第 15 講 酸化と還元 酸化 還元とは切ったリンゴをそのまま放置すると, 時間が経つにつれて断面が変色します これはリンゴの断面が酸化した現象を示しています ピカピカの10 円玉も, しばらくすると黒く, くすんでいきます これも酸化です この10 円玉を水素ガスのなかに入れると, 元のきれいな10 円玉に戻ります これが還元です 1 酸化還元の定義 2 酸化数とは? 3 酸化剤 還元剤についての理解 4 酸化還元反応と計算 1 酸化 還元の定義 (1) 酸素が化合する 酸素が化合しない 酸 塩基と同様, まずは定義からみていこう 酸化 還元の定義はいろいろあり,1 つではありません 酸素水素電子酸化数 酸化された得る失う失う増加 還元された失う得る得る減少 たとえばメタンを燃焼させた反応式では, メタンは酸素を得て燃やされ, 二酸化炭素と水が生じます CH 4 +2O 2 CO 2 + 2H 2 O 酸素 O を得た 酸化 酸素 O と化合する ( 酸素 O を得た ) 酸化された 1
では次に酸化銅 (Ⅱ) を, 水素と反応させました この時酸化銅は酸素を失って, 銅の単体が生じ水ができます 反応式を見ると 水素を得て 単体になっていることもわかります 還元 酸素 O を失う CuO + H 2 Cu + H 2 O 還元 水素を得る 酸素 O を離す ( 酸素 O を失う ) 還元された 水素と化合する ( 水素 H を得た ) 還元された このように, 酸化 還元 と聞くと, 普通はこの酸素や水素のやり取りを思い浮かべます しかし, 酸素や水素がともなわない反応もあります これだけでは非常に定義が狭く, これでは大学受験に通用しません (2) 電子 (e - ) のやりとり これが酸化 還元の定義 高校でならう, 酸化還元の定義は, 電子 (e - ) のやりとりです 酸素や水素に注目するのではなく 電子 (e - ) に注目します 定義は次のようになります 酸化とは, 電子を失うこと であり 還元とは, 電子を得ること です e - H + 酸化された 還元された 酸 塩基 酸化還元反応 = 電子 (e-) のやりとり酸 塩基反応 =H + 水素イオンのやりとり 酸 塩基の定義と同じようにキャッチボールを想像してみましょう 違いは, 電子か水素イオンかということです 2
(3) 酸素と, 電子 e - を比較しよう 10 円玉が空気中で酸化されて, 酸化銅になる反応を見てみよう 酸素の動き 1 2Cu + O 2 2CuO 酸化された 1 では,Cu は酸素が加わるので, 酸化されたといえます e - の動き 2 Cu Cu 2+ + 2e - 酸化された O 2 + 4e - 2O 2- 還元された e - Cu O 2 2 では,Cu は電子を与えているので, 酸化されたといえます 2 酸化数 (1) 酸化数とは 酸化数が増えたら, それは酸化, 減っていたら, 還元と考える 酸化と還元が, 電子のやりとりであることはわかりました しかし, 実際に電子の受け渡しを, 反応式からすぐに判断するのは難しい そこで, 酸化数 という考え方が大切です この酸化数の変化を見るだけで, 酸化なのか還元なのかが, 一発で分かります つまり, 酸化還元では, 酸化数を正確に数えられるようにならなければダメです 2Cu + O 2 2CuO (0) (+2) 酸化数が増加する 酸化された 酸化数が減少する 還元された 3
(2) 周期表での酸化数を見ていこう 主な酸化数は, 周期表を見るとわかりやすい ただし, 非金属は酸化数を複数取るものが多いので注意 酸化数 H Li Be Na Mg K Ca +1 +2 +3 ±4 He B C N O F Ne Al Si P S Cl Ar -3-2 -1 ±0 CaO CO 2 非金属は, 複数の酸化数を持つものもあります NO NO 2 CH 4 HNO 3 (3) 酸化数を決定するルール 単体とは, 一つの元素で出来ているもの 1 分子全体では,0( ゼロ ) とする 単体の酸化数は,0( ゼロ ) 化合物も分子全体では0( ゼロ ) O 2 H 2 N 2 Cu Na 酸化数はゼロ H 2 O = (+1) 2 + (-2)=0 CuO = (+2) + (-2) = 0 2 イオンは, 電荷数に等しい 単原子イオンは, 右上の数字 多原子イオンも, 全体で右上の数字 Cu 2+ +2 Fe 3+ +3 K + Na + +1 Ca 2+ +2 SO 2-4 (-2) NH + 4 (+1) CO 2-3 (-2) 3 化合物中の, 水素 H は (+1), 酸素 O は (-2) である H +1 O -2 例外に注意! 4
