保険研究特論 ( 保険数理 ) アクチュアリー数学 ( 第 11 回 ) 会計上の責任準備金 早稲田大学大学院商学研究科 2015 年 7 月 3 日 大塚忠義 1
将来法と過去法 将来法 : 将来の保険金支払の現価から将来の保険料収入の現価を差し引いた金額 - 保険業法の定義と一致 - 伝統的な生命保険の保険料積立金 経済価値に基づく保険負債の算出方法 過去法 : 計算時点までの過去の保険料収入の終価から過去の保険金支払の終価を差し引いた残額 - 保険契約者の持ち分に近い概念 - 変額保険 変額年金 アカウント型保険 2 2
保険年度 t : 経過年数 : 保険年度 第 1 保険年度 : 契約日から第 1 契約応当日の前日まで第 t 保険年度 : 第 1 契約応当日から第 t 契約応当日のの前日まで ただし 保険料の収入前かつ 満期保険金の支払い前 3
平準払 V A P a t x x t x x t 0 n n V V V M x D 1 xn : xn : x t x t 0 0 1 P x N D x t x t 保険金支払いの現価から保険料収入の現価を差し引いたもの 4
短期払 平準払と一時払の組合せ V A P a t m t x x t x: m x t: m t V A m t t x x t 5
過去法 V P t x x N N M M D D x x t x x t x t x t - 保険料の収入前かつ満期保険金の支払い前 - 保険料と責任準備金の計算基礎を同一 であることが 将来法と過去法が一致する要件 6
過去法による保険料積立金と保険料の関係 ファクラーの再帰式 V P vq vp V t 1 x t 1 x t 1 t 被保険者のために積み立てた金額を計算式で表わしている 個々の契約に対して値を計算できる 7
保険料の分解 P vq (1 V) ( v V V) x t 1 t t t 1 第 1 項 : 危険保険料 : 当該保険年度中の保険金支払いに充当する部分 第 2 項 : 蓄積保険料 : 当該保険年度中は 使用せずに責任準備金の積み増しに使用する部分 8
実務に用いられる責任準備金 平準純保険料式責任準備金規制当局の要請 ( 大蔵省告示第 48 号 ) 保険収支のバランスのもとで平準純保険料式を積立てることはできない チルメル式責任準備金当局への認可と責任準備金積立計画の提出を条件に採用可能な方式 初年度定期式責任準備金 営業保険料式責任準備金 ( 充足保険料式責任準備金 ) 9
平準純保険料式責任準備金 V A ( a a ) P a t x x t x t x t: m t x: m x t: m t 規制に定められる責任準備金積立方法 契約当初に使用する募集コストが勘案されていない USGAAP も同様の方式ただし 繰延新契約費 (DAC) の資産計上が認められている 10
チルメル式責任準備金 V A ( a a ) P a a ( hz) t x x t x t x t: m t x: m x t: m t x t: h t axh : h: チルメル期間 5,10 全期 α : チルメル歩合 : α <α:75% 程度? 5 年チルメルが多いが稀に全期チルメル チルメル V は当初負になる ゼロチェックの是非 11
初年度定期式責任準備金 1 V ( hz) V ( hz) v 2q t x t x x min(, ) チルメルVで負になる期間中は 危険保険料のみを積み立てる 実務では 責任準備金の積立より予定事業費の控除に使用されている 12
営業保険料式責任準備金 V A P a a ( a a ) P a t x x t x : : x t x t : m t x : m x t : m t x t m t x t m t 会計上の勘定科目との整合性が良い人工的な中間勘定の介在が少ない CGAAP で採用 国際会計基準 (IFRS) で最も採用が有力 な手法 13
保険料積立金の定義 (1) 保険法の保険料払戻しの規定 ( 第 63 条 第 92 条 ) 保険者は 次に掲げる事由により生命保険契約が終了した場合には 保険契約者に対し 当該終了の時における保険料積立金 ( 受領した保険料の総額のうち 当該生命保険契約に係る保険給付に充てるべきものとして 保険料または保険給付の額を定めるために予定死亡率 予定利率その他の計算の基礎を用いて算出される金額に相当する部分をいう ) を払い戻さなければならない 14 14
保険料積立金の定義 (2) 旧商法 被保険者のために積み立てた金 額の払戻し ( 第 680 条第 2 項 683 条第 2 項 ) 保険者は被保険者のために積立てた金額を保険契約者に払戻すことを要す - 保険法は旧商法の 被保険者のために積立てた金額 に 保険料積立金 という名称と定義を加えた - これらは保険契約者の債権性を連想させる 15 15
契約者価額 保険業法施行規則第 10 条第 1 項 保険料及び責任準備金算出方法書 の記載事項の規定第 3 号 返戻金額その他の被保険者のために積み立てるべき額を基礎として計算した金額 ( 以下 契約者価額 という ) の計算の方法及びその基礎に関する事項 16 16
責任準備金の定義 保険業法第百十六条 保険会社は 毎決算期において 保険契約に基づく将来における債務の履行に備えるため 責任準備金を積み立てなければならない 2. 長期の保険契約で内閣府令で定めるものに係る責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準については 内閣総理大臣が必要な定めをすることができる 標準責任準備金大蔵省告示第 48 号 17 17
