失敗しない堆肥の使い方と施用効果

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コシヒカリの上手な施肥

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目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

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PC農法研究会

窒素吸収量 (kg/10a) 目標窒素吸収量 土壌由来窒素吸収量 肥料由来 0 5/15 5/30 6/14 6/29 7/14 7/29 8/13 8/28 9/12 9/ 生育時期 ( 月日 ) 図 -1 あきたこまちの目標収量確保するための理想的窒素吸収パターン (

1. 取組の背景射水市大門地域は 10a 区画の未整備な湿田が多く 営農上の大きな障害となっていた 昭和 62 年に下条地区で県内初の大区画圃場整備が実施されたのを皮切りに 順次圃場整備が進んでいる 大区画圃場整備事業が現在の 経営体育成基盤整備事業 になってからは 農地集積に加えて法人化等の担い手

水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル(改訂版)

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     くらぶち草の会の野菜、畑作栽培技術

大分県農業共済組合 大分県農業共済組合作成 収入保険と既存制度の掛金及び補てん金の比較 ( 大分県 ) 品目 : 米 平均収入 100 万円作付面積 83a 単収 504kg/10a シナリオ 1 販売価格が 地域平均で シナリオ 2 販売価格が 個人のみで シナリオ 3 自然災害により 地域全体が

カンキツの土づくりと樹勢回復対策 近年高品質果実生産のために カンキツ類のマルチ栽培や完熟栽培など樹体にストレスをかける栽培法が多くなっています それにより樹体への負担が大きく 樹勢が低下している園地が増えています カンキツ類を生産するうえで樹が適正な状態であることが 収量の安定とともに高品質生産の

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チャレンシ<3099>生こ<3099>みタ<3099>イエット2013.indd

植物生産土壌学5_土壌化学

Ⅰ 収穫量及び作柄概況 - 7 -

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広報たかす

植物生産土壌学9_水田土壌.ppt

委託試験成績 ( 平成 25 年度 ) 担当機関名 部 室名 実施期間 大課題名 課題名 目的 担当者名 山口県農林総合技術センター 農業技術部土地利用作物研究室 資源循環研究室 平成 24~26 年度 Ⅰ 大規模水田営農を支える省力 低コスト技術の確立 うね立て同時条施肥機を利用した被覆尿素の深層


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山形県における 水稲直播栽培の実施状況 平成 28 年 8 月 26 日 ( 金 ) 山形県農業総合研究センター 1 1 山形県における水稲直播栽培の現状 1 (ha) 2,500 2,000 1,500 1, 乾田直播 湛水 ( 点播 ) 湛水 ( 条播 ) 湛水 ( 散播 )

排水対策の実施例 暗渠がある場合排水がよいほ場 排水が悪いほ場 周囲明渠 弾丸暗渠 心土破砕は 2 ~5m おきに行う 周囲明渠は深さ 30 cmを確保する 周囲明渠は排水口に確実に接続する 弾丸暗渠本暗渠 暗渠がない場合排水がよいほ場 排水がよく 長辺が長いほ場 100m 以 ほ場内排水溝は4 ~

26 Ⅴ-1-(7)水田での有機物利用

04千葉県農耕地土壌の現状と変化.indd

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土壌化学性診断 土壌の化学性関係項目を分析し 作物生育等との関係を解析し 改善すべき点をアドバイスします 診断メニューは 全項目診断 改善経過を見る主要項目のみの診断や微量要素の過不足が疑われる場合の診断とともに 解析 診断のみといったメニューを取り揃えています 一般分析土壌の施肥特性など把握すると

2 地温 : 15~25 の温度帯に緩効性効果が一番高い 30 を超えると ウレアーゼ抑制材の分解が加速する上 微生物の繁殖も速くなり 微生物の活性を抑える効果が低くなる 3 土壌 ph: 弱酸性土壌 (ph5.5) からアルカリ性土壌 (ph8.0) まで土壌 ph が高いほど緩効性効果も高くなる

(1) 購入苗 品種 サイズ 苗数 購入日 ( 植付日 ) くろがね 大玉 2 本 4 月 24 日 マイボーイ 中玉 3 本 4 月 24 日 愛娘 小玉 3 本 5 月 2 日 黒姫 小玉 3 本 5 月 2 日 縞王 大玉 1 本 5 月 16 日 合計 11 本 平成 26 年スイカ作り 2

