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相模原市発達障害支援センターにおける 生活支援プラン Map( まっぷ ) 作成の取り組み ~ 発達障害のある児童生徒の自己理解を進めるための支援ツールの活用 ~ 陽光園 発達障害支援センター渡辺智興高橋真美 Ⅰ はじめに 1 発達障害者支援センターとは発達障害者支援センターは 発達障害者支援法に基づいて 都道府県や政令指定都市に置かれる発達障害に関する専門機関である 相模原市では 平成 24 年 10 月に 相模原市立療育センター陽光園内に 相模原市発達障害支援センター ( 以下 市発達障害支援センターという ) を開設した 市発達障害支援センターは 発達障害のある人と家族 ( 特に保護者 ) への支援や発達障害の理解の促進を目的に 相談支援 普及啓発活動 支援者の人材育成のほか 子どもから大人までの一貫した支援体制の構築を通じてライフステージに応じた支援が受けられるシステム作りを行っている 市発達障害支援センターの特色の一つは 多職種による職員構成にある 常勤の社会福祉職 ( ケースワーカー 心理担当 ) 保健師 保育士 指導主事のほか 医療相談を担当する嘱託の医師並びに就労支援担当職員が配置されている このうち 指導主事の配置は全国的にも珍しく 市発達障害支援センターでは 教育 福祉 医療の連携強化により 学齢期における発達障害支援を充実することをねらいとしているところである 2 発達障害支援のステップ発達障害の支援に関しては とかく生活や学習においての困難さへの 気づき のあと すぐにどのように とりくむ かに着手しがちである つまずきの背景に発達障害の有無 を知ることは その後の適切な支援を考える際に必要であるが 障害の有無を明らかにしただけでは わが子や児童生徒に合った関わり方や取り組み方法を見つけることは難しい 何が得意で何が苦手なのか 好きなことと嫌いなこと やってみたいことなどを改めて見つめることで自分を知ることができ そのような自己理解ができて初めて 自分に合った生活の仕方や学び方が見えてくる このように 発達障害支援は 1 発達障害への気づき ( 保護者や所属校の教員等によるわが子や児童生徒の発達障害の気づき ) 2 発達障害の特性理解 ( 発達障害の特性を本人自身がわかる 知る 保護者がわが子の発達障害特性をわかる 知る 支援者が児童生徒の発達障害特性をわかる 知ること ) 3 発達障害特性に応じた子育てや支援 ( 当該本人 ( わが子 児童生徒 ) の障害特性を理解したうえで 本人 保護者 支援者が適切な対応を行うこと ) の3つのステップに分類することができる 資料 1 資料 1 発達障害支援のステップ -- 21 --

このうち 市発達障害支援センターは 困難さの背景に何があるのかを わかる 知る ことが大切であるとして 主に2の役割に重点を置いている 市発達障害支援センターでは 配置されている多職種による多面的な評価 ( アセスメント ) や医学的な診立てを参考にしながら 本人の得意 不得意などの発達障害特性を明らかにするとともに 発達障害のある本人が自分のことを また 発達障害のある本人の保護者がわが子の発達障害特性を わかる 知る ことを目標に 生活支援プラン Map( まっぷ )( 以下 生活支援プラン ) 資料 2 を本人 保護者と一緒に作成し 自己理解や特性理解を進めるとともに 家庭や学校等での自己発揮を目指した実践を進めているのである 資料 2 生活支援プラン Map( まっぷ ) 3 生活支援プランとは生活支援プランとは 相談者 ( 本人 保護者のことをいう 以下同じ ) と市発達障害支援センターが協働して策定する個別の支援計画 である ここでいう個別の支援計画とは 相談者が地域で安心して生活を送るための支援方法等を定めたもので 本人の属性に関する情報 生活支援の内容を書面に記載する冊子形式のもの であり 市発達障害支援センター独自の支援ツールである 生活支援プランは 相談者の書面による同意のもと 相談者が関わっている医療 保健 福祉 教育及び就労等の関係機関等に従事する者 ( 以下 関係者 ) から 相談者に関する情報を口頭もしくは書面により聴取しながら作成していくものである そして 生活支援プラン作成後から概ね3か月間 相談者や関係者から当該プランの進捗状況を確認し 必要に応じて当該プランの見直しや修正を行い その後も相談者からの依頼や市発達障害支援センターが自ら必要と判断した場合は 適宜 当該プランの見直しを行うものである 生活支援プランの所属校での活用方法としては 実際の教育活動において 発達障害のある児童生徒の1 行動への理解や対応の工夫に役立てていくことや 2 保護者との書面化による情報共有に加えて 3 個別の教育支援計画の策定や見直しの勘案資料としての活用を期待している 現時点では 1が中心となっているが 2や3への活用を普及していくことが求められている そこで本論文では 市発達障害支援センターの社会福祉職 ( ケースワーカー 心理担当 ) と指導主事が取り組んだ 学齢期 ( 小 中学生 ) 対象の生活支援プランの作成事例とその活用の実際を述べ 発達障害のある児童生徒の自己理解を進めていく必要性と 教育と福祉との連携について論じていく Ⅱ 生活支援プランの作成について 1 作成実績平成 25 年 12 月までに 学齢期を対象にした生活支援プランの作成実績は次のとおりである 資料 3 作成予定 には 心理検査や医療受診など 発達障害の有無に関する評価 ( アセスメント ) の段階のものが含まれる -- 22 --

