0 チリ ブラジル アルゼンチンの鉱業事情 平成 22 年 11 月 22 日 神谷 夏実 Kamiya-natsumi@jogmec.go.jp サンティアゴ事務所
1 チリ ブラジル アルゼンチンの鉱業事情 チリの鉱業事情 チリの鉱業事故発生状況 チリ鉱業政策の課題 ブラジルの鉱業事情 新鉱業法制定準備 アルゼンチンの鉱業事情 氷河保全法 南米でのリチウム開発動向 チリ San Jose 鉱山事故と救出カプセル Phoenix
チリの鉱業事故発生状況 産業別では 交通 工業 農業等他産業に比べて 鉱業での事故発生率は低い 鉱業事故の発生率も近年大幅に減少してきたが 2000 年以降 減少幅は下がる 産業別事故発生率 鉱業事故発生率推移 (1980~2009) 出典 :Nelson Pizarro 氏講演資料 (2010 年 9 月 29 日開催 COCHILCO セミナー ) COCHILCO ウエブサイト http://www.cochilco.cl/sala_prensa/presentaciones_seminario_sept2010.asp
チリの鉱業事故発生状況 鉱業関係事故は重大化する特徴がある 死亡事故は近年ほとんど減少せず 毎年 30 人以上が死亡 死亡者の半数は 第 II 州 (Antofagasta) 第 III 州 (Copiapo) に集中 特に 中小鉱山での死亡事故が多い 出典 :Nelson Pizarro 氏講演資料 (2010 年 9 月 29 日開催 COCHILCO セミナー ) COCHILCO ウエブサイト http://www.cochilco.cl/sala_prensa/presentaciones_seminario_sept2010.asp
2010 年のチリ鉱業 2010 年のチリ チリ大地震と復興 (2 月 ) ピニエラ政権発足 (3 月 )( 中道右派 20 年続いた中道左派政権に幕 ) チリ独立 200 周年記念 (9 月 ) サンホセ鉱山事故と坑内作業員救出 (8 月 ~10 月 ) 4 鉱業セクター見直しに関する政策課題 ビジネス界出身の大統領の元 効率性 投資効果を見据えたスピーディーな変革のための見直し 鉱業ロイヤルティ ( 鉱業特別税 ) 引き上げ地震復興のための予算確保 国会可決 10 月 21 日施行 CODELCOの改革と発展組織改革 ( 経営体制 人員整理 ) 銅機密法廃止法案新規投資資金の確保 ( 自己資本 社債 市中借入 ) 鉱山保安体制見直し ( 中小鉱山の鉱山保安 鉱務監督制度の強化 ) 閉山法制定 (2010 年 3 月国会承認 鉱山開発当初から閉山計画の策定と環境回復のための積立金 ) リチウム資源開発及び付加価値化リチウム鉱区管理に関する法改正と探鉱鉱区の解放 電池材料等高付加価値化の検討 投資市場の活性化 ( 証券市場の活性化と探鉱投資促進 ) 政府機関の改革 : 地質鉱業サービス局 (SERNAGEOMIN) チリ銅委員会(COCHILCO) の改革
チリ鉱業の課題 チリの銅生産コスト ( キャッシュコスト ) は約 90 セント /lb で 平均的 Escondia 等低コスト鉱山がある反面 高コストの鉱山もある 5 出典 : チリ銅委員会ウエブサイト http://www.cochilco.cl/sala_prensa/presentaciones_seminario_sept2010.asp
チリ鉱業の課題 世界の平均電力コストは7.9 /kwh チリは約 12 /kwh チリの電力コストは 2006 年の天然ガス輸入途絶以来 世界的に高い水準になり 生産コスト増加要因 チリの銅生産コストは 今後さらに上昇する可能性があるが 高い銅価が続けば大きな問題にはならない 銅価格には 長期的なサイクルがあるが 2010 年以降は価格上昇期に入った可能性もある 6 出典 :David Coomb 氏講演資料 (2010 年 9 月 29 日開催 COCHILCO セミナー ) COCHILCO ウエブサイト http://www.cochilco.cl/sala_prensa/presentaciones_seminario_sept2010.asp
