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2. デブリ除去の必要性現在, デブリはすでに無視できない負担, リスクを運用衛星に与えている. 一つ目はデブリ衝突回避運用の負担であり, 低軌道で約 10cm 以上のデブリは地上から観測 追跡されているため衝突回避マヌーバ ( 軌道制御運用 ) が可能であるが, 燃料が必要になる他, 観測の中断など運用への負担が大きい. 国際宇宙ステーションが最近は半年に一度程度衝突回避マヌーバを行っている他, 世界では 2010 年度 120 回以上衝突回避マヌーバを実施している. 二つ目の負担は, 数百 μm の微小デブリ衝突により機器が故障したりハーネスが破断したりしてミッションにクリティカルな影響を与えることに対するデブリ防御設計である. クリティカルな機器のまわりに防御材を配置するなどにより防御することが可能なものもあるが, そのための重量等のリソース, 設計変更は宇宙機設計者への負担になっている. さらに, その間の数 mm~10cm 程度のデブリは防御も回避も不可能であり, 壊滅的な被害を受ける可能性を残す. さらに今後はデブリ衝突によりデブリの数が増加していくと予測されている. 図 2は JAXA/ 九州大学が予測した今後のカタログ化物体の推移予測結果である.IADC では 2011 年,JAXA を含む6 機関が同一初期条件からの推移予測を行ったところ結果はよく一致し, 今後デブリ低減策がよく実施されたとしても, 高度 700km から 1000km 付近における衝突によりデブリは増加すること,4 年から9 年に一度壊滅的な衝突が発生すること, デブリ抑制のためには今後打ち上げる宇宙機のデブリ発生低減 (mitigation) だけでは不十分で, 環境改善 (remediation) すなわちデブリ除去 (active debris removal, ADR) が必要であることについてコンセンサスが得られた. また, 図 2は 10cm 以上のカタログ化物体のみを考慮した推移予測であり,60 回のモンテカルロシミュ図 2 今後のカタログ化物体の推移予測結果 レーションの平均を示しているため 200 年で数十 % の増加にとどまっているが, 衝突が発生すれば一瞬で数千個も増加しうること, また, さらに小さい破片デブリもデブリの自己増殖に伴い増加していくことが予測されているため, デブリ環境改善が必要となっている 2). 3. 除去すべきデブリデブリが宇宙機に与えている直接の負担 リスクを低減するためには, 前項で記述したような 10cm~ 数百 μm の破片サイズのデブリを除去すべきであるが, これらは非常に数が多く広大な宇宙空間に分散しているため, 除去するのは非常に効率が悪い. 例えば, 低密度材料等でパッシブに微小デブリを衝突させて取り除く手法が提案されているが, 意味のある数を除去するには数百 km 2 の大面積が必要となる. また, 今後大型デブリの衝突により, これらの破片サイズのデブリが大量に発生すると予測されており, 破片サイズのデブリだけを除去しても, 大型デブリの衝突が発生すればまた大量に破片デブリが発生してしまう. そのため, 今除去すべきデブリは, 混雑軌道にある使用済み人工衛星やロケット上段等の大型のデブリであると考えられている. 3.1. 除去すべき軌道デブリは低軌道だけでなく静止軌道や中間軌道でも増加しているが, 静止軌道や中間軌道は体積が大きく, 周回速度が低いこともあり, 今後デブリの継続的な増加は予測されているものの, 今後数百年の範囲では線形の増加にとどまる. それに対し, 低軌道はこのまま対策をとらない場合には指数的な増加が懸念されている 3). 静止軌道は空気抵抗が期待できないため減少要因がなく, さらに電波の干渉や摂動によって静止軌道域をドリフトするデブリに対する衝突回避運用の点から, デブリ除去が必要という声が運用ユーザからも出ているが, デブリの自己増加を抑制するという観点では, まず低軌道が喫緊の除去対象となる. 図 3は低軌道のカタログ化物体の高度別分布, およびその中で RCS(Radar Cross Section) が 0.5m 2 以上の物体の高度分布を示す.RCS が大きい物体は高度 900-1000km, 軌道傾斜角が 83 度,74 度, あるいは太陽同期軌道など特定の軌道に集中している 4). これらの混雑軌道では, 昇交点赤経 Ωは広い範囲に分布しているが, 数が多いためΩの数度程度の範囲に多数のデブリが存在する ( 図 4). そのため, 一機の

