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Transcription:

ISBN 978-4-905304-35-7 森林と水の謎を解く (2) 間伐と水流出 独立行政法人 森林総合研究所 Forestry and Forest Products Research Institute 秋田県森林技術センター Akita Prefecture Forest Technology Center 森林総合研究所 第 3 期中期計画成果 15( 森林機能発揮 -9)

はじめに 森林の水源かん養機能とは 森林の土壌が降水を一時的に貯留して洪水を緩和したり河川の流量を安定させたり 雨水が森林土壌を通過することにより水質が浄化する機能をさします このような機能は 流域全体に良好な森林が成立してはじめて十分に発揮されます 日本の森林は 第二次世界大戦から戦後の復興期にかけての過伐や乱伐 里山の耕地化等によって水源かん養機能が低下し 各地で渇水や洪水が発生しました 一方 拡大造林政策や荒廃地の緑化事業の推進により 森林資源の回復が進みましたが 外材の輸入自由化や材価の低迷等の影響によって林業経営が困難になり 間伐などの手入れが行われない人工林が目立つようになりました この結果 日本の流域の森林資源が増加する一方 手入れ不足の人工林がもつ水源かん養機能の低下が危惧されるようになりました このため林野庁や都道府県では間伐を推進し 人工林の健全性回復に努めています ただし 間伐をすると水源かん養機能がどう変わるのかを流域という大きなスケールで詳しく調べた例はこれまでほとんどありませんでした そこで 森林総合研究所は秋田県森林技術センターと協力して 気象条件の大きく異なる非積雪地域と積雪地域の森林において 流域スケールで間伐による水流出の変化を明らかにしました また 間伐などによる森林の変化が水流出に及ぼす影響がどのくらい続くかについて 森林総合研究所が 70 年以上にわたり長期観測してきた流出量データをもとに調べました 森林と水の謎を解く は森林総合研究所ホームページ上で公開しています 本冊子はその続編として 間伐が水流出に与える影響について最新の研究成果をまとめたものです 平成 26 年 3 月独立行政法人森林総合研究所

目 次 Q1 間伐によって蒸発散量はどのように変化しますか? 2 Q2 森林を間伐すると水の流出はどのように変わりますか? 3 Q3 積雪地域では間伐によって流出量はどのように変化しますか? 4 Q4 間伐によって流出量はどの程度変化しますか? 5 Q5 森林の状態の変化に伴う水流出の変化はどのくらい続きますか? 6

森林と水の謎を解く (2) 間伐と水流出 Q1 間伐によって蒸発散量はどのように変化しますか? 水源かん養機能は山地の森林から流れ出る水量を測定して評価します 森林に降った雨がすべて流れ出るわけではありません 雨の一部は樹木の枝葉や幹 落ち葉の表面に付いた後 地面に届かずに蒸発します 一方 地面に浸み込んだ水の一部は ふたたび地面から蒸発するか 植物の根に吸い上げられて葉から蒸散します 森林から蒸発や蒸散によって大気にもどる水の量 ( 蒸発散量 ) は 水源かん養機能に関わるので 間伐による蒸発散量の変化を明らかにする必要があります 調査は茨城県北部の常陸太田試験地のヒノキ スギ林の流域 ( 面積 0.88 ha) で行いました 2006 年 ~ 2011 年まで降水量 林内降水量と森林から流出する流出量を測り この間 2009 年 3 月 ~ 5 月に立木の本数の 50 % を間伐しました 間伐前後の蒸発散量の変化を推定するために 短期間の流域の水収支を調べました 水収支は ( 蒸発散量 )=( 降水量 )-( 流出量 )±( 流域貯留量の変化 ) です この式で ( 流域貯留量の変化 ) が極めて小さく無視できるとき ( 流域貯留量の変化 =0なので 蒸発散量は降水量と流出量の差として表せます 観測データから降水量と流出量の変化の少ない期間を探して この間は流域貯留量の変化が極めて小さいとみなし その期間における降水量と流出量から蒸発散量を計算しました 図は毎月の日蒸発散量を間伐前と間伐後で比較したものです 樹木の生育期である 5 月から 11 月の日蒸発散量が 間伐後に目に見えて減ったことがわかりました このことは 間伐による樹木の本数が減ると 流域全体として蒸発散量も減ったことを示しています すなわち 間伐は森林全体の蒸発散を抑え 流域からの水の損失を減らします 4 日蒸発散量の月平均値 (mm/ 日 ) 3 2 1 間伐前 (2006 年 ~2008 年 ) 間伐後 (2010 年 ~2011 年 ) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 図間伐流域の間伐前後の蒸発散量の変化 参考文献久保田多余子ら (2013) 日本森林学会誌 95(1):37-41 2

