少なからず苦労がありました そして, その責任の所在を明確化する災害基本計画や消防計画という2つの計画の策定までにも紆余曲折がありました しかしひとたび形が整ってしまえば, 現場が動きやすく, 災害対策本部もかかわりやすい相互補完の災害対応ができていると感じています 本章では, 作製したアクション カードをマニュアルそして計画へと形を整えていった経過と, それぞれのマニュアルについて要領を解説します 1. アクション カード以前と整備途中 アクション カードを整備する以前は, 我々の施設にも災害用, 火災用, 食中毒発生時などのさまざまなリスクマネジメントのためのマニュアルがありました しかし, 多種多様のマニュアル 策定時期が異なっていることも手伝って のために, 対応内容や対応者の整合性をとることができず, 各部署が協力 連携し合って活動できないような状況になってしまっていました 一つひとつのマニュアルの完成度は低くなかったのですが, 全部合わせると動かなくなってしまうという悲しい結果がそこにはありました アクション カードを作製する過程では, 災害の早期収束に向けた具体的な行動 個々の職員がどのように動くと現場活動が円滑に進むか に焦点を絞って整備 改訂していきました 既存のマニュアル類は参考にしながらも, あくまでも現場の個々の職員が使いやすいようなアクション カードを作っていきました アクション カードがある程度確定してきた段階で, 今度は既存の各種マニュアルとアクション カードの間の矛盾を解消し, アクション カードの裏付けとなるようにマニュアル類の改訂作業を行いました この作業を通じて, 管理監督者の視点 ではなく 現場の対応者の視点 から見たマニュアルへと改訂が進み, 最後には, 災害基本対策や消 54
防計画といった公的要素の強いものへと成長していったのです ( 図 17) 最初は大変な感じがするかもしれませんが, まず PLAN B 現場が動けるよ うにアクション カードの作製 整備 を準備し, それらを基にして既存のマニュ アル類を改訂 統合し, 最後に歴史的な公的文書の改訂や注釈付けといった順番で作 業を進めていく方が, 策定前に災害に遭遇することになった場合のことを考えると, 減災という目的を果たせるのではないかと考えています 2. 当院の災害時対応マニュアルとアクション カードの紹介 当院では, 災害時対応策の責任の所在を明確化するため, 当院の災害対策会議で承 認された基本計画に当たる 消防計画 と 災害基本対策 を持っています 実際のそしゃく災害対応のための具体的内容は 消防計画 と 災害基本対策 を咀嚼し, 基本ルー ルをデザイン化した 災害時対応マニュアル を作成しています さらに, 携行性や 55
部署の特殊性を加味したアクション カードや, 災害時での診療継続のための 災害 時カルテ セット を作製するといった構造になっています ただし, 前に述べたよ うに作製 策定していったのは逆の順番です 各部署がその事情に合わせて設備点検カードや携行用のアクション カードを作製 する際には, 災害時対応マニュアル の内容に変更を加えないことを基本ルールと しています その理由は, 以前の防災マニュアルでは行動規範が具体的でなかった ~ をする ~ すべきである 臨機応変に対応する などの記載にあふれてい た ため, 各部署での熱心な取り組みが逆にローカルルールの蔓延につながってし まい, 他部署との連携を阻害する因子となっていたからです いったん制定した基本 ルールの変更が必要になった場合 もしも, 毎年の訓練結果や実災害の体験を通じ て, 施設全体の災害対応にかかわる事柄が判明すれば には, 当院では災害対策会 議に改善案を提出し, 承認後に改訂するという手順を踏んでいます 1) 構成基本ルールを提示する 災害時対応マニュアル は, 火災 地震 集団災害 *4 (NBC 災害対応も含む ) と 災害対策本部 の4 部で構成されています アクション カードは 災害時対応マニュアル の中から災害対応現場での初動期 の活動時に必要なページを抜粋し, 携行性を高めるために A5 A6 判に縮小したポ ケットサイズのカードです また, 設備点検の際には ICU