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注 ) 材料の種類 名称及び使用量 については 硝酸化成抑制材 効果発現促進材 摂取防止材 組成均一化促進材又は着色材を使用した場合のみ記載が必要になり 他の材料については記載する必要はありません また 配合に当たって原料として使用した肥料に使用された組成均一化促進材又は着色材についても記載を省略す

ふくしまからはじめよう 農業技術情報 ( 第 39 号 ) 平成 25 年 4 月 22 日 カリウム濃度の高い牧草の利用技術 1 牧草のカリウム含量の変化について 2 乳用牛の飼養管理について 3 肉用牛の飼養管理について 福島県農林水産部 牧草の放射性セシウムの吸収抑制対策として 早春および刈取

取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

農家圃場における    メタン発酵消化液を用いた              栽培実証試験

新梢では窒素や燐酸より吸収割合が約 2 分の1にまで低下している カルシウム : 窒素, 燐酸, カリとは異なり葉が52% で最も多く, ついで果実の22% で, 他の部位は著しく少ない マグネシウム : カルシウムと同様に葉が最も多く, ついで果実, 根の順で, 他の成分に比べて根の吸収割合が高い

附則この要領は 平成 4 年 1 月 16 日より施行する この要領は 平成 12 年 4 月 3 日より施行する この要領は 平成 30 年 4 月 1 日より施行する 2

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Taro-(2)畑地土壌の診断基準.jtd

Microsoft Word - ⑦内容C【完成版】生物育成に関する技術.doc

インドネシア・ジャワ島西部 地震・津波災害に緊急援助物資供与 ~約1300万円の物資を19日に空輸~

千葉県農耕地土壌の実態と変化

写真2 長谷川式簡易現場透水試験器による透 水性調査 写真1 長谷川式土壌貫入計による土壌硬度調査 写真4 長谷川式大型検土杖による土壌断面調査 写真3 掘削による土壌断面調査 写真5 標準土色帖による土色の調査 樹木医 環境造園家 豊田幸夫 無断転用禁止

石川県水田フル活用ビジョン 1 地域の作物作付の現状 地域が抱える課題 水稲作付面積については 昭和 60 年の 37,700ha から 平成 25 年では 26,900ha と作付 面積で約 10,000ha 作付率で約 30% と大きく減少したものの 本県の耕地面積に占める水稲作 付面積の割合は

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2 作物ごとの取組方針 (1) 主食用米本県産米は 県産 ヒノヒカリ が 平成 22 年から平成 27 年まで 米の食味ランキングで6 年連続特 Aの評価を獲得するなど 高品質米をアピールするブランド化を図りながら 生産数量目標に沿った作付けの推進を図る また 平成 30 年からの米政策改革の着実な

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Ⅱ-3 環境負荷低減技術 ( 1) 土壌分析結果を生かした施肥量削減 1 技術の内容土壌分析により土壌養分の量を把握し 現況の養分量にあわせ施肥量を加減する方法である 2 期待される効果養分が過剰にある場合は施肥量を減らすことができ 肥料のコスト低減にもつながる 特に施設園芸や果樹園 茶園では土壌中

Ⅲ-3-(1)施設花き

目次 1. やまだわら の特性 _ 1 収量特性 1 2 品質 炊飯米特性 2 3 用途別適性 3 2. 生育の特徴 4 3. 収量 品質の目標 5 4. 各地域での主な作付スケジュール 6 5. 栽植密度 7 6. 肥培管理 1 施肥量 施肥時期 8 2 生育診断 9 7. 収穫適期

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Microsoft Word - 堆肥Q&A.doc

画面遷移

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参考1中酪(H23.11)

研究成果報告書

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H30年産そば方針

H26 中予地方局産業振興課普及だより 新技術情報 -1 いちご新品種 紅い雫 ( あかいしずく ) 1. 紅い雫 の来歴県農林水産研究所が育成したいちご新品種 紅い雫 は あまおとめ ( 母親 ) 紅ほっぺ ( 父親 ) の交配により誕生し 平成 26 年 6 月 25 日に品種登録出願されました

バンカーシート 利用マニュアル 2017年版(第一版)

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圃場試験場所 : 県農業研究センター 作物残留試験 ( C-N ) 圃場試験明細書 1/6 圃場試験明細書 1. 分析対象物質 およびその代謝物 2. 被験物質 (1) 名称 液剤 (2) 有効成分名および含有率 :10% (3) ロット番号 ABC 試験作物名オクラ品種名アーリーファ

