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現代健康管理教育におけるアルカリイオン水の役割 伊藤幹 人文社会科学研究科後期課程 現代生活の変化と生体へのアプローチ日本は世界でも有数の長寿国である. 厚生労働省が平成 20 年に発表した平均寿命は男性が 79.29 歳, 女性が 86.05 歳といずれも過去最高を記録している. このように長く生きるためには健康を維持することが不可欠である. 特に, 現代においては人々の意識が変わり始め, 健康志向ブームが高まっていることがこの平均寿命の増長に少なからず影響を与えていることが容易に推察できる. しかし一方では肥満, 高血圧, 高脂血症, 動脈硬化, 糖尿病など生活習慣病がますます増えているという現象も起こっている. 日常生活における機器の発達, 生活様式の利便化, 移動手段の省力化など, 快適な生活を追い求めるがあまり, 結果として快楽な生活となり, 生活の中の運動量が減少することになる. また, 同時に, 食事に関しては豊富な食糧事情に加え, 偏食, 弧食, ムラ食い, ながら食いの食事パターン, 精製品, インスタント食品の開発, シェアー拡大などの食事開発技術 販売法の変化, 油脂使用量の増大による摂取熱量過多など調理方法の変化などいかにも現代的な食事事情も生じている. さらには遺伝子組み換えなどの科学技術による合成食材も市場にあふれはじめ, 現代においては食に関する危険性は益々高まる傾向にあるといえる. これら, 身体活動量の相対的減少と食生活の変化によるエネルギー過剰摂取傾向が結果として生体の肥満化傾向をもたらし, 多くの臨床的な障害をもたらすことになる. 先に述べた高血圧, 高脂血症, 動脈硬化, 糖尿病などの生活習慣病はまさにその産物といえる. 従って, 真に健康的な長寿のためには, 身体活動を高めるための運動処方の工夫と食生活における様々な改善が急務である. 身体活動を高めるための工夫については, 近年では生活の中に取り込まれた身近なスポーツ活動の普及が盛んに行われており, ウォーキング, ジョギングをはじめとした多くのスポーツが以前よりも増して実践されている. その例として, 地域においては総合型スポーツクラブの普及が多くの場所で検討されている. これらスポーツ環境の改善は今後のスポーツ人口の増加に大いに貢献し, 現代の快楽生活を求めるがゆえにもたらされる運動不足を解消する一つの支えになると考えられる. 一方, 食生活における種々の変化に対する対策も同時になされなければならない. 先に指摘したが, 現代の食生活における問題点は多く, そのどれもが深刻であると言わざるを得ない. 食事の選択, 摂取量の調節, 食時間 場所などは本人の強い意識と知識が要求され, さらには毎日の疲労, 睡眠の状況なども複雑に絡み, その対策については単純ではない. しかしながら, 栄養素バランス ( 栄養の機能 ) あるいは食生活形態 ( 食事摂取タイミングなど ) の中のどの項目一つをとっても現代生活の食生活改善として重要な問題であり, その問題一つを解決することにより, いわゆる現代病が全て解決できる可能性もあるが, 反対に全く解決できないことも十分考えられる. 本研究はそれら複雑な現代の食生活問題の中から特に 水 の問題について触れることにした. 生体には水分 ( 体液 ) が体重の約 60% 含まれている. そのうち, 体重の約 40% は細胞内に ( 細胞内液 ), 体重の約 20% は細胞外 ( 細胞外液 ) に存在している. 細胞外液はさらにリンパ液を含めた組織外液 ( 間質液 ) が 15%, 血漿が 5% を占めてい

る. 細胞内では生体に重要な代謝が営まれており, それらを維持するために基本的に重要な部分である. 細胞内液に影響を及ぼすような脱水は機能障害をもたらすことが多い. また, そのような状態下では基本的に細胞外液, 特に血漿における水分も不足しており, 循環機能も悪化している. したがって, 細胞内の代謝で必要な栄養素, 酸素の供給は不十分であり, また代謝によって作られた二酸化炭素や乳酸などの代謝産物の運搬も思うようにいかず, 運動機能は極端に制限される. さらには, 皮膚への循環が停滞することから放熱作業も緩慢になり, 蓄熱状態となり, 体温の調節が困難になり, 熱中症をもたらす原因ともなる. 生体内水分濃度は生体の機能が円滑に運ぶために絶えず一定に保たれており, 生命活動の基本ともいえる物質である. しかしながら, 現代の異常気象, 異常ともいえる食生活, 相対的に身体活動を必要としない生活環境の促進などが重なり, 現代人にはもはや本来の生体機能維持が困難になりつつある. 生体水分環境を維持することが, 生体の機能維持のために基本的な対策であり, 急務であると考えられる. 生体内の水分および電解質バランスはホルモンや腎臓によって調節されており, 常にほぼ一定に保たれている. 