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運転しない

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第 5 章高性能サイクル再熱除湿サイクルによる除湿性能の向上 5.1 概要 ルームエアコンディショナの基本機能の一つと考えられている除湿運転に関して, 第 4 章において, 冷媒 R 22を用いた冷凍サイクルで, 省エネルギーで冷え過ぎのない除湿運転が可能なサイクル再熱除湿サイクルを提案して実用化した. その後, 除湿弁を改良しノッチ式の一段絞り除湿弁 ( 後述の図 5.2-(a) を参照 ) を開発し, 入力や冷媒音の低減を図ってきた. ところで近年, ルームエアコンディショナでは, オゾン層保護の点から冷媒が R 22 から R 410A へ切り替わった. また地球温暖化ガス削減の点から省エネルギーのニーズが大きく, 室内熱交換器として伝熱面積を増大できるΛ 形構造のものが使用されるようになった. そして除湿運転においても, このΛ 形熱交換器を使用したユニットでの一層の省エネルギーが必要になった. さらに洗濯物の乾燥時間短縮や低湿度化等のために除湿能力増大に対するニーズが大きくなった. またルームエアコンディショナでは, 送風機や圧縮機の騒音を年々低減してきた結果, 送風量の少ない運転では, 送風音と冷媒音の騒音レベルが同程度となり, 冷媒音が目立つようになってきた. 冷媒音は, 管内を冷媒が流れる時に発生する音で, 特に冷媒が気液二相流の状態で絞り部に流入するときに顕著で, その低減方法を研究してきた. 本章では, サイクル再熱除湿サイクルにおいて, 冷媒音を低減できる二段絞り除湿弁を開発することにより,Λ 形室内熱交換器を採用したルームエアコンディショナにおいて, 等温除湿 で, 冷媒音を同等以下に抑えた状態で, 先に開発したものに比較して, 除湿能力の1.5 倍化と更なる省エネルギーを図った. 5.2 サイクル再熱除湿サイクルの高性能化における方針と課題 5.2.1 サイクル再熱除湿ルームエアコンディショナのサイクル構成 Λ 形室内熱交換器を用いたサイクル再熱除湿ルームエアコンディショナのサイ - 58 -

クル構成を図 5.1 に示す. < Outdoor unit > < Indoor unit > Four-way valve Inlet air (Humidified air) Indoor heat exchanger (Reheating device) Expansion valve for dehumidification (Dehumidification valve) Outdoor heat exchanger Outdoor fan Compressor Expansion valve for cooling and heating Indoor fan Indoor heat exchanger (Cooling device) Outlet air (Dehumidified air kept at room temperature) Flow direction : Dehumidification mode Cooling mode Heating mode Fig.5.1 Cycle-reheating dehumidification system 図 5.1 において, 除湿運転時には, 室外機の電子膨張弁を全開にし, 室内機の除湿弁を絞り, 冷媒を一点鎖線矢印のように流す ( 冷房運転と同じ経路 ). これにより, 室外熱交換器は凝縮器, 室内熱交換器は, 除湿弁の上流側の前面上部から背面にかけての山形部分が再熱器 ( 凝縮器の一部 ), 下流側の前面下部が冷却器 ( 蒸発器 ) となる. この構成により, 室内機では, 吸込空気流が二分され, 一方が再熱器, 他方が冷却器に流れ, 再熱器を通過した空気は加熱され, 冷却器を通過した空気は冷却 除湿され, そのあと各空気は混合されて吹き出される. そして室外熱交換量が少ない場合, 吹出空気は, 温度が室温と同等で, かつ十分除湿されてから吹き出され, 冷え過ぎのない等温除湿運転を行うことができる. ここで再熱器と冷却器の大きさの比率は, 一般に加熱能力の方が不足するため, 再熱器の方を大きくする.Λ 型熱交換器では, 再熱器を上側の山形部分としたため, 冷却器に比べて再熱器を大きくできる. 従ってΛ 形熱交換器は, サイクル再熱除湿にとって適した構造といえる. また吸い込み側の風速分布はほぼ均一なため, 再熱 - 59 -

器, 冷却器における風量の比もこれらの前面面積比と同等になる. なお冷房運転時には, 電子膨張弁を適切に絞り, 除湿弁を絞り作用のない全開状態にして, 冷媒を実線矢印のように流す. これにより室外熱交換器を凝縮器, 室内熱交換器を蒸発器とする通常の運転を行う. 暖房運転時には, 四方弁を切り換え, また電子膨張弁を適切に絞り, 除湿弁を絞り作用のない全開状態にして, 冷媒を冷房運転時とは逆方向の破線矢印のように流す. これにより室内熱交換器を凝縮器, 室外熱交換器を蒸発器とする運転を行う. 5.2.2 研究開発の方針と課題本開発では, 以下の点を満足させながら, 除湿能力を 1.5 倍にすることを目標にした. 1) 冷媒の R 410A 化 2) 省エネルギー ( 除湿成績係数 ) の維持 3) 等温除湿運転の維持 4) 冷媒音を大きくしない対象ユニットを表 5.1 に, 目標値を表 5.2 に示す. 表 5.1 の基準機のルームエアコンディショナは, 第 4 章で述べた定格冷房能力 2.8 kw の 1999 冷凍年度機 ( 型式 : RAS-2810KX) である. また圧力レベルが R 22 の約 1.5 倍になる R 410A 使用の開発機は, このユニットを改造し, 同一の冷房能力になるように, 圧縮機の排除容積を小さくした. ところでこれまでに,R 22 を用いたサイクル再熱除湿サイクルにおいて, 除湿弁の絞り量, 圧縮機回転数, 室内 室外ファンの回転数 ( 風量 ) を変えた時の除湿性能を検討してきた. その結果, 省エネルギー性や等温除湿運転を維持しながら除湿能力を上げるには, 除湿弁の絞り流路を適切に絞ったり, この絞りに応じて圧縮機回転数を適切に増すことが有効であることが分かった. しかし圧縮機回転数を増すことは冷媒流量が増えて冷媒音の増大に繫がる. また室外ファン回転数を増した場合は, 除湿能力は増加し, 入力は低下するが, 吹出空気温度が低下してしまい, 室内ファン回転数を変えた場合は, 除湿能力, 入力, 吹出空気温度とも変化が小さいことが分かっている. - 60 -

