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3 題材の目標 (1) 拍子やリズムの特徴を感じ取りながら 拍を感じて歌ったりリズム唱したりして 拍やリズムについて理解する 知識及び技能 (2) なかなかほい でリズムを感じて歌い遊ぶことを通して 音楽の構造を理解し 反復や変化などの音楽の仕組みを生かして まとまりのあるリズムをつくる 思考力 判

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音楽理論講座その 2 調性と音程 音階は全てで 12 個あります しかし 一般的に認知されている ドレミファソラシ という音階の通り 基本的には 12 個の内の7つしか同時には使いません スポーツで例えるならば 12 人いる選手の中でレギュラーを七人選び 残りの五人は補欠としてベンチでスタンバイして

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Journal of The Human Development Research, Minamikyushu University 2017,Vol. 7, 35-45 論文 小学校音楽科歌唱共通教材の簡易伴奏法 7 音音階および5 音音階に基づく楽曲のコードネームと和音記号による和音奏の比較早川純子櫻井琴音 ( 西九州大学 ) Plain Accompaniment for Elementary School Common Song Teaching Materials :Comparison of Chord Name and Chord Symbol for Chordal Accompaniment of Seven- and Five- Tone Scale Songs HAYAKAWA Junko,SAKURAI Kotone キーワード : 歌唱共通教材 7 音音階 5 音音階 簡易伴奏法 コードネーム 和音記号 概要 : 本研究では 小学校音楽科授業での歌唱活動における伴奏法をテーマとし 鍵盤による伴奏を苦手とする教員志望の学生にも実践可能な平易な伴奏法を提示することを目的とした そのために コードネームと和音記号による和音奏について歌唱共通教材を対象として比較考察し 音階や調の異なる楽曲によってそれら 2 つの和音奏の有用性が異なることを確認した 結果として 7 音音階の楽曲に加え 5 音音階の楽曲でも西洋の和声理論に基づいた和音奏によって伴奏付けをすることは可能であることが分かったが コードネームと和音記号のどちらがより有用かつ平易かという点では 和音記号によるコードフォームを感覚的に身につけていく方が簡便ではあるが 両手の音域などを考慮すると楽曲によっては両者を使い分ける必要もあることが明らかとなった 1 はじめに小学校教員にとって 特に歌唱活動での伴奏技能は必要なものとされる 1 歌唱教材のほぼ全ての楽曲には鍵盤楽器用の伴奏が伴っており 児童は伴奏に合わせて歌唱活動を行うことが前提となっている しかし実際の授業では 鍵盤楽器等による生伴奏ではなく CDなどの音源を再生してそれに合わせて歌唱活動を行うケースも散見される 2 既存の音源を再生することでも音楽の授業は成り立つが それではテンポが限定されるばかりか 必要な箇所の部分練習を行うことも難しくなる また 複数の奏者によるアンサンブルの楽しさを味わうことはさらに困難である アンサンブルでは 演奏者が互いに息を合わせ 同じリズムを体感し共振させながら一体となって音楽的時間を作り出すことにある したがって 電子音などで作られたCD 伴奏等のメトロノームに合わせたような均一で画一的な時間に合わせることは 伸縮自在で互いに響き合い協和することを目的としたアンサンブルという音楽の醍醐味を大 きく損なうことになる 生の楽器による伴奏を録音して再生したとしてもそのテンポに合わせることに必死になってしまい ともに感情の高まりを感じながら一つの音楽を協同的に作り出すという感覚は生まれにくい 以上のことから 筆者の所属する教員養成課程の学生には学校現場で苦手意識に起因した鍵盤楽器での伴奏を放棄することなく 最低限のごく簡単な伴奏であっても実践し児童にアンサンブルの楽しさを味わわせるような努力と工夫を厭わない教師を目指して欲しいと考える そこで 本研究では小学校音楽科授業での歌唱活動における伴奏法をテーマとし 鍵盤による伴奏を苦手とする教員志望の学生にも実践可能な平易な伴奏法を提示することを目的とする その伴奏法は 単純でありつつ必要十分なハーモニーを表現できる和音奏を基本とする 和音奏は 伴奏部分に当たる和音が記号化すなわち簡略化されるもので 楽譜を読むことが苦手な学生にも取り組みやすい 本テーマの実践に適した和音を表す方 35

