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12. 地価公示は 土地鑑定委員会が 毎年 1 回 2 人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求め その結果を審 査し 必要な調整を行って 標準地の正常な価格を判定し これを公示するものである 13. 不動産鑑定士は 土地鑑定委員会の求めに応じて標準地の鑑定評価を行うに当たっては 近傍類地の取 引価格から

~ 都市計画道路予定地の評価 ~ 今回の豆知識では 我々不動産鑑定士が日常の評価業務において良く目にする 都市計画 道路予定地 の評価について取り上げてみたいと思います 1. 都市計画道路とは? 都市計画法では 道路 公園 下水道処理施設等の施設 ( 都市施設 ) のうち必要なものを都市計画に定める

73,800 円 / m2 幹線道路背後の住宅地域 については 77,600 円 / m2 という結論を得たものであり 幹線道路背後の住宅地域 の土地価格が 幹線道路沿線の商業地域 の土地価格よりも高いという内容であった 既述のとおり 土地価格の算定は 近傍類似の一般の取引事例をもとに算定しているこ

第 6 回令和元年度固定資産評価実務者勉強会 第 3 部 税理士による最近の各種課税評価に関するお話 講師 : 税理士 不動産鑑定士 赤川明彦 ( 株式会社土地評価センター取締役 ) copyright 2019 KOTOBUKI PROPERTY ASSESSMENT all rights res

1 天神 5 丁目本件土地及び状況類似地域 天神 5 丁目 本件土地 1 状況類似地域 標準宅地

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< 解答例 > 一小問 (1) について不動産の価格は 不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが その形成の過程を考察するとき そこに基本的な法則性を認めることができる 不動産の鑑定評価は その不動産の価格の形成過程を追究し 分析する

土地の概要 - 1 事例 A 8, m2 正面路線価 150 千円 借地権割合 70% 地区区分 ビル街地区 5.0 m m 地形 (: 計算方法 ) 旗状地 同説明 旗地 敷地延長とも言われる 狭小 奥行長大が適用されることが多い 路線価 ( 千円 ) 奥行補正 狭小 奥行

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市街地再開発事業による社会的便益の分析

1. 住宅地価格査定マニュアル 改訂の概要 (1) 大都市圏版 と 標準版 の区分を廃止し 一本化 1 改訂前は 査定地 ( 事例地 ) が所在する地理的要因に基づき大都市圏版または標準版のいずれかを査定者が選択し かつ 大都市圏版と標準版では各査定項目の評点について異なる設定としていますが 改訂で

不動産鑑定士からみた広大地評価の留意点 (1) 広大地かどうかを判断するには 1 チェック項目 大規模工業用地ではない? または 1,000 m2以上? はい 1,000 m2以上あります 最寄の駅から徒歩 15 分以上? はい 15 分以上かかります周辺は住宅地でマンションが建っていない? はい

LEC 東京リーガルマインド 複製 頒布を禁じます 平成 29 年度不動産鑑定士論文式試験 ズバリ的中 鑑定理論 論文問題 問題 1 (50 点 ) 移行地に関する次の各問に答えなさい (1) 不動産の種別における移行地の定義について 見込地と比較した上で 説明しなさい (2) 移行地の個別的要因に

計算式 1 1 建物の価額 ( 固定資産税評価額 ) =2 長期居住権付所有権の価額 +3 長期居住権の価額 2 長期居住権付所有権の価額 ( 注 1) =1 固定資産税評価額 法定耐用年数 ( 経過年数 + 存続年数 ( 注 3)) 法定耐用年数 ( 注 2) 経過年数 ライプニッツ係数 ( 注

図 1 平成 19 年首都圏地価分布 出所 ) 東急不動産株式会社作成 1963 年以来 毎年定期的に 1 月現在の地価調査を同社が行い その結果をまとめているもの 2

あるが 人が通り抜けられる状態となっており 効用の増加が認められると判断しているので 1% を加算している 公法上の規制による減価の1% について 用途地域が第一種低層住居専用地域で 建蔽率の差が10% 容積率の差が20% こちらを勘案して1% の減価としている その他減価の整地の3% について 整


