資料 10 一億総活躍国民会議 ニッポン一億総活躍プラン フォローアップ会合 2017 年 5 月 17 日飯島勝矢 ( 東京大学高齢社会総合研究機構教授 ) < 要約 > 1 フレイル対策フレイル対策はすでにニッポン一億総活躍プランの中で示されている 今後 さらに認知度を向上させるため様々な手段を用いて 国民および専門職全てが フレイル対策 を具体的に理解して自らが取り組める環境を構築する フレイルは多面的であり かつ 3 つの要素 ( 食と口腔機能による栄養 運動 社会参加 ) の全てが重要であることを国民に周知する 個々のフレイル対応策の具体的役割の明示 ( 個人ベース 地域 / 社会ベース 医療機関 / 介護施設ベース 等 ) フレイル対策は まちづくり そのものとしてオール産学官民で取り組む フレイル対策を実現するための包括的な高齢者支援 予防概念の適切な切り替え ( メタボリックシンドローム予防とフレイル予防 ) 健康増進 / 予防からエンドオブライフまで見据えたデータ活用と地域へのフィードバック 2 生涯現役促進以前から推し進められている地域での高齢者就労の取り組みを加速させるとともに 人生 100 年時代と考えることも現実的になっている今 高齢者観や人生観をポジティブに見直すべき時に来ている 高齢期における 働き方改革 から 生き方改革 へ 社会の支え手として何らかの 役割 と 機会 を持ち続けられるような社会の仕組みを新たに創造 准高齢者 ( 従来の前期高齢者 ) における生き方 (= 生活モデル ) づくり 高齢者の雇用促進という社会的課題 : 地域が一体となって取り組む 仕組み を創る 3 認知症予防と社会的対策の推進既存の取り組みを加速させながら 今後はまちづくりの一環として 住民 行政 専門職など全ての自治体構成メンバーで支援体制を構築する 医療 介護専門職における正確な知識と的確な評価や介入 国民自身の認知症に対する ( 偏見のない ) 成熟した認識の周知 認知症の人にとって住みよい地域づくりと同時に 認知症の人の家族が気軽に支援を受けられる体制整備 1
フレイル対策 2016 年 6 月 2 日に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランの中に フレイル対策 はすでに盛り込まれてあるが 今後さらに高齢化が進むなかで このフレイル対策を国全体に普及していく ( すなわち 国家プロジェクトとしての取り組み ) が必要不可欠である 1. フレイル対策 に含まれる多面的な意味と狙い 1 フレイル対策という言葉の中には すでにフレイル状態に陥ってしまっている方への改善方策と同時に 元気な状態の方もフレイル状態にならないよう予防し健康長寿を実現していくことの両面の意味がある さらには 中年 ~ 壮年期からの意識啓発 ひいてはより若い世代からのフレイル予防に資する意識 行動変容 ( 健康リテラシーの向上 ) も包含される 2 その健康リテラシー向上のために 早期からの教育 をより積極的に導入すべきである なかでも栄養管理 ( 特に摂取カロリーも含め 世代に合わせた適切な食習慣管理 口腔機能維持など ) の重要性 フレイル予防のためには社会参加が必要不可欠であることなど 様々な視点での意識啓発が鍵になる 3 今後に向けて フレイル の認識率の向上 対策可能であることとその具体策の理解を国民全体に対して行う フレイル予防と介護予防の観点から 個人で対応可能なこと 地域や社会で対応すべきこと 医療機関や介護施設で対応すべきことについて役割分担したものを明示して 国民が フレイル対策 を具体的に理解して自らが取り組める状況を推進する 2. フレイル予防 ~ 対策 : アクティブエイジング実現から自立支援ケア型体制構築も 1 フレイルには 機能を戻せる可逆性 という意味も含んでいる 人生 90 年を見据え より早期からの予防対策を実行しながら 高齢期においても少しでも機能を改善させていくという視点が重要である そこには専門職種のさらなる強い連携による質の高い自立支援にこだわったケア体制構築が求められる また アクティブエイジングを実現するための国家プロジェクトが求められ 高齢者医療に携わる専門職能を中心に ダイナミックな政策も必要である 2 さらに フレイルの前段階 ( プレフレイル ) からの予防対策として どんな高齢者でも容易に参加できる 身近な場での住民主体による運動活動や会食その他の多様な社会参加の機会を拡大することが重要であるが 大規模コホート研究による解析結果からしても 1 栄養 ( 食 / 口腔機能 ) 2 運動 / 身体活動 3 社会参加 / 社会貢献 の 3 つの要素全てにおいて 個々の国民の日常活動に取り組まれ その継続性が担保されることが大前提にある その視点を各専門職能および市民サポ 2