南九州大学人間発達研究第 7 巻 (2017) 法には アルファベットによる コードネーム とローマ数字による 和音記号 の大きく二つに分けられるが この二つの方法を比較し より平易な伴奏法を提示したい 対象とする楽曲は 小学校の各学年に 4 曲ずつ示された歌唱共通教材である さらに 選曲した楽曲のコードネームと和音記号による和声付けを 3 つのテキストを通して比較考察する なお ピアノ伴奏法についての近年の論文には 子どもの関心を引くための様々なアレンジ奏法を考察した研究 ( 紙屋 後藤 2008) や 和声進行や音型等を視覚化して楽曲理解と演奏表現に生かそうとする研究 ( 西濱 2012, 2013) 等がある また 本研究のように和音記号とコードネームを考察した研究 ( 紙屋 1997) も存在するが 日本の伝統的な音階を含む小学校の歌唱共通教材は扱われていない 筆者は 保育現場で活用するための基礎的和声に着目した簡易伴奏法の研究 ( 西村 2007) を行ったが 本研究では対象曲を拡大して初等教育での日本の歌唱曲にも基礎的和声を用いた簡易伴奏を試み さらに和音記号とコードネームの比較考察を行う と呼ぶ 第 3 音は 根音から数えて 3 度 第 5 音は 5 度となる 三和音の第 5 音の 3 度上にさらに 1 音重ねた 4 つの音から構成される和音を七の和音 3 またはセブンス コードと呼ぶ 七がつく理由は 4 つ目の音が第 7 音であり 根音から数えて 7 度高い音になるからである 以上のように 3 度音程の間隔で重ねるのが基本的な和音の組み合わせ方である 西洋クラシック音楽は 7 音音階に基づくが 譜例 1 のように 7 音音階では各音上に和音が計 7 つ形成される 譜例 1 の五線の下に示したように根音の音度によって I 度の和音 II 度の和音などと呼ばれる 五線の上のコードネームでは 音階や調性に関係なく根音になる音名と構成音の音程が記される 譜例 1 各音上に形成される和音 譜例 2 属七の和音 2 和音と記号 2 1 簡易伴奏で用いる和音本研究で考察する和音奏とは 左手で和音による伴奏をすることを指す したがって 右手はメロディを弾くことを前提とする メロディを弾くことが難しい場合は メロディ部分を歌い 左手だけで和音奏による伴奏をすることでも対応できる 和音奏を構成する和音は 西洋音楽の理論に基づいている そこでまず和音の定義だが 和音とは 一定の秩序にしたがって組み合わされた幾つかの音の集合体 ( 島岡他 1964:13) とされる そして 和音の連なりが和声である 和音奏は 連続する和音の流れである和声に基づいて考えていく必要がある 和音には 組み合わせによって幾つかの種類がある ここでは 簡易伴奏で用いる三和音と七の和音を取り上げる 3 つの音が 3 度の間隔で積み重ねられた和音を三和音 またはトライアド コードと言い 下の音から順に根音 第 3 音 第 5 音 譜例ではハ長調を例にしているが これら譜例 1 の 7 つの和音のうち 主和音となる第 1 音上の和音 ( I )(C) 第 4 音上の下属和音 (IV)(F) 第 5 音上の属和音 (V)(G) 4 が 主要三和音と呼ばれ あらゆる楽曲で最も頻繁に用いられる重要な和音であり 簡易伴奏法で用いる基本的な和音となる 主要三和音は 和音構成音の音程により長調であれば全て長三和音すなわちメジャーコードとなり 短調なら主和音と下属和音が短三和音すなわちマイナーコードとなる また 譜例 2 のように属和音 (V)(G) は第 7 音を足して七の和音 ( セブンスコード ) として用いることも多い これを属七の和音 (V 7 ) またはG7 と呼ぶ なお こうした和声理論は西洋クラシック音楽から生まれたものであり 同音楽が基づく 7 音音階であることが原則としては前提となる 後述する 36

早川 櫻井 : 小学校音楽科歌唱共通教材の簡易伴奏法 - 7 音音階および 5 音音階に基づく楽曲のコードネームと和音記号による和音奏の比較 が 本研究で考察対象とする歌唱共通教材は 7 音音階が半数近くあるが 日本的な 5 音音階に基づく曲も多い ( 表 3) 5 音音階であっても西洋音楽の理論が適用できる場合もあるため 本研究の依拠する統一的な理論的枠組みとして 便宜上西洋の和声理論を用いることとする 5 歌唱共通教材の 7 音音階に基づく楽曲は 殆どが長調であり長三和音 すなわちメジャーコードの響きとなる ( 表 3 ) 譜例 1 は ハ長調の各音上の三和音であり それぞれ最低音が根音となる基本位置の和音である 実際に左手で和音奏を弾く際には 和音と連結する次の和音が跳躍の少ない自然な進行となるよう 必要に応じて基本位置から和音構成音の配置を変える必要がある それが 譜例 3 