IC タグメモリ大容量化と航空機部品管理への適用 三菱電機株式会社 太田一史 UHF 帯パッシブ RFID の主流となっている EPCglobal C1G2/ISO18000-6C 規格準拠の IC タグは 一般的に 96bit の ID およびほぼ同程度の制御データを持ち ユーザーが自由にデータを格納できるユーザーメモリー領域はオプションとなっている 近年技術の進歩とともにユーザーメモリーを搭載したタグが出現しており 従来はバーコード同様の ID 管理のみの役割を果たしてきた UHF 帯パッシブ RFID に 媒体としての利用可能性が広がってきた 三菱電機の大容量メモリータグは 約 64kbit のメモリーを持ち うち 60kbit がユーザーメモリー領域に割り当てられている 本稿ではこのようなタグを航空機部品管理等に応用する場合の要件や応用例について紹介する 1.UHF 帯パッシブ RFID の標準規格とユーザーメモリー領域 (1) 標準規格 EPCglobal C1G2/ISO18000-6C 自らは電池を搭載せずに リーダーライターからの電磁波の作用により通信に必要な起電力を得る IC タグをパッシブタグと呼ぶ LF 帯 (125/135kHz) HF 帯 (13.56MHz) 2.45GHz 帯等 幾つかの周波数帯とそれに応じた通信方式がある中 UHF 帯 (860MHz~960MHz) の RFID はパッシブでもタグ リーダー間の距離が数メートルあっても通信できる特徴があり 数 cm~1m 級が典型的な通信距離である他の方式と一線を画す UHF 帯パッシブ RFID 用に制定されている通信規格 EPCglobal C1G2/ISO18000-6C( 1) の一括読み取りプロトコルと相まってゲート通過時の荷物の一括読み取りが可能となり 欧米を皮切りに物流管理に利用されるようになった ( 1)EPCglobal は流通バーコードを管理する国際機関 GS1 等が発足させた EPC 技術普及を目的とした標準化機関 C1G2 とは Class 1 Generation 2 の略で 物流の効率化を目的に制定した UHF 帯パッシブ RFID のデータフォーマットや通信プロトコルの国際標準規格 後に ISO でも ISO18000-6C として標準化された (2) メモリー構成 EPCglobal C1G2/ISO18000-6C では IC タグのメモリーは図 1に示す通り バンク0からバンク3までの4つのメモリーバンクから構成される バンク1の EPC(Electronic Product Code) 領域はこのタグが貼られている商品の個体番号を入れるフィールドであり 個別のタグを指す場合 便宜上この固体番号をタグの ID としてみなすことが多い ID 以外のユーザデータの格納のための領域はバンク3のユーザーメモリー領域の役割だが 実装は必須ではない 物流利用のタグの場合はこの領域の実装が 0bit の製品が多いが 技術の進歩とともに 512bit 1.5~2kbit 更にはキロバイト級のユーザーメモリー領域を搭載したタグが出始めている
バンク 0 RESERVERD 領域 バンク 1 EPC 領域 バンク 2 TID 領域 バンク 3 ユーザーメモリー領域 パスワード等 個体識別番号 タグ種類固有情報 オプション 図 1.UHF 帯パッシブ RFID タグの論理メモリー構造 2.UHF 帯パッシブ RFID の仕組みと大容量メモリータグの技術課題 (1)UHF 帯パッシブ RFID の通信の仕組み一般 PC ユーザー用のメモリーカードは数 GB( ギガバイト ) のメモリーを搭載したものが市販されているにも関らず パッシブ RFID では 512bit(64Byte) や 60kbit( 約 8KB) というオーダーのメモリサイズが議論の対象となるのはパッシブタグは電池を積まないためである UHF 帯パッシブのタグはリーダーライターから照射された電波をタグのアンテナで受け その電波から起電力を得てタグの IC チップが起動し リーダーライターからの電波の反射波上にレスポンスを変調してリーダーライターとの通信を実行する このようにしてタグは自分の中に電源を持たないにも関わらずリーダーライターと通信シーケンスを行うことができる (2) 大容量メモリータグの通信距離このようにタグが読めるかどうかは IC チップが起電するに十分な電波を受けることができるか否かに依存している 一般に IC チップにメモリーを多く積むとその分多くの起電力が必要となりリーダーライターの出力やタグのアンテナサイズ 設計などの条件を同じにした場合 大容量メモリータグの方が通信距離は短くなる 一般に大容量メモリータグは一括読書きするものではなくピンポイントで特定のタグのメモリーを読み書きするため 通常の UHF 帯 RFID タグほどの通信距離は必要ないとされているが 回線設計上マージンがあることは リーダを小さくしたり 少ない電力でもタグの読み書きができるなど システムデザインに余裕をもたらすので基本性能としては通信可能距離が長い方が好ましい 当社の大容量メモリータグ RF-TGM005の読み取り距離は約 1.5m と UHF 帯パッシブタグとして十分な通信距離を確保できている