銅プロジェクトの初期投資強度 初期投資強度 : 銅年産当たりの投資コスト k$/ 銅年産量 ( 平均 ) 今後予定されているチリの新規プロジェクトの初期投資強度は 10.9k$ 世界平均の 9.6k$ より やや高いレベルにある 競争性のある低コストプロジェクトの発見が不可欠 7 出典 :David Coomb 氏講演資料 (2010 年 9 月 29 日開催 COCHILCO セミナー ) COCHILCO ウエブサイト http://www.cochilco.cl/sala_prensa/presentaciones_seminario_sept2010.asp
CODELCO の投資計画 生産量 17.6 百万 t/2010 投資金額約 20 億ドル 現状のまま生産を続けると 2032 年に生産量は 100 千 t 以下まで低下 ( 赤 ) 2030 年に生産量 23 百万 t まで増加させるために 継続的な投資が必要 8 出典 :Diego Hernandez 氏講演資料 (2010 年 9 月 29 日開催 COCHILCO セミナー ) COCHILCO ウエブサイト http://www.cochilco.cl/sala_prensa/presentaciones_seminario_sept2010.asp
チリの鉱業政策の課題 鉱業ロイヤルティ ( 鉱業特別税 ) 引き上げ 地震復興のための予算確保 国会可決 10 月 21 日施行 鉱山保安体制見直し サンホセ鉱山事故で明らかとなった中小鉱山の鉱山保安 鉱務監督制度の強化 閉山法制定 鉱山開発当初から閉山計画の策定と環境回復のための積立金 CODELCO の改革と発展 組織改革 ( 経営体制 人員整理 ) 新規投資資金の確保 ( 新規投資の自己資本化 社債発行 市中借入による大規模資金投入 ) 投資市場の活性化 証券市場の活性化と探鉱促進 政府機関の改革 地質鉱業サービス局 (SERNAGEOMIN): 鉱山保安体制の見直し鉱山保安と地質情報サービスの分離 チリ銅委員会 (COCHILCO): 鉱業政策検討立案と調査統計部門の分離 リチウム資源開発及び付加価値化 リチウム鉱区管理に関する法改正 ( 原子力法 ) と探鉱鉱区の解放 電池材料等高付加価値化の検討 9
チリ : 鉱業ロイヤルティ ( 鉱業特別税 ) 改正 改正の目的 チリ地震 (2010 年 2 月 27 日 ) 復興予算確保 (3 年間 10 億ドル程度 ) 10 現行ロイヤルティ 2006 年 4 月発効 法律 20.026 号 ( 税率は所得税法 824 号 (1974 年 12 月発効 ) 第 64 条 2 項 ) 年間生産量に応じた税率 ( 営業利益 対象 ) 最低 :0.5%(12 千 t 年 ~15 千 t/ 年 ) 最高 :50 千 t/ 年以上生産する企業の 5% 2005 年に 移行期として 2006 年 ~2017 年 ( 納税条件不変期間 ) の税率低減 (5% 4%) 措置 改正のポイント 銅のみを対象 年間銅生産量 50 千 t 以上の鉱山会社 課税対象基準を 営業利益 から 営業利益率 に変更 実行税率は 現行の 5% から 4~9%(2010~2012) 5~14%(2018~2023) に引き上げ 納税条件不変期間 の扱い ( 放棄するか継続するかの選択権 ) 発効後の新規プロジェクトは新税率適用 新税率は 10 月 21 日より適用 国家再建の財源手当てのための種々法令改正案 (2010 年 5 月 ) 地震復興のみならず 中小 零細企業の投資 雇用創出インセンティブ付与等の目的も含む 下院可決 (9 月 16 日 57 対 54 の僅差 ) 上院可決 (10 月 13 日 ) 10 月 21 日施行 参考 :JOGMEC カレントトピックス ( チリ鉱業ロイヤルティ改正の現状 ) 2010 年 9 月 24 日
11 チリ ブラジル アルゼンチンの鉱業事情 チリの鉱業事情 鉱山保安 チリ鉱業の課題 チリ鉱業政策の課題 ブラジルの鉱業事情 新鉱業法制定準備 アルゼンチンの鉱業事情 氷河保全法 南米でのリチウム開発動向 チリ San Jose 鉱山事故と救出カプセル Phoenix