演習例題 1 ( 基本 ) 次の物質の, 下線部の原子の酸化数を求めよ 1 O 2 2 KCl 3 NO 2 4 HNO 3 5 FeSO 4 6 H 2 O 2 演習例題 2 ( 基本 ) 問 1 次の反応式から, 酸化還元反応の組み合わせを 1~6 のうちから選べ 問 2 次の反応式から, 酸化還元反応でないもの一つを選べ 5
3 酸化剤 還元剤 (1) 酸化剤 還元剤は 相手を がポイント 酸化酸化された自分が, 酸化される 自分の酸化数は, 増える 酸化剤酸化力酸化作用 相手を 酸化させる 自分は, 還元される 自分の酸化数は, 減少 酸化 還元で, 克服しなくてはいけないことは, その用語の紛らわしさ 酸化剤とは, 相手を 酸化させる物質のこと 自分は還元されるということです 酸化 剤という言葉に, 引きずらないように注意! 酸化剤 酸化された 逆に, 還元剤とは 相手を 還元させる物質のことです 相手に電子を与えて還元させ, 自身は電子を失って酸化されることになります この 相手を というところを, 忘れないように注意すること 酸化剤 = 相手を, 酸化させる物質 ( 自身は, 還元される ) 自分の酸化数は減少 還元剤 = 相手を, 還元させる物質 ( 自身は, 酸化される ) 自分の酸化数は増加 2KI + Cl 2 2KCl + I 2 KI 中の I の酸化数は ( ) ( ) に変化し, Iは ( ) され, またCl 2 の酸化数は ( ) ( ) に変化し,Clは( ) されたことになる よってこの反応でKIは ( ) であり,Cl 2 は ( ) である 6
(2) 覚えておく酸化剤 還元剤 入試に出てくる主な酸化剤, 還元剤は次のとおりである ポイントは, 色の変化のあるものを押さえておくこと 主な酸化剤 過マンガン酸カリウム KMnO 4 MnO 4 - + 8H + + 5e - Mn 2+ + 4H 2 O 濃硝酸 HNO 3 HNO 3 + H + + e - NO 2 + H 2 O 希硝酸 HNO 3 HNO 3 + 3H + + 3e - NO + 2H 2 O ヨウ素 I 2 I 2 + 2e - 2I - 過酸化水素 H 2 O 2 H 2 O 2 + 2H + + 2e - 2H 2 O 二酸化硫黄 SO 2 SO 2 + 4H + + 4e - S + 2H 2 O 主な還元剤 硫化水素 H 2 S H 2 S S + 2H + + 2e - シュウ酸 H 2 C 2 O 4 H 2 C 2 O 4 2CO 2 + 2H + + 2e - ヨウ化カリウム 2I - I 2 + 2e - 塩化スズ (Ⅱ) Sn 2+ Sn 4+ + 2e - 二酸化硫黄 SO 2 SO 2 + 2H 2 O SO 2-4 + 4H + + 2e - 過酸化水素 H 2 O 2 H 2 O 2 O 2 + 2H + + 2e - 7
4 酸化還元反応の反応式 (1) 過マンガンカリウム KMnO 4 と, 過酸化水素 H 2 O 2 の反応 1 硫酸酸性下で,KMnO 4 と H 2 O 2 を反応させます 酸化剤 還元剤 MnO 4 - + H + + e - Mn 2+ + 4H 2 O H 2 O 2 O 2 + H + + e - 2 移動する電子の数を合わせるために, 電子 e - の係数に注目します よって KMnO 4 の式は 2,H 2 O 2 の式は 5 します + 2MnO 4 - + 16H + + 10e - 2Mn 2+ + 8H 2 O 5H 2 O 2 5O 2 + 10H + + 10e - 2MnO 4 - + 5H 2 O 2 + 6H + 2Mn 2+ + 5O 2 + 8H 2 O このようにして生じた反応式を, イオン反応式といいます 3 最後に, 残っているイオンを加える 過マンガン酸カリウムだから K + イオンと硫酸酸性下なので,SO 4 2- イオン 2MnO 4 - + 5H 2 O 2 + 6H + 2Mn 2+ + 5O 2 + 8H 2 O + 2K + 3SO 4 2-2SO 4 2-2K + + SO 4 2-2KMnO 4 + 5H 2 O 2 + 3H 2 SO 4 これで, 酸化 還元の化学反応式が完成です 2MnSO 4 + 5O 2 + 8H 2 O + K 2 SO 4 8
