Microsoft Word - 18_2

Similar documents
Microsoft Word - 20_2

Microsoft Word - 15_2

3_2

Microsoft Word - 49_2

経済見通し

25_2

中国:なぜ経常収支は赤字に転落したのか

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

現代資本主義論


ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

企業活動のグローバル化に伴う外貨調達手段の多様化に係る課題

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

39_3

国際与信は再び中国へ向かう

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

Microsoft Word - 59_2

中国 資金流出入の現状と当局による対応

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

経済学でわかる金融・証券市場の話③

エコノミスト便り【欧州経済】ユーロ圏はどのように財政を再建したか

[000]目次.indd

2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D2094CC E9197BF81464F465782C682CD A A A2E >

【16】ゼロからわかる「世界経済の動き」_1704.indd

Microsoft Word - 3_4

Microsoft Word - 04 論文 石川幸一.doc

Microsoft Word - 53_2

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 75_2

13_2

6_3

ITI-stat91

エコノミスト便り

<4D F736F F F696E74202D E835A838B94C5817A837D815B B834A E738FEA816A2E >

Microsoft PowerPoint - 15kiso-macro10.pptx

米国を巡る国際マネーフローの動向

37_3

平成11年度決算:計数資料

2017 年訪日外客数 ( 総数 ) 出典 : 日本政府観光局 (JNTO) 総数 2,295, ,035, ,205, ,578, ,294, ,346, ,681, ,477

Microsoft Word - 校了 11 統計 ①増田、田辺.doc

Microsoft Word - 44_2

Microsoft Word - 49_1

【42】今日から使える「債券・金利」_1704.indd

スライド タイトルなし


野村資本市場研究所|資本規制下の人民元の国際化の限界― 内外市場間の裁定取引によって歪められた資金の流れ ―(PDF)

Microsoft Word - 73_2

平成23年11月1日

Microsoft Word - ブラジル経済概観(2019年2月)

韩国

仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

International Economic Review

短期均衡(2) IS-LMモデル

and Omissions) という項目もある 経常収支の 3 つの内訳項目のうち, 貿易 サービス収支は商品やサービスの貿易を, 第一次所得収支は労働所得や利子 配当金の受け渡しを, 第二次所得収支は無償資金援助や外国で働く労働者の本国送金などを, それぞれ扱う また, 資本移転等収支は, 対価を

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

PowerPoint プレゼンテーション

< E97708AC28BAB82C982C282A282C42E786C73>

2017年第3四半期 スマートフォンのグローバル販売動向 - GfK Japan

個人金融に関する研究会

リンギ安進むマレーシア~原油安による経済への影響~

untitled

野村資本市場研究所|顕著に現れた相続税制改正の影響-課税対象者は8割増、課税割合は過去最高の8%へ-(PDF)

PowerPoint プレゼンテーション

重要な注意事項

22101_PremierTouch_A011_H10B11_201906_2

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

目 次 Ⅰ. 総括編 1. 世界各地域の人口, 面積, 人口密度の推移と予測およびGDP( 名目 ) の状況 ( 1) 2. 世界の自動車保有状況と予測 ( 5) 3. 世界の自動車販売状況と予測 ( 9) 4. 世界の自動車生産状況と予測 ( 12) 5. 自動車産業にとって将来魅力のある国々 (

nichigingaiyo

Microsoft Word - 09 話題 増田耕太郎.doc

受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

グローバル株式市場を俯瞰する~2015年8月末データで見る市場動向~

GSS1505_P indd



先進国、新興国向けともに国際与信は増加

2015 年 3 月 9 日 対外 対内証券投資の動向 (2015 年 2 月分 ) 投資信託委託会社等による対外証券投資が大幅増加 財務省の 対外及び対内証券売買契約等の状況 ( 指定報告機関ベース ) によると 2 月の対外証券投資は +2 兆 6,754 億円の取得超となり 前月の +2 兆

野村資本市場研究所|タイの為替・資本取引規制を巡る最近の動き(PDF)

<4D F736F F F696E74202D20837D815B B834A E738FEA816A2E B8CDD8AB B83685D>

特別勘定運用レポートをご覧いただくにあたって 当資料をご覧いただく際にご留意いただきたい事項 当資料はご契約者さま等に対し 三井住友海上プライマリー生命のえがお ひろがる 積立金自動移転特約付通貨選択一般勘定移行型変額終身保険 の特別勘定および特別勘定が主たる投資対象とする投資信託の運用状況を開示す

Microsoft Word - 54_1

【No

1

輸送量 (kg) 海上分担率 図 1 に 07~14 年の日本発米国向けトランジスタ輸送の海上 航空輸送量と海上分担 率の推移を示す 800, , , , , , , ,

2013 年 8 月 19 日号

<4D F736F F D E937890AC96F18EC090D195F18D C A E646F63>

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

2012 年 10 月 15 日号

米国鉄鋼輸入制限の米国外向け輸出への影響

1.4 年ぶりにプラスに転じた新興国の金融収支 ( 注新興国 1) の金融収支 ( 外貨準備の増減を除く 以下特注ない限り同様 ) は 215 年から 216 年にかけて大幅なマイナス ( 資金流出超 ) を記録したものの 217 年には小幅ながらも 4 年ぶりにプラス ( 超 ) に復した ( 第

