「セメントを金属に変身させることに成功」

Similar documents
研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

有機薄膜太陽電池用材料の新しい合成法を開発

Microsoft Word - 01.doc

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

「セメントを金属に変身させることに成功」

共同開発研究の中核として 研究開発を進めている 研究内容と成果 2 種類のシリコン結晶をひとつのウエハー内に持つという SOI 構造 ( 図 1) の特長を最大限に活かした 高い放射線検出効率を持った信号処理回路一体型の微細ピクセルセンサーを実現した ( 図 2 図 3) 開発した SOI ピクセル

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

2018 年 2 月 26 日大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構東北大学材料科学高等研究所新日鐵住金株式会社 ミクロな見た目の かたち で材料の欠陥がわかる 放射光計測と応用数学による世界初の視点 金属酸化物材料中の化学状態が反応により不均一に変化していく様子を 放射光 X 線顕微法を用

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

平成22年11月15日

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

め, 有機系複合材料の解析に適している XANES スペクトルからは, 元素選択的な原子価数, 官 能基等の化学状態の情報が得られる 加えて, 直線偏光 ( 電 場ベクトルが一定方向に振動した光 ) の放射光 X 線を用い ることで, 電場ベクトルの振動方向に対する特定の分子軌 道の相対的な配向度も

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

SP8WS

Microsoft Word - _博士後期_②和文要旨.doc

色素増感太陽電池の色素吸着構造を分子レベルで解明

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

記者発表資料

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所教員公募について ( 依頼 ) 本機構では 下記のとおり教員を公募いたします 記 公募番号 物構研 1. 公募職種及び人員 教授 名 ( 任期なし ) 本機構の教員の職名は 教授 准教授 講師 研究機関講師及び助教であるが 機構の性格

<4D F736F F F696E74202D C834E D836A834E83588DDE97BF955D89BF8B5A8F F196DA2E >

A4パンフ

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

Gifu University Faculty of Engineering

高エネルギー加速器研究機構

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

平成 25 年 3 月 4 日国立大学法人大阪大学独立行政法人理化学研究所 高空間分解能 かつ 高感度 な革新的 X 線顕微法を開発 ~ 生体軟組織の高分解能イメージングへの応用展開に期待 ~ 本研究成果のポイント X 線波長の 320 分の 1 程度のごく僅かな位相変化を 10nm 程度の空間分解

Microsoft PowerPoint - 21.齋修正.pptx

<4D F736F F D C668DDA94C5817A8AEE90B68CA45F927D946791E58BA493AF838A838A815B83585F8AB28DD79645>

< F91E F1835C D835E815B8CA48B8689EF5F8FE396EC2E786477>

Microsoft Word doc

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

新技術説明会 様式例

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

研究の背景物質の原子 1つ1つを識別してその性質を調べる研究は これまでに盛んに取り組まれてきました しかしながら テラヘルツ波の信号やノイズレベル (-174 dbm レベル注近くの強度の信号 ) の強度しかない微弱な信号を検出する分光技術の開発は難しく 未だに成し遂げられていない課題でした [1

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

令和元年 6 月 4 日 科学技術振興機構 (JST) 北 海 道 大 学 名 古 屋 大 学 東 京 理 科 大 学 電力使用量を調整する経済的価値を明らかに ~ 発電コストの時間変動に着目した解析 制御技術を開発 ~ ポイント 電力需要ピーク時に電力使用量を調整するデマンドレスポンスは その経済

金属イオンのイオンの濃度濃度を調べるべる試薬中村博 私たちの身の回りには様々な物質があふれています 物の量を測るということは 環境を評価する上で重要な事です しかし 色々な物の量を測るにはどういう方法があるのでしょうか 純粋なもので kg や g mg のオーダーなら 直接 はかりで重量を測ることが

