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Features and Formability of Aluminum Body Sheet for Automobile 古河スカイ 野口修 * Osamu Noguchi 概要地球環境問題に配慮し, 自動車業界においても二酸化炭素排出量の削減が課題となっている アルミニウムの採用による車体の軽量化は自動車の燃費向上に直結し, 二酸化炭素排出量を抑制する有効な手段である このため自動車用アルミニウム材の出荷量は着実に増えてきている 自動車用アルミニウムボディシートは自動車のボディパネルに適用すべく開発されたアルミニウム合金の板材であり, 適用当初は5000 系合金が用いられたが, 現在は 6000 系合金が主流である 本稿では実際に使用されているアルミニウム合金板材の特長についてプレス成形性を中心に紹介する 更に, 材料の選択や開発段階において重要な指針となる成形性指標について解説する 1. はじめに近年, 地球環境問題への配慮から排出ガスに対する規制が厳しくなり, 自動車業界においても排出ガス, 特に二酸化炭素の削減が重要な課題となっている 自動車における二酸化炭素の排出は 80% 以上が走行により発生していることから 1), 車体軽量化による燃費の向上は地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出量削減に直結する有望な手段である また, 安全対策, 環境対策, 装備の充実などによる重量の増加を軽減するためにも車体の軽量化が必要となっている これら軽量化ニーズを満たすために材料面からの検討がなされ, 軽量化効果の高い材料としてアルミニウムの採用が拡大している 日本国内では 1986 年にエンジンフードにアルミニウム板が採用 2) されて以来, アルミニウムボディシートの採用車種は増え, 自動車向けアルミニウム板材の出荷量も増え続けている 3), 4) 比重が小さいというアルミニウムの特長は自動車を軽量化するための素材として魅力的である 例えば, 板材をモデルに曲げ剛性を鋼板と等価にすると, アルミニウムは鋼板の1.44 倍の板厚で 50% の軽量化が可能となる 5) 一方, 更にアルミニウム板材の適用を拡大するための課題としては自動車のダイナミックなデザインに対応できるプレス成形性の向上が挙げられる 6) 本稿ではプレス成形性を中心に, 現在実用化されている自動車用アルミニウムボディシートの特長を紹介し, 材料の選択及び開発において重要な指針となる成形性指標についての解説を行う 2. 最近の自動車アルミ化動向 2.1 自動車用アルミニウムボディシートの種類図 1に自動車向けアルミニウム板材の出荷量 ( 熱交換器用を含む ) とアルミニウムボディシートの採用車種数の推移を示 * 古河スカイ 技術研究所 図 1 自動車向けアルミニウム板材出荷量とアルミボディシート採用車種数 Trends in the shipment of aluminum alloy sheet for cars, and the number of car models which adopted aluminum body sheet. す 3), 4) 出荷量及び採用車種数はともに増加している ボディ シートにアルミニウム合金が採用された当初は主に成形性の観 点から 5000 系合金が適用された その後, 塗装焼付工程で高 耐力化が可能な 6000 系合金が主流となった 7) 表 1 に代表的な自動車用アルミニウムボディシートの機械的 性質を示す 2.2. 自動車用 5000 系ボディシートの特長 5000 系合金板は一般に強度, 成形性, 耐食性, 表面処理性 及び溶接性に優れる 自動車ボディシートに実用されている 5000 系合金板には一般材 ( 主に 5052,5182) と開発材 ( 当社で は TG19,TG25) がある 5000 系合金ボディシートの開発経緯を図 2 に示す 開発はス トレッチャストレインマーク (SS マーク : 図 3) の抑制と成形性 向上を目標に行われた SS マークが発生すると塗装後の表面 に模様が残るため, 外観品質が劣化しアウタパネルへの適用は 困難となる そこで, 結晶粒径の調整により SS マークを抑制 古河電工時報第 120 号 ( 平成 19 年 9 月 ) 47

技術 製品技術紹介 表 1 代表的な自動車用アルミニウムボディシートの機械的性質 Mechanical properties of typical aluminum body sheets. 