さらに R 410A を使用すると圧力レベルが上がり, 冷媒音の増大が懸念されたり, 除湿弁で気相成分の比容積が小さくなり, 流速が遅くなって絞り量が不足することが考えられる. 従って, 目標を達成するためには, 圧縮機回転数の適正増大と同時に, 絞り量が大で圧縮機回転数をそれ程増やさなくても蒸発温度を十分に下げられ, しかも冷媒音の小さい除湿弁が必要で, その開発に着手することにした. Table 5.1 Room air conditioner specification Unit type Standard RAS -2810KX (1999 model) Develop -ment Reconstructed RAS -2810KX Refrigerant R22 R410A Rated cooling capacity Comp -ressor Type Swept volume 2.8 kw Scroll 100 % 67 % Table 5.2 Target value Dehumidification capacity (ml/h) Coefficience of dehumidification performance (ml/h/w) Standard Target 500 750 (1.5 times) 1.65 > 1.65 Outlet air temperature ( ) Room temp.(24) ± 2 Operation noise (db(a)) 34.7 < 34.7 Refrigerant flow noise (db(a)) 26.0 < 26.0 < Temperature > Indoor 24 (dry),18.5 (wet) / Outdoor 24 (dry) < Rotational speed >: At dehumidification performance measurement Indoor fan; 1120 rpm, Outdoor fan; 120 rpm Compressor; 1800 rpm At noise measurement Indoor fan; 800 rpm, Outdoor fan; 140 rpm Compressor; 1600 rpm - 61 -

5.3 冷媒音低減に対する考え方 サイクル再熱除湿サイクルでは, 室内熱交換器の中間に設けられた除湿弁の所で, 冷媒の絞り流動に伴う冷媒音が発生する. 冷媒音には連続音と不快な音として嫌われる間欠音があり, それらの低減に対して以下のような方策を考える. 5.3.1 連続音の低減連続の冷媒音は, 管内の気液二相流の圧力変動が加振力となって配管を含む構造系の振動を引き起こし, その振動により音が発生すると考えられる. この音を下げるには, 加振力となる流体力を低減することが重要かつ効果的である. 冷媒音の騒音レベルは流体のもつ運動エネルギーの大小に関係する. これに関し, 絞り部を直径 2 mm, 長さ 2 mm の単一オリフィスとして試作し, 冷媒に R 22 を用いて, 騒音レベルと運動エネルギーの関係の測定を行った. その結果, 冷媒音の騒音レベル SL [db(a)] は絞りの上流側 ( 添字 ;u) と下流側 ( 添字 ;d) の和で, 運動エネルギ E [J/m 3 ] との間に以下の関係が得られている. SLu 10 10 SL 10 log10 10 SLd 0.82 10 log(e) (5.1) E 1 2 2 M 2 A ρ m u 1 2 2 M 2 A ρ m d (5.2) 1 ρ m 1 x ρ L x ρ G (5.3) ここに,M; 質量流量 [kg/s],a; 流路面積 [m 2 ],ρ; 密度 [kg/m 3 ],x; 乾き度 [kg/kg] 添字 G; ガス冷媒,L; 液冷媒,m; 平均 式 (5.1) では, 運動エネルギーのべき乗が,1 ではなく 0.82 となっている. これは 運動エネルギーの関数である他の因子 ( 例えば配管系の構造 ) による影響と考えら - 62 -

