講義 3 発達障害における早期対応のコツ ~ 発達論的アプローチ ~ 横須賀市療育相談センター所長広瀬宏之 本日の内容 (1) 発達障害について (2) 発達論的療育について (3)DIR/Floortimeの紹介 (4) 対応のコツ 本日の内容 (1) 発達障害について (2) 発達論的療育について (3)DIR/Floortimeの紹介 (4) 対応のコツ 36
発達障害の重要性 高い頻度 : 人口の 1 割程度 24 時間 365 日あらゆる生活場面に影響する 正しい理解 と 適切な対応 により生活が改善する 不適切 な対応により 様々な二次障害を起こす 二次障害は予防可能! 発達障害をめぐる誤解 しつけや育て方の問題ではない 関わりや愛情が不足しているわけでもない 子どもの わがまま でもない そのうち大丈夫になる とも限らない 個性 や 性格 でもない理解と配慮と支援が必要な個性
幾つかの能力の発達が遅れ 生活が上手くいかない状態 発達凸凹 + 不適応 = 発達障害 環境とのミスマッチ 状況依存性 幾つかの能力の発達が遅れ 生活が上手くいかない状態 発達凸凹 + 不適応 = 発達障害 支援の目標は不適応を減らし 発達を伸ばすこと 凸凹があっても 毎日がスムーズに過ごせること
5 つの発達障害 ~DSM-5 では神経発達障害 ( 症 ) 遅れている領域 特徴 知的発達症 (MR) 精神遅滞 知的障害 知的能力 全体的な知能の発達の遅れ (IQ<70) 人口の1-3% IQ70-85( 境界域 ) も要注意 ( 運動発達遅滞 運動能力 運動能力の発達の遅れ ) 自閉スペクトラム症 (ASD) 広汎性発達障害 コミュニケーション能力 主な症状は (1) コミュニケーションや社会性の発達遅滞 (2) 興味の偏り こだわり 感覚過敏 ( 感覚調整障害 ) 他に 言葉の遅れ 知的障害 多動 不注意 不器用 てんかん 視覚優位 優れた記憶力などを伴う 2 3% 注意欠如 多動症 注意力 集中力 主な症状は不注意と多動 衝動性 2 種 (ADHD) 限局性学習症 学習障害 (LD) 狭義の学習能力 の薬物が効く場合がある 3-10% 知的能力は標準かそれ以上だが 読み 書き 計算 など学習に必要な機能の一部に障害がある状態 勉強できない= 学習障害 ではなく 知的障害や他の発達障害の鑑別が必要 0.5-2%
本日の内容 (1) 発達障害について (2) 発達論的療育について (3)DIR/Floortimeの紹介 (4) 対応のコツ
発達障害の 治療 環境調整 TEACCH 心理療法 精神療法 遊戯療法 行動療法 認知行動療法 応用行動分析 感覚統合訓練 言語訓練 発達論的療育 ;RDI, DIR, SCERTS Model etc 薬物療法抗精神病薬 ( リスペリドン アリピプラゾール ) 中枢刺激薬 ( メチルフェニデート アトモキセチン ) 抗うつ薬 (SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ) 気分調薬 ( カルバマゼピン バルプロ酸 リチウム クロナゼパム ) 抗てんかん薬睡眠薬漢方薬 補完代替医療 発達論的療育と発達精神病理学 発達論的療育 一人一人の子どもの 発達の縦軸 に沿った療育 発達精神病理学 病因を特定せず現象のみで診断をして治療をしていく DSMのやり方ではなく 一人一人の発達に沿った臨床像の変化を追って行く科学 ( 杉山登志郎 )
発達論的療育の特徴 (1) コミュニケーション能力の習得はで対人相互的状況で行う 子どもの自発的な意思伝達欲求を引き出し 子どものコミュニケーションが意味あるものになるよう 周りが子どもに合わせる (2) 知能や認知機能は情動と一体化して発達する 子どもの情動の安定化をあらゆる学習の前提として重視する (3) ほかの子どもたちを媒介とした学習場面を積極的に活用し 少人数の関わりを通じて対人的行動の基本を体得する (4) 子どものコミュニケーション行為は 基本的に一度はありのままを受け入れ 子どもからの意思伝達を促す (5) 子ども主導を心がけ 大人からの指示を減らす 子どものモチベーションを促す関わりにより 自発性や能動性を維持しつつ コミュニケーションの幅を広げる (6)ASDの基礎にある認知障害や情報処理障害そのものを標的とする
本日の内容 (1) 発達障害について (2) 発達論的療育について (3)DIR/Floortimeの紹介 (4) 対応のコツ Stanley Ira Greenspan (June 1, 1941, Brooklyn April 27, 2010, Bethesda) Dr. Stanley I. Greenspan in 1989 demonstrated his teaching methods with a mother and her son.
