untitled

Similar documents
藤田小矢香 化に伴う身体的症状がある卵胞期についての調査はほとんどない その背景としてエストロゲンからプロゲステロンにホルモンが大きく変動する黄体期や月経期は, 日常生活に支障を来す身体的症状や精神的症状を呈する女性が多く, 治療や看護的介入の必要な場合も多い しかし, 卵胞期においてもエストロゲン

CW6_A2200A01.indd

untitled

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

藤田小矢香 秦幸吉 表 1 月経周期に伴う自覚症状のうち食行動に関係する記述 no 月経前月経中 A B とても食欲が出て 甘いものを大量に摂取しがち 腹痛で食事が食べられないことがある C 爆飲爆食甘いものがやたらとほしくなる食欲はだんだんなくなる D E F 食欲がでる 太る 甘いものが食べたく

untitled

untitled

平成 28,29 年度スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成 支援プロジェクト 女性アスリートの戦略的強化に向けた調査研究 女性アスリートにおける 競技力向上要因としての 体格変化と内分泌変化の検討 女性アスリートの育成 強化の現場で活用していただくために 2016 年に開催されたリオデジャネイロ

No

(Microsoft Word

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

”ƒ.pdf

多量の性器出血があったとき 装着後数ヵ月以降に月経時期以外の 発熱をともなう下腹部痛があったとき 性交時にパートナーが子宮口の除去糸に触れ 陰茎痛を訴えたとき 脱出やずれが疑われる * 症状があるとき ( 出血や下腹部の痛み 腰痛の症状が続くなど ) * ご自身で腟内の除去糸を確認して脱出の有無を確

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

労災疾病等 13 分野医学研究 開発 普及事業 研究課題 研究 1-A 月経関連障害が働く女性の QWL に及ぼす影響に関する調査研究 研究 1-B 更年期障害が働く女性の QWL に及ぼす影響に関する調査研究 研究目的 月経困難症, 月経前症候群の実態を調査 把握し 勤労女性のQWL


A. 思春期 3 表 2 PMS の診断基準 (ACOG による ) PMS 2 30 PMS 7 PMS premenstrual dyspholic disorderpmdd DSM PMDD PMS premenstrual exacerbatio

順天堂大学スポーツ健康科学研究第 7 号 (2003) external feedback) といった内的標準を利用した情報処理活動を促進することを意図したものであった. 上記のように, 運動学習におけるフィードバックの研究は, フィードバックそのもののみに焦点が当てられてきた. そこで, 学習場面

項目 表 1 被験者背景 全体男性女性 人数 ( 人 ) 年齢 ( 歳 ) 40.0 ± ± ± 12.2 平均値 ± 標準偏差

Microsoft Word - 209J4009.doc


ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

情報発信には 新たに開設した 女性のカラダ ミカタ宣言 の Facebook ページ ( を活用していきます また食生活や心身の不調に対応するためのソリューションとして 各社が従来より女性向けに提供しているヘル

School of Health &Physical Education University of Tsukuba

計算例 それでは 実際に計算をしてみましょう ここでは 以下の回答例の場合に どのように点数を算出し 高ストレス者の選定を行うかについて紹介します まず 回答例のの枠内の質問について 回答のあった点数を という置き換えのルールに基づいて 置き換えていきます ( 枠外の

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

最高球速における投球動作の意識の違いについて 学籍番号 11A456 学生氏名佐藤滉治黒木貴良竹田竣太朗 Ⅰ. 目的野球は日本においてメジャーなスポーツであり 特に投手は野手以上に勝敗が成績に関わるポジションである そこで投手に着目し 投球速度が速い投手に共通した意識の部位やポイントがあるのではない

小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小川瑞己 1 佐藤文佳 1 村山伸子 1 * 目的 小学生のカルシウム摂取の実態を把握し 平日と休日のカルシウム摂取量に寄与する食品を検討する 方法 2013 年に新潟県内 3 小学校の小学 5 年生全数 3

する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

平成14年度研究報告

聖徳大学研究紀要聖徳大学第 28 号聖徳大学短期大学部第 50 号 59-64(2017) 月経前症候群および月経前不快気分障害にある勤労女性 の症状とセルフケア学習ニーズに関連する要因 駿河絵理子 Factors related to the symptoms and self-care lear