ブラジルの鉱業政策 12 現鉱業法 軍政時代の 1967 年に制定 1985 年の民政移管及び 1988 年の新憲法制定時も大きな変更なし 鉱山動力省 (MME) 2008 年から新鉱業法制定を検討 2009 年中に 州 業界と調整 2010 年 3 月素案完成 改正のポイント 鉱業審議会の設立 ( 新政策 ガイドライン 対策案の策定 評価 ) 投機目的の鉱区売買の規制強化 鉱山動力省地質鉱産局 (DNPM) 廃止及び鉱山保安監督局の設立 特別鉱種及び鉱区の設定 戦略的 経済的側面 ( 鉱物資源の経済価値 ) 肥料向け原料 ( カリウム リン ) 今後のスケジュール 2011 年 1 月の新政権発足後 2011 年 3 月国会審議開始 2011 年 9 月以降施行見込み
チリ ブラジル アルゼンチンの鉱業事情 13 チリの鉱業事情 鉱山保安 チリ鉱業の課題 チリ鉱業政策の課題 ブラジルの鉱業事情 新鉱業法制定準備 アルゼンチンの鉱業事情 氷河保全法成立 南米でのリチウム開発動向 チリ San Jose 鉱山事故と救出カプセル Phoenix
アルゼンチン 氷河保全法成立 氷河保全法案 9 月 30 日上院可決 アンデス氷河地域における鉱物資源採掘 石油掘削を禁止する法案 14 氷河保全法の内容 アンデス氷河地域及びその周辺地域の保全 汚染 損傷した場合の罰則について規定 氷河を公共財と規定し アンデス山脈の低地部まで保護区域に含める 氷河及びその周辺部では汚染 投棄 破壊等の環境改変を禁じる内容 鉱物資源及び炭化水素資源の探鉱 開発活動等が禁止 2 年前にも審議され国会承認 が大統領拒否権により廃案 Cristina Fernando de Kirchner 現大統領が Barrick Gold の鉱山開発計画を有する San Juan 州等における経済活動を阻害するという理由から 大統領拒否権を発動し廃案 大統領 拒否権発動せず 10 月 28 日施行 州によって異なる対応 鉱業振興を促進したい La Rioja Jujuy San Juan3 州は既に独自の氷河保全に係る州法を制定 地方政府が実施する EIA より 悪影響をもたらす場合 開発禁止 最終的には連邦政府が鉱業活動を規制する可能性があり 州と対立
アルゼンチン 氷河保全法成立 鉱業活動への影響 San Juan 州では Barrick Gold 社 Veladero 金鉱山 Yamana Gold 社 Gualcamayo 金鉱山が操業中 Pascua Lama プロジェクト その他のアンデス山脈高度地域における鉱山開発は完全に禁止され得る可能性がある Pascua Lama プロジェクト チリ アルゼンチンの国境に跨る 金銀開発プロジェクト 2013 年 Q1 の操業開始を目指し 計画どおりに作業進捗 操業開始後の 5 年間の年産量は 金 750~800 千 oz(23~25t) 銀 35 百万 oz(1,089t) 法案導入の背景 環境保護団体の反対運動が根底にあるが 氷河保護より 反鉱業的色彩が強い 鉱業企業の見方 最終的にはアルゼンチンの国家開発における鉱業インパクトの合理性が優先 プロジェクトを変更する時間的余裕あり 法案成立に影響されない (Barrick Gold 関係者 ) 15
チリ ブラジル アルゼンチンの鉱業事情 16 チリの鉱業事情 鉱山保安 チリ鉱業の課題 チリ鉱業政策の課題 ブラジルの鉱業事情 新鉱業法制定準備 アルゼンチンの鉱業事情 氷河保全法 南米でのリチウム開発動向 チリ San Jose 鉱山事故と救出カプセル Phoenix
チリにおけるリチウム開発の現状と課題 チリの位置づけ 埋蔵量 : 世界埋蔵量 990 万 t の 76%(750 万 t) 銅 レニウムと同様に世界最大の生産量 炭酸リチウム 53 千 t 塩化リチウム 4.4 千 t(cochilco 推定 2008) 生産世界シェア 40% 輸出の 9 割は 日本 米国 韓国 ドイツ ベルギー 中国向け 我が国のリチウム輸入の 80% 以上を占める 生産者は 民間企業 2 社 :SQM( チリ )* SCL(CHEMETAL 子会社 )* チリにおける政策的課題 戦略物資としての位置づけと政府管理 リチウム開発自由化促進の検討 ( 開発権解放 新たな JV 投資インセンティブ ) 新たな専門機関の設立検討 市場の拡大 ( 現在の輸出規模 3 億ドル ) 銅に比べて小さい市場規模 Pinera 新政権化での政策見直しにおいても 法改正は近くない 17 *:SQM:Sociedad Quimica y Minera de Chile( 本社 :Antofagasta) SCL:Sociedad Chilena del Litio( ドイツ CHEMETAL 子会社 )
