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報告 火災を受けた橋梁の補修 本間順 * 高良人 * * 三輪浩二 * * * 第二東名高速道路の大脇高架橋 ( 鋼上部工 ) 東工事内の新左山跨道橋 ( 以下 ; 跨道橋 ) の路下で車両事故が起きた この事故により火事が発生し跨道橋が被災した 橋梁が火災を受けた事例は多くなく損傷調査方法や補修方法に関して体系化されているものは建築構造物に比べて少ない 本稿は火災を受けた橋梁の被災調査, 対策検討, および補修工事の報告である キーワード : 補修補強, 火災, 復旧, 調査 まえがき本橋は愛知県の重要幹線道路であり 1 日約 9 万 台の交通量がある国道 23 号線 ( 以下 23 号 ) を 跨ぐ市道である 豊明市の桜ヶ丘と沓掛町を結ぶ 市道で第二東名高速道路の建設に伴い 23 号を跨 ぐ橋梁部を日本道路公団が受託して建設した工事 である 平成 14 年 4 月 28 日に, この橋梁の直下 で発生したトラックと自家用車の追突事故による 車両火事により被災し損傷した 落橋や路下 ( 国 道 23 号 ) への飛来落下物による二次災害などが ないか, 緊急調査を行った その後部分規制によ り足場を設置して順次調査, 判定, 補修設計およ び補修を行った 1. 損傷概要 火災原因 : トラックと乗用車の追突事故による火災日時 : H14.4.28 AM2:50 頃場所 : 23 号 ( 跨道橋直下 ) 下り線 1 追突により乗用車のガソリンが流出 2 トラックのヘッドライトがショートしてガソリンが発火 3 トラックの運転席に引火し炎上 4 運転席から積荷に引火, 荷台炎上 5 爆発音を伴う火災に発展し, 主桁まで炎が達した事故の情報を受け, JH 職員, JV 職員が AM 4:00 より復旧作業にあたり, 二次災害防止と 23 号の早期供用再開に努めた 応急復旧として飛来落下の恐れがある排水管や添加物などを撤去した また, 落橋や二次災害が無いことを確認し, AM11:30 に 23 号を開通させた ( 1 ) 橋梁諸元火災にあった跨道橋の橋梁諸元を下記に示す 橋梁位置 : 愛知県豊明市栄町構造形式 : 単純 RC( グレーチング ) 床版箱桁橋長 : 37.900m 有効幅員 : 16.000m 路下条件 : 国道 23 号 ( 離隔距離 5.7~ 6.2m ) ( 2 ) 出火原因目撃者や関係者からの証言により想定した事故状況と出火原因を下記に示す ( 図 -1, 写真 -1) * 工事計画部東京計画課係長 * * 工事部大阪工事二課 *** 工事部大阪工事一課 - 31- 写真 -1 事故状況

事故状況想定図 平面図 ST2 ST1 ST3 G1 主桁 乗用車 縦桁 G2 C 2 横桁 主桁 トラック 縦桁 G3 主桁 損傷度最大位置 断面図 横桁 C 2 損傷度最大位置 側面図 3800 約 2400mm 約 2800mm 約 6,200mm 3800 約 2400mm 車両の位置は運転者等からの証言より想定 図 -1 事故状況図 (3) 調査補修方法の基本方針 度を直接測定することは出来ないので受熱温度を 一般的な橋梁の災害復旧作業は早期な交通開放 推定する必要があった を重点に進める しかし, 本橋の場合は供用前であるためその制約は無かった しかし問題点や制約条件として以下のものが挙げられた 1 本橋は完成状態にあり, 一度も供用されていない新橋である 2 路下が交通量の多い国道であるため, 調査 補修などの作業が自由に行えない ( 第二東名建設のための通行止めは 2~ 3 ヶ月に 1 度 ) 3 復旧や補修補強に必要な費用は事故者による支払いとなる このため, 橋を構成する各部材の要求性能を事前に明白にし, それに応じた調査や補修を行う必要があった そのため, 名古屋大学の山田教授 ( 環境学研究科 ), 辻本教授 ( 同 ) や日本橋梁建設協会などの有識者からなる技術検討会で適宜審議し復旧作業を進めることとした 