合金系 5000 系 6000 系 合金 質別 引張強度 TS (MPa) 耐力 YS (MPa) 全伸び EL (%) n 値 r 値 エリクセン 限界絞り比 値 Er(mm) LDR *) 5052-O 206 98 23 0.26 0.66 9.6 - 一般材 5182-O 284 137 28 0.30 0.79 9.6 1.96 一般材 TG19-O 267 127 31 0.31 0.71 10.0 2.02 当社開発材 TG25-O 274 117 35 0.35 0.73 10.3 2.03 当社開発材 TM30-T4 214 110 27 0.24 0.73 9.9 1.97 当社開発材 TM45-T4 224 115 28 0.26 0.74 10.1 1.98 当社開発材 TM67-T4 250 117 31 0.30 0.74 10.2 2.00 当社開発材 鋼板 SPCC 314 176 42 0.23 1.39 11.9 - - 備考 *)LDR 測定用潤滑剤は防錆油を使用 図 2 する技術開発が行われ, 同時に延性向上による成形性の改善が 図られて TG19 が誕生した 更に高成形性を目指して Mg 添加量の増加による合金開発が 行われた 図 4 8) に示すように Mg 添加量を多くすると強度と伸 びが向上する しかし,Mg 量の増加は圧延性を低下させるため 工業的には制限があり, 現状では Mg の添加量は約 5.5% が限界 である このような経緯で実用化された合金板が TG25 である 2.3. 自動車用 6000 系ボディシートの特長 5000 系合金ボディシートの開発経緯 History of development of 5000 series aluminum body sheets. SS マーク無し SS マーク有り 図 3 ストレッチャストレインマーク (SS マーク ) Stretcher- strain mark (SS mark). 6000 系合金は成形加工時に SS マークが発生しない また, 自 動車製造工程の塗装焼付処理時に強度が増加する ( ベークハー ド :BH) 特長があり, 耐デント性が向上するなど, ボディシート として優れた特長を備えている 日本国内の自動車生産ライン 図 4 では塗装焼付温度が 170 前後と比較的低く, 時間も 20 分程度 と短いため 9),6000 系合金の優れた特長を活かすことができな かった しかし, 図 5 8) に示すように日本国内の塗装焼付処理条 件でも BH により十分な強度が得られる板材の製造プロセスが 開発され,6000 系合金板がボディシートとして実用化された 図 6 に自動車用 6000 系合金板の T4 での耐力及び BH 後の耐 力を示す プレス成形による硬化を考慮して予ひずみを 2% 付 与し, その後 170,20 分の加熱による BH 後の耐力はおよそ 200 MPa に達する これらの開発合金板はボディシートとして 実用されている アウタ材は耐デント性の観点から高耐力であることが望まし い 反面, スプリングバックを抑制する観点から成形時には低 耐力であることが要求される プレス成形時には耐力が低く, 成形後の塗装焼付処理で耐力が高くなる 6000 系合金板はアウ タ材に適している アウタパネルはヘミング加工が必須である アルミニウム合 金板は局部伸びが小さく, 曲げ限界が低いため, ヘミングのよ うな厳しい曲げ加工が難しい 10) TM30 は金属組織制御と低耐 力化により良好なヘミング性を実現した 11) 図 7 に示すように ボディシート用の 6000 系開発合金板は従来の 6000 系合金板 8) に比べ室温時効性が抑制されており, 特に TM30 は低耐力であ る TM45 は成分調整により曲げ性を確保しつつ BH 性及び成 形性を向上させた合金板であり,TM67 は Cu の添加により高 Al-Mg 合金における Mg 添加量と機械的性質の関係 Relationship between Mg content and mechanical properties of Al-Mg alloy sheet. 古河電工時報第 120 号 ( 平成 19 年 9 月 ) 48

技術 製品技術紹介 図 5 6000 系開発合金板のベークハード挙動 Bake hardening behavior of the developed 6000 series aluminum alloy sheet. 図 8 6000 系開発合金板の成形限界 B.H.F. Forming limit B.H.F. of the developed 6000 series aluminum alloy sheets. 図 6 6000 系開発合金板のベークハード特性 Bake hardening property of the developed 6000 series aluminum alloy sheet. 図 9 6000 系開発合金板の実験プレス成形品 Experimental press-stamped panel of the developed 6000 series aluminum alloy sheet. 図 7 い成形性を付与した合金板である 6000 系合金板はアウタ材として優れるが, ハンドリング性, リサイクルなどを考慮するとインナ材も 6000 系合金板の使用が 望ましい インナ材に要求される最も重要な性能は成形性であ り, 成形後のパネルの形状で剛性を確保するため,BH による 強度増加は必ずしも必要としない そこで, 熱処理方法を工夫し, BH による強度増加は小さくなるものの強度バランス, 伸びの向 上により良好な成形性を付与した 6000 系合金板が開発された 図 8 に 6000 系開発合金板の成形性を, 図 9 にプレス成形品の 例を示す 成形性の評価は, 破断せずに成形できる最大のしわ 押さえ力を現す成形限界 B.H.F.