はじめに 相続税も贈与税も従来は一握りの資産家だけの税金と考えられてきましたが 今日では 一般の人にとっても無関心ではいられない税金になってきました そこで本書は 相続税 贈与税の計算の基本を学んでいただくことを目的に作成しました 本書は 申告実務 財産評価実務の 2 冊で構成されていますが 申告実務では 相続税 贈与税の税額計算の基本を一通り学習することを狙いとしました また 財産評価実務では 相続税 贈与税を計算する上で最も重要な財産の評価について学習することとしています 本書を学習すれば 十分な相続税の計算の基礎知識が身に付くと思います よく 相続対策 ということがいわれますが 正確な知識なくして対策を練ったのでは 十分な対応はできません より効率的な対策のためにも また実際に相続が起きたときにも税務のスペシャリストとして対応できるように 本書で相続税 贈与税の基本をしっかり身につけて下さい 本書に付されている条文番号について 相続税 贈与税の学習をする上で 実際に条文に目を通すことは 大変よい勉強になります そこで 本書では 基本的に重要な条文番号のみタイトルの脇に示しております 実際に条文を引いてみたい方は 市販の相続税法法規集等を購入の上 ご使用下さい 正式な条文名 略 称 相 続 税 法 法 租税特別措置法 措 法 民 法 民 相続税法基本通達 基 通 租税特別措置法通達 措 通 財産評価基本通達 評 通 相続税関係個別通達 個 通
テキスト編 第 1 章相続税 贈与税とはなにか 目次 1 相続税が課税される理由 1 2 どれくらいの遺産がある場合 相続税は課税されるか 2 3 贈与税が課税される理由 3 4 相続税と贈与税の関係 4 第 2 章相続人と相続分 1 相続人と相続順位 5 2 相続の承認と放棄 14 3 相続人の相続分 22 第 3 章相続税の課税原因と課税対象者 1 相続税の課税原因 30 2 相続税の課税対象者 34 3 相続に伴う財産分割 申告納付までの一連の流れ 37 4 具体的な遺産の分割手続と分割方法 37 第 4 章相続税が課税される財産 1 相続税が課税される財産の概略 40 2 本来の相続財産 41 3 みなし相続財産 42 第 5 章相続税の非課税財産 1 非課税財産の概略 60 2 非課税財産の種類 60 第 6 章小規模宅地等の減額 1 小規模宅地等の減額の概要 66 2 特例対象宅地等 67 3 申告要件 70 4 減額割合が 80% となる小規模宅地等 71 5 減額割合が 50% となる小規模宅地等 74 6 減額金額の計算 74 第 7 章債務控除 1 債務控除の概略 88 2 債務控除の適用対象者及び控除される債務等の範囲 88 3 債務 葬式費用の種類 90 第 8 章相続税の計算 (Ⅰ) 各人毎の課税価格の計算 1 相続税の計算の流れ 96 2 課税価格の計算方法 97 3 遺産が未分割の場合の課税価格の計算 102 4 負担付遺贈 105 第 9 章相続税の計算 (Ⅱ) 相続税の総額の計算 1 相続税の総額の計算の概略 107 2 相続税の総額の計算方法 107
第 10 章相続税の計算 (Ⅲ) 各人毎の納付税額の計算 1 各人毎の納付税額の計算の概略 111 2 各財産取得者毎の算出税額の計算 112 3 相続税額の 2 割加算の制度 115 4 税額控除 118 5 非上場株式等の相続税の納税猶予 131 第 11 章相続税の申告と納付 1 相続税の申告手続 141 2 納税地 143 3 納付手続 143 4 申告期限内に申告が行われなかった場合 161 第 12 章贈与税 1 贈与税の課税対象者 166 2 贈与税が課税される財産 167 3 贈与税の非課税財産 171 4 贈与税の計算の流れ ( 暦年課税 ) 174 5 贈与税額の計算 ( 暦年課税 ) 174 6 贈与税の配偶者控除 176 7 非上場株式等の贈与税の納税猶予 181 8 贈与税の申告と納付 186 第 13 章相続時精算課税制度 1 相続時精算課税制度の概要 192 2 適用対象者 192 3 適用手続 193 4 適用対象財産 194 5 贈与税額の計算 194 6 相続税額の計算 196 7 相続時精算課税における相続税の納付義務の承継等 200 8 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例 202 第 14 章直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税 1 内容 207 2 適用要件 207 3 住宅資金非課税限度額 208 第 15 章直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 1 内容 209 2 適用要件 209 第 16 章直系尊属から結婚 子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 1 内容 211 2 適用要件 211 記入例編