れている. また冷媒音には, 膨張弁の絞り部の下流側の状態が大きく影響することがわかっている. 冷媒音には, 冷媒流そのもの ( 運動エネルギー ) による音と, 冷媒流が配管に衝突しそれが配管や熱交換器に伝わって増幅される音が考えられる. 従って冷媒音を低減するには, 前者に対しては冷媒流量を減らすこと, 後者に対しては衝突による衝撃を弱めることが有効である. なお振動低減や遮音材を巻く等の対策も考えられるが, 流動音の発生を抑制する根本的な対策ではない. 5.3.2 間欠音の低減間欠音は, スラグ流のような気相と液相とが間欠的に流れる気液二相流が絞り部に流入するときに発生する. 除湿運転でも, 圧縮機の起動時や断続運転時などの過渡運転では, 除湿弁入口でスラグ流等の間欠的な流動様式になることが多く, 間欠音が発生する. 間欠音を低減するには, 弁に流入する流動様式の変換 ( 例えば弁絞り部に単相流で流入させる ), 弁の絞り流路の口径や個数の最適化, 絞り方の工夫などが考えられる. また連続音の場合と同様に, 流体力 ( 冷媒流量 ) を少なくしても低減できる. 5.4 新除湿弁の開発 5.4.1 従来の一段絞り除湿弁第 4 章で述べたサイクル再熱除湿サイクルにおいて, 開発した図 4.2 のブリードポート式除湿弁に続いて, ノッチ式の一段絞り除湿弁を開発した. その構造を図 5.2-(a) に示す. この除湿弁は, ポート径がφ6.8 で, 弁座に相当円直径 0.38 mm のV 溝を二個設けてあり, 弁棒を下げて流路を閉じると, 弁棒とV 溝によって形成される細いV 形流路によって絞り作用が行われる. また弁棒を上げて流路を開いた時には流路抵抗がほとんどなく, 絞り作用は行われない. 絞りの大きさは, 弁出口を大気開放とし, 弁入口に 98 kpag の空気圧をかけた時 - 63 -

の出口側空気流量で表して,7 L/min である. なおこの除湿弁では, 絞り流路の面積は,V 溝作製用押し込み治具の軸方向送り量で決まる.( 後述の図 5.2-(b),(c) のノッチ式の二段絞り除湿弁も同様.) また弁棒が閉じたときにV 溝にゴミが詰まっても, 弁棒を開くとゴミは流れて, 詰まりを解消できる. 5.4.2 新開発のノッチ式二段絞り除湿弁 (1) 二段絞り除湿弁に対する考え方これまで述べたように, 目標である冷媒音を上げずに除湿能力を1.5 倍にするには, 冷媒音を低減できる除湿弁が不可欠である. そのために, 第 3 章の考え方やこれまでの知見も含めて, 以下のことを検討する. [ 絞り量と冷媒流量の適正化 ] 除湿弁での冷媒音は, 前述の式 (5.1) から分るように, 冷媒流の運動エネルギーを減少させれば小さくなる. すなわち圧縮機回転数を下げて冷媒流量を少なくすると冷媒音が下がる. しかし単純に圧縮機回転数を下げただけでは, 冷媒流量の減少により, 冷却器の蒸発温度が上昇して除湿能力が低下してしまうため, 同時に絞り量を増やす必要がある. 他方, 除湿能力を 1.5 倍にするには冷媒流量を増やす必要があり, これに合わせて除湿弁での絞り量を減らす必要がある. 以上より, 冷媒音を上げずに除湿能力を増大させるには, 圧縮機回転数をそれ程上げなくても除湿能力を増大できるように, 冷媒音低減と除湿能力増大の両面から, 除湿弁の絞り量や圧縮機回転数を適切に設定する必要がある. [ 絞り流路を対向位置に複数個設ける ] これまでの知見として, 絞り流路を1 個から2 個にし, これらを対向位置に設けることにより, 冷媒音下げられることが分かっている. 冷媒音は, 冷媒流が管壁に衝突し, さらにこの衝撃が配管に伝わることが大きな原因の一つと考えられる. 従って流路を複数個にして1 流路あたりの冷媒流量を減らすと共に対向位置に設けることにより, 互いの冷媒流を衝突干渉させて冷媒流の流路壁への衝撃力を弱めることにより, 冷媒音を低減できると考えられる. [ 多段に絞る ] 絞りを多段にすると, 圧力を段階的に下げられ, 衝撃力が小さくなる. また間欠 - 64 -

音は, 除湿弁入口の冷媒流がスラグ流等の間欠流のときに起きやすい. したがって, 多段絞りにすると, 各段で, 絞りの程度を小さくできて絞り流路面積を大きくできることから, 特に除湿弁入口の前段絞りの所で冷媒流速が遅くなり, 同時に間欠流の程度が緩和され, 連続音および間欠音が下がる可能性がある. また前段絞り後の冷媒流は, 乾き度が増し高速になることから, 気 液がよく攪拌され, 後段絞りに入る時には, より均一流になって間欠音が下がると考えられる. (2) 二段絞り除湿弁の構造以上より, 新しい除湿弁は, 図 5.2-(a) の一段絞り除湿弁の構造をベースにし, さらに5.4.2-(1) の内容を考慮して, 絞りを二段階にし, 各段の絞りを複数個のV 溝にしたノッチ式の二段絞り構造とした. 図 5.2に, 試作した (b)v 溝 2 個 ( 前段 )-2 個 ( 後段 ) と (c)v 溝 2 個 ( 前段 )-4 個 ( 後段 ) の二種類の二段絞り除湿弁の構造を示す. これらの除湿弁は, 弁座に二段にわたって, 各段に複数のV 溝を設け, さらに各段のV 溝の間に円周状に空間を設けて, 二段階に絞る構造とした. なおこれらの二段絞り除湿弁でも,V 溝に詰まったごみは, 弁を開いて流すことができる. (3) 二段絞り除湿弁の各段の流路面積図 5.2-(b),(c) の二段絞り除湿弁において, 弁出口を大気開放とし弁入口に98 kpag 空気圧をかけた時の,1 段目と2 段目の絞り量 ( 圧力損失 ) と各段の絞り部流路面積との関係を検討する. [ 基本式 ] 二段絞り除湿弁の各段の絞りをオリフィスと同様に考えると, 体積空気流量 Q, 質量空気流量 q, 流路面積 A, 圧力損失 ΔP, 空気密度 ρ の間には, 次式の関係がある. Q CA 2 P / (5.4) q Q (5.5) ここに,C; 流量係数で, 主に絞り部の形状によって決まる. 二段絞り除湿弁においては, 各段の絞りの流量係数の値 C 1,C 2 を決める必要が - 65 -

