目次 1. 回収可能性適用指針の公表について (1) 公表の経緯 (2) 税効果会計プロジェクトの全体像 (3) 適用時期 2. 回収可能性適用指針の概要 (1) 繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方 (2) 課税所得と一時差異等加減算前課税所得 (3) 企業の分類に応じた取扱い総論 (4) 各

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第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い 35 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 36 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 37 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い 38 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い 43 繰延ヘッジ損益に係る一時差

各項目における一時差異の取扱い 35 解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱い 35 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 36 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 37 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い 38 退職給付に係る負債に関する一時差異の取

固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 36 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 37 その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い 38 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い 43 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い 46 繰越外国税額控除に係る繰延税金資産 47

四半期決算の会計処理に関する留意事項

改正法人税法により平成 24 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度については法人税率が 30% から 25.5% に引き下げられ また 復興財源確保法により平成 24 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度については基準法人税額の 10% が復興特別法人

設例 [ 設例 1] 法定実効税率の算定方法 [ 設例 2] 改正地方税法等が決算日以前に成立し 当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日に成立していない場合の法定実効税率の算定 本適用指針の公表による他の会計基準等についての修正 -2-

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税効果会計シリーズ(7)_「個別財務諸表における繰延税金資産及び繰延税金負債の計上」

ことが見込まれる当期末に存在する将来加算 ( 減算 ) 一時差異の額 ( 及び該当する場合は 当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額 ) を除いた額のことです ( 下記図表 1 参照 ) 例えば 図表 1 の X2 期の場合 将来の事業年度における課税所得

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

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税効果会計.docx

3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

図表 1 将来減算一時差異とは 課税所得の計算上 差異が生じたときに加算され 将来解消するときに減算されるものです 税効果会計の適用において最も取り扱う機会が多いのが将来減算一時差異です 貸倒引当金の損金算入限度超過額 賞与引当金及び退職給付引当金の額 減価償却費の損金算入限度超過額 棚卸資産等に係

IFRS基礎講座 IAS第12号 法人所得税

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用者の予測とは大きく異なった内容で突然開示されることがあり 繰延税金資産の回収可能性について事前に予測を行う観点からは 現行の税効果会計基準における繰延税金資産に関して開示されている情報では不十分である (3) 回収可能性に係る監査の指針を会計の指針に移管することから 会計処理だけでなく 開示につい

受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税 35 外国法人税 36 適用時期等 38-2-

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 ( 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に

平成29年3月決算の会計処理に関する留意事項

日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

平成28年3月決算の会計処理に関する留意事項

平成30年公認会計士試験

企業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑦・連結税効果実務指針(その2)

Report

税されるときは 給与等課税事由が生じた日 ( 権利行使日 ) に 法人において 当該役務提供に係る費用の額が損金に算入されますので ( 法人税法第 54 条第 1 項 ) ストック オプションの付与時において将来減算一時差異に該当し 税効果会計の対象となります Q3: 削除 Ⅱ 中間財務諸表等におけ

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収益認識に関する会計基準

会計処理 29 当事業年度の所得等に対する法人税 住民税及び事業税等 29 更正等による追徴及び還付 30 追徴税額について課税を不服として法的手段を取る場合の取扱い 34 開示 36 当事業年度の所得等に対する法人税 住民税及び事業税等 37 受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税 38 外

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

税効果会計シリーズ(3)_法定実効税率

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実務対応報告第 7 号 連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い ( その 2) 平成 15 年 2 月 6 日改正平成 22 年 6 月 30 日最終改正平成 27 年 1 月 16 日企業会計基準委員会 目的 実務対応報告第 5 号 連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関す

平成28年3月期決算の留意事項


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業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑧・連結税効果実務指針(その3)

目的 1. 本会計基準は 企業会計審議会が平成 10 年 10 月に公表した 税効果会計に係る会計基準 ( 以下 税効果会計基準 という ) 及び 税効果会計に係る会計基準注解 ( 以下 税効果会計基準注解 という ) のうち開示に関する事項を改正することを目的とする 会計基準 開示表示 2. 税効


できる 105. 前項の取扱いを適用する場合には 次の事項を注記する (1) その旨及び決算月に実施した計量の日から決算日までに生じた収益の見積りが極めて困難と認められる理由 (2) 当連結会計年度及び当事業年度の決算月の翌月に実施した計量により確認した使用量に基づく収益の額 ( この収益の額が 決

1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

第 314 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (4)-1 DT 年 6 月 29 日 プロジェクト 項目 税効果会計 検討の進め方について 本資料の目的 1. 企業会計基準委員会及び税効果会計専門委員会 ( 以下 専門委員会 という ) では 日本公認会計士協

平成 19年 10月 29日

平成26年度 第138回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

具体的な組替調整額の内容は以下のとおりです その他の包括利益その他有価証券評価差額金繰延ヘッジ損益為替換算調整勘定 組替調整額 その他有価証券の売却及び減損に伴って当期に計上された売却損益及び評価損等 当期純利益に含められた金額 ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金

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貸借対照表 (2019 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 3,784,729 流動負債 244,841 現金及び預金 3,621,845 リース債務 94,106 前払費用 156,652 未払金 18,745

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

スライド 1

旭情報サービス (9799) 平成 29 年 3 月期第 2 四半期決算短信 ( 非連結 ) 添付資料の目次 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 経営成績に関する説明 2 (2) 財政状態に関する説明 2 (3) 業績予想などの将来予測情報に関する説明 2 2. サマリー情報 ( 注記

従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

03-08_会計監査(収益認識に関するインダストリー別③)小売業-ポイント制度、商品券

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に相当する金額を反映して分割対価が低くなっているはずですが 分割法人において移転する資産及び負債の譲渡損益は計上されませんので 分割法人において この退職給付債務に相当する金額を損金の額とする余地はないこととなります (2) 分割承継法人適格分割によって退職給付債務を移転する場合には 分割法人の負債