図 3 軌道上のカタログ化物体高度分布 (2012 年 4 月時点 ) 度あるとされている. 除去するのはどちらか一方でも構わないため, 下記の理由により当面ロケット上段をターゲットとすることが世界的にも提案されている. 衛星に比べどれも形状が比較的同一であると期待できる. 衛星に比べ機密性が低い ( 他国のデブリを除去する場合に問題になりにくい ). 円筒状で, レーザ等の反射が計測できると期待できる. 重心から遠く突き出た長いパドル等がないため, 除去機との予期せぬ衝突の危険性が低減できる. 軸対称のため, タンブリング運動ではなくフラットスピンなど姿勢運動が単純と期待できる. 磁場との干渉で回転が止まっているという検討結果もある 6). 図 5は H-IIA 上段をドイツの TIRA レーダで観測した結果であり, 打ち上げ約 10 ヶ月後にほぼ重力傾斜安定していることが示唆されている. 図 4 軌道上カタログ化物体昇交点赤経分布 ( 同上 ) デブリ除去機で狭い軌道面範囲に存在する複数のデブリを除去できる可能性がある. あるいは新たな打ち上げの際に相乗り衛星等で近傍に存在するデブリを除去できる可能性がある. 3.2. 除去すべきデブリの数どのデブリを除去すると将来の環境改善効果が高いかは, デブリ推移モデルを用いて評価する必要がある. 例えば高度 900~1000km, 軌道傾斜角 82~83 度の混雑軌道から 100 個の大型デブリを除去するにより, デブリ数の増加を大きく抑えられることが示されている 5). 別の研究では, 衝突率 重量の大きい物体を5 個 / 年ずつ除去することにより増加が抑えられるとの予測も示されている 3). このように, カタログ化されている 20000 個のデブリを全部除去せずとも, 混雑軌道の大型デブリを上記程度除去できれば, 環境改善に大きな効果を出すことができる. 3.4. ロケット上段の分類デブリ除去の優先的な対象となりうる高度 700~ 1500km, 軌道傾斜角 60~103 度にあるロケット上段機体の内訳は図 6のようにロシアのロケット上段機体が主である. 特に,COSMOS 3M(SL-8) 上段機体 ( 重量 1.4 トン ) は 300 個近くが存在し, 高度 1000km, 軌道傾斜角 83 度付近等に多数密集している. 本機体は運用終了後であり機密性の問題も比較的低いと想定され, またこれまで約 130 機がすでに再突入しているものの地上で残骸が発見された報告もなく, 再突入時の溶融残存物が少ないと期待される. デブリ発生防止標準では, 地上障害予測数が 10-4 を超える宇宙機に関してはコントロールドリエントリを実施 3.3. 対象デブリの種類低軌道には廃棄衛星, ロケット上段が重量的には半分くらいずつ存在しており, それぞれ 1000 トン程 図 5 H-IIA 上段機体の軌道上姿勢状況 ( 独 TIRA レーダによる観測 )

図 6 高度 700~1500km, 軌道傾斜角 60~103 度のロケット上段機体 することが推奨されている. デブリ除去の際にも本 標準が適用されるかは不確定ではあるが,COSMOS 3M がコントロールドリエントリ不要であればデブ リ除去の難易度が低減されると期待される. また, 上記軌道の COSMOS 3M 機体の光学望遠鏡による光度変化 ( ライトカーブ ) 観測の結果, 比較的高度変化の少ない, すなわち姿勢変動が少ない機体が多数あると予測される観測結果を得ている. 4. デブリ除去の技術的課題デブリの除去の手法としては地上からのレーザー照射や粒子の散布等, 様々な手法が提案されているが, 現状技術で大型デブリの除去が可能なのは, デブリ除去衛星による直接除去のみだと考えられている. デブリ除去衛星は, 非協力ターゲットであるデブリに衝突することなく接近し, 何らかの推進系を取り付け, デオービットする必要があり, 高度な技術を要する. さらに, なるべく低コストで達成できることが重要であり, そのために1 機のデブリ除去衛星で複数個のデブリを除去できる, あるいはピギーバックなどの小型衛星でデブリを除去するための技術を検討する必要がある. 