ある. これらの値は, 各段の絞り形状を別々に試作し, 弁出口大気開放で弁入口に 98 kpag の空気圧をかけた時の空気流量 Q を測定したりして求める. [ 各段の流路面積 ] ΔP 1 を前段絞りの圧力損失,ΔP 2 を後段絞りの圧力損失とすると, 前段の絞り流路面積 A 1, 後段の絞り流路面積 A 2 は, 各段の絞りを流れる質量空気流量 q は等しいとして, 式 (5.4), 式 (5.5) をもとに, 次のように定めた. q C 1 段目 : A1 1 / (2 1 P1 ) (5.6) 1 ρ ρ0 1+ ΔP1 98 1 (5.7) q C 2 段目 : A2 1 / (2 2 P2 ) (5.8) 2 ρ ρ0 1+ ΔP2 98 2 (5.9) ここに,ρ 0 ; 大気圧での空気密度. 以上より, 次のように絞り流路面積を求める. 1) 大気圧での体積空気流量 Q を与える. 2) ΔP=ΔP 1 +ΔP 2 =98 kpa となるように,ΔP 1 と ΔP 2 の値を割り振る. 3) 式 (5.5),(5.7) より,A 1,A 2 を求める. (4) 二段絞り除湿弁の試作図 5.2-(b),(c) の2 種類の二段絞り除湿弁を, 各段の絞り流路形状と ΔP=98 kpa の時の空気流量を指定して試作した. 除湿能力を基準機 (R 22 及び体積空気流量 7 L/min の一段絞り除湿弁使用 ) の 1.5 倍にするには, 絞りとしては開く方向になる. また R 410A 化により,R 22 に対して圧力が約 1.5 倍になることから, ガス冷媒の比容積が減少して流速が遅くなって流通抵抗が減るが, この点からは絞る方向になる. 従って両者を考慮して, 体積空気流量 Q としては, 絞りぎみの 5.8 L/min にした. 以下に, 各除湿弁の特徴を示す. - 66 -

図 5.2-(a) 構造 : 従来のノッチ式一段絞り除湿弁 ( 図 4.2 のブリードポート式除湿弁後に開発 ) 絞り ;V 溝 2 個 ΔP = 98 kpa 図 5.2-(b) 構造 : 新開発のノッチ式二段絞り除湿弁一段目絞り ;V 溝 2 個二段目絞り ;V 溝 2 個 ΔP 1 = ΔP 2 = 49 kpa 図 5.2-(c) 構造 : 新開発のノッチ式二段絞り除湿弁一段目絞り ;V 溝 2 個, 二段目絞り ;V 溝 4 個 ΔP 1 = ΔP 2 = 49 kpa (c) 構造は,(b) 構造に対して, 二段目絞りでの絞り流路数を増して更なる冷媒音低減を狙ったものである. また寸法管理の点からV 溝をあまり小さくできないこと, 流路が多すぎて各流路が狭くなりすぎると耳障りな不快音が出る場合もあることから,V 溝を 4 個とした. - 67 -

( a ) ( b ) ( c ) One-step expansion dehumidification valve (Former type) Two-step expansion dehumidification valve (New type) V-ditch : Two V-ditch : Two Two V-ditch : Two Four Expansion pass First Expansion pass First Expansion pass A B A Second expansion pass B B B Second expansion pass Valve rod Expansion pass (Two V-ditches) Refrigerant flow Refrigerant flow φ 6.8 Valve body A-A section Valve seat First Expansion pass (Two V-ditches) Second expansion pass (Two or four V-ditches) B-B section Air flow rate at pressure drop 98 (kpa) 7 L/min (Equivalent diameter φ 0.38 2) 5.8 L/min 5.8 L/min Fig5.2 Dehumidification valve - 68 -