公開草案なお 重要性が乏しい場合には当該注記を省略できる 現行 適用時期等 平成 XX 年改正の本適用指針 ( 以下 平成 XX 年改正適用指針 という ) は 公表日以後適用する 適用時期等 結論の背景経緯 平成 24 年 1 月 31 日付で 厚生労働省通知 厚生年金基金

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旭情報サービス (9799) 平成 28 年 3 月期第 1 四半期決算短信 ( 非連結 ) 添付資料の目次 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 経営成績に関する説明 2 (2) 財政状態に関する説明 2 (3) 業績予想などの将来予測情報に関する説明 2 2. サマリー情報 ( 注記

( 注 ) ( 注 ) リスク分担型企業年金では 標準掛金額に相当する額 特別掛金額に相当する額及びリスク対応掛金額に相当する額を合算した額が掛金として規約に定められるため 本実務対応報告では 規約に定められる掛金の内訳として 標準掛金相当額 特別掛金相当額 及び リスク対応掛金相当額 という用語を

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[2] のれんの発生原因 企業 ( または事業 ) を合併 買収する場合のは 買収される企業 ( または買収される事業 ) のおよびを 時価で評価することが前提となります またやに計上されていない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形についても その金額が合理的に算定できる場合は 当該無形に配

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営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

2. 減損損失の計上過程 [1] 資産のグルーピング 減損会計は 企業が投資をした固定資産 ( 有形固定資産のほか のれん等の無形固定資産なども含む ) を適用対象としますが 通常 固定資産は他の固定資産と相互に関連して収益やキャッシュ フロー ( 以下 CF) を生み出すものと考えられます こうし

CONTENTS 第 1 章法人税における純資産の部の取扱い Q1-1 法人税における純資産の部の区分... 2 Q1-2 純資産の部の区分 ( 法人税と会計の違い )... 4 Q1-3 別表調整... 7 Q1-4 資本金等の額についての政令の規定 Q1-5 利益積立金額についての政

2 事業活動収支計算書 ( 旧消費収支計算書 ) 関係 (1) 従前の 消費収支計算書 の名称が 事業活動収支計算書 に変更され 収支を経常的収支及び臨時的収支に区分して それぞれの収支状況を把握できるようになりました 第 15 条関係 別添資料 p2 9 41~46 82 参照 消費収入 消費支出

貸借対照表 平成 28 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 千円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 資産の部 負債の部 流動資産 (63,628,517) 流動負債 (72,772,267) 現金及び預金 33,016,731 買掛金 379,893 売掛金 426,495 未払金 38,59

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法人による完全支配関係下の寄附金 1.100% グループ内の法人間の寄附 ( 法法 372) 現行税制上では 寄附金は支出法人では損金計上限度額を超える部分が損金不算入 受領法人では益金算入です 平成 22 年度税制改正により 100% グループ内での支出法人では寄附金全額を損金不算入とし 受領法人

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表紙 EDINET 提出書類 寺崎電気産業株式会社 (E0176 訂正有価証券報告書 提出書類 根拠条文 提出先 提出日 有価証券報告書の訂正報告書金融商品取引法第 24 条の2 第 1 項近畿財務局長平成 30 年 9 月 21 日 事業年度 第 38 期 ( 自平成 29 年 4 月 1 日至平

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変更の内容 変更の理由 原則的な遡及適用の場合 原則的な遡及適用が実務上不可能な場合 変更の内容 変更の理由 変更による影響額 ( 注 1) 変更による影響額 ( 注 2) 原則的な遡及適用が実務上不可能な理由 会計方針の変更の適用方法 会計方針の変更の適用開始時期 ( 注 1) 原則的な遡及適用に

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令和元年 6 月 14 日 各位 会社名日本空港ビルデング株式会社代表者名代表取締役社長執行役員兼 COO 横田信秋 ( コード番号 9706 東証第 1 部 ) 問合せ先常務取締役執行役員企画管理本部長田中一仁 (TEL ) ( 訂正 数値データ訂正 )

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下では特別償却と対比するため 特別控除については 特に断らない限り特定の機械や設備等の資産を取得した場合を前提として説明することとします 特別控除 内容 個別の制度例 特定の機械や設備等の資産を取得して事業の用に供したときや 特定の費用を支出したときなどに 取得価額や支出した費用の額等 一定割合 の

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The Japanese Institute of Certified Public Accountants 企業会計基準適用指針第 26 号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 の概要及び監査上の留意事項について 公認会計士 小倉加奈子 ( 会計制度担当常務理事 JICPA 税効果会計検討プロジェクト チーム構成員長 ASBJ 税効果会計専門委員会専門委員 ) 公認会計士 茂木哲也 ( 理事 JICPA 税効果会計検討プロジェクト チーム構成員 ASBJ 税効果会計専門員会専門委員 ) 平成 28 年 2 月 5 日 注意 : この教材は 日本公認会計士協会において 研修用教材として作成したものです 他の者が許可なく複写等することを禁じます Copyright JICPA. All rights reserved. 1

目次 1. 回収可能性適用指針の公表について (1) 公表の経緯 (2) 税効果会計プロジェクトの全体像 (3) 適用時期 2. 回収可能性適用指針の概要 (1) 繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方 (2) 課税所得と一時差異等加減算前課税所得 (3) 企業の分類に応じた取扱い総論 (4) 各分類の要件をいずれも満たさない企業の取扱い (5) 企業の分類に応じた取扱い分類 1 (6) 企業の分類に応じた取扱い分類 2 (7) ( 分類 2) 及び ( 分類 3) に係る分類要件の見直し (8) ( 分類 2) スケジューリング不能な将来減算一時差異 Copyright JICPA. All rights reserved. 2

