1 契約期間中の労働者の退職労働者も契約を守る義務があり 契約期間中に一方的に退職した場合には契約違反の問題が生じます ( 民法 627 条 1 項は 無期契約についてのみ 解約申入れ後 2 週間で契約が終了するとしています ) Ⅵ 契約の終了 更新Ⅵ 契約の終了 更新 以下の場合には 契約期間中でも退職することができます 1 労働契約 就業規則に退職可能な事由の定めがある ( かつ その事由にあてはまる事実がある ) 場合 2 やむを得ない事由がある場合 ( 民法 628 条 ) ただし やむを得ない事由が労働者の過失によって生じた場合には 使用者に損害賠償の責任を負います 3 1 年を超える有期労働契約を結んだ労働者で 当該労働契約の初日から 1 年を経過した日以降に 使用者に申し出た場合 ( 労働基準法 137 条 ) 4 あらかじめ明示された労働条件と実際の労働条件が違う場合 ( 労働基準法 15 条 2 項 ) 使用者との合意で退職することも可能です 一方的に退職する前に なるべく早い段階で使用者に相談し 合意の上での退職を試みるのが良いでしょう 2 契約期間中の解雇解雇をする場合には 解雇をすることができるのか ( 解雇事由 ) 解雇をすることができるとして どのような手続きが必要なのか ( 解雇手続 ) という点が問題です つまり 解雇をするためには 以下の (1)(2) のいずれも満たす必要があります (1) 解雇事由使用者は やむを得ない事由がなければ 契約期間途中で労働者を解雇することはできません ( 労働契約法 17 条 1 項 ) 労働契約や就業規則に 契約期間中であっても という事由があれば解雇することができる などと解雇事由を定めていても その事由がやむを得ないものでなければ 解雇をすることができません なお 厚生労働省の通達では やむを得ない事由 とは 無期契約の解雇権濫用法理で解雇が認められる場合 ( 事由 ) よりも狭いとされています ( ) 契約社員ハンドブック 2018 17
契約の終了 更新18 無期労働契約では 解雇は 客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認められない場合 は 権利濫用として無効である と定められています ( 労働契約法 16 条 ) 解雇権濫用法理 と呼ばれるものです (2) 解雇手続解雇をする場合には 少なくとも30 日前に解雇の予告をするか 30 日分以上の平均賃金 ( いわゆる解雇予告手当 ) を支払わなければなりません ただし 以下の場合には 解雇予告の対象から除外されます ( 労働基準法 20 条 21 条 ) 雇用期間が引き続いて1か月を超えない日雇いの労働者 雇用期間が2か月以内に定められ かつ 働いた期間がその定められた期間を超えていない労働者 雇用期間が4か月以内に定められた季節的業務で働き かつ 働いた期間がその定められた期間を超えていない労働者 試用期間中で かつ 働き始めて14 日以内の労働者 4 雇止め (1) 雇止めとは雇止めとは 有期労働契約の期間満了時に 使用者が契約の更新を拒否することをいいます 雇止めについては 裁判でも 度々雇止めの有効性が争われてきましたが 労働契約法 19 条が新設され 最高裁判例で確立した 雇止め法理 が 法律に規定されました 雇止めをする場合にも 雇止めが認められない場合ではないことと 一定の手順を踏むこと ( 雇止め手続 ) の両方が必要です (2) 雇止めが認められない場合次の1 3を全て満たす場合には 雇止めは認められず それまでの労働条件と同一の条件の労働条件が締結された ( 申込みを承諾したものとみなされる ) ことになります ( 労働契約法 19 条 )
1 以下の ( ア ) また ( イ ) のいずれかにあたる ( ア ) 過去に反復更新された有期労働契約で その雇止めが 無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの ( イ ) 労働者において 有期労働契約の契約期間の満了時に その有期労働契約が更新されるものと期待されることについて合理的な理由があると認められるもの ( 端的にいえば ( ア ) は 有期契約が 実質的にみて無期契約と異ならない場合であり ( イ ) は 期間満了後の雇用継続について合理的期待が認められる場合 ということになります ) 2 以下の ( ア ) または ( イ ) のいずれかにあたる ( ア ) 契約満了日までに更新の申込みをした ( イ ) 契約期間満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした 3 使用者が 労働者の申込みを拒絶することが 客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認められない Ⅵ 契約の終了 更新(3) 雇止めに関する裁判例の傾向 雇止めに関する裁判例の傾向は 下表のとおりです ( 