原木市売市場における製材機能の統合に関する一考察

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原木市売市場における製材機能の統合に関する一考察 愛知県の事例から 中川 宏治 2013 年 8 月 1

原木市売市場における製材機能の統合に関する一考察 愛知県の事例から A study on the integration of sawmill functions to a raw wood market - Case study of Aichi Prefecture- 中川宏治 要旨本稿では, 愛知県東三河地域に拠点を置く原木市売市場の取引から 原木市売市場の製材機能を統合する上での課題と方向性について検討した 原木市売市場の製材事業部および流通事業部が原木を買い取っている事業体は, 上位 13 事業体が材積ベースで全体の約 80% を占めていた 製材事業部が入札を経ず直接原木を入荷しているスギの平均単価は 同時期の製材事業部や流通事業部の落札価格と比較して高かった 直送で取引のある売手は原木市売市場の入札に参加しておらず, 直送が原木市売市場の入札参加者に与える影響は大きくないと思われる 一方で, 製材事業部および流通事業部が原木市売市場を通して買い取っている売手は 7 事業体となっており, これらの多くは製材事業部および流通事業部以外の買手も多く落札している しかし 製材事業部および流通事業部が戦略的に対応することで 主な出荷先である集成材メーカーとの協定に基づく取引数量を安定化させることができ また 原木市売市場の売手に与える影響も軽減することができている その結果 製材事業部の原木市売市場への参入前後で, 落札量や平均単価の時系列での推移のパターンに変化は認められていない キーワード : 原木市売市場 価格形成 製材 愛知県 2

Ⅰ はじめに原木市売市場は, 零細な所有者と製材工場とを結ぶ意味を持ち, 物や情報が一点に集まることによる流通の合理化 集約化や自由競争による価格形成機能, 金融機能をも果たしてきた ( 前田 佐藤, 2006) 現在, 地域林業活性化の課題である, 原木の量のまとまりを確保するためには, 素材生産と原木消費を結ぶ原木市売市場が重要な役割を担うと考えられる ( 遠藤ら, 1999) 原木市売市場への出荷は, 素材流通における相対的な位置を高めきたが ( 川田, 2005), 近年はやや原木市売市場のシェアが低下傾向である ( 遠藤ら, 1999) 全国の国産材供給者の素材出荷先別出荷割合を見ると, 原木市売市場への出荷割合は, 2011 年度で 38.8% であり,2006 年の 51.4% から減少している その反面, 製材, 合単板,LVL, 木材チップ工場の割合が同時期で 34.0% から 41.4% に増加している ( 農林水産省, 2012) 特に, 近年は全国的に大型製材工場の設立が進行しており, 既存の原木市売市場は, 自己の市場を介さない木材の大型需要者の出現に対し, 取扱量の減少を危惧している ( 田中, 2013) 原木市売市場は主に手数料収入に依存しており, 経営を継続するためには, 一定量以上の事業量確保が不可欠であるといえ ( 前田 佐藤, 2006), 原木市売市場にとっては事業量確保は喫緊の課題である 原木市売市場に製材機能を付与する取り組みは, 原木市売市場の復権に向けた大きな変革の一つといえよう 既存の原木市売市場に対する大型製材工場の設立の影響については田中 (2013) の研究では, 丸太を出荷する林業事業体に対する聞き取りの結果から考察している また, 原木市売市場の製材機能に関しては, 製材機能における材の産出量が相対的に少ない場合に原木市売市場に製材機能を付与することの経済合理性を示した石田 小阪 (2008) の研究があるものの, 実際に導入した原木市売市場の事例研究はない そこで本研究では, 原木市売市場の機能変化として, 製材機能を付加した原木市売市場を取り上げ, 製材部を導入した前後の状況の変化について, 原木買取に関するデータを分析し整理した上で, 関係者への聞き取り調査の結果も踏まえ, 3