調査は図 -2 のフローチャートにしたがって進めることとした 火災による劣化は変形など目視で劣化が分かるもの以外は, その部材の受熱温度と耐熱温度の比較が劣化判定の基本となる しかし, 火災時の温 - 32- スタート < 一次調査 > 損傷調査落橋など ~ 平成 14.5.2 完了の危険があるか 緊急対応 < 各部材毎 > < 二次調査 > 足場を設置してい 損傷があるかない状態でできる限りの調査 検討 ~5 月中旬被災温度の推定 被災温度マップより 1 目的の整理 ( 塗装変色状況他 ) 被災による性能劣化を推定 2 被災後の性能 耐荷力 耐久性 美観など 3 要求性能被災温度は耐熱温 各部材に要求される性能度以上か < 三次調査 > 1 目的の整理部分足場 5 月下旬 被災による性能劣化を推定 < 四次調査 > 2 被災後の性能全面足場 7 月上旬 耐荷力 耐久性 美観などを設置して調査 3 要求性能検討 各部材に要求される性能部分足場を設置した時点でできる限非破壊試験 抜き取り試験 りの調査 検討を 性能評価要求性能健全部位との比較など健全度や実施し 全面足場を満足しているか被災温度 ( マップへ反映 ) の推定を設置した時点で最終の調査 検討 を行う 1 劣化範囲の確認 2 補修 補強の検討補修 補強 補強材の追加 < 補修 > 部分取り替え全面足場を設置 架け替え後の補修作業 END 図 -2 調査フローチャート

受熱温度を推定できるのは塗装や高力ボルトなどの数部材しかなく, その他の部材は受熱温度を推定できるものから温度マップ図を作成して受熱温度を推定した 各部材の推定出来る温度範囲を表 -1 に示す 各部材毎にフローチャート ( 1 例として図 -3 参照 ) を作成し, 調査補修の目的, 処置方法, および判定方法 ( 基準 ) を決定してから調査を行った 各部材の受熱温度における変状 温度履歴 7 0 0 6 0 0 5 0 0 4 0 0 3 0 0 2 0 0 1 0 0 表 -1 推定温度範囲表 高力ボルトコンクリート塗装亜鉛メッキ排水管 600 を越えるとボルトの硬度 ( H RC ) が低下 400 を越えると座金の硬度 ( H RC ) が低下 (4) 損傷状況 600~ 950 でコンクリート表面が灰白色に変色 300~ 600 でコンクリート表面が灰白色に変色 400 で塗膜が炭化 300 以上表面の濃い変色 200 以上表面の淡い変色 120 以上表面の変色開始 450 で亜鉛溶融 88 で塩化ビニール溶融 損傷状況の一覧を図 -4 に示す 主な損傷を以下 に示す 1 鋼部材の面外変形 ( 写真 -2) 写真 -2 鋼部材の面外変形主桁の平坦度は基準値 ( 仮組時基準値 ) を満足していたが 横桁と縦桁の腹板とフランジは最大 30mm の面外変形を生じていた 2 連結部ボルトの緩みは生じていなかったが 1 の変形に伴って連結部が 1 箇所滑っていた 3 グレーチング床版 ( 写真 -3) メッキを施した裏面鋼板 ( 1mm) が設置されていたため コンクリートには変色やひび割れは生じていなかった ただし裏面鋼板は変形し 部分的にメッキが溶融して付着量が減少している箇所が見受けられた 図 -4 損傷一般図 図 -4 損傷一般図 - 33-

主構造 ( 1) 主桁 横桁 / 縦桁 調査補修 の目的 局部変形および大変形が規格値内であるかの確認を行う 鋼材の機械試験を行い機械的性能の劣化がないかどうかを確認する 2 処置方法 スタート 1 2 局部変形の調査大変形の測定鋼材の機械試験 溶接部の調査 一次 二次調査完了 四次調査 7 月上旬より 三次調査完了 四次調査 7 月上旬より 三次調査完了 四次調査 7 月上旬 部材精度の 規格値内で あるか 3 仮組検査時 の規格値内 であるか 3 JIS 規格値 内に収まっ ているか 5 溶接止端部に割れが発生していないか 7 矯正 補強 4 規格値からの逸脱の度合いにより架け替え 