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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

記 者 発 表(予 定)

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化


神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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論文の内容の要旨

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学位論文の要約

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

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報道関係者各位

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小島光暁 論文審査担当者 主査森尾友宏 副査槇田浩史 清水重臣 論文題目 Novel role of group VIB Ca 2+ -independent phospholipase A 2γ in leukocyte-endothelial cell in

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植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

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< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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平成 20 年 3 月 27 日 科学技術振興機構 (JST) Tel:03-5214-8404( 広報課 ) 九州大学 Tel:092-642-2106( 広報室 ) 白血球の一種 好中球 が感染源に向けて動く際の基本原理を解明 ( 炎症性疾患の治療応用に期待 ) JST 基礎研究事業の一環として 九州大学生体防御医学研究所の福井宣規教授らは 白血球の一種 好中球注 1) が細菌などの感染源に向かって動く際 2 種類のリン脂質注 2) を使って DOCK2 というたんぱく質の細胞内での位置を制御し 細胞の形態を変化させ 効率よく運動できるようにしていることを突き止めました 細胞が動く際には 進行方向に向かって仮足を伸ばすことが知られています 福井教注授らは以前 DOCK2 が Rac 3) という細胞内シグナル伝達因子を活性化し 好中球の仮足形成に重要な役割を演じることを明らかにしました しかし DOCK2 の細胞内局在を制御するメカニズムは不明でした このメカニズムについて 本研究グループは今回 緑色蛍光たんぱく質 (GFP) を融合することによって DOCK2 の細胞内での動きを可視化できるようにした好中球を用いて解析し ホスファチジルイノシトール三リン酸 (PIP 3 ) というリン脂質が産生されると DOCK2 が細胞膜に引き寄せられ 続いてホスファチジン酸 (PA) という別のリン脂質を介して DOCK2 が局所に集積するという 2 段階の制御機構が働いていることを世界で初めて明らかにしました 好中球は生体防御において重要な役割を演じていますが 一方で自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症 増悪にも関わっています 今回の成果は このような炎症性疾患の新しい治療法の開発に役立つことものと期待されます 本研究成果は 2009 年 3 月 26 日 ( 米国東部時間 ) に米国科学雑誌 Science のオンライン速報版で公開されます 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題と 文部科学省ターゲットタンパク研究プログラムおよびゲノムネットワークプロジェクトによって得られました 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構と治療技術 ( 研究総括 : 菅村和夫東北大学大学院医学系研究科教授 ) 研究課題名 : 細胞骨格制御シグナルを標的とした免疫難病治療の新戦略研究代表者 : 福井宣規 ( 九州大学生体防御医学研究所教授 ) 研究期間 : 平成 20 年 10 月 ~ 平成 26 年 3 月 JSTはこの領域で アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防 診断 治療することを目的に 免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています 上記研究課題では 細胞骨格制御に重要な役割を演じる DOCK2 をはじめとする CDM ファミリー分子群の機能 構造 シグナル伝達機構を包括的に解析し 免疫難病の新しい治療法を開発することを目的としています 1

< 研究の背景と経緯 > 好中球は感染局所に速やかに集積し 病原微生物を貪食し 活性酸素を産生することでその除去に働く いわば生体防御の最前線で機能する白血球です 好中球は感染源を感知すると その方向に向かって仮足を伸ばします この仮足は 細胞骨格であるアクチン繊維注 4) により構成されており アクチン繊維が網目状の構造を形成していくことで 仮足の伸張と細胞の推進力を生み出していることが知られています ( 図 1) このようなアクチン繊維の再構成は 細胞内で 分子スイッチ として働く Rac というたんぱく質により制御されており この Rac と協調して機能するのが 感染源からの刺激を受けて産生されるホスファチジルイノシトール三リン酸 (PIP 3 ) というリン脂質です 九州大学生体防御医学研究所の福井宣規教授らは以前 好中球において Rac のスイッチを on にする分子が DOCK2 であることを突き止め DOCK2 が細胞の進行方向前端 ( 先導端 ) に集積することで局所的にアクチン繊維の再構成を促すことを明らかにしました しかし DOCK2 の細胞内局在を制御するメカニズムは不明でした < 研究の内容 > これまで多くの細胞において Rac のスイッチを on にする分子は PIP 3 によって先導端にリクルートされ Rac の活性化を局在化させることで仮足を形成すると考えられてきました しかし 本研究グループの福井教授と同研究所の錦見昭彦助教らは今回 PIP 3 産生に必要な PI3 キナーゼγと呼ばれる酵素が欠損した好中球を用いて DOCK2 の局在を検討し PIP 3 を産生できない好中球では DOCK2 の細胞膜への移行が部分的に障害されるものの 最終的に DOCK2 が先導端に集積し 仮足が正常に形成されることを見いだしました ( 図 2) このことから DOCK2 の最初の細胞膜への移行は PIP 3 によって担われているものの これに続く先導端への集積は PIP 3 以外の分子によって制御されていると考えました そこで この分子の同定を目的に研究を行った結果 ホスファチジン酸 (PA) というリン脂質の産生を担うホスホリパーゼ D(PLD) という酵素の活性を阻害すると DOCK2 の先導端への集積と仮足の形成が障害されることが分かりました ( 図 3) DOCK2 を発現する好中球に PA を添加するとアクチンの重合が起こりますが DOCK2 を欠損した好中球ではこのような変化が起こりません ( 図 4) このことから PA は DOCK2 を介してアクチン繊維の再構成を制御していると考えられます さらに DOCK2 の PA と結合する領域を特定し この領域に変異を入れてPAとの結合能を失わせたDOCK2では 仮足を形成する能力が低下し 好中球の運動を引き起こせないことも実証しました これらの結果から PIP 3 と PA という2 種類のリン脂質が 順序立てて産生され DOCK2 を適切な時期に適切な位置に導くことにより 好中球が仮足を伸張して運動する際に必要なアクチン繊維の再構成を時間的 空間的に制御していることが明らかになりました ( 図 5) < 今後の展開 > 好中球は生体防御において重要な役割を演じていますが 一方で自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症 増悪にも関わっています 今回の成果は このような炎症性疾患の新しい治療法の開発に役立つものと期待されます また細胞運動は 免疫応答以外にも器官形成や創傷治癒 がんの転移と深く関わっていることから このような生理的あるいは病的現象の理解にも貢献する可能性があります 2