また 最近では 発達障害のある児童生徒の保護者から 生活支援プランを作りたい との主訴で相談が入る事例も増えている 資料 3 作成実績 平成 25 年 12 月 1 日現在 るものである この場面で留意することは 出来る限り本人が自信をもって取り組めることを積極的に言語化していくことである 資料 5 自己理解のためのアンケート 2 基本の作成手順児童生徒の年齢や状態によっては 保護者中心に取り組む場合もあるが 基本的には児童生徒本人とともに作成する (1) 生活の様子 資料 4 生活の様子を すぐにシート ( 書面 資料 4 ) に書き込むのではなく まずは 担当職員 ( 社会福祉職 指導主事 ) が 好きなこと 嫌いなこと 得意なことや苦手なことなどの項目をあげて聞き取りをする なお ここでは 自己理解のためのアンケート 資料 5 というチェックシートを活用することが多い 資料 4 生活の様子このアンケートは 趣味 教科学習 学び方 学校生活の様子を 3~4 段階で自己評価をす 相談者の多くが すでに傷ついた体験を持っていたり どうせオレなんか と自信を失っていたりする場合がある このため 相談者の心理面の状態をチェックしながら 丁寧に面接を進めていく必要がある (2) 生活支援シート 資料 6 生活支援シート 資料 6 は 中心に本人の ねがい と そのために本人自身が取り組むことを記入する そのほか 学校 家庭 地域 相談支援機関 それぞれの場でどのようなことに取り組んでいくのかを記入する ここに記載された内容は 個別の教育支援計画や個別の指導計画作成の際に参考になる また 市発達障害支援センターの面接では ホワイトボードを積極的に活用している 音声言語のみのやりとりでは 言葉の意味や概念の捉えが面接者と相談者で異なることがよく起こるからである それを防ぐためにも できるだけ面接内容を可視化 視覚化する さらにここでは 目の前の課題だけに目を向けるのではなく 長期的な視点をもって本人の目指すものを明らかにしていく 発達障害特性には 想像力の弱さのため 将来のイ -- 23 --

メージが持ちにくい場合もある そのため おとなの階段 資料 7 を使い 自分の数年後をどの程度イメージできているのかを把握することや 出来る限り本人にわかりやすい具体的な表現を心がけている 資料 8 こんな支援が助かります! 資料 6 生活支援シート 資料 7 おとなの階段 (3) こんな支援が助かります! 資料 8 こんな支援が助かります! 資料 8 は生活支援プランのメインである 発達障害特性のある児童生徒は 苦手なことが他児より多かったり目立ったりすることが多い そのため この苦手な場面への支援が必要となる しかし 教員等の周囲に やってもらう だけの支援は望ましいものではない このシートは どのような支援があれば 本来自分が持っている力を発揮できるのかを記載するものである このシートは 具体的な支援内容の記述に関して 3つの視点でまとめていることが特徴である 資料 9 まず配慮が必要な場面や活動を特定する ( こんな時って ) 次に なぜ配慮が必要なのか という理由を明記する ( どんな時? こんな理由かな? ) そして その理由を踏まえたうえで 具体的な支援の工夫 ( こんな支援が助かります! ) を記載できる書式になっている このシートはまた 前述の発達障害支援のステップ 資料 1 と関連している こんな支援が助かります! の欄は とりくむ に該当するが そのためには どんな時? こんな理由かな? に目を向けることが 発達特性のある児童生徒の支援には欠かせない この部分がまさに わかる 知る であり この理由がわかることで 適切な支援方法が見つかるのである (4) 共有およびモニタリング上記の ( 1)~(3) までを 概ね月 2 回 3~4か月の面接で取り組む 生活支援プランが完成すると その後は学校等との共有をする 場合によっては 学校でケース会議を実施することもある -- 24 --

