上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

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報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が


学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

141225がん新薬開発HP公開用ファイル.pptx

平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

虎ノ門医学セミナー

ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

学位論文の要約 免疫抑制機構の観点からの ペプチドワクチン療法の効果増強を目指した研究 Programmed death-1 blockade enhances the antitumor effects of peptide vaccine-induced peptide-specific cyt

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

令和元年 10 月 18 日 がん免疫療法時の最適なステロイド剤投与により生存率アップへ! 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 ( 国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長兼任 ) の西川博嘉教授 杉山大介特任助教らの研究グループは ステロイド剤が免疫関連有害事象 1 に関連するよう

日中医学協会助成事業 CEA 特異的キメラ抗原受容体導入 T 細胞を用いたがんに対する養子免疫療法の開発日本研究者氏名特任助教王立楠日本所属機関三重大学大学院医学系研究科中国研究者氏名丁暁慧中国所属機関瀋陽医学院 要旨本研究では 複数種類のヒトシグナル伝達ドメインを付加した癌胎児性抗原 (CEA)

研究実績報告書 ファージディスプレイを利用した がん抗原特異的高親和性 T 細胞受容体の取得 愛知県がんセンター研究所 腫瘍免疫学部 部長 葛島清隆 - 1 -

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

スライド 1

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日本内科学会雑誌第96巻第4号

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

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研究成果報告書

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

白血病治療の最前線

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九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

名古屋教育記者会各社御中本リリースは文部科学記者会 科学記者会 宮城県政記者会 名古屋教育記者会各社に配布しております 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦

白血病治療の最前線

活動報告 [ 背景 ] 我が国では少子高齢化が進み 遺伝子異常の蓄積による白血病などの病気が増加している 特に私が専門とする急性骨髄性白血病 (AML; acute myeloid leukemia) は代表的な血液悪性疾患であり 5 年生存率は平均して 30-40% と 多くの新規治療法 治療薬が

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 中谷夏織 論文審査担当者 主査神奈木真理副査鍔田武志 東田修二 論文題目 Cord blood transplantation is associated with rapid B-cell neogenesis compared with BM transpl

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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PowerPoint プレゼンテーション

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

平成 27 年度再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業 ( 再生医療等の産業化に向けた評価手法等の開発 ) 事業報告書 事業名研究開発課題名研究開発担当者所属役職氏名 再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業 ( 再生医療等の産業化に向けた評価手法等の開発 ) B 細胞性急性リンパ性白血病

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

白血病治療の最前線

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

学位論文の要旨 学位の種類博士氏名神保絢子 学位論文題目 Therapeutic role of complement dependent cytotoxicity by leukemia-specific antibody in immunotherapy with leukemia cell-d

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これまで, 北海道大学動物医療センターの高木哲准教授, 同大学院獣医学研究院の今内覚准教授及び賀川由美子客員教授らは, イヌの難治性の腫瘍においても PD-L1 が頻繁に発現していることを報告してきました そこで, イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてラット -イヌキメラ抗 P

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無顆粒球症

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

VENTANA PD-L1 SP142 Rabbit Monoclonal Antibody OptiView PD-L1 SP142

遺伝子治療用ベクターの定義と適用範囲

研究成果報告書

中医協総 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて 再生医療等製品の保険適用に係る取扱いについては 平成 26 年 11 月 5 日の中医協総会において 以下のとおり了承されたところ < 平成 26 年 11 月 5 日中医協総 -2-1( 抜粋 )> 1. 保険適

第15回日本臨床腫瘍学会 記録集

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

白血病治療の最前線

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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2017/8/26( 土 東京大学医科学研究所 MPN-JAPAN インタビュアー :MPN-JAPAN 代表瀧香織 専門家の先生 : 東京大学医科学研究所 ALA 先端医療学社会連携研究部門谷憲三朗先生 MPN(PV ET PMF) の遺伝子治療の開発の現状と今後の展望について 1 ALA

