った 3 ヶ国の政府からの情報をもとに更新し チェルノブイリ事故の健康影響および特別ヘルスケア プログラム (Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes) と題する WHO 報告書をまとめた

Similar documents
PowerPoint プレゼンテーション

放射線とは 物質を通過する高速の粒子 高いエネルギーの電磁波高いエネルギの電磁波 アルファ (α) 線 ヘリウムと同じ原子核の流れ薄い紙 1 枚程度で遮ることができるが エネルギーは高い ベータ (β) 線 電子の流れ薄いアルミニウム板で遮ることができる ガンマ (γ) 線 / エックス (X) 線

PowerPoint プレゼンテーション

fsc

2011 年 11 月 25 日 - 低線量被ばく WG 資料 低線量被ばくの健康リスクとその対応 大分県立看護科学大学 人間科学講座環境保健学研究室 甲斐倫明

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF C CF88F589EF816993DE97C789EF8FEA816A2E B8CDD8AB B83685D>

食品安全委員会はリスク評価機関 厚生労働省農林水産省 食品安全委員会消費者庁等 リスク評価 食べても安全かどうか調べて 決める 機能的に分担 相互に情報交換 リスク管理 食べても安全なようにルールを決めて 監視するルを決めて 2

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF CC95FA8ECB90AB95A88EBF82C982E682E98C928D4E89658BBF82C982C282A282C F38DFC A2E >


Microsoft PowerPoint - S3:1 Thomas(和)

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D B B DE97C78CA F81698BDF8B4591E58A C993A1934

Microsoft PowerPoint - 05.Tanaka.pptx

2 チェルノブイリ事故でどんなことが起こったか ( いろんな報告があるが 国連の会議で検討した結果 2008 年に発表された内容による ) ⑴ 緊急作業従事者 134 人が重篤な被ばくにより急性放射線障害を発症した このうち 28 名は致命的な被ばくであった ( 皮膚障害 白内障 ) ⑵ 復興作業員

等価線量

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

安定ヨウ素 ( または非放射性ヨウ素 ) は ヒトの甲状腺を正常に機能させるためにごく少量必要な必須栄養素である 甲状腺は すべての年齢層で代謝に必須な甲状腺ホルモンを生成するため ヨウ素を取り込む 甲状腺ホルモンは 胎児や小さい子ども ( 妊娠 15 週 ~3 歳 ) の脳の成熟や発達にもきわめて

防護体系における保守性

放射線被ばくによる小児の 健康への影響について 2011 年 5 月 19 日東京電力福島原子力発電所事故が小児に与える影響についての日本小児科学会の考え方 本指針を作成するにあたり 広島大学原爆放射線医科学研究所細胞再生学研究分野田代聡教授の御指導を戴きました 御尽力に深く感謝申し上げます

放射線の人体への影響

スライド 1

ころにも初期の避難地域と同程度に汚染されている地域が存在することが明らかになり 政府に対する住民の不信と非難の声が高まった その頃 他国のメディアや市民が汚染現地を訪ねることができるようになってきた 化学物質による世界の環境汚染の現場を訪れ 独自の視点で調査研究していたサイエンスライターの綿貫礼子が

福島原発事故はチェルノブイリ事故と比べて ほんとうに被害は小さいの?

放射線による健康影響の仕組み 低線量の健康影響 問 9 放射線はどのように私たちの健康に影響するのですか? また どの位の量の放射線によって どのような健康影響が出るのですか? p13 問 10 低線量 とはどの位の量の放射線のことを言うのですか? p14 問 11 低線量の健康影響は どこまで解っ

PowerPoint プレゼンテーション

被ばくの経路 外部被ばくと内部被ばく 宇宙や太陽からの放射線 外部被ばく 内部被ばく 呼吸による吸入 建物から 飲食物からの摂取 医療から 医療 ( 核医学 * ) による 傷からの吸収 地面から 放射性物質 ( 線源 ) が体外にある場合 放射性物質 ( 線源 ) が体内にある場合 * 核医学とは

