ング XPS TOF-SIMS 固体NMR による分析を行 特集 自動車関連 4 耐候性試験による 自動車用樹脂部品の劣化解析 材料物性研究部 構造化学研究部 表面解析研究部 高橋 秀明 三橋 和成 石田 宏之 高橋久美子 い 耐候性試験の影響を調べた結果を紹介する 2 測定結果 2 1 試料調整 市販のバンパーから試験片を切り出し 耐候性試験に 用いることにした 試験片外観を図2に示す 予めバン 1 はじめに パーに施されていたコーティングは除去した 有機組成 分析を行い バンパーのポリマー成分はエチレン/プロ 自動車には金属 無機 高分子など 種々の材料が ピレン共重合体であり タルクと微量の酸化防止剤が含 使用されている その中で 環境負荷低減のための軽量 まれていることがわかった 耐候性試験は サンシャイ 化 成形加工のコスト低減等を目的として 高分子材料 ンウェザーメーターを用いてJIS D0205 WAN-H準拠の の適用が進んでいる 図1に高分子材料が使用されてい 条件下で実施した 試験時間は400時間である る主な自動車部品を模式的に示す 図には示していない 燃料系 配線系を含めると 非常に多くの部分で高分子 以下では 耐候性試験を行った試料を処理品 行って いない試料を未処理品と称することにする 材料が活用されていることがわかる 高分子材料の中でもポリプロピレン PP は物性お よび環境適応性の観点から最も多く使用されており バ ンパーやドアトリム等の内外装各種部品に活用されてい る また ポリアミド PA やフッ素樹脂等は燃料系 部材に ポリブチレンテレフタレート PBT は配線部 材に 種々の高分子材料がその特性を生かして活用され ている さらに 軽量化の効果的な対策として 高分子 と繊維等から構成された複合材料の構造部材への活用も 拡大しつつある ところで 自動車を構成する部品は 長期にわたって太陽光や風雨といった厳しい自然環境下 だけでなく 熱や有機溶媒 ガス等に曝される環境下で 使用されるため 性能低下 劣化 する可能性が高い 図2 耐候性試験用試験片の外観 したがって 各部品の耐候性および構造変化の有無度合 いを把握することが重要となる 2 2 機械特性および分子量分布測定 動的粘弾性法を用いて粘弾性 温度曲線を得ることに より 試料の弾性率の温度変化やガラス転移温度等がわ かる 図3に各試料より作製した試験片の貯蔵弾性率 E 損失弾性率 E の温度依存性を示す 周波数は1Hz 昇温速度は5 /分とした 処理品の厚さは 耐候性試験を行った面 以下 処理 面 を含めて約1mmである -50 以上において 温度 上昇と共にE が低下する -50 付近にE の極大が見ら 図1 高分子材料が使われている主な自動車部品 れる この極大は試料のガラス転移を反映したものと考 えられる また -50 以上において E には急激な低 下が見られず 試料の結晶性が高いことがわかる これ らは 別途行ったDSC測定からも支持される このような背景の下 本稿では耐候性試験を行った樹 ただし 本測定では試料間差は明確になっていない 脂部品 バンパー に対して 動的粘弾性法 ゲル浸 試験片が厚く 耐候性試験による変化が及んでいない部 透クロマトグラフィー GPC 法 顕微赤外イメージ 分を多く含んでしまったためと考えられる 19 東レリサーチセンター The TRC News No.108 Jul.2009
また GPC測定で得られる溶出曲線においては 同濃 度の未知試料と完全可溶試料のピーク面積比を用いて 未知試料中の不溶成分含有率を求めることができる 本 報では 不溶成分をタルクとみなして タルク含有率を 求めてみた ポリエチレン PE と屈折率の濃度依存 性 d dn /d dc が同じと仮定して算出した 各試料のタル ク含有率を表1に示す 表1 図3 各試料のタルク含有率 各試料の貯蔵弾性率 損失弾性率の温度依存性 未処理品のタルク含有率は 別途熱天秤によって計測 そこで GPC測定により 分子量分布を調べること した残渣量から求めた含有率とほぼ一致しており 妥当 にした GPC測定は 樹脂成分が数10mgあれば可能で 性が裏付けられる また 処理品表層サンプルのタルク