ーターなどは十分に掌握した上で より多くの住民への啓発に臨むべきである 3. 全世代を見据えた切れ目のない対応策 : 予防概念の適切な切り替え 1 中年層を中心としてメタボリックシンドロームへの予防意識を高めるべく わが国は保健活動を行ってきた しかし 超高齢社会への突入を目前にした現在 むしろフレイルに対する予防意識を高めることも重要である 言い換えれば 世代が進むにあたり メタボ予防概念からフレイル予防概念への適切な切り替え ( ギアチェンジ ) が求められる 2 この認識の普及に対しては 様々な場面 ( 専門職能による医学的知見に裏付けられた助言 自治体での地域予防活動 住民同士による地域活動など ) での積極的な取り組みが望まれる ( 特に低栄養や低栄養リスクにある高齢期の方々も地域では決して少なくなく 前述したように 高齢期における食の安定性をもっと地域の中で精力的に推し進めるべきである ) 4. フレイル予防はまさに まちづくり そのもの 1 多面的な側面をもつフレイルに対する予防 ~ 対策は 単に医療的アプローチだけでは実現できない むしろ産学官民すべてを巻き込んで まちづくり として取り組む必要がある 2 そこには 専門職種による多職種連携だけではなく 各自治体行政内の庁内連携 専門職 - 住民協働 そして住民主体の活動の推進など 従来の枠組みを超えた新たな発想での取り組みを精力的に取り入れ 実現していくことが求められる 5. フレイル対策を実現するための総合的 包括的な高齢者支援を 1 重複かつ複雑な病態を併せ持つ高齢期の方々に対して 総合的 包括的に高齢者支援 ( 評価 治療 助言 全てを含む ) を全国で展開することは急務である そのために 老年医学 高齢者医療における人材育成 および診療 研究 教育の融合を目指した拠点形成も並行して推し進めるべきである そして 地域と研究施設の連携も加速しながら 高齢者医療に関する住民教育 啓発のさらなる推進も求められる 2 住民目線での相互のフレイルチェックの啓発にとどまらず すべての医療職 特に かかりつけ医 がフレイルの早期発見と対策への誘導を行うことを積極的に推進する 後者は フレイル者への適切な医療の提供と医療費の削減 多職種連携の窓として 持続的な対応の窓として重要である 6. 健康増進 / 予防からエンドオブライフまで見据えたデータ活用 および地域へのフィー ドバック 1 従来の介護予防事業を振り返ると二次予防事業の低い参加率 ( 高齢者の 0.7% に留 3
まり 目標の 5% に到達できず ) など 様々な課題が存在する その原因として 事業内容の筋力トレーニングなどへの偏り 虚弱高齢者の不十分な把握 継続性にしっかりとこだわった事業終了時の出口対策の不足など 複数の原因が積み重なり 費用対効果も含めて方向転換を余儀なくされた経緯もある 2 個々の事業に対する効果判定の見える化 同時にそれらのデータベース構築も必要である さらに 行政等が保有する全国的に入手可能なデータ群 ( 例えば 健診データ 医療レセプト 介護レセプト 日常生活圏域ニーズ調査 要介護認定調査など ) を活用して ビッグデータ化からの多面的なエビデンス蓄積も目指すべきである そこに予防活動に関するデータ集 ( フレイルをスクリーニング / アセスメントなど ) も一緒に連結させ 個人単位や地域単位 活動の効果判定や医療経済的視点も解析し 地域で実施されている事業や活動へフィードバックできる基盤を構築していくべきである 生涯現役促進 生涯現役 促進を見据え 以前から推し進められている地域での高齢者就労の取り組みに対して 実装 拡充 広域展開をさらに実現するべく推進していく その中でも 異なる組織 団体間での協働も推進されるべきであり そこにはあり方 ( ルール等 ) の整備も求められる それ以外に 改めて下記の視点も重要と思われる 働き方改革 から 生き方改革 へ 1. 日本老年学会 日本老年医学会からの 高齢者の定義と区分の見直し ( 提言 :2017 年 1 月 ) に伴い 准高齢者(65~74 歳 ) 高齢者(75 歳以上 ) 超高齢者(90 歳以上 ) の 生活モデルを確立する ことも社会 ( 地域コミュニティ ) として必要である 人生 100 年時代と考えることも現実的になっている今 それを生きる上で 高齢者観や人生観をポジティブに見直すべき時に来ている 基本の生活モデルとして 誰もが就業を含めた地域活動に必ず参加する ( できる ) こと を提唱し 社会の支え手として何らかの 役割 と 機会 を持ち続ける ( 続けられる ) ような社会の仕組みを創造していくことが必要不可欠である 2. 身体機能も若返っている科学的知見があるなか その中でもリタイア後もまだ十分な身体的機能を維持できている可能性の高い准高齢者 ( 従来の前期高齢者 ) における生き方 (=すなわち生活モデル) づくりは非常に重要であり 一億総活躍社会を実現する意味でも必要不可欠な視点である 特に この 65~74 歳の 10 年間をいかに生きていくか この准高齢者 ( 期 ) のあり方も含めて 大きな課題である 4
3. 生涯現役促進地域連携事業の狙いは 高齢者の雇用促進という重要な社会的課題に対して 地域が一体となって取り組む 仕組み を創ることである まさに まちづくり の一環であることは間違いなく これまでハローワークやシルバー人材センターだけに高齢者の雇用促進の役割を委ねていたものを 地域における多様な機関が連携して協働していくことを進めようとしているのである 認知症予防と社会的対策の推進 1. 従来の様々な取り組みに加え 認知症の人にやさしいまちづくり や 認知症を知り地域をつくるキャンペーン などの取り組みが進められているなか 医療専門職や介護専門職における認知症に対する正確な知識と的確な評価や介入 地域と医療機関との連携 見守りなどを軸とした地域での生活支援の底上げ そして国民自身の認知症に対する ( 偏見のない ) 成熟した認識などが改めて求められる 2. 認知症の人にとって住みよい地域づくりを目指すと同時に 認知症の人の家族が介護を抱え込まず 支援を受けやすいと感じることができる体制も作る 5