5.5 除湿能力の向上 5.5.1 実験方法開発機 (R 410A, 基準機を改造 ) を恒温恒湿室に取付け, 部屋を室内側 ; 乾球 24 / 湿球 18.5, 室外側 ; 乾球 24 に調節した. 次に, 室内ファン回転数一定で, 圧縮機や室外ファンの回転数を変えて除湿性能 ( 除湿能力, 入力, 吹出空気温度等 ) を測定した. なお除湿能力としては, 室内機から排水される単位時間当たりの除湿水量を測定した. 5.5.2 一段絞り除湿弁での除湿運転性能図 5.3 に, 図 5.2-(a) の一段絞り除湿弁を R 410A を使用した開発機に組み込み, 室外ファン回転数をパラメータとして, 圧縮機回転数を変えた時の除湿性能を示す. また図 5.3 には, 印で基準機 (R 22, 図 5.2-(a) の一段絞り除湿弁 ) での除湿性能も示してある. (1) 除湿性能 R 410A 開発機も R 22 基準機も同様な除湿性能特性を示し, 以下のようになる. 1) 除湿能力は, 圧縮機回転数を増すにつれて増加する. また室外ファン回転数を増しても, 除湿能力が増加する. なお同一圧縮機回転数の時, 開発機と基準機で同等の除湿能力となるが, これは開発機では, 高圧冷媒 R 410A に対応して,R 22 基準機と同じ圧縮機回転数で同等の冷房能力になるように, 圧縮機の行程容積を小さくしたためである. 2) 吹出空気温度は, 圧縮機回転数を増すと高くなるが, その変化は小さい. これに対して, 室外ファン回転数を増すと吹出空気温度は大きく下がる. なお開発機で室外ファン 140 rpm の時の吹出空気温度が, 基準機で室外ファン 120 rpm の場合より高くなっている. これは, 開発機では, 低外気温時の暖房能力を増大させるために, 室外熱交換器に伝熱性能を落とした着霜に強いコルゲートフィンを採用したことにより, 室外側の伝熱性能が低下して凝縮温度が高くなったためである. ここで, 圧縮機回転数を増すと除湿能力が増加するが吹出空気の温度変化が小さいのは, 蒸発温度が下がり冷却 除湿能力が増すと同時に凝縮圧力が上がり加熱能 - 69 -

Dehumidification capacity (ml/h) Outlet air temperature ( ) Coefficient of dehumidification performance 除湿成績係数 (ml/h/w) (ml/h/w) 第 5 章高性能サイクル再熱除湿サイクルによる除湿性能の向上 力が増すためである. また室外ファン回転数を増すと除湿能力が増加し, 吹き出し 空気温度が下がるのは, 蒸発温度が下がり冷却 除湿能力が増すと同時に凝縮圧力 が下がり加熱能力が減るためである. 吹出空気温度 ( ) 除湿能力 (ml/h) 3 3 2 26 26 24 24 22 20 900 < Temperature > Indoor ; 24 (dry), 18.5 (wet) Outdoor ; 24 (dry) < Symbol >,,, ; Development unit (R 410A) ; Standard unit (R 22) 2 (1.65) 120 1 28 22 20 900 800 370 370 370 120 260 260 260 180 180 140 180 Outdoor fan rotation 140 rpm 140 Target 目標 700 600 120 1.5 times 500 1800 2000 2200 2400 2600 1800 2000 2200 2400 2600 Compressor 圧縮機回転数 rotation (min -1 (rpm) ) Fig.5.3 図 4.2 一段絞り除湿弁での除湿運転性能 ( 冷媒 R410A 等 ) Dehumidification mode performance using 1-step expansion valve 3) 除湿成績係数は, 圧縮機回転数を増すと下がりぎみになるが, 蒸発圧力の低下による除湿能力の増加, 蒸発圧力の低下及び凝縮圧力の上昇による圧縮仕事の増加があることから, その変化は小さい. これに対し, 室外ファン回転数を増すと, 凝縮圧力が低下して入力が低下し, また蒸発温度が低下して除湿能力が増大することから, 除湿成績係数が大きく増加する. - 70 -

(2) 除湿能力の 1.5 倍化図 5.3 より, 等温除湿運転 ( 吹出空気温度 ; 室温 ±2 ) や目標の除湿成績係数 (1.65 以上 ) を満足して除湿能力を 1.5 倍にすることは可能である. 例えば室外ファン回転数 180 rpm の場合には, 圧縮機回転数を 2200 rpm 位に上げれば, 吹出空気温度が R 22 基準機と同等で, 除湿能力を 1.5 倍にできる. 5.5.3 二段絞り除湿弁での除湿運転性能図 5.4に, 図 5.2-(b),(c) の二段絞り除湿弁とR 410Aを使用した開発機において, 室外ファン回転数を180 rpm 一定とした時の, 圧縮機回転数に対する除湿性能の変化を示す. また, 印で図 5.2-(a) の一段絞り除湿弁を用いた場合, 印でR 22 基準機の場合の除湿性能も示してある. (1) 除湿性能二段絞り除湿弁の場合も, 図 5.3 の一段絞り除湿弁の場合と同様の傾向を示す. また各除湿弁とも除湿性能値に大差はなく, 以下の特性を示す. 1) 除湿能力は,1800~2600 rpm の範囲で圧縮機回転数を増すにつれ大きく増大し, また一段絞り除湿弁と同等の値を示す. 2) 吹出空気温度は, 圧縮機回転数の増大により多少上昇するが,24( 室温 )±2 の等温除湿運転範囲内にある. 3) 除湿成績係数は, 基準値 1.65 以上となり, 圧縮機回転数 2200 rpm 位の所でピークを示すが, 変化は小さい. なお体積空気流量 5.8 L/min の (c)v 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁は, 空気流量 7 L/min の (a) 一段絞り除湿弁と同等の絞り性能を示した. これより二相流での絞り作用は, 空気流の場合と一致せず, 二段絞りは一段絞りより小さくなると考えられる. (2) 除湿能力の 1.5 倍化圧縮機回転数が 2200 rpm の時,(a) 一段絞り除湿弁,(c)V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁では, 等温除湿運転で除湿能力が基準機の 1.5 倍になっている. また (c)v 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁の場合, 除湿成績係数が 1.8 で,R 22 基準機の 1.65 に比べて約 9 % 向上し, 省エネルギーにもなっている. これは, この除湿弁の場合, 除湿弁の絞りの程度との関係で, 圧縮機回転数 2200rpm - 71 -

