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岐阜県中山間農業研究所研究報告 (6 ):7~12(21 ) シクラメンの世代促進による育種年限の短縮に関する研究 第 1 報 採種直後播種による世代促進技術の確立 石垣要吾 Establishment of cultivation technique with rapid generation advancement of Cyclamen persicum by sowing seeds right after picking seeds. Yougo Ishigaki Summary To shorten of the breeding period with rapid generation advancement of Cyclamen persicum,we tried the establishment of the method of cultivation by sowing seeds right after picking seeds. The brea king of dorma ncy of seeds required right after picking seeds in order to realize this cultiva tio n m etho d proved to b e feasible through the soa king tre atment in gibb erellin liquid 5ppm. In addition,the cultivation cycle for seeding after picking seeds is formulated through clarify ing the relation between sowing, flowerin g and maturity. As a result, it is thoug ht feasible that a period required for four generations significantly reduced from current eight years to five years and three months. Key Words : Cyclamen,shortening of the breeding period,sowing seeds right after picking seeds キーワード : シクラメン 育種年限短縮 採種直後播種 緒 標高が高く 夏期冷涼な中山間地域が多い岐阜 県の花き生産において シクラメンは重要な品目 となっている また 恵那地域はシクラメンの営 利栽培発祥の地で その歴史は古く 現在も種苗 言 生産では全国第一位となっている しかし 近年の鉢花単価の低迷によりシクラメ ン単価も低下傾向にあり また 多くの花き品目 の登場によりシクラメンの鉢花生産に占める割合 が相対的に低下してきている また 品種間の単 価の格差が拡大してきており 従来品種の栽培で は経営の悪化を招く可能性がある そのため 従 来にはない花色 花型等の形質を持つ新品種の育 成が望まれており 全国の育種家から多くの新品 種が作出されている 一方 シクラメンは 播種してから開花までに 1 年 結実から採種までに半年を要し さらにそ の半年後に播種するため 1 世代を完了するため の 1 作型に 2 年間を要する このため 交配後 形質固定を完了させるために 最低でも 5 世代以 上必要であると考えると 1 品種を育成するため に 1 年以上の期間を要する そのため 育種期間を短縮することを目的に 1 作型の期間を短縮することを考えた 前述のように 1 世代に 2 年間を要している現状 の作型では 5~ 6 月に採種した後 播種時期の 11 月までの約半年間の保存期間がある これは シ クラメンの出荷期間が 11 12 月の冬期間のため 播種時期が限定されるためである そこで 採種 後 すぐに播種すれば 約半年間の期間を短縮で きることになり 1 世代 1.5 年にすることができ ると考えられる しかし シクラメン種子は 休眠期間があると a) 言われており ( 勝木ら 1968) すぐに播種する ことができない そこで シクラメン種子の休眠打破技術を開発 し 採種直後に播種する新しい栽培方法の組み立 てを行ったので報告する 試験 1 材料及び方法 シクラメン種子の休眠打破方法の検討 1 ー 1) ジベレリン処理濃度が発芽率に及ぼす影 響 平成 16 年 4 月に採種した種子 ( 以後採種直後種 子 ) をジベレリン 1 5 1ppm 溶液に 2 粒づつ 24 時間浸漬処理後 同年 5 月 11 日に 6cm シャーレに 播種し 2 条件下で発芽率を調査した 品種は 一般的に栽培されている F 1種の キューピッド を用いた 比較対照として 平成 15 年に採種した 種子 ( 以後前年採種種子 ) を播種した 1-2 ) 温度が発芽率に及ぼす影響 採種直後種子 前年採種種子をジベレリン 5pp m 溶液に 24 時間浸漬処理後 6 月 21 日に播種し - 7 -