スライド 1

講義の内容 放射線の基礎放射線の単位低線量被曝のリスク放射線防護

<4D F736F F F696E74202D202888E48FE390E690B6816A89A1956C8E738E7396AF8CF68A4A8D758DC08F4390B38CE32E B8CDD8AB B83685D>

低線量放射線被曝リスクをめぐる最近の動向

きます そのことを示すのが 半分に減るまでの 半減期 です よく出てくるヨウ素 131 は 8 日で セシウム 137 は 30 年です 半減期を迎えた後は またさらに半分になるまで 半減期 を要することになり これが繰り返されます 2. 放射線の測定 東京工業大学での測定 (1) 放射線の測定放射

1 放射線のホント ってほんとうなの? (中略) 放射線のホント 1 頁甲状腺がんの多発 作業員の肺がん死 被ばくに安全な量はない など 放射線そのものが人々を苦しめています 放射線のホント は放射能影響を風評被害にスリ替えています 放射線のホント 原文を読みながら問題点を考えてみました

UNSCEAR の役割 放射線のリスク評価と防護のための科学的基盤となる報告 ( 国連総会 科学界, 一般社会 ) 放射線利用や防護の恩恵についての判断はしない ( 他の国際機関との役割分担 ) 独立性と科学的客観性 ( 各国政府 国際機関から信頼される ) 3 UNSCEAR 2006 年報告書

東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故直後の平成 23 年 3 月 17 日には 原子力安全委員会の示した指標値を暫定規制値として設定し 対応を行ってきました 平成 24 年 4 月 1 日からは 厚生労働省薬事 食品衛生審議会などでの議論を踏まえて設定した基準値に基づき対応を行っています 食品

はじめに 一般社団法人長野県診療放射線技師会では 放射線についての啓発活動をおこなっています その一環として 放射線と被ばくについて理解を深めていただくためにこの冊子を作成しました 放射線についてより理解を深めていただければ幸いです 放射線の種類と性質 放射線にはさまざまな種類があります 代表的な

科学11月特集A_崎山.indd

Microsoft Word 改(QA集)HP掲載.doc


病院避難教材.pptx

資料2

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ


PowerPoint Presentation

Microsoft PowerPoint - 放射線安全教育訓練2014甲状腺_楫.pptx

陰極線を発生させるためのクルックス管を黒 いカートン紙できちんと包んで行われていた 同時に発生する可視光線が漏れないようにす るためである それにもかかわらず 実験室 に置いてあった蛍光物質 シアン化白金バリウ ム が発光したのがレントゲンの注意をひい た 1895年x線発見のきっかけである 2

Microsoft PowerPoint - ALIC  pptx

Top 10 causes of death globally 年世界死亡原因トップ 10 Alzheimer disease and other dementias アルツハイマーその他認知症 Trachea, brochus, lung cancers 気管 気管支 肺がん

飯舘村におけるホールボディカウンタ結果解析 ( 平成 年度施行分 ) 福島県立医科大学放射線健康管理学講座助手 宮崎真 Ver /03/04

PowerPoint プレゼンテーション

1. はじめに 1. 放射能 放射線と聞いた時のイメージは? (1) 怖い (2) 危ない (3) 恐ろしい (4) がんになる (5) 白血病 (6) 毛が抜ける (7) 原爆 (8) 奇形 (9) 遺伝的影響 遺伝障害 (10) 原発 (11) 原発事故 (12) 福島事故 (13) 目に見えな

放射線量(マイクロシーベルト)と身を守る対応について.doc

* _目次.indd

<82A082C682E082B731318C8E8D862E696E6464>

安定ヨウ素剤 現在 日本で使用されている安定ヨウ素剤は医療用医薬品のヨウ化カリウム製剤です ( た だし 放射線被曝による甲状腺がん発症予防の保険適応はありません ) 作用機序安定ヨウ素剤の予防服用により 高濃度の安定ヨウ素 (I) との共存により 放射性ヨウ素 (I-131) の甲状腺濾胞細胞への

