事前に頭に入れておいて準備してください 地震発生時の旅行者の行動 / の心構え 1-1. 旅行者は地震を次のように感じていることを理解しておく 地震そのものを理解出来ない人がいる 全く地震を経験したことのない国から来た旅行者は どうして地面や建物が揺れたり家具が転倒してきたりしてくるのか理解出来ず 気が動転してパニック状態になることがあります 何が発生したのかを説明する必要があります ( 対応文例集 18 頁参照 ) 地震の揺れで感じた疑問をそのままぶつけてくる人がいる また 日本人は揺れの大きさで ある程度は被害の大きさを予測できますが 旅行者は過剰に反応する傾向があり ロビーに集まってきて 建物は安全か 何がどうなっているか といった質問が殺到することがあります 施設や建物が安全であることを強調する必要があります ( 対応文例集 19 頁参照 ) 地震や余震の揺れによる恐怖でパニックを起こす人がいる 大きな地震の後で断続的に余震が発生した場合などは 恐怖で精神的に追い詰められてしまうことがあります 従業員の皆さんは 不安がる旅行者に対して 今 何が起きているか を分かってもら えるよう説明する必要があります またロビーやフロントでの対応方法を準備する必要もあります ( 対応文例集参照 ) 大使館 旅行会社 関係機関等と連絡を取って状況の説明をお願いする必要があります ( 関連データベース 15 頁参照 ) 地震や建物の耐震性を説明する専門用語等は 本マニュアルでは解説しませんので 確認しておいてください 地震後の停電や断水することを理解出来ない人がいる 突然の停電や断水に ホテルや旅館側の過失と勘違いし 早く修復するよう要望や要求を言い立てる旅行者が出てくる可能性があります 要望や要求を受ける可能性がある電話交換手や受付は 復旧の 見通しや水や照明の準備 食料の配給状況などを説明する必要があります ( 対応文例集 21 頁参照 ) 6
はじめに 目次ベース 参考資料災害時の初動対応マニュアル 地震後もエレベーターを使おうとする人がいる 地震の時は 停電で閉じ込められる恐れがあるのでエレベーターを使ってはいけないことは日本人にはよく知られていますが 旅行者はそうではないため エレベーターを使って逃げようとすることがあります 地震発生時には エレベーターの使用禁止を徹底する必要があ ります ( ピクトグラム 24 頁参照 ) ほとんどの旅行者は自分だけで避難することが出来ない 建物内に留まることが危険だと考えられる場合は 屋外への避難誘導や避難場所への避難を指示しますが 旅行者は地域の地理に詳しくないので 自分だけでは避難場所へ行くことが出来ません 従業員による避難誘導や避難場所へ案内する必要があります ( 対応文例集 22 頁参照 ) ほとんどの旅行者は最新の正しい情報を入手出来ない 地震後は 日本国内の知人や母国の家族に連絡をとりたいという相談が殺到することがあります 電話やインターネット等が使えなくなった場合に 連絡できませんと言うのは簡単ですが納得 しない可能性があります このような場合 提供できる情報やその情報源を伝える必要があります ( 対応文例集 23 頁参照 ) 旅行者の関係者から安否や滞留場所の問い合わせが殺到する 地震が発生した時 家族や同行者と離れ離れになっていた場合は ホテルや旅館の方にその安否確認を求めてきます 施設に滞在している旅行者が外出する際には その行き先を聞いておくのが一番ですが 個人 旅行者の場合は行き先の把握に工夫が必要です また 安否確認の担当者を指名しておき 各観光地や旅行会社の担当者等と連絡をとる訓練も必要です ほとんどの旅行者は被災している場所からの移動を希望する 地震等を怖がって 安全な地域へ移動したい すぐに帰国したいがどうすれば良いか という情報を求めてくることがあります まずは 恐怖心を取り除き 公共交通機関が停止しているような 場合は むやみに移動しないよう伝える必要があります ( 対応文例集参照 ) 同時に 飛行機 タクシーその他の交通機関の最新の運行状況を どのように入手するか また大使館 旅行会社 関連団体とどう連携するかを準備する必要があります ( 関連データベース 15 頁参照 ) こうした事態の発生を予め想定して 旅行者の不安を少しでも和らげる様 常に落ち着いて行動してください また 次頁に挙げるような準備をしてください 7 領域 やるべきこと第1 部基礎知識第2 部初動対応第3 部関連データ
