ケイ酸塩を含む強アルカリ電解水の新技術でアルマイト技術の新開発は可能か? 安清一 1) 丸田正敏 2) 佐藤敏彦 3) 1. はじめに 2006 年に アルカリ性洗浄用電解水とその生成装置 の公開特許が公表され 2009 年には同発明者による アルカリ電解水の特性とその製法 の技術論文が発表された なお 電解水 については国会でも取りあげられた問題や 電解水の特性の持続期間が短いと言う問題もあるので これら基礎情報を解説した後に 特許と論文を紹介する 2. 序論として 隔膜式アルマイト電解の特許紹介図 1 は特開 2005-248289( 陽極酸化処理の際に生じる水素の回収方法 ) に添付されている図である アルマイト電解の陰極を隔膜で覆って水素ガスを回収する特許であるが 陰極室 ( 図 1 左 ) はアルカリ性水溶液になっている これはアルカリ電解水である 3. 電解水の種類と生成法財団法人機能水研究振興財団のホームページ (http://www.fwf.or.jp/kinousui.html) に掲載されている電解水の分類図を図 2 に示した 同財団の堀田国元が 強酸性電解水の生成原理 について以下の解説をしている 強酸性電解水は陽極と陰極が隔膜で仕切られた二室型電解槽 微酸性電解水と電解次亜水は隔膜のない一室型電解槽を用いてつくられる 図 3 に強酸性電解水の生成原理を示す 陽極では 水 (H 2 O) から酸素 (O 2 ) と水素イオン (H + ) また塩素 図 1 アルマイト電解で水素の回収 図 2 電解水の分類図 1)ANODA 2) キザイ 3) 元芝浦工大 -8-
イオン (Cl ) から塩素 (Cl 2 ) が生ずる 生じた塩素は水と反応して次亜塩素酸 (HClO または HOCl) と塩酸 (HCl) となる その結果 酸性化し 溶存酸素 (DO) と酸図 3 強酸性電解水の生成原理化還元電位 (ORP) が上昇し 有効塩素濃度が 20 ~ 60ppm に達する なお 陰極では 水 (H 2 O) から水素 (H 2) と水酸イオン (OH - ) が生成し 水素は溶存酸素と反応する その結果 DO と ORP が顕著に低下し 高アルカリ性 (ph11 ~ 11.5) を示す強アルカリ性電解水が生成する 3. 電解水についての重要な予備知識アルカリイオン整水器協議会のホームページに アルカリイオン整水器の歴史 が掲載されている (http://www.3aaa. gr.jp/activity/index. html) この歴史を抜粋すると以下の通りである 平成 4 年 6 月 テレビのニュース番組にてアルカリイオン水は 驚異の水 として紹介されました ( 中略 ) 次第にアルカリイオン水に対して承認外の効能効果まで期待される動きが現れ始めました ( 中略 ) 平成 4 年 12 月に 表 1 認められない表現の例 -9-
国民生活センターが実施した商品テストにより マスコミから効果の疑問提起が行われるという事態が発生しました 更に このことは国会 ( 第 126 回国会参議院厚生委員会 平成 5 年 3 月 26 日 ) でも取り上げられ 厚生省からは業界に対し 品質 有効性 安全性 に関する今日的レベルでの科学的な検証結果の提出を要望されました そして 同協議会は 販売に関する規制 ( 販売 広告上の注意事項 ) ( 表 1) を 会員会社に周知徹底しております とのことである 4. 電解水についてのもう一つの重要な予備知識幾つかのホームページには以下の文章が書いてある 電解水は 原則として生成直後に使用する事が前提であることが多い 生成直後の動性値が殺菌効果を有するものであっても 容器の移し変えなどにより値が低下している場合もあります 電気分解の動性値の持続する時間には限界があり 一般に 3 ケ月で元の真水に戻ると言われています 強酸性水 強アルカリ水ともに 時間が経つと効力が弱まっていく ( 高電圧で電気分解されることで生成された電解水は高い酸化還元電位を持っていますが この酸化還元電位は ph レベルと比較し長持ちしずらい傾向がある ) ため 作りたてをお届けいたします 電解水の種類や保管状況で違うが 有効期間は短い 5. 