資料 9 3つの視点生活支援プラン完成までには 何度か学校とやり取りすることがある 実際に生じている課題に対し 部分的に市発達障害支援センターが関与し 学校と一緒に対応方法を検討することもある しかし 多くの事例では 完成と同時期に支援を学校や他の相談機関へと引き継ぐことになる そして 引き継ぎ後 3か月程度のモニタリング期間を経て状況を確認する ここで 一旦は市発達障害支援センターでの支援が終了となる 3 作成事例 (1) 療育相談 就学相談を受け 通常の学級に就学した小学校低学年 Aさん 1 相談支援期間 平成 2X 年 5 月 ~ 平成 2X 年 12 月 2 相談の主訴 学校の集団生活が苦手で 授業に参加できない 3 相談歴 医療歴 年少時から3 年間 市の療育相談を受ける 年中時に発達検査を実施 (WISC-Ⅲ) C 小児科受診 心理相談開始 就学相談を受け 通常の学級に就学 専門医療機関のD 病院受診 ADHD アスペルガー傾向と言われる 服薬開始 平成 2X 年 5 月 市発達障害支援センター初回面接実施 4 経過 ( 平成 2X 年 5 月 ~ 平成 2X 年 12 月 ) 5 月 学校 医療機関と連携開始 6 月 学校にて第 1 回ケース会議開催 学校職員 療育担当職員 青少年教育カウンセラー 当センター職員で情報交換 夏季休暇中 本人面接を2 回実施 11 月 学校にて第 2 回ケース会議開催 学校職員 保護者 当センター職員で状況の確認と対応方針を話し合う 12 月 市発達障害支援センターでの保護者面接終了 以後 3か月程度のモニタリングの実施 5 生活支援プランの作成 Aさんが低学年であったため 生活支援プランは保護者中心に作成することとなる 作成したプランの一部は次のとおりである 資料 10~12 資料 10 生活の様子 (Aさん) -- 25 --

資料 11 生活支援シート (A さん ) 資料 12 こんな支援が助かります!(A さん ) 6 状況の変化入学直後は Aさんは なかなか教室に入ることができなかったが 早期に校内支援体制を整え チームでAさんをサポートしてきた結果 2 学期末の学校生活は 入学当初に比べ安定してきた 教室内で生活でき 学習への参加状況も改善した 7まとめ本事例では 児童の発達特性を就学前の市の療育担当者と学校が直接 情報交換をしたり 医療機関からの情報を市発達障害支援センターが整理しながら こんな支援が助かります! のシートを活用して 具体的な支援について保護者や学校と検討してきた さらに 保護者との面接を通し生活支援プランを作成したことで 改めて Aさんへの理解が深まった 家庭におけるAさんへの関わりも変化し 保護者が少しずつAさんの成長を実感できるまでになった また Aさんが自分自身の取り組みや頑張りを 視覚的に実感できるようなツールを学校でも家庭でも活用しているとの報告があった 学校と家庭が連携し 取り組みの目標を共通認識しながら具体的に進めてきたことも効果があった 市発達障害支援センターでの直接支援は 生活支援プランの完成をもって 一旦は終了となるが 学校で開催されるケース会議には必要に応じて参加し 状況の把握をしていく その後は Aさんの成長に伴い いずれはA さんが主体となり 生活支援プランの見直し等に取り組んでいくことが必要となる その時に 市発達障害支援センターでの面接が再開されることとなるだろう (2) 小学生時に発達障害診断をうけた中学生 Bさん 1 相談支援期間 平成 2X 年 3 月 ~ 平成 2X 年 12 月 2 相談の主訴 発達障害の診断のある子どもの 今後の学 -- 26 --