(blank holding force) によった 成形限界 B.H.F. が大きい程, 成形性は良好である 6000 系開発合金板の室温時効特性 Age hardening behavior at room temperature of the developed 6000 series aluminum alloy sheet. 6000 系開発合金板では TM30 に比べ TM45 の成形限界 B.H.F. が高く,TM67 の成形限界 B.H.F. は更に高い TM45inr 及び TM67inr はそれぞれ TM45 及び TM67 のインナパネル仕様材である TM45inr は TM45 に比べ成形限界 B.H.F. が高く, TM45 より成形性は良好である 同様に TM67inr も TM67より成形限界 B.H.F. が高く, 成形性良好でインナ材に適している TM30 を除く 6000 系開発合金板の成形性は 5000 系高成形性材 TG25 には及ばないものの一般材の 5182 以上の成形性を備えている 3. プレス成形性 3.1. アルミニウム合金板の機械的性質の特長自動車用アルミニウムボディシートの成形性は鋼板と比較されることが多い 図 10にアルミニウム合金板及び鋼板の応力 -ひずみ曲線を示す 鋼板に比べ, アルミニウム合金板は伸びが大幅に小さく, 特に最大荷重点以後の伸び, すなわち局部伸びが小さい アルミニウム合金板の n 値 ( 加工硬化指数 ) は鋼板のそれよりも大きい 図 11に, 微小変形領域でのn 値であり式 (1) により定義される n * 値 ( 瞬間 n 値 ) 13) のひずみ量による変化を示す 12) n * = d σ/σ / d ε/ε (1) ε 0.1 のひずみ領域で鋼板の n * 値は一定であるが, アルミニウム合金板の n * 値は一様に低下し, 高ひずみ域での加工硬化性が次第に減少することが分かる 図 12は各ひずみ領域におけるひずみ速度感受性指数 m 値を示す 12) 鋼板の m 値は 0.015 程度と大きく, ネッキングにより 古河電工時報第 120 号 ( 平成 19 年 9 月 ) 49

技術 製品技術紹介 変形領域が局所化して局部的にひずみ速度が増加すると変形抵 抗が大きくなり変形が周辺に分散する効果が発生すると考えら れ, 鋼板の局部伸びが大きいことの一因といわれている しか し, アルミニウム合金板の m 値は鋼板に比べかなり小さいた め, ひずみ速度の効果は期待できない このような n * 値や m 値の挙動がアルミニウム合金板の伸 び, 特に局部伸びの小さい一因であると考えられる 3.2. 成形性指標 成形性指標は材料の選択や材料開発においては重要な要素で ある アルミニウム合金板に適した成形性指標を見いだすこと ができれば自動車ボディのアルミニウム化に大きく貢献するも のと考えられる σ 図 10 アルミニウム合金板及び鋼板の S-S 曲線 S-S curves of aluminum alloy sheet and steel sheet. ε 図 11 アルミニウム合金板及び鋼板の微小変形領域での n 値 (n* 値 ) Moment n values of aluminum alloy sheet and steel sheet. 鋼板では r 値が有効な成形性指標である しかし, アルミニウム合金板では r 値が大きく変わらないこともあって, 必ずしも有効な成形性指標ではない また, 成形性指標は簡便な試験で測定できることが望ましい 引張試験で測定できれば実用上の価値も大きい このような観点からアルミニウム合金板に関する成形性指標の検討が行われ, 引張試験における引張強さと耐力を組み合わせた (TS-YS) 14),TS (TS/YS) 15) などが深絞り性と相関があると報告されている 著者らは図 13に示す成形実験用モデル金型を用いたプレス成形試験での成形限界 B.H.F. に対する相関係数の大きさで成形性指標を検討した 16) プレス成形試験に使用した 5000 系合金板及び 6000 系合金板の (TS-YS),n 値,TS( 引張強さ ), と成形限界 B.H.F. の関係を図 14に示す 成形限界 B.H.F. と (TS-YS) の相関係数は0.88, n 値との相関係数は 0.82,TS との相関係数は 0.90である (TS-YS) は成形限界 B.H.F. と良好な相関関係を示す また, n 値,TS と成形限界 B.H.F. も同様に良好な相関関係を示す 図 15に引張試験で測定できる各特性値と成形限界 B.H.F. の相関係数を示す 逆相関の場合を考慮し, 各指標と成形限界 B.H.F. の相関係数の絶対値を比較した TS,(TS-YS),EL( 全伸び ),U.EL( 一様伸び ),n 値は相関係数が 0.8 以上と良い相関を示す L.EL( 局部伸び ),r 値は相関係数が小さいが, これはアルミニウム合金板の場合 L.EL と r 値が材料によって大きく変わらないためと考えられる 次に, 各種の小型カップ試験値と成形限界 B.H.F. の相関係数を図 