ある そこで 処理品については 処理面から100μm 含有量は未処理品等よりも大きくなっている 後述のタ 以下の領域を採取して測定に用いた 以下 処理品表層 ルクの偏析とよく対応しており 含有量を定量化できる サンプルと称す 溶媒としてトリクロロベンゼンを用 点で有用な手法といえる い 測定温度は145 とした 図4に各試料中の可溶成分のGPC曲線 溶出曲線 を 示す 図中 長時間側が低分子量 短時間側が高分子量 2 3 顕微赤外イメージングによる深さ方向分析 2 3 1 フーリエ変換赤外分光分析法 に対応する 各試料は同じ濃度になるように溶媒に溶解 フーリエ変換赤外分光分析法 Fourier Transform させ 不溶成分を濾過等によって除去してから測定を Infrared Spectroscopy FTIR は 官能基の情報から 行った また 図には 処理面を含めてバルクとして採 化学構造を解析する手法である 近年の科学技術の発展 取した処理品 以下 処理品バルクと称す のGPC曲 により 汎用機が比較的低価格で流通し始めたことによ 線も併せて示した 分子量はポリスチレン基準の値であ り 工場などの生産現場から最先端の研究まで 工業材 る 未処理品および処理品バルクは重量平均分子量が 料 エレクトロニクス 医薬 バイオ 環境 エネル 350000 390000であり 分子量分布形状にも大きな差 ギーといった様々な分野で利用されている が見られない 一方 処理品表層サンプルは重量平均分 子量が5300であり 未処理品よりも大きく低分子量化し 2 3 2 顕微赤外イメージング 数ある赤外測定法の中でも FTIRと顕微鏡を組み合 ている わせた顕微赤外イメージングに着目した 顕微赤外法では 10μm程度の微小部を測定すること が可能であることから 異物分析に使用されることが多 い さらに 試料ステージを高精度に移動させてイメー ジングを行うことにより2次元分布測定を行える特徴が ある 本報では 顕微赤外イメージング法により官能基分布 に着目した深さ方向分析を行った 2 3 3 深さ方向分析のための試料調整 ミクロトームを使用して厚さ約20μmに切り出したも のを試料とした 図5に処理品の試料概略を示す 処理 品については 処理面と垂直な面を深さ方向分析の測定 面とした 図4 各試料の溶出曲線 20 東レリサーチセンター The TRC News No.108 Jul.2009
図5 2 3 4 処理品の試料概略 顕微赤外イメージングによる官能基分布 図6に各試料の処理面近傍の赤外スペクトルを示す 図中に主な帰属を記した スペクトルから 本試料の組 成はエチレン/プロピレン共重合体であり 添加剤成分 としてタルクが検出された 前述の有機組成分析により 得られた結果が本結果を支持している 図7 エステル由来のピーク面積比イメージング像 次に 樹脂中のフィラー成分であるタルクが耐候性試 験により偏析が生じていないか 3675cm-1のタルクに由 来する吸収帯に関しても同様にイメージングを行った 図8に示すように 未処理品では樹脂中でほぼ均一にタ ルクが存在しているのに対して 処理品におけるタルク の分布は異なっていた すなわち 表層付近ではタルク 濃度が低いが 表面から約100μmまでの領域でタルク 濃度が増加していた 表層付近では耐候性試験によって タルクが欠落した一方で 表面から約100μmまでの領 域では樹脂表面が劣化してタルクが偏析したと考えられ る この結果は GPC測定において 処理品表層から 図6 表面から10μm付近の赤外吸収スペクトル 100μmの領域から採取した成分のタルク含有量が増大 していたという結果を支持する スペクトルから 処理品では未処理品と比較して1760 1710cm-1付近のエステルに由来する吸収帯強度が強く 出現していた 水酸基も多く検出されていることから 酸化劣化が生じていることが推察される そこで 樹 脂の劣化を評価するにあたり 1730cm-1付近の吸収帯強 度の分布を求めた 強度分布のイメージング像を求め る際 干渉縞およびベースラインドリフトの影響を取 り除くため スペクトルを二次微分し 1458cm-1付近の CH変角振動に由来するピーク面積を基準として規格化 を行った 図7に各試料のエステルに由来する1730cm -1 /1458cm -1のピーク面積比のイメージング像を示す 未 処理品ではエステルに由来する吸収帯はごく僅かしか検 出されていないのに対して 処理品では表面 処理面 から約200μmまでの領域でエステルが多く検出され た 処理により樹脂内層部まで酸化劣化が進行している ことが推察される 図8 タルク由来のピーク面積比イメージング像 21 東レリサーチセンター The TRC News No.108 Jul.2009