原木市売市場における製材機能の導入のあり方について考察を加える なお, 本稿では, 越智 中山 (2009) に倣い, 山から市場まで素材 ( 原木 ) を出した事業体 ( 売方 ) を集荷者, 市場で原木を購入した事業体 ( 買方 ) を出荷者と表記することとする Ⅱ 調査対象地の概要調査対象とした原木市売市場 (A 原木市場 ) は愛知県東三河地域におけるわが国国産原木の流通 利用促進を目的として, 愛知県内の森林組合や製材事業者を組合員とし,2000 年にまず原木市が設立された 2001 年に製材工場,2002 年にプレカット工場が設立された これらは 流通事業部, 製材事業部, プレカット事業部 として同じ協同組合に属してはいるが, それぞれに独立採算制を取っている なお,A 原木市場では,2011 年 6 月に, 流通事業部および製材事業部が落札に参加するようになった 本稿では, これ以降, 流通事業部および製材事業部を合わせて 事業部 と呼び, それぞれの事業部を 製材事業部 および 流通事業部 と呼ぶこととする 流通事業部は, チップ 合板用丸太の買い取りを目的としており, 一定量を効率的に確保し, 得意先の大手に納入している 製材事業部は, 当初は製材事業担当の組合員が落札した原木を仕入れていたが, 途中から効率化とコスト削減を図るために直接取引を主体として取り組んでいる 愛知県内の素材需要量に占める割合は, 2009 年度現在, 県内需要量 257 千立米に対して, 2011 年現在の A 原木市場は 37 千立米を取扱い, その比率は 14% 強である しかし国産材需要から見るとき, 県内の国産材需要量は同年で 61 千立米であり, 県内国産材需要中 61% を占める ( 愛知県林務課,2009, 林野庁,2012) このことは A 原木市場が地域材流通の要としての役割を果たしていることを示す なお,A 原木市場の取り扱っている原木の平均単価を全国平均と比較してみると, スギ 4m の 14~22cm,24~28cm のそれぞれの径級で,A 原木市場の平均単価は全国平均よりも低く, 特に 2012 年 2 月頃からはその差が開く傾向がある 4

ただし,5 月から 7 月にかけて平均単価が下がる傾向については両者で同様に認められる ( 図 -1) 所在地は三河山間部の入り口, 新城市富岡にあり, 奥三河から豊橋方面へ向けての出材はすべて富岡から 5 キロほど北の長篠を通る また数キロ南には東名高速道路を擁しており, この土地で集荷 仕分けを行う事はこの地方の国産材原木にとって, 格好のストックヤードを提供することになる 取扱材積は成長を続けており, 2012 年度の目標実績は 40 千立米である ( 聞き取り調査による ) また, 製材事業部では集成材, 合板, チップを生産している しかし近年では集成材の割合は減り, 合板やチップに比重が移っている 図 -1: 全国および A 原木市場のスギ 4m 材の平均単価の推移 14~22cm( 全国 ) 24~28cm( 全国 ) 14~22cm(A 原木市場 ) 24~28cm(A 原木市場 ) 15000 10000 5000 2010 年 9 月 10 月 11 月 12 月 2011 年 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 2012 年 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 平均単価 (m3) 出典 : 荷主清算一覧表および農林水産省木材価格統計調査より筆者が作成 Ⅲ 調査方法本稿の調査方法は,A 原木市場でのデータ収集および聞き取り調査を行った データは, A 原木市場から 2013 年 8 月 9 日に入手した 荷主清算一覧表 (2010 年 9 月 23 日から 2012 年 11 月 22 日までの約 2 年分 ) を用いた 具体的には, A 原木市場への集荷者や出荷者の動向および落札単価等のデータを用いて, 製材事 5