の転回位置を含んだコードフォームである 基準となる基本位置の I 度の和音 (C) に対して IV 度 (F) および V 度 (G) V 7 (G7) の和音は最も近接した転回位置 6 となる ( 譜例 3) なお 和音間の共通音は保留される V 7 (G 7) の和音については 1 音減らして 3 つの音で弾く場合が多い その場合 根音は主音 (G) 第 3 音が導音 (B) 第 7 音 (F) は七の和音を特徴づける音として欠かせない構成音と見なされるため 左手伴奏の際には第 5 音 (D) を省くことが多い 7 譜例 3 主要三和音 以上のように 簡易伴奏で用いるのは主に主要三和音と属七の和音であり 左手で伴奏するためには和声進行を跳躍なくスムーズにするために適宜構成音を展開させる必要がある また Vと V 7 の和音は後述する機能の面では同一である 2 2 和音記号とコードネーム前述したように 本研究ではアルファベットで示すコードネームとローマ数字で表す和音記号を用いる ( 表 1) 前者は五線の上部 後者は五線の下部に示される 譜例 1 で示したように ローマ数字で五線の下に記される和音記号は 音階上に形成される和音が主和音から順に I からVIIまでの記号が付けられるに対し アルファベットで五線の上にあるコードネームは 音階上の順番は関係なく根音となる音の音名を英語読みで記し その右側に和音構成音の音程に応じて和音の種類を示すものである 言い換えると 和音記号が調によって移動ド的に音階が変わるため記号もそれに合わせて変わり コードネームは根音の音名を記す以上調が変わっても固定ド的に名称は変わらないことになる 例えば ハ長調の場合 I 度の和音はC-E-GでコードネームではCだが ヘ長調の I 度の和音はF-A-Cでコードネームでは F となる 以上が 和音記号とコードネームの表記上の違いである 次に 簡易伴奏で用いる際の両者の運用上の違いについて述べたい まず 和音の機能についてだが 調に応じて変わる和音記号では和音の機能が捉えやすく 何調でも記号が変わらないコードネームでは掴みにくいことが挙げられる それでは 和音の機能とは何であろうか 和 表 1 コードネームと和音記号の表記上の特色 記号 記載場所 特徴 コードネーム アルファベット 五線の上 何調でも記号は同じ 和音記号 ローマ数字 五線の下 調によって記号が変わる 表 2 和音の機能 機能記号 T( トニック ) S( サブドミナント ) D( ドミナント ) 性格 安定感 終止感 情緒的 不安定 不安定 主要三和音 I IV V(V 7 ) 37

南九州大学人間発達研究第 7 巻 (2017) 音の機能は 大きく 3 つに分けられる すなわち トニック サブドミナント ドミナントである それぞれ 表 2 のような特徴を持ち主要三和音はこのように分類される 和音記号は調が変わるとその和音を表す記号が変わると述べたが 言い方を変えると何調になっても同じ機能の場合には同じ和音記号を用いる つまり 主和音はどの調であれ常に主音上に形成されるため I 度の和音となる 一方 コードネームは音階上の配列とは無関係に根音と構成音の音程を表すだけであるため 調性上どの和音がどの機能を持つかについては一見すると不明である したがって 不安定なドミナントが安定感と終始感のあるトニックに向かうという感覚は コードネームを用いていると感じにくいだろう つまり 和音の機能に応じてサブドミナントやドミナントで音楽を盛り上げ トニックで静かに あるいは逆に決然と終結するといった演奏の表現をつける場合もコードネームでは難しい 以上のように 和音そのものの機能や 和声のセンテンス ( 島岡 1964:37) であるカデンツといった和音同士の関連性を理解するためには コードネームよりも和音記号を用いる方が相応しいと考えられる 次に 実際に左手で和音奏をする場合の運用面についてである 和音記号の場合 譜例 3 のような伴奏型ないしコードフォームとして把握し手に感覚的に身につけることが容易となる つまり 一度この伴奏型の手の形が身につけば 変化記号に気をつける必要はあるが何調であっても鍵盤の場所を変えるだけで同じフォームで弾くことが可能である 一方コードネームの方は アルファベットで根音が分かるため その 3 度上に音を重ねていけば基本位置の和音はすぐに分かる しかし メジャーコードかマイナーコードかなどの音程が反射的に分かるか また隣接する和音つまり和声進行に応じてどの展開位置が相応しいかについての判断は音楽専門ではない教員養成課程の学生にとって初見で行うことは難しいかもしれない その場合には 前もってスムーズな展開位置について十分に考えておく時間が必要であろう いざという時は コードネームの示す根音だけを弾いたり基本位置のみで弾くことも可能だが適切さに 欠ける