20 石川県農業総合研究センター研究報告第 28 号 (2008) Ⅰ はじめに家畜ふん尿処理施設では 収集 運搬された家畜ふん尿は固液分離機に搬入され 固形分は堆肥化処理後 農耕地へ還元利用されている 液状分は好気発酵処理 さらに生物処理等の工程の順に適切な浄化処理が行われ その後 放流されている

表 30m の長さの簡易ハウス ( 約 1a) の設置に要する経費 資材名 規格 単価 数量 金額 キュウリ用支柱 アーチパイプ ,690 直管 5.5m 19mm ,700 クロスワン 19mm 19mm ,525 天ビニル 農 PO 0.1mm

参考資料2 生ごみ等の飼料化、たい肥化に関するヒアリング結果

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15 表 1 平成 7 野菜の 1a 当たり収量 及び ( 全国 ) 計 品目 1 a 当たり収量 対前比 1 a 当たり収量 474,7 1,654, 11,66, 99 nc nc 根 菜 類 164,7 5,11, 4,49, nc だ い こ ん,9 4,6 1

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技術名

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宮城県 競争力のある大規模土地利用型経営体の育成 活動期間 : 平成 27~29 年度 ( 継続中 ) 1. 取組の背景震災により多くの生産基盤が失われ, それに起因する離農や全体的な担い手の減少, 高齢化の進行による生産力の低下が懸念されており, 持続可能な農業生産の展開を可能にする 地域営農シス

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分娩後の発情回帰と血液生化学値との関係(第2報)

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東京電力原発事故による 「みやぎの農畜産物」への 影響とその対策

Title 東南アジア熱帯林における土壌酸性の変動とその規定要因 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 山下, 尚之 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL

沖縄県 生食用パインアップル産地の育成とブランド化 活動期間 : 平成 23 年度 ~ 継続中 1. 取組の背景国産パインアップルは 沖縄県の本島北部地域及び石垣島で生産が行われており 土壌酸度が低い酸性土壌の地域で栽培が行われてきた 生産された大部分は缶詰に加工されており 昭和 60 年には生産量

1 作物名     2 作付圃場 3 実施年度   4 担当

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p1_10月月報用グラフ

11 表 1 平成 5 野菜の 1a 当たり収量 及び ( 全国 ) 計 1 a 当たり収量 対前比 1 a 当たり収量 ( 参考 ) 対平均収量比 481,1 1,551, 11,451, 99 nc nc 根 菜 類 169,5 5,144, 4,6, 98 nc nc

1 課題 目標 山陽小野田市のうち 山陽地区においては 5 つの集落営農法人が設立されている 小麦については新たに栽培開始する法人と作付面積を拡大させる法人があり これらの経営体質強化や収量向上等のため 既存資源の活用のシステム化を図る 山陽地区 水稲 大豆 小麦 野菜 農業生産法人 A 新規 農業

ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

下関市立大学広報第72号

仙台稲作情報令和元年 7 月 22 日 管内でいもち病の発生が確認されています低温 日照不足によりいもち病の発生が懸念されます 水面施用剤による予防と病斑発見時の茎葉散布による防除を行いましょう 1. 気象概況 仙台稲作情報 2019( 第 5 号 ) 宮城県仙台農業改良普及センター TEL:022

機関名 ( 地独 ) 北海道立総合研究機構農業研究本部 部署名 企画調整部企画課 記入者氏名 山崎敬之 電話番号 レーザー式生育センサを活用した秋まき小麦に対する可変追肥技術 レーザー式の生育センサを使って秋まき小

リン酸過剰の施設キュウリほ場(灰色低地土)における基肥リン酸無施肥が収量に及ぼす影響

4 奨励品種決定調査 (1) 奨励品種決定調査の種類ア基本調査供試される品種につき 県内での普及に適するか否かについて 栽培試験その他の方法によりその特性の概略を明らかにする イ現地調査県内の自然的経済的条件を勘案して区分した地域 ( 以下 奨励品種適応地域 という ) ごとに 栽培試験を行うことに