女子高校生の生活習慣や健康に対する意識調査と発育状況 10 年前との比較検討 cm 160 a) 身長当校 全国平均 cm +1.5cm kg 54 b) 体重 当校 全国平均 kg -1.3kg 51

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

Microsoft PowerPoint ⑤静岡発表 [互換モード]

問 4. 接種後 いつもと違う体調の変化はありましたか (1,103 人に対する比 ) 1 はい 289 人 (26.2%) 2 いいえ 796 人 (72.2%) 3 未回答 18 人 ( 1.6%) * 接種後 何らかの症状があったと答えた方は 26.2% であった 未回答 の者の中には よくわ

ブック 1.indb

参考1中酪(H23.11)

研究報告用MS-Wordテンプレートファイル

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

コーチング心理学におけるメソッド開発の試み 東北大学大学院 徳吉陽河

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

01-18まで.indb

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

地域包括支援センターにおける運営形態による労働職場ストレス度等の調査 2015年6月

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

12_モニタリングの実施に関する手順書 

康度の評価を実施した また リーグ戦日前後を含む 3 日間における栄養調査を思い出し記述法を用いた調査票を回収した ボウリングプレー時の集中度と全身疲労感の主観的評価は 第 1 タームと第 2 ターム リーグ戦ゲーム前後に毎回測定を実施した 各ターム リーグ戦最終日にはプレー前の安静時において 唾液

AC 療法について ( アドリアシン + エンドキサン ) おと治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 作用めやすの時間 イメンドカプセル アロキシ注 1 日目は 抗がん剤の投与開始 60~90 分

平成 17 年度岐阜県生活技術研究所研究報告 No.8 人間工学的手法による木製椅子の快適性評価と機能設計に関する研究 ( 第 8 報 ) 背もたれの最適な支持位置に関する検討 藤巻吾朗 *1 安藤敏弘 *1 成瀬哲哉 *1 坂東直行 *1 堀部哲 *2 Research on comfort ev

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49 59, 2008 資料 看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連 Relationship between M

19_nozaki

女性社員の健康について

untitled

<4D F736F F D F82A482C C B835E B83588CA48B C668DDA95B68F912E646F6378>

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

論文内容の要旨

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

 

表紙.indd

表 1 全国調査の標準版性別尺度平均と標準偏差 (SD) 男性 女性 合計 標準版の尺度 人数平均 SD 人数平均 SD 人数平均 SD t 検定 仕事の負担 仕事の量的負担 *** 仕事の質的負担

11号02/百々瀬.indd

中カテゴリー 77 小カテゴリーが抽出された この6 大カテゴリーを 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーの構成概念とした Ⅲ. 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストの開発 ( 研究 2) 1. 研究目的研究 1の構成概念をもとに 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストを

平成14年度研究報告

スライド -3 日本語版 SF-6D に関しては すでに開発と検証が終わっていまして 6 つの下位尺度からなる尺度として利用が始まっています その 6 つの下位尺度とは ここに挙げている身体機能 日常役割機能 社会生活機能 身体の痛み 心の健康 活力といったもので これらの組み合わせで 1 万スライ

さらに, そのプロセスの第 2 段階において分類方法が標準化されたことにより, 文書記録, 情報交換, そして栄養ケアの影響を調べる専門能力が大いに強化されたことが認められている 以上の結果から,ADA の標準言語委員会が, 専門職が用いる特別な栄養診断の用語の分類方法を作成するために結成された そ

で は, 前面において約 50%, 側面では約 20~30% 程度多い傾向にあった この傾向は,

原著論文 81 体育実技におけるテスト前後の気分の変化 藤田勉 * (2010 年 10 月 26 日受理 ) Mood Change before and after Testing in Physical Fitness Classes FUJITA Tsutomu 要約 本研究の目的は 体育実

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

Microsoft Word - 12_田中知恵.doc

性器脱に対するTVM (Tension-free Vaginal Mesh)手術

千葉テストセンター発行 心理検査カタログ


様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

46 名古屋女子大学紀要第 51 号 ( 家政 自然編 ) の被験者は無条件に PMS 群とした. その結果,24 名中 10 名を PMS 群, 残り14 名を非 PMS 群と判定した. カルシウム補給 :PMS 群にのみ, カルシウムサプリメント ( ネイチャーメイドカルシウム+ビタミン D;