運動などによる一過性の刺激として大量の発汗を伴う時には水分の損失と同時にナトリウムも失うが, このとき, 副腎皮質からアルドステロンの分泌が増大し, 腎臓の細尿管でのナトリウムの再吸収を促進させ, 尿中からのナトリウムの損失を防ぐ. また, 下垂体後葉から抗利尿ホルモンであるバゾプレッシンの分泌が増大し, 水分を再吸収し, 水分の損失を抑える. 結果として体液の平衡維持がなされることになる. これを恒常性維持能力という. 一般に, この恒常性は少しの刺激やストレスなどでは崩れないとされているが, 脱水症患者が多く見受けられる現代は, すなわち 生命が危険である 異常な状況であると言わざるを得ない. 水分の過剰な損失は血流の円滑な流れを妨げ, 血液, 血管系の本来の機能に重大な問題をもたらす. 血液, 血管系の重要な役割としては, 末梢への栄養素 酸素の運搬や末梢からの老廃物の運搬などがあげられる. 血液水分の減少により血液の循環が緩慢になると必要な栄養素 酸素が末梢までにいきわたらなくなり, また, 老廃物が血管に沈着しやすくなる. 時には, 血管閉塞傾向になり, 血圧の上昇がもたらされる. また, 老廃物が血管に蓄積することは血管組織の硝子化 ( 動脈硬化 ) につながり, 最悪, 脳内出血がもたらされることになる. 生体にとって, 細胞内液, 外液, 血管等の適切な水分レベルの保持はきわめて重要な問題であり, 生体内外のあらゆる変調に対してもそのレベル維持につとめなければならない. 近年, 有料でもよりよい水を求める傾向が広まり, 様々な種類の水が販売されるようになった. それは, まずい水 より 美味しい水 をもとめることから始まったものであるが, 最近ではそのなかでも体によい機能性を持つ水が販売されるようになり, その販売量を増加させている. いままで, 無料で飽きるほど飲めた水 が 有料でもいいものを選択して飲める に代わり, 水への期待感が高まってきたといえる. 様々な機能を持つ水を選択摂取し, 自らの水分バランスを保持する習慣を獲得することは今後の日本人の脱水症状発現抑制だけでなく, 健康的な生活確保にとっても有益なことであり, 水 が生体に与える様々な機能についての情報提供はさらに必要とされると思われる. 基本的に生体内の水分バランスが維持され, 適切な濃度の水分が確保できれば問題はない. しかしながら, これら水分の交流, つまり移動, 貯留, 枯渇などは, 水分中に溶けている電解質の濃度で調節されており, 電解質の存在が大きな鍵を握っている. 蒸留水は蒸発した水蒸気を冷却して収集した水であり, 電解質は全く含まれていない. したがって, 蒸留水の摂取は水分の補給にはなりうるが, 電解質の補給にはなりえない. 発汗時には多くの電解質が水分と同時に

失われるが, 蒸留水を摂取した場合には電解質の補充はできず, 電解質バランスがくずれて浸透圧が低くなる. 浸透圧が低下は口渇感を抑え, それ以上の水を欲しなくなる. そのため体組織中に十分な水分を補給できないことになる. 細胞内から血中にカリウムが流出, ナトリウムが細胞内に流入し, 浸透圧のバランスをとろうとするため, 生体内のバランスが崩れる. 電解質バランスが崩れることにより血中 ph を維持できなくなり, 結果としてアシドーシス, アルカローシスを引き起こすことになる. しかしながら, 生体内 ph は通常弱アルカリ性であり, かなりの精度でそれが保たれている. この軽度のアルカリ性は急激な生体変化でもたらされる電解質バランスの崩れによる病的なアルカローシスではなく, 平常な状態ではこの弱アルカリ性に保つことが必要である. そのために, 飲料中に電解質が含まれることは重要な意味を持つことになる. 蒸留水と異なり, 一般的に飲料水には様々な電解質が含まれており, 電解質の量, 種類, バランスの違いが飲料水の特徴を作り, 機能的特性をもたらす要因となる. 生体内環境を維持するため, 人々は食習慣の改善を図り, 水分, エネルギー, ミネラル, たんぱく質, アミノ酸, ビタミンなどの補給をする. また生活習慣病の予防や治療のためにも食生活の改善を図る. 先に述べたとおり, 今回は水について着目し研究を行ってきた. しかしながら水道水や蒸留水を摂取するだけでは不十分と考えられることから, 日々自然発汗によって消失し, 生体内で重要な役割を担う電解質を補い, 良好な状態とされる生体内の弱アルカリ性化にも貢献すると考え, 今回はアルカリイオン水に着目し実験を行った. 問題の具体的背景と仮説の設定アルカリイオン水とは一般名 飲用アルカリ性電解水 といわれ, アルカリイオン製水器を用いて乳酸カルシウムなどの食品添加物として認められている Ca 剤を溶出補充した水道水を有隔膜電解槽で弱電解することによって陰極側に生成する ph9~10 の電解水である. 