ており 土地の個別的要因に係る補正が全て考慮されたものとなっていることから 土地の形状 道路との位置関係等に基づく個別的要因に係る補正 すなわち評価通達 15(( 奥行価格補正 )) から 20(( 不整形地の評価 )) まで及び 20-3(( 無道路地の評価 )) から 20-6(( 容積率の異な

指定標準 適用区域 建ぺい率 容積率 建築物の高さの最高限度 m 用途地域の変更に あたり導入を検討 すべき事項 ( 注 2) 1. 環境良好な一般的な低層住宅地として将来ともその環境を保護すべき区域 2. 農地等が多く 道路等の都市基盤が未整備な区域及び良好な樹林地等の保全を図る区域 3. 地区計

第 1 基本的事項 1 業務内容についての順守事項本業務を行う不動産鑑定士又は不動産鑑定士補 ( 以下 不動産鑑定士等 という ) は 本業務が単に個別地点について行う鑑定評価と異なり 同一価格時点で大量に行う鑑定評価であり 特に面的な価格の均衡が求められる固定資産税評価のための基礎資料を作成するも

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借地権及び法定地上権の評価 ( 競売編 ) 出典 : 株式会社判例タイムズ出版 別冊判例タイムズ第 30 号 借地権の評価 第 1 意義 借地権とは 建物所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう ( 借地法 1 条 借地 借家法 2 条 1 号 ) 第 2 評価方法 借地権の評価は 建付地価格に

目 次 1 固定資産税と固定資産税評価 1 1 固定資産税とは 1 2 固定資産税の課税のしくみ 2 (1) 固定資産税を納める人 ( 納税義務者 ) 2 (2) 税額の計算 2 2 固定資産税評価のあらまし 1 固定資産税評価の意義 2 固定資産税評価によって求める価格とは 3 固定資産の価格を求

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予定建築物等以外の建築等の制限 法 42 条 立地基準編第 5 章 (P127~P131) 法第 42 条で規定されている 予定建築物等以外の建築等の制限 については 次のとおりとする 1 趣旨開発許可処分は 将来その開発区域に建築又は建設される建築物又は特定工作物がそれぞれの許可基準に適合する場合

本文・不動産相続2014

第 5 章 N

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□高度地区見直し案

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目   次

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自宅の他に賃貸マンションと駐車場を所有している人のデータ 自宅の他に賃貸マンションと駐車場を所有している人の 法定相続人の数と相続財産および債務のデータから相続税を試算します 賃貸マンションについては全室が賃貸用かどうか 駐車場については舗装がしてあるかどうかで評価額が違ってくることがあります また

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スライド 1

計画書

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例会レジュメ

電子メール テンプレート (標準)

TAS-MAP 土地建物評価土地建物評価 レポートのサンプル 評価レポート (PDF) 評価額 比準表 評価条件 事例一覧 路線価表示住宅地図 公示等推移グラフ 変動率 固定資産税データを使用した場合このページは出力されません 事例プロット図 評価レポート (Excel) エクセル形式では土地建物レ

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第 Ⅱ ゾーンの地区計画にはこんな特徴があります 建築基準法のみによる一般的な建替えの場合 斜線制限により または 1.5 容積率の制限により 利用できない容積率 道路広い道路狭い道路 街並み誘導型地区計画による建替えのルール 容積率の最高限度が緩和されます 定住性の高い住宅等を設ける

Ⅰ 用途地域指定の基本方針 1 用途地域別 市街地像 と指定の基本方針 1 2 境界の設定 4 3 用途地域見直しの時期 5 4 その他の地域地区や地区計画の活用 6 Ⅱ 用途地域の指定基準 第一種低層住居専用地域 7 第二種低層住居専用地域 9 第一種中高層住居専用地域 11 第二種中高層住居専用

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( 資料 3) 比較検討した住宅 (%) 注文住宅取得世帯分譲戸建住宅取得世帯分譲マンション取得世帯 中古戸建住宅取得世帯 中古マンション取得世帯 ( 資料 4) 住宅の選択理由 (%) 注文住宅取得世帯分譲戸建住宅取得世帯分譲マンション取得世帯 中古戸建住宅取得世帯 中古マンション取得世帯 ( 資