Microsoft Word - 【機構案】ルナベル配合錠_患者向医薬品ガイド_2016年更新・富士製薬版(案)_修正 コピー

モリサワ多言語フォント (UD 新ゴハングル UD 新ゴ簡体字 UD 新ゴ繁体字 ) の可読性に関する比較研究報告 株式会社モリサワ 概要 モリサワはユニバーサルデザイン (UD) 書体を2009 年に市場投入して以来 多くのお客様の要望に応え フォントの可読性に関する比較研究を行ってきた エビデン

女性アスリートの健康サポート ~婦人科的視点から考える~

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

研究成果報告書

患者向医薬品ガイド

1 卵胞期ホルモン検査 ホルモン分泌に関して卵巣や脳が正常に機能しているかを知る目的で測定します FSH; 卵胞刺激ホルモン脳の下垂体から分泌されて 卵子を含む卵胞を成長させる作用を持ちます 低いと卵胞の成長がおきませんが 卵巣の予備能力が低下している時には反応性に高くなります LH; 黄体化ホルモ

(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

立命館

平成 27 年度全国体力 運動能力 運動習慣等調査愛媛県の結果概要 ( 公立学校 ) 調査期間 : 調査対象 : 平成 27 年 4 月 ~7 月小学校第 5 学年 ( 悉皆 ) 中学校第 2 学年 ( 悉皆 ) 男子 5,909 人男子 5,922 人 女子 5,808 人女子 5,763 人 本

My DIARY ベンリスタをご使用の患者さんへ

す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

Microsoft Word _nakata_prev_med.doc

Microsoft PowerPoint - 3-2奈良.ppt [互換モード]

過去 3~11 ヶ月の間無月経である 又は 過去 12 ヵ月の間月経が不規則であるとき perimenopause とする Based on longitudinal data of women s menstrual cycles, Brambilla et al and Dudley et al

.A...ren

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

Microsoft PowerPoint - 【配布・WEB公開用】SAS発表資料.pptx


表紙1

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

Transcription:

44 順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ),44~50 (2017) 資料 女子大生および大学院生を対象とした月経関連症状の把握の試み 日本語版 月経関連症状に関する調査フォーム T を用いた実例 大野佳南子 涌井佐和子 須永美歌子 町田 修一 Assessment of premenstrual symptoms in college women A case study using modiˆed Moos Menstrual Distress Questionnaire Kanako OHNO, SawakoWAKUI, MikakoSUNAGA and Shuichi MACHIDA. 緒言 女性における卵巣ホルモン ( エストロゲン, プロゲステロンなど ) 濃度は, 月経周期全体を通して連続的に変化し 11), 心身に様々な影響を与えることが知られている 12). 黄体期や月経期での不調や変化を訴える女性も多く, 月経前症候群, 月経痛などが主な原因であると考えられる. 月経前症候群は 月経のはじまる 3~10 日前から起こる精神的, 身体的症状で, 月経開始とともに減退ないし消失するもの と定義されている 12). また, 月経の直前あるいは開始とともに起こる下腹部痛, 腰痛など, 疼痛を症状とし, 悪心, 嘔吐, 下痢, 頭痛などの不快な症状を包含した症候群 を月経痛および月経困難症という 3). これらの月経に関連して起こる症状を本研究では月経関連症状と定義する. 月経関連症状を評価する方法として,Moos が開 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 Graduate School of Health and Sports Science, Juntendo University 順天堂大学スポーツ健康科学部 School of Health and Sports Science, Juntendo University 日本体育大学運動生理学研究室 Department of Exercise Physiology, Nippon Sport Science University 発した Menstrual distress questionnaire(mdq) の質問紙があり 7), 本邦では秋山と芽島 (1979) による日本語版 MDQ が存在している.MDQ は月経周期の時期を 月経前 月経中 月経後 として, 47 項目の質問に対して, 月経周期を思い起して各項目 0~3 点の 4 段階で回答することが一般的である. その一方, 医学的ケアーの観点から, 日本語版 MDQ に項目を追加して独自のスコア ( 修正 MDQ) を作成し, 臨床現場で月経に伴う症状を把握する試みも見受けられる 10). また, 須永らは,MDQ の著作権を有する Mind Garden, Inc. より翻訳許可を得て, 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T を作成した. 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T は, 従来の日本語版 MDQ 同様, 月経周期に伴う身体的 精神的変化に関する質問紙であるが, 症状の程度を 5 段階で評価しているため, 月経関連症状の程度をより定量化することができると思われる. さらに, 月経関連症状の回答方法には, 過去の記憶の想起による回顧的方法と, その日の症状について評価する即時的方法がある 13). 一般的に回顧的方法では症状の発現率および程度が強く現れること 8) や, 社会的な通念と態度により関連を受けること 12) が多く, 信頼性に限界があるため, 即時的方法を用いることが適切である. しかし, 日本