石垣要吾 : シクラメンの世代促進による育種年限の短縮に関する研究第 1 報採種直後播種による世代促進技術の確立 2 15 条件下で発芽率を調査した 1-3) 浸漬処理時間が発芽率に及ぼす影響採種直後種子 前年採種種子をジベレリン 5 1ppm 溶液に 2 6 12 24 時間の 4 水準の浸漬処理時間を組み合わせた 8 区で処理を行い 6 月 21 日に播種し 2 条件下で発芽率を調査した 試験 2 早期播種による世代促進効果の検討当支所交配 ムーンルージュ パピヨン の黄花系統を平成 15 年の 4 月から 一ヶ月毎に播種し 表 1のような耕種概要で栽培を行い 生育 開花状況を調査した 試験 1 表 1 試験区の播種日 2.5 号ポット上げ日 4 号最終鉢上げ日 播種 2.5 号ポット上げ 4 号最終鉢上げ 平成 15 年 4 月 22 日平成 15 年 6 月 2 日平成 15 年 1 月 23 日 5 月 26 日 7 月 28 日 12 月 8 日 6 月 27 日 9 月 19 日 12 月 2 日 7 月 29 日 1 月 14 日平成 16 年 2 月 5 日 8 月 31 日 11 月 21 日 5 月 26 日 9 月 3 日 12 月 25 日 5 月 26 日 1 月 31 日平成 16 年 1 月 28 日 5 月 26 日 11 月 17 日 3 月 26 日 6 月 15 日 12 月 24 日 4 月 8 日 7 月 13 日 平成 16 年 1 月 23 日 4 月 27 日 9 月 13 日 結 2 月 28 日 5 月 18 日 9 月 13 日 果 シクラメン種子の休眠打破方法の検討 1 ー 1 ) ジベレリン処理濃度が発芽率に及ぼす影 響 前年採種種子と採種直後種子の発芽率の推移を 比較した結果 前年採種種子は 播種 15 日後頃か ら発芽が始まり 28 日後には発芽率 8% とほぼ発 芽が完了したのに対し 採種直後種子は 3% 前後 であった 一方 播種 48 日後には採種直後種子で も 8% の発芽率となった これらのことから 採 種直後の種子は休眠状態にあり 発芽率が低いが 全く発芽しないわけではなく 発芽揃いが悪い状 態になることが明らかとなった ( 図 1) 次に ジベレリン 5 1ppm 処理では 28 日後 に 8% 以上の発芽率となり 前年採種種子と同等 以上の発芽率 発芽揃いとなった 1ppm 処理で も 35 日後には 7% 以上の発芽率となり 無処理よ りも発芽揃いが早かった ( 図 2) 1 9 発 8 採種直後種子前年採種種子 芽率 7 6 5 % 4 3 2 1 11 日 15 日 19 日 28 日 35 日 48 日 ( ) 図 1 採種直後種子と前年採種種子の発芽率の比較 率(% )1 9 8 7 発 6 芽 5 4 1ppm 3 2 1 5ppm 1ppm 無処理前年採種種子 11 日 15 日 19 日 28 日 35 日 48 日 図 2 ジベレリン処理濃度と発芽率の推移 - 8 -

岐阜県中山間農業研究所研究報告 (6 ):7~12(21 ) 1-2) 温度が発芽率に及ぼす影響 15 でも採種直後種子 前年採種種子ともにジ ベレリン処理による発芽促進効果はみられたが 前年採種種子では 15 より 2 で発芽率が高かっ たのに対し ( 図 3) 採種直後種子では 15 で発 芽率が高くなった ( 図 4) 率(% )1 9 8 発 7 芽 6 5 15-5ppm 4 3 2 15 - 無処理 2-5ppm 2 - 無処理 1 図 3 前年採種種子の温度と発芽率 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 発芽率(% ) 図 4 採種直後種子の温度と発芽率 15-5ppm 15 - 無処理 2-5ppm 2 - 無処理 1-3) 浸漬処理時間が発芽率に及ぼす影響 ジベレリン 5ppm 処理では どの浸漬処理時間 も無処理より発芽始めが早く 発芽率も高くなっ たが 浸漬処理時間が短いほどその効果が高かっ た ( 図 5) 1ppm 処理では 24 時間処理を除く どの処理時間でも同様な効果がみられた ( 図 6) 1 9 8 発芽 7 率 6 5 % 4 3 2 1 ( ) 図 5 ジベレリン 5ppm 溶液での浸漬時間と発芽率 1 9 8 発 7 芽 6 率 5 % 4 3 2 1 ( ) 図 6 ジベレリン 1ppm 溶液での浸漬時間と発芽率 以上の結果から 世代促進のために障壁となる 採種直後種子の休眠打破は ジベレリン処理 ( 処 理濃度 5ppm 浸漬処理時間 2 時間 発芽温度 15 ) により解決できることが明らかとなった 試験 2 早期播種による世代促進効果の検討 4 月から播種した結果 播種からポット上げま での期間は 4 月播種で最も短く その後 徐々 に長くなる傾向で 