校生活における支援について 相談したい 3 相談歴 医療歴 就学前に市の療育機関で発達検査を実施 就学相談を受け 通常の学級に就学 小 1~2 年で 特別支援学校の地域支援担当職員と相談 小 3 時に 青少年相談センターでの相談開始 通級指導教室へ通級を始める 小 3 時に F 医療機関受診 (WISC-Ⅲ 実施 ) ADHD アスペルガーの診断 服薬開始 平成 2X 年 3 月 市発達障害支援センターで保護者と初回面接実施 平成 2X 年 3 月下旬 Bさんと初回面接 以後 Bさんと生活支援プラン作成のための面接 4 経過 ( 平成 2X 年 3 月 ~ 平成 2X 年 12 月 ) 平成 2X 年 3 月 学校 青少年相談センターとの連携開始 保護者とBさんの希望で 中学校の相談室を使って担当職員と面接 3 回目までは プロフィール作成のため 自己理解のためのアンケート 資料 13 を実施 でシートに入力し 視覚提示を行った 平成 2X 年 11 月 完成した生活支援プランをもとに 学校においてケース会議を実施 平成 2X 年 1 月 保護者とBさんとの最終面接予定 今後は進路に関する相談や 発達特性の再チェックなどについての相談を 必要に応じて実施する予定 資料 14 Bさんの言葉を使って作成した資料の一部 資料 13 自己理解のためのアンケート ( 一部 ) 4 回目以降は それまでのアンケート結果をもとに 生活の様子 生活支援シート こんな支援が助かります! を作成 資料 14 書字が苦手なBさんの特性を踏まえ 面接時にはパソコンを活用し その場 5まとめ本事例は小学校の時から 保護者と学校との連携のもと Bさんに合った教育環境を整え継続的に支援をしてきた しかし 中学校入学時の引き継ぎでは 発達障害の診断があることは伝わっていたものの 具体的な特性理解や支援方法については 保護者と学校との話し合いが 十分になされていなかったとのことだった そのため 中学校入学という環境の変化に伴い 学校適応という点で課題が顕在化し 保護者の不安が強くなり相談につながった 当初 本事例は学校不適応への対応が優先 -- 27 --

され 学校も保護者も * 困り感が大きかった しかし 市発達障害支援センターでの支援方針としては 対応方法だけに視点をあてるのではなく 今までほとんど取り組むことのなかった 自己理解 という視点での本人面接を重視した その結果 自己理解が進むと同時に 学校や保護者もBさんの特性理解が進んだことで 学校生活の安定が見られ始めた 現在 課題はまだあるものの 以前ほど大きな混乱は少なくなっている * 困り感 学研ホールディングスの登録商標第 4893317 号 Ⅲ 今後に向けて Aさん Bさんともに 保護者の早期からの気づきにより 必要な時期に発達障害の医学的診断を受けて 家庭や学校生活を送ってきた事例である しかし いずれも保護者や学校は 診断名 は知りつつも わかる 知る 部分への取り組みが十分に行われることなく どのように とりくむ か という対応方法にばかり目が向き 診断名とつまずきの背景要因とが結びついていなかった 発達障害のある本人は その特性により 自分の気持ちや想いを 言葉で適切に表現することに苦手さを抱えていることが多い そのため 不安や不快 困った事柄があっても適切に発信できず 逃避的 回避的な行動や態度として現れることがある 発達障害は 見えにくい障害 と言われているように 一見すると本人の意思の弱さだったり 悪意をもっての振る舞いだったりと誤解されがちである そのため叱責を繰り返し受け続けたり 対人面で自信を失ったりすることで 自己肯定感の著しい低下を招く恐れがある 中学生であるBさんは 生活支援プランの作成を通じて 自分の考えていることや気持ちを ( 面接担当職員が ) 聞いてくれた と話し Bさんの担任や青少年教育カウンセラー は ( 行動や態度ではわからなかったが ) 本人はこんなことを考えていたのか 本人なりに客観視しているのですね と述べていた 保護者自身もわが子の特性理解が進んだことや学校生活が安定してきたことに安心し 学校に対する信頼感も増していった このような わかる 知る ことを目的とした生活支援プラン作成の取り組みが 発達障害のある児童生徒の自己理解 保護者や関係者の特性理解の促進へとつながり そのことが学校等の所属先や家庭などの地域生活での 適切な取り組みへとつながっていくのである 発達障害のある本人と保護者は 進学や就職など本人の成長の節目に 様々な課題に直面することが多い そのため 生活支援プランは一度作成したら終わりというものではなく その都度の見直しや新たに本人を主体とした取り組みが必要となってくる その際には 本人 保護者 学校等の所属先 市発達障害支援センターとの綿密な連携がこれまで以上に求められてくるであろう 今後は生活支援プランに 教育的な場面でも活用できるようなシートを盛り込むなどの広がりが見られることで 市発達障害支援センターでの取り組みが 本市支援教育の充実に寄与していくものと考える そして 生活支援プランが 教育と福祉の連携に必要不可欠な支援ツールへと発展することを目指し 今後も発達障害支援の中核機関として取り組んでいきたい < 参考文献 > 宮崎県障害児 者そうだんサポートセンターはまゆう (2011) ライフステージを通した支援のために さんさんリレーファイル ( 障がい児ライフステージ支援地域展開事業検討委員会 ) 日本発達障害ネットワーク (2013) 平成 24 年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業 発達障害者支援センター等の相談 支援 機関連携及び人材の育成等の業務に関する調査 報告書 -- 28 --