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特集 水際制度 日本の水際取締の知財紛争解決手段としての活用 平成 25 年度 貿易円滑化対策委員会 会員鷺健志 要約日本の知的財産侵害物品の水際取締制度は, 税関への輸入又は輸出差止申立ての根拠となる知的財産の範囲が広く, 申立ての受付から受理 不受理 ( 保留 ) の決定までの期間が 1 2ヶ月 ( 専門委員意見照会があっても 3 5ヶ月程度 ) と迅速である 差止申立てが受理されると, 税関での輸入 ( 輸出 ) 申告の審査 検査において侵害疑義物品が監視され, 発見された場合には, 疑義物品を税関に留めたまま,1ヶ月程度で侵害該否の認定が行われる 税関に侵害物品と認定されると, 輸入等を差止され, 最終的には没収廃棄される等, 取締の効果, ひいては侵害抑止効果も強力である 手続が簡易迅速な上に, 供託金を要求された場合を除き, 税関への費用は無料であるから, コストパフォーマンスも優れている 日本の水際取締制度は, 権利者が知財紛争を解決する手段として, 世界のベストプラクティスの一つである 従来からの商標権 著作権等による模倣品 海賊版対策に止まらず, 不正競争防止法違反物品や, 特許権によるライバル企業の競合品への対策など, 積極的な活用が期待される 目次 1. はじめに 2. 日本の知的財産侵害物品の水際取締制度の概要 3. 日本の水際取締の流れ 4. 日本の水際取締の有用性 5. 日本の水際取締の利用状況 6. 水際取締の活用事例 6 1. 外観模倣品に対する不正競争防止法による輸入差止申立て 6 2. 外部 内部構造の技術模倣品に対する特許権による輸入差止申立て 6 3. 競業者製品に対する特許権 ( 間接侵害等 ) による輸入差止申立て 7. 水際取締に係る弁理士業務 8. おわりに 1. はじめに簡単に自己紹介すると, 筆者は弁理士登録から二十数年, 日本国内外で知的財産に関する警告 交渉, 行政摘発, 民事 刑事訴訟, 水際取締などの紛争解決を日常業務としている 特に 2000 年以降, 世界で最も積極的に且つ多様な模倣品対策を行ってきた日本企業がクライアントであったことから, 世界各国で様々な模倣品対策を経験してきた その関係もあって, 日本弁理士会では模倣品対策 水際取締を担当する産業競 争力推進委員会 (2013 年から貿易円滑化対策委員会に改称 ) に設立当初から属し,2006 年に委員長を務めた その頃, 日本の水際取締において専門委員制度が導入され, 筆者は, 弁理士会からの推薦で, 専門委員の一人に任命された 日本税関の専門委員を実際に経験してみて, その過酷な任務に仰天したが, 同時に, 日本の水際取締手続の迅速性と強力な効果に強く惹きつけられ, 今では, 輸入差止申立て手続の代理人業務を積極的に行っている 内外数十カ国千件程の知財紛争案件を経験した限りではあるが, 日本の水際取締制度は, 上手に活用すれば, 権利者が知財紛争を解決する手段として, 世界のベストプラクティスの一つであると考えている 本稿は, 日本における知的財産侵害物品の水際取締制度を, 主として権利者が知財紛争解決手段として活用する立場から紹介するものである なお, 輸入差止申立て等の個別事例は詳細が公開されていないため, 本稿の説明は, 法令 通達 税関ホームページ掲載事項等の公開情報の他は, 筆者の個人的経験に基づくものであることをお断りしておく パテント 2013 36

2. 日本の知的財産侵害物品の水際取締制度の概要 (1) 税関の管轄と担当日本の税関は, 財務省の地方支分部局として, 全国を 9 つの管轄区域に分けて, 函館 東京 横浜 名古屋 大阪 神戸 門司及び長崎の 8 税関並びに沖縄地区税関が設置されている 税関における知的財産侵害物品の水際取締の担当は, 東京税関の総括知的財産調査官, 各税関の本関及び主要な空港官署や外郵出張所に配置されている知的財産調査官, 並びに各税関の本関及び主要税関官署に配置されている知的財産担当官である また, 東京税関の知的財産センター ( 東京税関業務部総括知的財産調査官 ) が, 統一的な法律の適用と執行を確保するため, 全国税関の調整, 助言等を行っている また, 税関の現場の通関担当者が, 商業貨物, 郵便物, 携帯品の審査 検査 貨物確認を行っている (2) 水際取締の対象となる知的財産侵害物品関税法により, 特許権, 実用新案権, 意匠権, 商標権, 著作権, 著作隣接権, 回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品, 並びに, 不正競争防止法第 2 条第 1 項第 1 号から第 3 号まで, 第 10 号又は第 11 号に掲げる行為を組成する物品 ( 周知表示混同商品, 著名表示冒用商品, 商品形態模倣商品, 技術的制限手段回避装置 ) は, 輸入してはならない 貨物( 輸入禁止貨物 ) とされている ( 第 69 条の 11 第 1 項第 9 号及び第 10 号 ) 上記の知的財産侵害物品は, 回路配置利用権を侵害する物品を除いて, 輸出してはならない 貨物( 輸出禁止貨物 ) ともされている ( 第 69 条の2 第 1 項第 3 号及び第 4 号 ) 更に, 輸入禁止貨物である知的財産侵害物品 ( 回路配置利用権を侵害する物品を除く ) は, 輸入以外の目的で日本に到着した場合に, 保税地域に置くこと, 及び, 外国貨物のまま運送 ( 積卸しを含む ) することも禁止されている ( 第 30 条第 2 項, 第 65 条の3) 仮に陸揚げされた知的財産侵害物品を積替えして第三国へ輸送する行為は, 税関による職権取締の対象となる 但し, 権利者からの差止申立て制度はない (3) 税関長の処分内容と認定手続税関長は, 輸入禁止貨物である知的財産侵害物品について, 没収廃棄又は積戻し命令をすることができる ( 第 69 条の11 第 2 項 ) また, 税関長は, 輸出禁止貨物である知的財産侵害物品について, 没収廃棄をすることができる ( 第 69 条の2 第 2 項 ) 積戻しには, 輸出承認が必要であるところ, 商標権 著作権 著作隣接権の侵害認定貨物は輸出承認されず, 特許権 実用新案権 意匠権の侵害認定貨物は, 