目次 2. 回収可能性適用指針の概要 ( つづき ) (9) 企業の分類に応じた取扱い分類 3 (10) ( 分類 3) 合理的な見積可能期間に関する取扱い (11) 企業の分類に応じた取扱い分類 4 (12) ( 分類 4) を ( 分類 2) 又は ( 分類 3) とする取扱い (13) 企業の分類に応じた取扱い分類 5 (14) 従来の実務指針から踏襲しているその他の事項 (15) 適用時期等 3. 監査上の留意事項 (1) 合理的な説明 に関する留意事項 (2) 企業の分類に応じた回収可能性の判断に関する留意事項 (3) 繰延税金資産の計上額に関する留意事項 (4) 判断の継続性に関する留意事項 (5) 適用初年度に関する留意事項 Copyright JICPA. All rights reserved. 3

1. 回収可能性適用指針の公表 について Copyright JICPA. All rights reserved. 4

1. 回収可能性適用指針の公表について (1) 公表の経緯 平成 10 年 10 月に企業会計審議会から 税効果会計に係る会計基準 が公表され 当該会計基準等を受けて 日本公認会計士協会 (JICPA) は税効果会計に関する実務指針等を公表した また 平成 11 年 4 月 1 日以後開始する事業年度における税効果会計の全面適用に当たり JICPA は平成 11 年 11 月に監査委員会報告第 66 号 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い ( 以下 監査委員会報告第 66 号 という ) を公表した 平成 25 年 12 月に基準諮問会議から JICPA が公表している税効果会計に関する実務指針等を企業会計基準委員会 (ASBJ) に移管すべく審議を行うことが提言された これを受けて ASBJ は 税効果会計専門委員会を設置し 平成 26 年 2 月から審議を開始した このうち監査委員会報告第 66 号に対する問題意識が強く聞かれることから 繰延税金資産の回収可能性に関する指針を先行して開発することとなった 平成 27 年 5 月 26 日適用指針公開草案第 54 号として公表され パブリックコメントの対応を経て 平成 27 年 12 月 28 日付けで 企業会計基準適用指針第 26 号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 ( 以下 回収可能性適用指針 という ) として公表された Copyright JICPA. All rights reserved. 5

1. 回収可能性適用指針の公表について (2) 税効果会計プロジェクトの全体像 JICPA が公表している税効果会計に関する会計上の実務指針及び監査上の実務指針 (7 本 ) 会計制度委員会報告第 6 号 連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針 ( 以下 連結税効果実務指針 という ) 会計制度委員会報告第 10 号 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針 ( 以下 個別税効果実務指針 という ) 会計制度委員会報告第 11 号 中間財務諸表等における税効果会計に関する実務指針 ( 以下 中間税効果実務指針 という ) 会計制度委員会 税効果会計に関する Q&A ( 以下 税効果 Q&A という ) 監査委員会報告第 66 号 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い 監査委員会報告第 70 号 その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い ( 以下 監査委員会報告第 70 号 という ) 監査 保証実務委員会実務指針第 63 号 諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い ( 以下 監査 保証実務委員会実務指針第 63 号 という ) Copyright JICPA. All rights reserved. 6

1. 回収可能性適用指針の公表について (2) 税効果会計プロジェクトの全体像 現行企業会計審議会税効果会計に係る会計基準 JICPA 個別税効果実務指針 連結税効果実務指針 中間税効果実務指針 税効果 Q&A 監査委員会報告第 66 号 監査委員会報告第 70 号 今回の主な移管対象 監査 保証実務委員会実務指針第 63 号 移管後 企業会計審議会 税効果会計に係る会計基準 回収可能性適用指針 ASBJ 企業会計基準適用指針公開草案第 55 号 税効果会計に適用する税率に関する適用指針 ( 案 ) 他の実務指針の移管については 今後 速やかに審議が行われる予定 繰延税金資産の回収可能性に関する定めを移管している Copyright JICPA. All rights reserved. 7

1. 回収可能性適用指針の公表について (3) 適用時期 平成 28 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する ただし 平成 28 年 3 月 31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる Copyright JICPA. All rights reserved. 8

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(1) 繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方 繰延税金資産の回収可能性の判断 ( 第 6 項 ) 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は 次の (1) から (3) に基づいて 将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断する (1) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得 1 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性将来減算一時差異の解消見込年度及び繰戻 繰越期間に 一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうか 2 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性繰越期間に 一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうか 上記の判断を行うに当たっては 過去の業績や納税状況 将来の業績予測等を総合的に勘案し 将来の一時差異等加減算前課税所得を合理的に見積る必要がある (2) タックス プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得 (3) 将来加算一時差異 個別税効果実務指針における回収可能性に関する基本的な考え方及び回収可能性の水準に関する基本的な考え方を踏襲している Copyright JICPA. All rights reserved. 10

(2) 課税所得と一時差異等加減算前課税所得 回収可能性適用指針は 監査委員会報告第 66 号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲した上で当該取扱いの一部について必要な見直しを行っている 回収可能性を判断する際に 過去の事象 将来の事象 いずれを重視するかについて検討を行った 監査委員会報告第 66 号では 過去の事象が重視されすぎており 実態が反映されていないのではないかとの意見が聞かれた ( 第 64 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 11

(2) 課税所得と一時差異等加減算前課税所得 用語の定義 ( 第 58 項 ) 事象要件を検討する目的検討する項目 過去の事象 過去において将来減算一時差異が解消した時に税金負担額が軽減したかどうかに関する実績を把握する必要があるため 課税所得 将来の事象 将来において当期末に存在する将来減算一時差異が解消する時に税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断する必要があるため 一時差異等加減算前課税所得 Copyright JICPA. All rights reserved. 12

(2) 課税所得と一時差異等加減算前課税所得 課税所得 ( 第 3 項 (7)) 法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上 当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう 一時差異等加減算前課税所得 ( 第 3 項 (9)) 将来の事業年度における課税所得の見積額から 当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算 ( 減算 ) 一時差異の額 ( 及び該当する場合は 当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額 ) を除いた額をいう Copyright JICPA. All rights reserved. 13