3. 航空機部品に搭載する RFID タグに求められる条件 航空機搭載部品に RFID タグを付ける検討は今日までに搭載条件 環境条件 通信プロト コル データフォーマットの標準化が進められてきている UHF 帯パッシブ RFID に関数 するこれら標準化等の状況について紹介する (1) 航空機への搭載条件航空機への搭載可否については FAA ( Federal Aviation Administration : http://www.faa.gov) がガイドラインとして Advisory Circular AC20-162 Airworthiness Approval and Operational Allowance of RFID Systems を 2008 年に発行している ここには RFID タグの搭載条件として タグ動作はパッシブであること ( またパッシブであれば EMC 試験は不要 ) タグの反射波の高調波は 35dBμV/m 以下であること 利用する周波数帯は 航空機が利用する周波数帯外であること (UHF 帯パッシブ RFID に割り当てられている周波数帯域は各国の電波法により異なるが 860MHz~ 960MHz の中に納まっており この条件には適合する ) 第四高調波までも航空機利用周波数外であること 地上でのみ運用可能 運用する際は航空機が移動中ではなく また稼働中の滑走路や誘導路 ( タクシーウェイ ) にもないこと なお RFID タグが故障したり交換したときも航空機部品自体の部品番号を変える必要はない ことが記載されている また SAE (Society of Automotive Engineers) は航空機に搭載するタグに要求する環境条件 として 2006 年に試験規格 SAE AS5678 を制定している この規格には温度条件 湿度条 件 衝撃 振動 液体耐性 磁気効果 難燃性などが含まれている (2) 対応周波数帯後述する 各航空会社での航空機部品整備作業履歴を大容量メモリータグに保存するようなアプリケーションでは 世界各国で整備作業が行われるため タグはどの国の利用周波数でも十分な性能を持つ ワールドワイドタグ である必要がある 一般に一つの国内で使われることを前提とするタグはその国の周波数帯で最大性能を発揮するように最適チューニングされており それ以外の帯域では性能が大きく異なるものである 例えば当社金属タグは日本の周波数帯域 952~954MHz で最大の性能を発揮するように最適チューニングされている これに対しワールドワイド対応のタグは 860MHz から 960MHz の広い帯域で十分な性能を持つように設計される
4. 大容量メモリータグの使われ方 一般に大容量メモリータグの利用方法は 1 複数の機関間の情報共有の媒体としての利用 2トップダウンの指示の媒体としての利用 3ボトムアップの情報収集の媒体としての利用 の 3 種類がある いずれの場合もオンラインデータベースでの情報集約よりも 管理対象物本体に情報をつけて情報流通させる方が便利な場合に効果を発揮する (1) 航空機部品整備履歴管理航空機業界では複数の航空機会社間での整備記録履歴の交換に IC タグのユーザーメモリーを利用する検討を進めている ATA(Air Transport Association) ではこのためのデータフォーマットをその標準 Spec2000 の Chapter9 で規格化している この規格ではメーカーが書き込む製造情報レコード (Birth Record) や 整備の都度追記される整備履歴レコード (Part History Record) などが指定されている このように標準化された整備履歴が部品に付属するようになると 例えば当該航空機部品が他の航空機会社の所有下に移管されても 各社のデータベースが直接連携することなく 重要な整備事象の情報を伝達できるメリットがある これは複数の機関間の情報共有の例である (2) 工程管理における作業指示大容量メモリータグを部品に付けるもう一つの利用方法として 製造工程における作業指示データの格納がある 作業が画一化されているラインでは作業指示で混乱することはないが 工程順序が入れ替わったりカスタマイズ要件が多かったり あるいは急なラインの組み換えにより予定と異なったパラメータで作業を行うことが起きるようなラインでは 作業指示の電子データが本体に付随して動くことで現物と指示との不整合を抑止でき オンラインデータを参照する方式に比べてシンプルにすることができる (3) 作業履歴の一時格納前述 Spec2000 には Scratchpad Record という 整備士同士が連絡用に使える通信領域が設けられている また製造工程でのアプリケーション例では製造の過程で発生したデータを一時的に大容量メモリータグに保存して 工程の最後にこれらのデータをデータベースにアップロードする運用が考えられる このように現場のネットワーク環境が整備されていない場合 或いは製造現場の制御用ネットワークに載せるにはデータ量が多い場合などに IC タグが情報の一時格納領域として利用される 5. 大容量メモリー UHF 帯 RFID 製品の特徴三菱電機の大容量メモリータグ RF-TGM005 は 60kbit のユーザーメモリー領域を搭載しており これを 1kbit 単位のブロックごとにパスワードでリードロック ライトロックをかける機能を有している また対応するリーダーライター RF-RW004 もこのアプリケーション インターフェースを搭載しており タグの情報へのアクセスがしやすい他 上書きされては困るブロックの保護や 特定のユーザーが特定のブロックしか読み書きできないようなアプリケーションが構築可能である
大容量メモリータグ (RF-TGM005) リーダーライター (RF-RW004) 図 3. 大容量メモリー UHF 帯 RFID 製品概観 バンク 0 RESERVERD 領域 バンク 1 EPC 領域 バンク 2 TID 領域 バンク 3 ユーザーメモリー領域 パスワード等 個体識別番号 タグ種類固有情報 1Kbit #1 1Kbit #2 1Kbit #3 1Kbit #4 1Kbit #5 1Kbit #6 1Kbit #7 1Kbit #60 60Kbit の大容量ユーザ領域 1Kbit のブロックごとのアクセスコントロールが可能 図 4. 大容量メモリータグ論理メモリー構造 以上 航空機部品管理への適用を中心に UHF 帯パッシブ RFID を利用した部品管理の一 つのあり方を紹介した 航空機に限らず他の業界でも RFID による管理を検討 再検討す る際にも参考にされたい 以上