電解水の物理化学幾つかのホームページで 電解水の物理化学 が解説されている 半導体表面ウェットプロセスへの電解イオン水の応用 のホームページでは図 4 が解説されている (http://www. realize-se. co.jp/items/bt/118/3/index.html) 電解イオン水の原理 のホームページは図 5 と共に以下の解説が書いてある (http:// www. biwacity.com/photo/1293/pdf/prezen2.pdf) 防錆効果の5つの要素(1) アルカリイオン水は還元性を持つ水であり ( 負の酸化還元電位 ) 金属を酸化しにくい環境を形成する (2) 電気分解で Cl - 2- SO 4 等の陰イオンが酸性水側に移動する為陰イオン濃度が低いアルカリイオン水が得られる 陰イオンは錆の発生を促進する効果 図 4 電解水の ph と酸化還元電位 (1) 図 5 電解水の ph と酸化還元電位 (2) -10-
があるため 陰イオン濃度が低いイオン水は防錆効果が高くなる (3) ワーク表面に水酸化合物を主体とする不動態被膜が形成され局部電池による腐食を抑制する (4)pHがアルカリ性水であるため 特に鉄の腐食が進みにくくなる (5) 電解支持塩を添加しない特殊電解方法である為 陰イオン濃度が低く残留塩素の酸化力による錆の発生が抑制される 2. 浴寿命の短い電解水の長所と短所酸性電解水またはアルカリ電解水で洗浄した後の物品の水洗が不要の場合や 電解水による脱脂洗浄の後の水洗水の節約になることもある 一方 工業用素材や工業部品などを電解水で洗浄する場合は 貯蔵した電解水ではなくて 図 6 に示図 6 アルカリ電解水洗浄システムす製造ラインに組み込まれた工業洗浄システム (http://www.amano co.jp information/pd/20090820_2009iice.pdf ) で実施する場合が多いようである 6. 特開 2006-150272の紹介 発明の名称 は アルカリ性洗浄用電解水とその生成方法及び生成装置 で 課題 は 鉄やアルミニウム又はアルミニウム合金等の金属種に関係なく これ等金属を洗浄しても腐食の心配がなく 電解質を溶解する際に発生する溶解熱を吸熱とすることができると共に キレート剤の添加と軟水器の設置を不要とし 配管や部品類へのスケール付着量を少なくすることができ 且つ 蒸発残留物の増加を防止することを可能にしたアルカリ性洗浄用電解水と その生成方法及び生成装置を提供する である そして 解決手段 は 原水に電解質としてメタ珪酸ナトリウム又はオルト珪酸ナトリウムを添加し この水溶液を有隔膜電解槽 1で電気分解する 原水に電解質を添加した水溶液の導度を 20 ~ 80 m S/m に調整し 電解槽 1の両電極 3,4 間に流れる電気量を 0.04 ~ 0.3 C / ml に調整する である 特許本文中の重要な文章を引用しながら特許の内容を箇条書きで紹介する 背景技術 の説明では (1) 所謂アルカリ性電解水が注目を集めていて 塩化ナトリウムや炭酸カリウムを電解質として用いれられている (2) しかし これらの電解質によるアルカリ性電解水には (A) 腐食の問題 (B) 溶解熱発生の問題 (C) 水道水中の金属イオンによる洗浄効果低下の問題 (D) スケール発生による配管等の閉塞の問題 (E) 蒸発残留物増加の問題などがある 課題を解決するための手段 の説明では,(1) 水道水又は純水にメタ珪酸ナトリウム又はオル -11-
ト珪酸ナトリウムを添加した水溶液を電解浴とする 表 3 技術論文の目次 また 添加量 流量 電気量を調整する制御部を備 1. はじめにえる 2. アルカリ電解水の性質と特徴 発明の効果 の説明では (1) メタ珪酸ナトリウム オルト珪酸ナトリウムの洗浄力は塩化ナトリウム又は炭酸カリウムを電解質とした場合と同程度 2.1 電解質の選定 2.2 アルカリ電解水の組成 2.3 アルカリ電解水の界面活性作用 3. アルカリ電解水の洗浄機構又はそれ以上の洗浄効果を示した (2)pH10 を超 3.1 アルカリ成分による作用えた時点から洗浄力が高くなり ph11 以上では安 3.2 水素による作用定して高い洗浄率を得ることが確認できた (3) 4. アルカリ電解水の生成技術 陰極水及び陽極水のpHは電気量によって決定され 4.1 アルカリ電解水の生成コスト ることは公知である そして 0.3 C/ml 以上与 4.2 生成装置の設計技術 えた場合は電気分解前の添加濃度に関係なく陰極水 5. アルカリ電解水の洗浄効果 5.1 油脂に対する効果の ph は 11.6 以上になり その後はほぼ横ばいとな 5.2 鉱油に対する効果ることが確認できた 5.3 粒子に対する効果なお 同一出願人により本特許を改良した特許 5.4 界面活性剤に対する効果 ( 特開 2010-082493) が 2010 年 4 月に公表された ケイ酸塩として水ガラスを添加した水溶液で強アルカリ電解水を生成する特許である 6. 