<4D F736F F F696E74202D B9E B95FA8ECB90FC5F904888C088CF8B7695DB2E B8CDD8AB B83685D>

Microsoft PowerPoint HRN.pptx

IAEA Report DOC

降下物中の 放射性物質 セシウムとヨウ素の降下量 福島県の経時変化 単位 MBq/km2/月 福島県双葉郡 I-131 Cs Cs-137 3 8,000,000 環境モニタリング 6,000,000 4,000,000 2,000,000 0 震災の影響等により 測定時期が2011年7

<4D F736F F D DA18CE382CC A835E838A F95FB906A89FC92E888C BD A2E646F63>

kihonnoki .indd

食品安全委員会事務局林亜紀子 1 2 物質を 過する の 子 いエ ル ーの電磁波 α 線 β 線 γ 線 X 線 ガンマ (γ) 線 / エックス (X) 線ガンマ線はエックス線と同様の電磁波物質を透過する力がアルファ線やベータ線に比べて強いベータ (β) 線電子の流れ薄いアルミニウム板で遮ること

確定的影響 急性放射線症 急性放射線症の病期 被ばく時 時間経過 嘔気 嘔吐 Gy以上 頭痛 4Gy以上 下痢 6Gy以上 発熱 6Gy以上 意識障害 8Gy以上 無症状 発症期 回復期 (あるいは死亡) 造血器障害 感染 出血 消化管障害 皮膚障害 神経 血管障害 全身にグレイ,ミリグレイ 以上の

Microsoft Word - 16 基礎知識.pdf

第1回環境回復検討会

福島原発とつくばの放射線量計測

目次 総括 3 チェルノブイリの経験 : 健康 環境 経済的影響 4 チェルノブイリフォーラム研究の流れ 4 序論 : チェルノブイリ事故 4 フォーラムの専門家による報告 : 健康への影響 5 フォーラムの専門家グループによる報告 : 環境への影響 11 チェルノブイリ原子力発電所事故の社会経済的

管理区域の区域分け A 区域 B 区域 C 区域 D 区域 汚染区分表面汚染 空気中放射性 表面汚染 空気中放射性 表面汚染 空気中放射性 表面汚染 空気中放射性 密度 物質の濃度 密度 物質の濃度 密度 物質の濃度 密度 物質の濃度 (Bq/cm2) (Bq/cm3) (Bq/cm2) (Bq/c

スライド 1

スライド 1

1. 原爆被爆者寿命調査 Life Span Study LSS とはいったい何か? 年の国勢調査で広島 崎市内に 1 月時点で住んでいたことが確認された人の中から 選ばれた約 9 万 4000 人の被爆者と 約 2 万 7000 人の 非被爆者 の約 12 万人を対象者として 1

<4D F736F F D2088E397C38F5D8E968ED282CC94ED82CE82AD5F96D891BA905E8E4F816A2E646F63>

医療被ばくについて

Microsoft PowerPoint - 資料6 福島県県民健康調査「甲状腺検査」の現状について

<4D F736F F F696E74202D2095FA8ECB90FC93C195CA8D758B E646F B8CDD8AB B83685D>

QA- 内部被ばくの特徴は どのようなものですか 内部被ばくの特徴として 放射性核種によって特定の臓器に集まりやすいことがあります 特定の臓器についてはこちら * をご参照ください * 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料上巻第 章 ページしかし 体内に取り込まれた放射性物質は代謝によって

hyoushi

心房細動1章[ ].indd

目 的 GM計数管式 サーベイメータ 汚染の検出 線量率 参考 程度 β線を効率よく検出し 汚染の検出に適している 電離箱型 サーベイメータ ガンマ線 空間線量率 最も正確であるが シン チレーション式ほど低い 線量率は計れない NaI Tl シンチレー ション式サーベイメータ ガンマ線 空間線量率

第 7 回日本血管撮影 インターベンション 専門診療放射線技師認定機構 認定技師試験問題 Ⅲ 放射線防護 図表は問題の最後に掲載しています 日本血管撮影 インターベンション専門診療放射線技師認定機構