飲用することによって慢性下痢, 消化不良, 胃腸内異常発酵, 制酸, 胃酸過多に使用可として 1965 年に認可された.1992 年にアルカリイオン製水器検討委員会によって効能効果の検証 研究が行われ, 安全性と上記の効能が確認され, さらに二重盲検試験によっても胃酸過多, 腸内異常発酵, 便通異常といった腹部不定愁訴に対する改善効果が明らかにされた. また, 塩素が除かれており美味しい水としても知られている. 実験で用いたアルカリイオン水の特徴は,pH9 前後のアルカリ性飲料であり, 含有イオンとして Na が 8.5mg/L,K が 1.6mg/L,Ca が 12mg/L,Mg が 5.8mg/L 含まれており, 総硬度 54mg/L の軟水である. 生理的効果として, 体内に吸収しやすい, 腸内発酵の抑制と整腸作用, 骨カルシウム濃度の上昇, 浸透圧を低下させるといわれている. 種々のストレスや刺激により変化した生体内環境に対し, アルカリイオン水の摂取習慣または単回摂取によりその変化を軽減, または生体に対して良い変化をあたえることができるのではないか, という仮説を立て実験を行うことにした. また, 単回摂取実験として, 運動前, 運動後にアルカリイオン水, 水道水を摂取させ運動前そして運動後の回復期における血液性状, 運動中の呼気ガス代謝測定を行うことにより運動中やその回復期においてのアルカリイオン水の生体に対する影響を調査, 検討を行った. 体内への吸収が早いといわれているアルカリイオン水を摂取することにより, 体内の代謝活動がより円滑に行われ, 運動によって生成, または蓄積された疲労物質などの除去が速やかに行われるのではないか, と予想されたためである. 疲労に関してはアンケートで自覚症状を問う調査を長期摂取実験において行っている. 単回摂取実験の結果も長期摂取実験の結果と合わせて考えられればと考えており, 疲労に関しても注目して検討を行っていきたい.

疲労は運動だけではなく, 日常生活においても切り離すことのできないものである. 疲労が蓄積してしまったことから疾病にかかることもあり, 日常生活中での疲労の軽減, または早期回復は誰もが願っていることなのではないかと思われる. このように, 生体への良い影響を与えるという可能性が考えられるアルカリイオン水摂取の効果を提唱することにより, 人々がよりよい生活を送っていけるよう検討を行っていきたい. また, 吸収が早い, といわれている点についても検討が必要であると考えており, 検証の意味も込めて単回摂取の安静時水分摂取実験において, 生体内部に対して飲料摂取の影響が出始める時間を呼気ガス代謝分析, 血液性状項目により検討することにした. 先ほど述べた通り, 運動を行う際にどのタイミングで水分摂取をすればより良いコンディションで, より良いパフォーマンスができるかということは非常に重要な問題であると考えられ, この点においてもより良好なコンディションを獲得するための水分摂取タイミングを提唱できればという考えのもと実験を行った. アルカリイオン水摂取実験 Ⅰ 今回の研究では, 先ほど述べた通り, アルカリイオン水摂取により, 日常生活における良好なコンディショニングづくりにつながるのではないか, という仮説のもと, アルカリイオン水摂取実験 Ⅰとして, 長期摂取では被験者 50 人を対象にして 28 項目のアンケート調査, 疲労自覚症状しらべ,POMS テスト, 血圧 加速度脈波調査, 運動による呼気ガス代謝分析, 血液性状項目の変位について検討した. 単回摂取実験では, 水道水, アルカリイオン水を摂取させるタイミングを変え, 運動後摂取実験, 運動前摂取実験を行った. また, 飲料摂取による効果が発生するタイミングの検証のために安静時水分摂取実験を行った. 単回摂取実験では呼気ガス代謝分析, 血液性状項目の変動をもとに検討を行った. アルカリイオン水摂取実験 Ⅰにおけるアルカリイオン水摂取による効果として, 長期摂取では, 自覚的な疲労の軽減, 心理状況の改善, 良好な水分補給状態の獲得による血圧を正常値に改善させる働き, クエン酸回路の活性化による血液の流れが円滑になることおよび電解質バランスが保たれることによる APG-index の改善, 血流の改善による疲労物質の運搬の円滑化による疲労の軽減, 比較的高負荷になっても糖を利用したエネルギー供給機構を用いず, 脂質を燃焼して行う有酸素運動を続けられる可能性, 免疫細胞が一番活発に働き健康体とされている体内の弱酸性化, クエン酸回路の活性化によりアルカリイオン摂取が直接乳酸分解に関与し乳酸が生成されても通常より速やかに乳酸が分解され乳酸濃度の上昇が抑えられた可能性, 血中により多くの水分を蓄えることができるようになり, 運動による水分損失を防ぐ効果, また血中だけでなく生体全体の水分量の維持の効果, 運動やストレスなどにより増加する白血球数の増加が, 先に挙げた心理状況, 疲労自覚症状の改善により抑えられた可能性, 運動におけるパフォーマンスへの好影響, 酸素運搬能力の増加が示唆される結果となった. 