発芽後の環境が冬の低温期に なる 11 月播種で 129 日と最も長くなった 逆にポ ット上げから最終鉢上げまでの期間は 育苗期間 が春期になる 11 月播種で最も短く 夏期高温期と なる 4 月播種で長くなった 開花までの日数は どの播種時期でも 36 日前後であったが 4 月播種 では 294 日と二ヶ月以上短くなった 一方 6 7 8 月の夏期に播種する栽培では 38 日以上と長く なった ( 図 7) 播種後の葉数の推移を比較すると 開花までの 日数が短い 4 月 9 月 1 月播種で初期生育が早く 葉数の増加が早かった また 4 月播種では 葉 数 2 枚程で開花したため 開花までの日数が最も 短くなった ( 図 8) 2 時間 6 時間 12 時間 24 時間無処理 2 時間 6 時間 12 時間 24 時間無処理 - 9 -

石垣要吾 : シクラメンの世代促進による育種年限の短縮に関する研究第 1 報採種直後播種による世代促進技術の確立 開花時が夏期高温期となる 6~ 8 月開花では 種子が採種できるまでの成熟日数は 5 日前後と短く 9 月下旬以降の開花では 12 日以上と長くなった また 2 3 月開花でも 6 日程度と短くなった ( 図 9) 成熟日数が 6 日以内と短い場合には 1 莢の種子数は 6 粒以下と少なかった 逆に 成熟日数が 15 日以上と長くなると 1 粒以上となる莢が得られた その一方で 成熟日数が 15 日以上でも 5 粒以下の莢もあり 種子数は成熟日数と同様に花質の影響も強く受けると考えられた ( 図 1) 以上の結果から 播種時期と開花期 種子の成熟期の関係が明らかとなった これらの結果を基に 4 月に採種した種子をすぐに播種する作型を図 11のように組み立てることができた これにより 従来 4 世代を経過させるには 8 年を要していたものを 6 年以内に短縮することが可能であると考えられた 葉 3 25 2 数(枚)15 1 5 播種後経過期間 ( ヶ月 ) 3 5 4 月播種 5 月播種 6 月播種 7 月播種 8 月は種 9 月は種 1 月播種 7 9 図 8 播種時期と葉数の推移 11 13 15 17 4 月播種 5 月播種 6 月播種 7 月播種 8 月播種 9 月播種 1 月播種 11 月播種 12 月播種 1 月播種 2 月播種 播種 ~ ホ ット上げホ ット上げ ~ 鉢上げ鉢上げ ~ 開花 1 2 3 4 59 63 84 77 82 85 85 129 15 94 79 125 133 92 114 186 152 図 7 播種時期と開花までの日数 118 81 96 139 118 開花までの日数 11 158 27 222 112 142 173 17 124 155 2 9 4 日 ( 日 ) 3 5日 4 3 8日 3 112 3 4日 9 3 4 5 日 4 1日 3 3 8日 3 7日 1 3 5日 7 3 5 2 日 3 8 3 日 成熟日 2 18 16 14 数(日)開花日 12 1 8 6 4 2 1/8 1/22 2/5 2/19 3/4 3/18 4/1 4/15 4/29 5/13 5/27 6/1 6/24 7/8 7/22 8/5 8/19 9/2 9/16 9/3 1/14 1/28 11/11 11/25 12/9 図 9 開花日と成熟日数の関係 - 1 -

岐阜県中山間農業研究所研究報告 (6 ):7~12(21 ) 14 ( 粒 ) 12 1 種子 8 数(6 粒 / 4 莢)2 成熟日数 ( 日 ) 5 1 15 2 図 1 成熟日数と 1 莢採種種子数の関係 交配採種 4~ 6 月に採種 1 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 採種 播種 開花 1 F 1 採種 2 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 採種 播種 F 2 一次選抜 3 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 開花 2 採種 播種 F 3 二次選抜 4 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 開花 3 5 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 採種 播種 ( 播種 ) F 4 最終選抜 6 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 1 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 開花 4 採種 ( 開花 4 ) 適応性調査 図 11 採種直後播種作型モデル 考察わが国におけるシクラメン育種は 個人生産者による民間育種主導で行われてきたため シクラメン育種法に関する研究は あまり進んでいない 筆者は 育種年限短縮を目的として 