燃料電池反応を高効率化する「助触媒」の役割を実験的に解明

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質


Microsoft Word web掲載用キヤノンアネルバ:ニュースリリース_CIGS_


銅酸化物高温超伝導体の フェルミ面を二分する性質と 超伝導に対する上純物効果

<4D F736F F D C668DDA97705F81798D4C95F189DB8A6D A8DC58F4994C5979A97F082C882B581798D4C95F189DB8A6D A83743F838C83585F76325F4D F8D488A F6B6D5F A6D94468C8B89CA F

<4D F736F F D C A838A815B A8CF597E38B4E82C982E682E992B48D8291AC8CB48E7195CF88CA82CC8ACF91AA817C93648E718B4F93B982C68CB48E718C8B8D8782CC8CF590A78CE4817C8140>

平成**年*月**日

研究成果報告書

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

< 開発の社会的背景 > 化石燃料の枯渇に伴うエネルギー問題 大量のエネルギー消費による環境汚染問題を解決するため 燃焼後に水しか出ない水素がクリーンエネルギー源として期待されています 常温では気体である水素は その効率的な貯蔵 輸送技術の開発が大きな課題となってきました 常温 10 気圧程度の条件

平成 3 0 年 9 月 6 日 科学技術振興機構 (JST) 大阪大学 2 段階の熱処理で高品質のビスマス系薄膜 ~ 光応答性能を向上 次世代太陽電池開発に期待 ~ ポイント 光電変換素子の材料探索は それぞれの材料に最適な成膜プロセスの開発と同時に進める必要があり 1 つの材料でも数年を要してい

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

人事 人事異動 新人紹介 ( 辞職 ) PF NEWS Vol. 37 No. 2 AUG

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

今後の展開 開発したバーチャルテスト手法により 強度のばらつきのみならず これまで設計者を悩ませてきたサイズ依存性の評価も併せて可能となる 更に本手法は 自己治癒セラミックスや長繊維強化セラミックス複合材の設計にも活用できるため 先進セラミックスの設計および耐熱部材への実用化までの期間を大幅に短縮で

PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

柔軟で耐熱性に優れたポリイミド=シリカナノコンポジット多孔体

QOBU1011_40.pdf

本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト : 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括 : 伊丹健一郎 ( 名古屋大学大学院理学研究科 / トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長 / 教授 ) 研究期間

←ちゃんとしたロゴに変更

「世界初、高出力半導体レーザーを8分の1の狭スペクトル幅で発振に成功」

具合が大きくなり 一般相対性理論 3 に基づく重力の記述が破綻するためである この問題を解決する新しいアプローチとして 1997 年米国プリンストン大のマルダセナ教授は ブラックホールの中心を含めて正しく重力を記述する理論を提唱した この理論によれば ちょうどホログラムが立体図形の情報を平面上に記録

2014 年 9 月 30 日独立行政法人理化学研究所国立大学法人電気通信大学公益財団法人高輝度光科学研究センター国立大学法人大阪大学国立大学法人東京大学国立大学法人京都大学 X 線可飽和吸収を世界で初めて観測 -SACLA の世界最強 X 線レーザーが切り拓く新たな世界 - 本研究成果のポイント

マスコミへの訃報送信における注意事項

PowerPoint プレゼンテーション

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

1. 内容と成果研究チームは 天の川銀河の中心を含む数度の領域について 一酸化炭素分子が放つ波長 0.87mm の電波を観測しました 観測に使用した望遠鏡は 南米チリのアタカマ砂漠 ( 標高 4800m) に設置された直径 10m のアステ望遠鏡です 観測は 2005 年から 2010 年までの長期

Microsoft Word - pressrelease doc

化学結合が推定できる表面分析 X線光電子分光法

8.1 有機シンチレータ 有機物質中のシンチレーション機構 有機物質の蛍光過程 単一分子のエネルギー準位の励起によって生じる 分子の種類にのみよる ( 物理的状態には関係ない 気体でも固体でも 溶液の一部でも同様の蛍光が観測できる * 無機物質では規則的な格子結晶が過程の元になっているの