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144 第 2 章宅地等の評価第 3 個別事情のある宅地の評価 このような過小宅地を評価する場合 財産評価基本通達における原則評価 ( 奥行価格補正率や奥行長大補正率等 ) のみでは上記の要因が十分に考慮されているとは言い難く 市場価値である時価と大きく乖離しているケースが見受けられます よって 本

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2 税額控除等の計算 ( 単位 : 円 ) 項目対象者計算過程金額 答案用紙 Chapter2 問題 3 課税価格の計算 Ⅰ 相続人及び受遺者の相続税の課税価格の計算 1 分割財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 2 みなし取得財産価額の計算 ( 単位 : 千円 ) 取得者財産の種類計算過程金額

[ 地区計画における地区施設道路等の整備効果に関する分析 ] まちづくりプログラム MJU09061 津田あゆみ はじめに 1-1 研究の目的と背景都市計画区域内においては地域地区制 ( ゾーニング ) による土地利用規制が行われている これらの土地利用規制は規制がなかった場合に用途や高さの混在によ

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病院等における耐震診断 耐震整備の補助事業 (1) 医療施設運営費等 ( 医療施設耐震化促進事業平成 30 年度予算 13,067 千円 ) 医療施設耐震化促進事業 ( 平成 18 年度 ~) 医療施設の耐震化を促進するため 救命救急センター 病院群輪番制病院 小児救急医療拠点病院等の救急医療等を担

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θ の中心 次に 開口直上部分等から開口部の中心線までの距離 :( 垂直距離 ) ( 上図参照 ) を求めます. この を で割った値 = = θ θ の値が大きいほど採光に有利 上式が 採光関係比率 となります. 採光関係比率というのは, 水平距離 : が大きくなるほど大きくなり, 垂直距離 :

首席国有財産鑑定官

3. 市街化調整区域における土地利用の調整に関し必要な事項 区域毎の面積 ( 単位 : m2 ) 区域名 市街化区域 市街化調整区域 合計 ( 別紙 ) 用途区分別面積は 市町村の農業振興地域整備計画で定められている用途区分別の面積を記入すること 土地利用調整区域毎に市街化区域と市街化調整区域それぞ

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第 2 章各種の補正 1. 奥行価格補正 Step1 机上調査 公図の奥行を三角スケールをあてて計測したところ おおよそ 13mであった 土地の地積は 110 m2である < 公図 > Step2 現地調査 現地調査において 奥行をメジャーで測ったところ 11.9mであった <

1 目的 建築基準法第 68 条の 5 の 5 第 1 項及び第 2 項に基づく認定に関する基準 ( 月島地区 ) 平成 26 年 6 月 9 日 26 中都建第 115 号 建築基準法 ( 昭和 25 年法律第 201 号 以下 法 という ) 第 68 条の 5 の 5 第 1 項 及び第 2

2. 適用を受けるにあたっての 1 相続発生日を起算点とした適用期間の要件 相続日から起算して 3 年を経過する日の属する年の 12 月 31 日まで かつ 特例の適用期間である平成 28 年 4 月 1 日から平成 31 年 12 月 31 日までに譲渡することが必要 例 平成 25 年 1 月

名前 第 1 日目 建築基準法 2 用途規制 1. 建築物の敷地が工業地域と工業専用地域にわたる場合において 当該敷地の過半が工業地域内であると きは 共同住宅を建築することができる 2. 第一種低層住居専用地域内においては 高等学校を建築することができるが 高等専門学校を建築する ことはできない

[2] 道路幅員による容積率制限 ( 基準容積率 ) 敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合を 容積率 といい 用途地域ごとに容積率の上限 ( 指定容積率 ) が定められています しかし 前面道路の幅員が 12m 未満の場合 道路幅員に応じて計算される容積率 ( 基準容積率 ) が指定容積率を下回る

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表紙

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1. 固定資産税 都市計画税について 固定資産税は 毎年 1 月 1 日 ( 賦課期日 といいます ) 現在に土地 家屋 償却資産 ( こ れらを総称して 固定資産 といいます ) を所有している人が その固定資産の所在する 市町村に納める税金です 都市計画税は 下水道 街路 公園などの都市計画事業