播種時期を見直すことにより 1 世代サイクルを短縮する試験を行ってきた 今回の試験では 現状 1 世代に 2 年を要するシクラメン栽培において 1 世代の期間短縮による育種期間の短縮を試みた 現状の作型では 採種してから次の世代の播種を行うまでに約半年間の期間がある これは 冬出荷を前提とした最も効率が良い時期が 11 月であるために生じる期間である 従って 出荷前提ではなく 採種のみを目的とした場合 採種してすぐに播種することで 半 年間の期間短縮が可能となる そこで 採種した 種子をすぐに播種する栽培法を想定し 技術の組 立てを行った この栽培を成立させるためには 採種したばかりの休眠状態にある種子の発芽促進 法を開発することが不可欠である 今回の試験を行うまでに 筆者は 種子に対す る低温 高温処理を行ったが 発芽促進効果はみ られず むしろ発芽を阻害した 今回の試験結果から 休眠打破にはジベレリン 処理が最も効果が高いことを明らかにした ジベ レリンは 多くの植物に対して 休眠打破効果が あることが知られており シクラメン種子に対し ても発芽促進効果があることが認められている b) ( ト部 1967 勝木ら 1968) 一方 ジベレリ ンの浸漬処理は 種子の腐敗を増加させることも 報告されている ( 箱崎 1975 ) 今回の試験結果 - 11 -

石垣要吾 : シクラメンの世代促進による育種年限の短縮に関する研究第 1 報採種直後播種による世代促進技術の確立 から 休眠状態にある種子に対しても 高い発芽促進効果が得られる一方で 高濃度処理で浸漬処理時間が長いと 腐敗する種子が発生し 最終的な発芽率が低くなる傾向にあった そこで 浸漬処理時間を検討したところ 今回行った処理で最も短い 2 時間で十分な効果が得られており 24 時間処理ではむしろ最終的な発芽率が低下していることから 腐敗を防ぐためには浸漬処理は短いほうが良いと考えられた ちなみに 本実験以外の試験で 休眠が打破された通常種子に対する試験では 5 分間の浸漬処理で十分な効果が得られていることから ジベレリン溶液が種子表面に十分付着すれば効果が得られると考えられる 次に 採種直後の種子を播種した場合 通常作型とは異なる開花 結実時期となることが問題となる それを確認するために 各月に播種し 開花 結実時期をみる実験結果から 4 月に播種すると 開花までの期間が最も短く 結実までの期間も短いため播種 ~ 採種まで 1.1 ヶ年程度と最も短くなることが分った 次いで 9 月 1 月播種で短くなった このことは 発芽後の初期生育期間が 春及び秋期でシクラメンの生育に適温となるためであると考えられ 逆に 発芽後の環境が夏期の高温期及び冬期の低温期になる播種時期では 開花までの期間が長くなった このことから 初期生育をどれだけ促進させるかが 1 世代の期間を短縮するためには重要であると考えられた 今回得られた結果から 播種時期と採種時期を組み合わせ 最初の採種を4~ 5 月に行うと仮定すると 4 世代を経過するのに最短で 5 年と 3ヶ月となり 通常作型の 8 年間に対して大幅に短縮が可能となる 一方 この採種直後に播種する栽培を実践することは 従来の作型とは異なる生育時期となるため 幾つかの問題も生じてくる 最も大きな問題は 選抜 2 世代目に夏期高温期の開花期となることで 高温期での開花は 採種までの成熟日数は短くなるものの 1 鞘種子数が少なく 結実率も極めて低いため 採種効率が低くなることである 一方 播種から開花 採種までの期間が最も短く 開花期も冬 ~ 春期になる 4 月播種を基本に 1 世代 1 年の栽培法を開発すれば これらの問題は解決される 従って 4 月播種において 初期生育をさらに促進する方法を確立できれば 1 世代 1 年栽培も可能となるため 今後検討する余地があると考えられる 摘 要 シクラメンの世代促進による育種年限を短縮 するため 採種直後に播種する栽培法について検 討した 本栽培法を成立させるために必要となる 採種直後種子の休眠打破は ジベレリン 5ppm 溶 液での浸漬処理で可能であることを明らかにした また 播種時期 開花 結実時期の関係を明らか にし 採種直後に播種する栽培サイクルを組み立 てた その結果 4 世代を経過させるために必要 な期間を 現状の 8 年間から 5 年と 3 ヶ月に大幅に 短縮できると考えられた 引用文献 箱崎美義. 1975. シクラメンの種子発芽に関する 研究 ( 第 2 報 ). 明治大学農学部研究報告. 第 34 号.55-64 a) 勝木健蔵 岡崎幸吉. 1968. シクラメンの休眠 打破 ( 第 1 報 ). 農業及び園芸第 43 巻第 5 号. 865-866 b) 勝木健蔵 岡崎幸吉. 1968. シクラメンの休眠 打破 ( 第 2 報 ). 農業及び園芸第 43 巻第 6 号. 17-18 ト部昇治 藤村勇夫.1967. シクラメンの発芽に対 するジベレリンの利用に関する研究. 奈良県 農業試験場研究報告. 第 1 号.58-62 - 12 -