したがって 主要三和音のコードフォームを身につけておくことであらゆる調の楽曲に対応できる点では 和音記号で理解しておく方が便利だと言えるだろう つまり 譜例 3 のように和音記号で I 度の和音を基本位置 IV 度の和音を第 2 展開位置 V 度の和音を第 1 展開位置 属七の和音の第 5 音省略の第 1 展開位置のコードフォームを身につけるということである 以上のように 和音機能が理解でき コードフォームを感覚的に身につけることであらゆる楽曲に対応可能であることを考えると和音記号で和音を捉えるやり方の方が取り組みやすく比較的簡単だと考えられる しかし コードフォームで実践する場合 調によっては右手メロディと左手の伴奏が同じ音を弾くことになり 弾き辛くなるという問題が生じることがある 後述するように それは多くの場合ヘ長調やト長調などの調で起きる つまり 右手で弾くことになるメロデイの声域は概ね一点ハ音前後から二点ニ音前後であるが ヘ長調やト長調の和音記号による伴奏型の場合 その声域と重なる音が左手和音に含まれることが多いのである その点では 左手和音を柔軟に展開させる余地のあるコードネームによって右手とぶつからない伴奏型を考え実践する方が弾き辛さの解消につながると考えられる この意味で 適切な伴奏や伴奏しやすさという点では 楽曲の調によって和音記号とコードネームを使い分けることも必要かもしれない この点については 4 歌唱共通教材和声付け で考察する 3 歌唱共通教材の概要と音楽的特徴 ( 音階 ) 歌唱共通教材は 我が国で親しまれてきた唱歌や童謡 わらべうた等を 子どもからお年寄りまで世代を超えて共有 ( 文科省 ) することを趣旨として 1958( 昭和 33) 年に設定された それ以降学年移動や差し替えが行われてきたが 現在は1989( 平成元 ) 年第 6 次学習指導要領に示された楽曲が継続設定されている 取り扱う楽曲数については 第 8 次学習指導要領で第 1 学年から第 4 学年までは 4 曲全てを取り扱い 第 5 学年及び第 6 学年は 4 曲中 3 曲を含めて取り扱うことが新たに示され 各学年ともに増加することと 38

早川 櫻井 : 小学校音楽科歌唱共通教材の簡易伴奏法 - 7 音音階および 5 音音階に基づく楽曲のコードネームと和音記号による和音奏の比較 表 3 歌唱共通教材分類表 ( 下線のある 7 音音階 は正確には 6 音音階 ) C-D-E-F-G-A-C C-D-E-G-A-B-C, C-D-E-F-G-A-C C-D-F-G-B-C C-D-F-G-B-C C-D-F-G-B-C C-D-F-G-B-C C-D-F-G-B-C G G C-D-F-G-A-C 39

南九州大学人間発達研究第 7 巻 (2017) なった 我が国の音楽 に関する鑑賞教材についても取り扱う学年が拡大している このように 自国の音楽については学習内容の充実が図られている 本研究の目的は より平易な簡易伴奏法を和音の考察を通して追求していくことだが 対象曲は歌唱共通教材とする 前述したように 西洋の和声理論は日本の音楽に上手くあてはまらない部分もあるが可能な範囲で適用を試みる まず ここでは和音奏で考慮しなければならない音階を基準として歌唱共通教材を分類する 表 3 は 音階を中心に調性や歌の種類など音楽要素ごとに各曲の概要をまとめたものである 表 3 に見るように 音階は大きく 2 つに分かれる すなわち 西洋的な 7 音音階と 5 音音階である 5 音音階はさらにヨナ抜き音階 陽旋法 及び都節音階の 3 種類に分けられる 陽旋法は上原六四郎の分類 都節音階は小泉文夫の分類によるものである なお 7 音音階のうち下線 ( 波線 ) のある楽曲は 7 音中 6 音だけが用いられおり 厳密には 6 音音階と言えるが 本研究では西洋の 7 音音階と日本の 5 音音階とを対比的に論じることから 7 音音階に分類する また ヨナ抜き音階とした楽曲のうち 抜かれるべき第 4 音や第 7 音が 1 箇所ずつ確認できるものもあるが それは経過的なものと見なしヨナ抜き音階として分類した 子もり歌 2 については 1 音だけ異なる音階 構成音があるが陰旋法 ( 上原 ) と見なすことができると考える 表 4 は さらに音階別に特徴をまとめたものだ 子もり歌 は音階の異なる 2 種類が示されているため 本研究では 2 曲とみなし全体では25 曲と考える 全体として 7 音音階の占める割合は 25 曲中 10 曲で40% である それに対して 日本の音階である 5 音音階は15 曲で60% と半数以上を占めている このように 明治期学校教育用に新たに作曲された文部省唱歌の殆どが西洋音楽的な 7 音音階で書かれ 古くから伝わる作者不詳の古謡やわらべうたは 5 音音階に基づいていることが分かる 