Dehumidification capacity 除湿能力 (ml/h) (ml/h) Outlet air temperature ( ) Coefficient of dehumidification performance 除湿成績係数 (ml/h/w) (ml/h/w) 第 5 章高性能サイクル再熱除湿サイクルによる除湿性能の向上 の所では, 等温除湿を保ちながら室外ファン回転数を上げられること, サイクルの過熱度をより適切に改善できること, および除湿成績係数が最大になることによる. なお従来機では除湿弁での冷媒音のために, 圧縮機回転数を上げることができなかった. 以上より, 圧縮機回転数を適切に上げれば, 等温除湿運転および省エネルギーの状態で除湿能力を 1.5 倍にできることがわかった. しかし圧縮機回転数を増加させると冷媒音の増加が懸念される. 従って, 冷媒音の低い除湿弁の開発が必要になる. 3 3 < Condition > Indoor temperature ; 24 (dry), 18.5 (wet) Outdoor temperature ; 24 (dry) Indoor fan rotation ; 1120 min -1 Outdoor fan rotation ; 180 min -1 < Symbol >,, ; Development unit (R 410A) ; Standard unit (R 22) 2 2 Standard (1.65) 吹出空気温度 ( ) 1 1 28 28 26 26 24 24 22 22 20 20 900 900 800 800 700 700 600 600 500 500 Target (750) 1.5 times R22, 1-step expansion (Standard) 1800 2000 2200 2400 2600 Compressor rotation (min -1 ) R410A, 1-step expansion 圧縮機回転数 (min -1 (rpm) ) R410A, 2-step expansion 2-4 ditches R410A, 2-step expansion 2-2 ditches Fig.5.4 図 4.3 二段絞り除湿弁での除湿運転性能 ( 冷媒 R410A 等 ) Dehumidification mode performance using 2-step dehumidification valve - 72 -

5.6 冷媒音の低減と総合評価 5.6.1 定常運転での冷媒音 (1) 実験方法実験方法は第 4 章の図 4.3-(b) と同じである. 開発機を温度設定可能な防音室内に据え付け, 室内側および室外側の空気温度を24 に設定した. また製品と同様に, 除湿弁を室内機の中に組込み, その周囲に粘着性ゴムや粘土等の制振材も付けた. 除湿弁としては, 図 5.2の (a)v 溝 2 個一段絞り除湿弁,(b)V 溝 2 個 -2 個二段絞り除湿弁,(c)V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁を用いた. 冷媒音は, マイクを室内機のパネル正面から水平前方 1 m, 垂直下方 0.8 m 離れた JIS 測定点に設置して測定した. さらにJIS 測定点, 及び除湿弁付近の室内機表面から10 cm 離れた点での聴感も調べた. 冷媒音の大きさは, 運転音から送風音を除いて, 式 (5.10) のように求められる 34). 送風音は, 室内ファンだけを除湿運転時と同じ回転数で運転して測定した. A C 10 log ( C 10 ( CB) /10 10 B) / 10 1 (5.10) ここに,A; 冷媒音,B; 送風音,C; 運転音, 各値ともA 特性を測定 [db(a)]. 圧縮機回転数は, 除湿能力が基準値 (500 ml/h) の時の1800 rpmと,1.5 倍 (750 ml/h) になる時の2200 rpmとした. (2) 測定結果騒音測定結果を表 5.3に示す. 表 5.3には関係する冷凍サイクル特性も示してあり, 各除湿弁で同等で,(a),(c) の場合, 以下の値である. < 圧縮機回転数 1800/2200 rpm の時 > 圧縮機吸込圧力 1.04/0.97 [MPa] 圧縮機吐出圧力 2.25/2.32 [MPa] 再熱器出口過冷却度 3.5~4.0/5.2~6.0 [ ] 冷媒流量 33.0~33.5/37.1~37.3 [kg/h] 表 5.3より, 次のことが分かる. - 73 -