図 7のデブリ除去のシーケンスを示すように, デブリ除去には大きく分けて, 非協力接近技術, 近傍作業技術 ( 運動推定, 推進系取付等 ), デオービット技術 の3つの技術課題がある. 以下それら必要技術について述べる. が不可欠である. 軌道上観測には, 可視光光学画像の他, 赤外, レーダ, レーザー測距等様々な測距方法があるが, デブリ除去を安価に実現するためにはその機器コスト, 重量, 電力等の要求リソースに留意する必要がある. 光学画像センサは比較的安価であり, 軌道上でデブリは太陽光を反射しているため,100 km以近程度では 0 等級以上の明るさで計測できると期待される. そのため, 光学的捕捉は容易であると考えらえるが, 最初は点として観測され, その方位角履歴だけでは相対運動は相似であるため, カルマンフィルタ等を用いても正確に相対距離を計測できない. そこで, スラストを与えることにより, そのスラスト前後の見え方の変化を利用して相対距離を評価しつつ, 徐々に接近する手法を検討している. ただし, 軌道にもよるが, デブリに軌道速度方向に接近する場合, 太陽方向が軌道周回毎に変化することになる. 自機からみて対象が逆光の場合は対象が観測できないので, 軌道の 1/3 程度のみが観測に適した位置関係となる. 十分近傍ではアルベド光による観測も期待できるが, 食中は位置関係によらず観測ができない. もう一つ, らせん状に接近する軌道もあり得る. この場合, 食以外では観測可能と期待できるが, スラスト付与なしに徐々に接近していくことができない. 十分接近した後は, 対象は複数ピクセルで観測されるためピクセル数情報でも相対距離を評価できる ( 物体視 ). しかし, 太陽方向によっては対象は全体が撮像されず, 半月状に観測されるため, 太陽方向を考慮したモデルとのマッチングが必要である. 4.2. 運動推定, 角運動量除去軌道上物体のデブリの姿勢運動については, 地上のレーダ, 光学観測により報告されているものがあり, 前述のようにほぼ重力傾斜安定していると思われるロケット上段もあるが, 数十度毎秒の速い回転をしているものや, 運用終了後の観測衛星の例では最小慣性主軸周り数度毎秒, 最大主軸周り 0. 数度程 4.1. 非協力接近これまで協力対象への接近技術は, 我が国の ETS-VII,HTV 他多数の実績があるが, ランデブーレーダのリフレクタ, マーカ等がない非協力対象への接近技術は相対距離 姿勢計測が困難であるため, ほとんど実績はない. デブリは地上からの観測により軌道が推定されているが, その予測精度は数kmのオーダである. そのため軌道上での観測による接近 図 7 デブリ除去の流れ

度の回転が見られたものもある. そのため光学カメラ等による運動推定や, 外力等による角運動量除去が研究されてきた. しかしロケット上段の場合, ほぼ重力傾斜安定している対象を選ぶことにより, 角運動量除去は不要であると想定している. 光学カメラによる対象物の姿勢評価は工場のオートメーション等で実用されているが, 限定された光学環境でのみ動作している. しかし軌道上の光学環境は, 大気がないため環境光がなく, 一方向からの強烈な太陽光は方向が時々刻々変化するという特殊な環境であり, 安定した画像処理が困難である. そこで, 軌道環境を模擬するための光学シミュレータを整備し, 実画像を取得している. 4.3. 捕獲, 推進系取付デブリに接近した後, 何らかの方法でデブリに推進力を与える必要がある. イオンビーム照射や静電力等, 非接触の手法も提案はされているが, 低軌道のデオービットの場合, 後述の通り約 100m/s 以上の大きな増速度が必要であるため, 非接触の微小力の場合長期間の運用が必要になる. 