順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ) (2017) 45 語版月経関連症状に関する調査フォーム T を使用し, 即時的方法で月経関連症状について調査した研究はないと思われる. そこで本研究では, 若年女性の月経関連症状を把握するために, 即時的方法を用いて月経周期に伴う月経関連症状の変化を把握することを目的とした.. 方法. 対象者対象者は体育系大学に所属する健康な女子大学生および大学院生 25 名であり, 運動系の部活動には所属していなかった. 対象者には事前に調査の目的, 手順および考えられる不利益などについて口頭および文書で説明し, 本人の意思により研究参加の同意を得た. 未成年の対象者に対しては, 保護者からの承諾も得た. 本研究は, 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科研究等倫理委員会の承諾を得て行われた.. 質問紙調査の方法質問紙調査には日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T を使用した. 対象者には,1 週間に 1 回の頻度 ( 毎週同じ曜日 ) で計 4 回の質問紙調査を行った. 毎回できるだけ同じ時刻に実験室にて回答をしてもらい, 対象者の都合がつかない場合は調査日の前日または翌日に実施した. 対象者に月経周期の聞き取り調査, 排卵検査を行い, 月経開始日および月経周期を確認した. 測定開始時期の月経周期のフェーズが対象者によって異なるため,4 回の調査のうち月経開始後最初の調査日を 1 週目とし,1 週目から 4 週目まで並び替えた. 身長, 体組成は 1 回目の調査日に測定した. 体重および体脂肪率はインピーダンス法による体組成成分測定器 Body Composition Analyzer InBody730 ( 株式会社バイオスペース ) を用いて, 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T の記入後に測定した.. 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T Moos が開発した Menstrual distress questionnaire(mdq) 7) の邦訳版である 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T を用いた. この調査票は須永らがMDQ の著作権を有するMind Garden, Inc. に翻訳許可を得て作成した調査票である. 月経周期に伴う身体的 精神的変化に関する46 項目の質問を 5 段階で評価し,8 つの下位尺度 ( 痛み, 水分貯留, 自律神経, 負の感情, 集中力, 行動変化, 気分の高揚, コントロール ) に分類することで症状の程度を評価する特徴がある. 本研究の対象者には46 項目の質問について 5 段階評価でそれぞれ回答させ,8 つの下位尺度に分類し ( 文末資料 1, 2), 下位尺度ごとに平均値を求めた.Logue ら 5) は気分の高揚はポジティブな変化ととらえると報告している. 表 1 1 週目 ( 月経期相当 ) における各個人の合計点 - 気分の高揚の得点 (N=23) 被験者合計得点 A 12.00 B 41.00 C 22.00 D 30.00 E 54.00 F 18.00 G 31.00 H 5.00 I 22.00 J 12.00 K 20.00 L 8.00 M 28.00 N 23.00 O 20.00 P 17.00 Q 34.00 S 29.00 T 83.00 U 6.00 W 13.00 X 45.00 Y 33.00 平均値 26.35 標準偏差 17.54