業部の導入前後の取引の状況を分析 整理する また,A 原木市場の従業員への 聞き取り調査を行った Ⅳ 結果 A 原木市場の原木の取り扱いの特徴について, 製材事業部が導入された 2011 年 6 月以降の出荷材積を整理すると表 -1 の通りである このように, スギの 4m 材が 52.6% と過半を占めることから, これ以降, 断りのない限り, スギの 4m 材を中心に分析を行うこととする 表 -1: 製材事業部導入 (2011 年 6 月 ) 以降の樹種 長級別の取扱量 表 -1 2011 年 6 月以降の原木市場の樹種 長級別の取扱量 3m 4m 6m 材積 (m3) 割合 (%) 材積 (m3) 割合 (%) 材積 (m3) 割合 (%) 杉 7,383 13.77% 28,211 52.63% 275 0.51% 桧 7,829 14.60% 9,396 17.53% 168 0.31% その他 (15 種 ) 47 0.09% 288 0.54% 12 0.02% 計 15,258 37,895 455 出典 : 荷主清算一覧表より筆者が作成 A 原木市場では, 製材事業部と流通事業部が原木の取引に参加している 製材事業部は, 入札に参加するか, または事業体や森林所有者から直接原木を入荷するかの 2 通りの方法により原木を確保している また, 流通事業部は, この中で流通事業部は, 売り方 および 買い方 の両方で登録しており, 主に, 合板会社販売用として丸太を落札している ( 聞き取り 2013 年 6 月 16 日 ) まず, どのような集荷者が製材事業部に原木を提供しているか見てみよう ( 表 -2 ) 表 -2: 主な売手から事業部が買い取った原木の材積および単価 6

単位 :m3( 材積 ) 円( 単価 ) 売手 ホルツ三河ホルツ製材事業部ホルツ製材事業部直送ホルツ以外 2011 年 5 月以前合計 ( 材積 ) 材積平均単価材積平均単価材積平均単価材積平均単価材積平均単価 事業体 A 136 8500 763 9939 3471 9865 899 2445 13432 素材生産業者 A( 新城森林 ) 353 7812 432 10215 2897 8467 785 2040 10359 事業体 B 308 6767 341 9564 1330 11136 649 503 13548 素材生産業者 B( 設楽森林 ) 347 7266 121 10189 1379 10645 468 843 10760 事業体 C 6 6750 237 9000 144 5411 242 95 9916 素材生産業者 C( 個人 ) 6 11333 194 9461 93 11632 200 愛知県土木事務所 120 4036 37 7900 1352 6261 156 333 8462 森林所有者 ( 複数 ) 4201 10316 497 9554 4201 173 10983 森林組合 A 748 10351 46 25200 748 森林所有者等 719 11640 719 事業体 D 603 10889 603 県森連 485 11263 12 7250 485 254 23900 その他 ( 参考 ) 581 46 団体 1595 71 団体 481 3 団体 2658 29507 141 団体 合計 1,858 1,595 54,459 12,813 36,193 注 : 上位 13 事業体で全体の79.3% を占める その他 には 複数の事業体が含まれ 団体数を明記している ホルツ三河は 製材事業部が導入された同時期に入札に参加している 事業部が落札や直接入荷で得た原木の材積ベースでみると, 上位 13 事業体の集荷者で総材積の約 80% を占めている また, 全体の事業体数では, 製材事業部が 78 事業体, 流通事業部が 53 事業体と多いが, 製材事業部の直送はわずか 9 事業体と少ない これ以降, これら全体の約 80% の材積を占める事業体を中心に分析するが, その場合, 上位 80% として区別する 製材事業部が導入された 2011 年 6 月以降について, 事業部とその他の買手が買取った原木の径級別の平均単価を比較した結果を表 -3 に示す 流通事業部では,14cm~ 16cm でその他買手の平均より高く, 製材事業部では,14cm から 19cm で同様の傾向が認められた また, 製材事業部が直接取引している原木では 32cm までのすべての径級でその他買手の平均より高く, 各事業部で小さい径級でその他の買手よりも高い金額で買い取っていることがわかる 表 -3: スギ 4m 材の事業部およびその他の買手の径級別平均単価 7