(2)-2 将来の課税所得の見積り 回収可能性適用指針 ( 第 32 項 ) 第 26 項 第 28 項 第 29 項及び第 30 項に従って企業を分類する場合 並びに第 20 項 第 23 項 第 24 項及び第 27 項に従って繰延税金資産の計上額を見積る場合 合理的な仮定に基づく業績予測によって 将来の課税所得又は税務上の欠損金を見積ることとなる 具体的には 適切な権限を有する機関の承認を得た業績予測の前提となった数値を 経営環境等の企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報 ( 過去における中長期計画の達成状況 予算やその修正資料 業績評価の基礎データ 売上見込み 取締役会資料を含む ) と整合的に修正し 課税所得又は 税務上の欠損金を見積る なお 業績予測は 中長期計画 事業計画又は予算編成の一部等その呼称は問わない Copyright JICPA. All rights reserved. 監査委員会報告第 66 号 収益力に基づく課税所得の十分性を根拠に繰延税金資産を計上する場合は 会社によって将来の業績予測が作成されていなければならない 将来の業績予測は 事業計画や経営計画又は予算編成の一部等その呼称は問わないが 原則として 取締役会や常務会等 ( 以下 取締役会等 という ) の承認を得たものであることが必要である ただし 取締役会等の承認を得たものであっても 会社の現状の収益力等を勘案し 明らかに合理性の欠く業績予測であると認められる場合には 適宜その修正を行った上で課税所得を見積ることが必要であることに留意する 将来の業績予測は合理的な金額であるべきという趣旨を変えることを意図するものではない ( 第 97 項 ) 14

(3) 企業の分類に応じた取扱い総論 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 第 15 項 ) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際に 各分類の要件に基づき企業を ( 分類 1) から ( 分類 5) に分類し 当該分類に応じて 回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定する Copyright JICPA. All rights reserved. 15

(4) 各分類の要件をいずれも満たさない企業の取扱い 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 第 16 項 ) 各分類の要件をいずれも満たさない企業は 過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移 当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み 将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し 各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する 当該判断は 各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することを意図するものではない Copyright JICPA. All rights reserved. 16

(5) 企業の分類に応じた取扱い分類 1 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 分類 1) 分類要件 計上額 回収可能性適用指針における取扱い 次の要件をいずれも満たす企業 (1) 過去 (3 年 ) 及び当期のすべての事業年度において 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている (2) 当期末において 近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない 繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする 監査委員会報告第 66 号における取扱い 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社等 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期 ( 当期及びおおむね過去 3 年以上 ) 計上している会社等で その経営環境に著しい変化がない場合 一般的に 繰延税金資産の全額について その回収可能性があると判断できる Copyright JICPA. All rights reserved. 17

(6) 企業の分類に応じた取扱い分類 2 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 分類 2) 分類要件 計上額 回収可能性適用指針における取扱い 次の要件をいずれも満たす企業 (1) 過去 (3 年 ) 及び当期のすべての事業年度において 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が 期末における将来減算一時差異を下回るものの 安定的に生じている (2) 当期末において 近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない (3) 過去 (3 年 ) 及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じてない 一時差異等のスケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする なお 一定要件を満たしたスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性があるものとする 監査委員会報告第 66 号における取扱い 業績は安定しているが 期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等 過去の業績が安定している会社等の場合 すなわち 当期及び過去 ( おおむね 3 年以上 ) 連続してある程度の経常的な利益を計上しているような会社等の場合 一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係る繰延税金資産を計上している場合には 当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする Copyright JICPA. All rights reserved. 18

(7) ( 分類 2) 及び ( 分類 3) に係る分類要件の見直し ( 分類 2) 及び ( 分類 3) に係る分類の要件において 以下のとおり変更されている 回収可能性適用指針 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得 監査委員会報告第 66 号 経常的な利益 ( 分類 2) に係る分類の要件として示している 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が 期末における将来減算一時差異を下回るものの 安定的に生じている の趣旨 ( 第 70 項 ) 将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得する収益力があるか否かを判断することを意図している ( 分類 3) に係る分類の要件として示している 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している の趣旨 ( 第 80 項 ) ( 分類 2) と同様に将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得するだけの収益力があるか否かを判断することを意図している Copyright JICPA. All rights reserved. 19

(7) ( 分類 2) 及び ( 分類 3) に係る分類要件の見直し 課税所得から 臨時的な原因により生じたもの を除くことについて ( 第 71 項 ) 過去において臨時的な原因により生じた益金及び損金は 将来において頻繁に生じることは見込まれないという推定に基づき 臨時的な原因により生じたものを除いている 営業損益項目に係る益金及び損金は 通常の事業活動から生じたものであることから 原則として 臨時的な原因により生じたもの に該当しないと考えられる 営業外損益項目に係る益金及び損金は毎期生じるものが多く 通常は 臨時的な原因により生じたもの に該当しないと考えられるが 項目の性質によっては 臨時的な原因により生じたもの に該当するものが含まれることがあると考えられる 特別損益項目に係る益金及び損金であっても必ずしも 臨時的な原因により生じたもの に該当するとは限らず 企業が置かれた状況や項目の性質等を勘案し 将来において頻繁に生じることが見込まれるかどうかを個々に項目ごとに判断することとなると考えられる ( 分類 2) に係る分類の要件として 会計上の利益に基づく要件から課税所得に基づく要件に変更するものの これによりこれまで ( 分類 2) 又は ( 分類 3) に該当していた企業の範囲を変更しないこと 及び監査委員会報告第 66 号における 経常的な利益 に基づく判断とおおむね整合的になることを意図している ( 第 71 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 20

(8) ( 分類 2) スケジューリング不能な将来減算一時差異 回収可能性適用指針 ( 第 20 項及び第 21 項 ) ( 分類 2) に該当する企業においては 一時差異等のスケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 原則として スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について 回収可能性がないものとする ただし スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち 税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて 当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする 監査委員会報告第 66 号 スケジューリングの結果に基づき 繰延税金資産を計上している場合には 回収可能性があると判断できるものとする 本取扱いは ( 分類 2) に該当する企業においては スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収可能性がないものとする原則的な定めに対して スケジューリング不能な将来減算一時差異を回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には原則とは異なる取扱いを容認することで 繰延税金資産の計上額が企業の実態をより適切に反映することを意図したものである ( 第 77 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 21