1) 騒音レベルは図 2の (a) 一段絞り除湿弁,(b)V 溝 2 個 -2 個二段絞り除湿弁,(c)V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁の順に下がり, 聴感もこの順に良くなった. 従って, 多段絞りで, 絞り流路数を多くした方が冷媒音が低くなる. 2) (c)v 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁では, 送風音を含む運転音が,(a) 一段絞り除湿弁に比べて, 圧縮機回転数が1800 rpmのとき1.6 db(a)(33.7 32.1), 2200 rpm のとき1.9 db(a)(34.3 32.4) 低い. またこれらの値を, 送風音を引いて冷媒音だけにすると, それぞれの回転数で6.5 db(a)(29.7 23.2),6 db(a)(31.1 25.1) 低くなる. Table 5.3 Dehumidification performance and noise level on dehumidification operation using representative dehumidification valves Room air conditioner : Development unit (R 410A) Room temperature : Indoor; 24 (dry), 18.5 (wet), Outdoor; 24 (dry) Indoor fan rotation : 1120 rpm (at dehumidification performance measurement) 800 rpm (at noise level measurement,fan noise; 31.5 db(a)) (a) (b) (c) Dehumidification valve type 1-step expansion, 2-step expansion, 2-step expansion, V-ditch : 2 V-ditch : 2-2 V-ditch : 2-4 (Former ) (New) (New) Air flow rate at pressure drop 98 (kpa) (L/min) 7 5.8 5.8 Compressor pressure (In / Out) (MPa) 1.03 / 2.24-1.05 / 2.25 Supercooling of reheating device ( ) 3.5-4.0 Refrigerant flow rate (kg/h) 33.0-33.5 Compressor Dehumidification performance (ml/h) 530 510 520 1800 rpm min -1 Coefficience of dehumidification performance (ml/h/w) 1.64 1.59 1.63 Outdoor fan Outlet air temperature ( ) 26.0 25.7 25.7 140 rpm min -1 Indoor unit noise : Total (db(a)) 33.7 32.5 32.1 : Refrigerant flow ( " ) 29.7 25.6 23.2 Listened sound : JIS-point continuous continuous continuous : near dehumidification valve "choro,choro" a little "chili,chili" almost continuous Compressor pressure (In / Out) (MPa) 0.97 / 2.30-0.97 / 2.33 Supercooling of reheating device ( ) 5.2-6.0 Refrigerant flow rate (kg/h) 37.3-37.1 Compressor Dehumidification performance(ml/h) 750 710 745 2200 min rpm -1 Coefficient of Dehumidification performance (ml/h/w) 1.83 1.75 1.80 Outdoor fan Outlet air temperature ( ) 25.7 25.1 24.8 180 rpm min -1 Indoor unit noise : Total (db(a)) 34.3 32.8 32.4 : Refrigerant flow ( " ) 31.1 26.9 25.1 Listened sound : JIS-point a little Intermittent continuous continuous : near dehumidification valve intermittent"sha,sha" a little "chili,chili" almost continuous - 74 -

Sound pressure level (db(a)) Sound pressure level (db(a)) Sound pressure level (db(a)) 第 5 章高性能サイクル再熱除湿サイクルによる除湿性能の向上 (3) 騒音スペクトル図 5.5に, 図 5.2および表 5.3の各除湿弁おける, 圧縮機回転数 2200 rpmでの騒音スペクトル (A 特性 ) を示す. 各除湿弁とも同様なスペクトルを示し, 騒音の低い除湿弁ほど周波数全体に渡って騒音レベルが下がっている. 以上より, 供試除湿弁の中では, V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁が, 騒音が最も低く, 耳の感度が良い1~5 khzの周波数帯で騒音レベルが下がっている. 100 (a) 1-step expansion, V-ditch ; 2 34.3 db(a) 80 60 40 0 2 4 6 8 10 Room temperature; 24 Development unit (R 410A) Compressor ; 2200 rpm Indoor fan ; 800 rpm Outdoor fan ; 180 rpm 100 80 60 (b) 2-steps expansion, V-ditch; 2-2 32.8 db(a) 40 0 2 4 6 8 10 100 (c) 2-steps expansion, V-ditch; 2-4 32.4 db(a) 80 60 40 0 2 4 6 8 10 Frequency (khz) Fig.5.5 Noise spectrum of indoor unit using representative dehumidification valve - 75 -

5.6.2 過渡運転での冷媒音 (1) 実験方法実際の除湿運転では, 始動時および室内 外の気温が変わったとき, リモコンで運転状態を変えた時の過渡運転がある. 過渡運転では, 除湿弁入口で冷媒流動状態が大きく変わり, 騒音レベルや間欠音が大きく変動する. 特に除湿弁入口の冷媒流がスラグ流等の間欠流になると, 耳障りな間欠音が大きくなる. こうした過渡運転での室内ファン騒音を含めた冷媒音を, 従来から行っている聴感により評価した. 実験は, 実験機を第 4 章の図 4.3-(a) と同じ状態に設定し, 図 5.6 のような始動シーケンスおよび図 5.7 のような運転変化シーケンスで除湿運転を行い, 発生する冷媒音を, 除湿弁近傍の室内機表面から 10 cm 離れた所で聞いた. (2) 実験結果実験は図 5.2 の (b)v 溝 2 個 -2 個二段絞り除湿弁と (c)v 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁に対して行い, 次のことが分かった. 1) 図 5.6 の始動シーケンスでは, 問題となるような不快な冷媒音は発生しなかった. 2) 図 5.7 の運転変化シーケンスでは, 圧縮機回転数を変えた時より室外ファン回転数を変えた時の方が, 間欠音を含めた耳障りな音が発生しやすかった. しかしこの不快音は, それほど大きくなく,1 分程度でおさまった. また騒音レベルも実用上問題なかった. 3) (b)v 溝 2 個 -2 個二段絞り除湿弁と (c)v 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁の音を比べると, 聴感では優位さを判断できなかった. 以上の結果は, 絞りを二段にしたことにより,1 一段目で絞り流路面積を大きくでき, 冷媒の流速が遅くなった,2 前段と後段の絞りの間の空間で冷媒流の衝突 撹拌により冷媒流が均一流化され二段目絞り入口でスラグ流等の間欠流の影響が小さくなった,3 広い周波数範囲にわたって騒音レベルの低い除湿弁構造にできた, ためと考えられる. - 76 -