1-2. 旅行者への対応に備えてあらかじめ準備しておくべきこと 一般的な災害対応の手順や必要な備蓄については 消防法で定める消防計画や 災害時マニュアルとして整備している宿泊施設も多いので ここでは触れず この項目では 旅行者への対応として特別に必要となる備えについてのみ記述します 準備 1 災害発生時の対応の命令系統の確立 一般的に 災害時の指揮 命令系統は事前に確立されていると思われます その中で 旅行者への対応としては 英語 中国語 韓国語を中心とした言語で対応できる担当者を複数名選出しておくこと かつ それらの担当者には あらかじめ基本的な方針を示しておき 現場では上司に相談せずとも相当程度のことが自主判断できるようにしておくことが必要です 準備 2 旅行者のための情報収集先のリスト化 各国大使館 国際交流組織 各種交通施設 ( 空港とタクシー会社を含む ) 通用可能言語別の病院等の連絡先を事前にリスト化しておきます また そのリストを施設で働く方々全員で共有し 災害発生時にどう使用するかを考えて 必要と思われる所定の場所に配備しておきます 準備 3 対応のできる地域内の施設の確認 地域内に 災害時に利用できるどのような施設があるかを 一覧表にして ( 参考資料 4) 住所や電話番号を書きとめておくことは 一般的な災害対応計画としても必要です その中でも 英語が話せるなど対応ができる施設についてチェックしておきましょう 準備 4 多言語でのピクトグラム ( 図記号 ) の準備 災害時に必要なピクトグラムを 多言語による表記と併せてあらかじめ準備しておきます 前の節で述べたような 地震発生後の旅行者の行動や要求を前提としたシナリオを作成し シナリオ シミュレーションを行って 施設内の貼り付ける場所をどこにするか どのピクトグラムが何枚必要か等を決めておきましょう 準備 5 多言語での情報提供方法 提供手段の工夫 どのタイミングで どの場所で どの情報を多言語提供すればよいかについては 会話対応で行うもの ピクトグラムを掲示して伝達するものなど多様です 前の節で述べたような 地震発生後の旅行者の行動や要求を前提としたシナリオを作成し そのシナリオに従って従業員が旅行者になったつもりで 人の配置 ピクトグラムの掲示場所等を決めていきます 8
はじめに 目次備 6 ベース準 参考資料 旅行者対応訓練 1-3. 首都直下地震等による東京の被害想定 災害発生時は 多言語対応担当の方以外で対応しなければならないことも想定して 施設で働くできるだけ多くの方を交えて訓練することが大事です 旅行者のお客様にも可能であれば訓練への参加をお願いし 日本人が気付きにくい情報提供手段の問題点を顕在化して改善していくよう心がけましょう 東京都では こうした首都直下の地震等の被害がどの程度になるかを想定して各種の対策を進めており ここではその概要を紹介します 事業者の方々はそれを事前に念頭におき 地震発生時には適切な対応を取ることが大切です 想定 / 対策 被害の概要 地震の被害は 震源の位置や発生日時やその時の風の強さ人的被害によって被害の大きさが異なるため ここでは最も被害が大きくなると考えられる 東京湾北部地震 が冬の夕方 (18 建物被害時 ) 風速 8m/ 秒 という状況で発生した場合について述べます ライフライン被害 東京都の主な対策 1. 自助 共助 公助を束ねた地震に強いまちづくり 消防団の体制強化や防災隣組など共助の推進 木密地域不燃化 10 年プロジェクトの推進 公共建築物やマンション等の耐震化促進 2. 都民の命と首都機能を守る危機管理の体制づくり 自衛隊等との連携強化も含めた危機管理体制の充実 医療資源の適正配置や病院施設の機能維持 帰宅困難者対策の推進 表東京湾北部地震 (M7.3) の想定被害 死者 約 9,700 人 負傷者 約 147,600 人 倒壊 ( 全壊 ) 約 116,200 棟 焼失 約 188,100 棟 断水率 34.5% 停電率 17.6% 帰宅困難者数約 517 万人詳しくは 東京都防災ホームページ 首都直下地震等による東京の被害想定 を参照してください http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/assumption.html 想定 / 対策 領域 やるべきこと第1 部基礎知識第2 部初動対応第3 部関連データ3. 被災者の生活を支え東京を早期に再生する仕組みづくり ライフライン施設の耐震化と復旧活動体制の整備 都内全ての区市町村にり災証明に係るシステムを導入 詳しくは 東京都防災ホームページ 東京都地域防災計画震災編 ( 平成 24 年修正 ) を参照してください http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/plan-sinsai.html 9
