三中長距離走 1 中学生期において身に付けておきたい技能 態度等 (1) 身体の器用さ と 走りの柔軟性 中学生期に身に付けたい技能は 身体の器用さと走りの柔軟性になる 身体の器用さとは 身体を上手に使う力 と言い換えることができる ただ長い距離を走るのではなく 短距離と一緒にドリルに取り組んだり 他種目や球技にも取り組んだりすると効果的である 特に ハードル走への取組を勧めたい 走りの柔軟性では 股関節の可動域を広げることを大事にしたい 入念にストレッチを行うだけではなく ハードルを用いて股関節を使うドリルや 身体を大きく動かす動きドリルを多く取り入れたりする等 動的なストレッチを行うと良い 自分自身が中距離走に取り組んできたので 考え方の中心に中距離種目があるが スピード化が進む長距離種目においても 800m や 1500m の動きを意識した 3000m への取組も重要と考え 結果として 平成 25 年度北信越中学駅伝を 56 59 (1 人平均 9 29 ) で優勝し 4 800m リレーでも県中校記録 8 39 26 (1 人平均 2 10 ) を樹立することができた (2) 長距離走のフォーム長距離を走る上で大事にしたいフォームとは リラックスを心掛けつつ以下を意識したい くるぶしが反対の膝を通るようにする 膝から動かす意識を持つ 振り出した脚が接地する前に 反対の膝を前に持ってくる (3) コツコツと努力ができる力 と成功体験技能面以外では コツコツと努力ができる力 を身に付けたい それは 勉強 清掃 生徒会活動等 普段の学校生活の中でも十分身に付けることができる 中長距離走の楽しさは 記録の伸びが ( 多種目に比べ ) 大きいため成長を実感しやすい ことにあると考えている 自分に合った目標を立て コツコツと努力し 目標を達成した喜び ( 成就感 達成感 ) が味わい モチベーションがさらに高まる 過程があるので苦しい練習にも耐えられると考える したがって 指導者はより多くの成功体験が積み重なっていくように選手を支えていくことが大事になる 2 指導上の留意点 練習は 軽過ぎず 重過ぎず と考え 一日追い込んだら 翌日はジョグ 等の流れが丁度良い 漫然と走るのではなく ジョグ等もフォームを考えながら走ることで速くなる また 長距離の練習は単調になりがちなので 楽しく体を動かせる 鬼ごっこ や 球技 等 変化に富んだ練習計画を立てると良い 一方で 練習をしてもなかなか成果が出ないばかりか むしろ遅くなってしまうことがある その場合は 貧血を疑ってみる必要がある 特に 発汗量が増える夏場や涼しくなり始めた頃は要注意で 顔に血の気がない 下まぶたの裏が白っぽい インターバル練習についていけなくなった 等の症状や変化が見られる場合は 貧血の可能性を疑い 検査を勧めるようにしたい また 中長距離走に限らないが 生徒の生活そのものに ゆとり を与えることも大切になる 特に最近の中学生は忙しく 宿題で精一杯の生徒も多くいるので 大会等でなければ 休日は 1 日のみの練習にしたり 早めに練習を切り上げたりする等 余暇の時間をできるだけ多く確保してやることも必要と考える そのようなリフレッシュが 陸上競技に向かうエネルギーにもなる
3 各種目の目標記録へのアプローチ 中長距離選手が目標記録を達成するためには どのようなペース配分で走ればいいのか 指導者は知る必要がある 各種目の目標記録達成の基本的な考え方は 以下の通りになる (1)800m 走スピードタイプかスタミナタイプかで若干変わってくるが 1 周目に 400mの自己ベスト +4 秒で走り 2 周目は1 周目のタイム+2 秒が 丁度良いとされている 例えば 男子 800m の全中出場の 800m 目標タイム全日本中学校陸上競技選手権大会標準記録突破標準記録 2 01 を突破するには Lap 累積 男子 2 01 50 女子 2 17 00 1 周目を 59 5 2 周目を 61 5 で No, 距離 走るのが理想的なペース配分となり 1 400m 0 59 5 59 5 1 07 5 67 5 400m 走の走力は 55 秒台が必要に 2 800m 2 01 0 61 5 2 17 0 69 5 なってくることが分かる (2)1500m 走 男子標準記録 4 08 50 を突破す 1500m 目標タイム全日本中学校陸上競技選手権大会標準記録突破 るには 1 周目を 64 とやや抑え気 Lap 累積 男子 4 08 50 女子 4 38 00 味に入り 2 周目 66 3 周目 68 ラスト 300mを 50 程度のペースが丁度いい リラックスして 1000m を通過し ラスト 300mでスピードを上げた走りに切り替えられるかがポイントになる No, 1 2 3 