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(10月号)~輸出はスマホ用電子部品を中心に高水準を維持

JNTO

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

DVIOUT-intlfinance_2013_lecturenote

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

Transcription:

三井住友信託銀行調査月報 213 年 1 月号 経常赤字新興国で異なる資金調達構造 < 要旨 > 米国 QE3 規模縮小観測が高まる中 経常赤字を抱える新興国では通貨安が進んできた これは経常赤字分の資金調達を海外に依存し 調達の中身によっては赤字ファイナンスに支障をきたすことが懸念されるためである とりわけ直接投資中心の国よりも証券投資やその他投資が中心の国の方が世界金融市場の動きに左右され易く脆弱である こうした観点から経常赤字新興国のファイナンス構造を比較すると 直接投資が中心のブラジルとインドネシア 証券投資が中心のトルコ その他投資が中心の南アフリカとインドに分類できる 例えば トルコは過去と比べて潤沢な外貨準備残高を有しているものの に占める証券投資の割合が高いことから短期的な資金の動きに左右されやすいとの解釈ができる こういった点からも金融情勢の変化が各国にもたらすリスクを見る上では 経常赤字のファイナンス構造の相違にも目を配る必要があろう 1. 経常赤字新興国で顕著な通貨下落 米国における債券購入措置 (QE3) の規模縮小観測が高まる中 新興国では資金流出に対する懸念から通貨安が進んだが 中でも経常赤字を抱える新興国では 経常黒字国と比べ下落幅がより大きい 図表 1は縦軸に今年 1 月からの通貨下落率 横軸に経常赤字 ( 対 GDP 比 212 年 ) をとったものであるが ここからもインド インドネシア ブラジル 南アフリカ トルコといった経常赤字国の通貨下落率が相対的に大きいことが分かる 図表 1 対ドル通貨下落率と経常赤字 2 ( 通貨下落率 %) 中国 -2 メキシコ ベトナム 台湾 -4-6 -8-1 -12-14 トルコ 南アフリカインド インドネシア ブラジル タイ 日本 アルゼンチン 韓国 フィリピン ロシア マレーシア -8-6 -4-2 2 4 6 8 1 ( 注 ) 経常赤字は 212 年 通貨下落率は 1 月から 8 月にかけてのもの ( 資料 )IMF CEIC より三井住友信託銀行調査部作成 ( 経常赤字対 GDP 比 %) 1

三井住友信託銀行調査月報 213 年 1 月号 このように経常赤字国で通貨下落率が大きいのは経常赤字分の資金調達を海外からの資金に 依存しているために 米国 QE3 の規模縮小による先進国での金利上昇が短期的な資金に依存し ている経常赤字のファイナンスに支障をきたす要因となることが懸念されているためである 今のところ インド インドネシア トルコ ブラジル 南アフリカという主な経常赤字国におけるは黒字のままで 国際収支データから見る限り資金調達が著しく細っているといった動きは見られていない ( 図表 2) しかしながら資金調達の構造によっては海外情勢の変化が直ちに経常赤字のファイナンスに支障をきたしやすいのか 安定的な資金調達構造であるためそういった懸念は小さいのかといった相違はあるだろう 本稿では上に挙げた主要な経常赤字国の構造を見ることを通じて 経常赤字という点で共通している国々の資金調達面での安定性の相違を見ていきたい より具体的には 海外からの資金調達が 1 新興国の成長を目した直接投資などの長期資金によって賄われているのか 2 証券投資といった金融環境に左右されやすい資金に依存しているのか あるいは3それ以外の資金に依存しているのか といった観点から比較してみたい 4 35 3 25 2 15 1 5 (21 年 1Q=1) 図表 2 ( 四半期 ) インドブラジルインドネシア 南アフリカトルコ 21 211 212 213 ( 注 ) 各四半期の値は後方 4 四半期移動平均 ( 資料 )CEIC より三井住友信託銀行調査部作成 ( 四半期 ) 2. 経常赤字国における黒字の構造の違い (1) 直接投資中心 ( ブラジル インドネシア ) の黒字が主に直接投資で構成されている国としてブラジルやインドネシアがある 28 年から経常赤字に陥っているブラジルをみると の黒字はリーマンショック直後の 29 年から 21 年まで証券投資が中心であり その後は資本流入規制の強化等の影響もあって証券投資は急減している 反面 増加したのが直接投資であり政府当局による投資促進策が追い風となったことが伺える ( 図表 3) 2

三井住友信託銀行調査月報 213 年 1 月号 図表 3 国際収支 ( ブラジル ) 1,5 1, 5-5 -1, 25 26 27 28 29 21 211 212 インドネシアも 211 年までは経常黒字国であった しかし国内経済の好調を背景とした輸入増加や資源価格の下落により輸出が伸び悩んだことで貿易赤字となり も 212 年には赤字に転落している ( 図表 4) インドネシアが経常赤字に陥る中 拡大を続けてきたの黒字は それまでの証券投資中心からから直接投資中心にシフトしてきている 背景にはインドネシア経済の安定した経済成長を続けてきたことに加え人口規模の大きさから 内需への期待が高まり直接投資の増加に繋がっていると見られる 図表 4 国際収支 ( インドネシア ) 4 3 2 1-1 -2-3 -4 25 26 27 28 29 21 211 212 3

