445 部 門 紹 介 女性生涯医科学 産婦人科学教室 教 室 の 紹 介 1 歴 史 1872年 明治 5年 粟田口青蓮院に療病院を 開設し 先きに招いたドイツ人医師ヨンケル J unk e rv o nla ng e g g を教師として医学の教育 を始めたのが京都府立医科大学の淵源で 講義 はすべてドイツ語をもって行うことを原則とし ていた 1880年 明治 13年 現在地に療病院を移転 すると共に翌 14年学校と病院の経営を分離し 京都府医学校が誕生した 1884年 明治 17年 外科から分離して第 4 番目の専門診療科として産婦人科が創設され 初代の部長に武部隆太郎教諭が任命された 明治 20年足立健三郎教諭 明治 28年高山尚 平教諭 明治 36年秋元隆次郎教諭 大正 3年加 治安信教授 大正 14年山田一夫教授 昭和 29 年澤崎千秋教授 昭和 33年 御就任の徳田源市 教授は大学紛争時に院長代行をされていたが心 筋梗塞にて逝去された 1971年 昭和 46年 岡田弘二教授が就任さ れた 岡田弘二教授は 性ステロイド代謝やその作 用機構の研究を飛躍的に行われ ステロイド受 容体 エストロゲン代謝や臨床応用 アロマ ターゼ研究 ステロイドの悪性腫瘍への応用等 へとつながった 産婦人科感染症領域での研究 は 産婦人科領域の術後感染症や周産期感染症 を対象として基礎的 臨床的研究が行われた ステロイド受容体による作用機構の研究は 1987年 昭和 62年 玉舎輝彦岐阜大学教授誕生 へとつながった 1992年 昭和 57年 周産期 診療部の開設 1993年 昭和 58年 附属看護
446 専門学校に助産学科を再開設.1988 年 ( 昭和 63 年 ) 体外受精, 胚移植が開始された.1991 年 ( 平成 3 年 ) には第 43 回日本産科婦人科学会を会長として開催された. 1995( 平成 7 年 ) 本庄英雄教授が就任された. エストロゲンの代謝やその臨床応用の研究がエストロゲンによる更年期障害, 高脂血症, 動脈硬化, 骨粗鬆症, アルツハイマー病などの予防といった中高年女性の qualityoflife の向上を目指した研究をされた.1996 年 ( 平成 8 年 ) 顕微受精, 受精卵の凍結保存が倫理委員会で承認された.1999 年 ( 平成 11 年 ) 臨床の場は産科と婦人科と分かれて運営することになった. 本庄教授は婦人科診療部長を勤められ, 産科は山本宝, 保田仁介, 北脇城産婦人科助教授が診療部長を勤められた. 周産期産科外来, 子宮内膜症外来, 不妊症外来, 腫瘍外来さらには特に, 更年期 老年期の女性を対象としたクイーンズコーナーを設けるなど臨床の場の専門化, さらにはこれらを支える基礎研究を行い思春期 性成熟期 周産期 更年期 老年期までのすべての女性が一生 briliantwoman であることを目指した医療を展開された. 2008 年 ( 平成 20 年 ) 北脇城現教授が就任された. 大学の 137 年, 教室の 125 年の伝統を守り, さらに発展させるために,1 大学が高い臨床レベルをもつことにより内外の信頼に応えられるように, 教室スタッフを専門性に特化するように配置し, 周産期, 腫瘍, 子宮内膜症, 不妊, 腹腔鏡下手術, 更年期, 感染症などのサブグループを形成し, それぞれ専門外来と研究を行い, 研究成果を国内外に発信する.2 内科的な要素や外科的な要素を有する守備範囲の広い女性の生涯の医療をカバーする産婦人科学の診断から治療までを一人の担当医がオーガナイズできるよう充実した卒前 卒後教育の実践をめざす.3 若い先生方との十分な対話の中から各人の可能性を引き出し, そしてチーム全体の総合力を高めて行き, 教室スタッフ全員を挙げて研修医や学生諸君と積極的に交流する機会を設けて十分な対話の中から若い人材を発掘していく よう力を入れる. などのコンセプトをもって臨床, 研究, 教育を実践している. 