災害が発生したら参照してください 2-1. 地震発生後に真っ先にやること 地震の第 1 波の揺れが収まったら 何はともあれ施設内の利用者に何が起こりどうすればよいかの呼びかけが必要です その場合 館内放送が使用出来れば良いのですが 停電等で使用出来ない場合もあるので 両方の場合を想定して 呼び掛けの体制 を用意しておいてください 初動対応 1 呼び掛けの内容 呼び掛け 1 状況の説明 揺れが収まったら 現在何が起きているかを明確かつ簡潔に伝えましょう 停電時の情報伝達には メガホンや拡声器を活用しましょう 身近にいる旅行者には 口頭でも伝えましょう 言葉だけではなく 身振り手振りを交えて伝えましょう 文例集を指差したり ピクトグラムを提示したりしましょう 呼び掛け 2 身の安全や危険から離脱の呼び掛け 余震が続く可能性があるので 身の安全の確保を具体的に呼び掛けましょう 姿勢を低くする 窓 家具 調度品 機械類から離れる ベッドや机の下にもぐる 枕 鞄等で天井からの落下物から頭を守る ドアを開け放っておく エレベーターやエスカレーターを使用しない 呼び掛け 3 出火防止と初期消火の呼び掛け 出火防止の徹底と 火災発見時は初期消火を呼び掛けましょう 電気製品を止めてコンセントを抜く 火災を発見したら 大声で周囲に知らせるか非常ベル等で通報する 消火器や屋内消火栓を使って 早期に初期消火をする 呼び掛け 4 冷静な行動の呼び掛け 施設 建物が安全と考えられる時は 慌てて屋外に飛び出したり むやみに動き回わったりせず落ち着いて様子を見るよう呼び掛けましょう 10
はじめに 目次2 ベース初動対応 参考資料 コミュニケーションの協力依頼 旅行者と十分な対応ができない場合は 日本人旅行者で外国語が話せる人や 旅行者で日本語の堪能な人にも協力をお願いしましょう 2-2. 大きな揺れが収まって一段落した時にすること 地震発生直後の呼びかけが終わり しばらく様子を見て 揺れの大きさからみて何らかの対応が必要であると判断したら ( 震度 5 弱以上を目安としてください ) 以下を実施します 一段落したら 1 安否確認 施設のフロアやゾーン毎に割り振られた従業員は まず旅行者を含めたお客様全員の安否確認を行います その際 特有の質問を受ける可能性がありますので 参考資料 2 を参照しつつ できる限り落ち着いて対応します 一段落したら 2 ロビーフロアに集まってきた利用者の対応 施設利用者の多くは 地震の後は部屋に居ることの不安からロビー等に集まって来ます 特に旅行者の場合 円滑に情報を得ることが難しいため不安が大きく 部屋に戻って待機して貰うのは困難です そこで集まった利用者を 宴会場など一箇所に誘導します 一段落したら 3 旅行者対応窓口の開設 旅行者対応窓口を開設し 身の安全を守る方法 出国や移動先迄のサポート 帰国の相談等 可能な限りの情報提供を行う事を旅行者にお伝えしましょう 一段落したら 4 建物の安全確認とピクトグラム等の貼り出し 建物の安全を確認し ピクトグラム等を使って 破損箇所に立ち入り禁止の表示をしたり エレベーターやエスカレーターに使用禁止の表示をしたりします その他 あらかじめ決めておいた場所に掲示板を設置し 必要に応じて用意したリスト等を多言語で大きく書いて貼り出します 領域 やるべきこと第1 部基礎知識第2 部初動対応第3 部関連データ11
一段落したら 5 傷病者の取り扱い 旅行者の傷病者が発生した場合は 応急処置を行います 治療が必要な場合は 近隣に医療救護所等が開設されているかを確認し 随行 搬送しましょう 外国語ができる日本人や日本語の出来る同行者がいる場合は 随行を依頼し いない場合は従業員が付き添いましょう 一段落したら 6 施設外旅行者の受け入れと保護 近隣来訪者や通行者等など施設利用者以外の旅行者も 受け入れ可能な場合は積極的に保護をします 災害発生時は 日本人の帰宅困難者の受け入れ等で混乱が予想されますが 外国語に堪能な従業員が従事している施設が旅行者を受け入れることは その施設の重要な使命として期待されています 一段落したら 7 火災発生時の避難誘導 火災が発生した場合は 消防計画の自衛消防隊が中心となり対応します 火災の発生や建物の崩壊で屋外への避難が必要になった場合 1. 火災が発生した場合 ならびに建物が崩壊する危険がある場合は 日本人 の区別なく避難計画に従って 施設内の全員を屋外の安全な場所に誘導します 2. 屋外へ避難した施設利用者を保護出来なくなった場合は 避難所等の安全と思われる場所への移動をお願いすることになります その際 旅行者については避難所等の安全な場所まで付き添う必要があります 12 イラスト マンガ : 藤里