<4D F736F F F696E74202D ED82CE82AD88E397C38D758B608E9197BF B8CDD8AB B83685D>

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

Microsoft PowerPoint - 食品安全委員会(2011年4月28日講演) (NXPowerLite).ppt [互換モード]

学んで、考えてみよう 除染・放射線のこと 使い方

<4D F736F F D CB48D655F94928D95445F90488E9690DB8EE68AEE8F802E646F63>

Microsoft Word - RI検査 HP.docx

reference3

1 放医研は 日本で唯一 世界をリードする かつ 放射線医学の総合的な研究機関 放射線をよく知り 放射線から人の体を守り 放射線により病気を治す

fruikei.xls

防護の原則 放射線防護体系 科学的知見の収集 評価 放射線安全基準策定 原子力 放射線安全行政 放射線影響研究放射線安全研究 各国の委員会の報告書 ( 全米科学アカデミー (NAS) 等 ) 国際機関世界保健機関 (WHO) 国際労働機関 (ILO) 経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA)


 

東電福島原発事故後の放射線防護対策-リスクコミュニケーションの担い手は?-

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

放射線検査を受けられる方へ.pptx

<4D F736F F F696E74202D208DC590565F89AA8E528CA797A7907D8F918AD9815B8CF68A4A8D758DC0>

愛する飯舘村を還せプロジェクト 負げねど飯舘!! 活動支援金ご協力のお願い これまで 子どもたちのために と 皆さまからお預かりしている支援金は 避難 ( 計画的避難の早期完了 ) や健康管理を含め 未来ある子どもたちを守るための活動に大切に使わせていただきます 今後計画的避難が進むにつれて 私たち

Microsoft PowerPoint - 生成核種

放射線被ばくによる過剰リスク 自然放射線大地から0.46 生活の中の放射線被ばく量は? 放射線医学総合研究所ホームページより ( 出典 : 資源エネルギー庁 2000) 宇宙から 0.38 人工放射線 体内の放射性物質 空気中のラドン食物から0.24 から1.3 世界平均 1 人あたりの 2.4 m

Transcription:

世界保健機関 (WHO) チェルノブイリ事故の健康影響 : 概要 ( ファクトシート )(2006 年 4 月 ) Health effects of the Chernobyl accident: an overview Fact sheet N 303, April 2006 http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs303/en/index.html 日本語要約 ( 内容については英語原文が優先します 参照の際は英語原文をご確認ください ) 背景 1986 年 4 月 26 日 旧ソ連 ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所第 4 原子炉が爆発し 大気中に大量の放射性物質が放出された 放射性物質は主に欧州各国 特にベラルーシ ロシア ウクライナの広範な地域に沈着した 1986~1987 年 まず軍隊 発電所スタッフ 地元の警察や消防などから推定 35 万人の事故処理作業員 (liquidator リクイデーター) 等が 放射能を帯びた残骸の収容 片付け作業にあたった 約 24 万人の事故処理作業員が原子炉から 30km 以内の区域での作業で最高レベルの放射線量に曝露した その後 登録された事故処理作業員数は 60 万人にのぼった ( 高レベルの放射線に曝露した人はそのごく一部であった ) 1986 年の春と夏 116,000 人がチェルノブイリ原子炉周辺地域から非汚染地域に避難した 別の 23 万人はその後数年以内に移住した 現時点で おおよそ 500 万人が ベラルーシ ロシア ウクライナの放射性セシウム沈着濃度 37 kbq( キロベクレル )/m 2 以上の地域に住んでいる そのうち約 27 万人は ソ連当局が厳重管理区域 (SCZs:strictly controlled zones) に分類した地域に住み続けている この地域の放射性セシウム濃度は 555 kbq/m 2 を超える 避難や移住は 多くの人々にとって深いトラウマ的経験になることが示された 事故後数年間は 被災者への信頼できる情報の欠如に加え 公の情報への不信感や 健康上の問題のほとんどをチェルノブイリでの被ばくによるものとする傾向もみられた 本ファクトシートは チェルノブイリ事故の健康影響の概要を示したもので 質の高い科学的研究にもとづいている 事故で大きな影響を受けた人々にとって 健全で正確な情報が立ち直るための助けとなろう WHO の健康影響に関するレビュー国連のチェルノブイリ フォーラム イニシアチブの一環として WHO は事故関連の健康影響に関するすべての科学的エビデンスをレビューするため 2003~2005 年に一連の専門家会合を開催した 専門家グループは 国連放射線影響科学委員会 (UNSCEAR) の 2000 年の報告書をベースとして 公表文献のクリティカルレビューや事故の影響が最も大きか