2. 部門紹介周産期診療部は昭和 57 年 6 月 11 日に開設され, 産科部門 ( 周産期外来, 分娩室, 産科病棟, 新生児室 ) と新生児集中治療室 (NICU) の 2 部門からなり, 産科部門は産婦人科が,NICU は小児科が担当し, 看護単位はそれぞれ別である. 平成 9 年 11 月に総合周産期母子医療センターが京都第一赤十字病院に開設され, 当施設はサブセンターの位置づけとなった. そのため, 院内の正常 異常妊娠の周産期管理を行う以外にも京都市内, 京都府 南部地域を中心に緊急母体搬送を含めて, ハイリスク妊娠 分娩も積極的に受け入れてきた. ヘリポートがあるので京都府北部与謝の海病院からのヘリコプターによる母体搬送も積極的に受け入れている. 助産制度も取り入れている. 産科部門が力を注いでいるのは,1つにはハイリスク妊娠の管理, 特に胎児発育不全や一絨毛膜双胎児である. これらの疾患は妊娠管理が非常に難しいとされる. また超音波診断法による早期の胎児先天異常の発見にも努めている. 当院には, 小児内科, 小児外科, 小児心臓外科も併設されているため胎児先天異常の症例の紹介が多いというのも特徴である. 疎水ネットワークを利用して胎児遠隔診断を行っている. 京都北部, 南部の遠隔病院から送られてきた胎児画像を, 当院の周産期専門医が解析し, 心奇形を中心とした胎児先天異常を早期発見しようとする試みである. 近年の少子化の影響を受けて分娩数は減少したが, ここ数年は年間約 300 症例ほどで増減なく推移している. サービス的要素を多分に求められる産科部門にあって, 当院のようにハイリスク妊娠の管理に特化してしまった施設が, 正常分娩数を増加させることは至難である. 今後, 正常分娩数を如何に確保するかが問題である. 当院が正常分娩を扱っていないと思っている方も多く, 病院と協力して広報に努めることも肝要である. 出産祝いとして院内レストラン オリゾンテでの食事を提供している. アメニ
447 ティーの充実も重要であるが, 大学病院ならではのサービス向上を試みている. 臨床研究に協力していただく形になるが, 妊婦さんの骨密度計測や自律神経機能検査 ( ストレス度チェック ) を無料で行っている. 帝王切開の率は約 40% となり, 減少傾向にある. 安易に帝王切開をしないように適応を見直したことなどが理由に挙げられる. 分娩は危険が伴うものであるから, 安全を第一とし, 経腟分娩症例はリスクの少ない症例に限り, 基本的に自然分娩を原則としている. 分娩ゾーンには分娩室 3 室, 陣痛室 1 室 3 床を有している. 陣痛室での家族 2 人までの付き添いは可能である. 母親教室に夫が参加することを条件に立会い分娩を認めている. また助産師外来を, 症例限定のうえで行っている. 分娩ゾーンには独自の手術室を有し, 緊急帝王切開に速やかに対処できるようにしている. 必要と判断される場合は NICU 医師の立会いも行い, 母児の安全に留意している. 分娩後は母児同室も可能である. B3 病棟は現在 24 床を有し, うち 19 床が産科病床で 5 床が婦人科病床である. 病床占有率は概ね 8 割を越える. 多胎妊娠, 切迫早産など長期入院を要する症例もあるが, 検査入院, 正常分娩後, 帝王切開後の入院は比較的短期の入院であるため, 平均在院日数は 2 週間をきっている. 産科部門は 4 人のスタッフが専任している. うち 2 人が周産期専門医を取得している. 週 1 回のペースで周産期カンファレンスを開いて, NICU 医師との医師疎通を図るとともに, 産科単独でも看護スタッフと問題事項を検討し, 医療の質の向上に心がけている. 周産期医療は倫理的にも難しい問題を多く抱えるが, 各関連科や看護スタッフとの協力下に, 母児の幸福に少しでも貢献できれば幸甚である. 