< 参考図 > 図 1 好中球が運動する仕組み好中球は 未刺激の状態では球形をしていますが 感染源を感知するとその方向に仮足を伸ばして細胞を前進させます 仮足では アクチン繊維が網目状に再構成され これが細胞を動かす推進力となります このような細胞形態の変化は 感染源を感知した受容体の下流で DOCK2 が機能し Rac の活性化を介して 細胞の感染源に面した側のみでアクチンの重合が起こることに起因します 3

図 2 野生型および PI3Kγ 欠損好中球での DOCK2( 緑 ) とアクチン繊維 ( 赤 ) の局在 PI3Kγを発現する好中球 ( 野生型 ) を刺激すると DOCK2 は15 秒後に細胞膜に移行し 30 秒後には先導端に集積して アクチン繊維の再構成を引き起こします 一方 PI3K γを欠損した好中球では 15 秒後の膜移行は障害されているものの 30 秒後の先導端への集積と仮足の形成は正常に行われます 図 3 PLD 阻害剤による仮足形成の抑制左 : 図 2と同様の刺激を PLD 阻害剤の存在下で行い DOCK2( 緑 ) とアクチン繊維 ( 赤 ) の局在を観察しました PLD 阻害剤で処理した好中球では 15 秒後の DOCK2 の細胞膜への移行は正常に観察されますが 30 秒後の局所への集積と仮足の形成が障害されています 右 : 微小な針 ( マイクロピペット ) を用いて 菌体成分に含まれる走化性物質を局所的に注入した際の細胞の形態と DOCK2( 白 ) の局在を観察しました 阻害剤を入れない場合は 先導端に DOCK2 が集積して仮足が形成されますが PLD 阻害剤で処理すると DOCK2 の集積は観察されず 極めて薄い不完全な仮足しか形成されません 4

図 4 PA によるアクチン重合の促進と仮足の形成普通の好中球 ( 野生型 ) に PA を取り込ませると 菌体成分に含まれる走化性物質で刺激した場合と同様にアクチンの重合や仮足の形成が観察されますが DOCK2 を欠損した好中球では このような変化が全く起こりません 図 5 PIP 3 と PA による DOCK2 細胞内動態の時間的 空間的制御機構 1 未刺激の状態では DOCK2 は好中球の細胞質にほぼ均一に存在します 2 受容体が感染源を感知すると PI3Kγの働きで PIP 3 が細胞膜で産生され DOCK2 が細胞膜に引き寄せられます 3 続いて PLD の働きにより PA が産生され それとの相互作用の結果 DOCK2 が局在化します DOCK2 が集積した場所では アクチン繊維の再構成が行われ 感染源に向けて仮足が伸張します 4さらに アクチン繊維の再構成が進み 細胞が前進します 5

< 用語解説 > 注 1) 好中球感染局所にいち早く集積し 病原微生物を貪食し 活性酸素を放出するなどして感染源の除去にあたる白血球の一種 注 2) リン脂質リン酸エステルを有する脂質の総称で 細胞膜の主要な構成成分 細胞の内外を隔てるのみにとどまらず シグナル伝達因子や生理活性物質としてさまざまな機能を担っています 注 3)Rac 細胞内シグナル伝達因子の1つで GDP( グァノシン二リン酸 ) が結合している時は 不活性型 GTP( グァノシン三リン酸 ) が結合している時は 活性型 となる G たんぱく質です 不活性型 から 活性型 への変換 あるいはその逆がスイッチの on と off に例えられ シグナル伝達系において 分子スイッチ として機能します DOCK2 は Rac のスイッチを on に切り替える作用を持つたんぱく質で on になった Rac は その下流でアクチンの重合を促進します 注 4) アクチン繊維細胞骨格の一種で ほぼ球形をしている単量体アクチンが連なった数珠状の繊維が2 本よじれたような構造をしています 個々の単量体アクチンが離合を可逆的に行い 網目状あるいは束状の構造を形成して 細胞の形態変化や運動に重要な役割を果たしています < 論文名 > Sequential regulation of DOCK2 dynamics by two phospholipids during neutrophil chemotaxis (2つのリン脂質を介した好中球遊走における DOCK2 細胞内動態の連続的制御機構 ) <お問い合わせ先 > 福井宣規 ( フクイヨシノリ ) 九州大学生体防御医学研究所免疫遺伝学分野 812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1 Tel:092-642-6827 Fax:092-642-6829 E-mail: fukui@bioreg.kyushu-u.ac.jp 科学技術振興機構戦略的創造事業本部研究領域総合運営部金子博之 ( カネコヒロユキ ) 102-0075 東京都千代田区三番町 5 三番町ビル Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066 E-mail: crest@jst.go.jp 6