った 3 ヶ国の政府からの情報をもとに更新し チェルノブイリ事故の健康影響および特別ヘルスケア プログラム (Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes) と題する WHO 報告書をまとめた 専門家グループは 主にピアレビューされた学術雑誌の情報を用い 特に科学的な質を重視した さらに 日本の原爆被ばくの生存者など過去の高レベル被ばくに関する研究結果との比較を行った 放射線被ばく電離放射線被ばくは 吸収線量 (absorbed dose) としてグレイ(Gy) で測定する 実効線量 (effective dose) は 吸収された電離放射線エネルギー 放射線の種類 放射線障害に対する各臓器や組織の感受性を考慮し シーベルト (Sv) で測定する チェルノブイリ事故による被ばくの大部分で 吸収線量は実効線量とほぼ同じであった (1 Gy = 約 1 Sv) 人は日常的に 宇宙線や 飲食物 大気など自然界に存在するさまざまな自然の放射線源に曝露している ( 自然界のバックグラウンド放射線 ) UNSCEAR の報告書によれば 人のバックグラウンド放射線量の平均は約 2.4 msv/ 年である ( 通常 1~10 msv) しかし バックグラウンド放射線量が高いことで知られる一部の地域の住民では 20 msv/ 年を超えることがある この量で健康リスクが生じることを示すエビデンスはない チェルノブイリ事故での放射線量以下の表は チェルノブイリで高レベルの放射線に曝露した人の 20 年間の総実効線量 ( 平均 ) である 比較のため 20 年間に受ける自然界からのバックグラウンド線量や医療処置による標準的な線量も合わせて示した 集団等 ( 曝露年 ) 人数 20 年間の総線量 ( 平均 ) (msv)(1) 事故処理作業員 (1986-1987)( 高線量曝露 ) 240,000 > 100 避難住民 (1986) 116,000 > 33 厳重管理区域 (SCZs) の住民 ( > 555 kbq/m2) (1986-2005) 低汚染地域の住民 (37 kbq/m2) (1986-2005) 自然界のバックグラウンド放射線 医療 X 線 1 回分のおおよその曝露線量 全身 CT スキャン 乳房 X 線写真 胸部 X 線 270,000 > 50 5,000,000 10~20 2.4 msv/ 年 ( 標準的範囲 :1~10 最大値 > 20) 12 msv 0.13 msv 0.08 msv 48 (1) 自然界のバックグラウンド放射線量に追加される線量 汚染地域における大部分の住民の実効線量は低いが 一方 放射性ヨウ素に汚染された