16に示す 平面ひずみ張出し高さの相関係数が最も大きい プレス成形における破断が平面ひずみ状態となる部位で発生することが多いため, 平面ひずみ状態での破断限界を示す平面ひずみ張出し高さが良い相関を示すと考えられる また, エリクセン値の相関係数も大きい エリクセン値は板材のプレス成形性を調べる簡便な試験法として JIS 規格化され広く用いられている アルミニウム合金板においても, その有効性が再確認されたと考えられる 4. おわりにオイルショック, 米カリフォルニア州の独自規制, 京都議定書などによる二酸化炭素削減と理由は移り変わったが自動車の燃費向上の要求は変わらない また, 車体重量は自動車の操作性や運動性にも深く関わっており, これらの面からも軽量化のニーズがあることから, 将来も車体軽量化の必要性は変わらな 図 12 アルミニウム合金板及び鋼板の m 値 m values of aluminum alloy sheet and steel sheet. 図 13 成形実験用モデル金型 Model die for experimental press forming. 古河電工時報第 120 号 ( 平成 19 年 9 月 ) 50

技術 製品技術紹介 いと考えられる 軽量化を実現するための材料としてアルミニ ウムへの期待もますます大きくなると推察される 近年の合金設計と製造プロセスの改善により, 自動車用アル ミニウムボディシートの成形性は向上した しかしながら, 自 動車ボディシートとして求められる成形に関する要求を満たす までには至っていない また, 成形性指標は, 材料開発や使用 時の材料選択に重要であり多くの実験的な研究報告がなされた が, 未だ道半ばの感が否めない 今後, 更に検討が進みアルミ ニウム合金板材に適した成形性指標が見いだされ, 同時にアル ミニウム板材に適した成形方法の開発も進み, 材料と成形方法 の両面から自動車用アルミニウムボディシートの成形技術が構 成されていくものと期待する その結果, アルミニウムボディシートの適用による自動車の 軽量化が進み, 地球環境の向上に貢献することで多くの人に役 立つことを願う なお, 本稿は平成 19 年 4 月発行の Furukawa-Sky Review No.3 に掲載されたものである 参考文献 1) 多田博, 佐々木憲夫 : 自動車技術,55(2001),9. 図 14 アルミニウム合金板の (TS -YS),TS 及び n 値と成形限界 B.H.F. の関係 Relationship between (TS-YS), TS, n value and forming limit B.H.F. of aluminum alloy sheets. 図 15 各材料特性と成形限界 B.H.F. の相関係数 Correlation coefficients between each material property and forming limit B.H.F. 図 16 小型カップ試験の各評価指標と成形限界 B.H.F. の相関係数 Correlation coefficients between each value of small cup tests and forming limit B.H.F. 2) マツダ web サイト :RX-7 物語. 3) 日本アルミニウム協会 web サイト : アルミ板類需要部門別出荷推移 (2005). 4) 日本アルミニウム協会自動車アルミ化委員会 web サイト 5) 八木三哉, 小宮山恭弘, 峯憲一郎 : 自動車技術,55(2001),29. 6) 牛尾英明 : 軽金属,56(2006),580. 7) 高橋淳, 勝倉誠人 : 自動車技術会 2006 春大会 アルミニウム加工における現状と今後の方向性フォーラム,20064396,(2006),8. 8) 阿部佑二, 吉田正勝, 野口修, 松尾守, 小松原俊雄 : 塑性と加工, 33-375(1992),365. 9) 片桐知克, 東海林了ほか : 自動車技術会 12-06 シンポジウム ボディ構造形成技術の最前線,(2006),46. 10) 志賀信道 : 自動車技術会 2006 年春季大会 アルミニウム加工における現状と今後の方向性フォーラム,(2006),1. 11) M. SAGA,M. KIKUCHI,Y. ZHU,M. MATSUO,: Proceedings of ICAA-6,(1998),425. 12) M. Usuda,K. Hasimoto,T. Amaike,T. Katayama,Y. Abe, M. Yoshida:SAE,No950924,(1995). 13) 薄鋼板成形技術研究会編 : プレス成形難易ハンドブック第 2 版, (1997),456. 14) 中村真一郎, 恵比根美明, 佐藤章仁, 岩田徳利, 富岡良郎, 松居正夫 :44 回塑加連講論,(1993),613. 15) 林稔, 戸次洋一郎, 林登, 安永晋拓, 松本義裕, 橋口耕一 :92 回軽金属春講概,(1997),69. 16) 阿部佑二, 吉田正勝, 野口修, 臼田松男, 片山知久 : 平 5 年度塑加春講論,(1993),301. 古河電工時報第 120 号 ( 平成 19 年 9 月 ) 51