展開型柔軟エアロシェルを利用した 超小型惑星プローブに関する研究 山田和彦 (JAXA / ISAS) 鈴木宏二郎 ( 東大新領域 ) 秋田大輔 ( 東工大 ) 今村宰 ( 日大 ) 永田靖典 ( 岡山大 ) 高橋裕介 ( 北大 ) MAAC-WG
CONTENTS < 今年度の活動報告 > 超小型衛星 EGG の運用 (1 月 ~5 月 ) EGG の成果 EGG の先へ SPUR( 超小型惑星探査 ) 構想の立案 BEAK( 次期実証衛星 ) の提案それらを実現するための研究活動 1 インフレータブル構造体の耐熱性向上に関する研究 2 柔軟エアロシェルの大型化 構造強度に関する研究 3 柔軟材料の耐宇宙環境性能評価 4 超小型衛星用スラスタ 5SMA を使ったエアロシェルの展開手法の確立 柔軟シェル技術のスピンオフ観測ロケット実験データ回収システム火星ペネトレータ
超小型衛星 EGG に関する報告
超小型衛星 EGG の目的 EGG ~re-entry satellite with Gossamer aeroshell and GPS/Iridium : 3U の超 型衛星で ISS の きぼう から JSSOD により低軌道に放出される < 超小型衛星 EGG の目的 > 低軌道上で 将来の展開型柔軟エアロシェルを有する大気圏突入機の技術実証試験に必要な技術を実証すること プリカーサ実験としての位置づけ 1) 柔軟エアロシェルの展開実証 2) イリジウム衛星網を利用したテレコマシステムによる衛星運用の実証 3) 民生品 GPS による 空力減速による軌道崩壊の様子の観察 ------ 以下はエクストラ ------------ 4) 柔軟エアロシェルを有する飛翔体の希薄気体中での挙動や空力特性の測定 5) 大気圏突入中の空力加熱環境の測定 低軌道上での新規技術の実証機会として JSSOD からの超 型衛星の放出機会が 有 であることを実証する
超小型衛星 EGG の運用 (2017 年 1 月 ~5 月 ) Date Events Sep, 2014 EGGがISSからの放出衛星として採択. Aug, 2015 ゴム気球による実フライト通信試験 (B-EGG). Jan. 2016 ~ FMの確認 ( 振動試験 熱真空試験等 ). Nov. 7-9, 2016 JSSODへのインテグレーションと引き渡し Dec. 9, 2016 EGGを搭載したHTV6 号機の打ち上げ Dec. 13, 2016 HTV6 号機のISSへの到着 Jan. 16, 2017 JSSODにより EGGが低軌道への放出 ミッション開始 Jan. 17, 2017 イリジウムを介しての最初の通信成功 Feb. 11, 2017 エアロシェル展開シークエンス実施 May 15, 2017 大気圏へ突入 焼失
超小型衛星 EGG の成果 低軌道上の展開型柔軟エアロシェルの挙動の取得 イリジウム SBD を使ったテレメトリコマンドシステムの低軌道上実証 省電力小型民生品 GPS(Firefly) による軌道同定 空気力による軌道崩壊過程と大気圏突入環境の実測 リチウムポリマー 2 次電池 太陽電池 充放電 IC による冗長な電源システム 超小型ファラデーカップセンサによる希薄気体中での対気姿勢の観測 など < 画像による軌道上エアロシェルの形状の同定 > < インフレータブル構造体の健全性 > ( インフレータブル内圧履歴 ) 2 日間 気密を維持 ( 地上試験と同性能 )
超小型衛星 EGG の成果 低軌道上の展開型柔軟エアロシェルの挙動の取得 イリジウム SBD を使ったテレメトリコマンドシステムの低軌道上実証 省電力小型民生品 GPS(Firefly) による軌道同定 空気力による軌道崩壊過程と大気圏突入環境の実測 リチウムポリマー 2 次電池 太陽電池 充放電 IC による冗長な電源システム 超小型ファラデーカップセンサによる希薄気体中での対気姿勢の観測 など < イリジウム SBD の受信回数履歴 > <GPS& イリジウムによる軌道崩壊の取得 > Aeroshell deployment 合計 6817 回の通信