ミルクを飲んだ多くの人の甲状腺の線量は多かった 高レベルの放射性ヨウ素に曝露したこれらの人達を別にすれば 自然界のバックグラウンドレベルより有意に高い量の放射線に被ばくした人は 事故後最初の 2 年間に原子炉周辺で作業をした事故処理作業員 (24 万人 ) 避難住民(116,000 人 ) 高レベルに汚染された厳重管理区域(SCZs) の住民 (27 万人 ) のみであった 低汚染地域 (37 kbq/m 2 ) に現在住んでいる住民の被ばく量は自然界のバックグラウンドレベルよりわずかに高いが 世界的にみたバックグラウンド量の標準的な範囲内に十分おさまっている 甲状腺がんベラルーシ ロシア ウクライナの最汚染地域に住み 事故当時子ども~ 青少年 (adolescent) だった人々の間で 甲状腺がん発生率の著しい増加がみられた これは 事故後の早い段階にチェルノブイリ原子炉から放出された高レベル放射性ヨウ素によるものである 放射性ヨウ素が牧草地に沈着し それを食べた牛の乳に移行し それを子どもが飲んだ この地域の食事のヨウ素不足が事態をさらに悪化させ より多くの放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積した 放射性ヨウ素の半減期は短いため もし事故後数ヶ月間 この地域の汚染ミルクを子どもに与えるのをやめていれば 放射線による甲状腺がん増加の大部分は防ぐことができたとみられる ベラルーシ ロシア ウクライナでは 事故当時 18 歳以下だった子どものうち これまで 5,000 人近くが甲状腺がんと診断されている 被災者の甲状腺疾患の医療モニタリング強化によって無症状レベルの甲状腺がんも検出され このことも全体の発生率増加につながった 幸い 進行性腫瘍の子どもでも治療はきわめて有効であり 若い患者の予後は全般的に良好である しかしながら これらの患者は甲状腺機能の喪失を補うために 今後ずっと薬を服用しなければならない 子どもの予後を評価するための研究がもっと必要である ( 特に遠隔転移した場合 ) 長期リスクの定量化は困難であるものの チェルノブイリ関連の甲状腺がん発生率の増加は長年続くと予想される 白血病および非甲状腺固形がん放射線によりある種の白血病が生じることが知られている 白血病リスクの増加は 日本の原爆被ばく生存者の間で被ばくの 2~5 年後にみられたのが最初である 最近の研究によると チェルノブイリで被ばく線量が最も高かった事故処理作業員の白血病発生率が 2 倍であることが示された こうした増加は 汚染地域に住む子どもや成人では明確に証明されていない 日本の原爆生存者の経験から 事故後 20 年が経過した現在 チェルノブイリに関連する白血病患者の大部分は既に発症している可能性があるが この点を明確にするためさらに研究が必要である 科学者らはこの他の臓器についても放射線によるがんの研究を行ったが WHO の専門家グループによるレビューでは 甲状腺がん以外に がんリスクの増加が明らかに放射線に

よるものと示すことのできるエビデンスはなかった 事故処理作業員の白血病リスクに関する最近の知見のほかに 最汚染地域において閉経前乳がんの発生率がわずかに増加したとする報告がある ( 放射線量と関連 ) しかしながら どちらの知見も適切にデザインされた疫学研究での立証が必要である 甲状腺がん以外は 立証されたがんリスクの増加はないが このことはがんリスクが増加しないという証明にはならない 日本の原爆生存者の経験から 低 ~ 中程度の線量でもがんリスクがわずかに増加することが予想される しかし こうした増加は特定が困難であると予想される 死亡者数 UNSCEAR の報告書 (2000) によれば 134 人の事故処理作業員が急性放射線障害 (ARS) と診断されるのに十分なほど高レベルの放射線に被ばくした このうち 28 人は 1986 年に ARS で死亡した それ以降も他の作業員が死亡したが 必ずしも被ばくによるものではない 事故で被ばくした人の一生でがんによる死亡数が増加する可能性がある 現時点では どの人のがんが放射線によるものかを判断するのは不可能であるため 過去の原爆生存者や高レベル放射線に被ばくしたその他の人の研究から死亡数を統計的に推定するしかない ここで留意すべきことは 原爆生存者が高レベルの放射線を短時間に受けたのに対し チェルノブイリでは低レベルの放射線に長期間被ばくした点である 生活様式 栄養状態などの違いもあり 将来のがん死亡予測には非常に大きな不確実性が伴う また 上記 3 ヶ国では 過去 15 年以上にわたり アルコールの飲み過ぎやタバコの吸い過ぎなど放射線とは関係のない要因により平均寿命が有意に短くなっている こうしたことから がん死亡者数への放射線の影響の検出は困難さを増している 低線量放射線によるがんリスクの程度についてはさまざまな議論があるが 米国科学アカデミー (National Academy of Sciences) の BEIR VII 委員会は 2006 年に科学的エビデンスの包括的レビューをまとめた報告書を発表し リスクは低線量において線形で閾値がない ( linear no-threshold または LNT モデルとよばれる ) とした しかしながら影響の程度に関しては ( 特に約 100 msv よりはるかに低い線量の場合 ) いくつかの不確実性がある 専門家グループは 被ばく量が高かった 3 つのグループ ( 事故処理作業員 24 万人 避難住民 116,000 人 SCZs の住民 27 万人 ) では一生涯で最大 4,000 人が追加でがんにより死亡する (up to 4 000 additional cancer deaths) 可能性があると結論した これら 3 グループで最終的に 12 万人以上ががんで死亡する可能性があることから 被ばくによる追加の死亡数は すべての原因による通常のがん死亡数の 3~4% に相当する ベラルーシ ロシア連邦 ウクライナの放射性セシウム沈着濃度が 37 kbq/m 2 の地域に住んでいる 500 万人の住民については 被ばく量が自然界のバックグラウンド放射線レベルよりわずかに高い程度であるため明確ではないが LNT モデルにもとづくと 5,000 人が追加でがんにより死