洗浄液としてのアルカリ電解水の特性 6.1 鉄に対する防錆効果 6.2 アルミニウムに対する防食効果 7. 洗浄事例 7.1 ローラーベアリング 7. アルカリ電解水の特性とその製法 の論文紹介 7.2 液晶ディスプレイ用ガラスこの論文の目次を表 3に示す 第 6 節の 6.2 7.3 アルミニウム感光体ドラム アルミニウムに対する防食効果 の一部分を引用する 8. おわりに アルミニウムを腐食させず 油脂や脂肪酸に対して洗浄効果を持つアルカリ電解水を生成するに は 腐食防止剤となりうるインヒビターとしてケイ酸塩を使用する ケイ酸塩を使用すると アル ミニウムの表面に不溶性ケイ酸塩が析出するために耐食性が良くなると考えられる ケイ酸塩を使 用したアルカリ電解水は 炭酸塩のみを使用したアルカリ電解水と同様 ph11.5 前後を示し 高い脱 脂効果及びアルミニウムだけでなくて鉄に対して も高い防錆効果をもつ ( 中略 ) 鉄とアルミニウムの双方を腐食させずに 同じ工程で洗浄すること が可能である 第 7 節の洗浄事例では 7.3 アルミニウム感光ドラム が紹介されている アルカリ電解水はジクロロメタンと同等の効果を持つことが確認されている と報告している 8. 他社の技術者による電解水の技術論文 (1) 竹ノ内敏一, 田中博志, 若林信一 ; アルカリ性電解水による金属表面の洗浄 表面技術, Vol. 54(2003)No. 11 pp.818-822 (2) 竹ノ内敏一, 吉池潤, 若林信一 ; 酸性電解水による金属表面の洗浄 表面技術, Vol. 55(2004)No. 3 pp.208-21 3 (3) 佐藤運海, 竹ノ内敏一, 若林信一, 佐藤元太郎 ; 電解水を用いたシリコンウエハーの超精密洗浄 精密工学会誌論文集, Vol. 71(2005) -12-
No. 6 pp.756-761 (4) 二ツ木高志 ; 機能水利用技術とモノづくり 表面技術 Vol. 60(2009) No. 2,pp98-102,(5) 江川豪 ; 感光体ドラム生産におけるコンパクトラインの開発 Ricoh Technical Report, No.35, (DECEMBER 2009) pp106-112, 9. 他社の技術者によるアルカリ電解水の特許 特開 2003-080184 解決手段 硼酸ナトリュウムと麦飯石からの有効なミネラルを洗浄水に溶出させて機能水とすると共に 強力な磁場を通過させて磁化水とし また 電気分解によって洗浄に有効なアルカリ電解水を発生させて これを高圧で洗浄面に噴射し 洗浄水の中に含有しているシリカ分と塗装面がイオン結合して薄いガラス質皮膜を形成することにより長期間の自浄性を付与する 特開 2006-106380 解決手段 引抜加工により所望の内外径に加工し 所望の長さに切断し 洗浄する工程を有しているもので その洗浄工程が 駆動ローラー 53 及びフリーローラー 51 52にアルミニウム合金製感光ドラム基体 1を横向きで図 7 特開 2003-080184 に添その中心軸を角度 θ 傾斜させて載置し回転させながら内面ス付されている高圧洗浄機の図プレーノズル20 及び外面スプレーノズル22をより洗浄液を噴射させて洗浄するものであり 脱脂洗浄液が食塩水を電気分解してマイナス極側に生成するアルカリ性電解水を用いているアルミニウム合金製の感光ドラム基体の製造方法である 特開 2006-152320 解決手段 アルミニウム材の表面に酸化アルミニウムから成る不動態皮膜を形成する際に 該アルミニウム材を 水の電気分解によって得られたアルカリ性電解水中に浸漬することを特徴とする 特開 2007-107069 解決手段 アルミニウム系基材に化成処理を含む処理を施した後に塗装を行なうアルミニウム系基材の表面処理方法であって アルミニウム系基材を前記化成処理を含む塗装前の処理工程の前に 強アルカリ性水溶液又はアルカリ電解水で処理することによりアルミニウム系基材表面の清浄度を高める 9. むすびアルミニウムの洗浄や化成処理について本誌の読者各位には豊富な知識がある ケイ酸塩を含む電解水の応用を考えてみて下さい 本稿も共著者との個別の討論を佐藤敏彦がまとめた -13-