(8) ( 分類 2) スケジューリング不能な将来減算一時差異 < 具体例 > いわゆる政策保有株式のうち上場株式の減損に係る将来減算一時差異 ( 当該上場株式の売却時期の意思決定又は実施計画等が存在していないため ) 税務上の損金算入時期が個別に特定できでないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれる ( 市場環境 保有目的 処分方針等を勘案すると将来のいずれかの時点で売却する可能性が高いと見込む場合 ) ものについて 当該将来の税務上の損金算入時点における課税所得が当該スケジューリング不能一時差異の額を上回る見込みが高いことにより 繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとした ( 第 75 項 ) 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異税務上の損金算入時期を個別に特定できない場合であっても いずれかの時点では損金算入されるものであることから ( 分類 2) に該当する企業において将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする ( 第 106 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 22

(9) 企業の分類に応じた取扱い分類 3 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 分類 3) 分類要件 計上額 回収可能性適用指針における取扱い 次の要件をいずれも満たす企業 ( 第 26 項 (2) 又は (3) の要件を満たす場合を除く ) (1) 過去 (3 年 ) 及び当期において 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得 ( 負の値となる場合も含む ) が大きく増減している (2) 過去 (3 年 ) 及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね 5 年 ) 以内のスケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 上記にかかわらず 5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 監査委員会報告第 66 号における取扱い 業績が不安定であり 期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等 過去の業績が不安定な会社等 すなわち 過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社等の場合 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね 5 年 ) 内の課税所得の見積額を限度として 当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係る繰延税金資産を計上している場合には 当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする Copyright JICPA. All rights reserved. 23

(10) ( 分類 3) 合理的な見積可能期間に関する取扱い ( 分類 3) に該当する企業における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積可能期間に関する取扱い 回収可能性適用指針 ( 第 23 項及び第 24 項 ) 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね 5 年 ) 以内のスケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 上記にかかわらず 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因 中長期計画 過去における中長期計画の達成状況 過去 (3 年 ) 及び当期の課税所得の推移等を勘案して 5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 監査委員会報告第 66 号 おおむね 5 年内 の課税所得の見積りを限度として 繰延税金資産の回収可能性があると判断できるものとする 将来の合理的な見積可能期間について一律に 5 年を限度とすることは 企業の実態を反映しない可能性があると考えられる ( 第 84 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 24

(10) ( 分類 3) 合理的な見積可能期間に関する取扱い < 具体例 > 製品の特性により需要変動が長期にわたり予測できる場合需要変動の推移から課税所得が大きく増減している原因を合理的な根拠をもって説明できる可能性があり 当期に策定した中長期計画等に基づき 5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは 当該繰延税金資産は回収可能性があるものと考えられる ( 第 85 項 ) 長期契約が新たに締結されたことにより 長期的かつ安定的な収益が計上されることが明確になる場合長期契約の内容を勘案し 5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは 当該繰延税金資産は回収可能性があるものと考えられる ( 第 85 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 25

(11) 企業の分類に応じた取扱い分類 4 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 分類 4): その 1 回収可能性適用指針における取扱い 監査委員会報告第 66 号における取扱い 分類要件 計上額 次のいずれかの要件を満たし かつ 翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業 (1) 過去 (3 年 ) 又は当期において 重要な税務上の欠損金が生じている (2) 過去 (3 年 ) において 重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある (3) 当期末において 重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる 翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて 翌期の一時差異等のスケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等 期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社 過去 ( おおむね 3 年以内 ) に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実があった会社 又は当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる会社の場合 原則として 翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で かつ その範囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係る繰延税金資産を計上している場合には 当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする また 過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が期末に存在する会社について 翌期末において重要な税務上の繰越欠損金の発生が見込まれる場合には 期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社と同様に取り扱うこととする Copyright JICPA. All rights reserved. 26

(11) 企業の分類に応じた取扱い分類 4 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 分類 4): その 2 回収可能性適用指針における取扱い ( 分類 2) 又は ( 分類 3) に該当するものとして取り扱う場合 第 27 項にかかわらず 第 26 項の分類の要件を満たす企業においては 重要な税務上の欠損金が生じた原因 中長期計画 過去における中長期計画の達成状況 過去 (3 年 ) 及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して 将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合 将来において 5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは ( 分類 2) に該当するものとして取り扱う 将来においておおむね 3 年から 5 年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは ( 分類 3) に該当するものとして取り扱う 監査委員会報告第 66 号における取扱い ただし 重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が 例えば 事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものであり それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね 5 年 ) 内の課税所得の見積額を限度として 当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき それに係る繰延税金資産を計上している場合には 当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする Copyright JICPA. All rights reserved. 27

(12) ( 分類 4) を ( 分類 2) 又は ( 分類 3) とする取扱い ( 分類 4) に係る分類の要件を満たす企業を ( 分類 2) 又は ( 分類 3) とする取扱い 回収可能性適用指針 ( 第 27 項 第 28 項及び第 29 項 ) 翌期の一時差異等のスケジューリングの結果 繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする 重要な税務上の欠損金が生じた原因 中長期計画 過去における中長期計画の達成状況 過去 (3 年 ) 及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して 将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合 - 将来において 5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するとき ( 分類 2) に該当するものとして取り扱い 第 20 項及び第 21 項の定めに従って繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする - 将来においておおむね 3 年から 5 年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するとき ( 分類 3) に該当するものとして取り扱い 第 23 項の定めに従って繰延税金資産を見積る場合 当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする Copyright JICPA. All rights reserved. 監査委員会報告第 66 号 翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で かつ その範囲内で繰延税金資産を計上している場合には その繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする ただし 重要な税務上の繰越欠損金等が 例えば 事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものである場合 おおむね 5 年内 の課税所得の見積額を限度として繰延税金資産の回収可能瀬があると判断できる ( 分類 4) に係る分類の要件を満たす企業が ( 分類 3) に該当するものとして取り扱われる場合 第 24 項の定め (( 分類 3) に該当する企業の 5 年超の見積可能期間に関する規定 ) は適用されない ( 第 89 項 ) 28

