娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

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エコチル調査3周年記念シンポジウム 平成26年1月31日(金) 子どもの健康と環境 エコチル調査メディカルサポートセンター特任部長 国立成育医療研究センター 生体防御系内科部 アレルギー科医長 大矢 幸弘 先生 1

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ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

相談内容 1 アトピー性皮膚炎 + 食物アレルギー ( アナフィラキシー歴有 )+ 喘息疾患の小学生男児 年齢が上がるにつれて自分が管理していくことになるが 家でできる子どもへの指導方法 ( 教育方法 ) を知りたいです ライフサイクルに合わせた対処方法を子どもに教えたいです 回 答 1 お薬につい

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ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

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通常の単純化学物質による薬剤の約 2 倍の分子量をもちます. 当初, 移植時の拒絶反応抑制薬として認可され, 後にアトピー性皮膚炎, 重症筋無力症, 関節リウマチ, ループス腎炎へも適用が拡大しました. タクロリムスの効果機序は, 当初,T 細胞のサイトカイン産生を抑制するということで説明されました

として Bifidobacterium bifidum10 9 個 / 日 ( 明治 ( 株 ) から供与 ) とフラクトオリゴ糖 1g/ 日を生直後から 6 か月まで投与する 保湿薬として 0 歳児を対象にしてすでに安全性 有効性が示されている市販のセラミド コレステロール 必須脂肪酸を含む化粧品


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も見られます 刺激性皮膚炎は乾燥 鱗屑 亀裂などの症状を示し 通常瘙痒は強くありません 一方 アレルギー性接触皮膚炎 ( 図 1) では そう痒を伴い 紅斑 丘疹 びらん 痂皮などの急性湿疹 また慢性化すると苔癬化などの慢性湿疹の病像を呈してきます アレルギー性接触皮膚炎では 手から前腕だけでなくそ

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甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

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を余儀なくされ 時には成長の各段階で過ごす学校や職場等において 適切な理解 支援が得られず 長期にわたり生活の質を著しく損なうことがある また アレルギー疾患の中には アナフィラキシーショックなど 突然症状が増悪することにより 致死的な転帰をたどる例もある 近年 医療の進歩に伴い 科学的知見に基づく

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り感染し 麻薬注射や刺青なども原因になります 輸血の安全性や医療環境の改善によって 医原性の感染は例外的な場合になりました 日本では約 100 万人の B 型肝炎ウイルスキャリアがいます その大部分は成人で, 昔の母子感染を含む小児期の感染に由来します 1986 年から B 型肝炎ウイルスキャリアの

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2018 年 3 月 22 日放送 第 41 回日本小児皮膚科学会 2 シンポジウム 3 アレルギーマーチの予防の可能性 国立成育医療研究センター アレルギー科医長大矢幸弘 アトピー性皮膚炎とアレルゲン感作生後 1~2 ヶ月頃に何らかの湿疹病変を生じる乳児は多いですが アトピー性皮膚炎と診断するには脂漏性皮膚炎や間擦部のカンジダ性皮膚炎 あるいはおむつかぶれを含む接触性皮膚炎などとの鑑別診断が必要となります 脂漏部位を除いて全体に乾燥肌があり 顔や首 四肢の屈曲部や外側などに痒みのある皮疹があれば高い確率でアトピー性皮膚炎と診断できます 何らかのアレルゲンに感作を受けているかどうかは診断には必須ではないのですが 乳児のアトピー性皮膚炎患者の多くは鶏卵や牛乳をはじめとする何らかの食物アレルゲンに感作を受けていることが多いため かつては食物がアトピー性皮膚炎の原因であり 食物アレルギーの初期には即時型反応を呈さずアトピー性皮膚炎の湿疹病変として出現すると考える医師もいました まだ 離乳食を始めていない時期から湿疹病変が出現しているケースは多く そうなると感作の経路は 妊娠中の母親が摂取した食物が臍帯を介して移行したか 授乳中の母親が摂取した食物が母乳を介して児に移行したのではないかと考えられました そこで 妊

娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなかった群との間に食物抗原感作やアトピー性皮膚炎の発症率に有意差はありませんでした ということは 妊娠中や授乳中の母親の食事内容が子どものアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの原因ではない ということになります それでは なぜ まだ本人が摂取していない食物に対して抗原感作を受けてしまったのでしょうか アトピー性皮膚炎の発症が食物アレルギー発症のリスクファクターとなる 21 世紀になると 質の高い前向きの観察研究である出生コホート研究の結果が次々と発 表されるようになり 時間的な因果関係が分かってきました 最初は英国の代表的な出生