単回摂取では, 運動により失った血中水分の回復が速やかに行われる可能性, 運動により上昇した血糖値を減少させる効果, 運動により酸素を消費した各組織への速やかな酸素供給ができる可能性, 長期摂取による ph の上昇だけでなく, 単回摂取だけでも血中 ph を上昇させよりよい生体環境にする可能性, 運動による ph 低下を防ぎ, 運動により減少した ph の回復にも効果的である可能性, クエン酸回路が活性化してアルカリイオン水摂取が直接乳酸分解に関与し, 乳酸分解が通常よりも速やかに行われる可能性, 運動により上昇した血糖値を速やかに減少させる効果, 運動による血糖値の上昇を防ぐ効果, 糖を利用した運動に切り替わるのを遅らせ, より長く脂質を使用した運動を続けられるようになる可能性, 運動終了後もしばらくは運動をしていなくても脂質を利用し続けられている可能性, 運動によって失われた体

水分を血液から吸収させる働き, 運動パフォーマンスの向上, 体内酸化物質の還元作用, より生体に負担をかけずに生活ができるようになる可能性が示唆された. また, 安静時水分摂取実験においての飲料摂取後効果が表れ始める時間帯については飲料摂取後 20 分までには何らかの影響があり, その影響には持続性があることが示唆された. しかしながらさらなる検討が必要な項目もあり, 長期摂取実験の血圧 加速度脈波調査においての血圧の改善に関しては適切な水分補給は高血圧症の発症を予防するのに効果的であるという報告もあることから, アルカリイオン水摂取が血圧の改善に影響を与えたといいきることはできない. しかし, 体内の良好な水分補給状態を獲得できる可能性が示唆されたことはアルカリイオン水摂取が血圧を正常値に改善する効果を持つことを裏付ける要素であると考えられる. また, 長期摂取においては比較対照群を設けておらず, 比較対照群を用いた実験をし, 今回の結果がアルカリイオン水摂取によるものなのか, ただ水分を普段より多く摂取するよう心がけたために起こったものなのかを再検証する必要があると考えている. アルカリイオン水摂取実験 Ⅱ アルカリイオン水摂取実験 Ⅰにおける問題点を踏まえ, アルカリイオン水摂取実験 Ⅱを行った. 長期摂取実験では水道水群, 天然水群を新たに加え, 水道水群 25 名, 天然水群 26 名, アルカリイオン水群 27 名の計 78 名によってアルカリイオン水摂取実験 Ⅰと同様に 28 項目のアンケート調査, 疲労自覚症状しらべ,POMS テスト, 血圧 加速度脈波調査, 運動による呼気ガス代謝分析, 血液性状項目の変位について検討した. 単回摂取実験では, 運動後摂取実験, 睡眠時水分摂取実験を行った. 今回の結果では, 有意差の見られない項目もあったが, すべての項目においてアルカリイオン水群が他の群よりもより改善されている様子が観察されたことから, アルカリイオン水摂取実験 Ⅰで得られた結果である, 自覚的な疲労感の軽減はアルカリイオン水の摂取習慣をつけたため得られた結果である, ということがいえると考えられる. また, アルカリイオン水群においては他の群にしばしばみられる悪化という現象が見られないことから, アルカリイオン水の摂取習慣をつけることは日常生活における良好なコンディションづくりにも有効であるといえると考えられる. また, 自覚的な解答による結果ではあるが, アルカリイオン水および天然水の摂取習慣をつけることにより, 良好な水分補給状態を維持することができるようになるという効果も示唆された結果となった また,POMS 調査においても全体として天然水群, アルカリイオン水群において改善する様子が観察され, 水道水群は悪化するという様子が観察された POMS 調査は心理状況を判断する調査であることから, 試験期間中に水道水群の被験者からしばしば聞かれた 飲みにくい という言葉, そして天然水群, アルカリイオン水群の被験者から聞かれた 飲みやすい, おいしい といった言葉が関係していると思われる. また, アンケート調査や疲労自覚症状しらべの結果より疲労感の減少も大きくかかわっていることが予想される. 身体面だけでなく, 心理面についても良い影響を与える可能性がある, ということは日常生活中のコンディショニングづくりに有効であると考えられる. 有意な改善とはいえず, 傾向にとどまってしまったが, アルカリイオン水摂取実験 Ⅰの結果を踏まえればアルカリイオン水の摂取習慣は心理面にも良い影響を与え, より健康的な生活を送る手助けとなるはずである. 実際に精神的ストレスは, 自律神経系, 内分泌系, 免疫系を修飾することが数々の研究から明らかになっており, 健康全般への影響を考える上でも心理状況への高評価を得たことは心理面だけでなく, 健康に対しても有効であることを表していることが考えられる.