46 順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ) (2017) 表 2 1 週目 ( 月経期相当 ) における各個人の下位尺度の得点 (N=23) 被験者 F1 痛み F2 水分貯留 F3 自律神経 F4 負の感情 F5 集中力 F6 行動変化 F7 気分の高揚 F8 コントロール 合計得点 A 0.83 0.25 0.50 0.00 0.00 0.00 0.60 0.17 12.00 B 1.17 0.75 1.00 1.25 1.00 1.40 0.20 0.17 41.00 C 1.00 1.00 0.25 0.13 0.00 0.40 1.00 0.00 22.00 D 2.00 1.00 0.25 0.38 0.50 0.60 0.40 0.17 30.00 E 1.67 1.50 0.75 1.88 1.25 1.40 0.40 0.17 54.00 F 0.50 1.50 0.50 0.50 0.13 0.00 0.40 0.00 18.00 G 1.00 0.50 0.50 0.50 1.25 0.60 0.60 0.17 31.00 H 0.33 0.25 0.00 0.00 0.13 0.20 0.00 0.00 5.00 I 1.17 0.50 0.25 0.50 0.75 0.00 0.40 0.00 22.00 J 0.50 1.00 0.25 0.00 0.25 0.20 0.20 0.00 12.00 K 0.83 1.00 0.50 0.13 0.13 1.00 0.00 0.33 20.00 L 0.67 0.50 0.00 0.00 0.00 0.00 0.40 0.00 8.00 M 1.17 0.75 0.50 0.63 0.50 1.40 0.00 0.00 28.00 N 0.00 0.75 0.00 0.63 0.88 1.20 0.40 0.00 23.00 O 0.33 1.00 0.00 0.63 0.25 0.40 1.00 0.00 20.00 P 0.33 1.00 0.00 0.38 0.00 0.60 1.00 0.00 17.00 Q 1.33 0.75 0.50 0.88 1.00 0.40 0.80 0.00 34.00 S 0.33 0.50 0.25 0.25 1.00 1.20 1.60 0.00 29.00 T 1.83 3.00 1.75 2.00 2.00 1.60 1.00 1.33 83.00 U 1.83 3.00 1.75 2.00 2.00 1.60 1.00 0.00 6.00 W 0.33 0.00 0.00 0.00 0.63 0.00 1.20 0.00 13.00 X 1.17 1.50 0.00 0.63 1.38 1.60 1.60 0.00 45.00 Y 2.00 1.25 0.00 1.38 0.38 0.20 0.20 0.00 33.00 平均値 0.97 1.01 0.41 0.64 0.67 0.70 0.63 0.11 26.35 標準偏差 0.60 0.74 0.50 0.64 0.61 0.60 0.48 0.28 17.54. 統計処理本研究で得られたデータは, すべて平均値 ± 標準偏差で示した. 統計解析は対応のある一元配置分散分析を用いて検定を行い, 有意差が認められた場合は Bonferroni 法を用いて多重比較検定を行った. 統計的有意水準は 5 とした.. 結果 対象者の特性は, 年齢 20.7±1.6 歳, 身長 159.6± 5.2 cm, 体重 56.6±6.3 kg, 体脂肪率 27.1±5.3, 月経周期 32.9±7.9 日であった. 週 1 回の頻度で 4 週間連続して調査を実施し, 月経開始後最初の調査日を 1 週目とした.4 週間のデータが得られなかった 1 名を除き,24 名のデータ 図 1 合計得点 気分の高揚の得点の変化 (N=24) p<0.05 vs 1 週目. 平均値 ± 標準偏差. 対応のある一元配置分散分析を用いて検定を行い, 有意差が認められた場合は Bonferroni 法を用いて多重比較検定を行った.

順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ) (2017) 47 図 2 各下位尺度の得点の変化 (N=24) p<0.05 vs 1 週目. 平均値 ± 標準偏差. 対応のある一元配置分散分析を用いて検定を行い, 有意差が認められた場合は Bonferroni 法を用いて多重比較検定を行った. を分析対象とした.1 週目のデータは24 名中 23 名が月経期相当であり,4 週目のデータは24 名中 23 名が黄体期相当であった.1 週目のデータ ( 月経期相当であった23 名を対象 ) について, 表 1 に下位尺度, 表 2 に F7 気分の高揚を除くネガティブな項目の合 計得点の個人値および平均値を示した. 表 1 と 2 より, 各下位尺度の得点は 2 点以下の者が多く ( 満点は 4 点 ), 合計点は60 点以下の者が多かった ( 満点は184 点 ). また,1 週目から 4 週目のネガティブな項目の合