4 距離 400m 800m 1200m 1500m 1 04 0 2 10 0 3 18 0 4 08 0 64 0 66 0 68 0 50 0 1 11 5 2 25 0 3 40 5 4 37 5 71 5 73 5 75 5 57 0 目標タイムで走るためには 200mを平均何秒ペースで走ればいいか計算し 1000m の通過は遅くとも平均 ペースの合計で通過したい 例えば 5 00 を目標にする場合の 200mの平均ペースが <(60 5) (1500 200)> 40 秒になる したがって 1000mは 遅くとも <40 (1000 200)=200 =3 20 >3 分 20 秒で通過しなくてはなら ない 学校の校庭に 200mトラックがある場合は 1000m のタイムトライアルで レースの記録が予想できる 土の 200mトラックを 1000m 走り 3 20 を切れば レース時は 5 00 3 10 を切れば レース時は 4 45 3 00 を切れば レース時は 4 30 2 50 を切れば レース時は 4 15 の力があるとみてよい (3)3000m 走 1500m 走同様 200m の平均ペースを計算する 目標が 10 00 切りなら 200m 平均は <(60 10) (3000 200)>40 秒になる 以下 1000m 通過 3 15 ~20 2000m 通過 6 35 ~40 になり 急激なペースアップをせず ラスト 300~200m 地点までペースを守り ラストは全力でスピードを上げていく 学校の校庭に 200m トラックがある場合 2000m のタイムトライアルで レースの記録が予想でき レースで走りたいペースで 2000m まで走ることができれば レースでは およそ 3000m まで走ることができる つまり 200m トラックで 2000m6 40 走ることができれば 3000m で 10 00 の力と言える 3000m 目標タイム全日本中学校陸上競技選手権大会標準記録突破 Lap No, 累積 距離 男子 8 59 00 1 400m 1 12 0 72 0 2 800m 2 24 0 72 0 3 1200m 3 36 0 72 0 4 1600m 4 48 0 72 0 5 2000m 6 00 0 72 0 6 2400m 7 12 0 72 0 7 2800m 8 24 0 72 0 8 3000m 8 59 0 35 0
4 効果的な練習方法の事例 (1) 年間の練習計画の立て方先述通り 中長距離選手においても 動きづくり が必要であり パート練習だけでなく陸上部全体での練習は 部員のまとまりを意識する意味でも大切なので ウォーミングアップやドリルは 短距離と一緒に取り組むのもよい 特にホッピング ( 片足ジャンプ ) やバウンディング等のジャンプ系のドリルをやることで スピードが身につく 時間が短い時には ドリルを省いてメイン練習のみにしたり ドリルをジョグでつないで持久力を養ったりすることも考えられる メイン練習の内容は時期によって異なり 1 年間を大きく 3 つの時期に分けて考えるとよい 中体連の大会を照準に冬季や夏季を 鍛錬期 とし 試合に向けて技術練習や体調を整える 調整期 試合が重なってくる 試合期 の 3 つに分ける 下記の表を参考に各時期にあったメイン練習をするのがポイントになる 鍛錬期 調整期 試合期 およその時期 12~3 月の冬期鍛錬期 8 月の夏季鍛錬 夏季大会に向かう 4 月新人戦や駅伝に向かう 9 月 全国大会に向かう 6~7 月新人戦や駅伝のある 9 下旬 ~12 月 メイン練習の考え方 種目に関係なく主に走り込みを行う 男子は月間 300km 女子は 200km を目安にする レースに向けてスピード練習を少し増やしていく 故障に気を付け 急に上げ過ぎないようにする レースのペースや若干 それより速いペースでの練習を増やす (2) 鍛錬期における練習メニュー駅伝を中心に考え 3000m を全員が 9 40 切り の目標で実施した ( 平成 25 年度塩尻広陵中 ) 1 1 週間の計画例曜 練 習 メ ニ ュ ー 月 60 分ジョグ ドリル 手つなぎ鬼ごっこ 補強 火 8000mヘ ースランニンク (400m を 92 ~96 ヘ ース ) 300m 3( ラストは全力 他は 9 割 ) 補強 水 サーキットトレーニンク 30 分ジョグ 100m 流し 5 補強 木 60 分ジョグ ドリル 坂ダッシュ 100m 7~10 補強 金 30 分間バスケットボール 手つなぎ鬼ごっこ 補強 土 8000m ビルドアップトレーニング 300m 3( ラストは全力 他は 9 割 ) 補強 日 休養 2 工夫点や留意点 夏季は できるだけ涼しい時間帯に実施 冬季は 積雪でペースが上げられない場合 ジョグ 道路等が使用不可の場合 校舎の階段を利用 冬季 活動時間が確保できない場合 各自でジョグや補強を多めにする等で対応 ジョグのペースは 4 30 前後 疲労具合で対応 練習の締めに補強を入れるが ジョグの負荷を上げるため 練習の最初に実施の場合もあり 補強内容は 手押し車 30m 3 100m 馬跳び 腹筋 50 回 背筋 50 回等
