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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

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病原体の排除に関わるペントラキシン 3 の敗血症への効果を発見 細胞外ヒストンの血管傷害を抑制 1. 発表者 : 浜窪隆雄 ( 東京大学先端科学技術研究センター計量生物医学 教授 ) 太期健二 ( 東京大学先端科学技術研究センター計量生物医学 特任助教 ) 津本浩平 ( 東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 教授 ) 2. 発表のポイント : 細菌や真菌などの病原体を免疫細胞に食べられやすくするPTX3( 注 1) が細胞外ヒストン ( 注 2) を凝集させることで 炎症反応を抑えることを発見しました PTX3は細胞外ヒストンによる血管内皮細胞の傷害を抑制し 敗血症を示すモデルマウスの生存率を改善することを見出しました ウイルスなどさまざまな病原体による重症の感染症 あるいは外傷 がんなどにより多臓器不全に至る疾病に有効な治療法となると期待されます 3. 発表概要 : 重症敗血症 ( 注 3) では全身で炎症反応が起こり 複数の臓器の機能不全により死に至ることが知られています 臓器不全の原因として 通常は細胞内の核にあるヒストンが壊れた組織や炎症細胞から細胞外へ放出されること ( 細胞外ヒストン 注 2) による傷害作用が重要であると考えられるようになってきました しかし その実態には不明な点が残されています 今回 東京大学先端科学技術研究センターの浜窪隆雄教授と太期健二特任助教を中心とする研究グループは同大学大学院工学系研究科の津本浩平教授らと共同で 炎症の急性期に血中に増加するタンパク質であるペントラキシン3(PTX3 注 1) の働きを調べ PTX3がヒストンと凝集反応を起こすことを突き止めました さらに 敗血症を発症しているモデルマウスや培養された血管内皮細胞を用いて PTX3が細胞外ヒストンによる血管内皮細胞の傷害作用を抑制し 生存率を画期的に改善することを示しました ( 図 1) 本成果はPTX3の自然免疫における新規の役割の発見であるとともに 重症敗血症やその他の原因で細胞外ヒストンによりもたらされる臓器不全に対して新たな治療法を提供するものとして期待されます 4. 発表内容 : 1 研究の背景 PTX3は感染症の初期に血中で上昇する急性期のタンパク質のひとつです PTX3 は白血球や血管内皮細胞に存在し 炎症部位で局所的に分泌されるため 急性期の大多数のタンパク質に比べて血中濃度が低いのがその特徴です ウイルスや細菌 かびなどさまざまな病原体と結合し 抗原をマクロファージに渡すオプソニン化 ( 注 1) としての働きが知られており 自然免疫における可溶性のパターン認識受容体として位置づけられてい

ます さらに 病原体排除に働いている補体系のタンパク質 ( 注 4) や細胞外基質を形成しているタンパク質との結合なども知られ 炎症反応における重要な役割が指摘されています 一方 敗血症と呼ばれる重症の感染症では 全身における炎症反応により 複数の臓器の機能不全が起こり死に至る重症敗血症あるいは敗血症性ショックが知られ その病態解明や治療法の開発が待たれています 近年 このような多臓器不全の病態として 壊れた組織や炎症細胞から放出される細胞外ヒストンによる内皮細胞の傷害や血小板凝集がその原因ではないかと考えられるようになってきました 従来の炎症反応では 感染が起こった病変部位で好中球や食細胞が病原菌を貪食し殺菌すると考えられてきましたが 最近では 好中球からDNAとヒストンなどの混在した好中球細胞外トラップ (NETs 注 5) が投網のように放出され 病原菌をからめとるという新たな炎症反応像が提唱され注目されています 重度の感染症では 過度のNETs 反応や傷害された細胞から放出される細胞外ヒストンが臓器不全の原因ではないかと考えられています 現在までに東京大学先端科学技術研究センターの浜窪隆雄教授と太期健二特任助教を中心とする研究グループは PTX3のみに反応する抗体を用いて敗血症患者の血液中に存在する少量のPTX3と結合するタンパク質を高感度質量分析法により調べ PTX3の結合相手として 好中球細胞外トラップ (NETs) タンパク質と細胞外ヒストンを見出して報告しています (http://www.qbm.rcast.u-tokyo.ac.jp/topics/2012-02-14.html) しかし 敗血症におけるPTX3の役割については 不明な点が残されていました 2 研究の内容本研究グループは同大学大学院工学系研究科の津本浩平教授らの協力により PTX3 と細胞外ヒストンの結合は通常のタンパク質相互作用とは異なり タンパク質の構造が失われる凝集反応であり すばやく不可逆的な凝集体を作る反応であることが明らかになりました 加えて研究グループは ヒストンのH3 H4など血管内皮細胞の傷害活性や血小板凝集を起こす機能が強いヒストンとPTX3が特に強く凝集体を作ることを示しました また 太期特任助教らは培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞 ( 注 6) を用いて PTX3 がヒストンによる内皮細胞の傷害を抑制することも見出しました さらに 敗血症を示すモデルマウスにおいてもPTX3の投与により死亡率や炎症反応が劇的に改善することを明らかにしました 正常なマウスにヒストンを投与すると 肺出血を起こして死亡することが知られていますが このようなヒストンを投与されたマウスにおいても PTX3の投与により血管内皮細胞の傷害や肺出血が抑えられ 生存率が上昇することが分かりました 3 社会的意義タンパク質の凝集反応はアルツハイマー症のβアミロイドや狂牛病のプリオンのような異常タンパク質が起こす生体にとって有害な現象が多く知られていますが PTX3はこの性質により 細胞外ヒストンによる細胞の傷害活性をすばやく確実に中和して生体防御に役立っているものと示唆されます また 外傷や火傷 手術のあとなどに広範な組織の破壊が起こった場合も 同様な病態で多臓器不全が起こることが知られており 本研究による知見は感染による重症敗血症にとどまらず さまざまな病因による臓器不全にも新たな治療法を提供するものとして期待されます