積戻し先の国で権利者の有する同種の権利を侵害しない等の場合に限って経済産業大臣の輸出承認がされるだけである 従って, 輸入されようとする貨物が知的財産侵害物品と認定された場合には, 輸入者が廃棄等の自発的処理を行わず, 不服申立て手段が尽きると, 通常, 税関によって没収廃棄されることになる 税関長は, 輸入又は輸出されようとする貨物のうちに前記の知的財産侵害物品があると思料するときには, 当該貨物が知的財産侵害物品に該当するか否かを認定するための手続 ( 認定手続 ) を執らなければならない 税関長は, 認定手続を経た後でなければ, 輸入禁止貨物の没収廃棄又は積戻し命令や, 輸出禁止貨物の没収廃棄をすることができない ( 第 69 条の 12 第 1 項及び第 4 項, 第 69 条の3 第 1 項及び第 4 項 ) このように, 日本の税関は, 裁判所による侵害判断や判決等を要することなく, 税関長の権限により, 輸入又は輸出されようとする貨物が特許権等を含む広範な知的財産の侵害物品に該当するか否かを自ら判断して, 侵害と認定した物品の輸入又は輸出を直ちに差止め, 最終的には没収廃棄処分とするという, 諸外国と比べても, 広範かつ強力な知的財産侵害物品の取締体制を取っている この体制の実現には, 後述する専門委員意見照会制度が大きな役割を果たしている (4) 輸入 ( 輸出 ) 差止申立て特許権者, 実用新案権者, 意匠権者, 商標権者, 著作権者, 著作隣接権者若しくは育成権者又は不正競争差止請求権者は, 自己の特許権等又は営業上の利益を侵害すると認める貨物に関し, いずれかの税関長に対して, その侵害事実の疎明に必要な証拠を提出し, 当該貨物が輸入されようとする場合は当該貨物について当該税関長 ( 申立て先税関長 ) 又は他の税関長が認定手続を執るべきことを申し立てることができる ( 第 69 条の 13 第 1 項 ) すなわち, 前記知的財産の権利者は, 前記 9 つの税関長のいずれか 1 つに対して, 自己の知的財産の侵害物品が輸入されようとする場合には全国の税関長において認定手続を執るべきことを申し 37 パテント 2013

立てることができ, この申立てを一般に 輸入差止申立て と呼んでいる 前記知的財産の権利者は, 同様の 輸出差止申立て をすることもできる ( 第 69 条の 4 第 1 項 ) 但し, 厳密には, 申し立てることができる内容は, 輸入を差止める 又は 輸出を差止める ことではなく, 認定手続を執る ことであるから, 税関長が認定手続を執った場合には, その結果, 侵害物品でないと認定し, 輸入又は輸出を許可しても, 申立人 ( 権利者 ) は不服申立てできないとされている 輸入禁止貨物のうち, 回路配置利用権の場合は, 輸入差止申立て制度はなく, 通達により, 運用上, 税関への輸入差止情報提供が認められているだけである また, 不正競争差止請求権者は, 税関長に輸入又は輸出差止申立てをする場合には, 不正競争組成物品 ( 周知表示混同商品, 著名表示冒用商品, 商品形態模倣商品, 技術的制限手段回避装置 ) について経済産業大臣の意見を求めて, その意見書を申立て先税関長に提出しなければならない ( 第 69 条の13 第 1 項, 第 69 条の 4 第 1 項 ) そのため, 不正競争の水際取締の場合には, 税関へ輸入 ( 輸出 ) 差止申立てをする前に, 先ず, 経済産業大臣に申請して, 差止対象品が不正競争組成物品に該当するとの経済産業大臣の意見書を取得することが必要であり, この意見書を取得できるかが水際取締の成否のカギとなる (5) 専門委員意見照会制度日本の水際取締制度では, 手続の簡易 迅速性の確保という水際手続の大前提を踏まえつつ, 手続の透明性 公平性や審理判断の適正性を確保するとの観点から, 知的財産の侵害物品の 輸入 ( 輸出 ) 差止申立て において, 並びに, 輸入 ( 輸出 ) されようとする貨物が知的財産の侵害物品に該当するか否かを認定する 認定手続 において, 税関長が, 知的財産権に関し学識経験を有する者 である 専門委員 に対し, 意見を求めることができる, 専門委員意見照会制度 が採用されている ( 第 69 条の 14, 第 69 条の 19, 第 69 条の 5, 第 69 条の9) 専門委員は, 知的財産権に関し学識経験を有する者 として, 学者, 弁護士, 弁理士から専門委員候補 ( 現在 40 名弱 ) が予め登録されており ( 税関ホームページに掲載されている ), 原則として案件ごとに 当事者と特別な利害関係がない者 を3 名選定して, 専 門委員として委嘱している 公表されている運用指針によれば, 輸入差止申立てにおける専門委員意見照会の対象となる事項は, 特許発明又は登録実用新案の技術的範囲のほか, 登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲, 侵害成立阻却事由 ( 並行輸入, 権利消尽, 先使用, 権利無効, 試験研究, 権利の濫用等 ) 等がある 不正競争組成物品に係る輸入差止申立ての場合には, 経済産業大臣意見書の記載事項については, 既に経済産業大臣の判断が示されているので, 専門委員意見照会の対象とならない 専門委員の意見はあくまで参考意見であり, 輸入 ( 輸出 ) 差止申立ての受理 不受理 ( 又は保留 ) の決定をする権限や, 輸入 ( 輸出 ) されようとする貨物が知的財産侵害物品に該当するか否かの認定をする権限は, 税関長にある しかし, 税関長は, 明らかな事実誤認等の特段の事情がない限り, 専門委員の多数意見を尊重して判断する, との運用がなされている このように, 専門委員意見照会制度は, 知的財産の専門官庁ではない税関の判断を補完する制度として, 非常に大きな役割を果たしている (6) 罰則と犯則調査関税法によれば, 輸出禁止貨物である知的財産侵害物品を輸出した者, 及び, 輸入禁止貨物である知的財産侵害物品を輸入した者は,10 年以下の懲役, 若しくは,3000 万円以下の罰金, 又はこれらの併科とされている これらの未遂犯も同様である ( 第 108 条の 4 第 2 項及び第 3 項, 第 109 条第 2 項及び第 3 項 ) また, 輸入禁止貨物である知的財産侵害物品 ( 回路配置利用権を侵害する物品を除く ) を保税地域に置き又は外国貨物のまま運送した者は,10 年以下の懲役, 若しくは,700 万円以下の罰金, 又はこれらの併科とされている 未遂犯も同様である ( 第 109 条の 2 第 2 項及び第 3 項 ) 税関は, 通関手続において, 輸入又は輸出されようとする貨物に知的財産侵害疑義物品を発見した場合, 行為の悪質性などから, 行為者に対して罰則を適用するため, 検察官への告発につながるような 犯則調査 を行うこともあるが, 本稿では扱わない 3. 日本の水際取締の流れ (1) 輸入差止申立て輸入を例にすると, 税関による水際取締は, 職権に パテント 2013 38