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

Microsoft PowerPoint - 資料3)NIIELSoverview.pptx

新技術説明会 様式例

els05.pdf

王子計測機器株式会社 LCD における PET フィルムの虹ムラに関する実験結果 はじめに最近 PETフィルムはLCD 関連の部材として バックライトユニットの構成部材 保護シート タッチセンサーの基材等に数多く使用されています 特に 液晶セルの外側にPET フィルムが設けられる状態

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

Transcription:

報道関係者各位 平成 26 年 4 月 17 日国立大学法人筑波大学独立行政法人物質 材料研究機構大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構国立大学法人広島大学独立行政法人産業技術総合研究所 太陽電池のエネルギー変換効率のカギは分子混合 ~ 有機太陽電池材料のナノ構造を解明 ~ 研究成果のポイント 1. バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池に用いる材料の状態を 軟 X 線顕微鏡で調べ ナノ分子領域内で分子が混合していることを発見しました 2. 分子混合が 有機太陽電池のエネルギー変換効率向上のカギであることを 初めて実験により示しました 3. この発見により より高いエネルギー変換効率の有機太陽電池の実現が期待されます 国立大学法人筑波大学数理物質系守友浩教授 櫻井岳暁准教授 独立行政法人物質 材料研究機構太陽光発電材料ユニット安田剛主任研究員 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所小野寛太准教授 間瀬一彦准教授 武市泰男助教 国立大学法人広島大学大学院理学研究科高橋嘉夫教授 独立行政法人産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター吉田郵司研究センター付らの研究グループは 軟 X 線顕微鏡 ( 注 1) を用いて 有機太陽電池のナノ構造を調べ それぞれの分子領域内で分子が混合していることを発見しました この発見により 有機太陽電池のエネルギー変換機構が明らかになり 高効率な有機太陽電池の設計指針が得られると期待されます バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池 ( 注 2) は エネルギー変換効率が高いという特徴があります これまで 高分子材料とフラーレンの単一分子ドメインとの間に綺麗な界面があることが 電池としての効率を高める上で重要であると考えられていました しかし 変換効率を最適化した試料のドメイン構造を 軟 X 線顕微鏡という新しい手法を使って詳しく調べた結果 それぞれのドメインで分子が混ざっていることが分かりました つまり 界面はむしろ 汚い ほうが電池としての性能が優れる ということが初めて分かり これまでの常識を覆す結果が得られました 本研究成果は 日本応用物理学会が発行する雑誌 Applied Physics Express のオンライン版に 4 月 16 日付けで公開されます 本研究成果の一部は 以下の事業 研究領域 研究課題等によって得られました 1 双葉電子記念財団 有機太陽電池の電荷生成効率の決定手法の開発 守友浩 2 独立行政法人科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業個人型研究 ( さきがけ ) 太陽光と光電変換機能 研究領域 ( 早瀬修二研究総括 ): 放射光による有機薄膜太陽電池のエネルギー損失解析 櫻井岳暁 1