北部大阪都市計画彩都地区計画 ( 案 ) 北部大阪都市計画彩都地区計画を 次のとおり変更する 1. 地区計画の方針 名称彩都地区計画 位 置 茨木市大字粟生岩阪 大字宿久庄 大字清水 大字佐保 大字泉原 大字千提寺 大字大岩 大字福井 大字大門寺 大字生保 大字安威 山手台一丁目 山手台三丁目 山手

2. 適用を受けるにあたっての 1 相続発生日を起算点とした適用期間の要件 相続日から起算して 3 年を経過する日の属する年の 12 月 31 日まで かつ 特例の適用期間である平成 28 年 4 月 1 日から平成 31 年 12 月 31 日までに譲渡することが必要 例 平成 25 年 1 月

マンション評価においては管理規約の確認が必須である. マンション 敷地は借地権であるが 賃貸借契約内容が欠落 マンション 採用数量が登記数量となっているが 評価が契約数量なら契約数量とすべき 借地権付建物 借地の種類は 旧借地法による借地 と新旧借地法の適用区分が分かるように記載すること 地代 契約

西原町 2~4 丁目地区 区域図 西原町 2~4 丁目地区 低密度住宅ゾーン 中密度住宅ゾーン 戸建ての低層住宅地を主体に落ち着いた雰囲気を持った良好な居住環境の形成を誘導します また 都市農地の保全に努め 農地と共存した良好な居住環境の形成を誘導します 低層住宅と中高層住宅が調和した良好な居住環境

情報社会科学論集第9巻

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(2) 路地街区 ア路地街区の内部で 防火性の向上と居住環境の改善を図るため 地区施設等に沿った建築物の高さの最高限度及び壁面の位置の制限を定めることにより 道路斜線制限を緩和し 3 階建て耐火建築物の連続した街並みを形成する イ行き止まりの路地空間では 安全性の確保のため 2 方向の避難を目的とし

目次 Ⅰ 運用基準の策定にあたって P1 1 策定の目的 P1 2 運用基準の位置づけ P1 Ⅱ Ⅲ 土地利用のあり方 P1 地区計画の活用 P2 1 地区計画とは P2 2 地区計画の活用類型 P2 (a) 地域資源型 P3 (b) マスタープラン適合型 P3 (c) 街区環境整序型 P3 (d)

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令和元年長崎県地価調査結果の概要について 1. 調査目的等地価調査は 地価公示と併せて一般の土地取引の価格に対する指標及び公的土地評価の基準等となるものであり 毎年 1 回 7 月 1 日現在の県下の基準地価格を判定し 公表している 基準地数 :447 地点 ( 住宅地ほか :438 地点林地 :9

おき 太郎様 Inheritance Report 相続診断書 税理士法人おき会計 平成 28 年 7 月 20 日作成

表紙1_4

目次 方針策定の背景 1-1. 用途地域指定の基本的な考え方 1-2. 住居系 [ 第一種低層住居専用地域 ] [ 第二種低層住居専用地域 ] [ 第一種中高層住居専用地域 ] [ 第二種中高層住居専用地域 ] [ 第一種住居地域 ] [ 第二種住居地域 ] [ 準住居地域 ] [ 田園住居地域 ]

山形県県土整備部資材単価及び歩掛等決定要領

5. 実現化に向けた検討 (1) まちのデザイン まちのデザインとして目指すこと 周辺環境と調和するよう 導入施設に関してルールを考えるとともに 建築物等の高さ やデザインについてもルールづくりを考えます 建築物等のデザインのルールづくり ( 例 ) 建築の高さやデザイン 敷地規模を設定し統一のとれ

Transcription:

はじめての鑑定実務 第 2 回 - 更地の比準価格の求め方 2- 不動産鑑定工房 不動産鑑定士 菱村寛 不動産鑑定評価基準 は 鑑定評価の行為指針です 昭和 39 年に設定されて以来 昭和 44 年 平成 2 年 平成 14 年 平成 19 年の改定等を経て現在に至っています その間 要因分析や評価手法の精緻化 多様な類型への対応が図られただけでなく 不動産鑑定士に求められる説明責任 はより重いものとなってきました 評価手法に関して言えば 対象不動産の状況に応じて複数の手法を併用するのはもちろんのこと 手法適用手順の一つ一つについて十分な根拠をもって判断を下すことが必要となります 一般の鑑定業者で働く新人の方は まず更地評価の補助を任されることが多いと思いますが 更地評価だから簡単 ということは決してありません 今回は 更地の比準価格を求める際の 要因比較 についてご紹介します 専門家としての説明責任を果たすため 一つ一つの比較内容についてしっかり裏付けを用意してください なお 要因比較の書式例は 本誌 2008 年 8 月号を参照してください 要因比較の意義取引価格は 取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから 1 近隣地域と当該事例不動産の存する地域との地域要因の比較及び 2 対象不動産と当該事例不動産との個別的要因の比較を行うものとする ( 基準 総論第 7 章 ) 一般に住宅地の価格水準は 居住快適性や生活利便性に影響を与える要因に 商業地の価格水準は 収益性に影響を与える要因に大きく左右される また マンション地や中高層ビル地など高度利用すべき土地については 容積率が重要な要因となる 1 価格形成要因の比較に際しては 対象地の種別ごとに重視すべき要因を把握しなければならない なお 複合不動産の取引事例に配分法を適用して土地の事例資料を導出した場合 当該事例に建付増減価が認められるなら 要因比較に先立ち 建付増減価の補正を行う必要がある 建付増減価の補正 自用の建物及びその敷地 ( 以下 自建 ) の取引事例に配分法を適用して求められた土地価格は あくまで 建付地 価格である 事例建物の構造 用途と事例敷地の最有効使用とが合致していないときは 通常 建付減価又は建付増価に係る補正が必要となる 1 事例建物の継続使用が最有効使用の場合事例建物の構造 用途と事例敷地の最有効使用とが合致していれば 建付増減価補正は不要である 建付増減価補正が必要となる場合としては 容積率超過の既存不適格建築物 高度商業地域に立地する容積率未消化の建築物などが挙げられる ( 後述 ) 2 事例建物の取壊しが最有効使用の場合事例不動産が自建の場合 取引価格 + 取壊し費用等 が更地価格となる 取壊し費用等が更地価格の 3% 相当なら 取引価格に建付減価補正率 100/97 を乗ずればよい 一方 事例不動産が 貸家及びその敷地 の場合 取引価格 + 取壊し費用等 + 立退料等 が更地価格となる しかし 立退料等を査定するには借家契約内容やテナントの営業状況等を把握する必要があり 事例として採用することは困難である 標準化補正 ( 事例地の個別的要因 ) 事例地の取引価格はその個別的要因を反映している そこで要因比較に当たっては まず標準化補正を行って 当該事例の属する地域の価格水準 ( 標準的画地の価格 ) を査定する