(3) 試合期における練習メニュー中体連夏季大会に向けて 以下の目標を立て実施 ( 平成 25 年度塩尻広陵中 ) 目標 800m 選手 :2 03 北信越進出 1500m 選手 :4 10 全中進出 3000m 選手 :9 40 切り 1 1 週間の計画例 曜練習メニュー 月火水木金土日 休養 ドリル 100m 流し 5 6000~8000m ヒ ルト アッフ 300m 3( ラストは全力 他は 9 割 ) 補強 30 分ジョグ ラダー 100m 流し 5 スヒ ート 練習 (200m 10 200m ジョグつなぎ 3 本ラスト全力 )800 1500 3000 の選手合同 800m 選手と 1500m 選手は 30 秒設定 3000m 選手は 32 秒設定 ジョグで 800 選手と 1500 選手に追いつくようにする 30 分ジョグ ドリル 100m 流し 5 スピード練習 補強スヒ ート 練習例 800m 選手 600m(1 30 設定 )+ 200mジョグつなぎ + 200m 全力ダッシュ 1500m 選手 1200m(3 23 設定 )+ 200m ジョグつなぎ + 300m 全力ダッシュ 3000m 選手 2000m(6 25 設定 )+ 600m ジョグつなぎ + 1000m 全力ダッシュ 2 工夫点や留意点 スピード練習は レースのペースを意識 距離が短い場合 若干速く 距離が長い場合 若干遅め 上記以外に 様々なバリエーションで行うが はじめを速すぎず ラスト数本を全力で行う つなぎのジョグは 200m を 60 ペース基本 中学生には負荷が強過ぎるため ゆっくりで構わない (4) 試合期における練習メニュー通信陸上大会の週の実際の練習メニュー ( 平成 25 年度塩尻広陵中 ) 1 1 週間の計画例 曜練習メニュー 月火水木 休養軽めのジョグ レースペースの 100m 流し 5 マッサージアップはレースを想定し個人実施 800mレースペース走 (2 10 ) ダウン マッサージアップはレースを想定し個人実施 マッサージ レースプランの確認 金アップはレースを想定し個人実施 800m レースペース走 (2 10 ) 土通信陸上 1500m( 目標 4 10 ) 日通信陸上 3000m( 目標 9 15 ) 2 工夫点や留意点 レースのある週は 練習量を落として 特に脚部の疲労を抜く 前日もしくは前々日にスピード練習を入れ 筋肉に適度な張りを持たせる ( 疲労が抜けて体が動くようになるが ある程度 筋肉に張りがある方が走りやすい )
5 特に大事にしたい練習方法や環境等 (1) ビルドアップトレーニング長距離走のトレーニングで各期間共通で大事にしたいのが ビルドアップトレーニングである ゆっくりとしたペースから入り 次第にペースアップ ( ビルドアップ ) していくトレーニングである ペースアップは 1000m~2000m 等 ゆっくり部分を長めに設定したり 1000m より短いスパンで急激なペースアップしたりする等 目的に応じて多様なバリエーションが考えられる 設定タイム通り走ることができたら 徐々に設定タイムを上げたり ペースアップのスパンを変えたりする等 試行錯誤するとよい 例 6000m ヒ ルト アッフ トレーニンク 目標 3000m 9 30 切り 200m 校庭周回数累積距離 200mLap ~ 5 周 ~1000m 50 6~10 周 ~2000m 48 11~15 周 ~3000m 46 16~20 周 ~4000m 44 21~25 周 ~5000m 42 26~29 周 ~5800m 40 ~30 週 ~6000m フリー ( 全力 ) (2) ドリルドリルは短距離と同様のものでよい ドリルをする上で大事なことは 身体を真っ直ぐにすること 常に膝から動かす意識になる また ドリル 1 本 1 本の後にランを入れ ドリルで意識したポイントが実際に活かされているか確認させるようにする (3) 練習環境松本平広域公園陸上競技場や近隣の公園の芝を利用できたらいいが なかなか難しい 膝や足首の負担を考えれば 道路を走るのではなく 校庭で走ることが望ましい また 練習会場を種目別で異なることも考えられるが 全種目が同じ会場で練習することは 部員の意識を共有することになり 部のまとまりにもつながってくる