チリにおけるリチウム資源の位置づけ リチウム開発は原子力法制で規定 チリ核エネルギー委員会 (CCHEN) の設立 (1965 年 ) 全ての天然放射性物質の調査 開発 生産は CCHEN の事前認可必要 リチウムの戦略物質 ( 核融合物質 ) としての規定 (1975) 国家管理のもと コントラクターによる放射性物質の調査 開発 生産 CCHEN による備蓄 売却 リチウム資源の開発 法令第 2886 号 (1979 年 11 月 14 日 ) 施行以前に所有権があり且つ登記済みのもののみ可能チリ開発公社 (CORFO) の OMA 所有権 ( アタカマ塩湖 ) CODELCO の所有権 ( ペデルナレス塩湖 ) 鉱業権に関する憲法基本法 ( 第 18,097 号 ) 新鉱業法 (1983 年 ) リチウムの国家帰属 一般鉱物資源からの除外 ( 鉱業法第 7 条 ) 本施行以前の権利は例外 一般鉱業権の範囲内でリチウムが出た場合届け出義務 現在のリチウム生産体制に至る経緯 政府によるアタカマ塩湖開発 (K,Li,Mg,B,S) リチウムに関し CORFO 経由で米国企業と開発 (1975) SCL 設立 (1984) 加 Chemetall の子会社化 (1998) カリウム ホウ酸塩に関し CORFO は国際入札で米国企業と開発 (1983) SQM がシェア取得 CORFO シェアもサンティアゴ証券市場で売却 (1995) 現在 SQM が 100% 所有 18
南米におけるリチウム開発の最近の動向 ボリビアの動向 COMIBOL: パイロットプラント建設で 5 百万ドル投資 2010 年中の運転開始計画 韓国 (KORES) 日本 (JOGMEC) がウユニ塩湖でのパイロット試験に参加 フランスは Bollore グループは提案に留まる 韓国の南米進出 ボリビア (COMIBOL) とウユニ塩湖での試験開発合意 モラレス大統領 イ ミョンバク大統領 MOU サイン (2010 年 8 月 ) 共同研究グループ創設 企業コンソーシャム設立 パイロット試験 アルゼンチンでのリチウム探鉱で合意 (2010 年 6 月 ) KORES Lithium One 社 ( 加 ) の Sal de Vida プロジェクト (Salta 州 Hombre Muerto 塩湖 ) の探鉱 FS への資金提供 権益オプション 30% リチウム引き取り権 50% 販売権 ( 日本 韓国 中国 ) 韓国企業の参加権についても合意 チリで塩湖開発の権益確保 KORES とサムスン チリ NX uno 社 ( エラズリスグループ ) とフラ フラプロジェクト (2010 年 11 月 ) 日本のリチウム戦略 豊田通商 アルゼンチンのリチウム プロジェクトの権益を取得 豪オロコブレ社と合意 (2010 年 1 月 ) JOGMEC チリでリチウムを含むレアメタル資源開発で協議開始を合意 (2010 年 11 月 ) 19
チリ San Jose 鉱山事故と救出カプセル Phoenix この事故は チリに多くの中小鉱山があることを教えてくれた そして 中小鉱山の保安体制の見直しを始めるきっかけとなった 救出成功の鍵は Pinera 大統領の機敏な決断 チリ鉱業の技術力 そして結束力の賜物 救出の成功は 独立 200 周年のチリに大きな自信を与えた 救出後 Phoenix は上海に渡り 資源外交の役割も果たした 救出カプセル Phoenix 20 救出カレンダー 8 月 5 日 : 事故発生 8 月 8 日 : 掘進開始 8 月 22 日 : 無事確認 Estamos Bien 9 月 18 日 : ナショナルデー 10 月 13 日未明 :1 人目救出 上海万博会場 (10 月 27 日 ) 地元コピアポにて (10 月 20 日 ) 救出に使われた実機 ( サンティアゴ モネダ宮殿前 10 月 30 日 ) 写真左はチリ CESCO 事務局長 Guajardo 氏提供 その他は筆者提供
ご清聴 ありがとうございました 21