STAP現象の検証結果

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STAP現象の検証の実施について

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平成18年3月17日

長期/島本1

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

資料3-1_本多准教授提出資料

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

調査委員会 報告

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

生物の発生 分化 再生 平成 12 年度採択研究代表者 小林悟 ( 岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター教授 ) 生殖細胞の形成機構の解明とその哺乳動物への応用 1. 研究実施の概要本研究は ショウジョウバエおよびマウスの生殖細胞に関わる分子の同定および機能解析を行い 無脊椎 脊椎動物に

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

資料 3-1 CREST 人工多能性幹細胞 (ips 細胞 ) 作製 制御等の医療基盤技術 平成 20 年度平成 21 年度平成 22 年度 10 件 7 件 6 件 進捗状況報告 9.28,2010 総括須田年生

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

<1. 新手法のポイント > -2 -

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

研究成果報告書

研究論文に関する調査報告書

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

平成14年度研究報告

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15K14554 研究成果報告書

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

た さらに クローン胚からクローン ES 細胞 2の樹立にも成功しました 樹立成績は高く 尿細胞が 15 個あれば 1 株できる計算になります これらの成果から 本方法は絶滅危惧種など貴重な動物において 体をいっさい傷つけずにクローン個体を作出する重要な手段になり得ること 野生動物など尿を無菌状態で

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

れていない 遺伝子改変動物の作製が容易になるなどの面からキメラ形成できる多能性幹細胞 へのニーズは高く ヒトを含むげっ歯類以外の動物におけるナイーブ型多能性幹細胞の開発に 関して世界的に激しい競争が行われている 本共同研究チームは 着床後の多能性状態にある EpiSC を着床前胚に移植し 移植細胞が

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

クローン ES 細胞を利用したクローンマウスの作出方法

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

学位論文の要約

1-4. 免疫抗体染色 抗体とは何かリンパ球 (B 細胞 ) が作る物質 特定の ( タンパク質 ) 分子に結合する 体の中に侵入してきた病原菌や毒素に結合して 破壊したり 無毒化したりする作用を持っている 例 : 抗血清馬などに蛇毒を注射し 蛇毒に対する抗体を作らせたもの マムシなどの毒蛇にかまれ

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

資料 4 生命倫理専門調査会における主な議論 平成 25 年 12 月 20 日 1 海外における規制の状況 内閣府は平成 24 年度 ES 細胞 ips 細胞から作成した生殖細胞によるヒト胚作成に関する法規制の状況を確認するため 米国 英国 ドイツ フランス スペイン オーストラリア及び韓国を対象

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DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

DNA/RNA調製法 実験ガイド

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans


平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

動物用医薬品(医薬部外品)製造販売承認事項変更承認申請書

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

[PDF] 蛍光タンパク質FRETプローブを用いたアポトーシスのタイムラプス解析

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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研究成果報告書

研究成果報告書(基金分)

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft Word - まう博士の簡単にわかるSTAP細胞解説 最終(3)

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

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論文の内容の要旨

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

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日本脳炎不活化ワクチン ( シード ) 平成 24 年 7 月 4 日 ( 告示第 1622 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した日本脳炎ウイルスを同規格に適合した株化細胞で増殖させて得たウイルス液を不活化したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称日本脳炎ウイル

