卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜における遺伝子変異を解明

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

本文/開催および演題募集のお知らせ

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

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32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

腹腔鏡手術について 〜どんな手術かお話いたします

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

平成20年5月20日

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会 _ 情報公開 通知文書 人を対象とする医学系研究についての 情報公開文書 研究課題名 : がんサバイバーの出産の実際調査 はじめに近年 がん治療の進歩によりがん治療後に長期間生存できる いわゆる若年のがんサバイバーが増加しています これらのがんサバイバ

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

ギガンジウム 子宮頚癌予防ワクチン接種開始 1 年を経過して 我が国では毎年多くの人が癌で亡くなっています ( 死亡率の第 1 位 ) なかでも子宮頸癌は 我が国において毎年 15,000 人の方が罹患 (8,000 人は初期癌 ) し 昨年は 2,486 人の方が亡くなっています これは 20 ~

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

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平成24年7月x日

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

大規模ゲノム解析から明らかとなった低悪性度神経膠腫における遺伝学的予後予測因子 ポイント 低悪性度神経膠腫では 遺伝子異常の数が多い方が 腫瘍の悪性度 (WHO grade) が高く 患者の生命予後が悪いことを示しました 多数検体に対して行った大規模ゲノム解析の結果から 低悪性度神経膠腫の各 sub

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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2. PleSSision( プレシジョン ) 検査の内容について 網羅的ながん遺伝子解析とは? 月 木新患外来診療中 現在 がん は発症臓器 ( たとえば肺 肝臓など ) 及び組織型( たとえば腺がん 扁平上皮がんなど ) に基づいて分類され 治療法の選択が行われています しかし 近年の研究により

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1


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平成24年7月x日

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

一般内科


学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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平成 30 年 8 月 16 日新潟大学 卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜における遺伝子変異を解明 - 子宮内膜症 正常子宮内膜に多くの癌関連遺伝子変異が存在 - 新潟大学大学院医歯学総合研究科の榎本隆之教授 吉原弘祐助教 須田一暁特任助教 国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授 中岡博史助教らの共同研究グループは 卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜の網羅的な遺伝子解析を行い 癌に関連する遺伝子変異がすでに良性腫瘍や正常組織に起きていることを明らかにしました 本研究結果は平成 30 年 8 月 15 日午前 1 時 ( 日本時間 ) の Cell Press 社の科学雑誌 Cell Reports に掲載されました 本研究成果のポイント 癌関連遺伝子の異常は従来 発癌過程の中で生じると考えられていたが 本研究では良性病変と考えられている卵巣子宮内膜症だけでなく正常の子宮内膜でも 癌関連遺伝子変異が高頻度に起こっていることをはじめて明らかにした 正常子宮内膜は腺管という最小構造単位から構成されるが 腺管毎に様々な癌関連遺伝子変異を持っていることを明らかにした Ⅰ. 研究の背景子宮内膜症は生殖年齢女性のおよそ 10% 程度が罹患する病気であり 本来子宮内に存在す るはずの子宮内膜組織が子宮の外に存在し 月経周期に合わせて子宮の外で出血をきたす病気 です これが月経困難症 骨盤痛や不妊症の原因となります 子宮内膜症が発生する理由につ いては 子宮内膜細胞を含む月経血が卵管内を逆流し 腹腔内で生着するという説 ( 月経逆流 説 ) が有力ですが この仮説が科学的に証明されたわけではありませんでした また疫学研究より 子宮内膜症が一部の組織型の卵巣癌 ( 明細胞癌 類内膜癌 ) の発症に関 連することが知られています これらの卵巣癌は 子宮内膜症関連卵巣癌 と呼ばれ これま での研究で癌の原因と考えられる遺伝子の異常 ( 遺伝子変異 ) が報告されて来ました しかし これらの卵巣癌の発生母地とされる卵巣子宮内膜症で どのような遺伝子の異常が起きている のかについては まったくわかっておりませんでした Ⅱ. 研究の概要術前に研究参加の同意を頂き 卵巣子宮内膜症や子宮筋腫などの良性疾患を理由に手術を受 けた患者さんから摘出された検体を用いて遺伝子解析を行いました 本研究における大きな特 徴として 子宮内膜症は顕微鏡下で確認できる組織であるため レーザーマイクロダイセクシ