と一般病棟そして中央部門 とでは内容が異なるため, 設備点検カード という A5 判チェックリスト形式のア クション カードを作製している部署もあります ( 図 18) 災害対策本部の初動期対応の大部分は確認作業に終始しますので, チェックリスト 形式のアクション カードが適しています 2) 基本ルールを提示する 災害時対応マニュアル 各災害対応編の最初のページには, その災害の初期対応の際に忘れがちな行動 訓練や実災害の反省から導き出された貴重な 失敗の経験則 をまとめたもの を 3 つの注意点 として提示しています ( 表 5~8) *4 Nuclear( 核 ),Biological( 生物 ),Chemical( 化学 ) の物質が原因となる特殊災害の総称 56
(1) 火災 火災発生時の初期対応に必要な役割班は, 責任者 初期消火 避難誘導 の3 班です 3つの役割を同時に進行させるためには, 最低 3 人の人員が必要ですが,4 人以上の職員がいる場合は,4 人目以降の職員を各班の班員として順次割り当て, 各班長の補助や実務を担当させていきます 人員が不足する場合には, 初期消火 責任者 避難誘導 の優先順に今いる人員を振り分け, 早期に応援を呼ぶことを責任者は決断する必要が出てきます ( 資料 6,7 P.60,61 ) (2) 地震 地震発生時に必要な最初の行動は, 火災発生の点検と安全確認の実施です 火災が発生していれば, 前述の火災発生時のアクション カードを用いて活動を開始します 火災が発生していなければ, 安全確認の実施として病棟内の被害状況のチェックを開始します この時に使用する 部署別状況報告書 は, チェックリストと報告書を兼ねた仕様としています ( 資料 8,9 P.62,63 ) 責任者は 部署別状況報告書 を用いて, まず 人 の被害について確認と報告を行います 続いて 物 の被害について確認を行います このチェック報告書には, 57
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遅延ない情報収集と伝達が可能となるように, 報告すべき時機とその方法および提出場所を明確に指示してあります 例えば, 被災直後の状況把握の際に, 人 の負傷を見つけた場合のみ災害対策本部との間に設定した災害時専用電話による緊急連絡を行い, 物 である設備被害や医療機材の損傷については書面にて報告するように規定しています 情報伝達経路の複線化 1つの回線に軽重入り交じった情報が集中しないこと意図して を図るため, 緊急連絡は電話回線で行い, 詳細報告は伝令と書面で行うというように連絡方法を報告書内で規定しています 災害発生時には, 災害対策本部から確実に連絡が取れる連絡回線を確保することが必要です その解決策として当院では, 災害時のための特別な回線を敷設するのではなく, 本部との連絡以外に使用しない電話を指定するという運用ルールを決めました 各部署は病棟内の内線電話の1つに 災害時専用電話 という張り紙をして災害対策本部とその部署の間の専用電話にして緊急連絡以外には使用しません 一方で, 災害対策本部も災害時専用電話で各部署と連絡を取る場合は緊急の要件に限るというルールを採用しているため, 現場ではこの電話のコールには他の業務に優先して対応するようになっています コラム 一人で何役も 昔の当院のマニュアルは, 勤務帯別に 通常勤務時間内用 と 時間外用 の2 種類があった 問題は, 時間外用 は 時間内用 を基に作成されていたことだった その結果, 時間外勤務に携わる人員は, 〇〇代理 やら 〇〇代行 といった具合に一人で何役も担うことになっていたのである 例えば, 夜勤看護長は連絡係であり, 連絡網の最初の発信者であり, 看護寮の呼び出しの電話をかける人であり, 物品倉庫の鍵の管理と実際に搬出の指示を出す人であり, さらには各部署からの緊急連絡の唯一の受け手であった 上席当直医も同様で, 院長と事務局長の責任を一人で負わされているようなものだった 夜になると, 人は千手観音や聖徳太子に変身できるようになるのだろうか? 59
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