標準化補正は 標準的画地の価格指数を 100 と設定した上 事例地の価格指数を査定することにより行う a. 街路条件例えば 事例地の幅員は 3m だが地域の標準幅員を 4m と想定した場合や 事例地の正面街路が行止り私道の場合などは 幅員や系統による格差を査定する b. 交通 接近条件例えば 最寄り駅から事例地までの距離が 標準的画地までの距離と異なる場合 駅距離による格差を査定する ただし 地域の範囲を十分に狭く絞り込んでいれば 当該格差を考慮する必要はない c. 環境条件地域要因比較において考慮することが多いが 高圧線下地など影響の及ぶ範囲が狭い要因については 標準化補正において考慮すべきだろう d. 行政的条件例えば 事例地が 2 つの異なる容積率地域に跨るため その容積率が標準的画地と異なる場合 容積率格差を査定する e. 画地条件 (a) 規模規模の違いが宅地の単価に与える影響は大きい 戸建住宅地の場合 需要者の支払可能額に限度があるので 標準的規模より事例地の規模が大きいと単価は低くなる傾向がある 一方 マンション地や商業ビル地については 大規模地の方が希少性があること 効率的な開発が可能であることなどから 単価が高くなることがある とりわけ 大規模であるため総合設計制度 ( 建築基準法第 59 条の 2) の適用が可能となる場合などは 周辺の地価水準を大きく上回ることが多い 規模の類似する事例を選択することが優先事項であるが 異なる事例を採用せざるを得ない場合は できるだけ多数の事例を比較検討すること等により 規模の違いが価格にどのような影響を与えるか把握しなければならない (b) 形状 接面街路との関係 ( 角地 高低差等 ) 間口と奥行のバランス 整形地か否か 中間画地か角地か 高低差の有無とその程度などによる格差を査定する これらの要因格差については 公的な評価基準等 ( 注 ) を参考とすることも有用であるが 説明責任を果たすためには 必要に応じ他の評価手法による検証を行うとよい ( 後述 ) (c) セットバック等事例地の接面する街路が建築基準法第 42 条第 2 項の 2 道路に該当する場合 原則としてその中心線から 2m までセットバックしなければならない また 事例地の接面する街路が私道の場合 当該私道沿いの宅地が互いに道路敷を提供していることがある 事例地のうちセットバック部分や私道敷 ( 建築基準法上の道路敷 ) 部分は 建築基準法上の敷地と認められないので その面積割合に応じた格差補正が必要となる 都市部の評価では セットバック部分等を無価値と判断することが一般的である 地域要因の比較地域要因の比較は 近隣地域の価格指数を 100 と設定した上 類似地域の価格指数を査定することにより行う a. 街路条件幅員の広狭 系統 連続性の良否 街路配置の状況等が 住宅地域の快適性 利便性 商業地域の収益性に与える影響度を考慮して格差を査定する 一般に幅員が広いほど 系統 連続性が優るほど 街路が整然としているほど効用 ( 価格指数 ) が高くなる ただし 例えば 正面街路の人通りが多く静謐な環境が阻害されている住宅地域や 中央分離帯により車両の出入りが阻害されている郊外路線商業地域などにおいては 幅員の広いことがマイナスに作用していることもある あくまでも需要者の視点で効用格差を査定すべきである 表 1 標準住宅地域に係る街路要因比準表 ( 参考 ) 優る普通劣る幅員 +3.0 ±0-3.0 舗装 +1.5 ±0-1.5 配置 +2.0 ±0-2.0 系統 連続性 +2.0 ±0-2.0 土地価格比準表 ( 注 ) から抜粋 要約 b. 交通 接近条件最寄り駅等との接近性の違いが 利便性等に与える影響度を考慮して格差を査定する 鉄道網の整備された都市部の住宅地や商業地では 不動産取引において最寄り駅への接近性が重視される そこで 例えば 駅から徒歩圏内の住宅地域同士の比較であれば道路距離 100m( 又は 80m) 毎に ±1 程度の格差とすることが多い 一方 自動車利用が一般的な郊外の住宅地や郊外路線商業地では 最寄り駅への接近性は重視されないこともある

さらに 流通施設地や工場地では 最寄りインターチェンジとの接近性など業務効率性に影響を与える要因が重視される c. 環境条件 (a) 住宅地域日照 眺望 ( 居住者の住まい方等に起因する ) 社会的環境 画地の面積 配置 アパート等の混在度 供給処理施設の状態 危険 嫌悪施設 洪水等災害発生の危険性 騒音等公害発生の程度など 凡そ居住の快適性 利便性 安全性に影響を与える要因は全て比較対象となる 例えば 供給処理施設 ついては引込み工事に要する費用等を 洪水 については防災工事に要する費用等を 騒音 については防音工事に要する費用等をそれぞれ勘案し 要因格差を具体的な根拠により裏付けるべきである 一方 社会的環境 などは 要因格差を数値化することが難しいが 路線価のバランスや賃貸住宅の家賃格差などを参考として できるだけ具体的な根拠を用意したい 表 2 標準住宅地域に係る環境要因格差 ( 参考 ) 優る普通劣る日照等 +1.5 ±0-1.5 眺望等 +1.5 ±0-1.5 社会的環境 +2.5 ±0-2.5 画地の面積 +1.5 ±0-1.5 画地の配置 +1.5 ±0-1.5 土地の利用度 +1.5 ±0-1.5 周辺利用状態 +1.5 ±0-1.5 土地価格比準表 ( 注 ) から抜粋 要約図 1 住環境が大きく異なる例地域 A と地域 B は 共に駅から徒歩圏に位置し 公法上の規制も等しい (1 低専 40/80) しかし 住環境が大きく異なること等から 地域 A の路線価は地域 B の約 1.5 倍になる この図のように 街路の整備状況や建物の密集度は 住環境格差を査定する重要な参考となる グランマップ東京 23 区 ( マップネット社 ) から引用 (b) 商業地域大規模商業施設の集積度 背後地 顧客の購買力 高度利用の状態 繁華性の程度 ( 顧客通行量 店舗連担性 ) 坂道の有無など 凡そ商業収益性や事務所環境に影響を与える要因は全て比較対象となる 同じ道路沿いであっても 駅や公共駐車場 大規模商業施設との位置関係の違いや道路勾配の有無などによって 顧客の通行量が大きく異なることもある そこで 商業地域の要因比較に際しては 同じ曜日 時間帯に対象地と事例地とを実査し 人の流れの違いを把握すべきである また 実査に際しては 周辺店舗の状況 ( 営業の種別や取扱ブランド 2 階以上も店舗利用されているか否かなど ) も調べるとよい 繁華性の程度 は商業地域の価格水準に大きな影響を与える要因であるので 上記のような状況把握に加え 路線価のバランスや賃貸店舗の家賃格差などを参考として できるだけ具体的な根拠を用意したい なお 例えば 事務所適地の評価に際して 店舗適地や店舗付共同住宅適地の事例を採用せざるを得ないことがある これらはそれぞれ重視すべき要因が異なるため本来は比較対象とすべきではないが 止むを得ず採用する場合は 用途の多様性 という項目で比較するとよい d. 行政的条件 ( 容積率 ) 高度利用することが一般的な地域において 容積率が地価に与える影響は極めて大きい 容積率の格差は 次式により求めるとよい 類似地域の容積率 - 近隣地域の容積率 近隣地域の容積率 係数 3