三井住友信託銀行調査月報 213 年 1 月号 この直接投資はブラジルやインドネシア以外の企業が海外で事業を始める際の投資であり 比 較的安定的な資金が多いとみられる このための黒字分が主に直接投資によって支え られているこれら 2 カ国では短期的な資金の動きには左右されにくいとみられる (2) 証券投資中心 ( トルコ ) 一方 トルコではリーマンショック以降 の黒字に占める直接投資やその他投資の割合が徐々に低下してきた 代わって増えているのが証券投資であり 212 年にはの黒字の半分以上を占めていることが分かる ( 図表 5) 8 6 4 図表 5 国際収支 ( トルコ ) 2-2 -4-6 -8 25 26 27 28 29 21 211 212 この証券投資は債券や株式の売買が含まれており 流動性が高く内外金利の動きにも左右さ れやすいことから主要国の金融政策による影響も受けやすい そのため今後米国 QE3 規模縮小 が実施されることによって 短期的な資金移動が生じる可能性が相対的に高い国と言えるだろう (3) その他投資中心 ( 南アフリカ インド ) 南アフリカやインドといった経常赤字国では の黒字の多くがその他投資によって構成されている 南アフリカではこれまでの黒字は主に証券投資が占めていたものの 211 年頃から徐々にその他投資の割合が増え 212 年には全体の半分以上を占めるまでとなった ( 図表 6) 他方 インドは従前よりその他投資がの黒字の一定割合を占めており 28 年頃からは直接投資の割合も増えているとはいえ 依然として半分以上はその他投資が占める構造となっている ( 図表 7) 4

三井住友信託銀行調査月報 213 年 1 月号 3 2 図表 6 国際収支 ( 南アフリカ ) 1-1 -2-3 25 26 27 28 29 21 211 212 1, 8 図表 7 国際収支 ( インド ) 6 4 2-2 -4-6 -8-1, 25 26 27 28 29 21 211 212 その他投資とは現預金や貸出 借入 輸出入における企業への一時的な貸付である貿易信用などが含まれている 南アフリカとインドの両国においてその他投資の内訳を見てみると ここ数年共に現預金の流入が大幅に増えていることが分かる ( 図表 8,9) 現預金の増加自体は直接投資ほど安定的な調達手段とは言い難く 金融部門の状況が悪化した場合には途絶える可能性も考えられることから どちらかといえば不安定な調達構造に近いと考えるべきであろう もっともインドでは現預金の流入の多くは非居住者からの預金の受け入れであるとみられ 米国や欧州を中心とした世界景気の回復が今後も続くならば現預金の流入が続く可能性もある 5

三井住友信託銀行調査月報 213 年 1 月号 図表 8 その他投資 ( 南アフリカ ) 図表 9 その他投資 ( インド ) 2 15 1 5-5 その他投資貸付 借入貿易信用現預金雑投資 25 26 27 28 29 21 211 212 6 5 4 3 2 1-1 -2 その他投資貿易信用貸付 借入現預金雑投資 25 26 27 28 29 21 211 212 3. まとめ - 経常赤字の資金調達構造に目を配ることも重要 海外からの資金流入の動きは必ずしもの構造のみに左右されるものではない 例えば政府債務残高の規模が大きい場合や ソブリン格付けの引き下げで投資適格級からの転落が懸念される場合なども考えられる ( 図表 1) 但し かかるマイナス材料により直ちに資金調達に支障が生じ 外貨準備高減少ペースが加速して更に資金調達が難しくなるといった悪循環に陥りやすいかどうかは 見てきたようなファイナンス構造の安定度合いも重要な要素になる 例えば 外貨準備高 ( 対輸入比 ) が他の新興国よりも低いトルコでは の黒字に占める証券投資の割合が高く 短期的な資金の動きに左右されやすい ( 図表 11) この先海外金融情勢変化が各国にもたらすリスクを見る上では こういったファイナンス構造の相違にも目を配る必要があろう 7 6 5 4 3 2 1 ブ図表 1 政府総債務残高 ( 新興国 212 年 ) 図表 11 外貨準備高 / 輸入 ( 新興国 ) ベトナムタイインドマレーシアラジル( 資料 )IMF より三井住友信託銀行調査部作成 台湾韓国中国トルコ( 対 GDP 比 %) ロシアメフ南イキシコィリピンンドネシアアフリカ14 12 1 8 6 4 ( ヶ月 ) インドネシア 南アフリカ ブラジル ( 右目盛 ) トルコ インド 21 211 212 213 ( ヶ月 ) 23 21 19 17 15 13 ( 月次 ) ( 経済調査チーム鹿庭雄介 :Kaniwa_Yuusuke@smtb.jp) 本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済 金融情報を提供するものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 6