「副資材の特長を生かした畜産堆肥のつくり方」

29 Ⅵ-1-(1)(2)環境保全型農業

資料報告

2 穂の発育過程 (1) 穂の形態 イネの穂は 穂軸が枝分かれして し 1 次枝こう 2 次枝こうがつき それ にえい 花 ( 小穂 ) がつく 1 つのえい花 ( 小穂 ) は 1 花から成 っており その数は 1 次枝こうの先に 5~6 個 2 次枝こうに 2~4 個つき 1 穂全体では 80

地震動による被害(題目は14ポイント,MSゴシック体で)

Transcription:

失敗しない堆肥の使い方と施用効果 ( 財 ) 日本土壌協会専務理事猪股敏郎 耕種農家が堆肥施用する場合の動機として前回 農作物の品質向上 次いで 連作障害が起きにくくなる 収量が向上 農作物が作りやすくなる などが主な項目であることを紹介した 今後 こうしたニーズに応えていくには良質堆肥の施用は基本であるが そうした目的に添った堆肥の種類や使い方に十分留意していく必要がある 耕種農家としても農家経営としてメリットがあるから堆肥を用いているのであってその使い方によって期待した品質 収量が得られなければ堆肥施用を控えることとなる 今後そうした堆肥の使い方に関する情報を提供していくとともに 特にデータの少ない堆肥施用による品質向上も含めて具体的な堆肥施用効果の情報を提供していく必要がある 1. 堆肥の使い方による失敗堆肥に関連して期待した効果が得られないのは 次のような場合が多い 1 堆肥の品質に関連するものでは 未熟堆肥を作物に施用することにより生育障害が生じたケースが多い 2 堆肥の施用方法に関しては 作物によって施用量や施用時期を変えなかったことによる収量や品質低下のケースが多い 水稲では堆肥を連用していった場合 肥料の施用量を控えていかないと稲が倒伏することがあり 品質も低下する また みかんなどでは堆肥施用により早期多収 早期成園化ができるが 堆肥施用により窒素コントロールが効きにくく 糖度低下を招く可能性を指摘している例も多い 愛知県のある生産者組合においては ハウスミカン栽培で 植付け当初は堆肥などを投入し 樹冠の拡大を図るが 結実前には 肥効時期の特定が難しい堆肥の施用は行わず 腐植含量の増加と土壌物理性 化学性改善のため ピートモスのような肥料成分の含まない有機物の施用を行っている というところもある 特に熱心な野菜産地などで見られるのは 堆肥を大量に連用することによる作物の収量 品質の低下である 徳島県のある野菜産地の農協において堆肥の連用の影響を調査した結果 数年間は多量区ほど多収であったが次第に差がなくなり 5 年目には 6t 区が最低となった この減収の原因は 塩基バランス ( カリ過剰 ) によると考えられる このため 現在では堆肥 4t を施用基準としているとしている 3 圃場の排水対策 堆肥の施用方法等堆肥の施用効果を高めるための方法を行っていないことによるケースも多い これについては余り指摘されていないので後ほど紹介したい 2. 堆肥の施用効果と使い方 (1) 堆肥は連用により効果を発揮北海道立上川農試と中央農試では 水稲で昭和 37 年 ~ 平成 4 年までの 31 年間それぞれ土壌型の異なる土地で有機物の連用試験を行い 収量等の解析を行っている その結果収量指数は対照区 ( 化学肥料 ) と比較して褐色低地土において 堆肥区で 110 春わら散布区で 104 秋わら鋤込区で 109 であり 堆肥区が最も収量が高かった