コホート研究である ALSPAC(the Avon Longitudinal Study of Parents and Children) のデータを利用してピーナツアレルギーの患者を解析した Lack らの論文で 2003 年の New England Journal of Medicine に掲載されました 彼らは ピーナツアレルギーを質問票と経口負荷試験の両方で調べ いずれも妊娠中の母親の摂取とは関係なく 児の乳児期早期の湿疹やピーナツオイルの皮膚への塗布歴と相関があることを明らかにしました その後 複数のコホート研究で アトピー性皮膚炎の発症が先行して卵やピーナツなどの食物アレルギーの発症のリスクファクターとなるという時間的因果が示されていきました 私達が国立成育医療研究センターで生まれたお子さんを対象に始めた成育コホート研究では 特に生後 4 ヶ月までに湿疹を発症したお子さんが 3 歳の時の食物アレルギーのリスクが有意に高いことがわかりました すなわち 子どものアトピー性皮膚炎患者の食物アレルゲン特異的 IgE 抗体価が陽性を示すことが多いのは 食物アレルギーが原因でアトピー性皮膚炎になったからではなく 乳児期に湿疹病変があったために経皮的に食物抗原に感作を受けた結果である と考えるとこれまでの謎が解決します では 実際に 皮膚から食物抗原が侵入して感作を受けるようなメカニズムがあるのか ということですが これは慶應義塾大学や京都大学の皮膚科の先生方の研究で明らかになってきました さらに 子どもが暮らしている家の中のホコリや寝具のホコリを調べたところ ピーナッツや鶏卵などの食物蛋白が検出されています 日本での調査ではほとんどの家庭から鶏卵の蛋白が検出されています ですから 食物アレルギーの原因となる食物抗原の侵入経路は母乳や経口ではなく 皮膚だということになります ただし 皮膚が正常な

乳児はほとんど感作を受けていませんので 皮膚に炎症のある湿疹患者 アトピー性皮膚炎患者が経皮的な感作を受けたということになります 英国の研究で 食物アレルゲンの感作は 生後 3 ヶ月のときのアトピー性皮膚炎の重症度に比例していることが報告されています 子どもが生活している部屋や寝具のホコリの中には食物抗原があるため コントロールがよくないアトピー性皮膚炎の乳児は食物抗原の感作を受けやすく食物アレルギーを発症するリスクが高くなることが分かってきましたが ホコリの中にはダニなどの吸入性抗原も含まれています 複数のコホート研究の結果から 乳児期に食物抗原や吸入性抗原の感作を受けた子どもは将来気管支喘息やアレルギー性鼻炎になる確率が高いことが分かってきました スキンケアによる予防の可能性こうしたことから アトピー性皮膚炎がアレルギー疾患発症の原点にあり その予防策や早期治療の対策を立てることが アレルギーマーチを克服するために必要であることがわかります しかし 過去の研究では食物抗原や吸入性抗原の除去対策を行ってもアレルギー疾患の発症予防には効果がないことが示されています そこで 私達は 生まれた新生児の皮膚に保湿剤を塗布して皮膚のバリア機能を強化する介入研究 ( ランダム化比較試験 ) を行いました 生後 8 ヶ月まで追跡したところ 保湿剤を塗布しなかった群の乳児よりも約 4 割近くアトピー性皮膚炎の発症が少ないという結果が得られました ほぼ同様の研究が英米の皮膚科医らのグループからも同時に報告され 彼らは生後 3 週間までの新生児に保湿剤を全身塗布する介入研究を行い 生後半年の時点でのアトピー性皮膚炎の発症が保湿剤を塗布しない群に較べて約半分であったと発表しました しかし 保湿剤の塗布だけでは全員のアトピー性皮膚炎の発症を予防できてはいませんし 食物アレルゲンの経皮感作も有意に減少できてはいませんでした 特に発症したアトピー性皮膚炎患者は経皮感作を受けて食物アレルギーを合併する確率が高くなるので 別の対策が必要になります

抗原食物の摂取開始時期観察研究のレベルですが 2008 年にイスラエルと英国のユダヤ人学校の子どもの比較を行った研究が発表されました イスラエルの子どものピーナッツアレルギーは英国の 1/10 しかないのですが 何が違うかというと イスラエルの子どもはピーナッツの摂取開始時期が早くて生後 5~6 ヶ月から食べ始め1 歳児には 8 割以上の子どもが食べています これに対して英国の子どもは 1 歳になってもまだ 2 割程度しか食べた経験がありません 英国はピーナッツアレルギーが非常に多いので 意図的に食べ始めるのを遅らせる風潮がありました 鶏卵アレルギーに関しては 2010 年に 鶏卵の摂取開始が遅い子どもほど鶏卵アレルギーの有病率が高くなるという報告が発表されました かつての常識とは逆に 抗原食物の摂取開始が遅いほど その食物のアレルギーが増えてしまうということを示唆しています 特にアトピー性皮膚炎の乳児は経皮感作を受けやすいので 摂取開始が遅れるほど経口免疫寛容の誘導が遅れるため 理論的には理解できる現象です その後 ピーナッツアレルギーや鶏卵アレルギーの予防を目的としたランダム化比較試験が行われ 前者は英国から 後者は日本から成功した研究成果が発表されました アトピー性皮膚炎の乳児は 離乳食を開始する時点で既に食物抗原に感作を受けてしまっているものもいます 従って その閾値を超えるような量の抗原食物をいきなり与えると危険です 私達が行った PETIT(prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema) study では 生後 4~5 ヶ月のアトピー性皮膚炎の乳児をリクルートして皮膚の治療を行い生後 6 ヶ月から介入を開始したのですが 卵群では加熱鶏卵粉末 50mg( ゆで卵換算で 0.2g) という微量から開始しました そのように慎重に始めたおかげで外国の研究とは違って 参加者は誰もアレルギー反応を起こすこと無く安全に鶏卵を摂取し 鶏卵早期開始群では 1 歳時の鶏卵アレルギーが対照群よりも 8 割も少ないという結果が得られました おわりにこうした最近の研究結果が示唆していることは アトピー性皮膚炎の予防治療を乳児期早期に開始すること 離乳食の開始を遅らせるのでは無く 抗原食物を早期から少量慎重に開始することで食物アレルギーの予防をはじめ アレルギーマーチの進展を抑制できる可能性がありそうだということです