より開始する場合 ( 税関職員の知識 経験から, 著名ブランドの商標権などの知的財産を侵害していることが明白と考えられる場合 ) もあるが, 大部分は, 権利者が輸入差止申立書及び必要な添付書類を税関へ提出して行う, 輸入差止申立て により開始する 税関は, 権利者からの輸入差止申立てを受付すると, 税関ホームページに公表する 予想される輸入者等の利害関係者が判明していれば, その者に連絡して, 意見書を提出できること及びその提出期限を伝える この期限内に意見書を提出した利害関係者から補正意見書の提出の申出があり, やむを得ない事情があると認められる場合には, 補正意見書の提出が認められるとの運用がなされている 税関は, 申立人及び利害関係者から提出された意見 証拠に基づいて, 審査を行い, 必要に応じて専門委員意見照会を実施した上で, 申立ての処分 ( 受理 不受理 保留 ) を決定する 処分の決定は申立人及び利害関係者に通知される 運用上の目途としては, 申立ての受付から処分決定までは1ヶ月, 専門委員意見照会を行った場合でも3ヶ月程度の期間を想定されている 輸入差止申立てが受理されると, 税関ホームページに公表される 受理期間中, 日本全国の税関における日々の輸入通関手続において, 輸入申告されたデータに基づいて, 受理された知的財産の侵害疑義物品が監視される 受理の有効期間は最長 2 年間であるが, 更新することが可能である 輸入差止申立てが不受理又は保留の場合は, 公表されない 不受理に対して不服ある者は, 税関長に対する異議申立てが可能であり, 更に財務大臣に対する審査請求が可能である 財務大臣の裁決に対しては, 裁判所に行政取消訴訟を提起することができる (2) 認定手続税関が輸入貨物の通関手続における審査 検査において, 職権取締又は申立て受理により, 知的財産侵害疑義物品を発見した場合には, 犯則調査を行う必要がある場合を除き, 税関による 認定手続 が開始する 税関長は, 当該貨物に係る知的財産の権利者及び当該貨物の輸入者に対して, 認定手続の開始を通知する その際, 権利者には当該貨物の輸入者の氏名又は名称及び住所, 更に判明している場合には生産者の氏名又は名称及び住所を通知し, 輸入者には権利者の氏 名又は名称及び住所を通知する そして, 両者に, 当該貨物が知的財産侵害物品に該当するか否かの意見及び証拠を提出する機会を与えなければならない ( 第 69 条の12 第 1 項 第 3 項 ) 輸入差止申立てが受理されている貨物 ( 特許権 実用新案権 意匠権を除く ) の場合は, 認定手続が 簡素化 され, 輸入者が侵害の該否を争わない場合は, 権利者からの意見 証拠の提出を不要として, 税関長が侵害の該否を認定する 権利者及び輸入者は, 意見及び証拠を提出するために必要である場合, 税関に対して, 疑義貨物の点検 を申請することができる ( 第 69 条の 13 第 4 項 ) また, 運用により, 税関に対して, 疑義貨物の画像情報の電子メールによる送信を申請することが認められている 更に, 権利者は, 担保金の供託などを条件として, 疑義貨物の見本を入手して分解 解析する 見本検査 を申請することができる ( 第 69 条の 16) 税関長は, 提出された証拠を認定の基礎とする場合には, 権利者又は輸入者に対し, 当該証拠について意見を述べる機会 ( 弁明の機会 ) を与えなければならない ( 関税法施行令第 62 条の 16) そして, 税関は, 権利者や輸入者から提出された意見及び証拠に基づいて, 更に権利者や輸入者の求め又は税関の必要に応じて, 専門委員意見照会 ( 第 69 条の 19), 特許庁長官意見照会 ( 第 69 条の17), 農林水産大臣意見照会 ( 第 69 条の 18), 経済産業大臣意見照会 ( 第 69 条の18) を実施した上で, 疑義貨物が知的財産侵害物品に該当するか否かを認定する 税関による認定の結果は, 理由と共に, 権利者及び輸入者の双方に通知される ( 第 69 条の12 第 5 項 ) 認定手続の開始から認定までは,1ヶ月以内を目途としている 但し, 権利者又は輸入者の要望により, 専門委員意見照会において意見聴取の場が開催される場合は,2ヶ月以内を目途に行うとされている 認定手続が長期化する場合には, 申立人に担保金の供託を命ずる 申立て供託制度 ( 第 69 条の 15) や, 輸入者が通関解放金を供託して認定手続を取りやめる 通関解放制度 ( 第 69 条の 20) がある また, 輸入者が疑義貨物の廃棄 滅却等の自発的処理をした場合には, 認定手続を取りやめる ( 第 69 条の12 第 6 項 ) (3) 認定後の処理税関長が侵害物品に該当しないと認定した場合に 39 パテント 2013