48 順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ) (2017) 計得点 ( 下位尺度の合計得点から気分の高揚の得点 表 3 本研究と藤田 (2014) の結果の比較 を除いた得点 ) および各下位尺度の平均値を図 1, 図 2 に示した. 本研究の対象者のネガティブな項目の合計得点および F1 痛み,F2 水分貯留,F3 自律神経,F4 負の感情,F5 集中力,F8 コントロールにおいて, 月経期相当の 1 週目に最も得点が高く, 2 週目および 3 週目に得点が低下し, 黄体期相当である 4 週目に得点が増加した.F7 気分の高揚においては反対の結果を示しており,2,3 週目より 1, 4 週目の得点が低かった.. 考察本研究では, 若年女性の月経関連症状を把握するために, 即時的方法で日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T を用いて週 1 回の頻度で 4 週間連続して調査を行い, その得点の変化について検討した. 本研究においては, 即時的方法を用いて 4 週間連続して調査を行ったため, 回顧的方法で指摘される月経関連症状の発現率および程度が強く現れること 8) や, 社会的な通念と態度の影響 6) を避けられたのではないかと考えた. 本研究の結果から, 月経関連症状が出現すると予想される月経期相当および黄体期相当の時期でネガティブな項目の得点が高く, ポジティブな項目の得点が低かったことから, 月経周期に伴う月経関連症状の変化を定性的に把握できたと考えられる. 藤田 2) は19~28 歳の25 名の女性を対象に, 日本版 MDQ 4) を用いて回顧的方法にて月経関連症状を評価した. 本研究は 5 段階評価で行っているが, 藤田は 4 段階評価で行っているため, これらの結果を比較するために満点に対する割合 ( ) を算出し, 表 3 に示した. 藤田の MDQ の得点と比較すると, 本研究の MDQ の得点は F7 気分の高揚を除いて全ての項目で低いことがわかる. 回顧的方法は症状が強く現れる 9) ことから, 藤田の研究では得点が高かった可能性がある. その一方で, 各項目の得点から本研究の被験者は月経関連症状の程度が比較的低い可能性も考えられる. 今後, 即時的方法で日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T を用いた調査研究が多く報告される 平均点 本研究藤田 (2014) 満点に対する割合 ( ) 平均点 満点に対する割合 ( ) 1 週目 ( 月経中 ) F1 痛み 5.43 22.6 8.36 46.4 F2 水分貯留 3.61 22.6 2.64 22.0 F3 自律神経 1.35 8.4 2.16 18.0 F4 負の感情 4.39 13.7 5.72 23.8 F5 集中力 4.78 14.9 5.24 21.8 F6 行動変化 3.13 15.7 5.72 38.1 F7 気分の高揚 3.00 15.0 1.16 7.7 F8 コントロール 0.65 2.7 1.20 6.7 4 週目 ( 月経前 ) F1 痛み 3.32 13.8 6.04 33.6 F2 水分貯留 3.23 20.2 3.44 28.7 F3 自律神経 1.41 8.8 1.32 11.0 F4 負の感情 3.68 11.5 7.5 31.3 F5 集中力 3.23 10.1 5.08 21.2 F6 行動変化 1.95 9.8 5.68 37.9 F7 気分の高揚 3.36 16.8 1.17 7.8 F8 コントロール 0.59 2.5 1.08 6.0 ことで, 対象者の月経関連症状の特性が明らかになり, 比較検討ができると思われる.. 結論 日本人若年女性の月経関連症状を把握する上で, 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T を使用した即時的方法による経時的な調査は, 有用である可能性が示唆された.. 謝辞 本研究に協力してくださった対象者の皆様に心より感謝申しあげます. 本研究の一部は, 文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 女性スポーツ研究センター のご支援をいただきました. ここに深く感謝の意を表します. 文 1) 秋山昭代, 茅島江子 (1979). 月経随伴症状日本語 献