(2) ヨウ化カリウム溶液と, 過酸化水素水の反応 硫酸を加えて酸性にして, ヨウ化カリウム溶液に過酸化水素水を加えます この時ヨウ化カリウム溶液 KI は, 水溶液中で,K + + I - に電離し, ヨウ化物イオン I - が次のように反応します 1 酸化剤, 還元剤の式は 酸化剤 還元剤 H 2 O 2 + H + + e - 2H 2 O 2I - I 2 + e - 2 移動する電子の数を合わせるために, 電子 e - の係数に注目します この場合は e - の係数が等しいので, そのまま両辺を加えます + H 2 O 2 + 2H + + 2e - 2H 2 O 2I - I 2 + 2e - H 2 O 2 + 2H + + 2I - 2H 2 O + I 2 このようにして生じた反応式を, イオン反応式といいます 3 最後に, 残っているイオンを加えます ヨウ化カリウムだから K + イオンと硫酸酸性下なので SO 4 2- イオン H 2 O 2 + 2H + + 2I - 2H 2 O + I 2 + 2- SO 2K + 4 2K + 2- SO 4 H 2 O 2 + H 2 SO 4 + 2KI 2H 2 O + I 2 + K 2 SO 4 これで, 酸化 還元の化学反応式が完成です 9
5 酸化還元滴定 酸 塩基の時と同様に, 酸化還元にも滴定が存在します 還元剤から放出される電子のモル数と, 酸化剤が受け取ることのできる電子のモル数が, 一致したときが終点となります 還元剤から放出される電子のモル数 = 酸化剤が受け取ることのできる電子のモル数 ポイント! 実験装置などは中和滴定と同じ ただし指示薬がいらない! なぜなら溶液にすでに色が付いているから 酸化剤または還元剤の, どちらか色の付いているものに注意しよう 1 KMnO 4 ( 過マンガン酸カリウム ) 水溶液による滴定 ビュレット MnO 4 - + 8H + + 5e - Mn 2+ + 4H 2 O 赤紫色無色この色の変化を利用して滴定する この場合赤紫色のKMnO 4 をビュレットから滴下するので, コニカルビーカー中で, 薄く赤紫色が消えなくなったところが終点となる コニカルビーカー 2 I 2 ( ヨウ素 ) I 2 + 2e - 2I - 青紫色色が消える この場合はでんぷんとヨウ素の色の変化を利用する 初めにでんぷん溶液を入れておくと青紫色になり, すべてが,I - になると色が消える I 2 + 2e - 2I - でんぷんあり 青紫色 無色 でんぷん無し 褐色 無色 注意! でんぷんが入っていれば,I 2 がなくなるので 青紫色が消える でんぷんがなければ, 初めの I 2 は溶液中では,I 3- になり褐色を示している 反応後は無色に 10
演習例題 3 ( 基本 ) 次の文章を読み, あとの (1)~(4) の問いに答えよ ある濃度の過酸化水素水 10.0 ml を,( ア ) を用いて, コニカルビーカーに入れた そこに ( イ ) を使って, 硫酸酸性の 0.0400 (mol/l) の過マンガン酸カリウム水溶液で滴定したところ,10.0 ml で反応が完結した (1) この反応を化学反応式で記せ 酸化剤 還元剤 MnO 4 - + 8H + + 5e - Mn 2+ + 4H 2 O H 2 O 2 O 2 + 2H + + 2e - + MnO 4 - + H + + e - Mn 2+ + H 2 O H 2 O 2 O 2 + H + + e - 2MnO 4 - + 5H 2 O 2 + 6H + 2Mn 2+ + 5O 2 + 8H 2 O (2) ( ア ) ( イ ) の実験器具名を答えよ (3) この反応が完結したことは, どのようなことから判断することができるかを記せ (4) 過酸化水素水の濃度は何 mol/l か 11