損傷範囲を確定する 6 欠陥部の補修を行なう 部分的取り換え ( 範囲に応じて架替え ) E E N D N D < 判定方法 備考 > 1; 面外変形の調査 2; 最も被災していると思われるC2 横桁のG2-G3 間より試験片を採取し, 降伏点, 引張強さ, 曲げ, 衝撃, ビッカース硬度, マクロ試験, ミクロ試験を行う 3; 鋼構造物施工管理要領 2-3-5 仮組立検査 4; 治具による矯正を基本とし, 必要に応じて加熱矯正, 補剛材 高力ボルトによる補強 5;JIS G 3106 により判定を行う ( 引張強さ 400~ 510 N/mm 2, 降伏点の下限 SM245N/mm 2, 伸び 18% 以上ただし,SM400A 材 t=9mm) 6; 最も被災している部分から段階的に離れたところの鋼材で各種試験を行い範囲を確定する 7; 磁紛探傷試験 (M T) により行う 図 -3 調査補修フローチャート - 34-

2. 被災状況に対する各種試験受熱温度が耐熱温度を超過したと判定された部材に対しては各種の試験を行い健全性の確認を行った 主な試験方法は以下とした 写真 -3 グレーチング床版下面 4 塗装 ( 写真 -4) 火災地点の直上は延焼し炭化していた また, 火災地点から離れるにしたがい, 濃い変色, 淡い変色, ススの付着となっていた スス付着部はウェス等による拭き取りではススの完全除去は不可能であった これは塗装してから被災するまでの時間が短く, 塗装自体がまだやわらかいため焼付け塗装のようになり, ススが塗料内部まで浸透した結果と推測された クロスカット試験を行い付着力の試験を行ったがススが付着している箇所では所定の付着力が得られた 5 排水管, 添架物管 ( 写真 -5) 焼失や溶融を生じていた 写真 -4 塗装焼化状況 ( 1 ) 鋼材鋼材は受熱により機械的性質の劣化, 面外変形により座屈耐力の低下が懸念された よって, 機械的性質の劣化に関しては火災地点直上の部材から試験片を抜き取り, JIS の規格値が満足されているか機械試験を行った 試験片は横桁開口部の補剛材と横桁下フランジに取り付いている検査路受け台部とした 面外変形量に関しては変形が大きいパネルを 10 cm 間隔で変形量の測定を行った 補修の要否の判定は仮組立検査時の規格値である板の平面度 ( h / 250) とした これらの結果は機械的性質の劣化はなかったが, 面外変形が基準値を超えていた ( 2 ) 連結部連結部はボルトの機械的性質の劣化, ボルトの緩み, および接触面のすべり係数の低下が懸念された よって, 鋼材同様に受熱温度が高い箇所のボルトを抜き取り, 機械試験を行った 機械試験は健全性の確認のほかに受熱温度を推定できる これは, 座金の硬度が受熱した温度履歴により変化することが分かっているためである 6) ボルトの緩みはトルク値を測定し緩んでいないことを確認した 縦桁の下フランジの連結部が一部滑っている箇所が確認された これは, 縦桁の面外変形によるものと推定されたが, 接触面の無機ジンクリッチペイントが熱影響により劣化し, すべり係数が低下していることも考えられた よって, 本橋と同様の試験片を作成し塗装などから推定された温度に試験片を加熱し, すべりが発生するまで徐々に載荷させ, すべりが生じた荷重を読み取り, すべり係数を算出した すべり係数が 0.4 以上あることを確認しすべり面は健全であると判断した 写真 -5 排水管 ( V P 管 ) 溶融状況 ( 3 ) 床版部 コンクリートは異種材料の混合物であり, それ - 35-