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014) 182. 白血病幹細胞根絶を目指した新規免疫遺伝子治療の開発研究 安川正貴 Key words: 白血病, 免疫遺伝子治療, T 細胞レセプター,WT1 * 愛媛大学大学院医学系研究科生体統御内科学分野 緒言最近, 悪性腫瘍に対する様々な細胞免疫療法が開発されているが, これまでの臨床試験の結果は必ずしも満足できるものではなく, 更なる創意工夫が必要である. 抗腫瘍免疫応答はさまざまな免疫担当細胞によって担われているが, がん特異的細胞傷害性 T 細胞 (CTL) がその中心的役割を演じている. 予め ex vivo で大量のがん特異的 CTL を培養し, その体内移入による adoptive immunotherapy(ctl 養子免疫療法 ) に大きな期待が寄せられているが, がん特異的 CTL の大量培養は容易ではない.CTL はその細胞表面に発現されている T 細胞レセプター (TCR) によって標的細胞を特異的に認識する. 従って, がん特異的 CTL クローンから TCR 遺伝子を単離し, 遺伝子導入することによってがん特異的 CTL を大量に作製することが可能である. 他方, がん幹細胞の概念が確立されるにつれて, 治療成績向上にはがん幹細胞を標的とすることが重要であることが明らかとなった. このような背景のもと, 本研究では, 白血病幹細胞に高発現されている標的分子特異的 TCR 遺伝子導入人工 CTL の抗白血病効果を検証し, その臨床試験に結び付けることを計画した. 方法 1. 白血病特異的 CTL クローンの樹立と TCR 遺伝子発現ベクターの構築我々のグループで樹立されていた白血病幹細胞に強く発現されていることが知られている WT1 と Aurora-A kinase に特異的 CTL クローンから TCR 遺伝子を単離し, タカラバイオ株式会社と共同開発した内在性 TCR 発現抑制新規レトロウイルスベクターを構築した ( 図 1) 1,2). * 現所属 : 愛媛大学大学院医学系研究科血液 免疫 感染症内科学講座 1

図 1 内在性 TCR 発現を抑制するレトロウイルス発現ベクター. 内在性 TCR 遺伝子発現を抑制し 発現させたい TCR のみを選択的に発現できる新規レトロウイルスベクター を用いることで 発現効率が高まるとともに 危険な自己反応性のミスペアリング TCR の発現を抑制できる 2 人工 CTL の抗白血病幹細胞効果の検証 まず TCR 遺伝子導入による HLA 拘束性抗原特異性の獲得を テトラマー解析ならびに 51Cr 放出細胞傷害試験で 確認した 3 新鮮分離ヒト白血病細胞移植 NOG マウスの作製と化学療法後の微少残存白血病幹細胞の定量的測定 患者から直接分離したヒト急性白血病細胞を NOG マウスに移植して ヒト化白血病マウスを作製した HLA 一致 ヒト白血病細胞移植 NOG マウスに大量化学療法実施後 コントロール T 細胞または人工 CTL を毎週1回経静脈的に 投与した 約2 3ヶ月後にそれぞれのマウス骨髄に残存しているヒト白血病細胞をフローサイトメトリーで定量的 に測定した さらに その骨髄細胞を別の放射線照射 NOG マウスに移植し ヒト白血病細胞の生着が認められるか否 かの検討を行い 抗白血病幹細胞効果を検証した なお 末梢血や骨髄採取に関しては 提供者の同意を得た後に実施した 検体採取については 病名を告知した患者 からのみ 十分なインフォームド コンセントのもとに行った 患者からの採血を伴う研究に関しては 当大学臨床研 究倫理委員会にて承認を得た また ウイルスベクター使用についても当大学遺伝子組換え実験安全委員会の承認を得 た 動物実験は 当大学総合科学研究支援センターの施設において 動物実験指針に適合して実施した 2