は, 当該貨物の輸入が許可される 前述したように, 関税法の条文上, 権利者が申立てできるのは 認定手続を執る ことであるから, 認定手続を執った以上, 申立人 ( 権利者 ) は不服申立てできないとされている 税関長が侵害物品に該当すると認定した場合には, 不服がある者は, 税関長に対する異議申立てが可能であり, 更に, 財務大臣に対する審査請求が可能である 財務大臣の裁決に不服ある者は, 裁判所に行政取消訴訟を提起できる 侵害物品と認定された貨物は, 輸入を差止めされることとなり, 輸入者が廃棄 滅却等の自発的処理を行わず, 権利者からの輸入同意書も得られず, 不服申立て手段も尽きたときには, 税関長は最終的に当該貨物を没収して廃棄する なお, 関税法上, 税関長は貨物の積戻し命令できると規定されているが, 前述したように, 商標権, 著作権, 著作隣接権の侵害認定貨物は輸出承認されず, 特許権, 実用新案権, 意匠権の侵害認定貨物は, 積戻し先の国で権利者の有する同種の権利を侵害しない等の場合に限って輸出承認されるだけとなっている 囲の知的財産侵害物品に対して行うことができる (2) 手続が簡易迅速税関での水際取締手続の期間は, 運用上, 輸入差止申立ての受付から受理 不受理 ( 保留 ) 処分まで,1ヶ月を目途としており, 専門委員意見照会を行った場合でも3ヶ月を目途としている 筆者の経験では, 商標権などの場合, 申立ての受付から処分決定まで1 2ヶ月程度であり, 特許権などで専門委員意見照会を行った場合でも3 5ヶ月程度が通常である また, 税関が知的財産の侵害疑義貨物を発見した場合には, 認定手続が開始され, 疑義貨物を留置したまま,1 ヶ月を目途に侵害の該否が認定される 知財高裁ホームページによれば, 平成 24 年の日本の知財民事訴訟第一審の平均審理期間は 15.7ヶ月であるから, 日本税関の水際取締手続は非常に迅速であるといえる (3) 費用が安い税関での水際取締手続の費用は, 認定手続において見本検査制度, 申立て供託制度, 通関解放制度による 供託 費用を要求された場合を除き, 税関に支払う費用は無料である 特許権侵害訴訟等と比べると, 訴額に応じて裁判所に支払う印紙代が高額になってしまうようなことは無い 代理人費用も, 訴訟より手続期間が短いことから通常少額で済む 水際取締はコストパフォーマンスも優れている 図 1 日本の水際取締手続の流れ 4. 日本の水際取締の有用性 (1) 輸入 ( 輸出 ) 差止申立ての根拠となる知的財産の範囲が広い日本の水際取締では, 特許権, 実用新案権, 意匠権, 商標権, 著作権, 著作隣接権, 回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品, 並びに, 不正競争防止法第 2 条第 1 項第 1 号から第 3 号まで, 第 10 号又は第 11 号に掲げる行為を組成する物品 ( 周知表示混同商品, 著名表示冒用商品, 商品形態模倣商品, 技術的制限手段回避装置 ) に対して, 権利者は, 税関に輸入差止申立てをすることができる また, 輸出の差止申立てについても, 輸入と同じ範 (4) 取締効果及び侵害抑止効果が強力税関の水際取締では, 輸入差止申立ての受付, 及び, 輸入差止申立ての受理が, 税関ホームページに公表されるので, 侵害物品の輸入に対する牽制効果がある また, 発見された輸入貨物が, 認定手続で侵害と認定された場合, 直ちに輸入が差止される 行政不服審査や行政取消訴訟によって処分に対する不服申立てを争っている間も, 輸入差止は継続される そして, 不服申立てが尽きると, 侵害物品は没収廃棄処分となるので, 水際取締の効果は強力である そのため, 輸入差止申立てが受理された段階で, 以後, 受理の対象とされた侵害物品の輸入を差し控えるようになることも少なくない パテント 2013 40

(5) 知財紛争早期解決のためのベストプラクティスこのように, 日本税関の水際取締は, 輸入及び輸出差止申立ての対象となる知的財産侵害物品の範囲が広いことに加えて, 侵害訴訟に比べて, 手続が簡易迅速で, 費用も少額で済み, 更に, 取締効果が強力で, 侵害抑止効果も期待できる 従って, 侵害物品の日本への輸入や, 日本からの輸出に対する権利行使手段として, 日本税関への輸入又は輸出差止申立ては非常に有用である 日本の水際取締は, 権利者が知的財産の紛争を早期に解決するための手段として, 世界のベストプラクティスの一つであり, 積極的に活用する価値がある 5. 日本の水際取締の利用状況 (1) 輸入及び輸出差止申立ての件数財務省が報道発表した 平成 24 年の税関における知的財産侵害物品の差止状況 によれば, 平成 24 年末時点で有効な輸入差止申立て ( 受理 ) 件数は, 特許権 18 件, 意匠権 73 件, 商標権 213 件, 著作権 91 件, 著作隣接権 313 件, 育成者権 1 件, 不正競争防止法違反物品 7 件 ( 周知表示混同惹起品 6 件, 技術的制限手段回避装置 1 件 ) の合計 715 件である そのうち, 新たに輸入差止申立てが行われ, 平成 24 年中に受理された件数 ( 新規件数 ) は, 特許権 5 件, 意匠権 17 件, 商標権 45 件, 著作権 19 件, 著作隣接権 115 件, 技術的制限手段回避装置 1 件の合計 202 件である なお,1 件の申立てにつき複数の知的財産に係るものがあるため, 知的財産ごとの件数を足した件数と, 合計の件数は一致していない このように, 輸入差止申立て ( 受理 ) の有効件数及び新規件数は, 著作隣接権 著作権, 商標権が多く, 意匠権も比較的多くなっている いわゆる著作物の海賊版, 商標 著名ブランドを盗用した模倣品, 製品デザインの外観模倣品などへの対策が, 水際取締の中心になっていることが伺える 特許権の輸入差止申立ては, 海外から輸入される競合製品への対抗手段として活用されていると推測される 件数はまだ少なく, 新規件数は毎年数件しかない 今後一層の活用を期待したい また, 平成 24 年末時点において有効な輸出差止申立て ( 受理 ) 件数は, 特許権 1 件, 商標権 2 件の合計 3 件となっている そのうち, 新たに輸出差止申立てが行われ, 平成 24 年中に受理された件数 ( 新規件数 ) は, 商標権 1 件のみである 輸出差止申立ては, ほとんど利用されていないのが現状である (2) 専門委員意見照会件数財務省の報道発表によれば, 専門委員意見照会件数は, 毎年 6 9 件程度である そのうち, 特許権と意匠権の割合が多く, 商標権は年に 1 件あるかないかであり, 著作権は過去に 1 件あったのみである このように, 専門委員意見照会は, 侵害判断の一層困難な特許権 意匠権について実施されるのがほとんどである 不正競争事件は平成 18 年に 1 件あったのみで, 現在では専門委員意見照会の対象から外されている また, 専門委員意見照会は, 差止申立てに係る意見照会がほとんどであり, 認定手続に係る意見照会は, 平成 20 年に 3 件あったのみである これは, 専門委員意見照会が, 主に特許権と意匠権について実施されていること, 特許権の場合は, 輸入差止申立ての対象製品が, いわゆる模倣品 海賊版というよりは, むしろライバル企業の競合品であることが多いので, 輸入差止申立てが受理された場合には, 競合品の製造者や輸入者が輸入を差し控えることにより, 認定手続自体がほとんど発生しないことが背景にあると推察される 6. 