径級 流通事業部製材事業部製材 ( 直送 ) その他の買手 t-test 平均単価標準偏差平均単価標準偏差平均単価標準偏差平均偏差流通事業部製材事業部製材 ( 直送 ) 8cm 以下 515 682 - - - 9~11cm 844 438 - - - 12~13cm 377 45 5629 823 2096 834 - - P<0.001 14~16cm 6484 1525 8246 1300 7959 1030 6119 1322 N.S. P<0.001 P<0.001 17~19cm 5950 1220 8661 1310 10641 715 7919 1573 P<0.001 P<0.05 P<0.001 20~22cm 7504 1852 9573 1270 11684 1237 9431 1614 P<0.001 N.S. P<0.001 24~28cm 7761 1540 9779 1363 12639 1744 10550 1546 P<0.001 P<0.01 P<0.001 30~32cm 8158 2262 10014 1351 12672 1800 11559 1524 P<0.001 P<0.001 P<0.001 33~35cm 7500 707 11081 1691 12585 1931 13136 2022 - P<0.001 P<0.05 36~38cm 8750 2986 11259 1634 12424 2271 13926 1844 - P<0.001 P<0.005 40cm 4500 4041 11796 1542 12245 2596 18335 5068 - P<0.001 P<0.001 注 : データは ホルツ製材部が営業を開始した 2011 年 6 月以降のものである 事業部が原木を買い取った売手の上位 7 事業体に限定して, 径級別の出荷材積を見る ( 図 -2) ここでは, 表 -3 で事業部とその他で平均単価に有意差がなかった径級をひとまとめにして 17cm から 22cm とした この中で県土木は 2011 年 6 月以上に事業部以外で出荷材積が急増しており, 素材生産業者 C も同時期に事業部の出荷材積が増えたため全体的に材積が増加した ただし, 県土木の場合, 主に高速道路建設などに伴う支障木伐採である また, これらの 7 事業体すべてで両時期で出荷材積を維持しているといえる 事業部以外の落札量の変化では, 県土木, 事業体 B, 素材生産業者 A, 事業体 A, 素材生産業者 C の 5 社で材積が増加している さらに, 事業部では, 径級 16cm 以下の材積が少ないが, それ以外は 2011 年 6 月以降は同レベルである 図 -2: 事業部におけるスギ 4m 材に関する主な買手の径級別の買い取り材積 8

県土木事業体 B 事業体 C 素材生産 B 素材生産 A 事業体 A 2010 年 9 月 ~2011 年 5 月 16cm 以下 17~22cm 24~38cm 40cm 素材生産 C 0 5 10 15 20 25 月平均出荷材積 (m3) 県土木事業体 B 事業体 C 素材生産 B 素材生産 A 事業体 A 素材生産 C 2011 年 6 月 ~2012 年 11 月 ( ホルツ ) 16cm 以下 17~22cm 24~38cm 40cm- 0 5 10 15 20 25 月平均出荷材積 (m3) 県土木事業体 B 事業体 C 素材生産 B 素材生産 A 事業体 A 素材生産 C 2011 年 6 月 ~2012 年 11 月 16cm 以下 17~22cm 24~38cm 40cm 0 5 10 15 20 25 月平均出荷材積 (m3) 出典 : 荷主清算一覧表より筆者が作成 次に, 製材事業部が導入された 2011 年 6 月以前とそれ以降の買取材積の相違を 見てみる ( 図 -3) 導入以降では, 事業部以外の入荷者の買取材積は多くの径級で 9

増加している また, 事業部の買取材積はおおむね少ないが, 各月のばらつきが 大きいことが特徴といえる 図 -3 A 原木市場のスギ 4m 材径級別の月平均買取材積 月平均買取材積 (m3) 500 400 300 200 100 2010 年 9 月 -2011 年 5 月 2011 年 6 月 -2012 年 11 月 2011 年 6 月 -2012 年 11 月 ( ホルツ ) 0-8cm 9-11cm 12-13cm 14-16cm 18cm 20-22cm 24-28cm 30-32cm 34cm 36-38cm 40cm- 径級 出典 : 荷主清算一覧表より筆者が作成 全期間を通した落札量および事業体数の推移を図 -4 に示す 5 月から 6 月にかけては他の時期と比較し落札量が多い傾向が続いている これは, 上位 80% の事業体の原木が多く落札されているためである また, 材積ベースで下位 20% の事業体数が多い市日にはそれらの事業体による落札量も多いが, 時期の傾向は認められない 図 -4 A 原木市場での落札量の時系列での推移 10