(12) ( 分類 4) を ( 分類 2) 又は ( 分類 3) とする取扱い < 具体例 > ( 分類 2) に該当するものとして取り扱われる例過去において ( 分類 2) に該当していた企業が 当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから ( 分類 4) に係る分類の要件を満たすものの 将来の一時差異等加減算前課税所得を見積もった場合に 将来において 5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明できるとき ( 第 91 項 ) ( 分類 4) に係る要件を満たす企業が ( 分類 3) に該当するものとして取り扱われるケースに比べて多くはない ( 分類 3) に該当するものとして取り扱われる例過去において業績の悪化に伴い重要な税務上の欠損金が生じており ( 分類 4) に該当していた企業が 当期に代替的な原材料が開発されたことにより 業績の回復が見込まれ その状況が将来も継続することが見込まれる場合に 将来においておおむね 3 年から 5 年程度は一時差異等加減算前課税所得等が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明できるとき ( 第 92 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 29

(13) 企業の分類に応じた取扱い分類 5 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い ( 分類 5) 分類要件 計上額 回収可能性適用指針における取扱い 次の要件をいずれも満たす企業 (1) 過去 (3 年 ) 及び当期のすべての事業年度において 重要な税務上の欠損金が生じている (2) 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる 原則として 繰延税金資産の回収可能性はないものとする 監査委員会報告第 66 号における取扱い 過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社等 過去 ( おおむね 3 年以上 ) 連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社で かつ 当期も重要な税務上の欠損金の計上が見込まれる会社の場合 原則として 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金等に係る繰延税金資産の回収可能性はないものと判断する また 債務超過の状況にある会社や資本の欠損の状況が長期にわたっている会社で かつ 短期間に当該状況の解消が見込まれない場合には これと同様に取り扱うものとする Copyright JICPA. All rights reserved. 30

(14) 従来の実務指針から踏襲しているその他の事項 下記については 従来の実務指針の内容を基本的に踏襲している タックス プランニングの実現可能性に関する取扱い ( 第 33 項及び第 34 項 ) 解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異 ( 第 35 項 ) 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い ( 第 36 項 ) 役員退職慰労引当金に係る将来の一時差異の取扱い ( 第 37 項 ) その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い ( 第 38 項から第 42 項 ) 退職給付に係る負債に関する一時差異の取扱い ( 第 43 項から第 45 項 ) 繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱い ( 第 46 項 ) 繰越外国税額控除に係る繰延税金資産 ( 第 47 項及び第 48 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 31

(15) 適用時期等 (3 月決算会社の場合 ) 強制適用 平成 28 年 4 月 1 日 早期適用 平成 27 年 4 月 1 日 公表日 ( 平成 27 年 12 月 28 日 ) 平成 28 年 3 月 31 日 平成 28 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する 平成 28 年 3 月 31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用できる 年度の期首に遡って適用する Copyright JICPA. All rights reserved. 32

(15) 適用時期等 適用初年度の取扱い ( 第 49 項 (3)) 本適用指針の適用初年度の期首において 以下の項目を適用することにより これまでの会計処理と異なることとなる場合には 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う 1( 分類 2) に該当する企業において スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い ( 第 21 項ただし書き ) 2( 分類 3) に該当する企業において おおむね5 年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い ( 第 24 項 ) 3( 分類 4) の要件に該当する企業であっても 将来において5 年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には ( 分類 2) に該当するものとする取扱い ( 第 28 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 33

(15) 適用時期等 適用初年度の取扱い ( 公開草案からの変更 ) 公開草案第 49 項 (3) 本適用指針の適用初年度においては 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う < 公開草案からの変更理由 ( 第 122 項 )> 会計方針の変更として取り扱う公開草案の提案に対し 以下の意見が寄せられた 監査上の取扱いが会計上の指針に移管されるに当たって 本適用指針の各々の定めが 監査委員会報告第 66 号における取扱いをより明確に定めたものなのか 内容を実質的に変更しているものなのかを詳細に検討することが困難であり 各企業により利益剰余金等に加減する範囲が異なる可能性があることについて懸念を示す これに対応するため 監査委員会報告第 66 号の定めの内容を実質的に変更しているもの を特定し これまでの会計処理と異なることとなる場合には 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととした Copyright JICPA. All rights reserved. 34

(15) 適用時期等 適用初年度の取扱い ( 第 49 項 (4) 及び (5)) 適用初年度の期首時点で新たな会計方針を適用した場合の繰延税金資産及 び繰延税金負債の額と 前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と の差額を 適用初年度の期首の利益剰余金等に加減する ( その他の包括利 益累計額に計上する場合又は直接純資産の部の評価 換算差額等に計上す る場合は別途の取扱い ) 会計方針の変更による影響額の注記事項は以下のとおり 適用初年度の期首の繰延税金資産に対する影響額 適用初年度の期首の利益剰余金に対する影響額 適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価 換算差額等に 対する影響額 Copyright JICPA. All rights reserved. 35

(15) 適用時期等 早期適用 ( 第 49 項 (2)) (3 月決算会社の場合 ) 平成 28 年 3 月期の年度末から適用できる 適用初年度の期首の影響額を利益剰余金等に加減する 翌年度の四半期財務諸表等においては 比較情報として開示される平成 28 年 3 月期の各四半期財務諸表等について 本適用指針を当該年度の期首に遡って適用する 早期適用する年度の年度末において 第 49 項 (3)1~3 に示されている項目の適用を検討する際には 当該年度の期首における当該項目の状況も合わせて整合性がとれるように検討を行うこととなる ( 第 124 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 36