女性ヘルスケアに関して, 全国に先だって更年期外来や女性外来という特殊外来を設けてきた. 更年期外来は先代の本庄教授の時代にはクイーンズコーナーと銘打って閉経後女性の QOL を改善すべく努めてきた. 閉経後女性に主にエストロゲンを補充することで, 更年期の不定愁訴が改善されるばかりでなく, 骨粗鬆 症, 動脈硬化, アルツハイマー病の発症が抑制されることが期待される. 基礎研究としてエストロゲンによる神経細胞の保護作用に取り組み, エストロゲンによるアルツハイマー病発症抑制を世に広く喧伝してきた. エストロゲンによるアルツハイマー病治療も試みたが, 期待した成果は得られなかった. エストロゲンによる治療はエビデンスも多く, 効果的な確立された治療であるのだが, 本邦では, エストロゲンによる治療は乳癌や性器出血のため患者さんから受け入れられにくい. 今後もエストロゲンによる治療の啓蒙や抗加齢効果についての検討を進めていく予定である. ジヒドロエピアンドロステンジオン (DHEA) やメラトニンなどサプリメントの効果も検討したいと考えている. 更年期障害を客観的に評価するために, 心拍変異動解析をとりいれるなどの新しい臨床的試みを行っている. 更年期障害の治療には, エストロゲンの補充だけでなく, 漢方療法やサプリメントなど患者様の要望に沿った治療を試みている. 婦人科腫瘍グループは, 婦人科臓器に発生する腫瘍性病変の診断 治療を専門としている. 婦人科臓器は, 外陰 腟 子宮 卵巣 卵管と幅広い臓器を含んでおり, 腫瘍の発生母地となる臓器によって個別の専門的治療が必要となる. また, 悪性腫瘍の診療ばかりではなく, 子宮頸部異形成などの前がん病変の診療などにも積極的に取り組んでいる. 昨今, 婦人科腫瘍の一部においては若年女性や未産婦の増加が報告されており, 少子化に悩む本邦においては由々しき事態であると考えている. また, がん治療における生活の質 (QOL) の保持といった視点も重要視されている. 将来的には, がん発病の予防, がん検診などの更なる普及, 妊孕性 ( 妊娠の可能性 ) 機能温存を志向する, より低侵襲な治療などの開発が急務である. もちろん, 腫瘍の治療においては根治性を損なうことがあってはなりない. 個々の症例に対してグループ内で十分なディスカッションを行い, エビデンスにもとづいた診療を提供しようとスタッフ全員が心掛けている. 実際の診療にあたって
448 は, 病態を分かり易く, かつ詳しく説明し, 患者さんと相談しながら治療法を選択している. 悪性腫瘍の治療というのは, 手術 抗がん剤などの化学療法 放射線治療といった積極的治療, そして疼痛や不安などの随伴症状を和らげることを主とする緩和治療が柱になる. したがって, がん診療においては他の科との連携が大切で, 大きな手術を必要とするようなケース, 例えば子宮 卵巣以外の臓器を切除する必要がある場合は, 消化器外科や泌尿器科と共同して手術にあたる. 子宮頸がんでは放射線治療を選択することも多く, 放射線科医との連携は欠かせない. さらには, がんによる痛みや不安を取り除くため, ペインクリニックや緩和ケアチームと随時相談しています. 大学病院という特徴を生かした, 集学的な診療を提供して行きたいと考えている. がん治療の目指すところが がんの治癒 であることはいうまでもない. それに並ぶ大きな目標といえば, 患者さんの社会復帰 だと考える. 積極的に外来化学療法を取り入れ, 不要な入院生活を省くことで, 日常生活を損なわずに治療を受けられるよう配慮している. 外来化学療法により, 日帰りでの抗がん剤治療が可能になっている. 新規の治療の開発 研究 確立のためには, 他施設や関連病院との共同研究や連携は欠かせない. 婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構や関西臨床腫瘍研究会, 医師主導型臨床試験などの多くの施設と共同して行う臨床研究に積極的に参加しているが, それは臨床試験への参加ががん診療の質を上げるとされているからある. 