次に 和音奏について考えたい 7 音音階については西洋の和声理論が適用できるわけだが 5 音音階についてはどうか まず ヨナ抜き音階についてだが これは 7 音音階を元にして主音 (C) から数えて 4 番目 (F) と 7 番目 (B) の音を抜いた 5 音音階であるため 7 音音階の楽曲と同様に和声理論を用いることが可能である 次に本研究で取り扱う他の 3 種類の 5 音音階についてはどうだろうか 次章において 楽譜を用いながら各音階に基づく楽曲を抜粋して考察する 4 歌唱共通教材和声付け本章では 全 24 曲の歌唱共通教材の中から 構成される音階の種類ごとに選曲した楽曲を対象に 表 4 音階の種類と歌唱共通教材での割合 C-D-E-F-G-A-B 10 C-D-E-G-A C-D- F-G- B C-D-F-G-B-C G G C-D-F-G-A 40

早川 櫻井 : 小学校音楽科歌唱共通教材の簡易伴奏法 - 7 音音階および 5 音音階に基づく楽曲のコードネームと和音記号による和音奏の比較 より平易な簡易伴奏の和声進行について考察する なお 歌唱共通教材の和声付けについては 小学校音楽科教育法に関する 3 社によるテキストの簡易伴奏譜を参考にする 以後 ( ア )( イ )( ウ ) と表記する それぞれが どのテキストを指すかについては 参考文献 を参照されたい なお 3 つすべてのテキストでは コードネームにより和音が示され 和音記号は用いられていない 各譜例には 五線の上に各テキストの和声進行を 五線下には筆者が最も平易に和音奏ができると考える和声進行を和音記号によって示している のアレンジが最も平易であると考え 五線下にはその和声進行に基づいた和音記号を記した 平易さを求めるなら前述したようなコードフォームとして手の形で覚え パターン化して和音がつかみ易い主要三和音を用いる方が良いだろう 次に 第 4 学年に設定されている とんび の冒頭部分を考察する ( 譜例 5 ) 譜例 5 とんび 4 1 7 音音階ハ長調 およびヨナ抜き音階 ここでは 西洋的な 7 音音階の楽曲から第 2 学 年に位置づけられるハ長調の 夕やけこやけ と第 4 学年のヨナ抜き音階である とんび から一部を抜粋して考察する 譜例 4 は 第 2 学年の 夕やけこやけ の最後の 4 小節である 譜例 4 夕やけこやけ 3 つのテキストで共通しているのは最後から 2 番目の小節 C-G 7 の進行である ( ア ) のアレンジでは 1 拍毎に和音が変わり シックスコードやサスフォーコードなどの主要三和音以外の和音が用いられていることも分かる このように多彩な和音を使うことで音色の変化を楽しむことはできる しかし 頻繁に左手が変化するためピアノに慣れていない人にとっては簡易に弾ける和音進行とは言えないだろう ( ウ ) では 主要三和音以外のDm 7 を 1 箇所挟み 短調の響きを添えている 主要三和音で対応している点で 最も簡易な伴奏と言えるのは ( イ ) のアレンジと言える 最後から 3 小節目と 2 小節目のドミナントではそれぞれ G G 7 としているが 後者は終結部にふさわしくセブンスコードとなり 結果的に 2 つのドミナントで変化もつけられ 伴奏としても平易かつ和声進行上も適切だと言える 筆者も ( イ ) この曲の該当部分のコードネームは ( イ ) と ( ウ ) では一致していた 一方 ( ア ) では 3 小節目 4 拍目と 6 小節目 3 拍目に主要三和音以外の和音が用いられている 単純にこの点からは平易さに欠けると言える しかし 多様な和音を用いることで音色に変化がつき豊かな響きになることには違いない ( イ ) の和声進行が比較的平易と言えるが 4 小節目は ( ア ) のように 3 和音のGでも良いだろう なぜなら この小節は半終止に当たるところであり半終止には三和音を用いる方が適切だからである ( 島岡 1964:74) 8 以上のように この 2 曲に関しては ( イ ) の和声進行が比較的平易であった ただ 前述したようにコードネームで示すと自由に和音構成音を展開させることが可能であるだけに展開位置をどう考えるか悩むケースもあるかもしれない したがって コードフォームで把握できる和音記号でも和音を読めば より易しくかつ手早く和音奏ができるだろう 4 2 陽旋法 および都節音階 ここでは 陽旋法に基づくと考えられる第 2 学 年の かくれんぼ および都節音階だと考えられる第 4 学年の さくらさくら から一部抜粋して伴奏法を考える 41