Q2 森林を間伐すると水の流出はどのように変わりますか? 間伐が水の流出に及ぼす影響を調べるため Q1 と同じ茨城県常陸太田市のヒノキ スギ林で覆われた流域 ( 面積 0.88 ha) で 2006 年から 2011 年まで降水量 林内降水量 ( 樹冠通過降水量 + 樹幹流下量 ) 渓流水の流量を測りました ( 図 ) その間 2009 年 3 月 ~ 5 月に立木の 50 % を間伐し その前後の流出量の変化を調べました 一般に森林に降った雨はその一部が枝葉や幹の表面に付着して直接蒸発するため 間伐後に森林の地面に到達する降水量は 間伐前よりも多くなります 降水量は変動するので 林外の降水量に対する林内の降水量の割合を比べると 間伐前 (2006 ~ 2008 年 ) は降水量の 82% 1390mm でしたが 間伐後 (2010 ~ 2011 年 ) には 85% 1394mm になりました 一方 渓流水を通じて流れた流出量は 間伐前には降水量の 43% の 728mm でしたが 間伐後には増加し 50% の 815mm が流出しました 間伐後 林内降水量が増えた分 (4mm) 以上に 流出量が増えています (87mm) これは 雨の時に枝葉や幹の表面から蒸発する量が減っただけでなく 雨が降っていない時の蒸散量も減ったためと考えられます 以上のように 間伐によって流域からの流出量が増えることがわかりました 図間伐による水収支の変化 間伐前 (2006 年 ~ 2008 年 ) と間伐後 (2010 年 ~ 2011 年 ) の毎年の値の平均値 参考文献久保田多余子ら (2013) 日本森林学会誌 95(1):37-41 3

森林と水の謎を解く (2) 間伐と水流出 Q3 積雪地域では間伐によって流出量はどのように変化しますか? 冬季に雪の積もる地域では 降った雪は春先までほとんど流出しません 間伐が水の流出量に及ぼす影響も雪の降らない地域とは異なると考えられます そこで 秋田県大館市長坂のスギ人工林で覆われた 3つの流域 上の沢 中の沢 下の沢 で 2004 年から 2009 年まで水文観測を行いました 2007 年 2 月 ~ 3 月に 上の沢 と 下の沢 で 間伐木を搬出するための作業路を開設して 立木の本数の約 50% を間伐しました この 2つの間伐流域と間伐をしない 中の沢 流域の流出量を比較しました 樹冠を通過する降水量の割合は降雨と降雪で異なりました 林外の降水量に対する樹冠通過降水量の割合は 降雨より降雪の方が少なく これは雪が樹冠に積もって長く留まりその間に樹冠上で蒸発するためと考えられました 間伐により樹冠の占める面積が小さくなると 林外の雨に対する樹冠通過降水量の割合は増加します ただしその変化は 降雨時の 82% から 83% に比べ 降雪時は 71% から 77% と大きく 間伐の影響は降雪時に顕著でした また 間伐に伴い林内の積雪が深くなり 春先の融雪は早くなりました 間伐は冬期間の堆積 融雪状態にも影響を及ぼすことがわかりました 間伐前後の降水量の変化が 100mm と大きかったため 間伐による流出量の変化について 間伐していない 中の沢 の流出量を基準にして間伐をした 上の沢 と 下の沢 の流出量を比べました どちらの流域も間伐したスギ林からの流出量は無間伐の流域よりも 6% 増加しました このように積雪地域においても 間伐によって流出量が増えることがわかりました 図積雪地域の間伐による水収支の変化 括弧内の数字は 基準流域 ( 無間伐 ) の中の沢を 100% としたときの割合 参考文献岩谷綾子ら (2013) 東北森林科学会誌 18(2):38-42 野口正二ら (2010) 水文 水資源学会誌 23(4):339-346 4