血圧および加速度脈波に関して, アルカリイオン水摂取実験 Ⅱではアルカリイオン水摂取実験 Ⅰの結果にて示唆された, 飲料摂取前に至適血圧より高かったものは低く, 至適血圧より低かったものは高くといった, 正常血圧へ収斂していく効果はアルカリイオン水の摂取習慣によるものである, ということを裏付ける結果とはならなかったものの, 十分な水分摂取は良好な血圧状態を作り出すことができる可能性を示唆する結果となった. 十分な水分摂取についてはアンケート調査や, 後述する運動実験における血中水分の結果により確認されている. また APG-index に関しては, 有意差は見られなかったもののアルカリイオン水の摂取習慣によってより良好な血液循環状態を作り出すことができる可能性を示唆する結果となった. 今回の結果および, アルカリイオン水摂取実験 Ⅰの結果より, 良好な水分補給状態を維持することを含み, アルカリイオン水の摂取習慣を作ることにより血圧を正常値に保ち, 血液循環も良好な状態を保つことができる可能性が示唆されたといってよいと考えられる. 血液循環を円滑に保つこと, また APG-index の上昇は円滑なだけでなく力強い循環機能を有していることを表している. ここでいう力強い循環機能とは, 抹消まで到達した血液が再び身体の中心に向かっていく際の勢いのようなものであるが, 年齢を重ねるごとにこの力強さは失われていく傾向があると言われている. ある程度はトレーニング等で改善できることが報告されているが, 若者のそれには劣ってしまう. 血液のそのような円滑さ, 力強さは老廃物や栄養素の運搬にも非常に有効であり, この点においても日常生活のコンディショニングづくりに有効であると考えられる. 血圧に関してはいうまでもなく, 正常血圧に保つことで, 高血圧以外にも合併症予防にも効果的である. アルカリイオン水摂取実験 Ⅱでは, 傾向にとどまってしまうが, 前回同様血中水分量が増加する様子が観察されており, アルカリイオン水の摂取習慣により血中の良好な水分補給状態を維持できる可能性が観察された. 血清浸透圧に関しては, 今回は運動実験をする前に採血を行ったため運動により失われた体組織の水分の補給が促進されている状態を表す血清浸透圧の上昇という現象は観察されなかったが, 運動前における血中水分の維持を表す血清浸透圧の減少という様子は観察され, 血中水分量の結果と合わせて検討すると, アルカリイオン水の摂取習慣は血中の良好な水分補給状態を維持する可能性を裏付けるものになったと考えられる 運動実験に関して VT に達するまでの時間が増加したことに関しては脂質を利用した運動を長く継続できる可能性を示しているものと考えられ, アルカリイオン水の摂取習慣により, 前回の結果から得られた脂質燃焼促進効果を有することが示唆された結果であると考えられる. 単回摂取実験については, 血中水分量, 血中 ph, 血中乳酸濃度に大きな差が見られた. アルカリイオン水群はこの 3 項目に関して, 運動後の回復が最も早く, 血中 ph に関しては有意差も確認された. このことから, アルカリイオン水の運動前摂取は運動により変動した生体内環境を運動前の状態に速やかに戻す効果を有する可能性があることが考えられる. また, 睡眠前にアルカリイオン水を摂取する効果についても, アルカリイオン水摂取時は起床時においてもほぼ血中水分レベルが維持されていた. その後の運動負荷時には, 水分非摂取時は大きく低下したが, アルカリイオン水摂取時は軽度に抑えられていた. また, 血中 Ht 値も血中水分の動きとほぼ同様な変化を示した. 運動負荷後は水摂取時とほぼ同じ値になった. 血清浸透圧はアルカリイオン水摂取時に減少した. その後の運動負荷時には 3 条件ともほぼ同じ程度高まる傾向を示したが, アルカリイオン水摂取時は元のレベルに戻るにとどまった. アルカリイオン水が睡眠によってもたらされる水分損失を軽減し, 起床時の生体リスクを防ぐ効果があるといえる. 血中遊離脂肪酸レベルは就寝時に比べ, アルカリイオン水摂取時に増加する傾向にあり, 水分非摂取時に比べ有意