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図10 図11 各試料断面のTOF-SIMS正2次イオン像 上段 未処理品 下段 処理品 2 6 2 未処理品の13C DD/MASスペクトル 250 耐候性試験前後での化学構造変化 このようにTOF-SIMSでは 顕微赤外イメージングお 耐候性試験前後での化学構造変化を調べるために 未 よびXPSで示唆された樹脂の酸化劣化に加えて 酸化防 処理品 処理品バルク 及び処理品についてGPC測定と 止剤や紫外線吸収剤など特定の添加剤の分布を視覚的に 同様に 処理面から厚さ100μm以下の領域を採取した 捉えることができる 試料 処理品表層 の3試料について 固体13C NMR測 定を行った 2 6 固体13C NMR測定による化学構造解析 固体NMR法では スペクトルより定性的な構造情報 図12に未処理品と処理品バルク 及び処理品表層の 13 C CP/MASスペクトルを示す 未処理品と処理品バル を得られるだけではなく 定量測定による組成分析も可 クでは 50 20ppmの領域にのみピークが観測され 両 能である その際 融点近傍あるいは融点以上の高温で 試料のスペクトルには大きな差は見られなかった これ の測定を行えば 溶液スペクトルに近い非常にシャープ らのピークは図中の帰属のとおり ポリプロピレン ポ なスペクトルを得ることができ より詳細な情報を得ら リエチレン共重合体に由来する れる また 分子運動性が反映される緩和時間を測定す ることで 結晶性や 結晶化度 配向度 架橋度などの 相対評価も可能である 2 6 1 ポリマー成分の組成分析 前述のように有機分析の結果から ポリプロピレン とポリエチレンの共重合体と判明している樹脂中のポ リマー成分について組成分析を行うため 固体高温 13C NMR測定を実施した 固体NMR法を用いることで タ ルクなどのフィラー成分との分離を要することなく 組 成の定量測定を行うことが可能である 図11に未処理品について250 にて測定した固体 13C DD/MASスペクトルを示す 本試料ではタルクが存在し 図12 各試料の13C CP/MASスペクトル 室温 ている影響で200 以上に加熱する必要があったが ポ リマーを溶融することで 室温 図13 に比べて非常に シャープなスペクトルを得られている 図11のスペクトル中に各ピークの帰属を示した こ 一方 処理品表層においては 図12中の縦軸拡大スペ こでPxx Sxx Txxは各々メチル メチレン メチンに対 クトルで明らかなように 未処理品と処理品バルクでは 応し 添字xのギリシア文字は最も近いメチル分岐から 観測されなかった新たなピークが 約175ppm 約 の位置 α β γ δは各々1 2 3 及び4以上に 85ppm 約75ppmに観測された これらはエステルのカ 対応 を示している この帰属とピーク面積比より ルボニル炭素や エステルやエーテルなどの酸素隣の脂 ポリマー成分中のポリプロピレン P とポリエチレン 肪族炭素に由来するものと考えられる 処理面近傍で酸 E のモノマー組成比はP/E = 69/31 ダイアド比は 化が生じ エステルの量が増大しているという顕微赤外 PP/PE/EE = 60/18/22と見積もられた イメージングや表面分析等の結果を支持するものであ る 23 東レリサーチセンター The TRC News No.108 Jul.2009
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