水際取締の活用事例日本の水際取締のうち, 申立て件数が多いのは, 商標権, 著作権 著作隣接権による輸入差止申立てである しかし, 世界的に見た日本の水際取締の特徴は, 経済産業大臣意見書を利用した, 不正競争防止法違反物品 ( 不競法 2 条 1 項 1 号 3 号,10 号又は11 号の不正競争組成物品 ) に対する輸入差止申立てや, 専門委員意見照会を利用した, 特許権侵害物品に対する輸入差止申立てにある そこで, 以下, 権利者が知財紛争の解決手段として, 不正競争防止法による輸入差止申立て, 及び, 特許権による輸入差止申立てを活用した事例を紹介する 6 1. 外観模倣品に対する不正競争防止法による輸入差止申立て (1) 外観模倣品に対抗する知的財産の選択肢 1 意匠権商品の形状 模様 色彩などの形態を模倣した商品, すなわち外観模倣品に対抗するためには, 日本でも外国でも, 意匠権を用いるのが一般的と考えられている 41 パテント 2013

しかし, 意匠登録の要件には新規性があるので, 予め日本や当該国に出願しておくことが必要である また, 意匠権の存続期間は有限であるので, 市場で長く愛用され続けているデザインを永久に保護することはできない 2 立体商標の商標権立体商標が認められている国では, 商品形態を立体商標として登録して, 外観模倣品に対して立体商標の商標権侵害で対抗することが考えられる 立体商標の商標権は, 商標権として扱われるので, 各国税関での水際取締に利用し易いとも言える 商標登録を更新して, 立体商標の商標権を永続させることも可能である しかし, 商品デザインを商標権として永久に独占させることへの危惧などから, 日本においても諸外国においても, 商品形態を立体商標として登録することは, 非常に困難となっているのが現状である 3 不正競争防止法など商品形態などの外観模倣品に対して, 不正競争防止法などによる対応が可能な国が存在する 意匠権や, 立体商標の商標権がない場合には, 不正競争防止法による対応が最後の砦となる場合も多い しかし, 不正競争防止法による対応は, 保護すべき対象に該当するかも含めて, 事件ごとに個別具体的に裁判などで判断されることになるので, 手続が煩雑で長期間を要することになり易い 国によっては裁判例なども少なく, 保護を受けるのに相当な困難を伴うため, 対応策として敬遠され易い まして, 不正競争防止法により税関で水際取締が可能な国はほとんどない 日本は, 不正競争防止法に違反する物品 ( 不競法 2 条 1 項 1 号 3 号,10 号又は 11 号の不正競争組成物品 ) に対して, 税関への輸入及び輸出差止申立てを認めている, 世界でも極めて稀な国である 外観模倣品に対して, 意匠権や, 立体商標の商標権がない場合であっても, 不正競争防止法違反物品として水際取締を行う選択肢がある点で, 日本は知的財産を手厚く保護しており, 世界にアピールできるところである (2) 事例 :Honda 汎用エンジン 1 Honda 汎用エンジンの特徴本田技研工業株式会社 ( 以下 Honda と略称する) は, 自動車やオートバイのメーカーとして世界的に著 名であるが, 同時に, 汎用エンジン, ポンプ, 発電機, 農業機械など, 社内で汎用事業と呼んでいる領域の多種多様な製品を製造し, 全世界で販売している そのうち, 商品名を GX エンジン とする汎用エンジンは, 世界で最初に傾斜シリンダーを採用した OHV 形式の汎用エンジンであり,1983 年に日本で発売されて以来, 商品形態の基本的特徴を変更することなく, 世界各国で製造販売され続けている 累計生産台数は,2006 年に 3000 万台を超え,2010 年には 4000 万台を超えており, 汎用エンジンとして世界のベストセラーとなっている 汎用エンジンとは, 動力源として, ポンプ, 高圧洗浄機, 発電機, 各種農業機械, 各種産業機械など, 様々な完成機商品に搭載されるものである Honda は, 汎用エンジンを搭載した自社の各種完成機商品を世界各国で販売しているが, それ以上に, 汎用エンジンを日本及び世界の各種完成機メーカーに販売しており, Honda 汎用エンジンを搭載した各種完成機メーカーの多種多様な完成機商品が世界各国で販売されている 図 2 Honda 汎用エンジンと各種完成機商品 2 対象となる外観模倣品 Honda 汎用エンジンは世界のベストセラーであることから, 中国等の模倣業者が, 外観を模倣した汎用エンジンを製造し, 中国国内で販売すると共に, 世界各国へ輸出している また, 模倣エンジンを搭載した完成機商品も, 世界各国で販売されている これら模倣エンジンは, 部品の互換性があるほど, Honda 汎用エンジンの外観及び構造をそっくり真似たものや, 性能への影響が少なく設計変更が容易な外観箇所を多少変えただけのものが, 大半である このような模倣エンジンや, これを搭載した完成機商品に対して,Honda は, 世界各国において不正競争防止法などの多種多様な法規等に基づいて様々な模倣 パテント 2013 42

