直接還流するように血行動態を修正する手術 ) を施行する ただ 順調なフォンタン循環であっても通常の慢性うっ血性心不全状態であるため いつかは破綻していくこととなる フォンタン型手術は根治的手術ではない また フォンタン型手術適応外となった群には 効果的な薬物治療はなく ACE 阻害薬 利尿薬の効果

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要件の判定に必要な事項 1. 患者数 ( 平成 28 度医療受給者証保持者数 ) 4,667 人 2. 発病の機構不明 ( 心筋収縮蛋白の遺伝子異常が主な病因であると考えられている ) 3. 効果的な治療方法未確立 ( 根治治療なし ) 4. 長期の療養必要 ( 心不全などの治療の継続が必要である

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設問 2 解説 図 2-1 図 2-3 より 非対称性中隔肥厚 (asymmetric septal hypertrophy: ASH) が見られ 肥大が後壁を除く左室全体に及ぶことから 肥大型心筋症 MaronⅢ 型の症例である 図 2-5 では 大動脈弁は収縮早期に完全に開口しているが収縮中期以

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1. 期外収縮 正常なリズムより早いタイミングで心収縮が起きる場合を期外収縮と呼び期外収縮の発生場所によって 心房性期外収縮と心室性期外収縮があります 期外収縮は最も発生頻度の高い不整脈で わずかな期外収縮は多くの健康な人でも発生します また 年齢とともに発生頻度が高くなり 小学生でもみられる事もあ

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2 1 心臓リハビリテーションプラン 従来の心疾患治療 心疾患発症 治癒 主治療 追加治療 心臓手術 薬物療法 カテーテル治療 オプション治療 リハビリテーション 高齢者 治療に伴い麻痺が生じた症例 社会復帰目的 ベッドコントロール目的 早期退院 これからの心疾患治療 心疾患発症 症状改善 予後改善

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心臓静脈動脈体循環 心臓の働き 肺循環 心臓は 全身に血液を送り出すポンプの働きをしています 生命維持に必要な酸素や栄養素などを含む血液を 拍動によって肺や全身へめぐらせます 肺循環心臓と肺のあいだをめぐる血液循環です 肺で酸素を取り入れ 二酸化炭素を放出します 体循環心臓と全身のあいだをめぐる血液

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概要 210 単心室症 211 左心低形成症候群 212 三尖弁閉鎖症 213 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症 1. 概要単心室症 左心低形成症候群 三尖弁閉鎖症 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の総称を単心室循環症候群という 単心室循環症候群とは 体循環と肺循環の双方を 機能的に一つの心室のみに依存する血行動態を有する疾患群の総称である 全て 先天性であり 後天性の疾患は存在しない なお 単心室症とは 形態的に心室が一つのみ存在することを意味するものではない 単心室循環症候群では 重度の慢性低酸素血症 多呼吸 易疲労感などの心不全症状を呈する 肺血流は増加 減少の双方が存在し 心室レベルで血液が右 左短絡するため 酸素投与に反応しない低酸素血症を生じる 肺高血圧 肺血管低形成を合併することも多い 手術を含め 根治的治療法はない 労作時の易疲労のため 就業な困難な場合が多い 重度の慢性低酸素血症やフォンタン型手術後の循環破綻によって死亡することが多い 2. 原因先天性である 原始心筒の心ループ成熟において 房室弁と洞部中隔が心房中隔と整列する過程の異常等 幾つかの心ループ成熟過程異常が考えられている しかし その心臓発生異常の起因となる原因は不明である 3. 症状心不全 低酸素血症 血液右 左短絡自体 フォンタン循環 ( 後述 ) 破綻に由来する 1) 心不全に由来する症状乳児期の哺乳不良 体重増加不良など 成人期の易疲労 動悸 食思不振など 2) 低酸素血症に由来する症状 合併症乳児期の多呼吸 チアノーゼ バチ状指等 成人期の易疲労 過粘稠度症候群 チアノーゼ性腎症等 3) 右左短絡による合併症脳梗塞 脳膿瘍 4) フォンタン循環破綻に由来する症状 合併症心不全 低酸素血症 房室弁逆流 蛋白漏出性胃腸症 鋳型気管支炎 (plastic bronchitis) 肝腫大 肺高血圧など 4. 治療法 厳密な適応基準を満たせばフォンタン型手術 ( 図 1: 上下大静脈からの静脈血が心室を介さず肺動脈に

直接還流するように血行動態を修正する手術 ) を施行する ただ 順調なフォンタン循環であっても通常の慢性うっ血性心不全状態であるため いつかは破綻していくこととなる フォンタン型手術は根治的手術ではない また フォンタン型手術適応外となった群には 効果的な薬物治療はなく ACE 阻害薬 利尿薬の効果は限定的であり 対症療法のみとなる 左室型単心室 図 1: 左室型単心室症に対するフォンタン型手術 5. 予後フォンタン型手術を行った患者の 20 年生存率は手術成績の良好な施設で 69% との報告がある 単心室症全体で手術未実施なら 10 年生存率は約 40% である 20 歳以上で心原性の慢性低酸素血症の予後は非常に悪い 50 歳以上生存することは困難である 要件の判定に必要な事項 1. 患者数約 3,500 人 ( 単心室循環症候群の総数 ) 2. 発病の機構不明 3. 効果的な治療方法未確立 ( 手術療法を含め根治療法は確立していない ) 4. 長期の療養必要 ( フォンタン術後も心不全状態が継続する ) 5. 診断基準あり ( 日本小児循環器学会作成の診断基準あり ) 6. 重症度分類 NYHA 心機能分類 II 度以上の場合を対象とする 情報提供元日本循環器学会 日本小児循環器学会 日本成人先天性心疾患学会