南九州大学人間発達研究第 7 巻 (2017) 譜例 6 は ( ア ) による かくれんぼ の楽譜である 譜例 6 かくれんぼ コードネームが示されているのは ( ア ) の楽譜だけであった 他の 2 社が記していないのは 日本的な 5 音音階であるため西洋的な和音進行の適応が難しい あるいは適切でないと考えたためであろう ただ この 2 社も左手伴奏に用いる実際の音では ( ア ) が示すAmの和音構成音を多用しており 同様の音を用いていることが分かる こ の曲は陽旋法に基づいていると考えるが この音階は半音が無いのが特徴である 和声を当てはめてみると ( ア ) の示す和音の殆どがAmつまり主和音 およびEmすなわち属和音ということになる 主和音がマイナーコードということは この曲がイ短調と考えることができる したがって 表 3 では括弧つきの ( イ短調 ) とした 筆者の提案する五線下の和音記号は それに対応するように基本的にAmが I の和音 EmがVの和音とした ただ 最後から 2 小節目は本来ならV 7 ( 属七の和音 ) として終結感を出したいところだが 西洋的な終結感を感じさせない 9 終結部であり響きとしても良好でないと感じられるため 最後も Vとするのが相応しいと考える このように 陽旋法の かくれんぼ は西洋の和声理論に基づいた和音を用いて伴奏をすることが可能であった すなわち 主要三和音の中でも主和音 (I) と属和音 (V) のツーコードを使用する 譜例 7 さくらさくら 次に都節音階の さくらさくら であるが この曲も ( ア ) のみコードネームが書かれている 譜例 7は ( ア ) のコードネームを表している 筆者の考える五線下の和音記号は 殆どそのコードネームと同じ和音を用いることとなった 最後から2 小節目のマイナー セブンス フラット ファイブのみが主要三和音ではないため ここは下属和音で代用できると考え IVの和音つまり Dmとした このように 都節音階である さくらさくら でも西洋の和声理論に基づいた主要三和音を用いて伴奏を作ることができた この曲の場合は 主和音 属和音 下属和音のスリーコードでの伴奏が可能である 4 3 7 音音階ヘ長調 およびト長調ここでは 7 音音階の中からヘ長調とト長調の楽曲を取り上げる 譜例 8 は第 4 学年に位置づけられたヘ長調 もみじ の前半部分の楽譜である 3 社ともトニックとドミナントが交互に設定されており ( ウ ) がドミナントをセブンスコード (C 7) にし ( ア ) はトニックをマイナーコード (Dm) にアレンジするなど変化がつけられている この調で問題になるのは 前述したように右手のメロディの音域と左手和音奏の音域が重なってしまうという点である 概ね 歌唱曲の声域は一点ハ音前後から二点ニ音前後を中心とした音域にな 42

早川 櫻井 : 小学校音楽科歌唱共通教材の簡易伴奏法 - 7 音音階および 5 音音階に基づく楽曲のコードネームと和音記号による和音奏の比較 譜例 8 もみじ 譜例 9 スキーの歌 る そうすると ヘ長調やト長調などの調では左手を和音記号のコードフォーム通りに弾くと右手メロディと重なる音が生じるのである もみじ の音域は 一点ハ音から二点ニ音までの長 9 度となる 例えば 右手 2 小節目のメロディのC 音は 左手コードフォームで弾いた場合の属和音の根音 C 音と重なる 6 小節目のC 音でも同様である この場合は 右手メロディを優先し左手の同じ音を省いて演奏する方が良いが できればこのような音の重複は避けた方が混乱しないかもしれない その場合は 和音記号でコードフォーム通りに弾くのではなく コードネームを読み構成音を転回させる方が良いだろう その場合 主和音 (I) に当たるFはコードフォームのF-A-Cという基本位置ではなく 第 2 転回位置のC-F- Aとなり 属和音 (V) に当たるCは基本位置の C-E-Gとなる この意味では ( イ ) の和声進行の方が弾き易い 一方 ( ウ ) では 属和音がセブンスコード (C7) であり Fの第 2 転回位置 (C-F-A) から連続して弾く場合は第 5 音省略 10 のC-E-B となる また ( ア ) のDmはC (C-E-G) からDm(D-F-A) となり 根音と第 5 音で連続 5 度 11 が生じてしまう ( 島岡 1964: 27-28) ものの この音型での進行が弾き易い 歌唱共通教材のヘ長調の楽曲には他に第 1 学年の ひのまる があるが この曲はメロデイの音域が一点ヘ音から二点ニ音であるため 左手を和音記号を元にしたコードフォームで弾いたとしても重複する音は無いため コードフォームでの伴奏に問題はない 次に 第 5 学年のト長調 スキーの歌 だが 譜例 9 は冒頭 4 小節の部分である この部分は 3 社とも和声進行が一致している 左手伴奏についてだが 和音記号によるコードフォームで弾くとGが I の和音 (G-B-D) D がVの和音 (F -A-D) となり 右手メロディの D 音以下の音は重なってしまう 