品対策を積極的に行っており, 世界でも有数の経験 ノウハウを蓄積している 日本においても, 中国製と思われる, 模倣エンジンを搭載した水ポンプ ( エンジン式水ポンプ ) が, インターネット等を通じて宣伝 販売され始めたことが発見されたことから, 日本への輸入を差止すべく, 対策が行われた 図 3 差止対象製品 ( エンジン式水ポンプ ) 3 不競法 2 条 1 項 1 号に係る経済産業大臣意見書の取得日本の不正競争防止法 2 条 1 項 1 号によれば, 他人の周知商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用した商品を譲渡する等して, 他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為は, 不正競争となる そして, 関税法によれば, 不競法 2 条 1 項 1 号の不正競争組成物品に対して, 税関への輸入差止申立てが可能である ただし, 前述したように, 輸入差止申立てをする前に, 経済産業大臣に申請して, 差止申立ての対象製品が不競法 2 条 1 項 1 号の不正競争組成物品に該当するとの意見書を取得することが必要である そこで,Honda 汎用エンジン (GX エンジン ) の商品形態を周知商品等表示とし, 模倣エンジンを搭載したエンジン式水ポンプを差止対象品として, 差止対象品が不競法 2 条 1 項 1 号の不正競争組成物品に該当するとの意見書を発行することを, 経済産業大臣に申請した もっとも, 不競法に係る訴訟事件と同様, 経済産業大臣の意見書を取得することは, 容易であるとは言えないのも事実である 主張内容に相当な工夫が必要であり, 提出する証拠資料も膨大な量となることが多い 本事例でも相当な努力を要したが, 幸い, 所望する経済産業大臣意見書を取得することができた 4 不競法 2 条 1 項 1 号に係る税関への輸入差止申立て経済産業大臣意見書を取得した後, 同意見書を他の必要書類と共に添付して, 不競法 2 条 1 項 1 号に係る輸入差止申立書を, 税関に提出した 申立書の提出後, 輸入者等の利害関係者からは意見書が提出されなかったこともあり, 申立てから 1ヶ月以内に, 受理決定を得ることができた 経済産業大臣意見書においては, 差止対象製品が不正競争組成物品に該当するとの意見, すなわち, 不正競争防止法の該当条文の全ての要件を充足するとの判断が示されている そのため, 税関への輸入差止申立ては, 速やかに受理されるのが一般的である 従って, 不正競争防止法による輸入差止申立ては, 前段階の経済産業大臣意見書を取得することができれば, 模倣品対策として有用である 図 4 周知商品等表示 (Honda 汎用エンジンの商品形態 ) 6 2. 外部 内部構造の技術模倣品に対する特許権による輸入差止申立て (1) 模倣の巧妙化と特許権による模倣品対策模倣態様が巧妙化してくると, 模倣品に使用される商標が, 商標権の権利範囲に入るか微妙な態様に変更されたり, 全く異なる商標を使用したり, ノーブランドになるなどして, 商標権での対応が困難になることが少なくない 模倣品の商品形態や外観についても, 製品の品質 性能等に影響の少ない外観の一部が変更され, 意匠権の権利範囲に入るとは言い難い態様に変更されたり, A 社の意匠と B 社の意匠を夫々一部だけ利用されるなどして, 意匠権での対応が困難になることが少なくない また, そもそも, 予め意匠出願をしておらず意匠権を取得していないため, 意匠権で対応できない場 43 パテント 2013

合も多い ところで, 真正品メーカー, 特に日本企業は, 真正品の外部構造や内部構造について, 特許権を取得していることが多い 重要な特許権については, 日本だけでなく, 外国においても出願し取得していることが少なくない 他方, 模倣品は, 製品の品質 性能等に影響する外部構造や内部構造については, 真正品をそのまま模倣していることが大半である かかる外部構造や内部構造を設計変更することは, 模倣業者にとって, 能力的にも開発期間の点でも大きな負担である 仮に設計変更できたとしても, 模倣品の製造コストが上昇し, 利益幅を減らすので, 模倣ビジネスの旨味が失われる 従って, 外部構造や内部構造の技術模倣品に対して, 特許権により対応することが必要であり, 模倣品対策の選択肢として重要である 図 6 輸入差止申立て 2 の差止対象品 2 本事例では, 輸入差止申立て 1 と, 輸入差止申立て 2 とは, 別の専門委員による意見照会が行われたが, 結局, 特許権 1 5 の全ての侵害が認められ,2 件の申立てのいずれも税関に受理された 特許権 1 5 の概要を, それぞれ図 7 11 に示す (2) 事例 :Honda スクーター 1 事例の概要本事例では,Honda スクーターの外部構造又は内部構造の技術模倣品である, 台湾企業製の模倣スクーター 2 機種 ( 図 5 差止対象品 1, 図 6 の差止対象品 2) に対して, それぞれ, 特許権 1 4 による輸入差止申立て 1 と, 特許権 5 による輸入差止申立て 2 との, 計 2 件の輸入差止申立てを税関に行った 図 7 輸入差止申立て 1 の特許権 1 の概要 図 5 輸入差止申立て 1 の差止対象品 1 図 8 輸入差止申立て 1 の特許権 2 の概要 パテント 2013 44

図 9 輸入差止申立て 1 の特許権 3 の概要 いての判定請求を行い, 差止対象品が特許発明の技術的範囲に属するとの判定書を取得した そして, この判定書を添付して, 税関に輸入差止申立てを行った これは, 輸入差止申立ての審査において, 侵害論に関する主張を有利にすることを狙ったものである ただし, 判定を請求すると, 通常, 相手に知られることとなり, また, 判定結果は, 特許庁の公報に掲載されるので, 結果次第では不利に働くこともある 判定を請求するかどうかは, メリット デメリットを十分に考慮する必要がある 3 複数特許権による申立てまた, 本事例では, 対象製品 2 機種に対し, 合計 5 件の特許権による輸入差止申立てを行った これは, 特許権侵害事件では, 輸入者側から, 特許無効の抗弁がなされることが多い点を考慮して, どれか 1 件の特許が有効に維持されれば, 申立てが受理されることを狙ったものである 図 10 輸入差止申立て 1 の特許権 4 の概要図 11 輸入差止申立て 2 の特許権 5 の概要図 7 11 に示した特許権 1 5 の概要からわかるように, 日本の税関では, 外部構造又は内部構造の技術模倣品に対して, 特許権による輸入差止申立てが, 専門委員意見照会を利用することによって, 手続の簡易迅速性という水際手続の大前提を維持しつつ, 適正な技術的専門的判断が行われた上で, 受理されている 権利者にとって, 日本の税関への特許権による輸入差止申立ては, 積極的に活用する価値が大いにある 2 判定書の提出本事例では, 予め特許庁に対して特許権 1 5 につ 6 3. 