ぞれの熱膨張収縮率が異なる このため, 火熱を受けると異なる収縮挙動によりコンクリート内部 えられる 健全度 ( 補修の要否 ) の判定は変色の有無で判断することとした また, 他の部材の受 の拘束力が弱まり, ひび割れなどが生じこれが劣 熱温度を測定するために 150 度から 50 度ごとに 化現象となる 一般的に受熱温度が 500 以内で 加熱して変色させた試験片と, 実橋の変色度を比 あればある期間を経て再使用に耐えうるまで復元 較して受熱温度を判断した する 1), 2) このため, 受熱温度はコンクリート表 面の変状 ( 表 -1) と中性化深さを測ることで推定した 1),2),3) また, 強度試験を行い, 健全部と比較することで被災部の健全性を調査することとした 本橋の床版はグレーチング床版が採用されていて, 床版下面には型枠用の 1 mm の裏面鋼板が設置されている 裏面鋼板は熱影響により最大約 3 mm 程度に面外変形してコンクリートと空隙が生じていた また, メッキ付着量を膜厚計で測定す 3. 補修補強対策 ( 1 ) 補修の基本方針技術検討会において, 下記に示す補修基本方針を決定した 1 桁の大変形, 大撓みがないことや, 各種の試験結果から, 今までの火災による被災橋梁と比較して損傷程度も低いと判断した よって ると部分的に 1/3 程度まで減少していた 補修は取替等の大規模な施工でなく, 局部的 コンクリートの健全性調査は裏面鋼板を部分的 な補修を基本とする に撤去した 160 400mm の小窓から, 目視, シ 2 各部材の要求性能を事前に明らかにし, それ ュミットハンマーによる強度試験, およびフェノールフタレイン法による中性化深さ試験を行った これらの結果からコンクリートの健全性が確認で に応じた適切な補修補強を行うこととする 3 23 号直上での施工であるため, 通常交通に支障のない施工方法を採用する きた 4 第二東名建設に伴う 23 号夜間通行止めの最 終日 ( 平成 15 年 1 月 31 日及び 2 月 1 日 ) ま ( 4 ) 支承部 でに全作業を終了させる 火災を受けたゴム支承の健全性を判断すること は難しい しかし, クロロプレーンゴムと異なり天然ゴムはある温度である時間保持すると硬度が ( 2 ) 各部補修方法の選定理由と特徴各部の調査結果や補修基本方針を考慮して, 補 柔らかくなる性質があるため 10), 50 度ごとに加 修方法を選定した結果を下記に示す 熱したゴムの試験片の硬度と被災した支承の被覆ゴムの硬度を比較することで受熱温度を推定した 1 鋼部材の面外変形鋼部材の機械的性質は JIS の規格値を満足し この受熱温度が耐熱温度以下であることを確認し健全であると判断した ていたが, 面外変形による耐荷力の低下が懸念された よって, 平坦度が仮組時規格値 ( h / 250) を越えている横桁, 縦桁のフランジとウ ( 5 ) 塗装 ェブについて補修補強を行うこととした 補修 塗装系は外面がポリウレタン系, 内面が変性エ 方法選定に際しては表 -2 に示す 3 案の中から, ポキシ塗料であった 塗料の種類によって違いは有るが, 一般的に受熱温度により下記の変状とな B 案を採用した 対象部位の活荷重分の応力に抵抗できる斜材をプラットトラスとして補強し る 8) ~ 150 変状なし ( 問題なし ) 200 ~ 目視で変色が認識できる た また, 同時に補強した L 型材をボルトで締め付けることで変形の矯正も期待した また, 火災により損傷部は加熱されているため, 補修 400 塗料中の亜鉛が溶け, ガス ( 塗膜に泡 ) が発生 は基本的には L 型鋼による矯正と油圧ジャッキによる矯正を基本とし, 加熱矯正は最小限に抑 400 ~ 黒く炭化 えることとした また, 補強材は高力六角ボル 受熱温度 150 を超えると徐々に変色をはじめ トによる摩擦接合としたため, 接合面のすべり る また, 塗料が硬化し伸び率の低下が始まる 係数確保が求められたが, 動力工具による 2 種 これは, 実験データなどないが耐久性の低下と考 ケレンではすべり係数 0.4 が確保できない し - 36-