また グライ土においては 堆肥区が 103 秋わら鋤込区が 103 で堆肥区と秋わら鋤込区の収量指数が同じであった 全体として排水良好な褐色低地土においてグライ土より連用効果が大きく現れた 表 1 土壌型別 有機物施用区別収量指数 褐色低地土 グライ土 対照区 100 100 (459kg/10a) (513kg/10a) 窒素増施区 105 101 堆肥区 110 103 春わら散布区 104 - 秋わら鋤込区 109 103 資料平成 4 年度北海道農業試験会議 ( 成績会議 ) 資料を基に一部改変 注 ) ( ) 内実数 収量増加の要因として 透水性の良い褐色低地土水田においては 有機物を連用することによって土壌に土塊の形成がなされ これにより湛水 非湛水期を通じて縦浸透が増した これが水稲の根量や根の活性に好影響を与え 有機物からの養分付加と相まって各種養分吸収を促進し 稔実籾数の増加に結びつき 31 年間の平均収量で 110% の増収になったものと推定される また グライ土においても同様の傾向がみられるが 褐色低地土ほど稔実籾数の増加となっていないし 稔実籾の登熟歩合も低下している なお この時の米の検査等級 食味特性は対照区 ( 化学肥料 ) と同じであった (2) 堆肥の連用効果は排水の良い水田で発揮水田の排水性と堆肥の連用効果について千葉県農試でも試験を行っている 千葉県に多く分布する排水の悪いグライ土水田を用いて昭和 57 年 ~ 平成 6 年まで 13 年間に亘ってコシヒカリを用いて稲わら堆肥の長期連用試験を行っている 堆肥連用 13 年間 ( 稲わら区は 9 年間 ) における水稲収量の平均で 最も収量指数の高かったのは 堆肥 3t 区で 102 次いで総合改善区 101 対照区 100 堆肥 1t 区 99 稲わら区 97 無窒素区 75 の順であった 堆肥 3t 区の収量指数は対照区と比べると 試験前期 105 試験中期 103 と多かったが 試験後期には 99 と対照区との差は小さくなった 暗渠設備のある隣接圃場で行われた有機物連用試験で 稲わら連用施用の 2 作目からは水稲の初期生育の抑制はみられず 5 作目以降は生育が促進されることが認められている こうしたことから千葉県農試においては窒素肥沃度が高い強グライ土において有機物の連用効果を発揮するためには 明 暗渠の設置により排水促進を図り 土層内を酸化状態に改善することが必要である と指摘している (3) 堆肥施用により品質 収量向上農家の堆肥施用の動機として品質向上が最も多いが それに関する具体的なデータは少ない 最近 当協会で行った各種調査試験の中から主なものを紹介する ア 白菜の品質と収量茨城県総和町の茨城白菜組合の圃場で 2 年間 化学肥料区 鶏糞堆肥 2 年連用区 鶏糞堆肥 9 年連用区で白菜の収量 品質を調査した 収量は 昨年天候が悪く全体として小玉であったが 堆肥 9 年施用区 が最も多く 3.2 kg/ 個 次いで 堆肥 2 年施用区 2.7 kg/ 個 化学肥料区 1.9kg/ 個となっており 昨年と同様の結果となっており 堆肥の連用による効果が現れている 白菜の品質については 全糖度やビタミン C 含量について昨年同様堆肥施用区より 化学肥料区 がやや高い値を示している

一方 食味を悪化させる硝酸性窒素の含量は 堆肥の連用区では低く 化学肥料区 ではかなり高含量となっていて 堆肥施用の効果が現れている また ハクサイの断面の黄色部比率は 昨年同様 堆肥 9 年施用区 や 堆肥 2 年施用区 が 化学肥料区 と比較して大きく ( 写真 ) 漬け物等消費者に好まれる白菜が堆肥施用区では生産されている 表 2 白菜の堆肥の施用等による品質 黄色部率 (%) 全糖度 (%) ビタミンC(mg/l) NO3-N H14 H13 H14 H13 H14 H13 (mg/l) 1 化学肥料区 25.3 35.1 6.7 6.8 497 269 1,470 2 堆肥 2 年施用区 42.5 47.1 5.3 5.4 210 298 533 3 堆肥 9 年施用区 36.2 61.1 5.5 4.0 278 311 913 注 ) 各分析の成績は5 検体混合サンプルによる ( 写真 ) 白菜の黄芯割合の試験区による差異 また 白菜の日持性については 堆肥 9 年施用区 や 堆肥 2 年施用区 が 化学肥料区 と比較して白菜の重量の減少率が少なく 堆肥連用区の日持性が良かった この結果は昨年 一昨年とも同様の結果となっており 堆肥連用区の白菜の日持性の良さが再確認できた また 本年度初めて行った保存試験後の可食部の比率については 化学肥料区と比較して堆肥連用区の可食部率が高かった イレタスの品質と生育鉢植栽培試験により窒素の量を合わせて 牛ふん堆肥のみ 牛ふん堆肥 2+ 化成肥料 1 牛ふん堆肥 1+ 化成肥料 1 牛ふん堆肥 1+ 化成肥料 2 化成肥料のみ の試験区を設けて生育 品質を調査した ( 写真 ) レタスの生育と根の状況