研究の背景有機太陽電池は 従来 有機電子供与体 ( 有機 p 型半導体 ) と有機電子受容体 ( 有機 n 型半導体 ) を層状に接合した構造 (p-n ヘテロ接合 ) が用いられていましたが 近年 これら 2 つの材料を混合して作製するバルクヘテロジャンクション型のものが開発され エネルギー変換効率の高さから 次世代太陽電池として期待されています このタイプの太陽電池が高いエネルギー変換効率を示す理由としては 電子供与体である高分子材料と電子受容体であるフラーレンとのナノドメインが接合することにより 大きな接合面を持つためと考えられていました しかしながら 実際に各分子領域内の構造を調べた報告例は極めて少なく 特に 熱処理条件を変えてエネルギー変換効率を最適化した混合膜において 接合状態などの詳細は明らかにされていませんでした そこで本研究グループは 高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーの軟 X 線顕微鏡という新しい手法を用いて 変換効率を最適化した試料のドメイン構造を調べました その結果 それぞれのドメインで分子が混ざっていることが明らかとなりました ( 図 1) つまり むしろ界面は 汚い ほうが電池としての性能が優れる ということが初めて分かりました 図 1 従来考えられていた接合状態 ( 左 ) と本研究結果でわかった分子混合による構造 ( 右 ) 研究内容と成果 周期的なナノ分子領域が形成されやすい組み合わせとして 電子供与体である高分子には液晶性共役高分子 である F8T2( 注 3) 電子受容体にはフラーレン PC 71 BM( 注 4) を用いて混合分子膜を作成し 軟 X 線顕微鏡観察を 行いました 図 2 に軟 X 線領域における F8T2 と PC 71 BM の吸収スペクトルを示します この吸収スペクトルは 有機化合物 を構成する主要元素である炭素原子によるものです この図の通り 二つの分子のスペクトルは大きく異なることから 構造も異なることが分かります PC 71 BM F8T2 吸収強度 a b c d 280 290 300 310 軟 X 線のエネルギ - (ev) 図 2 軟 X 線領域における F8T2 と PC 71 BM の吸収スペクトル 2

測定には 240 度の高温で熱処理を行った混合膜 (A 膜 ) と 80 度の低温で熱処理を行った混合膜 (B 膜 ) を用いました A 膜は 純粋な高分子領域と純粋なフラーレン領域とに完全相分離を起こしており エネルギー変換効率は 0.81% です B 膜は 相分離が見られず F8T2/PC 71 BM 混合膜中で最も高いエネルギー変換効率 (2.28%) を示します まず A 膜の吸収強度のイメージを測定しました ( 図 3) 軟 X 線のエネルギーは 図 2 の a,b,c,d の位置に合わせました 例えば フラーレンの吸収ピーク (b) に合わせてイメージを測定すると 図 3(b) のように白と黒の明確なコントラスト ( 相分離 ) が観測されます 白い部分がフラーレン領域 黒が高分子領域に対応します 図 3 A 膜の軟 X 線吸収強度イメージ 次に 最も高いエネルギー変換効率を示す B 膜の吸収強度のイメージを測定しました ( 図 4) 同様にフラーレン の吸収ピークに合わせてイメージを測定すると 相分離が小さくやや不明瞭ですが 図 4(b) のように白と黒のコント ラストが観測されます 図 4 B 膜の軟 X 線吸収強度イメージ 次に 白い領域と黒い領域の吸収スペクトルを詳細に調べました 図 5 に白い領域のスペクトルの一例 ( 白丸 ) を示します このスペクトルは F8T2 と PC 71 BM いずれの吸収スペクトルにも一致しませんでした しかしながら PC 71 BM の吸収スペクトルを 0.66 F8T2 の吸収スペクトルを 0.23 の割合 ( 体積比 ) で足し合わせる ( 黒線 ) と 白い領域の吸収スペクトルと良い一致を示しました 従来 高分子領域とフラーレン領域は純粋な成分のドメイン同士が接合していると考えられていましたが この結果より それぞれの成分の密度を考慮して計算すると フラーレン領域では 29 重量 % の高分子が混合していることが分かりました ( 図 5) 黒い領域で同様な解析を行ったところ 高分子領域では 33 重量 % のフラーレンが混入していることが分かりました 3