表 -2 鋼部材の補修比較表 施工方法 A 案 B 案 C 案 FEM 等の解析を行い, 面外変形した状態での耐荷力を確認する 耐荷力等が十分な場合は補修をしない 補剛材の追加やジャッキ等により矯正を行い, 必要に応じて加熱矯正を行う 変形箇所はすべてコンクリートにより巻立てを行う 概略図 長所 短所 1 解析結果が問題なければ現場施工がない 2 母材への施工がなく, 母材への影響がない 1 FEM 解析後に問題があれば施工となり,2 重に費用が発生する 2 補修しない場合, 変形が残ったままで, 見栄えが悪い 3 解析にある程度時間を要する 1 総費用が A 案,C 案の中で一番安い 1 再加熱による鋼材の材質変化のないよう施工しなければいけない 2 ある程度の変形は残る 1 矯正の必要がない 1 施工性が悪く, 工種が多い 2B 案より費用がかかる 評価 しないこと 以上によりアクリル樹脂を採用した また, 現場注入作業時においては, 作業が真夏で樹脂可使時間が短い事が予想された よって, 二液性の樹脂の混合をノズル先端で行うことにより可使時間の延長が可能な, 特殊な注入機械を用いて施工した 3 裏面鋼板のメッキ量の減少裏面鋼板のメッキ量の減少には, 溶融亜鉛メッキと同等な防錆力を期待し常温亜鉛アルミ溶 写真 -6 錆促進剤塗布状況たがって, 補強材取付部は動力工具により塗装を完全剥離させた上で, 接合面に建築で使用実績の多い錆促進剤を塗布し錆を発生させ, すべり係数の確保を行った ( 写真 -6) 2 裏面鋼板の変形裏面鋼板は火災の熱影響により, 床版コンクリコンクリートとの間に最大 3mm 程度の空隙が生じ, 結露による鋼板の腐食やコンクリートの中性化促進等が懸念された 写真 -7 試験片 そのため, 空隙部に樹脂充填による空隙部間詰を行うこととした 注入材料は無機系, アクリル系, エポキシ系の 3 種類から, 以下の理由によりアクリル樹脂を採用した 1 空隙部の状態が結露により湿潤状態の可能性があるため接着性が良好なこと 2 鋼板が 1 mm という非常に薄板なため注入圧力が大きいと鋼板が変形する恐れがあるため, 低圧注入が可能なこと 3 コンクリート面に水分を吸収されドライアウト - 37- 表 -3 付着力試験結果 (N/m 2 ) 試験結果 番号 テストピース 平均値 1 2 3 A- 1 ウェスによりスス拭取り 0.54 0.61 0.29 A- 2 ( 採取鋼板スス付着量大 ) 0.51 0.54 0.16 0.44 B- 1 3 種ケレンにより素地調 2.52 2.23 2.39 B- 2 整 2.28 2.29 2.17 2.31 ( 採取鋼板スス付着量大 ) C- 1 ウェスによりスス拭取り 2.93 2.39 2.77 C- 2 ( 採取鋼板スス付着量小 ) - 2.74-2.71 注 ) - は接着面での付着切れのため, 測定結果無し

射を採用した 亜鉛アルミ溶射は鋼構造物の重防食技術として近年多く採用されている工法で, 鋼橋においても比較的多くの採用実績がある しかし, 今回は火災時のススが付着しているため, 亜鉛アルミの付着力の低下が懸念された よって, コンクリート試験用に切り出した小窓部の鋼板 ( 写真 -6) を試験片として, 付着力確認試験を行った結果 ( 表 -3), ススの付着量が多い箇所に溶射しても所定の付着力が得られないことが判明した ( 標準付着力 2.3N/mm2 以上 ) よって, ススの付着量が多い箇所は 2 種ケレンによりススを完全除去した後に溶射することとした 4 塗装本橋は一度も供用されていない新橋であるため美観を考慮する必要があった また, 路下が 23 号で今後の塗装補修工事では大規模な交通規制を必要とするためライフサイクルコストを考慮する必要もあった 検討の結果, 以下の塗装仕様を採用した 外面塗装は炭化部と変色部について動力工具により塗装を完全剥離し下塗りより塗替えを行い, スス付着部は上塗り除去し中塗りより塗直しとした また, 内面塗装は今後の補修塗装が比較的容易に行えるため, 変色部のみを塗替えとした ( 3 ) 施工工程施工工程表を表 -4 に示す 調査は緊急度や施工性 ( 路下条件 ) を考慮し, 一次調査 ~ 三次調査と位置付けた 