であった. また, 起床時の RQ はアルカリイオン水摂取時が水分非摂取時および摂取時に比べ有意に低い値であった. 起床時の中性脂肪もアルカリイオン水摂取時に低くなる様子がうかがわれ, 他の 2 条件に比べてより脂肪酸利用が高まっていることが伺われた. 尿酸,CPK は著明な低下ではないが, 水分非摂取あるいは水道水摂取時に比べアルカリイオン水摂取時に低くなる様子にあり, 乳酸, 尿素窒素の同行も含め, アルカリイオン水摂取により疲労物質の処理促進の可能性が十分に考えられる. APG-index は末梢の血液循環能力を示すものである. アルカリイオン水摂取時は増加する傾向にあり, 水分非摂取時は有意に低下した. これらはアルカリイオン水摂取による血液水分の確保, またそれによる循環および代謝機能の亢進がもたらしたものと考えられる. 血圧については有意な変動が見られなかったが, 平均値で観察すると, 水分非摂取時において最高血圧は上昇傾向にあるが, アルカリイオン水および水摂取は低下傾向にあった. また, 最低血圧は水分非摂取時および摂取時はほとんど横ばい状態であるが, アルカリイオン水摂取時は増加傾向にあった. アルカリイオン水摂取時は最高血圧, 最低血圧ともにほぼ基本値に近づくような動きを示しており, より改善される方向に変動していると考えられる. これらのことより, 睡眠前にアルカリイオン水を摂取することにより起床時においてのより良い生体環境を獲得することができ, より良いコンディションで一日を開始できる可能性が示唆される結果となった. また, 体内の水分状態が良好な状態でないと口渇感によって不意に起床してしまうこともよくある. そういった状態は睡眠不足につながると考えられ, 睡眠不足は身体的不調を引き起こし, さらには精神的な不調をも引き起こす結果となる. 睡眠不足の人の方が精神的な不調を訴えることが多い, という研究結果も報告されており, 睡眠前に十分な水分を摂取して就寝することは心身の健康に対して非常に有効であるといえる. この点についてアンケート調査や POMS テストの結果からも身体的な疲労の軽減や心理状況の改善効果が示唆されていることから, 日常的にアルカリイオン水摂取の習慣をつけることにより, 安眠効果も期待できるのではないかと予測することができる. また, その他の睡眠時における水分不足による障害としては, 水分不足による血中水分の減少が引き起こされ, そのために血液の循環が阻害され血管が詰まりやすくなり血圧が上昇してしまう, また血管が詰まってしまい脳卒中を引き起こす可能性もある. 場合によっては就寝したまま死亡, ということもありうる. 就寝前の水分摂取には十分気をつけなければならないといえる. 本研究における総括今回の研究全体として, アルカリイオン水の摂取によって疲労の軽減, 心理状態の改善, 運動時における脂質燃焼の促進, そして運動後の速やかな回復, 血中水分の維持効果が示唆された. そしてアルカリイオン水だけの効果とは認められなかったが良好な水分摂取状態の継続は血圧の正常化に効果的であるという可能性が示唆される結果となったが, アルカリイオン水の摂取習慣は血液性状項目の結果や,28 項目のアンケート調査から, 良好な水分保持状態を維持できる可能性が示唆されたことから, 本研究で使用した他の飲料と比較して, アルカリイオン水を摂取した場合に, より良好な水分保持状態を維持でき, その結果として正常血圧を維持し, そして加速度脈波測定から, 良好な抹消循環の状態を維持できることにつながるのではないかと考えられる. また, カリウム, マグネシウムには血圧の降圧作用があるといわれており, 実際に米国合同委員会の高血圧治療のガイドラインには非薬物療法としてカリウムやマグネシウムの積