競業者製品に対する特許権 ( 間接侵害等 ) による輸入差止申立て (1) 競業者との知財紛争の早期解決手段模倣業者ではなく, 競合メーカーなどの競業者との間でも, 特許権侵害などの知的財産紛争は発生する その場合, 権利者は, 警告書を相手に発送した後, 当事者間で交渉を行うことが一般的であるが, 交渉で解決できない場合には, 法的措置を取ることも考えなければならない 複数国において特許権侵害等が問題となるような, 国際的知財紛争の場合には, 各国で有する特許権の内容や, 侵害製品との関係, 侵害の程度や損害額, 市場規模, 法的措置に要する費用 期間 結果の予測可能性, 得られる効果など, 様々な要素を考慮して, 権利行使する国と法的措置を選択することになる そして, ある国で行った法的措置の成果を利用して, 他の国の法的措置の進め方の参考にしたり, 当事者間での交渉を優位に進めるなど, 競業者との国際的紛争を全体的に解決するための戦略を立てることが必要である 日本の特許権侵害を解決するためには, 裁判所に侵害行為の差止請求や損害賠償請求の訴訟を提起することが考えられ, 近年, 日本の知的財産侵害訴訟の審理期間は短縮されている ( 平成 24 年の知財民事訴訟第 45 パテント 2013

一審の平均審理期間は15.7ヶ月 ) しかしながら, 日本の税関における特許権侵害物品に対する輸入差止申立ては, 専門委員意見照会を行った場合でも, 申立てから受理 不受理 ( 保留 ) の決定がでるまで,3 5ヶ月程度であるから, 日本の侵害訴訟に比べても相当に早い 従って, 日本へ輸入される特許権侵害物品に対しては, 税関での特許権による輸入差止申立てが, 最も早期解決可能な権利行使手段であるといえる 更に, 日本税関で輸入差止申立ての受理を早期に得ることは, 国際的知財紛争を早期に全面解決するため, 当事者間交渉を有利に進めるのに役立つことも期待できる (2) 事例 : 日立ハイテク FIB 装置 1 1 回目の特許権 ( 直接侵害 ) による輸入差止申立て株式会社日立ハイテクノロジーズ ( 以下 日立ハイテク と略称する ) は, 集束イオンビーム (FIB) で微小試料を高精度に摘出する超微細加工技術 ( マイクロサンプリング 技術 ) を独自開発し, 同技術を搭載した FIB 装置を販売している マイクロサンプリング技術は, 透過型電子顕微鏡 (TEM) で観察するための試料の作製などに使用され, 高い評価を得ており, 2001 年に 精密工学会技術賞 も受賞した マイクロサンプリング技術については, 関連特許も日本を含む各国で多数保有していた ( 特許権者は株式会社日立製作所 ) これに対して, 米国競合メーカーが, マイクロサンプリング技術を搭載した製品を日本に輸入し販売していた 同製品は, 米国, 欧州, 韓国など世界各国でも販売されていた この種の製品は,1 台数千万円から 1 億円以上もする高額製品であるので, たとえ 1 台でも販売されることは, 日立ハイテクにとって大きな損失となる 日立ハイテクは, 国際的紛争を解決すべく, 競合メーカーに特許権侵害の警告書を発送し, 当事者間での交渉を行ったが, 解決に至らなかった そのため, 日立製作所の協力を得て,2009 年 11 月, 東京地方裁判所に, 特許権 5 件に基づく侵害差止請求訴訟を提起した しかし, 侵害訴訟の審理が遅延することが懸念された そこで, 日立ハイテクは, 日立製作所の協力を得て, 国際的知財紛争の早期解決を図るため, 侵害訴訟の提訴から 3ヶ月後, 競合メーカーの 2 製品を差止対象品として, 侵害訴訟とは別の特許権 1( 微小試料加工観察装置 ) 及び特許権 2( 微小試料加工分析装置 ) を用いて, 東京税関へ輸入差止申立て 1 を行った これに対し, 競合メーカーは, 意見書を提出し, 全面的に争ってきたため, 専門委員意見照会が実施されることとなった 両当事者は, 非常に短期間に, 特定論 侵害論 無効論に関する書面及び証拠を提出すると共に, 意見陳述の場においては, 自分の主張や相手主張に対する反論を口頭で詳細に陳述し, 専門委員との質疑応答では, その場で技術論も含めて詳細な説明を要求された そして, 申立てから 4ヶ月後, 特許権 1 については保留とされたものの, 差止対象品 2 機種について特許権 2による輸入差止申立て 1 が受理された 2 2 回目の特許権 ( 間接侵害 ) による輸入差止申立て 1 回目の輸入差止申立てが成功したことを受け, 日立ハイテクは, 申立て 1 の受理から 1ヶ月後, 新たに, 競合メーカーの新製品を差止対象品として, 侵害訴訟でも用いている特許権 3( 試料の分離方法 ) に基づいて, 東京税関へ 2 回目の輸入差止申立て 2 を行った この特許権 3は, マイクロサンプリング技術の基本特許権であり, 最重要の特許権であった しかし, 存続期間満了まであと 1 年しか残っていなかった しかも, 図 12 に示すように, 試料の分離方法 という 方法特許 であることから, 差止対象品に対して特許権の 間接侵害 を主張する必要があった 図 12 輸入差止申立て 2 の特許権 3 の内容輸入差止申立てを行う場合は, 正式に提出する前に, 税関を訪問して事前相談するのが通常である このケースの事前相談で, 特許権の 間接侵害 を告げた際, 税関担当者が絶句されていたように記憶してい パテント 2013 46