協力対象の捕獲の例は ISS のロボットアームや ETS-VII 等があるが, 被把持部や相対位置計測のためのマーカ等を持たず, また大きな質量が回転 並進運動を持っているデブリの場合, 接触によりデブリに運動を与える ( 突き飛ばし ) や, 把持後の予期せぬ力による破壊等が懸念される. そのため非協力対象に対する捕獲 推進系取付の場合, 正確な相対位置 速度制御なしでも推進系を取り付ける機構である必要がある. またコスト, 重量等のリソースにも留意する必要がある. これまで網をかける, 銛を打ち込む, ロボットアームでスラスタノズルに固定する, など様々な方法が提案されているが, 無重量 真空状態で大型 ( 数 m ~ 十数 m, 数百 kg~ 数トン ) のデブリに対する捕獲作業は地上実験が困難である. 網等は大変形, 接触を含むため数値シミュレーションも困難である. また失敗した場合にリトライ可能かどうか, デブリを破壊して新たなデブリを発生させないか等も考慮する必要がある. 4.4. デオービットデブリを低軌道の混雑軌道から除去する場合には, 軌道降下させるか上昇させるかが必要である. 大気圏突入させるあるいは地球周回軌道外への投棄が一番望ましいが, まずはデブリ低減ガイドライン等で要求されている軌道寿命が 25 年以下となる軌道への デオービット (25 年ルール ), あるいは保護軌道外である高度 2000km 以上に移動させることを想定する. 高度 1400km 以下の場合, 軌道降下させる方が必要増速量は小さく, また高度 2000km 以上に移動してもデブリ密度が低い軌道に移動させるだけで根本的な解決にはならないため, 以下高度を降下させることを想定する. 喫緊の除去対象は先に述べたように高度 800~ 1000km 付近等の大型 ( 数百 kg~ 数トン ) デブリであるため, そのデオービットに必要な燃料が問題となる. 例えば, 軌道寿命が 25 年以下となる軌道へのデオービットには, 例えば高度 1000km の 1.4 トンのロケット上段デブリの場合,Isp200 秒とすると 100kg もの推薬を必要とする. さらに今後は 25 年ルールも見直しになりさらに低い高度が要求される可能性がある. またデブリ除去衛星で捕獲して一緒にデオービットする場合にはデブリ除去衛星分の推薬も必要であり, 一機のデブリ除去機で複数デブリを処理する, あるいは小型衛星で除去するのが困難となる. そこで JAXA では燃料不要かつ微小推力のため取り付けも従来型推進系に比較すれば容易と考えられる導電性テザー (EDT) を用いたデブリ除去を検討している. ただし, 導電性テザーではコントロールドリエントリは不可能であるため, コントロールドリエントリが必要なデブリについては別の推進系が適している. また静止軌道ではプラズマ密度および地磁気が小さいため, 静止軌道でも別の推進系が適している. 5. 技術以外の課題デブリ除去の実現のためには技術以外の課題も多数存在する. まずは法的な問題である. デブリはミッション終了後でも所有権を残しており, 善意に基づいても他国のデブリを除去することはできない. しかし, 所有者が除去する義務を有しているかと言えば打ち上げ時には除去の義務はなかったため, 所有者に除去の義務を負わせることは困難であると考えられている. そのため, 国際的な枠組みでデブリ除去を実現していく必要があると考えられているが, その場合には, どのデブリを除去するか誰がどうやって決定するか, 除去という運用により他の運用衛星に与えるリスクをどこまで許容するか, 除去に失敗した場合の責任をどうするか, 等の検討しなくてはいけない問題が多数存在する. 国際的枠組みで除去を実現する場合, どのようなビジネスモデルが考えられるか, 損害賠償責任や保険との関係等, ある