上位 80% 下位 20% 事業体数 ( 上位 80%) 事業体数 ( 下位 20%) 2000 60 1600 50 40 落札量 (m3) 1200 800 30 20 割合 (%) 400 10 0 0 100923 101007 101104 101118 101202 101216 110113 110127 110210 110224 110310 110324 110407 110421 110512 110526 市日 落札量 (m3) 2000 1600 1200 800 400 0 ホルツ製材事業部直送 ホルツ製材事業部 ホルツ三河 上位 80% 下位 20% 事業体数 ( 上位 80%) 事業体数 ( 下位 20%) 出典 : 荷主清算一覧表より筆者が作成 110609 110623 110707 110721 110804 110825 110908 110922 111007 111020 111110 111124 111208 111222 120112 120126 120209 120223 120308 120322 120405 120419 120510 120524 120610 120621 120705 120719 120802 120823 120906 120920 121004 11 121018 121108 121122 図 -5 に 2011 年 5 月以前と製材事業部導入後の 2011 年 6 月以降の径級別の平均 単価を示す 13cm 以下の径級を除いて, 2011 年 6 月以降で平均単価が減少して いる 図 -5:A 原木市場のスギ 4m 材径級別の平均単価 60 50 40 30 20 10 0 市日 割合 (%)

2011 年 5 月まで 2011 年 6 月以降 2011 年 6 月以降 ( ホルツ製材部 ) 40000 平均単価 ( 円 ) 30000 20000 10000 0 8cm 以下 9~11cm 12~13cm 14~16cm 17~19cm 20~22cm 24~28cm 30~32cm 33~35cm 36~38cm 40cm 径級 出典 : 荷主清算一覧表より筆者が作成 Ⅴ 考察本稿では, ここまでに整理した A 原木市場の取引の状況を分析し,A 原木市場の職員への聞き取り調査の結果を踏まえ,A 原木市場の原木市売市場の機能の向上と両立する形での, 製材事業部の方向性について考察を加える 製材事業部が原木市売市場を通して他の製材会社に対して有する優位性は,1 運賃を掛けずに済むこと,2 川上, 川下の情報がスピーデイーに入手できること,3 原木市売市場を通して, 毎回売手や買手と直接交流することで, 信頼関係が構築できることなどが挙げられる (A 原木市場聞き取り 2013 年 6 月 ) 事業部が原木を買い取っている事業体は, 上位 13 事業体が材積ベースで全体の約 80% を占めており, これらの事業体の動向を見ることで, 事業部の取引が原木市売市場の入札参加者に与える影響を推察することができよう 製材事業部が入札を経ず直接原木を入荷しているスギの平均単価は約 10,800 円となっており, 同時期の製材事業部 ( 入札 ) の 9,400 円, 流通事業部の 7,400 円と比較しても高い 直送材の主な用途は, 間柱や集成材用ラミナの生産である (A 原木市場聞き取り 2013 年 6 月 18 日 ) また, 直送で取引のある売手は原木市売市場の入札に参加しておらず, 直送が原木市売市場の入札参加者に与える影響 12

は大きくないと思われる 遠藤ら (1999) は, 森林組合が直送に転換する要因として原木市売市場の価格形成力の低下を挙げている 宮城県の事例により, 原木市売市場で津山産地の買方の購入量の減少のため, 原木市売市場の価格形成力が低下し, 森林組合から製材工場への直送に拍車をかけたとしている ( 遠藤ら, 1999) 本稿で, 製材事業部に直送で入荷している事業体のうち, 具体的に名称が明らかである 県森連, 丸山, 津具 のうち, 県森連 のみ 2011 年 5 月以前に A 原木市場に原木を出荷しており, その平均単価 ( スギ ) は 23,900 円と高い 県森連 は,2011 年 6 月以降には, 製材事業部への直送にシフトしており, 11,263 円と安い単価で倍以上の材積を販売していた 2011 年以前は, 原木価格が高く, 特にヒノキは 2013 年 6 月現在の 50 から 60% 程度高い値段で取引されており, 2012 年以降には, 県森連は, ヒノキ価格の下落に対応し, チップ 合板用丸太の比率を高める戦略をとっているという (A 原木市場聞き取り 2013 年 6 月 18 日 ) このように, 県森連は, 間柱や集成材用ラミナ用の原木のロットの確保に強く貢献しており, 直送材の価格決定要因といえる 一方で, 事業部が原木市売市場を通して買い取っている売手は 7 事業体となっており, これらの多くは事業部以外の買手も多く落札している また, 事業部が高く落札している径級 16cm 以下の原木について, 事業部がこれらの 7 事業体から落札している原木の材積は, 他の径級と比べると少ない 事業部は, このクラスの買取材積を抑制しており, その理由として, 納入先の事情が考えられる この径級は, 間柱や集成材用ラミナを製材する目的で, 主に集成材メーカー等に出荷している ( 聞き取り 2013 年 6 月 18 日 ) 田中 (2013) では, 兵庫県宍粟市は直営林からの原木の出荷については, 既存の山崎木材市場と新たに設置された木材センターの 2 者への均等を意識しながら木材を販売しており, 市内の民間事業体のどちらかに肩入れすることは好ましくないと市が判断しているためだとしている 本稿でも, 県土木が上記の 7 事業体の中で最も多くの入荷材積を占めており, 同様の判断が影響している可能性があ 13