結果 1.WT1 特異的 TCR 遺伝子導入 T 細胞の機能解析 WT1 特異的 HLA-A24 拘束性 CTL クローン由来 TCR 遺伝子導入 T 細胞は, 親株の CTL クローン同様,WT1 特異的 HLA-A24 拘束性細胞傷害性を獲得した. また, 白血病細胞を HLA-A24 拘束性に殺傷した ( 図 2) 1). 図 2. WT1 特異的 TCR 導入 CTL のヒト白血病細胞に対する細胞傷害活性. WT1 特異的 HLA-A24 拘束性 CTL クローン由来 TCR を末梢血 CD8 陽性 T 細胞に遺伝子導入した.WT1- TCR 遺伝子導入 T 細胞は, 親株 CTL と同様,HLA-A24 拘束性に白血病細胞を特異的に殺傷した. 2. ヒト白血病細胞移植 NOG マウスにおける抗白血病効果 HLA-A24 陽性白血病患者骨髄から分離した白血病細胞を NOG マウスに移植した.2~3ヶ月後, 骨髄にヒト白血病細胞が生着し増殖していることを確認した. このマウスに大量化学療法を施行したが全く効果が認められなかった. しかし, このヒト化白血病マウスに WT1 特異的 TCR 遺伝子導入 CTL を経静脈的に投与したところ, 骨髄の白血病細胞が著明に減少した ( 図 3). 3

図 3 WT1 特異的 CTL 輸注による化学療法抵抗性白血病に対する抗腫瘍効果 患者骨髄から分離した化学療法抵抗性白血病細胞を NOG マウスに移植した 生着後 大量化学療法を行ったが 全く効果を認めなかった その後 WT1 特異的 CTL を輸注したところ 骨髄中の白血病細胞が著明に減少し た 他方 このヒト化白血病マウスに大量 Ara-C を投与したところ 骨髄白血病細胞が著明に減少したが わずかなが ら残存していた この細胞を別の NOG マウスに移植したところ 生着が確認されたことから 大量化学療法のみでは 白血病幹細胞の排除は困難であることが明らかとなった ところが 大量 Ara-C 投与後に WT1 特異的 TCR 遺伝子導 入 CTL を経静脈的に投与したところ 骨髄のヒト白血病細胞は完全に消失し 別のマウスに移植しても生着は認めら れなかった 図4 4

図 4 WT1 特異的 CTL 輸注による化学療法抵抗性白血病幹細胞完全排除 ヒト化白血病マウスに大量化学療法を施行したところ 骨髄白血病細胞が著明に減少したが わずかながら残存 していた この残存細胞を別の NOG マウスに移植したところ 生着が確認された 他方 大量 Ara-C 投与後に WT1 特異的 TCR 遺伝子導入 CTL を経静脈的に投与したところ 骨髄のヒト白血病細胞は完全に消失し 別の マウスに移植しても生着は認められなかった 他方 正常造血幹細胞へは全く細胞傷害性を示さないことも確認できた 図5 5

図 5 WT1 特異的 CTL の正常造血幹細胞への安全性 WT1 特異的 CTL またはコントロール T 細胞と正常造血幹細胞を in vitro で十分な時間接触させた後 NOG マ ウスに移植した どちらも 十分な正常造血細胞の増殖と分化が認められたことから WT1 特異的 CTL は正 常造血幹細胞には影響を与えないことが示された このことから 大量化学療法後に WT1-TCR 遺伝子導入 CTL を輸注することで化学療法抵抗性白血病を治癒に結び 付けられる可能性が示された さらに WT1 同様に白血病細胞に高発現している Aurora-A kinase 特異的 CTL クローンからも同様に TCR 遺伝子 を単離し レトロウイルス発現ベクターを構築した WT1 特異的 TCR 遺伝子導入人工 CTL 同様に Aurora-A kinase 特異的 TCR 遺伝子導入人工 CTL 輸注によって 抗白血病効果が得られることが ヒト化白血病マウスモデルで証明 できた 図6 2) 6