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2014 年 12 月 19 日 STAP 現象の検証結果 理化学研究所 1. これまでの経緯 STAP 現象の検証 は 2014 年 1 月に英国科学誌 Nature に発表した 2 篇の研究論文 (7 月に撤回済み *) に記載された 刺激による分化細胞の多能性誘導現象が存在するか否かを検証することを目的として 2014 年 4 月 1 日から 1 年間を期限に 実験総括責任者に相澤慎一特任顧問 ** 研究実施責任者に多細胞システム形成研究センターの丹羽仁史チームリーダー ** を充て 実施してきた 2014 年 7 月 1 日 STAP 現象の有無を科学的に解明するためには小保方晴子研究員 ** 本人による検証が必要との判断により 相澤特任顧問の指揮 監督の下 2014 年 11 月末日を期限に検証計画に参加させることとした なお 小保方研究員による検証は 丹羽チームリーダーによる検証とは独立に あらかじめ研究不正再発防止改革推進本部が指名した者の立ち会いの下 管理された新たな実験室で行われた 2014 年 8 月 27 日 丹羽チームリーダーによる検証に関して中間報告を行った 一般的な実験マウスである C57BL/6 マウス由来の脾臓を用いた実験に関して 研究論文に記載されているプロトコール ( 塩酸 (HCl) による酸処理 ) では 研究論文に報告されたような STAP 細胞様細胞塊の出現が認められないことを報告した 2014 年 11 月 21 日 多細胞システム形成研究センターの発足に伴い STAP 現象の検証は 研究不正再発防止改革推進本部に検証実験チームを設置し 相澤特任顧問をチームリーダー 丹羽チームリーダーを副チームリーダーとして進めた * Nature 505, 641 647 (2014); doi:10.1038/nature12968 Nature 505, 676 680 (2014); doi:10.1038/nature12969 ** 肩書きは 2014 年 12 月 19 日現在 2. STAP 現象の検証について (1) 検証の目的と概要 STAP 現象は マウス新生児の各組織の細胞 ( 分化細胞 ) を一定の条件でストレス処理すると 多能性をもつ未分化細胞にリプログラミングされるという 上記研究論文に記載された現象である 研究論文では 外来性に Oct-GFP( 多能性幹細胞で特異的に発現する遺伝子 Oct3/4 の発現制御配列に連結した緑色蛍光タンパク質 (GFP) 遺伝子 ) を導入したマウス新生児の脾臓などの細胞を弱酸性処理することにより GFP 陽性細胞が出現することが第一の指標とされた そこで本検証では GFP 陽性細胞の出現頻度を検証し そのうえで このような細胞がどこまでリプログラムされた細胞であるか否かを 多能性細胞特異的分子マーカーの発現により検証した なお 弱酸性処理としては 研究論文に記載の HCl 処理に加え 特許出願 (PCT/US2013/037996) の明細書にあるアデノシン 3 リン酸 (ATP) 処理も行うこととした STAP 現象が科学的に注目されたのは 研究論文に記載された 酸ストレス処理によって得られた GFP 陽性細胞を含む細胞塊 ( 本稿では STAP 様細胞塊 とする ) が胚発生の環境下で各組織に分化し キメラマウスが得られたこと 増殖能のない STAP 様細胞塊から増殖能を有し 三胚葉の各細胞への分化能を有する ES 細胞様の STAP 幹細胞が得られたこと 及び 胎盤系各細胞への分化能を有する TS 細胞様の FI 幹細胞が得られたこと の 3 点であり この 3 点がどこまで実現されるかを検証した 1

