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性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

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子宮頸がん 1. 子宮頸がんについて 子宮頸がんは子宮頸部に発生するがんです ( 図 1) 約 80% は扁平上皮がんであり 残りは腺がんですが 腺がんは扁平上皮がんよりも予後が悪いといわれています 図 1 子宮頸がんの発生部位 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は子宮頸がんのリスク因子です

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ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

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2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

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限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

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原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

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2)N 分類 Nの入力に際し 画像診断 (CT MRIなど ) より腫大リンパ節の有無を加味した以下の分類細目に従って報告する N0 所属リンパ節腫大 (-) N1 所属リンパ節腫大 (+) NX 画像診断をしなかった 3)M 分類 M0 遠隔転移なし MA 傍大動脈リンパ節の腫大 M1 その他の遠

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外陰癌総説 39 変化の可能性に関しては古くから注目されており,VINの診断とその管理は重要である (CQ01) 扁平上皮癌は角化型, 非角化型, 類基底細胞型, 湿疣型, 疣状型に分類される 若い女性にみられる外陰扁平上皮癌はHPV 感染によるものの頻度が高く, 組織像としては類基底細胞型, 湿疣

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

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院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

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e 治癒困難な腸瘻 ( 注 3) があり かつ 腸瘻における腸内容の排泄処理が著しく困難な状 態 ( 注 4) 又は高度の排尿機能障害 ( 注 2) があるもの f 高度の排尿機能障害 ( 注 2) があり かつ 高度の排便機能障害 ( 注 5) があるもの 3 等級表 4 級に該当する障害は 次の

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206 年実施卒後教育プログラム ( 日泌総会 ) 領域等タイトル日時単位 日泌総会卒後 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 8 日泌総会卒後 9 日泌総会卒後 0 日泌総会卒後 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 5 日泌総会卒後 6

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ることが証明されています このように手術の結果に応じてより細かな対応が可能になります (PSA 再発の項目参照 ) 2 放射線との比較手術と放射線治療を直接比較してどちらが有効かという大きな問題に結論を出した報告は現在のところありません しかし 間接的に比較した報告では 若年者ほど手術の方が予後の改

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70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

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44 4 I (1) ( ) (10 15 ) ( 17 ) ( 3 1 ) (2)

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はじめに 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は一口で言うと 弱い放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み 前立腺内部から癌の治療を行うものです ただし すべての前立腺癌に適応できるものではありません この説明書は小線源療法についての概説です よくお読みになった上で ご不明の点があれば担当医

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が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

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「             」  説明および同意書

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cm 以上の腫瘍では悪性化していることも考慮する必要があります ただし 良性腫瘍でも長期間放置すれば大きくなりますので サイズが大きいからと言って悪性とは限りません 成長速度: 悪性度の高い腫瘍では 大きくなるスピードが速くなります 腫瘍がいつからあったか 最近はどのくらいのスピードで大きくなってき

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

乳癌に対して乳線全摘,および腋窩リンパ節郭清を受けられる患者様へ

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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「腎盂尿管がんに対する手術」説明および同意書

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

スライド 1

を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

Transcription:

第 65 回日本産科婦人科学会学術講演会 専攻医教育プログラム 外陰癌の手術 東北大学産婦人科 新倉仁

1) 外陰癌総論 2) 外陰癌手術方法の選択 3) 手術に必要な解剖 4) 手術の実際 (SLN 生検含む ) 5) 外陰再建

5 年生存率 外陰癌 全女性性器癌の約 4% 扁平上皮癌が約 85% FIGO 日産婦 II, III Stage: 期の予後 I : 広汎外陰切除 78.5% > 放射線治療 (81.9%) 手術療法が選択されにくいことが予後の悪さ II 58.8% (57.5%) ( 特に IV 期 III ) と関係 43.2%? (47.5%) IV 13.0% (0%) リンパ節転移 (+) 40-50% (38.7%) (-) 90% (83.1%)

ごく稀にしか遭遇しない疾患知識及び技術面での経験不足 高齢という要素が治療に対する積極性を失わせている可能性 長い目で見た QOL の観点に立てば対象が高齢であってもできるものにはリンパ節廓清を含めた手術療法を目指すべきであろう 手術療法が標準 婦人科腫瘍委員会 ( 本邦における外陰癌の臨床統計調査報告 ) 日産婦誌 1995; 47: 685-693