第 1 章相続税 贈与税とはなにか 本章のねらい 相続税法は所得税法や法人税法とは異なり 相続税法という一つの税法の中に 相続税と贈与税という二つの税目が規定されており 一税法二税目 と呼ばれています このうち 相続税は人の死亡によって残された資産を亡くなった人 ( 被相続人 といいます ) の遺族等が継承した場合に課される税金です これに対し 贈与税は人が生きている間に他の人に財産を贈与した場合に課される税金です それでは 何故相続税 贈与税は課税されるのでしょうか また 相続税と贈与税はどのような関係にあるのでしょうか 1 相続税が課税される理由 私たちは毎年の所得に対して所得税を負担していますが 所得税を納付した後の部分については 一部を消費し 残りの部分については蓄財に回すこととなります 相続税は この蓄積された財産について 人の死亡を機会に課税するものですが 相続税が課される主な理由は以下のとおりとなります 1 所得税の清算説この説は その人の一生の所得税を死亡に際して清算しようとするものです 即ち 特定の人が生前に所得税の非課税制度などの恩典によって蓄えた財産のうち死亡によって遺族等に移転した部分について 課税上の清算を行おうとするものです 2 富の再分配説 この説は 富める人から相続税という税金を徴収することによって 特定の人に集中した富を社会的に還元し 富の再分配を図ろうとするものです 1
2 どれくらいの遺産がある場合 相続税は課税されるか 1 相続税の課税最低限相続税は 所得税の清算 富の再分配を目的として課される税金です 従って 遺産が少額であれば相続税が課税されることはありません それでは どれくらいの遺産額があれば 相続税が課税されるのでしょうか 相続税には 課税最低限が定められており 遺産が次の算式で計算した額 ( 遺産に係る基礎控除額 ) 以下である場合には 相続税は課税されないこととなっています すなわち 相続税は被相続人の遺産総額が 遺産に係る基礎控除額を超える場合において その超える部分について課税されるということです 遺産に係る基礎控除額 =30,000 千円 +6,000 千円 法定相続人の数 ( 参考 ) 平成 26 年 12 月 31 日以前の相続 遺産に係る基礎控除額 =50,000 千円 +10,000 千円 法定相続人の数 法定相続人の意味は後述しますが ここでは一般的な相続のケースとして 配偶者と子が相続した場合の課税最低限について見ていきます 相続人の構成 配偶者 ( 子 ) のみ 子 1 人 子 2 人 子 3 人 子 4 人 子 5 人 法定相続人の数 1 人 2 人 3 人 4 人 5 人 6 人 遺産に係る基礎控除額 36,000 千円 42,000 千円 48,000 千円 54,000 千円 60,000 千円 66,000 千円 2 相続税の税額遺産の額が 遺産に係る基礎控除額 を超える場合は 相続税が課税されることとなります 相続税の税率は超過累進税率が採用されており 遺産の額が大きくなればなるほど高い税率による税金が課される仕組みとなっています 詳細は 第 9 章相続税の計算 (Ⅱ) 第 1 0 章相続税の計算 (Ⅲ) で学習します 2
3 贈与税が課税される理由 人の死亡によって遺産が移転するときに相続税が課税されますが この負担をできるだけ軽減しようとして 生前に配偶者や子に財産を贈与することが考えられます このような方法が認められれば 相続財産をゼロにしたりあるいは少額に押さえることができ 相続税の課税を回避することが可能となります しかし このような方法を認めますと相続税は事実上意味のないものとなってしまいます そこで 贈与という行為に対し 贈与税を課税することとなるわけです この意味で贈与税は相続税の 補完税 という役割を果たすこととなります 3
4 相続税と贈与税の関係 相続税と贈与税を比較した場合 贈与税の方が基礎控除にしても 税率にしても重いものとなっています これは仮に相続税よりも贈与税の方が税負担率が軽いとすれば 贈与による財産の移転が促進され 結果的に贈与税が相続税の 補完税 という機能を果たせないこととなるためです 次に相続税と贈与税 ( 暦年課税 ) の基礎控除 税率の比較表を示します 相続税贈与税 基礎控除 税率 全員分として 30,000 千円 +6,000 千円 法定相続人の数 最低 10%(1,000 万円以下 ) 最高 55%(6 億円超 ) 受贈者 1 人につき年間 1,100 千円 最低 10%(200 万円以下 ) 最高 55%( 3,000 万円超 ) 特例税率適用の場合は 4,500 万円超 相続税に比べ 贈与税では基礎控除が大幅に少ない金額となっています また 税率も下限や上限となる税率自体は同じものの 贈与税の方がより低い金額から税率が高くなる ( 累進する ) ように設定されています この比較表から解かることは 一般的に相続人等に財産を取得させるには 相続の方が有利であるということです しかし 資産家の場合には 相続税自体が高い税率で課税されるため 贈与を活用し 対策を練ることが有効な場合があります つまり 相続の場合は人の死亡に伴って一時点で課税されることとなりますが 贈与税は一年ごとの課税 ( 暦年単位課税 1 月 1 日から 12 月 31 日までが一つの計算期間 ) ですから 贈与する財産額を吟味し税負担を調整すれば 時間をかけて 比較的低い税率により 財産を移転することが可能となります なお 平成 25 年の税制改正により 平成 27 年 1 月 1 日以後の相続 贈与について 上記の基礎控除及び税率となっています より詳細な税率速算表や従前 ( 平成 26 年以前 ) の税率速算表につきましては P213の参考をご確認下さい 4