検証に当たっては 1) 論文で記載されているリンパ球からの多能性細胞誘導による検証に加え 2) 分化細胞特異的 Cre 組み換え酵素発現 (Cre-loxP) による恒常的子孫細胞追跡法を用いた検証の 2 つの実験系で行うこととし 小保方研究員による検証は 1) を 丹羽副チームリーダーによる検証は 1) 2) を行った (2) 小保方研究員による検証結果 論文で主として検討されていた組織が脾臓であったことより 上記 1) のとおり 脾臓由来のリンパ球からの STAP 現象の検証に集中して実験を行った 1 GFP 陽性細胞を含む細胞塊 (STAP 様細胞塊 ) の出現数の検証蛍光顕微鏡による緑色蛍光を検出した結果 酸処理を行わなかった場合では STAP 様細胞塊はまったく生じないが 弱塩酸処理を行った場合では その多くに STAP 様細胞塊が形成されることが確認された しかしその出現数は 10 6 播種細胞あたり 10 個程度と少ないものであった この出現数は ATP 処理によっても大差なく 研究論文に記載された数百個には達しなかった この差はマウスの遺伝的背景が影響している可能性も想定されたが C57BL/6 マウス新生児脾臓 (C57BL/6 脾臓 ) と C57BL/6 と 129 マウスの交配で得られた F1 新生児脾臓 (F1 脾臓 ) で その出現数に有意な差は認められなかった 以上の検討は C57BL/6 について HCl 処理で 11 回 ATP 処理で 14 回 F1 脾臓について HCl 処理で 10 回 ATP 処理で 13 回独立に行った これとは別に それぞれの酸処理ごとで STAP 様細胞塊がどの程度出現するかの割合を フローサイトメーター (FACS) を用いて解析した 19 回の酸処理それぞれについて解析を行った結果 リンパ球をはじめとする血球系細胞の分化マーカーである CD45 が陰性で GFP 陽性である STAP 様細胞の集団が 全体の 9% であったケースと 6% であったケースがそれぞれ 1 回認められたが その他のケースでは有意な出現は認められなかった 2 多能性細胞特異的分子マーカーによる多能性誘導の検証 STAP 様細胞塊における GFP 発現が多能性獲得によるか否かを評価するため 定量 PCR 法により C57BL/6 脾臓及び F1 脾臓から得られた STAP 様細胞塊における多能性細胞特異的分子マーカーの遺伝子発現を解析した この実験は全部で 247 個の STAP 様細胞塊について試みたが そのうち 53 個について解析できた その結果 多能性細胞特異的分子マーカーの遺伝子が発現している STAP 様細胞塊も確認されたが その数は少なく GFP 陽性との相関も高くはなかった 再現性をもって多能性細胞特異的分子マーカーの遺伝子が発現する STAP 様細胞塊を確認することは出来なかった さらに 55 個の STAP 様細胞塊について Oct3/4 Nanog E-cadherin タンパク質の発現を免疫染色によって解析した これらのタンパク質が一部の細胞で発現する STAP 様細胞塊も認められたが その数は少なく GFP 陽性との相関も低かった 緑色蛍光で判定する GFP 発現は 実際は自家蛍光に依る可能性が考えられることから 自家蛍光を赤色蛍光で判定した 緑色蛍光を有する細胞塊の多くは赤色蛍光も有しており 赤色蛍光をもたない STAP 様細胞塊は少なかった しかし 赤色蛍光が低く緑色蛍光の高い細胞塊も存在し 定量 PCR により GFP 発現の確認される STAP 様細胞塊も存在した ただし このような STAP 様細胞塊での多能性細胞特異的分子マーカーの遺伝子発現との相関は低かった 2