図 6 Aurora-A kinase 特異的 TCR 遺伝子導入 CTL の抗白血病効果 Aurora-A kinase 特異的 TCR 遺伝子改変 CTL またはコントロール T 細胞をヒト白血病細胞移植 NOG マウス に輸注した Aurora-A kinase 特異的 TCR 遺伝子改変 CTL 輸注群では 白血病の増殖が完全に抑制された 考 察 これまでの基礎研究ならびに造血幹細胞移植療法における臨床的研究などから 白血病を治癒に導くためには 化学 療法による毒性効果のみでは不十分であり 免疫監視機構が重要であることが明らかにされている 他方 がん幹細胞 の概念が確立され 白血病の治癒には白血病幹細胞を標的とした治療法の開発が必要であることが明らかにされつつあ る 本研究では ヒト化マウスを用いた実験系を中心として 遺伝子改変人工細胞傷害性T細胞 CTL を作製し その抗白血病幹細胞効果を検証した その結果 大量化学療法後に WT1-TCR 遺伝子改変T細胞を輸注することで化 学療法抵抗性白血病幹細胞を完全に排除できる可能性が強く示唆された 1-4) これらの研究成果を基に 現在他施設共 同で WT1 特異的T細胞レセプター遺伝子導入リンパ球輸注遺伝子治療臨床研究が進行中である 他方 TCR 遺伝子改変 T 細胞に加え chimeric antigen receptor CAR 遺伝子改変 T 細胞の臨床試験も進んでお り 驚異的な抗腫瘍効果が発表されている 5) さらには CTLA-4 や PD-1/PD-L1 などの免疫チェックポイント制御に よるがん免疫療法も大きな進歩を示している 今後 化学療法にこれらの免疫療法を組み合わせることで 治療抵抗性 白血病の治療成績が著しく改善されることが大いに期待できる 共同研究者 本研究の共同研究者は 愛媛大学医学部附属病院の藤原 弘講師と理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究センター 石川文彦グループディレクターである 終わりに 本研究を支援していただきました上原記念生命科学財団に厚くお礼 申し上げます 文 献 1 Miyazaki, Y., Fujiwara, H., Asai, H., Ochi, F., Ochi, T., Azuma, T., Ishida, T., Okamoto, S., Mineno, J., Kuzushima, K., Shiku, H. & Yasukawa M. : Development of a novel redirected T cell-based adoptive 7

8 immunotherapy targeting human telomerase reverse transcriptase for adult T-cell leukemia. Blood, 121 : 4894-4901, 2013. 2) Asai, H., Fujiwara, H., An, J., Ochi, T., Miyazaki, Y., Nagai, K., Okamoto, S., Mineno, J., Kuzushima, K., Shiku, H., Inoue, H. & Yasukawa, M. : Co-introduced functional CCR2 potentiates in vivo anti-lung cancer functionality mediated by T cells double gene-modified to express WT1-specific T-cell receptor. PLoS One, 8 : e56820, 2013. 3) Iwami, K., Natsume, A., Ohno, M., Ikeda, H., Mineno, J., Nukaya, I., Okamoto, S., Fujiwara, H., Yasukawa, M., Shiku, H. & Wakabayashi, T. : Adoptive transfer of genetically modified Wilms' tumor 1-specific T cells in a novel malignant skull base meningioma model. Neuro. Oncol., 15 : 747-758, 2013. 4) Asai, H., Fujiwara, H., Kitazawa, S., Kobayashi, N., Ochi, T., Miyazaki, Y., Ochi, F., Akatsuka, Y., Okamoto, S., Mineno, J., Kuzushima, K., Ikeda, H., Shiku, H. & Yasukawa, M. : Adoptive transfer of genetically engineered WT1-specific cytotoxic T lymphocytes does not induce renal injury. J. Hematol. Oncol., 7 : 3, 2014. 5) Ochi, F., Fujiwara, H., Tanimoto, K., Asai, H., Miyazaki, Y., Okamoto, S., Mineno, J., Kuzushima, K., Shiku, H., Barrett, J., Ishii, E. & Yasukawa, M. : Gene-modified human α/β-t cells expressing a chimeric CD16- CD3ζ receptor as adoptively transferable effector cells for anticancer monoclonal antibody therapy. Cancer Immunol. Res., 2 : 249-262, 2014.