Q4 間伐によって流出量はどの程度変化しますか? 森林の状態と流域からの流出量との関係を調査した世界中の 94 の流域試験の結果を取りまとめた研究があります (Bosch & Hewlett,1982) 彼らは全流域面積に対する森林伐採面積の割合 ( 伐採面積率 ) と年流出量の増加量との関係を示しました 下図はそのデータを皆伐または部分皆伐と間伐の違いに分けて示したものです 森林総研が今回調査した常陸太田 ( 茨城県 ) と長坂 ( 秋田県 ) の間伐試験結果をあわせて示しました 伐採面積率は伐採した木の胸高断面積合計 ( 胸高で測った木の直径から計算される断面積 ) で示しました この図から 間伐でも皆伐でも 森林を伐採しその伐採面積が大きくなるほど流出量の増加が大きくなる傾向がわかります 常陸太田や長坂の間伐試験は 世界中の間伐 ( 赤丸 ) の結果と同じ傾向にありました これら赤丸全体の分布傾向は 森林全体の皆伐や一部を皆伐する部分皆伐 ( 青丸 ) に比べて低い傾向があります すなわち 同じ伐採面積率でも部分皆伐に比べ 通常の間伐による流出量の増加はやや小さいことがわかりました また 間伐の中でも 列状間伐 ( 斜面に沿って列状 ( 筋状 ) に間伐する方法 ) は部分皆伐の結果に近く 普通の間伐より流出量の増加がやや大きい可能性がありそうです このように間伐をすると流域からの流出量が増加しますが その増加量は胸高断面積の変化からある程度の精度で予想できます 年流出量の増加量 (mm) 700 600 500 400 300 200 皆伐または部分皆伐間伐常陸太田長坂 ( 上の沢 ) 長坂 ( 下の沢 ) 列状間伐 100 0 0 20 40 60 80 100 伐採面積率 (%) 図 森林施業の違いによる伐採面積率と年流出量の増加量の関係 Bosch&Hewlett (1982) より作成 参考文献 Bosch, J.M. & Hewlett, J.D. (1982) Journal of Hydrology 55:3-23 5

森林と水の謎を解く (2) 間伐と水流出 Q5 森林の状態の変化に伴う水流出の変化はどのくらい続きますか? Q1~4 で紹介したように 間伐により森林の立木本数が減ると蒸発散量が減少し 流量が増加しました その変化はいつまで続くでしょうか 70 年以上にわたり観測を続けている岡山平野の北東部に位置する竜ノ口山試験地の蒸発散量のデータを解析して その答えを探りました 土地の蒸発散量を推定する方法として次のような方法があります 森林は一般に蒸発散量が大きいので 1 年間の蒸発散量 (= 年降水量 - 年流出量 ) は 森林のない土地 ( 湿った地面を想定 ) で推定した蒸発散量よりも大きくなります この実測値と推定値の差を地面が森林で覆われているために加算された蒸発散量分 ( 加算蒸発散量 ) と考えます この方法により 森林の状態の長期的な変化が水流出におよぼす影響を調べました 竜ノ口山試験地の加算蒸発散率 ( 年降水量に対する加算蒸発散量の割合 ) は 森林の状態により大きく変化しました ( 図 ) 伐採やマツ枯れなどによる森林の消失に伴い加算蒸発散量は減少し しばらく横ばいの後 森林の回復に伴い増加しました 1959 年の山火事で森林がほぼ全焼した後は 0% まで低下し その後植生の回復に伴い 8 年目頃から急増しました 1980 年頃のマツ枯れ後も加算蒸発散率は低下し ヒノキ植栽後の 12 年目頃からその率が急増しました その後はマツ枯れ等の影響もあり 加算蒸発散率の急上昇は 4 ~ 5 年続いて終息しました このように 森林の衰退や消失によって蒸発散量が 2 ~ 8 年間減少し その後 流域の植生が回復し 林冠が閉鎖する頃に 5 ~ 10 年程度急増する時期があるようです 間伐に伴う水流出への影響も森林の状態の変化に依存するので これを参考にすると 間伐率によって異なりますが おおよそ 5 年程度続くものと予想されます 図竜ノ口山森林理水試験地南谷における加算蒸発散率の経年変動傾向 参考文献細田育広 (2009) 森林総合研究所平成 21 年版研究成果選集 :26-27 6

この冊子は農林水産技術会議 新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業 において実施された 間伐促進のための低負荷型作業路開設技術と影響評価手法の開発 ( 平成 21 ~ 24 年度 ) における研究成果をとりまとめたものです 独立行政法人 森林総合研究所 305-8687 茨城県つくば市松の里 1 番地 編集 発行水土保全研究領域東北支所関西支所秋田県森林技術センター発行日 2014( 平成 26) 年 3 月 31 日お問い合わせ先編集刊行係電話 029-829-8135 e-mail: kanko@ffpri.affrc.go.jp 本誌掲載内容の無断転載を禁じます 本紙は再生紙を使用しています

独立行政法人 森林総合研究所 Forestry and Forest Products Research Institute 秋田県森林技術センター Akita Prefecture Forest Technology Center