以上を要約すると 緑色蛍光陽性細胞の出現が十分には得られなかった状況下において 再現性をもって GFP 陽性を自家蛍光と区別し 多能性細胞特異的分子マーカーの発現と対応づけることは出来なかった 3 キメラ形成能の検証 STAP 様細胞がリプログラミングを反映していることを示す最も確実な指標は 同細胞が正常な胚発生環境下で三胚葉の各組織形成に寄与し キメラマウス ( 胚 ) を生じることである 研究論文では ES 細胞のように個々の細胞に分散してから宿主胚に注入するという方法によってはキメラは得られず STAP 様細胞塊を小さな細胞塊にきざんで 宿主胚に注入する方法をとることが必要とされている そこで 得られた STAP 様細胞塊を丸ごと あるいは 加工したガラス針 レーザー 眼科用のメスによりさまざまにきざみ 宿主胚としては胚盤胞胚およびモルラ胚に注入して キメラ形成能 ( 主として 9.5 日胚で ) を検討した また STAP 様細胞塊採取後 宿主胚へ注入するまでの時間も 実験の物理的環境下で最短とする工夫も行った 以上のさまざまな組み合わせの下で 全部で 1,615 個の細胞塊を宿主胚に移植し 845 個の胚発生を確認したが リプログラミングを有意に示すキメラ形成は認められなかった なお研究論文でのキメラ作成は 山梨大学の若山教授 ( 当時発生 再生科学総合研究センターチームリーダー ) によって行われたが 本検証実験でのキメラ作成は 検証実験チームの清成寛研究員 ( 本務はライフサイエンス技術基盤研究センターユニットリーダー ) により行われた 4 その他の検討研究論文では STAP 現象を通じて ES 細胞様の増殖能をもち胚体の各組織に寄与する STAP 幹細胞と TS 細胞様の胚体外細胞への分化能をもつ FI 幹細胞が得られたとされている これら 2 つの幹細胞の樹立は 若山教授によって行われたが 本検証では丹羽副チームリーダーによる検討の対象とした また 細胞の多能性獲得指標としてテラトーマ形成があり 研究論文中でもテラトーマ形成の結果が報告されている しかし テラトーマ形成には多量の細胞が必要であるが 十分な数の STAP 様細胞塊が得られなかったこと 及びキメラ形成に比する多能性判定の意義にも鑑み 総括責任者の判断により 小保方研究員によるその検討は予備的な実験にとどめた 定量 PCR 解析においては 生細胞を判定する Gapdh ( glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase) の発現が不安定で サンプル調製に要する時間の影響も想定された FACS 解析による STAP 様細胞塊の出現数は 細胞採取後の染色条件 処理時間によって変動する可能性も示唆された また FACS 解析の結果では生存している細胞の大半は CD45 陽性細胞であり 実験条件が論文レベルの条件と適合していない可能性も考えられたが 本検証では検討を行わなかった また 研究論文において より頻度が低いとされた他のストレス条件についても 本検証では検討しなかった (3) 丹羽副チームリーダーによる検証結果 研究論文で主に使用された脾臓のほか 恒常的子孫細胞譜追跡法が確立された肝臓と心臓について検証した 1 酸処理条件の検討 3

研究論文に主に記載された HCl を用いた酸処理に加え ATP を用いた酸処理についても検討を行うべく それぞれを用いて 細胞懸濁液の最終 ph が ph5.7 付近になる条件を設定した また この条件で 処理後 1 2 日目に細胞死が起こる事を確認した これらの条件を用いて 脾臓で 101 回 (HCl 処理 32 回, ATP 処理 69 回 ) 肝臓で 116 回 (HCl 処理 34 回, ATP 処理 82 回 ) 心臓で 80 回 (HCl 処理 27 回, ATP 処理 53 回 ) の独立した実験を行った 2 STAP 様細胞塊の同定方法の検討研究論文においては 多能性幹細胞で特異的に発現する遺伝子 Oct3/4 の発現制御配列を用いて蛍光マーカー遺伝子 GFP を発現させるトランスジェニックマウス (GOF18) を用いて GFP の発現をもって 多能性の誘導の指標としていた まず 同様の方法について検討を行った結果 緑色蛍光検出系と赤色蛍光検出系を組み合わせた蛍光顕微鏡による解析においては GOF18 マウス由来細胞を酸処理後培養して得られた細胞塊は 由来臓器に関わらず概ね緑色蛍光と赤色蛍光の両方を発しており Oct3/4-GFP 遺伝子の発現に由来する特異的蛍光を識別する事は困難であった また FACS を用いた解析においては 緑色蛍光を特異的に発現する細胞の検出は出来ず Oct3/4-GFP 遺伝子の発現に由来する特異的蛍光を発する細胞は存在したとしてもごく少数である事が示唆された また 脾臓由来の弱酸性化処理後培養した細胞について 血球系細胞の分化マーカー CD45 と多能性マーカー E-cadherin の発現を検討したが 生存細胞は CD45 陽性 /E-cadherin 陰性であり 多能性細胞の出現は確認できなかった 一方で 酸処理を行った細胞を培養したとき 処理群で特異的に細胞塊が出現する現象は 細胞が由来する臓器と酸処理の方法に依存して 再現性よく確認された 最も効率よく 高い再現性で確認されたのは 肝臓由来の細胞を ATP 処理した時で 独立に行った 49 回の実験のうち 37 回で STAP 様細胞塊の出現が確認された この誘導効率は 異なる遺伝背景のマウス (C57BL/6 純系と C57BL/6 と 129 の交配で得られた F1) の比較では C57BL/6 純系の方が高かった 3 多能性細胞特異的分子マーカーによる多能性誘導の検証肝臓由来の細胞を ATP 処理して得られた STAP 様細胞塊について 多能性細胞特異的分子マーカーの発現を 定量 PCR 法と免疫染色法により検討した 培養した細胞集団全体から抽出した RNA を用いた検討では Oct3/4 などの多能性細胞特異的分子マーカー遺伝子の発現を検出することは困難であった そこで STAP 様細胞塊を一つ一つ単離し そこから RNA を抽出して 定量 PCR 法による多能性細胞特異的分子マーカー遺伝子の発現を検討した この結果 3 回の独立の実験において 解析した STAP 様細胞塊の 17% において ES 細胞における発現量の 10% 以上の Oct3/4 の発現を検出した 一方 免疫染色法による Oct3/4 タンパク質の発現の検討では 9 回の独立の実験を行ったところ 5 回で明らかな Oct3/4 陽性細胞を含む STAP 様細胞塊を同定した これらの結果から 肝臓由来の細胞を ATP 処理して得られた STAP 様細胞塊においては 少数ではあるものの Oct3/4 を有意に発現する細胞が含まれていると結論した 4 キメラ形成能の検証肝臓由来の細胞を ATP 処理して得られた STAP 様細胞塊について 各種の方法で 8 細胞期胚ならびに胚盤胞への移植を行い そのキメラ寄与能を検討した 8 回の独立の実験で得られた計 244 個の STAP 様細胞塊を注入した初期胚の移植に 4