る また, 田中 (2013) は, 山崎木材市場へ以前から出荷していた森林組合を含む林業事業体の多くで, 木材センターの稼働開始に伴う木材の出荷先変更は少なかった理由として, これらの事業体で従来の取引慣行を安定的に継続することを重視している点を挙げている 本稿においても, 出荷量の多い主な売手との取り引きにおいて, 事業部以外の買手の落札量は事業部の参入後もほとんど影響を受けていない また,17cm から 22cm の径級では, 事業部とその他の買手の間で, 平均単価に差が認められなかったが, 同じように買取材積でも数値に大きな差は認められない さらに, 24cm 以上の径級についても, 2011 年 6 月以降の事業部とその他の買手の間の買取材積の差は明確ではなく, 製材事業部の導入前後において, 全体の買取材積は増加している また, 上位の事業体に関しては, 中目材以上の径級クラスの原木の落札単価が事業部で若干低い傾向があるにも関わらず, ある程度の量を事業部が買い取っていることが分かる これは, 原木市売市場への全体の入荷材積が後半で増加し, 事業部が形質に問題のある原木を適正価格で落札していることが理由と考えられる 実際に, A 原木市場に聞き取りを行ったところ, 17cm 以上の径級では,B 材の比率が高くなり, 落札額にバラツキが生じるため, 事業部は B 材を中心に落札または買い取りを行っているという (A 原木市場聞き取り 2013 年 6 月 18 日 ) 事業部の原木市売市場への参入の前後において, 落札価格の標準偏差の変化として統計上明確に表れていないが, 事業部は原木市売市場の組合員に対して好ましい対応をとっているといえる (A 原木市場聞き取り 2013 年 6 月 18 日 ) 田中 (2013) の兵庫県宍粟市の事例では, 地域での大型製材工場の立ち上げ後も, 地域で生産流通される木材の量が増加し, 既存の原木市売市場に与える負の影響が認められず, 出荷事業体の出荷先の選定は取引慣行を重視して固定的であるとしている 本稿においては, 全体量が増加していること, 事業部が原木市売市場で良質材を安価に落札することがないことなどから, 事業部の参入が他の買手に与えている影響は現状では低いと考えられるが, 田中 (2013) の結果と同様に, 取 14