極的な摂取が勧められている. 今回の研究結果ではアルカリイオン水に含まれる電解質の降圧効果については検証できなかったが, 高血圧治療の初期段階として, 減塩療法と併用してカリウム, マグネシウム摂取を増やすように心掛けることは有用であると考えられるという報告もあることから, アルカリイオン水摂取によりその中に含まれる電解質によって血圧を正常値に維持する効果がある可能性も考えられる. 抹消循環に関しても細胞内のアルカリ化によって血管平滑筋収縮が亢進されるという報告があり, そのアルカリ化には細胞内へのカルシウムイオン流入が関連していると報告されているが, 本研究においてアルカリイオン水摂取には血中 ph 上昇効果が示唆されていること, 本研究において使用したアルカリイオン水にはカルシウムイオンが含まれていることからアルカリイオン水には血管平滑筋収縮を亢進し, その結果抹消循環も改善させる効果が期待できると考えられる. また, 疲労という点に関連して, 平成 18 年に厚生労働省によって策定された 健康づくりのための運動基準 2006 においては, 生活習慣病予防のために必要な体力が示され, 持久力は健康づくりのための最大酸素摂取量の基準値及び範囲を目指すこと, また筋力は日本人の各年代の平均値以上に保つことが目標とされたが, その基準値を保つことがメタボリックシンドローム発症リスクを軽減できるか否かを検証すること目的とされた研究が報告されているが, その結果によると女性は持久力を健康づくりのための最大酸素摂取量の範囲内に, 男性は基準値以上に保つことで, メタボリックシンドローム発症リスクを軽減できる可能性が示唆されたとしている. この結果から考えられることとしては基準値を維持すること, またはそれ以上の値にするためにはそれなりの強度の運動を行わなければならない. そういった運動には相応の疲労が生体にかかることが予想される. そういった基準値を維持し, メタボリックシンドローム予防を行っていたとしても疲労が蓄積されることにより別の疾病を引き起こしてしまう可能性も考えられる. 今回の研究において疲労の軽減効果が示唆されたアルカリイオン水摂取と組み合わせて運動を行っていくことで, 疲労を軽減し, かつ身体能力の向上も達成できると考えられる. また, 近年の異常気象による猛暑日, 熱帯夜と呼ばれる非常に過ごしにくい日が続き, 熱中症にはさらに注意しなければならない. 生体内では体液調節系および循環調節系が体温調節系に優先されて機能している. そのため, 過度の発汗により生体内の水分が大量に減少すると, 失った体液の調節をするための機能が優先して働き, 体温調節機能がうまく働かなくなってしまう. そこで, 水分摂取により脱水の進行を予防して体液の量と浸透圧を一定に保つことにより, 循環系に対する負担を軽減して体温調節機能を高いレベルで機能させることが可能になるといわれ, 水分摂取の重要性が報告されている. また, 発汗に伴うナトリウムの損失も体液調整に関連しており, 多量の発汗時には水分摂取と同時にナトリウム摂取も必要である. その際, 飲料中にナトリウムを含む飲料を摂取することは非常に効果的であるといえ, そういった場合ナトリウム濃度の高い溶液の摂取が効果的であるとされるが, 本実験で使用されたアルカリイオン水は高濃度ではないが, ナトリウムが含まれている. 十分な生体内の水分維持が可能であると考えられることからも, 熱中症予防のための水分摂取, およびナトリウムの補給に関してアルカリイオン水摂取は有効であると考えられる. また, 睡眠前にアルカリイオン水を摂取することにより, より良い状態で一日を開始できる可能性も示唆される結果となり, 日中の生活中だけでなく, 睡眠時の代謝に対しても良好な効果を与える可能性があると考えられる. またアルカリイオン水の摂取習慣, そして就寝前の摂取により安眠効果を得ることができ, 身体的な不調や精神的な不調に対しても好ましいアプローチをすることができるのではないかと考えられる. 快適な睡眠は酸化ストレスの抑制にも効果的であると考えられることから生体内部に対しても好影響を与えられると考えられる.