この式において 容積率 とは 各地域の標準的画地に係る法令上許容される容積率 ( 通常は基準容積率 ) をいう また 係数 は 0.0 から 1.0 の間で設定する 例えば 類似地域の容積率 600% 近隣地域の容積率 700% で 係数を 0.7 と設定すれば 類似地域の容積率格差は (600-700)/700 0.7=-10 となる 係数 は 地域の標準的使用や最有効使用建物の階層別効用比の違い等に応じて異なる これを的確に把握するためには 標準的規模の画地について収益還元法 ( 土地残余法 ) を適用し 容積率の違いが土地価格にどのように影響するかシミュレーションするとよい 筆者の経験では 次の数値が大まかな目安となる 高層事務所地 0.7 から 1.0 程度中層共同住宅地 0.5 から 0.8 程度 中層店舗付共同住宅地 0.3 から 0.7 程度 戸建住宅地 0.0 から 0.1 程度 中層店舗付共同住宅地など最有効使用の用途が複合的な場合 上層階の効用が下層階と比較して小さいほど 係数 も小さくなる なお 前述の容積率超過又は未消化に係る建付増減価補正に際しては 上記の式に準じて求めた容積率格差を 既存建物の経済的残存耐用年数に応じて緩めるとよいだろう 近隣地域の標準価格の査定複数の事例から求めた価格が異なる場合 それぞれの精度 規範性に応じた調整を行って 近隣地域の標準価格を査定する 特殊な事情を含まない事例 取引時点の新しい事例 要因格差の少ない事例を重視すべきことは言うまでもない ただし 調整文の作成に手間を掛けるよりは 適正な事例の選択や要因比較に手間を掛け 事例ごとの乖離を小さくする方が大切と考える 対象地の個別的要因と比準価格近隣地域の標準価格に 対象地の格差修正率 ( 対象地の価格指数 / 標準的画地の価格指数 100) を乗じて対象地の単価を求め これに対象地の数量を乗じて比準価格を試算する 対象地の格差修正率の求め方は 事例地の標準化補正と同じだが どんなに小さな要因の把握漏れも評価の信頼性を大きく損なう より慎重な作業が求められる なお 例えば 不整形地であっても建物配置等に制約は生じず価格に影響はない場合がある そのようなと 4 きも 減価要因とならないと判断した旨とその理由 を評価書に明記した方がよい 個別的要因格差の検証個別的要因の分析結果は 評価手法適用等における各種の判断において反映すべきである ( 基準 総論第 6 章 ) また 複数の評価手法を適用するに当たっては 各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性が保たれていなければならない ( 基準 総論第 8 章 ) したがって 土地の個別的要因格差を査定するに当たっては 他の評価手法による検証を行うことが望ましい すなわち まず 標準的画地と対象地等との開発法価格 ( 又は土地残余法価格 ) を査定して両者の単価差を把握する このとき下に例示する要因が開発法等に適切に反映されていれば 個別的要因格差と試算価格の単価差とは整合するはずである 不整形地 角地 といった個別的要因は その土地の最有効使用建物の構造 用途等を大きく左右する 建物の想定や販売単価 家賃単価の設定等を通じて 各種の個別的要因が土地の利用効率にどのような影響を与えるか 具体的に把握してほしい 1マンション地 中高層ビル地 a. 大規模地一般に 開発期間 ( 又は未収入期間 ) が長期化するため 価格を引き下げる要因となる 一方 効率的な開発が可能となるため 価格を引き上げる要因ともなり得る ( 想定建物の有効面積率等に反映 ) さらに 大規模地の需要者は資金調達能力の高い大手ディベロッパーであることが多いため 価格を引き上げる要因となり得る ( 投下資本収益率等に反映 ) b. 不整形地一般に 建築コストが余分に掛かること 間取りの劣る住戸が生ずることなどから 価格を引き下げる要因となる ( 想定建物の間取り 建築工事費 販売単価 家賃単価等に反映 ) c. 角地 二方路地一般に 住戸の開口部の確保が容易となること 低層階店舗の顧客流動性が高まることなどから 価格を引き上げる要因となる ( 想定建物の間取り 販売単価 家賃単価等に反映 ) d. 道路との高低差一般に 造成工事が必要となること エントランスへのアクセスが劣ることなどから 価格を引き下げる要因となる ( 造成工事費 販売単価 家賃単価等に反映 )