従って このケースも和音記号をもとにしたコードフォームの形で弾くよりも GとDを転回させて右手にかからないようにした方が弾き易いと考えられる しかし Gの第 2 転回位置 D-G-B そしてそこからの自然な移行としてDの基本位置 (D-F -A) とする場合でも 1 小節目 3 拍目のB 音は重なってしまう Gの第 1 転回位置 B-D-Gから考えると Dの近接する第 1 転回位置 (F - A-D) あるいは第 2 転回位置 (A-D-F ) となるが どちらもスムーズな進行とは言い難い ただ この曲のメロディの音域がロ音から二点ニ音で かなり下の音まで用いていることを考えると もみじ とは異なり左手伴奏部を 1 オクターブ下げて弾いても違和感は無いと考えられる したがって この曲の場合は 1 オクターブ下げて和音記号によるコードフォームで弾く方が最も平易であると考えられる もっとも ( ア ) も ( イ ) も大譜表の左手部分は1オクターブ下げた音域で書かれている 本章では 7 音音階のハ長調 日本的な音階であるヨナ抜き音階 陽旋法 都節音階 最後に 7 音音階のヘ長調とト長調の楽曲について 3 つのテキストによる和声進行を比較しながらコードネームと和音記号による最も平易と考えられる和音配置を考えてきた 以上のことから 7 音音階の楽曲はもちろん 日本的な 5 音音階による楽曲でも西洋理論的な調性で考えることも可能であり したがって和声学的に和声進行を設定することも可能であることが分かった さらに 7 音音階の楽曲について和音記号で覚えやすいコードフォームによる伴奏とコードネームで自由に転回 43

南九州大学人間発達研究第 7 巻 (2017) させる形での伴奏では 調 音域など楽曲によっては使い易さが異なることが分かった 5 おわりに本研究では 小学校音楽科授業での歌唱活動における伴奏法をテーマとし 鍵盤による伴奏を苦手とする教員志望の学生にも実践可能な平易な伴奏法を提示することを目的とした そのために コードネームと和音記号による和音奏について歌唱共通教材を対象として比較考察し 音階や調の異なる楽曲によってそれらの有用性が異なることを確認した まず 和音奏で必要となる基本的な和声理論について確認し コードネームと和音記号の違いを示した その中で 主要三和音を用いることが肝要かつ簡明であり コードフォームによって感覚的に手の形で身につけることの簡便さを示した 次に 小学校歌唱共通教材を音階という音楽的要素に基づいて分類し それらの音階に基づく楽曲に相応しい和声進行すなわち和音奏をコードネームと和音記号による運用の違いを考察しながら検討した 考察した楽曲については 和声進行に基づく和音奏が可能であることが分かった さらに コードネームと和音記号のどちらが有用かという点に関しては 今回選曲した楽曲の中では曲によって使い分けた方が良いという結果となった すなわち 5 音音階では和声進行を当てはめた和音奏が可能であり 和音記号によるコードフォームでの和音奏がより平易であるということが分かった そして 7 音音階では右手メロディと左手伴奏が重ならないような左手の和音奏を考える必要があるため 本研究で考察したヘ長調やト長調については 和音記号によるコードフォームでは両手が重なる箇所が生じることから コードネームによって和音構成音を自由に展開させる和音奏も相応しいと考えられた 結果として 7 音音階の楽曲はもちろん 5 音音階の楽曲でも西洋の和声理論に基づいた和音奏によって伴奏付けをすることは可能であることが分かったが コードネームと和音記号のどちらがより有用かという点では 音域などを考慮する必要があり楽曲によって異なるこ とが明らかとなった 本研究では 歌唱共通教材全曲を分析分類して音楽的要素の違いを確認することができたが 実際に楽曲の和声付けをして和音奏の考察ができたのはその一部であったため 今後は残りの楽曲についても考察を進めたい 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 小学校教員採用試験の試験内容に弾き歌いを 課す自治体が少なくないことも その事実を示 すものだ そうした現状を見聞きしているせいか 小学 校教諭を目指す教員養成課程の学生は 幼児を 対象とする保育者を目指す学生ほどには伴奏技 能を伸ばそうという姿勢が見られない傾向にあ る 4 つの音から構成されるため 四和音とも呼 ばれる 本研究では コードネームを用いるため階名 は ドイツ語読みではなく全て英語読みとする なお 音名には日本音名を用いる 西洋音楽の理論を 5 音音階という異なる文化 的要素に適用すべきかについては議論の余地が ある IV 度の和音は第 2 転回位置であり V 度お よび V 7 の和音は第 1 転回位置である また コードフォームの場合 