橋場哲 世界を知ろう ~ アフリカ編 ~ 橋場哲岩手県立盛岡聴覚支援学校 教科総合的な学習の時間 ( 6 時間 ) 対象 5 6 年生 5 名 Ⅰ 実践の目的 本校では 幼稚部から高等部まで同じ敷地内にあり 幼稚部に入学してから高等部を卒業するまでの期間を同じ環境の中で過ごす児童 生徒も少なくない そのため 外に目を向ける機会が少なく 自分たちの学校生活や家庭生活が当たり前だと思い そこから外を見ようとしない児童 生徒が多いという現状がある 担当している小学部の 5 6 年生を見ても 同じことがいえる このような本校児童の現状を鑑み 世界を知ることで 広い視野で物事をとらえ 考えられるようになるとともに 自分の国や地域について目を向け 自分自身の置かれている環境を見つめられるようになってほしいと考えた そこで 小学部 5 6 年生では 総合的な学習の時間の中で 世界の国々について をテーマにし 年間を通して様々な国の文化を知り 今の自分たちの現状を考えられるような学習に取り組むこととした 今回の実践は その中で 世界を知ろう ~アフリカ編 ~ という単元を設けて 全 6 時間の学習を行った 本単元では アクティブラーニングを多く取り入れ 自分たちで気づいたことを話し合い 自分たちの生活と比較して自分自身を見つめられるような学習を設定した 特に アフリカに住む同世代の児童 ( カカオ農園で働く兄弟や 学校に行けない子どもたち 水くみを手伝う子どもたち ) に焦点を当て 自分自身と照らし合わせて考えられるようにした また アフリカ大陸は アフリカ という一括りにされがちであるが 実際にはアフリカは広大で 国によって文化や気候が大きく違うということに気づくための題材として ルワンダを取り上げ アフリカの多様な文化に気づくことができるようにした Ⅱ 授業の構成 教科等 学習内容 総合的な学習の時間 1 ガーナのカカオ農園で働く兄弟 ガーナに住む同じ年代の兄弟の様子を知り 自分たちの生活と比較して話し合う 2 学校に行けない子どもたち 学校に行けない子どもたちが多くいることを知る なぜ学校に行けないのか 行けないことによる問題点は何かを話し合い 負のスパイラルに気づく そして 学ぶことの大切さを考える 136
学習内容援学校教科等 支総合的な 1 水の問題 学習の時間 水の確保が困難な国や地域があることを知り 自分たちの生活と比較し て考える 1 ルワンダの歴史について ルワンダの国についての基本情報とジェノサイドの歴史について簡単に 触れる 1 アフリカは国名ではない ~ルワンダを通して~ (70 分 ) ルワンダの文化について 現地での写真や実際の物を通して学び 自分 のもっている アフリカ のイメージと比べてどうかを考える 授業の詳細 (1) ガーナのカカオ農園で働く兄弟 NHK で特集した 世界がもし100 人の村だったら の映像を活用し 自分たちと同じ世代のあ る兄弟が 生まれたときからカカオ農園で働くことを義務づけられているという事実を知った このことについて 自分たちの生活との違いを比較しながらまとめ 感想を出し合った 橋場 哲 Ⅲ 児童の感想 学校に行きたくても行けない子どもたちがいることを初めて知って驚いた かわいそうだと思う もし自分だったらカカオ農園から逃げ出すと思う 自分たちは学校に行くことができて幸せだと思う など (2) 学校に行けない子どもたち1 前時に学習したガーナだけではなく 世界には学校に行けない子どもたちが多くいることを JICA のアニメーション ( 地球調査隊 ) を通して学習した そして 学校に行けないとどうなるのかを予想しながら話し合った 児童の意見 計算をすることができない 友達と遊んだり おしゃべりすることができない 字を書くことができない 本を読むことができない など (3) 学校に行けない子どもたち2 JICA で出している国際理解教育実践資料集を参考に 学校に行けないことによる負のスパイラルについて学習した 2 つのグループに分かれ 学校に行けないことによってどのようなことが起こるのか考えながらカードを並べていく そして それが繰り返しになっていることに気づき それを断ち切るためには何が必要かを考え 発表し合った 137
橋場哲 児童の感想 もっとしっかり勉強しなければいけないと思った 世界中のみんながちゃんと学校に行けるようになればいいなと思った 勉強は嫌だと思っていたけど 字の読み書きがとても大切なことだと分かった など (4) 水の問題 ルワンダで撮影した水くみの写真を通して 水の問題について自分たちの生活と照らし合わせて考える学習をした はじめに 水はどのような時に使うのか挙げてもらい 日本人の一日の平均使用量を示した その後 世界には思うように水を確保できない国が多くあることを伝えた 児童の感想 毎日水くみをするのはとても大変だと思った 日本は水道があってとても便利だけど 水を無駄遣いしていることが多いので これからは気をつけたいと思う など (5) ルワンダの歴史について ルワンダの場所や言語 気候など 基本的な情報について クイズ形式で楽しみなら学習を行った 138