より 117 個の着床後胚を得たが 注入した STAP 様細胞塊に由来する GFP 陽性の細胞を含むキメラ胚は存在しなかった キメラ形成については 小保方研究員による検証と同様 清成研究員が担当した 5 幹細胞株の樹立研究論文では STAP 現象を通じて得られる特徴的性質として そこから 2 種類の幹細胞株 (STAP 幹細胞ならびに FI 幹細胞 ) が 培養条件に依存して樹立されたとされている そこで 肝臓由来の細胞を ATP 処理して得られた STAP 様細胞塊について これらを LIF/ACTH を含む培地で培養し STAP 幹細胞の樹立を試みた 14 回の独立の実験で得られた 492 個の STAP 様細胞塊を培養したところ 少数の細胞塊からは 小型の幹細胞様の形態の細胞の出現が認められた しかし これらは培養 6 7 日目には死滅した 3 例において顕著な増殖が認められたが これらを継代培養しても 持続的増殖を示すことはなく 細胞株は得られなかった 栄養外胚葉幹細胞の培養条件 (FGF4 含有培地 ) における FI 幹細胞の樹立の試みも 8 回行ったが STAP 幹細胞の検討と同様の結果で 最終的に細胞株は得られなかった 3. 帰結 Oct-GFP を導入した新生児脾臓 肝臓からの GFP 陽性細胞の出現頻度は低く 再現性をもって これらの細胞の多能性獲得 未分化性を分子マーカーの発現によって確認することは出来なかった 細胞塊が有する緑色蛍光を自家蛍光と区別することも困難で その由来を判定することは出来なかった 研究論文で報告された STAP 幹細胞 FI 幹細胞の樹立条件下でも 形態的に類似細胞の出現は認めたが 低頻度であり 継代樹立することは出来ず これら類似細胞出現の意義を判定することは出来なかった STAP 様細胞塊より さまざまな手法 条件でキメラ作製を検討したが リプログラミングを有意に示すキメラの作製を認めることが出来なかった 以上のとおり 今回 STAP 現象の確認に至らなかったことから この検証実験の結果及び本総括責任者 実験責任者による科学的な判断を踏まえ 平成 27 年 3 月までを期限としていた本検証計画を終了することとした 以上 5