有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告 ( 平成 12 年 9 月 ) を参考にしたものです 厚生労働省ホームページ http://www2.mhlw.go.jp/ kisya/kijun/20000911_01_k/20000911_01_k.html 参照 ) 判断要素業務の客観的内容契約上の地位の性格当事者の主観的態様 具体的な内容 従事する仕事の種類 内容 勤務の形態 ( 業務内容の恒常性 臨時性 業務内容についての正社員との同一性の有無等 ) 契約上の地位の基幹性 臨時性 ( 例えば 嘱託 非常勤講師等は地位の臨時性が認められる ) 労働条件についての正社員との同一性の有無等 継続雇用を期待させる当事者の言動 認識の有無 程度等 ( 採用に際しての雇用契約の期間や 更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等 ) 更新の手続 実態 契約更新の状況 ( 反復更新の有無 回数 勤続年数等 ) 契約更新時における手続の厳格性の程度 ( 更新手続の有無 時期 方法 更新の可否の判断方法等 ) 他の労働者の更新状況 その他 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等 有期労働契約を締結した経緯 勤続年数 年齢等の上限の設定等 契約社員ハンドブック 2018 19
契約の終了 更新20 契約関係の状況事案の特徴雇止めの可否 1 実質的に無期契約と異ならないとも 雇用継続への合理的な期待があるとも認められないもの ( 以下の 2 4 以外の者 ) 2 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められたもの 3 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの 4 雇用継続への合理的な期待が 当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの 業務内容の臨時性が認められるものがあるほか 契約上の地位が臨時的なものが多い 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているものが多い 更新の手続が厳格に行われているものが多い 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるものが多い 業務内容が恒常的 更新手続が形式的であるものが多い 雇用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの 同様の地位にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い 更新回数は多いが 業務内容が正社員と同一でないものも多く 同種の労働者に対する雇止めの例もある 更新回数は概して少なく 契約締結の経緯等が特殊な事案が多い 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了する ほとんどの事案で雇止めは認められていない 経済的事情による雇止めについて 正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で 当該雇止めを認めた事案がかなりみられる 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めない事案が多い (4) 雇止めの手続き使用者は 以下 12の両方を満たす有期労働契約について 雇止めをする場合には 少なくとも契約期間満了日の30 日前までに その予告をしなければなりません ( 有期労働契約の締結 更新及び雇止めに関する基準 1 条 ) 1 次のいずれかにあたる ( ア ) 労働契約が3 回以上更新されている場合 ( イ ) 1 年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され 最初に有期労働契約を締結してから継続して通算 1 年を超える場合 ( ウ ) 1 年を超える契約期間の労働契約を締結している場合 2 あらかじめ契約を更新しない旨を明示していない