Indoor/Outdoor fan rotation ; 800/180 rpm Outdoor electronic expansion valve ; Open Start 1 min 4 min Dehumidification valve Compressor rotation (rpm) Open 3000 Expansion 13000 / 21800 Fig.5.6 Start sequence of dehumidification operation Indoor fan rotation ; 800 rpm Outdoor electronic expansion valve ; Open Dehumidification valve ; Expasnsion Compressor rotation (rpm) 2400 1400 2400 1800 Outdoor fan rotation (rpm) 550 140 550 280 140 Fig.5.7 Drive sequence of dehumidification operation - 77 -

5.6.3 除湿弁の選択と総合評価先の表 5.3 には, 図 5.2 の (a)v 溝 2 個一段絞り除湿弁,(b)V 溝 2 個 -2 個二段絞り除湿弁,(c)V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁での除湿性能と冷媒音をまとめてある. さらに 5.6.2 項の過渡的除湿運転での結果を合わせて総合的に判断すると, 1) 図 5.2-(a),(b),(c) の各除湿弁とも除湿性能には大きな差はない. 連続音, 不連続音を含め, 冷媒音の点から判断すると, V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁が最も優れている. また (a) 一段絞り除湿弁や (c)v 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁での性能を表 1の目標値と比べて, 2) 除湿能力が500 ml/h 位の時, 一段絞り除湿弁を用いた場合のR 410A 機の冷媒音 ( 表 5.3-(a)) は,R 22 基準機 ( 表 5.2の基準値 ) に比べて,3.7dB(26 29.7dB) 高くなっている. ここで, 両機に対して先の式 (5.1) から騒音を推定すると, 同等の値になる. 音は気体の圧力変動によって生ずることから, 騒音上昇の要因としては, 冷媒を高圧のR 410Aに変えたことによる圧力変動幅の増大が考えられる. 3) 2) も考慮して, 除湿能力が500 ml/h 位の時,V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁を使用したR 410A 機は, 一段絞り除湿弁を使用したR 22 基準機に対して, 冷媒音を2.8 db(26 23.2dB) 低減できる. 4) V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁を用いたR 410A 機の圧縮機回転数 2200 rpmでの除湿能力 745 ml/hは, 目標値と同等で, 基準値 500 ml/hの約 1.5 倍となっている. またこの時, 吹出空気温度は24±2 内で等温除湿運転となり, 除湿成績係数は 1.8で基準値 1.65に比べて9 % 向上して省エネルギーにもなっている. 5) 第 4 章の表 4.2 のヒータ再熱除湿方式と比べると, 除湿能力が 400~500 ml/h の時, 除湿成績係数が 3 倍以上になっている. 6) V 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁を用いたR 410A 機での除湿能力 1.5 倍の時の冷媒音および運転音は, 表 5.2のV 溝 2 個一段絞り除湿弁を用いたR 22 基準機に比べて, それぞれ0.9 db(26 25.1),2.3 db (34.7 32.4) 下がっている. 以上より, 除湿性能及び冷媒音の点から, 図 5.2- のV 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁が優れており, 表 5.2の目標値を達成している. - 78 -

5.7 本章のまとめ ルームエアコンディショナにおける冷媒の R 410A 化及び除湿能力増大のニーズに対して, サイクル再熱除湿サイクルにおいて, 冷媒音を低減した二段絞り除湿弁を開発し,R 22 機に対して, 等温除湿を保ち, 騒音を抑え, 省エネルギーを保った状態で, 除湿能力 1.5 倍化の検討を行い, 次の結果を得た. 1) 二段絞り除湿弁を, 弁座に複数のV 溝を二段に 2 個 -4 個設けた構造とした. この弁の採用により,R 410A 機において, 除湿能力 500 ml/h の時, 従来のV 溝 2 個一段絞り除湿弁の場合に比べて, 冷媒音を 6.5 db 低減した. また R 22 使用で冷媒音の低い基準機と比べて, 冷媒音を 2.8 db 低減できた. 2) 上記のV 溝 2 個 -4 個二段絞り除湿弁を用いた R 410A 機で, 圧縮機及び室外ファンの回転数を適切に設定することにより, 吹出空気温度が室温 ±2 の等温除湿運転時に,R 22 機と比べて, 冷媒音および運転音を下げた状態で除湿能力を 1.5 倍にし, さらに除湿成績係数を 9 % 向上できた. 3) ヒータ再熱除湿方式と比べて, 除湿能力が 400~500 ml/h の時, 除湿成績係数が 3 倍以上にできた. なお以上の結果は, 除湿弁の絞りを以下のように構成し, 冷媒流の運動エネルギーを減らすようにすると同時に, 冷媒流同士および冷媒流が管壁に当るときの衝撃を小さくなるようにして, 発生する冷媒音を低減したことの効果が大きい. a) 絞り量と冷媒流量の適正化 ; 冷媒音は冷媒流の運動エネルギーが大きいほど大きく, 除湿能力は蒸発温度が変わらなければ同等であるため, 冷蒸発温度が変わらないように, 絞り量を増やして冷媒流量を減らす. b) 二段に絞り, 圧力を段階的に下げ, 衝撃力を弱める. c) 各段に複数の絞り流路用の V 溝を設け, しかも各段の V 溝が一直線につながらないように角度をずらして設ける. a)~c) の手段は, 連続音の騒音レベル低減だけでなく. 気液二相流が絞り部に流入するときに発生する間欠音の低減にも有効である. またこの章で述べたアプローチは, 広い容量範囲の機種に適用でき, 除湿能力を増大する手段として有効である. - 79 -