ョン *1 という手法を使い 正確な組織 ( 上皮と呼ばれる組織 ) 採取を行っています 正常子宮 内膜についても同様の方法で組織採取を行っています ( 図 1) 採取した組織から DNA を抽 出し その塩基配列を次世代シーケンサー *2 で網羅的に読み取り 正常組織 ( 血液 ) との違いを見ることで 子宮内膜症組織や正常子宮内膜組織で起きている遺伝子変異を観察しています さらに正常子宮内膜を構成する最小構造単位である腺管を一つ一つ分離して解析を行うことで 正常子宮内膜における遺伝子変異の特徴を明らかにしています 図 1. レーザーマイクロダイセクションを用いて卵巣子宮内膜症および正常子宮内膜の上皮組 織のみを採取 Ⅲ. 研究の成果癌の増殖や維持に関係する遺伝子を 癌関連遺伝子 といいます 今回の研究では 良性腫 瘍である卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜のいずれにも高頻度で癌関連遺伝子に遺伝子変異が起 きていることが明らかとなりました ( 図 2) 特に KRAS や PIK3CA などの発がんに重要な役割を果たすことが知られている癌遺伝子が多くの症例で変異をきたしており 癌遺伝子の変 異が子宮内膜症の発生にも深く関わっていることが推察されました 一方 正常子宮内膜を腺管単位で観察すると 腺管一本ずつに多種多様の遺伝子変異が認め られ 子宮内膜という組織は分子生物学的に多様性をもった組織であることが明らかとなりま した ( 図 3) また卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜で認められた遺伝子変異の特徴は非常によく 似ており 月経血の逆流により子宮内膜症が発生するという月経逆流説を支持する結果となり ました ( 図 4)

図 2. 次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析で明らかとなった変異を表示した図 縦軸が個々のサンプルを示し 変異を認めた遺伝子に該当する部位が色塗りされています 色の種類が遺伝子変異の種類を示し 色の濃さが変異アリル頻度 (MAF) *3 を示しており遺伝子変異を持った細胞割合の指標となります 卵巣子宮内膜症では高頻度で癌遺伝子である PIK3CA と KRAS に遺伝子変異が認められ また変異アリル頻度も高い結果となっています 正常子宮内膜でも上記遺伝子に比較的高頻度で変異が見られ 両者で遺伝子変異プロファイル が似通った結果となっています

図 3. 正常子宮内膜から単離した腺管組織像と遺伝子変異の抜粋例 写真の下にそれぞれ変異 を認めた遺伝子と変異アリル頻度が併記されており 変異アリル頻度はいずれも高い値を示し ています このことは一本の腺管を構成する細胞が一つの細胞に由来することを示しています 図 4. 本研究結果に基づいて 子宮内膜症における月経血逆流説を表した図 正常子宮内膜に由来する癌関連遺伝子 (KRAS PIK3CA が代表的 ) をもった子宮内膜細胞が月経時に卵管を 逆流して腹腔内に到達します 卵巣表面に生着した子宮内膜細胞が増殖し 卵巣子宮内膜症を

形成します Ⅳ. 今後の展開今回の研究で明らかとなった遺伝子変異は婦人科領域のみならず 人体の多くの癌において発生原因とも考えられているものが含まれています 癌が存在しない良性 正常組織においてどうして癌関連遺伝子に変異が多くみられるのか 正常組織における癌遺伝子の変異の意義を解明していくことが今後の課題の一つです 同時に既存の癌発生メカニズムを見直すことにもつながる可能性があります 子宮内膜は 卵巣からのホルモンの影響で毎月増殖 脱落を繰り返すという人体の中でも極めて個性的な特徴をもつ組織です こうした月経という現象に対応し 生存に有利な環境を得るために遺伝子変異が獲得されているのかもしれません Ⅴ. 研究成果の公表これらの研究成果は 平成 30 年 8 月 15 日午前 1 時 ( 日本時間 ) の Cell Reports 誌 (IMPACT FACTOR 8.282) に掲載されました 論文タイトル :Clonal expansion and diversification of cancer-associated mutations in endometriosis and normal endometrium 著者 :Kazuaki Suda*, Hirofumi Nakaoka*, Kosuke Yoshihara, Tatsuya Ishiguro, Ryo Tamura, Yutaro Mori, Kaoru Yamawaki, Sosuke Adachi, Tomoko Takahashi, Hiroaki Kase, Kenichi Tanaka, Tadashi Yamamoto, Teiichi Motoyama, Ituro Inoue, Takayuki Enomoto * These authors contributed equally to this work. doi: 10.1016/j.celrep.2018.07.037 本件に関するお問い合わせ先新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学教室教授榎本隆之 E-mail:enomoto@med.niigata-u.ac.jp 助教吉原弘佑 E-mail:yosikou@med.niigata-u.ac.jp 新潟大学大学院医歯学総合研究科家族性 遺伝性腫瘍学講座特任助教須田一暁 E-mail:sudakazuaki@med.niigata-u.ac.jp 注 ) *1. レーザーマイクロダイセクション顕微鏡を観察しながら 組織標本にレーザーを照射して必要な部位を切り取り 回収する方法です この手法を用いることで 手術で摘出された標本から子宮内膜症病変や正

常子宮内膜だけを切り出し 回収することができます *2. 次世代シークエンサー遺伝子の塩基配列を高速に調べることができる装置で ハイスループットシークエンサーとも呼ばれています 次世代シークエンサーを用いることで多数の遺伝子を一度に解析することができるようになりました *3. 変異アリル頻度遺伝子変異解析においては 一つの遺伝子座 (locus) に位置するアリル (allele) のうち野生型アリルと異なる塩基配列を持つものを変異アリルと呼び 解析対象における変異アリルの割合を変異アリル頻度といいます