また 使用者は 雇止めの予告後に 労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は 遅滞なくこれを交付しなければなりません ( 同基準 2 条 ) 5 無期転換ルール (1) 無期転換ルールとは一定の条件を満たした有期契約労働者 ( 詳細は (2)) が 契約期間満了日までに 期間の定めのない労働契約の締結の申込み ( 無期転換申込み ) をした場合には 期間の定めのない労働契約 ( 無期労働契約 ) に転換 ( 無期転換 ) されます ( 労働契約法 18 条 ) 申込みもせずに自動的に無期転換されるわけではありません なお 会社によっては 自動的に無期転換されるという制度を設けている場合もあります Ⅵ 契約の終了 更新(2) 無期転換申込権発生の条件無期労働契約への転換を申し込む権利 ( 無期転換申込権 ) が発生するためには 以下の1 3の3つの条件がそろっている必要があります 1 有期労働契約の通算期間が5 年を超えている 通算契約期間は 改正労働契約法の施行日である平成 25 年 4 月 1 日以降に開始した有期労働契約から算定します 実際に働いた年数が5 年を経過していなくても たとえば 契約期間が3 年の有期労働契約を更新した場合などは 通算契約期間自体は6 年になるため 4 年目には無期転換申込権が発生していることになります 同一の使用者の間で有期労働契約を締結していない期間 ( 無契約期間 ) が 一定の長さ ( ) 以上にわたる場合 この期間が クーリング期間 として扱われ それ以前の契約期間は通算対象から除外されます 無契約期間以前の通算契約期間が 1 年以上 の場合には 6 か月です 無契約期間以前の通算契約期間が 1 年未満 の場合には 契約期間の半分 (1 月に満たない端数は切り上げ ) です 2 契約の更新回数が1 回以上契約更新が1 回以上行われていることが無期転換申込権発生の要件となります 3 現時点で同一の使用者との間で契約している通算 5 年を超えて契約をしてきた使用者との間で 現在 有期労働契約を締結していることが要件となります 無期転換申込権の発生を免れる意図をもって 就業実態がそれまでと変わらないにもかかわらず 派遣形態や請負形態を偽装して労働契約の締結主体を形式的に他の使用者に切り替えた場合 同一の使用者の要件を満たしているものと解釈されます 契約社員ハンドブック 2018 21
契約の終了 更新22 出典 : 厚生労働省発行資料 労働契約法改正のあらまし
契約の終了 更新契約社員ハンドブック 2018 23
契約の終了 更新24 出典 : 厚生労働省発行資料 労働契約法改正のあらまし (3) 無期転換申込みをした場合の効果 1 申込み時点で契約は成立有効に無期転換申込みをした場合 その時点で 有期労働契約期間満了日の翌日から労務提供がされる無期労働契約が成立します たとえば 3 月末日までの有期労働契約で 3 月 15 日に申込みをした場合 4 月からの無期労働契約が 3 月 15 日の時点で成立していることになります したがって 申込みをしたにもかかわらず 契約期間満了日に契約関係を終了することは 無期労働契約を解約 ( 解雇 ) することを意味します したがって 使用者側から有効に契約を終了するためには 客観的に合理的な理由と社会通念上相当であること ( 労働契約法 17 条 1 項 ) や 解雇予告 ( 労働基準法 20 条 ) が必要となります 2 労働条件は 直前の有期労働契約と同一申込みによって成立する無期労働契約の給与や待遇等の労働条件は 労働協約 就業規則 個々の労働契約で別段の定めがある部分を除き 直前の有期労働契約と同一の条件となります 必ずしも正社員と全く同じになるわけではありません 使用者は 無期転換時に適用される就業規則等を整備しましょう
ただし 無期転換に当たり 職務の内容などが変更されないにもかかわらず 無期転換後の労働条件を低下させることは 無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではありません (4) 無期転換ルールの例外以下の1 3のように 無期転換ルールが適用されない場合や 適用されるが5 年を超える年数が必要な場合があります 1 高度専門職の特例 ( ア ) 適切な雇用管理に関する計画を作成し 都道府県労働局長の認定を受けた事業主に雇用され ( イ ) 高収入で かつ高度の専門的知識等を有し ( ウ ) その高度の専門的知識等を必要とし 5 年を超える一定の期間内に完了する業務 ( 特定有期業務 ( プロジェクト )) に従事する有期契約労働者については そのプロジェクトに従事している期間は 無期転換申込権が発生しません ただし 発生しない期間の上限は 10 年です Ⅵ 契約の終了 更新2 継続雇用の高齢者の特例 ( ア ) 適切な雇用管理に関する計画を作成し 都道府県労働局長の認定を受けた事業主の下で ( イ ) 定年に達した後 引き続いて雇用される有期契約労働者については その事業主に定年後引き続いて雇用される期間は 無期転換申込権が発生しません 3 大学等及び研究開発法人の研究者 教員等に対する特例研究開発能力の効果及び教育研究の活性化等の観点から 大学等及び研究開発法人の研究者 教員等については 無期転換申込権発生までの期間を10 年とする特例が設けられました 詳しくは 厚生労働省ホームページ 労働契約法の改正について 有期労働契約の新しいルールができました を参照して下さい また 東京労働局雇用環境 均等部 (p46) にお問い合わせ下さい 契約社員ハンドブック 2018 25