超小型衛星 EGG の成果 低軌道上の展開型柔軟エアロシェルの挙動の取得 イリジウム SBD を使ったテレメトリコマンドシステムの低軌道上実証 省電力小型民生品 GPS(Firefly) による軌道同定 空気力による軌道崩壊過程と大気圏突入環境の実測 リチウムポリマー 2 次電池 太陽電池 充放電 IC による冗長な電源システム 超小型ファラデーカップセンサによる希薄気体中での対気姿勢の観測 など < 大気圏突入時の温度履歴 > <FC による対気姿勢の同定 >
公募型小型提案予定 SPUR 構想 (Shrinking mars entry Probe with Unfolding Robe aeroshell) & 小規模計画採択 BEAK 実証試験 (Breakthrough by Egg-derived Aerocapture Kilt vehicle)
SPUR の構想 分散型惑星探査という惑星探査の新しい手法を生み出す その先駆けとして 複数の超小型ランダーと周回機で構成される惑星探査ローカルネットワークを実現することを目的する <SPURミッションを小型公募に提案 ( 予定 )> イプシロンロケット+キックモータで 100kg 級の探査機を火星圏に輸送し * 柔軟エアロシェルを利用したエアロキャプチャでリレー衛星を周回軌道に投入する * 柔軟エアロシェルを使った大気圏突入システムで超小型 (5kg 級 ) 火星着陸機を実現する プロキオン & エクレウスの超小型衛星技術に 展開型膜面エアロシェルという新しい空力技術が加われることでもたらされるバラエティ豊かな惑星探査ワールド ( 軌道 空中 地上 地下の立体探査 )
エアロキャプチャによる惑星周回軌道への窓 惑星大気を利用した周回軌道投入技術を 展開型柔軟エアロシェルを利用したドラッグモジュレーション方式で実現する 超小型衛星のような低リソースの制約下でも 探査機を周回軌道に投入できる可能性がある
エアロキャプチャによる周回軌道への窓 モデルケースを想定して エアロキャプチャの実現性を検討 * 突入機重量 50kg(or 30kg, 80kg) の探査機を想定 * 大気圏突入前にエアロシェルを展開 * 大気圏突入中に必要な減速度 (1km/s) を得た時点でエアロシェルを分離 * 探査機本体は 空気力を失い速度を維持して軌道へ戻り エアロシェルは火星表面へ落下 * 本体部は周回軌道上へ ( 探査機本体の直径 80cm とする ) R80cm 80cm
突入機重量 50kg エアロシェル直径 2.8m の場合 エアロキャプチャの突入ウィンドウ解析結果 大気密度の最大ケースと最小ケースの場合の突入経路角と大気圏通過後の遠地点高度 突入角度 19.3deg の場合の熱空力環境 淀み点熱流束 100kW/m 2 突入ウィンドウ 空力荷重 ~150kgf
突入重量を変化させた場合の実現性 設計制約として 最大加熱率 100kW/m 2 程度になるように エアロシェルの直径を決める 突入機重量 30kg 50kg 80kg エアロシェル直径 2.0m 2.8m 3.5m 最大加熱率 ~80kgf ~150kgf ~250kgf 最大空力荷重 ~90kW/m2 ~110kW/m2 ~120kW/m2 突入経路角範囲 (AC ウィンドウ ) 19.2~19.3deg 19.16~19.36deg 19.17~19.43deg 重量 50kg の場合は これまでの実績から実現可能なエアロシェルへの要求であることがわかる 一方で エアロシェルを大きくすることで 大重量の探査機本体を周回軌道に投入できる エアロシェルの面積と探査機の面積差が大きくなれば エアロシェルキャプチャ (AC) のウィンドウは広がる ただし 空力加熱が一定の条件だと 空力荷重が大きくなるため インフレータブルリングのチューブ直径が大きくなり エアロシェルの重量や必要なガス重量が増加する 設計の確定には トレードオフスタディが必要であるが 探査機総重量 100kg での火星周回軌道への投入の実現に可能性は十分にある