一次調査は事故直後から交通開放までの調査で, 落橋や二次災害が無いことを確認した 二次調査は損傷度が高い事故地点直上の調査を目的とした このため, 1 車線規制にて足場を設置し, その足場の範囲での調査とした 三次調査は本線架設用の 23 号全面通行止め時に全面足場を設置し, 橋梁全体の調査を行った 足場の設置解体は路下の全面通行止め時にしか行うことが出来ない このため, 各々の部材の調査, 清掃, 調査計画, 詳細調査, 補修設計および補修の輻輳した作業を狭隘な場所で, かつ限られた日数で施工せざるを得ないため工程管理に苦慮した また, 作業場所が完全防護により密閉されたことで, ススや剥離塗膜等により作業環境が非常に劣悪であった そのため足場上は常に送風機により換気を行い, 防護マスク, 防護メガネの装着を徹底する必要があった 施工工程表 火災発生 鎮火 (4 月 28 日 2:50~ 3:20) 検討会 一次調査 ( 緊急調査点検 ) 調査準備 二次調査 ( 部分調査 ) 三次調査 ( 全体調査 ) 足場設置 解体 外面塗装 内面塗装 裏面鋼板補修 樹脂注入 桁補修補強 付属物工 表 -4 工程表 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 25 30 10 20 31 10 20 30 10 20 31 10 20 31 10 20 30 10 20 第一回検討会 第三回検討会 最終検討会 完了検査 第二回検討会 第四回検討会 詳細調査計画作成 部分足場上詳細調査 全体調査 補修設計 夜間一部足場設置夜間全体足場設置夜間足場解体 桁清掃桁清掃補修塗装 桁清掃桁清掃補修塗装 鋼板ケレン 樹脂注入 亜鉛溶射 横桁 縦桁補修 付属物取替 片付け - 38-

あとがき建築構造物等は火災に関して建築基準法をはじめとする各種の基準や研究成果により耐火設計が体系化されている しかし, 土木構造物の橋梁に耐火対策が施されている場合はほとんど無い これは, 土木構造物と建築構造物では火災発生率に差があると考えられる 被災した橋梁数は少ないが, その中の火災原因は 1 不法占拠者などによる失火 2 通行者の煙草や不審火による被災 3 橋梁路下の車両事故による被災などであった これらなどにより被災した橋梁は調査や補修補強などのために供用を一時中止せざる得ない状況が考えられる このような場合, 道路ネットワークとしてのサービスレベルを早期復旧することが第一に望まれる 本報告が今後同様な事態の効率的な損傷橋梁の調査, 判定, および補修の方法の参考となれば幸いである 最後に名古屋大学の山田教授, 辻本教授をはじめ検討委員会の方々に多大な協力をいただきました この紙面を借りて心より感謝の意を表します 参考文献 1 ) 日本コンクリート工学協会 : コンクリート診断技術 02, 2002.1. 2 ) 小山尭 : 耐久性診断事例 火災, コンクリート工学 Vol.26, 7, pp.84-87, 1988.7. 3 ) 岡田清 : コンクリートの耐久性, 朝倉書店, pp.111-115. 4 ) 建設省名古屋国道工事事務所管理第二課 : 火災被災橋梁の点検マニュアル ( 案 ),1999.3. 5 ) 首都高速道路公団東京保全部 : 鋼橋の火災時点検マニュアル ( 案 ), 1995.3. 6 ) 脇山広三 巽昭夫 : 火災をうけた鋼構造物の熱履歴温度の推定法に関する研究 その 1 高力ボルト座金硬さによる方法, 日本建築学会論文報告集,Vol.310, pp.32-42, 1981.12. 7 ) 細井義弘 : 火災を受けた橋梁の補修について, 横河橋梁技報, 20, pp.57-72, 1991.1. 8 ) 橋梁技術者のための塗装ガイドブック 日本建設協会, 2000.3. 9 ) 日本橋梁建設協会 : 鋼材の知識, 1993.12. 10) 日本ゴム協会 : 設計者のための免震積層ゴムハンドブック, pp.49-50, 2000.1. - 39-