< 診断基準 > 単心室循環症候群は 単心室症 左心低形成症候群 三尖弁閉鎖症 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖 症の総称である 各疾患と診断された場合を対象とする 1. 単心室症単心室症では 大循環と肺循環を維持する心室を主心室 小さく残存して ほとんど機能していない心室を痕跡的心室と呼称する 診断 心臓超音波検査又は MRI で 一つの心室 ( 主心室 ) に両房室弁若しくは共通房室弁が挿入している場合 ( 房室弁の全てが一つの心室に挿入している ) 房室弁が2つある場合は 1つの房室弁は全て主心室に挿入し 他方の房室弁が痕跡的心室に騎乗していても その程度が 50% 未満のみ挿入していることが判明すれば 単心室症と診断する 主心室の構造と瘢痕的心室の位置関係をみることにより 左室性か右室性かを診断する 心房中隔欠損 共通房室弁 共通房室弁 肺動脈狭窄 右室型単心室 図 2: 右室型の単心室症 2. 左心低形成症候群心臓超音波検査にて 下記の2つの特徴を有する場合に診断する 1 非常に小さい左室 ( 重度低形成例では左室はスリット状又は確認不能 ) を認める 大動脈弁及び僧帽弁は閉鎖又は狭窄している 左室は左後方に存在するが低形成で心尖部に到達しない 2 一方 肺動脈は太く 動脈管が閉鎖しない状態では 血液は肺動脈から大動脈へ右 左短絡している 卵円孔又は心房中隔欠損があることが必須で 左房から右房への短絡が確認される

心房中隔欠損 大動脈弁閉鎖 僧帽弁閉鎖 低形成左室 図 3: 左心低形成症候群 3. 三尖弁閉鎖症 1 四腔断面で右房から右室へのつながりの閉鎖 ( 多くは筋性閉鎖 ) 2 心房中隔と心室中隔の不整合 (malalignment) が診断の基本となる また 3 生存中なら心房間交通 ( 右房から左房への短絡 ) が必須であり 4 心室中隔欠損も伴い左室から右室への短絡を認めることもある 大血管は正常連結のものと大血管転位のものに分けられる 基本は心臓超音波検査で診断されるが 心臓カテーテル検査 心臓 MRI 又は CT でも可能である 診断 心臓超音波検査 心臓カテーテル検査 心臓 MRI 又は CT のいずれかにおいて 1を認めた場合 三尖弁閉鎖症と診断する 2 3 4は診断に必須ではない 心室中隔欠損 肺動脈弁閉鎖 三尖弁閉鎖 低形成右室 心室中隔欠損 図 4: 三尖弁閉鎖

4. 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症 1 肺動脈弁が漏斗部閉鎖か弁性閉鎖となる 2 肺動脈は細く 3 肺血流は大動脈から動脈管を通して供給されるか 4 大動脈からの体肺側副血管によって供給される 5 心室中隔欠損は存在しない 多くは 右室は低形成であり 肺循環を維持することが不可能である 診断 心臓超音波検査 心臓カテーテル検査 心臓 MRI 又は CT のいずれかにおいて 1 2 5の全てと3かつ / または4を認める場合 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症と診断する 心房中隔欠損 肺動脈弁閉鎖 三尖弁逆流 図 5: 心室中隔欠損を伴わない肺動脈弁閉鎖

< 重症度基準 > NYHA 心機能分類 II 度以上 NYHA 分類 I 度 心疾患はあるが身体活動に制限はない 日常的な身体活動では疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは 狭心痛 ( 胸痛 ) を生じない II 度 軽度から中等度の身体活動の制限がある 安静時又は軽労作時には無症状 日常労作のうち 比較的強い労作 ( 例えば 階段上昇 坂道歩行など ) で疲労 動 悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生ずる III 度 高度の身体活動の制限がある 安静時には無症状 日常労作のうち 軽労作 ( 例えば 平地歩行など ) で疲労 動悸 呼吸困難 失神あ るいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生ずる IV 度 心疾患のためいかなる身体活動も制限される 心不全症状や狭心痛 ( 胸痛 ) が安静時にも存在する わずかな身体活動でこれらが増悪する NYHA: New York Heart Association NYHA 分類については 以下の指標を参考に判断することとする NYHA 分類 身体活動能力 (Specific Activity Scale; SAS) 最大酸素摂取量 (peakvo 2) I 6METs 以上 基準値の 80% 以上 II 3.5~5.9 METs 基準値の 60~80% III 2~3.4 METs 基準値の 40~60% IV 1~1.9 METs 以下 施行不能あるいは基準値の 40% 未満 NYHA 分類に厳密に対応する SAS はないが 室内歩行 2METs 通常歩行 3.5METs ラジオ体操 ストレッチ体操 4METs 速歩 5~6METs 階段 6~7METs をおおよその目安として分類した

診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1. 病名診断に用いる臨床症状 検査所見等に関して 診断基準上に特段の規定がない場合には いずれの時期のものを用いても差し支えない ( ただし 当該疾病の経過を示す臨床症状等であって 確認可能なものに限る ) 2. 治療開始後における重症度分類については 適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって 直近 6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする 3. なお 症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが 高額な医療を継続することが必要なものについては 医療費助成の対象とする