20 年前にあった事実を写真などと共に簡単に説明した 援学校その後 ジェノサイドの歴史に触れ 橋場哲支そして 現在の状況に触れ 怖いだけではなく希望が持てる内容にした ただし 今回のルワンダの学習では ジェノサイドをメインにしているわけではないので あくまでも概要にとどめておくこととした 児童の感想 どうして仲の良い人同士が殺し合わなければいけないのかわからない もし 自分が殺されたとしても 家族を殺すことは絶対にできないと思う 今はみんなで仲良く暮らしていると聞いて安心した など (6) アフリカは国名ではない ~ルワンダを通して~ 指導案 ( 略案 ) 本時のねらい ルワンダを通して アフリカの広大さと多様な文化に気付く 情報をより正しく得るための方法を考える 学習活動 指導上の留意点 評価 準備物等 アイスブレイク 両手じゃんけん 導入 アフリカの場所は? アフリカのイメージは? クイズ形式で行う ふせんを配布し 全員でイメージマップを共有できるようにする アフリカのイメージをもつことができたか 地図 ふせん ペン 展開 ルワンダについてフォトランゲージ等 グループ活動においては 正解があるわけではないということ 必ずグループ全員で話し合うことを伝える グループでの話し合いに積極的に参加できたか 現地の写真 物 パソコン 139
橋場哲学習活動 指導上の留意点 評価 準備物等 お互いのグループの考えを共有できるようにする 他のグループの考えを聞くことができたか まとめ アフリカについて アフリカの他の国をいくつか例にあげ 多様な文化に アフリカの多様な文化に気づくことができたか 気づくようにする 導入であげたアフリカのイメージと比較させる ホワイトボード より正確な情報を得るためには エボラ出血熱を例に出し より正確な情報を得るための方法をグループごとに考え発表できるようにする より正確な情報を得るための方法を話し合いまとめることができたか 導入ではクイズ形式でアフリカの場所やルワンダの場所を確認した 次に アフリカのイメージについて 一人ひとりが付箋に書き イメージマップを作った 展開では フォトランゲージ等を通して ルワンダの文化や町の様子 学校の様子について学習した その際は 実態に合わせて 2 グループに分け お互いのグループの考えを発表し合い 共有できるようにした 140
援学校まとめでは ルワンダをベースにして エジプト 南アフリカ タンザニア ガーナと文化の 橋場哲支異なる 4 つの国について簡単に触れ アフリカの多様な文化に気づけるようにした そして はじめに作成したイメージマップと比較して考え 感想を発表した 児童の感想 アフリカにも色々な国があって 国によって違うことが分かった ルワンダははじめにもっていたアフリカのイメージとは違っていた もっと他の国についても調べてみたい など最後に 自分自身が研修中に アフリカで流行っていたエボラ出血熱に関して心配するメールを多くもらい それを受けて感じたことを踏まえ 正確な情報を得ることの大切さを話した アフリカでエボラ出血熱が流行しています というニュースを取り上げ 実際にエボラが流行している場所とルワンダの場所を提示した そして アフリカの中でも離れた場所であることに気づくと共に このニュースを見たときに大切なことは何かを考えさせた アフリカ と一括りにしてしまうのではなく アフリカのどこで流行っているのかというところまで自分で確認することが大切で それがないと 時に大きな誤解をしてしまうことがあるということを伝えた Ⅳ 実践の成果 単元全体を通して アフリカという子どもたちにとって未知の文化に触れ 児童労働や学校の問題 水の問題など様々な問題点を 自分自身の生活と照らし合わせながら児童が中心になって学習できたと感じている 特に ルワンダの授業では 実際に現地でとってきた写真や物を使うことで 児童もより興味を持って参加することができた また フォトランゲージを用いる際に 答えがあるわけではないということを示すことで 児童がのびのびと意見を出し合うことができた ねらいの一つであった ルワンダを通して アフリカの広大さと多様な文化に気づく には迫ることができたのではないかと感じている 今回の実践授業の後 普段のニュースの中で海外のことにも興味を持ち 分からないことを質問する児童が増えた また 話の中で知らない国の名前が出ると すぐに世界地図を広げて場所を確認する児童も見られるようになった 141
橋場哲 Ⅴ 課題 本単元では アフリカの問題点を多く取り上げたために アフリカに対する暗いイメージ大きくなってしまった ルワンダだけではなく アフリカの様々な国の魅力をもっと時間をかけて伝えるべきであった ルワンダの学習でねらいの二つ目にあげた 情報をより正しく得るための方法を考える については 時間をかけて取り組む必要があり 一つの授業の中に盛り込むには難しいねらいであった 結果として次の時間に改めて取り組むこととなった 今回の研修で学んでことをできるだけ児童に還元したいと思い 短い時間の中に盛り込みすぎたことで 結論を急いでしまう場面が出てしまった 児童同士でゆっくりと学び合える環境を作るには ねらいをさらに絞って実践する必要があると感じた 関連する学習指導要領の内容と文言小学校総合的な学習の時間 (7) 国際理解に関する学習を行う際には, 問題の解決や探究活動に取り組むことを通して, 諸外国の生活や文化などを体験したり調査したりするなどの学習活動が行われるようにすること (8) 情報に関する学習を行う際には, 問題の解決や探究活動に取り組むことを通して, 情報を収集 整理 発信したり, 情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること 出典 参考図書 NHK 特集 世界がもし100 人の村だったら 地球調査隊 (JICA ホームページ ) 国際理解教育実践資料集(JICA) 142