図 5 フラーレン分子領域での軟 X 線吸収スペクトル 今後の展開本研究により バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池のエネルギー変換効率には 分子混合が重要な役割を担っていることが明らかになりました さらに 軟 X 線顕微鏡の偏光依存性を調べることにより 高分子領域とフラーレン分子領域との界面における分子配向が明らかにできると考えられます 研究グループでは 有機太陽電池のエネルギー変換機構を解明し 高効率有機太陽電池の開発に貢献していきます 掲載論文題名 : Molecular Mixing in Donor and Acceptor Domains as Investigated by Scanning Transmission X-ray Microscopy (STXM) ( 和訳 ) 軟 X 線顕微鏡で明らかにしたドナーとアクセプター領域における分子混合著者 : Yutaka Moritomo( 守友浩 ), Takeaki Sakurai( 櫻井岳暁 ), Takeshi Yasuda( 安田剛 ), Yasuo Takeichi ( 武市泰男 ), Kouhei Yonezawa( 米澤宏平 ), Hayato Kamioka( 上岡隼人 ), Hiroki Suga( 菅大暉 ), Yoshio Takahashi( 高橋嘉夫 ), Yuji Yoshida( 吉田郵司 ), Nobuhito Inami( 井波暢人 ), Kazuhiko Mase( 間瀬一彦 ), Kanta Ono( 小野寛太 ) 掲載誌 : Applied Physics Express 発行日 : 2014 年 4 月 16 日 用語解説注 1) 軟 X 線顕微鏡透過力が弱く薄い物質にも吸収されやすい軟 X 線 ( 波長 :0.1~ 数十 nm) を光源とする顕微鏡 元素に固有の吸収端を用いることにより 元素や化学状態を識別したコントラストが得られる 図軟 X 線顕微鏡の模式図 4

軟 X 線をフレネルゾーンプレート (FZP) とオーダーソーティングアパーチャ (OSA) を用いて試料 (Sample) 上に集光する 試料を透過した X 線強度を検出器 (Detector) でモニターしながら 試料ステージを XY 方向にスキャンすることにより 試料の透過像を得る 入射する軟 X 線のエネルギーを変えることで 元素や化学状態が識別できる 高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーでは S 型利用実験課題 (2013S2-003: 代表高橋嘉夫 ) として軟 X 線顕微鏡を用いたサイエンスの開拓を行っている 本成果は 上記 S 型課題の成果の一部である 注 2) バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池電子を与えやすい p 型有機半導体材料と電子を受け取りやすい n 型有機半導体材料を混合して作製する有機太陽電池 両半導体が広い面積で接合し 高いエネルギー変換効率を示す スピンコートと熱処理といった低コストプロセスで製造できる 図バルクヘテロジャンクション型有機太陽電池の模式図 注 3) F8T2 Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-bithiophene] p 型有機半導体高分子のひとつ 高温で液晶性を示し 主に有機エレクトロニクスなどの用途に使われる 図 F8T2 の分子式 注 4) PC 71 BM [6,6]-Phenyl C71 butyric acid methyl ester n 型有機半導体材料のひとつで 有機溶媒に可溶なフラーレン誘導体 図 PC 71 BM の分子式 5

問合わせ先 研究に関すること 守友浩 ( モリトモユタカ ) 国立大学法人筑波大学数理物質系教授 安田剛 ( ヤスダタケシ ) 独立行政法人物質 材料研究機構太陽光発電材料ユニット主任研究員 小野寛太 ( オノカンタ ) 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所准教授 高橋嘉夫 ( タカハシヨシオ ) 国立大学法人広島大学大学院理学研究科教授 吉田郵司 ( ヨシダユウジ ) 独立行政法人産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター研究センター付 取材 報道に関すること 国立大学法人筑波大学広報室 Tel: 029-853-2039 Fax: 029-853-2014 E-mail: kohositu@un.tsukuba.ac.jp 独立行政法人物質 材料研究機構企画部門広報室 Tel: 029-859-2026 Fax: 029-859-2017 E-mail: pressrelease@ml.nims.go.jp 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構広報室報道グループ Tel: 029-879-6046 Fax: 029-879-6049 E-mail:press@kek.jp 国立大学法人広島大学学術 社会産学連携室広報グループ Tel: 082-424-4657 Fax: 082-424-6040 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp 独立行政法人産業技術総合研究所広報部報道室 Tel: 029-862-6216 Fax: 029-862-6212 E-mail: press-ml@aist.go.jp 6