3. 監査上の留意事項 Copyright JICPA. All rights reserved. 37

3. 監査上の留意事項 (1) 合理的な説明 に関する留意事項 論点 1: 企業が合理的な根拠をもって説明する場合 に関する監査上の留意点 監査における留意点 回収可能性適用指針では 下記に関する 企業が合理的な根拠をもって説明する場合 の規定 ( 以下 合理的な説明規定 という ) が設けられている 1( 分類 2) に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異 2( 分類 3) に該当する企業における 5 年を超える合理的な見積可能期間に関する取扱い 3( 分類 4) に係る分類の要件を満たす企業が ( 分類 2) 又は ( 分類 3) に該当する場合の取扱い 本規定は 企業が合理的な根拠をもって説明する場合には原則とは異なる取扱いを容認することで 繰延税金資産の計上額が企業の実態をより適切に反映したものとなることを意図したものであり いわゆる 反証規定 である 企業が合理的な根拠をもって説明する場合 において 監査人は 企業の説明が合理的か否かを総合的に判断し 十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない Copyright JICPA. All rights reserved. 38

3. 監査上の留意事項 (2) 企業の分類に応じた回収可能性の判断に関する留意事項 論点 2: 各分類の要件のいずれも満たさない場合の取扱い 監査における留意点 監査委員会報告第 66 号では 繰延税金資産の回収可能性については 多くの場合 将来年度の会社の収益力に基づく課税所得によって判断することになるものの 将来年度の収益力を客観的に判断することは実務上困難な場合が多いことから 会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として 将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針 ( 例示区分に応じた取扱い ) が示されていたが 例示区分を付すことが必須ということではなかった 一方 回収可能性適用指針では 各分類の要件をいずれも満たさない企業は 過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移 当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み 将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し 各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類するとされている したがって 会計基準上 全ての企業がいずれかの分類に区分され その分類に応じて繰延税金資産の計上額が決定されることに留意が必要である Copyright JICPA. All rights reserved. 39

3. 監査上の留意事項 (2) 企業の分類に応じた回収可能性の判断に関する留意事項 論点 3: 新規に設立した企業に関する企業分類の考え方 監査における留意点 新規に設立した企業については 過去の実績の課税所得で判断できず いずれの要件にも該当しないことから 回収可能性適用指針第 16 項を適用し 各企業分類からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとなる 乖離度合いの判断は 当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み 将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を勘案して判断することとなるが 当該判断は 各分類の要件から乖離度合いを定量的に検討することを意図するものではないとされている ( 回収可能性適用指針第 65 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 40

3. 監査上の留意事項 (2) 企業の分類に応じた回収可能性の判断に関する留意事項 論点 4:( 分類 4) の要件を満たす企業を ( 分類 2) 又は ( 分類 3) に該当するものとして取り扱う場合の留意事項 監査における留意点 監査委員会報告第 66 号では 重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等 であっても 重要な税務上の繰越欠損金等が非経常的な特別の原因により発生したものであり それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には おおむね 5 年内の課税所得を限度として スケジューリングの結果に基づき 繰延税金資産を計上できるとされていた 一方 回収可能性適用指針では ( 分類 4) の要件を満たす企業であっても その原因が臨時的なものである等 重要な税務上の欠損金が生じた原因や中長期計画等を勘案して 将来の一時差異等加減算前課税所得の十分性を企業が合理的な根拠をもって説明する場合は 状況に応じて ( 分類 2) 又は ( 分類 3) に該当するものとして取り扱うことができるとされている 監査人は 重要な税務上の欠損金が生じている企業であることを踏まえ 企業の説明が合理的か否かを総合的に判断し 十分かつ適切な監査証拠を入手する必要がある 特に ( 分類 2) に該当するものとして取り扱われるケースは 一時差異等加減算前課税所得を 5 年超にわたり安定的に獲得するだけの収益力を企業が合理的な根拠をもって説明する場合であることから より慎重に判断する必要があると考えられる Copyright JICPA. All rights reserved. 41

3. 監査上の留意事項 (3) 繰延税金資産の計上額に関する留意事項 論点 5:( 分類 1) に該当する企業における繰延税金資産の計上額の取扱いについて 監査における留意点 監査委員会報告第 66 号では 例示区分 1 号の企業においては スケジューリング不能な将来減算一時差異についても 回収可能性があると判断できるものとする とされており 実務上 一部のスケジューリング不能な将来減算一時差異について繰延税金資産を計上しない実務が行われることもあった 一方 回収可能性適用指針では 繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする とされている 回収可能性適用指針における企業の分類に応じた取扱いは 企業を五つに分類した上で 当該分類に応じた繰延税金資産の計上額を定めており 個々の企業の裁量で繰延税金資産の計上額が決定できるとすると 恣意的な操作を可能にし 企業間の比較可能性が著しく阻害される可能性がある したがって 各分類の要件に該当した場合 その該当した分類において定められている計上額に関する規定に従って 繰延税金資産を計上することとなる なお ( 分類 2) におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱いについても同様である Copyright JICPA. All rights reserved. 42

3. 監査上の留意事項 (3) 繰延税金資産の計上額に関する留意事項 論点 6:( 分類 2) に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱いに関する留意事項 1 監査における留意点 監査委員会報告第 66 号では ( 分類 2) に該当する企業においては スケジューリング不能な将来減算一時差異について 一律に繰延税金資産を計上することができないとする取扱いが示されていた 一方 回収可能性適用指針においては スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち 税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて 当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものするとされている ( 回収可能性適用指針第 21 項 ) ( 例 : 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異など ) ( 分類 2) に該当する企業は 長期的に安定して一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業ではあるものの 監査人は 当該スケジューリング不能な将来減算一時差異について 将来の税務上の損金の算入時点における課税所得が当該スケジューリング不能な将来減算一時差異の額を上回る見込みが高いことにより 繰延税金資産が回収可能であるという企業の説明が 合理的であるか否かを総合的に判断し 十分かつ適切な監査証拠を入手する必要がある Copyright JICPA. All rights reserved. 43