なお 本研究は 新潟大学大学院医歯学総合研究科細胞機能講座分子細胞病理学分野内藤眞 教授の研究グループおよび新潟大学医歯学総合病院病理部の大橋瑠子特任助教 順天堂大学医 学部練馬病院循環器内科井上健司准教授の研究グループと共同で行われました 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Science Signaling ( オンライン版 :9 月 16 日 ) 論文タイトル :Protective effect of the long pentraxin PTX3 against histone-mediated endothelial cell cytotoxicity in sepsis 著者 : Kenji Daigo*, Makoto Nakakido, Riuko Ohashi, Rie Fukuda, Koichi Matsubara, Takashi Minami, Naotaka Yamaguchi, Kenji Inoue, Shuying Jiang, Makoto Naito, Kouhei Tsumoto, Takao Hamakubo* 6. 注意事項 : 日本時間 9 月 17 日 ( 水 ) 午前 3 時 ( アメリカ東部標準時間 :16 日 ( 火 ) 午後 2 時 ) 以前 の公表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : 東京大学先端科学技術研究センター計量生物医学部門教授浜窪隆雄 Email:hamakubo@qbm.rcast.u-tokyo.ac.jp tel/fax:03-5452-5231 8. 用語解説 : ( 注 1) ペントラキシン3(PTX3): 炎症初期に血中に上昇する急性期のタンパク質のひとつ ペントラキシンシグナチャーと呼ばれるアミノ酸配列をもつタンパク質の一群をペントラキシンファミリーと呼ぶ CRP(C-reactive protein:c- リアクティブ プロテイン ) SAP(Serum amyloid protein: 血清アミロイドA) などの短いアミノ端領域を有するペントラキシンに比べ PTX3は長いアミノ端領域を有することから長いペントラキシン (long pentraxi n) と分類される インフルエンザウイルスやアスペルギールスなどの真菌症 緑膿菌などと結合し マクロファージなどの食細胞に取り込まれやすくする オプソニン化 や 補体系との結合による 抗菌作用 インター αトリプシンインヒビターや TSG6(T umor necrosis factor-inducible gene 6) などの細胞外基質タンパク質との結合による 細胞外マトリックスの形成 などが主な働きとして知られている このように多数の異なる分子と結合することからパターン認識受容体と呼ばれている 昆虫にも類似のペントラキシンがあり 生体防御に働いていることから 進化的に抗体分子より古い形式の防御タンパク質と考えられている ( 注 2) 細胞外ヒストン : ヒストン は通常細胞核の中にあり DNAを巻きつけているタンパク質で 8 量体を構成するコアヒストン (H2B,H2A H3とH4) およびリンカーヒストンH1に分類される これらのヒストンが細胞死や傷害などの原因により 細胞外に漏れ出たり 血中に放出されたものを 細胞外ヒストン と呼ぶ 重症敗血症や臓器傷

害の際には大量のヒストンが放出され 血小板凝集を促進することや 血管内皮細胞を傷 害して血管透過性が増すことなどが 多臓器不全に至る原因として考えられている ( 注 3) 重症敗血症 : 細菌やウイルスなどの病原体の感染により全身の炎症が起こり 38 度以上の発熱あるいは36 度以下の低体温 頻脈 頻呼吸 白血球増多あるいは減少などの症状を示す病態を 敗血症 さらに出血傾向や血圧低下 尿量減少 黄疸など臓器不全を伴うものを 重症敗血症 と呼ぶ 世界で年間 1800 万人が罹患し 日本では統計上年間約 1 万人が敗血症で亡くなっている ( 詳しい診断基準は敗血症診断ガイドラインに解説されている ) ( 注 4) 補体系のタンパク質 : 感染防御の働きをする一群の酵素タンパク質で 不活性前駆体として主に血中に存在し 抗原抗体複合体や微生物成分などの刺激により次々に活性化する レクチン経路 古典経路および代替経路とよばれる3 通りの活性化経路がある 食作用 溶菌作用 免疫増強作用など様々な効果をもたらす ( 注 5) 好中球細胞外トラップ (Neutrophil Extracellular Trap s:nets):2004 年 Brinkmann らによって提唱された 好中球による病原体を捕捉 殺菌する生体防御の仕組み 好中球はネトーシス (NETosis) と呼ばれる細胞死により 自身のDNA やヒストンおよび顆粒にあるミエロペルオキシダーゼなどの殺菌タンパク質を投網のように病原体に投げつける 重症感染症の際に NETsからヒストンが流出し 細胞外ヒストンの供給源になると考えられている ( 注 6) 培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞 (Human Umbilical Vein Endothelial Cells; HUVEC): 通常複数の臍帯静脈から単離される正常血管内皮細胞 10 数回の細胞分裂までは性質がよく保たれるため 血管形成の生理学 薬理学実験等に広く用いられる

9. 添付 図 1: 細胞外ヒストンの血管傷害活性とペントラキシン3(PTX3) の保護作用重症感染症では好中球から病原体に向けて放出される好中球細胞外トラップ (NETs) あるいは 傷害された細胞から漏出したヒストンが細胞外ヒストンとして血中に増え 血管内皮細胞を傷害し 臓器不全に至る PTX3は ヒストンを凝集させて内皮細胞を保護する作用がある