BEAK による実証試験 EGG の技術をベースにした 3U(ISS からの放出衛星 ) の超小型衛星での超小型惑星探査の実現にむけた技術実証試験を計画 小規模計画に採択済 来るべき超小型着陸探査にむけて エアロキャプチャ技術の習得 ナノスラスタ搭載で軌道 / 姿勢に何がしかの制御力を 分離機構を搭載し切り離し技術の練習
SPUR&BEAK を実現する技術研究
超小型惑星探査にむけた研究 柔軟エアロシェルの耐熱性向上の研究シリコンゴムシートのアブレーション効果を利用した耐熱性能向上研究 ICP 加熱器の試験により 短時間の加熱であれば性能向上が見られることを確認 今後 定量的な評価も実施する予定 柔軟エアロシェルの大型化に関する研究直径 3.5m のエアロシェルの製作とその構造強度の理解 大型低速風洞で 耐空力荷重強度を評価 これまでの設計モデルを拡張 風洞データをレファレンスにした数値解析による現象の理解と 計算手法の確立
柔軟シェルを使った超小型惑星探査にむけた研究 柔軟材料の耐宇宙環境性能試験 ZYLON 繊維の耐紫外線劣化試験 真空中での強度劣化を評価し 真空中ではその劣化速度が劇的に遅いことを実験的に確認 超小型衛星用スラスタの開発超小型衛星に搭載できる水レジストジェットを開発 エクレウスに搭載予定の水レジストジェットを参考にし 簡素を進め 小型化を実現する SMA を使った展開型エアロシェルの開発超小型衛星惑星ランダへの応用を目指して SMA( 形状記憶合金 ) を使った展開エアロシェルを開発 BEAK で実証し SPUR のプローブで利用
柔軟エアロシェルのスピンオフ
火星ペネトレータ (MP-FANG) Martian Penetrators with Flexible Aeroshell for Networked underground observation ペネトレータ型探査機を 火星大気圏に突入させ地表に届けるために 柔軟エアロシェルを利用を検討する 火星ペネトレータの EDL シークエンスの概念設計を実施 < 風洞試験で空力データを取得し概念検討に反映 > <EDL シークエンスを策定 ( トレードオフスタディ )> 火星周回軌道 (400km の円軌道 ) 1 大気圏突入 空力加熱対策 ~30kW/m 2 < 概念設計結果 > * 総重量 16kg( ペネトレータ12kg) * 柔軟エアロシェル直径 :1.6m * 最大空力加熱 30kW/m 2 以下 * 最大空力荷重 30kgf 程度 * パラシュート直径 :1.6m 程度 * 終端速度 100m/s 2 エアロシェル投棄 パラシュート開傘 3 地表に貫入 終端速度 100m/s
観測ロケット回収システム (RATS) Reentry and Recovery module with membrane Aeroshell Technology for Sounding rocket 観測ロケット実験で収集した大量のデータを回収するための大気圏突入 & 回収モジュールを実現するために展開型柔軟エアロシェルを応用 大気圏突入 緩降下 海上浮揚の 3 役をこなす S-520 ロケットから回収を想定 ( 高度 310km 速度 720m/s) し 概念検討を実施 < 概念設計結果 > 総重量 5kg( 柔軟シェル 1.5kg 程度 ) エアロシェル直径 1.6m チューブ直径 0.09m 淀み点空力加熱 30kW/m 2 以下最大空力荷重 45kgf 現時点の技術で十分に実現可能 S-520-31 号機への搭載を目指す
まとめ 大気圏突入用の柔軟エアロシェルの研究活動は 2012 年の観測ロケット実験以降の次のフェーズとして下記の 2 つの重要な成果を得た 1 超小型衛星 EGGによる軌道上実験試験の実施との 3U 超小型衛星をつかった軌道上実験手法の獲得 2 大気圏突入環境システムに実用可能な 実サイズの展開型柔軟エアロシェルの開発 柔軟エアロシェルを使った 新しい惑星探査ワールドの実現にむけての研究活動にシフトする 小規模計画 BEAK を足掛かりに イプシロンロケットを使った SPUR で超小型ならでは革新的探査手法である分散型立体的惑星探査の道を拓く