QOL に配慮した縮小手術への流れ 切除範囲の縮小 広汎外陰切除術 (en block 方式 ) の改良と確立 Taussig FJ 1940, Way S 1960 Separate 方式とその改良 有用性の検討 Byron RL 1965; Hacker NF 1981;De Hullu Cancer 2002 放射線療法 (+ 化学療法 ) 後の手術 ( 周囲臓器合併切除の回避 ) Boronow RC 1982;Hacker NF1984;Thomas G1989; Landoni F 1996

リンパ節郭清範囲の縮小 IA 期でのリンパ節郭清省略 Hacker NF 1993 片側病変での患側鼠径リンパ節郭清のみ Burke TW1995 浅鼠径節のみの郭清 ( 安全とは言えない ) DiSaiai PJ 1979 (Ansink A 2000) センチネルリンパ節生検による系統郭清省略 ( まだ試験的 ) Levenback C 1995;Terada KY 1998; van der Zee AG 2008

外陰癌の進行期分類 (FIGO 1994 年 ) I 期 : 外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下の腫瘍 リンパ節転移はない Ia 期 : 外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下腫瘍で 間質浸潤の深さが 1mm 以下のもの Ib 期 : 外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下腫瘍で 間質浸潤の深さが 1mm を超えるもの II 期 : 外陰および / または会陰のみに限局した最大径 2cmを超える腫瘍 リンパ節転移はない III 期 : 腫瘍の大きさを問わず (1) 隣接する下部尿道および / または腟または直腸に進展するもの および / または (2) 一側の所属リンパ節転移があるもの IVa 期 : 腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの : 上部尿道 膀胱粘膜 直腸粘膜 骨盤骨および / または両側の所属リンパ節転移があるもの IVb 期 : 骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの

外陰癌の進行期分類 (FIGO 2008 年 ) I 期 : 外陰または会陰に限局した腫瘍で リンパ節転移はない IA 期 : 外陰または会陰に限局した最大径 2cm 以下の腫瘍で 間質浸潤の深さが 1mm 以下のもの IB 期 : 外陰または会陰に限局した最大径 2cm を超える腫瘍 または 1mm を超える間質浸潤を伴うもの II 期 : 腫瘍径は問わず 隣接する器官 ( 下部 1/3 尿道 下部 1/3 腟 肛門 ) へ浸潤した腫瘍でリンパ節転移はないもの III 期 : 腫瘍径は問わず 外陰 会陰に限局 または隣接する下部 1/3 尿道 下部 1/3 腟 肛門へ浸潤した腫瘍で 大腿 鼠径リンパ節転移を伴う IIIA 期 (i) リンパ節転移 1 個 (5mm 以上 ) または (ii) リンパ節転移 1~2 個 (5mm 未満 ) IIIB 期 (i) リンパ節転移 2 個以上 (5mm 以上 ) または (ii) リンパ節転移 3 個以上 (5mm 未満 ) IIIC 期被膜外進展を伴うリンパ節転移を有する IV 期 : 腫瘍が他の隣接器官 ( 上部 2/3 尿道 上部 2/3 腟壁 ) または遠隔器官に進展 IVA 期 (i) 上部尿道 上部腟粘膜 膀胱粘膜 直腸粘膜のいずれかに進展 または骨盤骨に固着 (ii) 固着 または潰瘍形成した大腿 鼠径リンパ節を有する IVB 期骨盤リンパ節を含むいずれかの遠隔転移を有する

FIGO 進行期分類 1994 年と 2008 年の違い 0 期を削除 リンパ節転移なければ外陰限局例は I 期 従来のIII 期のうちリンパ節転移なければII 期 ( 下部 1/3 という境界あり ) III 期はII 期までの腫瘍でリンパ節転移を伴うものとした腫瘍径よりもリンパ節転移の数 大きさ 形態を重視 リンパ節転移の個数 (1~3) 転移病巣の大きさ (5mm を境界 ) の組み合わせ 被膜外進展の有無で分類 IVA 期で両側性の所属リンパ節転移のかわりに潰瘍形成を伴うリンパ節転移を入れた