2 戸建住宅開発素地戸建住宅開発素地の価格は 有効宅地率 不整形宅地の生ずる程度 必要な造成工事費などにより大きく異なる また 有効宅地率等は 当該素地の規模 形状 地勢 接面街路との関係等が相互に関連して決まるものであり 要因ごとの格差内訳を査定することは難しいことが多い そこで 格差修正率の査定に際しては 開発法価格の単価差をもって 規模 形状等 - % と記載することも考えられる 次回は 最有効使用の判定 についてご紹介する予定です 鑑定 7 つ道具 2 ウォーキングメジャーとレーザー距離計ウォーキングメジャー ( 通称 コロコロ ) は 車輪の回転数により長さを測る道具です また レーザー距離計は 目標物にレーザーを照射し反射時間により長さを測る道具です 長さの測定は巻尺等でもできますが これらの道具は一人でも正確な測定が可能です 特にレーザー距離計は 小型軽量な上 立入りできない敷地の奥行や コロコロの届かない天井の高さなども測れますので重宝します ( ただし強い日差しの下では照射点が見にくい等の欠点もあります ) ウォーキングメジャー ( 写真の製品は実売価格約 1.2 万円 ) ( 注 ) 公的な評価基準要因格差査定の参考となる公的な評価基準として 次のようなものがある これらは それぞれの政策目的に応じて簡素で画一的な評価を行うために定められたものであり 個別の鑑定評価に妥当するとは限らない 限界を認識した上で 上手に活用してほしい 1 財産評価基本通達 ( 国税庁 ) 財産評価基本通達は 相続税 贈与税の課税対象となる財産の時価を求める基準である 地区区分 要因ごとに補正率が定められている 地区区分の例要因の例ビル街地区側方路線影響加算 ( 角地 ) 高度商業地区間口狭小補正繁華街地区奥行長大補正普通商業 併用住宅地区不整形地補正普通住宅地区ほか袋地 無道路地補正ほか国税庁 HP:http://www.nta.go.jp/shiraberu/index.htm 2 土地価格比準表 ( 国土交通省監修 ) 土地価格比準表は 国土利用計画法の価格審査を目的として定められた基準である ( 一部前掲 ) 住宅新報社 HP:http://www2.jutaku-s.com/publication/ レーザー距離計 ( 写真の製品は実売価格約 5 万円 ) 寄稿者略歴菱村寛 ( ひしむらひろし ) 昭和 39 年生まれ 平成 1 年立教大学卒 三菱信託銀行 財団法人日本不動産研究所勤務を経て 平成 17 年から不動産鑑定工房代表 5