引慣行が固定的であることも要因として影響している可能性がある 事業部の原木市売市場への参入前後で, 落札量や平均単価の時系列での推移のパターンに変化は認められない 例えば,5 月から 7 月にかけては平均単価は全国の傾向と同様に低下し, 同時期の落札量は多い 梅雨時には, 森林所有者は木材の搬出を嫌がることがあり, また, 高温多湿のこの時期は土場でムシが入ることもあり, 原木市売市場は取引にリスクを抱えることが多い しかし,A 原木市場の場合, 事業部の参入以前から, 入荷材積の多い主な売手が 5 月から 6 月頃に多く入荷する傾向があり, この時期の原木取扱量が多く確保されている また, 下位 20% の売手の中には, 規則性はないが, 定期的に落札量を大幅に増やす事業体が存在することも事業部の参入前後で変わっていない ただし, 後半では原木の平均単価が下がる傾向があり, これは 2011 年以後の全国的なヒノキ価格の下落傾向の影響と, それに伴い, 取扱量に占めるチップ 合板用丸太の比率が高まったことが要因であると考えられる (A 原木市場聞き取り 2013 年 6 月 18 日 ) 地域産材を活用した木造住宅の生産は, 地域の林業振興を図る上で重要な取り組みである この点で, 石田 古阪 (2008) は, 原木市売市場が中心となって山主や素材生産業者などの零細業者をネットワーク化する必要性を, 全体のアウトプットに最も影響する部分を重点管理ポイントとして抽出し, その部分の管理に注力する TOC の視点 ( 船木, 2004) により示しており, 原木市売市場の重要性が認められている ネットワーク化の結節点として, 原木市売市場と製材業者の統合オペレーションを検討しており, 製材機能における材の産出量が少ない場合は, 原木市売市場に製材機能を付与することの経済合理性が高いとしている A 原木市場では, 17cm 以上の径級で価格差がつく傾向があり, 製材事業部では, これらの径級の B 材を買い取り, 間柱や集成材用ラミナを製材し, 主に集成材メーカー等に出荷することを通して, 地域林業に貢献しているといえよう Ⅵ まとめ 本稿では, 愛知県東三河地域に拠点を置く A 原木市場の取引の状況を分析し, 15

原木市売市場の製材機能を統合する上での課題と方向性について検討した 事業部が原木を買い取っている事業体は, 上位 13 事業体が材積ベースで全体の約 80% を占めていた 製材事業部が入札を経ず直接原木を入荷しているスギの平均単価は 同時期の製材事業部や流通事業部の落札価格と比較して高かった 直送で取引のある売手は原木市売市場の入札に参加しておらず, 直送が原木市売市場の入札参加者に与える影響は大きくないと思われる しかし 旨みのある直送の取引を ロットの確保が容易な県森連などの一部の事業体が独占しているという見方もできることから 製材事業部は今後 直送の取引事業体をどのように増やしていくのかが課題といえよう 一方で, 事業部が原木市売市場を通して買い取っている売手は 7 事業体となっており, これらの多くは事業部以外の買手も多く落札している しかし 事業部の戦略は他の買手とはいくつかの点で対照的である 一つは 径級 16cm 以下の原木を比較的高い値段で落札しているが 数量は抑制していることである 二つ目には それ以上の径級では B 材を中心に形質の劣る材を中心に適正価格で落札していることである このように対応することで 主な出荷先である集成材メーカーとの協定に基づく取引数量を安定化させることができ また 原木市売市場の売手に与える影響も軽減することができるのであろう 実際に 事業部の原木市売市場への参入前後で, 落札量や平均単価の時系列での推移のパターンに変化は認められていない A 原木市場では,17cm 以上の径級で落札額に価格差がつく傾向があり, 製材事業部がこれらの径級の B 材を買い取ることにより 地域林業の発展に貢献しているといえよう < 引用文献 > (1 ) 遠藤日雄, 石崎涼子, 土屋俊幸 流域林材業システム化と原木市売市場の 役割 : 岩手県気仙川流域の大型量産工場への原木供給の事例を通して 林業経 16

済研究 Vol.45(1), 1999 年, 75~ 80 頁 ( 2 ) 船木謙一 TOC の生産管理手法に関する世の中の研究状況 オペレーションズ リサーチ Vol.49(11), 2004 年, 687~ 693 頁 (3 ) 石田修一, 古阪秀三 地域産材を活用した木造住宅生産プロジェクトの地域間比較 日本建築学会計画系論文集 Vol.73(631), 2008 年, 1947-1952 頁 (4 ) 前田大輝, 佐藤宣子 原木市売市場の機能変化に関する考察 : 大分県日田地域を事例に 九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 Vol.61(2), 2006 年, 371~ 380 頁 (5) 農林水産省木材価格統計調査 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/mokuryu/kakaku/index.html ( 6) 越智俊之, 中山茂生 原木市場における原木流通実態調査 島根中山間センター研究報告 No.5, 2009 年, 167~172 頁 ( 7 ) 田中亘 大型製材工場の新設が地域の素材生産流通に及ぼした影響 兵庫県宍粟市の事例 森林応用研究 Vol.22(1), 2013 年, 19~25 頁 17