外陰癌のリンパ節転移経路 閉鎖節 腸骨節 深鼠径節 浅鼠径節 ほとんどは浅鼠径節 SLN の分布でも... 84% 浅鼠径 16% 深鼠径 Rob L 2007 Clinical Gynecologic Oncology より改変

1) 外陰癌総論 2) 外陰癌手術方法の選択 3) 手術に必要な解剖 4) 手術の実際 (SLN 生検含む ) 5) 外陰再建

治療アルゴリズム 1 FIGO2008 I 期 or II 期相当 リンパ節転移 (-) と考えられる症例 IA 期 IB or II 期 片側性病巣 中央病巣 根治的外陰部分切除 根治的外陰部分切除患側鼠径 LN 郭清 根治的外陰部分切除両側鼠径 LN 郭清 LN 転移 (-) LN 転移 (+) LN 転移 (+) LN 転移 (-) 経過観察 対側鼠径 LN 郭清 片側性 : 腫瘍の辺縁が正中の構造物 ( 陰核 尿道 腟 会陰体 肛門 ) から 1cm 以上離れる 追加治療 経過観察

腫瘍径 <2cm, 浸潤の深さ <1mm : IA 期 根治的外陰部分切除 ( リンパ節郭清省略 ) Hacker NF Cancer 1993 リンパ節郭清省略が可能とされる特殊例 疣状癌 基底細胞癌 Benedet JL Obstet Gynecol 1997 Woodruff JD Obstet Gynecol 1982

腫瘍径 >2cm または浸潤の深さ >1mm リンパ節腫大なし : IB~II II 期 根治的外陰部分切除 (± 腟切除 1cm 程度の尿道切除など ) + 鼠径リンパ節郭清 Triple incision technique で施行可能 ( 無作為比較試験はなし ) Byron RL 1965; Hacker NF 1981;De Hullu Cancer 2002 Lichen sclerosus or VIN の部位は切除する ( 浸潤を疑わなければ浅い切除でよい ) (Royal College of Obstetricians and Gynecologists:Management of vulvar cancer 2006) 片側性病巣では患側郭清 中央病巣では両側郭清 Burke Tw 1995 片側郭清で転移陽性例では対側郭清 (or 放射線療法 ) が必要

Triple incision technique ( 分割 膚切開法 )

腫瘍径 <4cm, IB~II 期根治的外陰部分切除 + センチネルリンパ節 (SLN) 生検陰性なら系統郭清省略の可能性 多施設 validation trial 119 例検出率 98% 感度 92% 偽陰性は腫瘍径 4cm 以上の2 例 正中病変の3 例 German multicenter study group 2008 452 例検出率 92.5% 感度 91.7% 陰性適中率 96.3% GOG#173 2012 多施設 SLN 転移 (-) 例で系統郭清省略の前方視的検討腫瘍径 <4cm 403 例 8 例 (3%) に鼠径部再発 van der Zee AG 2008

治療アルゴリズム 2 FIGO2008 III 期 or IV 期相当 鼠径 LN 切除可能 両側鼠径 LN 郭清 鼠径 LN 固着 潰瘍形成 化学 放射線療法 残存外陰病巣切除 両側鼠径 LN 郭清 括約筋 膀胱 直腸への進展なし 括約筋 膀胱 直腸への進展あり LN 転移なし LN 転移あり 根治的外陰切除 * * 根治的外陰切除術後補助放射線療法 化学 放射線療法 切除断端陽性 術後補助放射線療法 残存外陰病巣切除

腫瘍が他の隣接器官 ( 上部 2/3 尿道 上部 2/3 腟壁 ) に進展大腿 鼠径リンパ節あり 原則 : 鼠径リンパ節は切除可能なら基本的には摘除する ( 放射線よりも有用 Stehman FB 1992) ) 転移陽性例では腫大リンパ節のみ摘除という考え方もある 尿失禁 便失禁につながるような括約筋のダメージが生じる可能性がある症例では放射線療法 (+ 化学療法 ) も考慮 radiation Hacher NF 1984; Romensch 1990; Boronow RC 1987 chemoradiation Lupi G 1996; Landoni F 1996 * 臨床的にリンパ節転移を疑い 切除可能な場合 転移陽性例では en block の外陰切除を考慮

