背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

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スライド 1

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

平成18年3月17日

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

長期/島本1

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

STAP現象の検証の実施について

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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研究成果報告書

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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学位論文の要約

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 6 月 2 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :26 ~ 28 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 炭酸ガスおよび半導体レーザーによるオーラルアンチエイジング 研究課題名 ( 英文 ) Oral an

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

態である新生血管の発生を一部再現したものであり 疾患モデル動物の代替として病態解析や創薬スクリーニングに応用できる可能性があります 本研究の成果は 平成 29 年 6 月 14 日 ( 英国時間 ) 付けで Scientific Reports 誌 ( 電子版 ) に掲載されます 本研究は 文部科学

Microsoft Word - 【プレスリリース・J】毛包再生非臨床 説明文 最終版.docx

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

学報_台紙20まで

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上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

第 1 章 小児と歯科保健医療 学修の目標 日本の小児保健 医療の特徴を理解する 小児保健と小児歯科医療のかかわりについて理解する 小児保健の中での歯科医師の役割を説明できる 小児歯科医療における歯科医師の責務を説明できる インフォームドコンセントの概念と手順を説明できる Ⅰ わが国の小児保健 医療

研究成果報告書

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

ヒト胎盤における

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

博第265号

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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Microsoft Word CREST中山(確定版)

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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PowerPoint プレゼンテーション

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Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

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生物時計の安定性の秘密を解明

平成14年度研究報告

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

れていない 遺伝子改変動物の作製が容易になるなどの面からキメラ形成できる多能性幹細胞 へのニーズは高く ヒトを含むげっ歯類以外の動物におけるナイーブ型多能性幹細胞の開発に 関して世界的に激しい競争が行われている 本共同研究チームは 着床後の多能性状態にある EpiSC を着床前胚に移植し 移植細胞が

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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平成24年7月x日

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

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報道機関各位 ips 細胞からエナメル質をつくる細胞を誘導 歯の再生への応用が期待 平成 24 年 2 月 10 日 東北大学大学院歯学研究科 ポイント 歯のエナメル質をつくる細胞( エナメル芽細胞 ) は 歯の萌出後に失われる ips 細胞からエナメル芽細胞を世界で初めて誘導 エナメル芽細胞の分化機序解明や 歯の再生への細胞ソースとして利用可能 概要 国立大学法人東北大学は 幹細胞が上皮細胞との相互作用により どのような細胞運命をたどるかを解明する過程で 人工多能性幹細胞 (ips 細胞 ) から エナメル質をつくるエナメル芽細胞の誘導に成功しました これは東北大学病院の新垣真紀子医員 歯学研究科の福本敏教授らと 米国国立衛生研究所 岩手医科大学 東京理科大学との共同研究による成果です 私たちの歯はエナメル質と象牙質よりつくられており その中でもエナメル質は体の中で最も硬い組織です 象牙質をつくる象牙芽細胞は歯を形成した後も歯髄の中に存在し続けますが エナメル芽細胞は 歯が萌出 ( 生える ) すると 体の中に存在しなくなります このためエナメル芽細胞がどのように分化し機能を維持しているのか明らかでなく そのメカニズム解明や これらの細胞を歯の再生に応用する為には マウスの胎児を利用しなければなりませんでした 今回 研究グループは ラット由来の歯原性上皮細胞とマウス由来 ips 細胞を共培養することで ips 細胞がエナメル基質であるアメロブラスチン エナメリン ( エナメル芽細胞マーカー ) を発現することを確認しました また この分化過程において分化誘導に用いた細胞から分泌される NT-4( 神経栄養因子の 1つ ) やアメロブラスチンが重要な役割を演じていることを明らかにしました この成果は 今まで困難であったエナメル芽細胞の役割を明らかにすること さらには歯の再生の為の細胞ソースとして応用可能な新しい技術です 本研究成果は 米国の科学雑誌 The Journal of Biological Chemistry 電子版に掲載されました

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませんでした そこで エナメル質をつくるエナメル芽細胞の培養や その分化制御法の開発が望まれておりました 象牙質をつくる象牙芽細胞やその前駆細胞は 一生涯歯の中の歯髄に存在し続けますが エナメル芽細胞は 歯が萌出 ( 生える ) すると 体の中には存在しない細胞となってしまい この細胞の分化機能の解明や 歯の再生技術開発のためには マウスの胎児組織を用いた方法しか存在しませんでした また 歯は歯胚と呼ばれる小さな原基から形成されますが この歯胚は口腔内の上皮細胞 ( 歯原性上皮細胞 ) と 神経堤由来の間葉細胞との相互作用 ( 上 *1 皮 間葉相互作用 ) により形成されることが知られております そこで 研究グループでは 歯の発生メカニズムを解明する目的で この歯原性上皮細胞と様々な幹細胞とを相互作用させることで 幹細胞がどのような運命をたどるのかを解明することを目的に研究を開始しました 研究成果 幹細胞と歯原性上皮細胞の相互作用を見る為に 1) 人工多能性幹細胞 (ips 細胞 ) 2) 歯髄幹細胞 3) 歯髄細胞の3 種類の細胞を用いました ラットの歯胚由来の歯原性上皮細胞株 (SF2-24 細胞 ) を敷石状に培養した上に マウス由来 ips 細胞を撒くと ips 細胞は歯原性上皮細胞上で 細胞が凝集した小さな塊を形成しました ( 図 1A) この細胞塊は それぞれの細胞と細胞の間が不明瞭な細胞塊でした 培養を6 日間継続すると この細胞塊の周囲から 細胞の境界が明瞭な細胞が形成され ( 図 1B) さらに培養後 10 日目では 伸びだしてきた細胞は上皮細胞に類似した敷石状の形態を有していました ( 図 1C) このラット由来歯原性上皮細胞と マウス由来 ips 細胞との共培養の結果 ips 細胞におけるエナメル基質 *2 ( エナメル芽細胞の分化マーカー ) の発現を RT-PCR 法にて確認した結果 アメロブラスチン エナメリンの発現が経時的に増加することを見いだしました ( 図 2A) また上皮細胞分化の指標である p63 やサイトケラチン 14 の発現増加も認められました ( 図 2A) そこで ips 細胞