診療や研究と同様に, 若手医師の教育にも力を注いでいる. 次代の担い手を育てていくことも大学人に求められていると考えている. 婦人科腫瘍医として必要なスキルや知識を身につけて頂くために, 手術手技の指導や治療前症例検討, 放射線科や病理部との合同カンファレンス, 学会発表や論文作成, 抄読会などの機会を出来るだけ多く提供するように心がけている. 2012 年度の取扱い症例数は, 子宮頸がん ( 進行がんのみ ):25 例, 子宮体がん :19 例, 卵巣 がん :14 例であり, 関連病院などからの紹介が年々増えつつあるのが現状である. 今後も地域の医療施設から信頼いただけるような部門を維持すべく努力していきたいと思う. 子宮内膜症, 生殖内分泌, 不妊症が主なテーマで, 子宮内膜症は, 性成熟期女性の約 10% に発生し, その 90% に月経痛,50% に不妊症をきたすといわれている慢性疾患であり, 近年, 患者は増加している.ART を含む不妊症治療, 腹腔鏡下手術, 卵管鏡下卵管形成術, 薬物療法等を行なっている. 3. 研究最終的に臨床へフィードバックが可能なトランスレーショナル研究を行うことをモットーとしている. 教室の伝統である内分泌研究を軸に各分野でオリジナリティの高い研究を目指している. 近年, 研究を志向する医局員は増加しそれぞれが意欲的に取り組んでいる. その成果は徐々に出始めており, 英文雑誌発表他さまざまな国内外の学会で高得点演題に選ばれている. 1 生殖内分泌グループ子宮内膜症の発症進展機序に関して, さまざまな遺伝子の遺伝子多型やそのサイトカインがその発生や病態に関与することをこれまで明らかにしてきた. 最近は局所のステロイド産生に関わる遺伝子を制御することで新たな治療法の確立を目指している. また, 腹水および末梢血中の糖鎖抗原解析を行い子宮内膜症の早期診断法を研究している. 2 腫瘍グループホルモン依存性腫瘍である子宮体癌のエストロゲン伝達機序解明を目指している. すなわちエストロゲンやプロゲステロン受容体の制御因子の機能解析を行い, 妊孕能を温存しうる子宮体癌ホルモン療法への応用を目指している. また, 末梢血中の mirna 解析を行うことで早期発見および再発の早期診断法の確立を模索している. さらに, 難治例とされる子宮肉腫に対する分子標的治療の開発も行っている. 3 更年期グループホルモン補充療法 (HRT) の際にエストロゲンとともに併用されるプロゲスチンの心血管イ
449 ベントへの影響について研究している. 動脈硬化発症リスクを軽減しかつ卵巣欠落症状を改善しうる新たな HRT の臨床応用を探索している. 4 感染症グループ子宮頸管炎, 切迫早産とマイコプラズマ ウレアプラズマとの関連に関する研究, 抗菌薬に対する咽頭常在性ナイセリア属の薬剤感受性測定による淋菌薬剤耐性化傾向予測の検討, クラミジア子宮頸管炎患者におけるクラミジア直腸炎の診断と治療などについて検討している. 4. 教室スタッフの紹介北脇城教授 : 昭 56 年本学岩破一博准教授 : 昭 54 年川崎医大 野口敏史 准教授 : 昭 58 年 愛知医大 岩佐弘一 講師 : 平 3 年 本学 楠木 泉 講師 : 平 3 年 自治医大 澤田守男 講師 ( 学内 ): 平 8 年 本学 藤澤秀年 助教 : 昭 63 年 本学 辻 哲朗 助教 : 平 2 年 関西医大 黒星晴夫 助教 : 平 9 年 長崎大 辰巳 弘 助教 : 平 9 年 本学 安尾忠浩 助教 : 平 12 年 本学 森 泰輔 助教 : 平 13 年 大阪医大 藁谷深洋子 助教 : 平 14 年 滋賀医大 片岡 恒 助教 : 平 20 年 本学 沖村浩之 助教 : 平 22 年 本学