広汎外陰切除 (en block): 両側の転移陽性だった症例 転移の疑われる側の skin bridge 切除例

1) 外陰癌総論 2) 外陰癌手術方法の選択 3) 手術に必要な解剖 4) 手術の実際 (SLN 生検含む ) 5) 外陰再建

鼠径部 ~ 大腿 大腿神経 鼠径靭帯 大腿動脈大腿静脈大腿筋膜縫工筋 長内転筋大腿筋膜深鼠径リンパ節大伏在静脈 臨床のための解剖学 佐藤達夫著

動脈と神経 坐骨結節 陰部神経 陰部動脈会陰枝 陰部動脈下直腸枝 臨床のための解剖学 佐藤達夫著

骨盤底筋群 坐骨海綿体筋球海綿体筋下尿生殖隔膜筋膜 浅会陰横筋 外肛門括約筋 肛門挙筋 大殿筋 臨床のための解剖学 佐藤達夫著

1) 外陰癌総論 2) 外陰癌手術方法の選択 3) 手術に必要な解剖 4) 手術の実際 (SLN 生検含む ) 5) 外陰再建

手術の手順 1 鼠径リンパ節郭清の範囲の確認 リンパ節転移が疑われないため SLN 生検施行腫瘍周囲に色素を注入 術前日にはRIを腫瘍周囲 (4 か所 ) に注入シンチグラフィーで確認

手術の手順 2 ナビゲーターで SLN の位置を把握 Separate incision として開始 色素の視認 RI の確認で SLN 同定

手術の手順 3 皮下組織を剥離 ( 切開部に緊張をかけて電気メスで剥離 ) 筋膜上に脂肪組織が一塊となるように剥離 大腿動静脈を露出させ大腿静脈内側の深鼠径節を郭清する動脈外側の筋膜下には神経が存在するので注意 持続吸引ドレーンを挿入

手術の手順 4 病巣から 2cm 程度離して切開線を決める 緊張をかけながら電気メスで浅会陰筋膜にまで深く切除 VIN の部分は浅く切除 持続吸引ドレーンを挿入して縫合

1) 外陰癌総論 2) 外陰癌手術方法の選択 3) 手術に必要な解剖 4) 手術の実際 (SLN 生検含む ) 5) 外陰再建

外陰切除後の再建 排泄 性機能 下肢の運動などのQOL 保持自然な外観の再建創部離開など合併症の軽減 欠損の大きさ 位置 要求される皮弁のボリュームにより筋皮弁 筋膜皮弁 穿通枝皮弁などを選択 欠損が大きい場合 : 腹直筋皮弁 薄筋皮弁 gluteal thigh flap 通常の広汎外陰切除術 : gluteal fold flap( 殿溝皮弁 ), medial thigh fasciocutaneous flap 通常 ~ 小さめ : V-Y 皮弁 鼠径部 ~ 外陰の同時再建 : 大腿筋膜張筋皮弁 死腔の充填と外陰皮膚同時再建 : 高位欠損 腹直筋皮弁 低位欠損 薄筋皮弁

gluteal fold flap ( 殿溝 弁 ) 会陰動脈からの穿通枝を皮弁茎部に含めるように殿溝部から皮弁を採取通常の広汎外陰切除術では十分な再建が可能坐位での不快感疼痛を訴える可能性

V-Y 皮弁 会陰から殿部あるいは大腿に皮弁を作成し正中側へ平行に移動させる大きな欠損には適さないが分割法での広汎外陰切除術では有用なことも多い

最後に 外陰癌は婦人科癌の中でも稀な疾患であり 国内での ガイドラインは存在しないのが現状である 無作為比較試験での検証は難しいものの 徐々にエビデンスが蓄積され QOL に配慮した 治療の個別化が図られる方向に進んできている 基本方針は手術療法であり 数少ない機会を生かして 現状のエビデンスを理解した適切な手術療法 管理を 身につけたい