3 つの和音構成音の配 置はオクターブより狭い範囲に配分される密集 配分となる 属七の和音の 各低音位の上 3 声には バス 以外の 3 種の構成音を 1 個ずつ用いる ただ し 基本位置では第 5 音をはぶき根音を加える ことが多い ( 島岡 1964:70) ということから 第 5 音は省くことが可能であると考えられる 半終止の箇所は V 7 を用いず 常に V を用い る ( 島岡 1964:74) とある 終結部では同一音型が反復されている 終結 するというより その先もその音型が続いてい くような印象を与える 注 7 に同じ 本来の和声理論においては 2 声部の同時進 行において 先行音程と後続音程とが共に 5 度 44

早川 櫻井 : 小学校音楽科歌唱共通教材の簡易伴奏法 - 7 音音階および 5 音音階に基づく楽曲のコードネームと和音記号による和音奏の比較 を形成することを連続 5 度 ( 島岡 1964:27) と言い 連続 5 度は 後続音程が完全 5 度の場合に禁ぜられる ( 前掲書 28) となる しかし 実際の演奏においては連続 5 度で演奏されているケースも少なくない 特に 音楽の専門家ではない限りそこまで要求する必要もないかもしれない もっとも この場合 Dm をA-D- Fという第 2 転回位置で弾くことも考えられるが C(C-E-G) からの移行はスムーズとは言い難くなる 参考文献アラン オリヴィエ ( 永富正之 二宮正之訳 ) 1969 年 和声の歴史 東京 : 白水社上原六四郎 1927 年 俗楽旋律考 東京 : 岩波書店紙屋信義 1997 年 子どもの歌伴奏における和音記号とコードネーム : ピアノによるアプローチ 立教女学院短期大学紀要 29, pp.187-215 紙屋信義 後藤みゆき 2008 年 ピアノによる子どもの歌伴奏の効果 -アレンジによる伴奏法を考える 東京未来大学研究紀要 第 1 号, pp.67-75 国立劇場 1974 年 日本の音楽 - 歴史と理論 東京 : 国立劇場事業部 内藤雅子 2010 年 ピアノ コードの使い方 東京 : デプロ MP 島岡譲他 1964 年 和声理論と実習 I 東京: 音楽之友社島岡譲 1964 年 和声と楽式のアナリーゼ 東京 : 音楽之友社初等科音楽教育研究会 2011 年 最新初等科音楽教育法 改訂版 東京 : 音楽之友社 ( イ ) 全国大学音楽教育学会九州地区学会 2014 年 ピアノテキスト 東京 : カワイ出版 ( ウ ) 西濱由有 2012 年 保育者養成校のピアノ演奏指導における 楽曲イメージ奏法 の効果に関する研究 東邦学誌 第 41 巻第 1 号 pp. 89-107 西濱由有 2013 年 子どものピアノ演奏指導における 楽曲イメージ奏法 の効果に関する研究 東邦学誌 第 42 巻第 1 号 pp. 37-55 西村純子 2007 年 保育士に必要な初歩的和声法 - 簡易伴奏のために 東筑紫短期大学研究紀要 38, pp. 125-137 畠澤郎他 2015 年 新 音楽科教育法 東京 : 朝日出版 ( ア ) Jones,T.George. 1974. Music Theory. New York:Barnes& Noble. Summary This article focuses on the way in which a plain accompaniment for elementary school songs works. An accompaniment by keyboard based on harmonic theory of western classical music is applicable basically to seven-tone scale music. Kasho-kyotsu-kyozai, or common song teaching materials for Japanese elementary school, however, include various five-tone scale songs which are supposed theoretically not suitable for the theory. In this article the author examines and compares the binary way of harmonic descriptions by chord name(alphabets)and chord symbol(roman numerals), and seeks the better and plainer way of keyboard accompaniment for the Japanese school songs. 45