順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ) (2017) 49 版 (MDQ: Menstrual Distress Questionnaire) 心理測定尺度集 VI( 堀洋道監修, 松井豊, 宮本聡介編集 ), 東京, サイエンス社.pp272 277. 2) 藤田小矢香 (2014). 成熟期前期女性の月経中と月経後の月経随伴症状と気分の関係. 島根県立大学出雲キャンパス紀要,9, 1 8. 3) 五十嵐正雄 (1976). 月経とその異常. 初版, 東京, 金原出版,pp45 51. 4) 糸井裕子, 岡田隆夫 (2011). 健康な女子大学生の課題に伴う精神性発汗と月経周期の関係. 発汗学,18 (2), 48 58. 5) Logue, C. M. & Moos, R. H. (1988). Positive perimenstrual changes: Toward a new perspective on the menstrual cycle. J Psychosom Res, 32(1), 31 40. 6) MacFarland,C.Ross,M.&DeCourville,N.(1989). Women'stheoriesofmenstruationandbiasesinrecallof menstrual symptoms. J Pers Soc Psychol, 57(3),5,522 531. 7) Moos, R. H. (1968). The development of a menstrual distress questionnaire. Psychosom Med, 30(6), 853 67. 8) 日本体育大学 月経周期を考慮したコンディショニング法の開発 事業プロジェクトチーム (2016). 平成 25 年度 ~ 平成 27 年度スポーツ庁委託事業女性アス リートの育成 支援プロジェクト女性アスリートの戦 略的強化に向けた調査研究 月経周期を考慮したコン ディショニング法の開発 事業報告書. 日本体育大学, p76. 9) 野田洋子 (2003). 女子学生の月経周辺期の変化の 特徴. 順天堂医療短期大学紀要,14, 53 64. 10) 小田川寛子, 白土なほ子, 長塚正晃, 千葉 博, 木 村武彦, 岡井 崇 (2008).MDQ スコアによる思春 期女子の月経随伴症状に関する検討, 昭和医学会雑誌, 68(3), 155 161. 11) Stachenfeld, N. S. (2008). SexhormoneeŠectson body uid regulation. Exerc Sport Sci Rev, 36(3), 152 159. 12) 須永美歌子 (2016). 女性とスポーツ,1 から学ぶ スポーツ生理学 第 2 版 ( 中里浩一, 岡本孝信, 須 永美歌子編集 ). 東京, 株式会社ナップ,pp174 180. 13) 吉沢豊予子, 鈴木幸子 (2000). 女性の看護学 母 性の健康から女性の健康へ. 東京, メヂカルフレンド 社,pp186 194. 平成 29 年 2 月 20 日 平成 29 年 9 月 7 日 受付 受理

50 順天堂スポーツ健康科学研究第 8 巻第 2 号 ( 通巻 71 号 ) (2017) 文末資料 資料 1 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T の質問項目 下位尺度 質 問 項 目 F1 痛み 1. 筋肉のこわばり 2. 頭痛 3. 下腹部痛 4. 腰痛 5. 倦怠感 ( 疲れ ) 6. 体の鈍痛や痛み F2 水分貯留 7. 体重の増加 8. 肌荒れ, もしくは肌のトラブル 9. 乳房の痛み, 圧痛 10. 乳房や腹部の張り F3 自律神経 11. めまい, 立ちくらみ 12. 冷や汗 13. 吐き気, 嘔吐 14. 体のほてり F4 負の感情 15. 孤独を感じる 16. 不安を感じる 17. 気分にむらがある 18. 涙が出る 19. イライラする 20. 気が張る 21. 憂鬱である 22. 落ち着かない F5 集中力 23. 眠れない 24. 忘れっぽい 25. 考えがまとまりにくい 26. 判断力の低下 27. 集中できない 28. 気が張りやすい 29. ちょっとしたミスをする 30. 思い通りに体を動かせない F6 行動変化 31. 学校や職場でのパフォーマンス低下 32. 居眠りをする, 布団から出られない 33. 家にこもる 34. 人付き合いを避ける 35. 作業効率の低下 F7 気分の高揚 36. 人を愛おしく感じる 37. 物事が整理されていると感じる 38. 気分が高揚する 39. 幸せと感じる 40. 活力を感じる, 活動的 F8 コントロール 41. 息苦しい 42. しめつけられるような胸の痛み 43. 耳鳴り 44. 動悸 45. しびれ, ピリピリした痛み 46. 視野が狭くなる, ぼやける 資料 2 日本語版月経関連症状に関する調査フォーム T の得点と症状の程度 得点 症 状 の 程 度 0 点 全く感じない / 全く症状がない 1 点 わずかに感じる / わずかに症状がある 2 点 やや感じる / やや症状がある 3 点 強く感じる / 強い症状がある 4 点 非常に強く感じる / 非常に強い症状がある