の細胞塊から伸びだしてきた細胞集団が エナメル芽細胞の分化マーカーを発現しているかを 抗アメロブラスチン抗体を用いた免疫染色で確認した結果 ips 細胞の約 95% がアメロブラスチン陽性細胞となっていました ( 図 2B) また 同様の方法で歯髄幹細胞 (SP 細胞 *3 ) 歯髄細胞(MP 細胞 ) を歯原性上皮細胞と共培養すると 歯髄幹細胞は 象牙質シアロリン蛋白質 *4 ( 象牙芽細胞のマーカー ) を発現する細胞に分化しましたが 歯髄細胞は全く分化しませんでした ( 図 3) 本研究の成果より ラット歯原性上皮細胞株と共培養を行なうことでマウス由来 ips 細胞をエナメル芽細胞へ分化誘導することが可能となりました 本研究で用いたマウス由来 ips 細胞は 京都大学の山中教授らが作製したものを 理研バイオリソースセンターより分与を受けたものです 今後の展開 岩手医科大学の原田英光教授の研究グループとの共同研究により マウス由来 ips 細胞から 象牙質を形成する象牙芽細胞の分化誘導に成功しています 今回得られた細胞との組み合わせにより 全身のどこの細胞からも 歯を作り出せる可能性が生まれたと考えられます 今後 ips 由来の歯関連細胞から 歯を形成しうるかどうかの検討を行なうとともに 今までブラックボックスであったエナメル芽細胞の分化メカニズムや機能評価 さらにはエナメル質再生に関する研究へと発展させたいと考えております * 本研究の成果は 独立行政法人に本学術振興会の最先端 次世代研究開発支援プログラム かたちに関わる疾患解明を目指した歯の形態形成メカニズムの理解とその制御法の開発 ( 研究代表者 : 福本敏東北大学大学院歯学研究科教授 ) によるものです

図および説明

用語の説明 * 1 上皮 間葉相互作用多くの器官は 上皮細胞と間葉細胞との相互作用により形成される この相互作用は おもに相互の細胞から分泌される細胞増殖因子や基質によりおこなわれ 器官の概形や大きさの決定重要であると考えられている 歯以外にも唾液腺 毛 乳腺などが上皮 間葉相互作用により形成され また類似の発生は肺や腎臓でも認められる * 2 エナメル基質エナメル質の形成に関わる細胞外基質 ( マトリックス ) の総称である 代表的な分子として アメロジェニン アメロブラスチン エナメリンなどがある アメロブラスチンは 本研究グループがその機能解明を行い エナメル芽細胞の細胞接着や増殖制御に関わっていること報告した (Fukumoto S et al. J Cell Biol 2004) * 3 歯髄幹細胞 (SP 細胞 ) 歯髄の中には 0.2-1.0% の幹細胞が存在し これを歯髄幹細胞という この細胞は 神経細胞や骨芽細胞 象牙芽細胞 脂肪細胞などのさまざまな細胞に分化することが可能であり 再生医療への応用が期待されている 本研究では マウス由来歯髄細胞を不死化し ヘキスト色素を細胞に取り込ませた後 色素の排出量の高い細胞集団 (SP: side population) を 細胞ソーティングを用いて作製した細胞株を用いた * 4 象牙質シアロリン蛋白質象牙質シアロリン蛋白質 (DSPP) は 象牙芽細胞マーカー分子の1つであり 蛋白合成後に象牙質シアロ蛋白 (DSP) と象牙質リン蛋白 (DPP) に分解され 象牙質形成に関わる 本遺伝子の変異は 象牙質形成不全症を引き起こすことが知られている

論文題目 Arakaki M., Ishikawa M., Nakamura T., Iwamoto T., Yamada A., Fukumoto E., Saito M., Otsu K., Harada H., Yamada Y., and Fukumoto S. (2012) Role of epithelial sten cell interactions during dental cell differentiation. J Biol Chem. in press. 問い合わせ先東北大学大学院歯学研究科小児発達歯科学分野 tel:022-717-8380 教授福本敏東北大学大学院歯学研究科庶務係 tel:022-717-8244