繰り返しになるが本研究は日常生活をより良いものにするため, 日々のコンディションを良くするためにアルカリイオン水の摂取が効果的なのではないか, という仮定のもとに研究を行った. 本研究の結果により, アルカリイオン水の摂取は日々のコンディション作りに有効である可能性が示唆されたが, アルカリイオン水が他の健康飲料といわれる部類の飲料より優れていると思われる点は 水 として使用できる点だと考えている. 健康飲料と呼ばれる部類の飲料には, アルカリイオン水よりも電解質を多く含むもの, 栄養素を多く含むものが存在しているのも事実である. 今回はそういった飲料との比較は行っていないためどちらが効果的であるかについては検証できていないが, これらの飲料は清涼飲料水に分類され, 日々の生活の中で使用する 水 としては非常に不都合であると言える. 例えば料理に使用する場合, その料理の味を損ねてしまい, こういった飲料はその飲料を飲むことでしか摂取できない. その点, アルカリイオン水は味を損ねることもなく, 料理に使用することもでき, 生活の中で使用することができる. 実際に特性は食材により異なるが, アルカリイオン水を調理に使用することにより, 水道水や蒸留水などに比べて製品の物性や嗜好に好ましい影響を与えたという研究結果も報告されている. 日々使用する 水 をアルカリイオン水に変えることにより, 今回の研究で得られた効果が期待できる可能性がある. また, その他の健康飲料を飲料水として使用し, 料理用の 水 としてアルカリイオン水を使用することでさらに良いコンディションを獲得できる可能性もある. 昨今の健康志向により, 健康への意識が高まる中, どの食品を摂取し どのよな運動をし, 自らの健康を勝ち取っていくかは消費者本人に委ねられている. 本研究ではアルカリイオン水摂取に関して長期摂取, 単回摂取に分け, いくつかの実験を行った. 日常生活中の生体内, 身体的または心理面の様々な変動に対し, アルカリイオン水の摂取習慣や単回摂取が種々の有効な効果を持つ可能性が示唆された. また血圧の項において述べたが, 高血圧やその他の合併症といった疾病は生活習慣病と呼ばれ, 良好な生活習慣を保つことが最も確実な予防方法だと言われている. アルカリイオン水の摂取習慣はまさにその生活習慣の一部となりえ, 高血圧を予防し, 正常血圧値に収斂させる効果を持つ可能性があるアルカリイオン水摂取を日常生活の中に組み込むことは大変な運動, 食生活の改善などに比べるとより良い生活習慣を身につけるための第一歩としては簡単でうってつけなのではないだろうか. 日常生活の中で使用する 水 としてアルカリイオン水を摂取することで, 生体のコンディションを整え, 人々の日常生活を身体面から, そして心理面から総合的により良いものにすることができると思われる. この研究が, 人々が日常生活をより良いものとするための一助となることができればと考えている. アルカリイオン水に関する上記報告は以下の学会誌および学会発表をまとめたものである 学会誌 伊藤幹 服部洋見 服部祐見 村松成司 : アルカリイオン水長期摂取が末梢循環および血圧に及ぼす影響 スポーツ整復療法学研究 11(1),17-22(2009) 伊藤幹 村松成司 : 日常生活時の体調および心理状況に及ぼすアルカリイオン水長期摂取の影響 人文社会科学研究 19,49-56(2009) 学会発表 伊藤幹 大隈早香 村松成司 服部洋見 服部祐見 : アルカリイオン水長期摂取が目常生活におけるコンディションに及ぼす影響 平成 17 年度千葉県体育学会後期発表会 平成 17 年 12 月 千葉大学 ( 千葉 )

伊藤幹 佐藤大毅 藤原健太郎 村松成司 : 運動負荷後のアルカリイオン水摂取がその後の生体変動に及ぼす影響 平成 18 年度千葉県体育学会前期発表会 平成 18 年 5 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 佐藤大毅 藤原健太郎 村松成司 : アルカリイオン水長期摂取が加速度脈波および血圧に及ぼす影響 第 8 回日本スポーツ整復療法学会 平成 18 年 10 月 東京工業大学 ( 東京 ) 伊藤幹 佐藤大毅 藤原健太郎 村松成司 服部祐見 :. アルカリイオン水長期摂取時の心理状態の変動について 平成 18 年度千葉県体育学会後期発表会 平成 18 年 11 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 佐藤大毅 藤原健太郎 服部祐見 村松成司 : 運動負荷前のアルカリイオン水摂取がその後の運動及び回復期におけるガス代謝 血液性状に与える影響 平成 19 年度千葉県体育学会前期発表会 平成 19 年 5. 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 佐藤大毅 藤原健太郎 服部祐見 村松成司 : アルカリイオン水の長期摂取が運動時および運動直後の生体変動に及ぼす影響 第 9 回日本スポーツ整復療法学会 平成 19 年 10 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 佐藤大毅 藤原健太郎 服部祐見 村松成司 : 安静時アルカリイオン摂取による血液性状 ガス代謝の変動について 平成 19 年度千葉県体育学会後期発表会 平成 19 年 12, 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 藤原健太郎 服部祐児 村松成司 : 日常生活時の体調変化に及ぼすアルカリイオン水長期摂取の影響 平成 20 年度千葉県体育学会前期発表会 平成 20 年 5, 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 藤原健太郎 服部洋見 平野嘉彦 村松成司 : アルカリイオン水長期摂取が加速度脈波および血圧に及ぼす影響 第 10 回日本スポーツ整復療法学会 平成 20 年 10 月 東京海洋大学 ( 東京 ) 伊藤幹 服部祐見 村松成司 : アルカリイオン水長期摂取時の心理状態の変動について (2) 平成 21 年度千葉県体育学会前期発表会 平成 21 年 5 月 千葉大学 ( 千葉 ) 伊藤幹 服部祐見 松下亜由子 村松成司 : 血液性状 呼気ガス代謝から見たアルカリイオン水長期摂取の影響 第 11 回日本スポーツ整復療法学会 平成 21 年 10 月 大原学園菅平研修所 ( 長野 )