亡する可能性がある ( すべての原因によるがん死亡の約 0.6% に相当 ) ただし 重大な不確実性があることから これらの数字は単に事故の影響の可能性を示す目安にすぎない ベラルーシ ロシア連邦 ウクライナ以外の欧州においてもチェルノブイリ事故によるがん発生の可能性はあるが UNSCEAR によれば 住民の平均被ばく量ははるかに低く がん死亡数の増加は非常に少ないと予想されるため 各国のがん統計でこうした増加が検出されることはきわめて考えにくい 白内障眼の水晶体は放射線に対して非常に感受性が高く 実効線量約 2 Sv で白内障が生じることが知られている 白内障が生じるのは線量に直接関連し 線量が高いほど発症がはやい チェルノブイリの白内障研究によれば 放射線による混濁は線量が 250 msv で生じる可能性がある このことは 放射線被ばくに関する最近の研究 ( 原爆生存者 宇宙飛行士 脳 CT スキャンを受けた患者など ) によっても支持される 心疾患緊急作業員に関するロシアの大規模研究において 高レベル被爆者で心疾患による死亡リスクの増加が示された この知見についてはもっと長期間にわたって追跡調査を行う必要があるが この結果は 例えば心臓にかなり高い線量を受ける放射線治療患者など他の研究結果と一致している 精神衛生および心理的影響チェルノブイリ事故は 広範囲の移住 経済的な安定の喪失 健康面での長期にわたる脅威をもたらし 身体的にも情緒的にも不安定な状況が常態化した チェルノブイリ事故からまもなく旧ソ連が崩壊し その結果医療システムが不安定になったことで状況はさらに悪化した 被災者に 極度のストレスや不安感 医学的に説明できない身体症状の報告が相次いだ 事故は 一般住民 ( 主として 通常は医学的に病気と診断されない無症状レベルの人 ) の精神衛生や安定した生活に深刻な影響を与えた 健康について過剰に心配したり 酒やタバコの過剰摂取あるいは高レベルの放射性セシウムがまだ存在する指定地域で採取したキノコ ベリー類 獲物を食べるなどの行動がみられた 生殖毒性や遺伝影響 子どもの健康チェルノブイリ事故で低レベルの放射線に曝露した大部分の人については 生殖能力 死産数 妊娠転帰の不良 出産時の合併症などへの影響は証明されなかった ベラルーシの汚染地域および非汚染地域の両方で 先天性奇形の報告数がわずかに増加したが これは放射線被ばくによるものではなく報告システムの改善によるものとみられる

WHO の役割 省略 原子力発電所事故の健康影響に関連する国際機関 各国公的機関等の関連情報 http://www.nihs.go.jp/hse/c-hazard/npp-ac/index.html ( 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部 )