DIR/Floortime とは DIR(Developmental, Individual-Difference, Relationship-Based) 発達段階と個人差を考慮に入れた相互関係に基づくアプローチ DIR/Floortimeの基本理念 (1) 情緒や社会性 言語や認知の発達は 感情的に意味のある人間関係の中で獲得される (2) 運動や感覚における情報処理能力は個人差が大きい (3) あらゆる領域の発達が密接に関連している DIR/Floortime とは Floortime(DIR の中核技法 ) 一回 15-20 分程度 床 ( フロア ) で 子ども目線 で関わる Floortimeの要点 (1) 子どもからのリードにしたがって関わることで 内側から自然に発生する興味を増やす (2) 子どもが自ら 周囲と関わりたいと望むようにする
DIR/Floortimeのエビデンス Greenspan SI. J Dev and Lear Dis. 1997. 200 例の長期観察 高い改善が58% 中程度の改善が25% Wallis C. Inside the Autistic Mind. Time. 2006. Myers SM et al. Management of children with autism spectrum disorders. Pediatrics. 2007. アメリカ小児科学会の自閉症ガイドライン 4つのRandomized-controlled studies Solomon R et al. J Dev Behav Pediatr. 2014 Lal R et al. Recent Advances in Autism Spectrum Disorders, I. 2013 Casenhiser DM et al. Autism. 2013 Pajareya K et al. Autism. 2011
Case Gary 22 months old 本日の内容 (1) 発達障害について (2) 発達論的療育について (3)DIR/Floortimeの紹介 (4) 対応のコツ
横須賀市療育相談センター 平成 20 年 4 月に開設 横須賀市唯一の療育センター 横須賀市が設置 社会福祉法人青い鳥が運営 ( 公設民営 ) 構成 1) 診療所 2) 児童発達支援センター ( 福祉型 / 医療型通園 ) 3) 相談支援事業 対象 :0 歳から18 歳未満の市内の発達障害児 療育センターでしていること 1 アセスメントする( みたてる ) 子どもの状態像をアセスメントする 過去 ( 発達 ) 現在( 現象 ) 未来( 方向性 ) ケースのニーズをアセスメントする 子どもの状態像から見た必要性 & 親の願いや 思い 2 直接支援 ケース ワーク カウンセリング 専門スタッフ ( 心理士 PT OT ST 保育士) による療育 個別療育 小集団療育 通園療育 薬物治療など 3 間接支援 巡回相談 地域支援 地域連携 地域で暮らせるよう 地域に戻していく ( インクルージョン )
医療や療育で全てが解決するわけではない 受診を薦められると 多くの親は否定的に受け取りがち 受診の目的をはっきりさせてから 受診の目的 ( 専門機関で出来ること ) 1 ケースの特性の理解 2 対応の工夫を考える 3 診断 ( 名 ) をつける 4 関係機関で連携をとる 5 治療や訓練をする アセスメントをする ちょうどよい方法を見つける 対象がはっきりする 情報の共有化 発達の促し 気をつけよう! 専門職が口走るフレーズ 様子を見ましょう 字義通りの時 誤魔化している時 大丈夫ですよ 障害はない と伝わってしまうことが多い言語と非言語の不一致は混乱と不安を助長する がんばりましょう 私が悪いの? これ以上頑張るの? 責められてる感じ専門職の 自分への言い聞かせ であることを自覚する
気をつけよう! 家族からの質問 治りますか? いつしゃべりますか? 普通になりますか? ( 遅れは ) 追いつきますか? 学校に行けますか? 社会人になれますか? * 正解を求めているとは限らない! 言葉の裏を考える字義通り応答しない希望を消さない 家ではどのようにしたらいいですか? これに答えることが真の専門性
対応のコツ (1) コミュニケーション やりとり 膨らませることを目指す 子どもに沿う 子どものペースや関心に合わせる (2) わかりやすく具体的な指示を心がける (3) 流入する刺激の量を調整する (4) 大人がまきこまれない 観察しながらの関与 ができると良い
対応のコツ (5) 感覚過敏を意識する感覚過敏はわがままではない 感覚処理障害 特訓 は有害無益 むやみと刺激しない ( 感覚過敏の例 ) 聴覚 : ドライヤー 掃除機 ジェットタオル 味覚 : 偏食 味 温度 歯触り 見た目 軟らかさ 触覚 : 洋服のタグ 長ズボン ジーンズ 毛布 首周りのチクチクなどが苦手手が濡れるのが苦手 砂が苦手顔に水がかかるのが苦手 散髪 洗髪が苦手 視覚 : 特定の色 太陽をまぶしがる 嗅覚 : タバコ 香水 食事の匂い ゴミの匂い 体臭 ライフステージに合わせての支援 保健センター 保育所 稚園 小学校 親 当事者 中学校 高校 伴走者 サポーターとしての支援機関 支援者
支援のゴール 特性の理解とそれに合った環境調整 ( 周囲 本人 周囲 ) 当事者能力の育成 ( 気づくこと SOSを出せること ) 支援のコツ 1 相手を尊重する 親の力を削がない 苦労を思い遣り 労う 2 これまでの工夫を聞く そんな時どうしてきましたか? 無駄なアドバイスをしない 3 アドバイスはそっと提示する 押しつけない 決めつけない 4 認知の凸凹や情報処理特性に配慮する 親にも凸凹がある 5 診断名にこだわらない 支援のスタートは診断ではなく 特性 6 大人のこだわりはひとまずおいておく 常識 や こうすべき にとらわれない
発達を見据えた早期対応 (1) アセスメントをしっかり行う (2) 子どもの世界を読み取り 入り込む ( 支援者がロールモデル ) (3) 親と子どもの関わりに介入する (4) 親支援 ( 治療 ) を行う