生育は 牛ふん堆肥 1+ 化成肥料 1 が最も良かった また 食味を悪くする硝酸性窒素については 化成肥料のみ が 2200 mg/ リットルと最も多く 次いで 牛ふん堆肥 1+ 化成肥料 2 で 1050mg/ リットルと 化成肥料のみ の約半分の値であった 最も少なかったのは 牛ふん堆肥のみ で 750mg/ リットルである 化成肥料のみ のレタスは食べてもえぐみがあった 3. 堆肥の効果的施用による農家経営改善事例 ( 堆肥利用によるキュウリの長期収穫 単收向上 ) 大分県玖珠町の梶原氏のキュウリの単收や秀品率は農協胡瓜部会の中でも例年 ダントツに秀でた成績を収めている 夏秋キュウリの生産は昭和 60 年から開始しており その栽培に当たっては 1 単収の向上 2 7 月初めから 10 月初めにかけての約 100 日間に及ぶ長期取りの実現に目標をおいて取り組んできた キュウリの長期取りのためには健全な根づくりが大切で その基本となるのは堆肥の施用と排水対策である そのため 毎年自家生産堆肥を 10t/10a 施用するとともに 転作田で作付けしていることから 暗渠や排水溝を設置し高畦で栽培してきた このような取り組みを始めてから単收が次第に上がってきて 6 年目の平成 2 年には 20t/10a の単収を上げるまでになり しかも格段に秀品率の高いキュウリ生産を達成できるようになった その後 気象条件により変動はあるが 20t/10 に近い単収を例年上げている ちなみに 梶原氏以外のキュウリ生産農家の単収も年々向上してきてはいるが それでも単收は平均で 7t/10a 程度で 多い人でも 10~12t/10a である こうした単收の差が生じる最も大きな要因は 堆肥の施用にあると梶原氏は指摘している 表 3 梶原氏のキュウリ栽培開始年と最高単収年の比較 単收 (t/10a) 等級比率 (%) 秀 (L) 優 (M) 良 (S) 規格外 備考 S60 年 8t 30 30 20 20 部会平均単收 H 9 年 20t 50 30 10 10 H 9 年 5.6t/10a 長期のキュウリの収穫には堆肥は欠かせないが 梶原氏は一度に大量の堆肥を投入するのではなく生育後半まで樹の活力を保たせるため 粗大有機物を原料とした良質堆肥を 4 回に分けて施用する キュウリの生育途中での堆肥の施用は畦の肩に堆肥を散布して 土寄せを行っている これには除草の意味もある このようなやり方で堆肥を入れると 堆肥のところにキュウリの根が張ってくる 根の量が増えてくると成り疲れしないし また 自然災害に遭った時の回復力が異なる 梶原氏のキュウリの秀品率の高さは生育後半まで樹勢が保たれるようにすることと 樹の状態に応じた水分管理 養分管理の賜物と言える 地域の他の生産農家はキュウリ植え付け前に一回堆肥を施用し ロータリーで土と混ぜ合わせるのが一般的である 梶原氏と同様に大量の堆肥を確保して分施出来ないという理由としては 1 牛舎の敷料としておが屑を用いているところが多く おが屑が未熟で堆肥の品質に問題があり キュウリへの生育影響の懸念から大量に入れにくいということ 2 良質堆肥の原料となる野がやを秋遅く刈り取り運搬するなどの労力の問題から必要な堆肥の量が確保しにくいということ などが挙げられる こうした取り組みの違いが長期取りキュウリの樹勢の維持に影響し 単收 秀品率の違いになっ

ている ( 写真 ) 梶原氏のキュウリの生育状況 梶原氏は繁殖牛生産などとの複合経営の強みを生かして 牛ふんと野がや 籾殻などを原料として堆肥を自家生産している 堆肥原料の組成は 野がやが多くかなり肥料成分の少ない繊維成分の多い堆肥となっている なお 梶原氏の土壌の状況は 養分保持力を示す陽イオン交換容量について平成 3 年には 23.5mg 当量であったものが次第に上昇し 平成 13 年には 29.8 mg 当量になっている このように陽イオン交換容量が上昇してきた要因は 堆肥の連用の結果である 特に堆肥を大量に施用した場合に問題になる塩類集積については 塩基飽和度が平成 13 年において 76.5% で また 土壌中の水溶性塩類の総量を表す電気伝導度も 0.38 S/cm と適切な水準になっている これは肥料成分の少ない堆肥を用いていることと 施肥管理が適切であることによるものと考えられる