3. 監査上の留意事項 (3) 繰延税金資産の計上額に関する留意事項 論点 6:( 分類 2) に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱いに関する留意事項 2 監査における留意点 回収可能性適用指針では スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性について ただし 期末において税務上の損金の算入時期が明確ではない将来減算一時差異のうち 例えば 貸倒引当金等のように 将来発生が見込まれる損失を見積もったものであるが その損失の発生時期を個別に特定し スケジューリングすることが実務上困難なものは 過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われている限り スケジューリング不能な一時差異とは取り扱わない ( 回収可能性適用指針第 13 項ただし書き ) とされている 当該定めは 監査委員会報告第 66 号の定めを踏襲したものであり 見積りやスケジューリングが合理的であるべきという趣旨を変えることを意図するものではない ( 回収可能性適用指針第 62 項 ) また 回収可能性適用指針第 21 項ただし書きにおいて取り扱うスケジューリング不能な将来減算一時差異には 第 13 項ただし書きを適用してスケジューリング不能な将来減算一時差異とは取り扱わないこととしているものは含まれないことに留意が必要である ( 回収可能性適用指針第 76 項 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 44

3. 監査上の留意事項 (3) 繰延税金資産の計上額に関する留意事項 論点 7:( 分類 3) に該当する企業における合理的な見積可能期間に関する留意事項 監査における留意点 回収可能性適用指針における ( 分類 3) に該当する企業においては 将来の合理的な見積可能期間 ( おおむね 5 年 ) 内の課税所得の見積額を限度として 繰延税金資産を計上できるという 監査委員会報告第 66 号の定めの内容を基本的に踏襲している 一方で 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因 中長期計画 過去における中長期計画の達成状況 過去 (3 年 ) 及び当期の課税所得の推移等を勘案して 5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合 繰延税金資産は回収可能性があるものとされている 一般的に 企業が中長期計画を策定する場合 3 年から 5 年の期間で見積もっていることも踏まえ 監査人は 5 年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であるとの企業の説明が 合理的か否かを総合的に判断し 十分かつ適切な監査証拠を入手する必要がある Copyright JICPA. All rights reserved. 45

3. 監査上の留意事項 (4) 判断の継続性に関する留意事項 論点 8: 合理的な説明規定の継続性に関する監査上の留意事項 監査における留意点 合理的な説明規定の適用は いわゆる反証規定であるため 合理的な説明ができる状況にあっても 企業が当該規定を適用しないことを選択することも可能であり 企業が当該規定を適用する時期によっては 恣意的な適用になる可能性が想定される 企業会計原則において 会計処理の原則及び手続は 毎期継続して適用しなければならないとされており 企業が 合理的な説明規定を適用するに当たっても 当該会計処理の継続性に関する検討が必要になると考えられる 前年度においては合理的な説明規定を適用しなかったが 当年度において企業が合理的な説明規定を適用する場合 監査人は 例えば 当年度において当該規定を適用すると判断した理由 ( 状況の変化 ) を併せて確認することが必要になると考えられる Copyright JICPA. All rights reserved. 46

3. 監査上の留意事項 (5) 適用初年度に関する留意事項 論点 9: 適用初年度における留意事項 監査における留意点 回収可能性適用指針の適用初年度の期首において 次の項目を適用することにより これまでの会計処理と異なることとなる場合には 会計基準等の改正に伴う変更として取り扱うこととされている 1( 分類 2) に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異 2( 分類 3) に該当する企業における合理的な見積可能期間に関する取扱い 3( 分類 4) に係る分類の要件を満たす企業が ( 分類 2) に該当する場合の取扱い また これらの項目を適用したことによる 適用初年度の期首の影響額は 利益剰余金等に加減されることとなる これらの項目については 企業が合理的な根拠をもって説明する場合 の取扱いであるため 適用初年度の期首時点において 企業が合理的な根拠をもって説明する 状況にあるか否かの判断が必要となる 特に 適用初年度の期末時点において 企業が合理的な根拠をもって説明する 状況にある場合には 期首時点においても同様の状況にないか 慎重に検討する必要がある ( 論点 8 参照 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 47

3. 監査上の留意事項 (5) 適用初年度に関する留意事項 論点 10: 早期適用における取扱い 監査における留意点 3 月決算会社の場合 平成 28 年 3 月期の年度末から早期適用できるとされており 早期適用初年度の期首の影響額を利益剰余金等に加減するとされている また 翌年度 ( 平成 29 年 3 月期 ) の四半期財務諸表においては 比較情報として開示される平成 28 年 3 月期の四半期財務諸表について 期首に遡って適用するとされている 早期適用を行った場合の適用初年度においては 適用初年度の期首が既に経過しているため 期首における影響額を把握するために必要な情報の入手とその評価が難しいケースがあると考えられる したがって 監査人は慎重に判断を行う必要がある 例えば 企業が早期適用年度の期首においては 合理的な根拠をもって説明する 状況にないと説明しているにもかかわらず 早期適用年度の期末においては 合理的な根拠をもって説明する場合 において 企業における期首の判断と期末の判断が異なる理由 ( 例えば どのような状況の変化によって 合理的な根拠をもった説明 が可能となったかなど ) を慎重に評価する必要があると考えられる ( 論点 8 参照 ) Copyright JICPA. All rights reserved. 48

3. 監査上の留意事項 (5) 適用初年度に関する留意事項 論点 11:JICPA から公表されている繰延税金資産の回収可能性に関する監査上の取扱いとの関係について 監査における留意点 回収可能性適用指針は 監査委員会報告第 66 号 監査委員会報告第 70 号等の内容を基本的に引き継いだ上で 必要と考えられる見直しを行ったものである 監査委員会報告第 66 号及び監査委員会報告第 70 号は 平成 28 年 1 月 19 日付けで廃止されている点に留意する必要がある なお 平成 28 年 4 月 1 日前に開始する連結会計年度及び事業年度の連結財務諸表及び個別財務諸表については 回収可能性適用指針を早期適用する場合を除き 従前のとおり両委員会報告を適用することとなる Copyright JICPA. All rights reserved. 49

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