る おそらく税関でも特許権の間接侵害は初めてのケースだったと思われる しかし, 税関は, 通常の手順通り, 申立てを受付け, 専門委員意見照会を実施してくれた もっとも, 専門委員を前にした意見陳述の場においては, 予想通り, 両当事者および専門委員の間で, 何時間にもわたって激烈な議論が交わされた 様々な苦労はあったものの, 申立てから 7ヶ月後, 差止対象品 3 機種について特許権 3( 間接侵害 ) による輸入差止申立てが受理された 権利満了まで 7ヶ月程度しか残っていなかったが, 基本特許権に基づく輸入差止申立てが税関に受理されたことは, 様々な関係者に大きなインパクトを与えた また, 税関が特許権の間接侵害による申立てを認めたことで, 輸入差止申立ての根拠となる特許権の選択肢が拡大した 3 3 回目の特許権 ( 直接侵害 + 間接侵害 ) による輸入差止申立て申立て2が受理された 3ヶ月後, 日立ハイテクは, 先に分割出願していた特許権 4( 集束イオンビーム装置 ) が成立したことに基づいて, 競合メーカーの製品全 11 機種を差止対象品として, 東京税関へ 3 回目の輸入差止申立て 3 を行った 図 13 輸入差止申立て 3 の特許権 4 の内容輸入差止申立て 3 においても, 専門委員意見照会が実施されたが, 特許権 4 の直接侵害に加えて間接侵害も主張され, 差止対象品も 11 機種と多かったことから, 過去 2 回の申立てにも増して, 手続の進行に工夫を要し, 短期間に行う作業の負担も膨大且つ厳しいものとなった 申立てから 5ヶ月後,3 人の専門委員の多数意見は, 差止対象品 11 機種の全てについて直接侵害又は間接侵害を認めたものの, 当時係属中の特許権 4 の無効審判の審決が出るまで保留するとしたため, 税関は申立てを保留した その 5ヶ月後, 特許権 4 の特許を維持 し, 無効審判請求を棄却する審決が出されたため, 権利者から審決の報告を受けた税関は, 直ちに, 差止対象品 11 機種の全てについて輸入差止申立てを受理した 4 当事者間交渉による和解の成立 3 回目の輸入差止申立てが受理されてから, 約半年後, 日立ハイテクは, 当事者間で和解が成立し, クロスライセンスの形で和解金 1500 万ドルを獲得したことを発表した 東京地裁への提訴から和解成立までの2 年 10ヶ月間に, 特許権 5 件により訴訟 5 件が行われたが, 仮処分決定が 1 件出たものの, 他は判決が出ていなかった その間, 税関へは, 特許権 4 件により輸入差止申立て 3 件が行われ, いずれも申立てから 4,7,10ヶ月で受理決定が出された 競業者との国際的な知財紛争の早期解決に, 日本税関における特許権による輸入差止申立てが大きく貢献したのである 7. 水際取締に係る弁理士業務 (1) 弁理士法に規定された業務弁理士法第 4 条第 2 項第 1 号によれば, 弁理士は, 他人の求めに応じ, 関税法第 69 条の3 第 1 項及び第 69 条の 12 第 1 項に規定する認定手続に関する税関長に対する手続並びに同法第 69 条の 4 第 1 項及び第 69 条の 13 第 1 項の規定による申立て並びに当該申立てをした者及び当該申立てに係る貨物を輸出し, 又は輸入しようとする者が行う当該申立てに関する税関長又は財務大臣に対する手続の代理 を業務として行うことができる 読みにくい条文であるが, 要するに, 弁理士は,1 輸出及び輸入貨物の 認定手続 に関する税関長に対する手続の代理,2 輸出及び輸入 差止申立て 並びに当該申立てに関する申立人及び貨物の輸出者又は輸入者が行う税関長又は財務大臣に対する手続の代理, を業務として行うことができる 但し, 認定手続における 供託 に関する手続で, 税関長に対する手続でないものは, 代理できないと解される もっとも, 筆者の経験では, 日本の水際取締において, 供託 に関する手続に遭遇したことはないので, 弁理士のみが代理人となって不便を感じたことはない 47 パテント 2013

(2) 水際取締手続に必要な経験等 1 侵害訴訟における代理人 補佐人の経験特許権による輸入差止申立てを例にすれば, 権利者側は, 差止対象品を特定し, 特許権を侵害することを主張するので, 特許権侵害訴訟における訴状や準備書面, 証拠書類を作成するのとほぼ同様の作業が必要になる 輸入者側は, 特定論や侵害論に関する認否や反論, 更には特許無効の主張などを行うので, 特許権侵害訴訟における答弁書や準備書面, 証拠書類を作成するのと同様の作業が必要になる 更に, 侵害訴訟では, 準備書面などの提出期間が通常 1ヶ月から 1ヶ月半程度与えられるのに対して, 輸入差止申立てにおいては, 書類の提出期間が1 週間程度しかなく, しかも殆ど1 発勝負である 従って, 極めて短期間で侵害論や無効論などに関する主張や反論を書き尽くした書面を作成することを要求されるので, 特許権侵害訴訟の代理人や補佐人の経験を相当に有して, かかる書類の作成に習熟していることが望まれる 2 特許無効審判の代理人の経験筆者の数十件程度の経験の限りであるが, 特許権侵害訴訟では, 技術説明会などがあるものの, 口頭弁論や弁論準備手続では, 書面の提出が中心となり, 弁論が形骸化しているように思われる これに対して, 近年の特許無効審判の口頭審理においては, 両当事者は, 技術内容に関するものも含めて, 無効論に関して, 特許庁審判官との間や, 場合によっては相手方との間で, 質疑応答や弁論が活発に行われている 無効審判の口頭審理よりもさらに, 専門委員意見照会の意見聴取の場においては, 特定論 侵害論 無効 論に関する主張や, 相手主張への反論を陳述し, 専門委員からの技術論を含めた様々な質疑応答を行うことになる 従って, 少なくとも, 特許無効審判の代理人の経験を豊富に有して, 口頭での質疑応答や弁論に習熟していることが望まれる 3 輸入差止申立ての知識 経験当たり前のことであるが, 輸入差止申立ての代理人になるのであれば, 輸入差止申立て手続を十分に勉強し, 手続に習熟していることが必要である 更に, 前述したように, 特許権による輸入差止申立ての場合には, 特許権侵害訴訟や特許無効審判に比べて, 極めて短い期間で, 特定論 侵害論 無効論に関する主張や反論を言い尽くした書面を作成しなければならない また, 意見陳述の場においては, 長時間にわたって, 活発な弁論や質疑応答を行うことになる 従って, 特許権の輸入差止申立てに関与した経験が無いより有るに越したことはない 8. おわりに日本の税関は, 知的財産侵害物品の水際取締に積極的である 今回紹介した Honda 汎用エンジンの事例, Honda スクーターの事例, 日立ハイテクの FIB 装置の事例を見ても, 不正競争防止法違反物品の輸入差止申立てや, 特許権による輸入差止申立てが, 有効に機能していることは明らかである 1 台数千万円 1 億円以上の製品でも, 特許権の間接侵害による輸入差止申立てを受理されている 権利行使が難しいと尻込みせずに, 様々な知的財産に基づいて輸入差止申立てにチャレンジする価値は十分にある ( 原稿受領 2013. 8. 16) パテント 2013 48