いは, これらの課題についてどのように世界に提案しどこで議論していくかという問題もある. また, コストの問題もある. 通常のミッションは高いコストをかけてもそれに見合う価値があればよいが, デブリ除去の場合できる限り低いコストで実現する必要がある. 除去により得られるメリットと運用衛星に与えるリスクやコストを評価の上手法を検討する必要がある. 6. デブリ除去に向けたロードマップデブリ除去の実現のために, 図 8のようにまず要素技術を実証し, 次にデブリ除去システム実証を実施することを想定している.EDT 実証については現在 HTV を利用した実証が検討されている 7). 要素技術実証の後,2019 年頃に小型衛星を用いて実際に JAXA 起源のデブリを一機除去するデブリ除去システム実証を目指している. 並行してデブリ除去の法的課題, 国際的枠組みの議論を行い, 国連等に提案していくことを想定している. これらにより, その後デブリ除去実施機関によるデブリ除去実用化を目指す. 発出あるいはデブリ除去を実施すると発表, 欧州ではフランスやドイツで技術実証の検討が進んでおり, 各所で国際協力が提案されつつある. その他国際的な活動としては,IADC でデブリ除去の議論が開始し, デブリの姿勢運動の観測等が開始している他,IAA ではデブリ除去スタディの報告書がまとめられ, 国連 COPUOS でも長期持続性の議論がなされている. 8. 終わりにデブリ除去の必要性, その対象, 技術的 非技術的課題, 海外の動向等について述べた. 次世代も宇宙利用を継続するためには, デブリ除去はいずれ不可欠であり, 将来の産業化が期待されている. 日本はデブリ低減ガイドラインの制定等に貢献してきた他, ランデブーや宇宙ロボット, 自律制御, 小型衛星等関連の技術を多数有しているため, 世界に先駆けて技術的実証を実施すると共に非技術的な課題についても検討し世界に訴えていくことにより, 宇宙環境分野において世界に貢献すること, および将来の産業化に向け優位性を保つことができると期待できる. 8) 7. 海外の動向 デブリ除去の必要性は各国のデブリ研究者により 報告されていたが,2009 年のイリジウム コスモス 衝突事故発生後, デブリ除去の検討が加速された. 2009 年 12 月に米国 NASA および DARPA 共催で世界 初のデブリ除去会議が開催されて以来, ロシア, 欧州, 中国等でデブリ除去に関する国際会議が開催され, 技術的 非技術的課題が議論されている. 米国は 2010 年の新宇宙政策でデブリ除去の検討を行うと明記され, 現在デブリ除去技術の詳細検討および開発ロードマップ検討を進めている他有望技術に資金提供を開始している. またカナダやロシアも RFP を 図 8 デブリ除去ロードマップ 参考文献 1) NASA The Orbital Debris Quarterly News 16-1 (2012, Jan. 2) 河本, 木部, 花田, デブリ除去衛星の必要性について, 第 55 回宇宙科学技術連合講演会 2F04. 3) J.-C. Liou, An active debris removal parametric study for LEO environment remediation, Advances in Space Research Volume 47, Issue 11, 1 June 2011, pp.1865-1876. 4) Kawamoto, S. Ohkawa, Y., et al.: Strategy for Active Debris Removal Using an Electrodynamic Tether, ISTS-r-2-36, 2008. (Trans. JSASS Space Tech. Japan, 7, ists26 (2009), pp. Pr_2_7-Pr_2_12.) 5) 有吉, 花田, 河本, 除去対象デブリの選定方法とその効果, 第 56 回宇宙科学技術連合講演会 1C07. 6) Praly, N., Petit, N., et al.: Study on the eddy current damping of the spin dynamics of spatial debris from the Ariane launcher, 4 TH European Conference for Aerospace Sciences, 2011. 7) 辻田, 原田他,HTV による導電性テザー実証実験計画, 第 56 回宇宙科学技術連合講演会 2G13. 8) 河本, スペースデブリ除去の必要性と世界の状況, 日本航空宇宙工業会会報 航空と宇宙 平成 23 年 10 月第 694 号.