責任準備金の定義 (2) 保険業法施行規則第 69 条第 1 項生命保険会社は 毎決算期において 次の各号に掲げる区分に応じ 当該決算期以前に収入した保険料を基礎として 当該各号に掲げる金額を責任準備金として積み立てなければならない 一保険料積立金保険契約に基づく将来の債務の履行に備えるため 保険数理に基づき計算した金額 ( 第二号の二の払戻積立金として積み立てる金額を除く ) 二未経過保険料未経過期間 ( 保険契約に定めた保険期間のうち 決算期において まだ経過していない期間をいう 次条及び第二百十一条の四十六において同じ ) に対応する責任に相当する額として計算した金額 ( 次号の払戻積立金として積み立てる金額を除く ) 三危険準備金保険契約に基づく将来の債務を確実に履行するため 将来発生が見込まれる危険に備えて計算した金額 18 18
責任準備金の定義 (3) 保険料積立金は 保険業法と保険法で同じ名称で使用されているが 別の概念である 保険業法の責任準備金 : 保険者責任として事業年度末の負債 保険群団全体に対して価格を評価する 1 件 1 件計算されるものではない 財務諸表に記載される責任準備金 保険会社にとって最大の負債項目 評価性引当金 事業年度 : 保険業法の定めにより保険会社の会計年度は 4 月 1 日から 3 月 31 日 19 19
標準責任準備金 大蔵省告示第 48 号 - 積立方式 : 平準純保険料式 - 予定死亡率 : 生保標準生命表 2007 - 予定利率 :2013 年 4 月に年 1.50% から 1.00% に引き下げられた 保有する契約すべての保険料積立金の合計 財務諸表に記載される保険料積立金 20 20
ソルベンシー Ⅱ の 負債の最良推定 - 経済価値に基づく考え方により 保険契約 に基づく将来の債務の履行に備えるために積み立てる額 - 信頼あるデータと現実的な基礎率に基づく将来キャッシュフローをリスクフリー利率で割引いた額 - すべてのキャッシュフローを対象にする - 正のキャッシュフローには保険料 - 負のキャッシュフローには保険金 解約返戻金 事業費 税金等 - 現実的な基礎率 : 最も起こりうる死亡率 最も起こりうる解約率 リスクが最も低い利率 21 21
保険料と保険料積立金の計算基礎を同一とする仮説は現実的ではない - 予定死亡率は保守的に定まっており死差益が期待できる - 予定利率に保守性はあまり含まれておらず逆ざやのおそれがある - 解約の増減が収支に影響を与えないという前提をおくことはない 22 22
保険料の分解 ( 再掲 ) P vq (1 V) ( v V V) x t 1 t t t 1 第 1 項 : 危険保険料 : 当該保険年度中の保険金支払いに充当する部分 第 2 項 : 蓄積保険料 : 当該保険年度中は 使用せずに責任準備金の積み増しに使用する部分 23
保険料の分解 (2) P vqx t 1(1 tv ) ( v tv t 1V ) P x a P vq (1 V ) ( v V V ) P 1 x t 1 t t t 1 x P vq (1 V ) ( v V V ) P 2 x t 1 t t t 1 x 平準純保険料式に対し 初年度に新契 約費をすべて使用するためには蓄積保険 料をへらす 責任準備金積立額を減少させる xm : 24
過去法による保険料積立金と保険料の関係ファクラーの再帰式 V P vq vp V t 1 x t 1 x t 1 t 被保険者のために積み立てた金額を計算式で表わしている 個々の契約に対して値を計算できる P ' ( vq P ) vp V x x x V P ' ( vq P ) vp V t 1 x t 1 x x t 1 t 1 25
保険契約の解約 契約者の申し出により保険契約を解約することができる 解約は将来に向かって効力を発生する 解約返戻金を支払う 解約返戻金は 保険料払込中の契約に あっては保険料払込年月数に応じ 保険料 払込済後または一時払の契約については経過年月数に応じて計算する 26 26
解約返戻金は 解約返戻金 (1) 保険契約者の持ち分の返還? 約定給付? W V t t t ここに W は解約返戻金 V は責任準備金 または保険料積立金 σ は解約控除 t は経 過年数 多くの場合 t (10 t) 0 10 27 27
一時払いの場合 解約返戻金 (2) t t W W t t V V これでは金融商品 ( 変額年金 etc) の場合 投資信託に利回りで見劣りがする新契約費を計上しないpricing method, so called back loading 28 28
保険数理の面からみた解約返戻金の意義 tw=tv-σt -V および W はそれぞれ契約者価額の一種 -V: 個々の契約単位に算出される額 -W: V から経過年数によって定まる額を差し引いた金額 式からでは 解約返戻金が保険契約者の持ち分に相当する額を基準に導かれた付随的な給付なのか 一定の計算基準に基づき導き出された約定価格であるのか判然としない 29 29
新契約費未償却 解約控除の意義 保険団体の事故発生率 ( 死亡率 ) の上昇 投資上の不利益 日本 ( イギリスも ) には解約返戻金の法規律が存在しない米国 フランス ドイツには存在する ( 不没収価格法 ) 30 30
Question? お疲れ様でした 31